「――、まだ寒みーの」
荒い呼吸で途切れ気味な声と吐息に、うなじのあたりを撫でられる。
銀ちゃんの膝頭に顔を埋めて震えてたあたしは、泣きすぎて目許が赤くなった顔をのろのろ上げた。
潤みきった目を後ろに向ければ、いつも離れ気味な眉をぎゅって潜めた怪訝そうな目つきが待っていて。
「お前、肩震えてね」
そう尋ねられたけど声が出ない。
硬い太腿に凭れかかってぐったりしてる身体には、ほとんど力が残ってなかった。
腰を揺らして乱れる姿を後ろからじっくり眺められてしまう、この恥ずかしい体位のせいだ。
両脚の膝を立てた恰好で座る男の人に跨って、後ろから深く挿れられて、ぐらぐら揺らされながら責められてる。
揺らされると否応なしに銀ちゃんの腿に胸を押しつけることになっちゃうのがはしたなくて嫌だし、揺らされるほどに硬い先が奥へ奥へと入り込んでくるから、お腹どころか胸までくるしい。
なのに――その苦しさまで快感にすり替えられてしまうような、緩急をつけた意地悪な動きで銀ちゃんはわざとあたしを焦らしていった。
おかげであたしはたまらなくなって、自分から腰を揺らして欲しがらずにはいられなくて。
泣きながら絶頂まで昇り詰めて奥へいっぱい吐き出されても、すぐにまたぐちゅぐちゅ中を擦られる。
いつまでたっても終わりがこなくて、全身の痺れが止まなくて――
脱力しきってぐったりしてるの腰を抱え込んだ分厚い手が、脇腹を撫でながら這い上っていく。
あたしの反応を確かめながら肌の手触りを楽しんでるような指の動きが、くすぐったくてぞくぞくする。
だけどその手は二の腕へ移ったとたんにびくっと跳ねて、「うっわ、冷てぇ」って銀ちゃんが驚いた声を上げて、
「ちょ、なんだよこれぇ、凍りかけてんじゃん。お前これ、寒くねーの」
「ぇっと・・・わかんない」
「わかんねーって何だよ、自分が寒みーのか暑いのかもわかんねーの」
「うん。わかんない」
「いやいやだーかーらぁ、おかしーだろぉ凍りかけてんのに何にも感じねぇって・・・えっっ。感じねーの?何も?まじで?」
めったに見開かないあの目をなぜかまじまじと見張ってる銀ちゃんに、こっちも真顔で目を見開いて、こくこく、こくん。
めずらしいよね、銀ちゃんがこんな顔するなんて。そんなに冷たくなってるのかな、あたしの身体。
試しに肩のあたりに触れてみたら、何も纏っていない肌はびっくりするくらい冷たくなってた。
ええっ、って目を丸くしながら他もぺたぺた触ってみたら――まるで氷だ。冷えきってる。肩も腕も首筋も、胸元まで。
「・・・うわぁ、なにこれ。背中ぞくぞくするって思ってたけど、風邪ひくとこんなところまで冷えちゃうんだぁ…」
「いや風邪関係なくね。つーかお前大丈夫なの。こんだけ冷えてんのに寒くねーって、おかしーだろ」
「そう、かなぁ・・・?」
そうなのかなぁ。でも、昼間よりも身体が楽になった気がするんだけど。
頭はあいかわらずぼーっとしてるし、頭の芯までかーっと火照ってるような風邪の時特有のあのかんじは消えてない。
でも、気分はそんなに悪くない。
なんかこう・・・ずっとふわふわしてるんだよね。身体はだるいけど、頭の中だけふわふわぁって浮いてるかんじで。
そんなことを口にしたら、なぜか銀ちゃんが「はぁ?」って目を剥いて、
「ふわふわ?頭ふわふわすんの?おいおいやべーよそれ、雪山で遭難した奴が言うことだよ?寒すぎて体温下がって夢ん中で花畑見てる奴が言うことだよ!?」
っかしーなぁ、熱は下がってんのによー。
焦ったかんじでぼそぼそぶつぶつ言いながら、困りきった顔で手を伸ばしてくる。
冷えた汗で濡れたおでこが、かさついた手のひらでふわりと覆い隠された。
銀ちゃんの手、あったかい。じわりじわりと肌に染み込んでくる高めな熱が心地いい。
あたしの身体が冷えちゃってるせいかな、やっぱり普段よりも肌が熱い気がするけど。
そんなことを思いながら腫れぼったい瞼を閉じたときには、胸の膨らみを握ってる手に後ろへ軽く引っ張られてた。
「こっち来て」って凭れかからせてくれたのは、じっとり汗ばんだ熱い肌。
身体ごと受け止めてくれた引き締まった胸が、ぴたりと背中にくっついてくる。
足元でぐしゃぐしゃに丸められてた白い着物も掛けてもらうと、しっとり湿った薄地で包まれた身体はそのままぎゅって抱きしめられた。
するとお互いの腰も隙間なく密着するようになって、これまでとは違うところを硬い先端にぐちゅりと擦られる。
あん、って身体の芯から這い上がってきた甘い痺れに身体を捩れば、頭の横や耳たぶにキスを繰り返してた熱い感触がくすりと笑って。
「あれっ、どーしたぁ。急に腰くねくねさせちまって」
「っん、そこ、ゃん、ゃあ、」
「やじゃねーだろ、ここに俺の当たるだけでナカひくついてんじゃん」
「ゃん、ゃらぁっ、っひ、ぁあ・・・んっ」
「なぁ、もっとしてほしい」
耳の奥へ注がれた吐息混じりな囁きのせいで、焦らすような弱い動きで擦られてる中の痺れが増していく。
いやらしいおねだりをさせられる恥ずかしさに震えながら耳まで赤らめて頷けば、見透かしたような目でこっちを見てたとぼけた顔がにんまり笑う。
脚を開き気味にしたあられもない格好で腰をがっちり抱え直されると、気持ちよくなるところばかり狙ってぐちゅぐちゅされた。
「あっ、あぁっ、っ、ぉねがぁ・・・っ、やぁ、あし、ひ、開いちゃ、やあ」
「だめー。閉じたら見えねーだろ、俺のがのやらしーとこぐちゃぐちゃに掻き回してんの」
「ふえぇ・・・っ、ゃっ、やらぁ、も、はずかし・・・っ」
ぐらぐら身体を揺さぶられて視界も上下に揺れるたびに、鏡みたいに部屋の中を反射させてる暗い窓が目に入る。
そこに映る乱れた姿を――男の人の腕に囚われた身体を好きなように貪られて、狂ったみたいに喘いでる自分から目を逸らせない。
何度吐き出しても硬いままの先端を強めにぶつけられただけで、あんっ、あぁん、って甘えた響きのうわずった声を上げてしまうのが恥ずかしい。
鋭い気持ちよさを悦んだ身体が熱いものをじゅわりと溢れさせてしまうのが、自分でも判って恥ずかしい。
ああ、もうどうしたらいいかわかんないよ。
こんなに激しく求められたら、あたしの身体は逆らえない。何の抵抗もできなくなって、銀ちゃんの思うままに蕩けていっちゃう。
こんな自分は見られたくない。恥ずかしすぎて死んじゃいたくなる。
見られたくない。なのに――銀ちゃんに躾けられてうんといやらしくなった身体は、はしたなく乱れる自分を見られる恥ずかしさすら快感に変えていってしまう。
もう見ないで、って思うのに、そう思えば思うほど、恥ずかしくなればなるほど、窓ガラス越しに向けられた視線の熱さを肌が焼けつきそうなくらい感じてしまって、刺激に敏感になっていくからどうしようもない。
窓に映る自分が目に入るたびに浮かび上がる感情はどれもぐちゃぐちゃに混ざり合って、激しい抜き挿しで貪られてるあたしを責め立ててくる。
いや、いや、ってかぶりを振って泣きじゃくっていないと、心も身体も壊されちゃいそうだ。
なのに銀ちゃんは荒くなっていく息遣いを苦しそうに噛みしめながら、どんどんあたしを追い詰めていく。
やだ、やだ、って泣いて頼んでも腰の動きを止めてくれない。脚を閉じさせてもくれない。
うなじに押しつけられた熱い唇が、っっ、って切羽詰まった呻き声を漏らすたびに、あたしの足を抱え上げた腕が力を強める。
ぐっと握りしめられた太腿の内側のやわらかいところまで、固い爪先が食い込んでくる。
早いリズムでぐちゅぐちゅ突き上げられてる奥から、頭の中までまっしろに染める電流みたいな痺れが何度も何度も這い上がって――
「あっ、ぁんっ、あ、あぁ、〜〜ゃん、いっ、ぃっちゃ、〜〜ぁあっっ!」
「はは、えっろい顔しちまって・・・口じゃ嫌がるくせにイきっぱなしじゃん」
「っ、らってぇ、ぎんちゃ、がぁ・・・っ、ふえぇ、ゃ、やだぁ、また、ぁっ、あぁっ、ゃあ、やらぁ、見な、でぇ・・・っ」
「やじゃねーだろ、俺に見られて感じてるくせに」
「〜〜っっぁあっ、あ――・・・っ!」
わざと低めた色っぽい声でうなじをぞわりと撫で上げられたら、もう我慢なんてできなくて。
細くて掠れた悲鳴を上げて腰をがくがく震わせながら達しても、銀ちゃんの手はくびれをきつく掴んだまま。
あたしの身体を腕の中にむりやり閉じ込めるみたいな窮屈な格好で抱きしめて、下ろしては持ち上げてを繰り返し始めた。
「ああぁっ、ぁんっ、やぁ、ぁ、あ、あ、ぁあ、あぁんっ」
「熱は下がってんのにナカは熱いよなぁ。俺のと混ざってとろっとろだし」
「っゃ、あぁ、めぇ、そこ、らめぇぇ、っっ」
ず、ずず、ずぷ、ずぷ、ぐち、ぐちゅっ。
公園の街灯の白い光で淡く照らされてる脚元から、自分の身体から出たとは思えないような淫らな音が鳴り響く。
声が甲高く変わるところでは動きを止めて、ず、ず、ず、ってじれったいくらいゆっくりと、熱した鉄みたいな硬い感触を小刻みな動きで押し入れられて。
昂った高熱で奥を突かれて悲鳴を上げて仰け反れば、挿れられたときと同じように、感じすぎておかしくなっちゃいそうなくらいゆっくりした動きで引き抜かれた。
そうしながらどこが弱いのかを確かめられてるんだって思うと恥ずかしくって泣きたくなるのに、熱っぽい視線を感じてるうなじのあたりがぞくぞくしちゃって止まらない。
そのうちに銀ちゃんはまた動きを変えて、奥まったやわらかいところを抉るみたいに張り出した部分で乱暴に引きずる。
感じやすいそこを熱の塊が往復するたびに、頭の芯までじいんと痺れた。
張りつめてびくびくしてる塊が根元までぐぷりと沈みきるたびに、中から押し出された白っぽい粘液がお布団までたらたらと流れ落ちていく。
たまに思い出したみたいに、ぐぶ、ずぶっ、て膨らみきった硬い先端で勢いよく突かれる。
やわらかくて無防備な身体の内側を、中から突き崩そうとしてるみたい。
もっと奥まで入りたがってるような鈍い衝撃をぶつけられるたびに、あたしは銀ちゃんの肩に頭を預けたまま涙をこぼして震え上がった。
じゅぷん、ぐちゅぐちゅ、ぐちゅっ。
濁った音を響かせながら、蕩けきった狭い中をもっと広げようとするみたいに掻き回される。
そこからひっきりなしに昇ってくる快感に溺れて、あ、あ、あぁん、って弱りきった声で繰り返し喘いで。
身体中を撫でられながら深い律動に揺らされてると、深夜の空気で冷えきったはずの肌にはいつのまにかじんわり汗まで浮いてきた。
あたしをすっぽり包み込んだ腕や広くて引き締まった胸からも、燃えるような体温とじっとりした汗の感触が移ってくる。
「・・・・・・ぎんちゃぁ、あったかい・・・きもち、ぃ・・・」
「ん、俺もきもちいー。お前どこ触ってもやらけーし、どこもいー匂いするし。あぁ、特にこのへんな、このへん」
「――ひぁ・・・っっ」
髪を掻き分けて晒されたうなじを、ぬるりと滑る熱い舌先で舐められる。
ざらついた感触を肌に押しつけられてちろちろとやわらかく撫でられたら、身体中がぞくぞくした。
「はぁ…、いー匂い。たまんねぇ」
深く息を吸い込んだ銀ちゃんが、どこか苦しげな、けれど心地良さに酔ってるみたいなうっとりした声でささやいてくる。
押し殺し気味な呼吸を漏らすやわらかさを、ちゅ、って音を立てながら押しつけられて、うぅ、ってあたしは唇を噛んだ。
奥に当たってる感触のせいで声が出そうになるのをこらえながら、涙目で振り返って銀ちゃんを見上げる。
だって、困るんだもの。恥ずかしいよ。そんな甘い声で言われちゃったら、やっぱり嬉しいしどきどきするけど――
「やっ・・・やだぁ」
「えぇー。何で」
「って、ぉ、おふろ。はいって、なぃも・・・」
「それがいーんだって。風呂上りのシャンプーの匂いも色っぺーけどー、洗ってねーときのほうがたまんねーわ」
「〜〜っ、ぅうう、やらぁ、へ、へんたい・・・っ」
「あーはいはいそーですよー、どーせ俺ぁ変態だよー。匂い気にして泣きそーになってる子に興奮しちまうド変態だよ」
「っひ、あぁ・・・んっ、」
不満そうな声と火照りきった吐息を、汗ばんだうなじに吹きかけられて。
ぞく、って背筋が震えた瞬間に、小さな火を押しつけられたような熱さを感じた。
ちぅ、ちゅっ、って短くて甘い音が鳴る。
真っ赤な痕が残りそうな強めなキスで吸いつかれて、濡れた舌先でなぞられて。そのたびにぞわぁっと身体中の感覚が騒いで、爪先までぶるりと震え上がって、
「ふぁあ・・・っ、ゃあ、そこ、なめちゃ、っ、ぁあ・・・っ」
「ちょっとだけ甘めーんだよなぁ、ここ。こーやってっとこのまま食っちまいたくなるわ」
うなじに何度も吸いついていた熱い感触が、冷えた肌を唾液で濡らしながら耳までゆっくり這い上がってくる。
ぁん、あぁ、って鼻にかかった甘えた声が唇から飛び出て、きつく抱かれて動けない腰が逞しい腕の中で力なく捩れる。
だって、とてもじっとしていられない。悩ましげで苦しそうな息遣いに感じやすいところを掠められたせいで、首筋が粟立ちそうなくらいぞくぞくしてる。
、って呼びかけてきた唇を耳を塞ぐみたいにして押しつけられたら、興奮してる男の人の荒い呼吸が生々しいくらいにはっきりと頭の中に響き渡る。
それだけで感じてきゅうぅって疼いたあたしの身体は、閉じ込められた腕の中でびくんと跳ねた。
伸ばした舌で中までくちゅくちゅ舐められて、上げそうになった嬌声を咄嗟にこらえて唇を噛む。
形を変えながら潜り込む舌を深く埋め込まれた耳の中で、くぐもった水音は奏でられ続けた。
くちゅ、ぬちゅ、じゅる。
狭い中で器用に動く舌先は細い蛇みたいに耳の奥へ絡みついて中を濡らして、唇から漏れる熱い息遣いにも敏感なところをくすぐられる。
そのたびにお腹の奥底にこらえきれない気持ちよさが溜まっていって――
「・・・や、あぁん、も・・・だめぇ・・・っ」
「やらしーよなぁお前の匂い。これってよー、男にヤってくれって言ってんのと同じじゃね。無意識に誘ってるっつーか」
「ち、ちが、ぁ、ああっ」
「ヤってる時は特にやらしー匂いすんだよなぁ、すげー甘くて、癖になるかんじの・・・」
「っあ、めぇ、っひ・・・・・ぅう・・・んっ、ぁあ、あ、ぎんひゃ・・・ぁあん・・・っ!」
艶めかしい声といやらしい言葉に頭の芯まで埋め尽くされて、どくどく脈打つ熱い杭で満たされたところから快感がぶわりと広がっていく。
どうしてこんなに敏感に感じちゃうんだろう。
かり、って耳たぶを弱めに甘噛みされるたびに、いやらしい言葉で辱められるたびに、頭のてっぺんまで駆け抜けていく電流みたいな快感に全身が囚われていく。
他のことなんて何もわからなくなる。だめ、だめぇ、ってかぶりを振って狂ったみたいに髪を振り乱しながら、あたしは何度も小さく達した。
痺れ上がった背筋をしならせながら逞しい腕にしがみついて、爪を立てちゃうくらいにきつく掴んで。
声にならないくらい高くて細い泣き声と悲鳴で、乾いた喉を震わせて――
男の人に埋められてどろどろになったところが、気持ちよさそうにきゅうぅって縮んでは白く濁った蜜をこぼす。
銀ちゃんはもう腰の動きを止めてるのに、それでもまだ快感は引いてくれない。
痺れきった中を奥まで縛る、甘いせつなさから抜け出せない。
きっと銀ちゃんだって気付いてる。
耳の奥に舌を這わされるだけで、あたしの身体がはしたなく疼いてることも。
やだ、だめ、って泣いてるくせに、欲しがって火照りきってる身体をもっと蕩かされたいって、心のどこかで期待してることも。
なのに銀ちゃんたら、いじわるだ。
いやらしい言葉を低めた声で耳に注ぎ続けてた唇が、ふっと失笑をこぼして愉しそうにつぶやく。
「ほら、イかせてほしいんだろ。銀ちゃんおねがい、ってもっと脚開いておねだりしてみな」
あぁ、このままじゃ気が狂っちゃいそう。いっそこのまま気を失っちゃえたらいいのに。
身体中のどこも、頭の先から指の先まで、もうたった一秒すら耐えられそうにないくらいのもどかしさでいっぱいだ。
そんな自分がたまらなく恥ずかしくて涙が溢れて、頭がどうにかなっちゃいそう――
いや、いや、って駄々を捏ねるみたいに身を捩りながら、あたしは分厚い胸に凭れかかって啜り泣いた。
はぁっ、って後ろの銀ちゃんが投げ遣りで荒っぽい呼吸を吐き出して、
「あーもぉ、どこもうまそーな匂いさせちまって・・・。
もっと焦らして苛めてやろーと思ったのによー、こっちが我慢できねーわ」
ちょっと疲れてるみたいな口調で言いながら、銀ちゃんは腰を後ろへ引いて。
ずっとお腹の奥まで占領してた硬い杭を、ようやく中から引き抜いてくれた。
ず、ずっ、ずる、って濁った水音が暗闇に響いて、男の人に隙間なく埋められてるときの息苦しさが消えていく。
すべて引き抜かれてしまえば、どろどろにぬかるんだそこから熱い蜜が滴って止まらない。
ほっぺたまで乱れ掛かった髪の上から、泣きじゃくってるあたしを宥めようとしてるような、触れるだけの優しいキスが落ちてくる。
ひっく、ひっく、って肩を揺らして嗚咽を繰り返しながら、あたしは銀ちゃんに振り返った。
涙が止まらない目で睨みつければ、ばつが悪そうにすいっと目を逸らされて、
「はいはい悪かったー、俺が悪かったですー」
言いたくなさそうに口を尖らせてぼそぼそ小声で謝った顔が、ちろ、って一瞬だけこっちを眺めてあたしの反応を確かめる。
かと思えば肩に顎を乗せられて、脱力しきった熱い身体の重みをずんと一気に預けられて。
疲れきってくたくたな身体を後ろから力任せに抱きしめられたら、それだけで背筋がぐしゃりと潰れちゃいそうになった。
「ふえぇぇ・・・銀ひゃ、くるひ、おもいぃ、ばかぁああ」
「ー、泣くともっと大変なことになっちまうけどいーの。銀さんSだからね、泣き顔でムラっとしてもっといじめたくなっちまうからね」
「〜〜・・・っ、ぅうう、ばかぁ」
「・・・や、だからあれな、あれ。もう意地悪しねーから、ゆるして。機嫌直してくんね。な?」
途切れ途切れに漏らされた声はなんだかすごく切羽詰まってるような響きで、でも、なぜかちょっとだけ悔しそう。
まるで銀ちゃんがあたしを早く欲しくてたまらなくて、だけどあたしに根負けした気分になって悔しがってるみたいにも聞こえて――そう思ったら、蕩けきったお腹の奥がきゅんと痺れた。
「なぁ、もっとしていい。いーだろ。いいよな。だめ?」
「あぁ、ぁ・・・ん、っっ」
「だってこのままじゃ辛れーだろ。きもちよくしてやるから、いいって言って」
掠れた響きのやわらかい声は、あたしに懇願するふりをしながら聴覚にねっとり絡みついてくる。
まるで銀ちゃんの唇から流れ出てくる甘ったるい毒を、耳に直接注ぎ込まれてるみたい。
あぁ、もう逆らえない。こういう時の銀ちゃんの声は、いつもあたしをおかしくさせる。
いつもあたしの身体中を蕩けそうな甘さで痺れさせて、身体と同じように痺れきった頭の中から思考まで奪い取ってしまう。
そのうえもう一度奥までゆっくり挿れられて、腰を軽く揺らされて奥を弱めに捏ねられちゃったら、もうどこにも逃げ場なんてなくなってしまって。
結局銀ちゃんの狙い通りに、あんあん喘がされながら頷くしかなかった。
「あっ、ぁあっ、やぁあん、ぉく、っやぁ、ぃ、いっちゃ、ひ、ぅう・・・んっ」
「ん・・・やっぱ熱いわ、お前のナカ。熱くて、すげぇ、きもちい・・・っ。なぁ、もっと、激しくしていい」
「っら、らめぇ、ぁ、あん・・・っ」
ざらついた熱い感触が、艶めかしい動きで肌を這ってる。
押しつけられた舌先に首筋や耳の下までじっとり濡らされていくうちに、手足の力が自然と抜けて。
じきに指の先までへなりと力が抜けきってしまったら、今にもお腹の奥から溢れ出しそうな熱や快感に全身の感覚が集まっていった。
膝の裏に回された腕に軽々と腰を持ち上げられて、浮いた身体が大きく上下に揺さぶられる。
熱く昂った先端で弱いところばかり捏ねられたら、もう何も考えられない。
奥へ奥へと送り込まれてくる気持ちよさで爪の先まで縛られていって、その気持ちよさに抵抗する気力まで奪われてしまう。
だらりと下がった手足の先まで銀ちゃんの動きに合わせて揺らされながら、あっ、あっ、あっ、って力無く喘いだ。
ぐちゅ、ぐちゅんっ、じゅぶ、じゅぷんっ。
耳を塞ぎたくなるような淫らな水音が、繋がれたところから跳ね上がる。
涙が勝手にぽろぽろ溢れる。
あ、あ、あ、あ、あああっ、って狂ったみたいな甲高い声を上げる口端からこぼれたしずくが、火照った肌を濡らしながら胸まで滴り落ちていく。
もうだめ、こんなの、身体も頭も壊れちゃいそう。
後ろから抱きしめてくる銀ちゃんの身体がどこも熱くて、好き勝手に中を荒らされるのがきもちよすぎて。
窓に映る淫らな自分が、どんな声を上げてよがってるのかもわからなくなりそう。
頭がおかしくなっちゃいそう――
「っっあ、あ、あ、あっ、っふぁあ、ぁんっ、あ、ぁっ、ぁっ、〜〜ああぁんっ。っっも、らめぇ、っっ」
「なぁ、わかる。ここも冷えちまってんの」
「ふぁ・・・あぁん・・・っ」
そう言った銀ちゃんは、どろどろに濡れたあたしのお尻を自分の脚の上に座らせて。
太腿から腰へ、腰からお腹へ――肌を撫でながら滑るようにして這い上がってきた手が、やわらかい手つきで膨らみを握る。
ゆっくり優しく持ち上げられてやんわり力を籠められたら、滑らかな白の着物地が肌に擦れる。なんだかすごくくすぐったい。
ふにゅ、ふにゅって指を埋もれさせながら揉まれると、素肌に直に触れてもらえない間接的なかんじがもどかしい。
だけどそのもどかしさのせいなのか、肌の感覚はもっと敏感になってしまった。
布の向こうに感じる手の些細な動きにもびくびく震えて反応して、焦れて震える胸の先を軽く掠めた指先の感触だけでじぃんと痺れて――
「っ・・・はぁ・・・ん、ぎ、ちゃあ・・・あぁ・・・」
「その声かわいい。、きもちいーのこれ」
「んっ・・・・・・ぃ、のぉ・・・んちゃ・・・すき、きもち、ぃ・・・っ」
胸を撫で回す手に夢中で縋って、凭れた胸元に甘えるように頭を擦りつけて何度も頷く。
すると銀ちゃんが声もなく笑って、抱きしめた腕に力を籠める。はぁっ、ってちょっと辛そうに息を吐くと、お腹の奥に埋め込まれた高い熱まで大きく震えた。
――床の上で無理やりに抱かれたり、何度抱かれても終わりがこなかったり。
まるで何かに憑り付かれたみたいな、見たことのない目つきをした銀ちゃんがちょっとこわく感じたせいかな。
ううん、それとも――目が覚めたときに突然銀ちゃんがいなくなってたことで、泣いちゃうくらいさみしい思いをしたせいなのかな。
こうやってしっかり抱きしめてもらうと、それだけですごく安心する。
首元まで覆ってる見慣れた白い着物から漂う、好きな人の匂いがほっとさせてくれる。
肌が重なり合ってるところからじわじわ熱が上がっていって、身体のあちこちに残ってた強張りもじわじわ溶けていきそうだ。
ふぁ…、ってうっとりしきった吐息をこぼして全身を銀ちゃんに預けたら、ほっぺたに唇を落とされる。
目尻に残ってた涙の粒を、壊れ物に触れるみたいな仕草でそうっと、大事そうに吸い取られた。
「ぎ、ちゃあん・・・」
「んー?」
「・・・・・・キス、もっと、して・・・・・・」
ぼうっと火照った顔で振り返れば、すぐに目の前が暗くなる。
熱くてぬるついたやわらかいものが、歯列を掻い潜って滑り込んできて――
「・・・・・・んぅ、ふ、っぁ・・・ん・・・・・・っ」
「今日はおねだり多いよなぁ、お前。なぁ、毎日このくれー素直に甘えてくれっと嬉しーんだけど」
「そ、なの・・・むりぃ・・・んふ、ぅ、んん・・・・・・っ」
そんな、無理だよ。できないよ。
今のキスのおねだりだってあたしにとっては精一杯なのに。言った瞬間は恥ずかしすぎて、顔から火が出そうだったのに。
ちょっとだけ拗ねたいような気分で声で途切れ途切れに答えたら、やわらかく口内を撫で回される。
ざらついた感触で上顎の裏を舐めながら、奥までゆっくり入り込んでくる銀ちゃんの熱さがきもちいい。
着物の上からやんわり握られた膨らみに感じる、甘やかすような優しい愛撫がきもちいい。頭の中までとろとろに蕩けちゃいそう――
「無理、ねぇ。ふーん。じゃあ練習すりゃいーんじゃねーの」
「れ、んしゅ・・・?」
「そぉ、練習な。おねだりの練習」
薄目を開けてあたしを見つめた銀ちゃんが、何か思いついたような笑みを浮かべる。
もう一度唇が重ね合せられて、舌先だけが口の中に浅く潜り込んできて、
くちゅくちゅ、くちゅ。
暗闇にかすかな水音が響く。
そのうちに銀ちゃんの唇がほんの少し離れて、それだけでなぜかすごくさみしくなって――あたしは自分からぎこちなく舌を伸ばして、もっとして、ってもどかしい気分で唇を寄せた。
震える舌先が銀ちゃんの唇に触れそうな位置まで差し出してから、ああ、って気付く。これって「おねだりの練習」だ。
そう思ったら途端に恥ずかしくなってきて、あわてて舌を引っ込めようとしたんだけど、
「ん、よく出来ましたー」
「んふ・・・っ、」
引っ込める寸前だった舌先は素早くぬるりと絡め取られて、滑り込んできた熱い感触に唾液ごと口内を掻き混ぜられる。
「ご褒美な、これ」って口の奥でつぶやいた銀ちゃんに、まるで子供をあやすみたいな手つきで頭を優しく撫でられた。
可愛い、。
熱の籠った艶めかしい声で溜め息混じりに囁かれたら、恥ずかしいのに嬉しくてめまいがしそう。
唾液でとろりと濡れた唇を、ちゅ、て軽く啄まれる。
そうしながら背中をゆっくり撫でられたら、頭の芯まで蕩けそうで、なのに背筋がぞくぞくして。
お腹の奥から湧き上がってくる気持ちよさを我慢しきれずに、深く塞がれた唇の端から溜め息みたいな吐息がこぼれた。
「・・・な、無理じゃねーだろ。出来たじゃん、自分からおねだり」
細くて透明な光る糸をお互いの間に伝わせながら、にやりと笑った銀ちゃんの顔が離れていく。
遠ざかっていく顔をぼんやりした視線で追いながら、あたしはなんとなく頷いた。
頭の奥まで銀ちゃんの熱で埋め尽くされて発熱してるようなぼうっとした気分になってるから、実は何を言われてるのかもよくわかってなかったけれど。
「あのよー。毎日さっきみてーなおねだり練習すれば、そのうち俺に甘えるのにも慣れてくんじゃねーの」
「ふぁ・・・ま・・にち・・・?」
「そ。だからよー、毎日同じ屋根の下で暮らせばいーんだって」
「・・・?おな、じぃ・・・?」
「そーそー、同じ屋根の下な。それによー言ってたじゃん、俺にぎゅーってされて眠りたい、って」
そう言いながら顔を寄せてきた銀ちゃんに、ちゅ、って唇を重ねられる。
やわらかく触れた唇はすぐにあたしから離れて、また触れて、また離れて――
最初は言われたことの意味がよくわかってなかったあたしも、5回目くらいのキスでようやく「同じ屋根の下で」の意味に気が付いた。
ぽかんと銀ちゃんを見つめた顔に一気に熱が集まって、「っ・・・!」って肩を跳ね上がらせたら、
「今みてーにお互いん家行き来すんのもいーけどー、そろそろ一緒に暮らしてーんだけど。
なぁなぁいーだろいーよなぁ、毎日、ウザがられるくれーぎゅーってしてやっから」
「・・・〜〜っ」
唇をきゅっと噛みしめて、耳まで赤らめて深くうつむく。
それでも銀ちゃんはそんなあたしを追いかけるみたいにして覗き込んできて、顔を斜めに傾けながらゆっくり唇を塞いでくる。
・・・・・・ぅうううう、なにそれ。
自分が何を言ってるのか、ちゃんとわかってるのかなぁ。同じ屋根の下でって、それじゃあまるでプロポーズだよ。
・・・ううん、間違いなくプロポーズだ。
間違いなく、決定的に、どこからどう聞いても紛れもなくプロポーズだった。
これまでも似たような言葉を何度か言ってもらってるけど、何度言われても慣れないよ。
何度言われてもくすぐったいよ。何度言われてもどきどきするし、もじもじしちゃうよ。
いつもいい加減でちゃらんぽらんな銀ちゃんのことだから、こういうのも半分冗談なんだろうなって・・・そこはいちおう弁えてるつもりだけど、冗談だってわかっててもついつい嬉しくなっちゃうから困る。
――あれっ。 でも。だけど。 ・・・・・・あれっ、待って、ちょっと、
「・・・・・・?」
頭をくらくらさせる上手なキスにうっとりしていつのまにか瞑ってた目を、ぱち、ってめいっぱい大きく見開く。
――待って。あたし、銀ちゃんにそんなこと言った?
銀ちゃんがいなくてさみしかったとは言ったけど、「ぎゅーってされて眠りたい」なんて――
「〜〜っ、んふ、んぅぅ、まっ、ぎんちゃ、まって、っっ」
それってそれって、もしかして――あぁ、なんだか悪い予感しかしない!
あたしがじたばた暴れたくらいじゃびくともしない腕の中で、硬い胸を押し返す。
それでもすっかりその気になってる銀ちゃんはなかなか離れてくれなくて、キスを中断してくれるどころか舌を奥まで潜り込ませてくる。
んんんっ、って顔をトマトくらい真っ赤にして呻きながら、あたしはなんとか銀ちゃんを押し返そうと涙目になって奮闘した。
さんざん苦労してようやく離れてもらった頃には、すっかり息が上がってしまってたくらいだ。
「ぎ、銀ちゃんっ」
「んだよ、どーした急に。なぁなぁ、ちゅーの続きしていい」
「だめ、まだだめっ。あたし、ぎゅーってしてほしいなんて言った?」
「んー?あーはいはい、言った言った」
「ぃ、いつ」
「昨日の昼間。つーか夕方?たしか窓の外赤かったし」
「ゆぅが、た!?」
「そぉ、夕方、ここで。昼間に俺が無理させたアレでお前が落ちて、そのまま寝ちまっただろ。あの後な」
「〜〜〜っっ!!」
聞かれてた!!
銀ちゃんが眠ってたときについ口に出しちゃったあの恥ずかしいひとりごと、しっかり聞かれてたんだ!
絶対に当たってほしくなかった予感はみごと的中、あたしは声にならない悲鳴を上げながら真っ赤になった顔を覆った。
あぁ、やっぱり。やっぱりあの時だ。銀ちゃんてば寝たふりしてたんだ!!
今日の記憶よりもはるかに鮮明に焼き付いてる、昨日の夕方の光景が浮かんでくる。
目が覚めたらベッドの中で、窓から差し込むあったかそうなオレンジ色の光と、隣でよだれたらしてぐーすか眠ってる銀ちゃん。
あわてて顔を上げてみたら、銀ちゃんは汗まみれな顔を緩めきって、やけに嬉しそうににやにやと満面の笑みでこっちを見てた。
ひどい、だまされた、完璧にだまされた!どう見てものんきに熟睡してるようにしか見えなかったあれが、まさか狸寝入りだったなんて!
ほっぺたも耳もかーっと一気に火照っていって、全身がむずむずしてじっとしていられない強烈な恥ずかしさが襲ってきて――
「〜〜っっ起きてたの!?あの時銀ちゃん起きてたのっ」
「いやぁ俺が起きたっつーかぁ、銀さんの銀さんが起きたっつーかぁ。ほとんど裸のちゃんが甘えてすりすりしてくっからよー」
「ききっ聞いてたの、ぜ、ぜん、ぶ」
「んー、聞いた聞いたー。ぜーんぶ聞いたー。
寝たふりすんの大変だったぜー、泣きそーな声で「あのね銀ちゃん、銀ちゃん」って何あれ可愛すぎんだろ、股間が破裂しそーになったわ」
「〜〜ううぅぅぅ、やぁ、ばかぁ、ひど、ひどいぃっ」
「ってよー、俺が目ぇ覚ましたらお前やめちまうだろ。あのチャンス逃したら次はいつ聞けるかわかんねーじゃん、つんでれちゃんの愛の告白」
「――っあぁ・・・んっ」
自分でもびっくりするくらい高く飛び跳ねた甘い嬌声が、まっくらな部屋に響き渡る。
いつのまにか着物の内側まで滑り込んできた大きな手に、直に胸を撫でられたから。
ふにゅ、ふにゅ、って指が埋もれるほど深く揉まれて、冷えきってる膨らみに熱い指の先が埋もれるたびに声が跳ねる。
気紛れに先端も弄られて、つんと尖って感じやすくなったそこを器用な指先で刺激されるたびに、肩や背筋がぶるりと跳ねる。
今まで全身で浸ってた蕩けそうなきもちよさに、ぞくぞくした感じが混ざってきて、
「ぁあ・・・・・・ふぁ・・・ぁあん・・・っ」
「ー、そんなに俺のこと好き。俺がいないとさみしーの」
「うぅ、ゃあ、やらぁ、はずかし・・・っ」
「もっかい教えて。目ぇ覚めたらいなくてさみしかったって泣いてたじゃん。あれ、ほんと」
「・・・っ、ほ、んと・・・っ」
「じゃああれは。何されてもいーから一緒にいてほしかった、ってやつ」
「――っ」
吐息みたいな甘い声の問いかけにどきっとして、肩をちいさく震わせる。
――あぁ、もう、恥ずかしすぎて頭から湯気が出そう。あのひとりごとを全部聞かれたどころか、こんなにしっかり覚えられてたなんて。
どう答えようかとためらいながらおずおずと上げていった視線の先には、あたしを見つめてる銀ちゃんの目が。
汗に濡れたせいで暗闇の中でもうっすらと光る髪の影から、見られてるこっちまで目を逸らせなくなるような、まっすぐな視線を注がれて――
「あれ、すげー嬉しかったんだけど。ぎゅぎゅーって手なんか握っちまって、ぴとーって抱きついてきてよー。
ほんとはすごく会いたくて仕方なかった、帰れなんて言ってごめんねって」
「〜〜っっ。ぁ、あれは、っ、ぁっ、あ、ぁあ、んっ」
何か言い訳したくて震える唇を開いても、何ひとつまともな言葉になってくれない。
呼吸もままならない苦しさのせいで半開きになったままの唇から飛び出てくるのは、自分のものとは思えないような甘くて鼻にかかったいやらしい声だけ。
それにもし何か言えたとしても、それっぽい言い訳なんて一つも思いつけそうにない。
身体中から這い上がってくる気持ちよさで占領された頭の中は、芯までぐずぐずに蕩けきってる。
これじゃあ上手な言い逃れどころか、胸を握った手の動きを止めてもらう方法すら思いつけそうにないよ――
「・・・なぁ、どーなの。会いたくてしかたなかったって、すごく俺に会いたかったって・・・あれ、ほんと」
頬にそうっとキスを落とした唇が、もう一度返事を迫ってくる。
はぁ、ってせつなそうに息を吐いた銀ちゃんが、ぐっと腰をせり上げる。
そのまま奥までゆっくり捩じ入れられたら、ひぁあん、ってうわずった声を上げて仰け反ってしまう。
今にも弾けそうなくらい滾ってる男の人の熱で、ゆっくり、何度も、内臓まで押し上げるような深い動きでずぶ、ずぷ、って抜き挿しされれば、心の中に残ってたちいさな抵抗までその燃えそうな熱さに溶かされてしまった。
「ぁあ、ぁん・・・・・・あついぃ・・・あつぃのぉ、ぎんちゃあ・・・っ」
「んっ・・・俺よかお前のほうが熱いって」
「っ、んん、ぁ、ぁいた、かっ・・・ぎ・・ちゃぁ・・・っ」
「・・・・・・ん。俺も」
ちいさな子供みたいに舌足らずな口調だったのに、銀ちゃんには判ったみたい。
くすりと笑う声が斜め後ろで響いて、腰を抱きしめてる腕にぎゅうって力を籠められて。
あたしのこめかみに濡れた前髪を擦りつけてきたかと思ったら、身体の向きを少しだけ銀ちゃんのほうへずらされた。
その瞬間にお互いの目が合って、思わずあたしは見惚れてしまった。
ちょっと照れてるような、だけどすごく嬉しそうな、見たこともない穏やかでやわらかい表情で笑いかけてきたから。
視線を間近で合わせた顔が、熱っぽく潤んだ瞳を細める。
見たこともない表情に視線を吸い込まれて、身じろぎもせずに銀ちゃんを見つめる。大きな手のひらに包まれたままの胸の奥では、とくん、とくん、って心臓が少しずつ高鳴りはじめて――
「・・・俺もお前がいねーとだめだわ。
ちょっと顔見ねーとすぐ会いたくなるし。夜中に目ぇ覚めたときによー、隣にお前がいねーとすーすーすんだわ、胸のあたりが」
「・・・・・・ぅ、ん・・・っ。ぁ、あたしも。あたし、も・・・っ」
こくん、って大きく頷いて。
それから何度も何度も、こくこくこくこく、啜り泣く声が漏れそうになってる唇を噛みしめながら頷いた。
目尻に盛り上がった涙の粒が、ほろりと崩れてほっぺたを転がる。
泣き笑いみたいな情けない顔で銀ちゃんを見上げれば、なんだか照れくさそうな笑みを浮かべた顔が「おいおい何も泣くこたぁねーだろ」って近づいてくる。
その表情に見惚れながら、あたしはゆっくり瞼を閉じた。
お互いの気持ちをもう一度確かめようとしてるみたいに唇がそうっと触れ合えば、他の何かに例えようがないようなとびきりの嬉しさが胸の中を熱くしていく。
――同じ。同じなんだ。
心の中でそうつぶやくたびに、ふわふわしてあたたかくてやわらかい感情が――しあわせが身体中から溢れ出す。
他の人とじゃ分かち合えないこの気持ちは、銀ちゃんと同じ。
ふたり揃って初めてひとつのかたちになって、離れてるときもお互いの心を繋いでくれるおそろいの気持ち。
一緒にいれば嬉しくて、触れてもらえばそれだけでこころも身体も満たされて。
離れていてもふとしたことで見慣れた姿や声や笑顔が浮かんできて、そのたびに早く会いたくなって。
楽しいときもつらい時も、どんな時でも傍にいてほしくて。銀ちゃんが嬉しいときも悲しいときも、どんな時でも傍にいたくて――
「っ・・・、、・・・、あいしてる、っ」
「んっ、んん、ぎ、ちゃぁ・・・っ、んふ、ぅ・・・っ」
薄赤く染まった先端の周りを指の腹ですりすりされて、芯を持って固くなったところを何度もぴんって弾かれて。
そのたびに飛び出るはしたない声を唇を閉じてこらえたいのに、あたしを食べようとしてるみたいに絡みついてきた熱い舌が許してくれない。
ぬるい雫がとろとろこぼれて止まらなくなってる唇の端から、甲高い喘ぎ声が漏れてしまう――
「っふ、ぁあ、ひ、ぅう、んっ、〜〜んんっ」
「、俺のもんになって、ガキも、お前も、大事にすっから・・・・・・っ!」
「〜〜〜っぅ、んふぅ、ぁ、ふぁあ、ん、んん〜〜〜・・・!」
一瞬で快感が膨れ上がったお腹の奥で、容赦なくぐりぐり押しつけられた高熱の塊を締めつける。
強すぎる突き上げのせいで涙が溢れて胸まで苦しくなるくらいなのに、どうしようもなく気持ちいい。
銀ちゃんがぐっと息を詰めて、一拍遅れて奥に焼けつくような熱を感じて、身体の中心を突き抜けていく絶頂に力なく震えて、
――どく、どく、どくんっ、って脈打つ感覚が響くたびに熱は溢れて、お腹を奥まで遡るようにして満たしていく。
ぐちゅ、ぐちゅっっ。
自分の中で鳴ってるいやらしい音が冷たい空気に乗って流れていっても、恥ずかしさを感じる余裕もない。
潤みきった粘膜の壁に何度も先端を擦りつけられて、そのたびに吐き出される銀ちゃんの熱のいつまでも弱まってくれない勢いに腰をがくがく震わせた。
「猛毒いちごシロップ #8」
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text *riliri Caramelization 2016/05/02/ next →