「・・・〜〜なっっ、なに今の。 ・・・・・・そ、外・・・!?」

どんっ。どんどん、どんっっ。
玄関のほうへ目を見張ってたら、今度はさっきよりも少し弱めな、だけどさっきのと似たような音と振動が。 同じ階の部屋で何かあったのかな。それにしては距離が近いかんじがしたっていうか、なんだか直接的だった。 この部屋のどこかを誰かが外から殴りつけた音。そうとしか思えない響き方で――
なんて思ってはっとして、あたしは顔中を強張らせた。
少しずつ首を巡らせて、おそるおそる振り向いたのは窓のほうだ。カーテンからはみ出した窓枠が、みしみしぎしぎし軋んでる。 カーテンには人影が――誰もいるはずのないベランダに、なぜか人影が映ってた。公園の明かりに照らされて天井までぬぼーっと伸びる、大きな影が・・・!

「〜〜っ!だっっ、誰・・・!?」

泥棒?強盗?それとも一人暮らしの子を狙う変質者?
たしかにかぶき町はガラの悪い街だけど、この辺りはまぁまぁ治安がいいのに! 窓から目を離せないまま後ずさって、ベッド脇のテーブルに飛びつく。 そこに置いた携帯で警察に通報するつもりだったんだけど、
――いざ携帯を手にしたら、絶望的な気分になった。
うそでしょ、信じられない、こんな時に限って充電切れしてる! 絶体絶命ってこういうことかも、頭の中が真っ白だ。 震える指で電源ボタンをかちかち押しても画面は真っ黒、ちっとも反応してくれない。

「どどどどうしよ、どうしよう・・・!」

血の気がすーって引いていって全身から力が抜けかけた瞬間に、
どぉんっっっっっ。
もう一度、ガラスが割れちゃうんじゃないかって強さで窓を打たれた。 びっくりしてよろけた足が着物の裾を踏んじゃって、つるんと滑ってバランスが崩れて、

「〜〜っゃ、っっっ!」

そのまま後ろへ倒れちゃって、どすんっっ。床が震えて鳴り響く。
すぐ立ち上がろうとしたんだけど、いくら必死に立とうとしてもぜんぜん力が入らない。怖すぎて腰が抜けちゃってるんだ。 じんじん痛む腰も膝も、床に着いた肘もかくかく震えて動かない。 ベランダの不審者が窓をガタガタ揺らしてる。這って逃げることすら出来なくなったあたしは、携帯を抱きしめてうずくまった。
どうしよう、またガラスを殴られたら。窓が割れちゃったら。ああこんな時ってどうしたらいーの、どうしたらどうしたらどうしたら――



「〜〜ぎっ、ぎんちゃあっ・・・・・・助けて銀ちゃああぁんっっ」
「――!おい、っっ」

どんっっっ。
窓を強く殴る音と同時で、怒鳴り声が飛び込んできた。すごくあわててる声。取り乱した声だ。


「――・・・・・・ぇ・・・?」
「おい、そこにいるんだろ!どーしたんだよ今の音っ」

さっきまでの怖さも忘れて顔を上げて、少し経ってからずるずる這って窓へ向かう。 腰が立たないからクリームイエローの生地に縋りつくみたいにしてカーテンを開けたら、ド派手なネオンピンクの法被姿がガラスにべったり貼りついてた。 銀ちゃんだ。銀ちゃんはあたしを目にするが早いがだだっとこっちへ駆けてきて、かと思えば、何かものすごくほっとしたように表情を緩めて。 なのに次の瞬間には、跳ねまくった前髪の下で眉間がぎゅーっと狭められる。 べしっ、て大きな手のひらが歯痒そうに窓ガラスを殴りつけて、

「っだよお前、起きてんじゃん!起きてんなら出ろよ電話ぁ、心配すっだろぉ!?」
「ぎっ、銀ちゃ・・・!?」
「つーか何、何だよ今のでけー音っ」
「な。何って、銀ちゃんこそ何で・・・」

何で。どーして。どーしてこんなところから!?
ぽかんと目を剥いてガラス越しに見上げてたら、
、鍵!鍵開けて鍵っ」
なんて言いつつあたしの頭上をしきりに指す。何とか膝を立てて、施錠されてた窓を開けてあげたら、
がらがらあぁぁっっ。
ご近所迷惑になりそうな音を鳴らして、勢いよく窓が開かれた。 衿のところに「ぴんきーえんじぇる」ってロゴとハートマークが踊ってる派手な法被姿はベランダでブーツをぽいぽい脱ぎ捨てて窓を閉めて、あっという間に目の前へ。 あたしの両肩をわしっと掴んで、

「で?そんで何、何だったんだよさっきの音!」
「――え。・・・・・・・・・ぁ、あれは、だから・・・ベッドから落ちて」
「はぁ?お前寝惚けて転げ落ちたの?っだよぉぉ、焦ってガンガン窓叩いちまったじゃん!」
「いや寝惚けたとかじゃ・・・じゃなくて、ねぇ銀ちゃん、何で」
「あーもぉどーすんだよぉ、これ絶対気付かれたぜ他の住人に」
「・・・・・・っ」

・・・・・・銀ちゃん。銀ちゃんだ。
目の前にいる。公園の明かりで照らされてる窓のほうを気にしてちらちら眺めながら、白っぽい天パ頭をわしわし引っ掻き回してる。 電話がどうとか鍵がどうとかあたしがどうとか、言ってることはよくわかんないけど早口でべらべらべらべら、ひたすら文句をまくし立ててる。
どうして。何で。帰っちゃったんじゃなかったの。今までどこに行ってたの。どうして黙っていなくなったの。ていうかどーしてベランダなの。
言いたいことは溢れ返ってるのに声にならない。ああ、もどかしさで胸がいっぱいだ。 ぽかんと開きっぱなしだった唇がぶるぶる震えて、泣き腫らした目からは涙の粒がぽろぽろこぼれて、

「あーあー焦って損したわ、掛けても掛けても出ねーからまた熱上がってぶっ倒れてんじゃねーかって気になって上の空でよーおかげで新八に説教され」
「ぅうう・・・ぅぐ、っっく、・・・っう、ふ、ぇえ・・・〜〜〜っっ」
「・・・へ?ちょ、?んだよどーした、おい」

どっか痛てぇの、怪我したの。
女の子に泣かれるのがかなり苦手な銀ちゃんだ。いきなり泣き出されちゃってぎょっとしてるんだろう。 途端に気まずそうにあわあわして、目の前にがばっとしゃがみ込む。 あたしの左の足首を注意深くそーっと持ち上げて、
「どこ、どこだよ。落ちた時に捻ったか?」
さっきベッドから落ちた時に、捻挫でもしたと思ったみたい。踵やくるぶしをすっぽり覆った分厚い手の中はあったかい。 銀ちゃんの手だ。あったかい。 冷たすぎて痛いくらいだった足がほんのりあったまったら、怖さと緊張でぎこちなくなってた身体中がじんわり溶けて緩んでいく。
あったかい。銀ちゃん、戻ってきてくれた。そう思ったらようやくほっとして、安心したらまた涙がこぼれて、

「ぎんひゃ、の、ばかあぁああああ」
「――っ」

身体ごとぶつかる勢いで、腕の中に飛び込んだ。
銀ちゃん、めずらしく驚いたみたい。夢中で縋りついた逞しい胸が、っっ、って息を詰めたのが伝わってくる。 ああ、何やってるんだろう。どうしてこんなことしてるの。わんわん泣いて飛びつくなんて、親とはぐれて迷子になってた子供みたい。
わけわかんない。かっこわるい。なさけない。ばかみたい。 顔中が涙でびしょ濡れでぐずぐずで、鼻水も流れそうで超かっこわるい。 それでも熱くなった喉からこみあげてくるせつない嗚咽は止まらなくて、何もかも我慢出来なくて。
どんどん、どんっっ。顔を押しつけてる分厚い胸板を殴りまくった。しかも拳骨と携帯で。自分でも、どうしてそんなことをしなくちゃいけないのかわからないのに。

「〜〜いてっっ痛てぇって、ちょっっ角んとこで殴んのやめっっアバラに響っっっぃでででで!」
「どーしてベランダから入ってくるのぉぉ、こわかったんだからね、すっごくこわかったんだからね強盗かと思ったんだから!」
「しょーがねーじゃんっ、今日はここんちの鍵持ってねーし玄関から入れねーだろっ、つーか玄関から入れんならわざわざベランダよじ昇ったりしねーって!」

がばっと振り上げた携帯が、ぱしっと片手で止められる。
「くっそ痛ってえぇぇ」なんてお腹を押さえて唸りながら携帯を奪い取った銀ちゃんが、玄関のほうをびしっと指して、

「出てく時はお前の鍵で掛けて、ドアの下から中に放り込んだんだよっ。一人暮らしの女の家で鍵掛けねーわけにいかねーだろぉ、あぶねーだろぉ!? 戻る頃にはも目ぇ覚めるだろーし鍵なんていらねーだろって思ったんだよっ、なのにお前電話出ねーし!」
「だからって何でベランダ!?玄関でピンポンすればいーでしょっっ」

鼻が詰まった涙声で喚きながら、ド派手な法被をべしべし叩く。
こっちを唖然と見下ろしてた銀ちゃんの口許とこめかみのあたりが、ひくひくひくひく、引きつり始める。 あーあーどーしちゃったのこの子、めんどくせーなぁって思ってるかも。 何やってるのあたし、何でこんなに怒ってるの。こんなにヒステリックに喚くことないのに――

「だーかーらぁぁ、急いでたんだよっ、一刻を争う非常事態だと思ったんだよっっ。 お前が意識なくしてぶっ倒れてんじゃねーかって銀さんすげー焦ってたんだって、この真夜中に大家叩き起こして鍵開けさせるよりベランダ伝って登ったほうが早ぇーだろぉ!?」
「だからってベランダはないよっっ。っうぅ、うぅうう〜〜、ばかばかぁ、どこいってたのぉっっ」
「どこって仕事だよ、仕事ぉ」

つーかほらこれ、見ろって。
やんわり肩を掴まれて、飛びついた胸から引き離される。ネオンピンクの法被の衿元を、ぐいっ。目の前に突き付けてきて、

「見ろよこれぇ、この法被。ついさっきまでイメクラの客引きやってたんだって」
「そんなのしらないもんっっ。仕事だなんて、ぁたひ、聞いてないぃ」
「はぁ?いやいや聞いただろぉ、聞いたはずだって!神楽が言ってたぜ、昼に電話したときに話したって。 夕方から依頼入ってるってお前に話したって!」
「ぅうう、それは、そゅこと、聞いたけどっ・・・でも聞いてないぃ!銀ちゃんもお仕事だなんて聞いてないぃっ」
「言おうとしたけど言えなかったんだって、言う前にお前寝落ちちまっただろぉ? だから一言書いてから出てくつもりが起きたら遅刻寸前だしっ、仕事中に何度も何度もしつけーくれー電話したのにぜんっっぜん出ねーし!」
「って、だってぇ、けーたい、充電、きれてて、だから、だから、・・・・・・〜〜っ」

泣きじゃくりすぎたせいで胸が詰まる、呼吸が上がる、涙が流れ込んできて喉が苦しい。 息苦しくて噎せ込んじゃって、けほけほと咳が止まらなくなる。
わかんない。わかんないよ。自分がぜんぜんわかんない。
何でこんなに泣きじゃくってるの。かっこわるい。なさけない。ばかみたい。 子供みたい。自分の感情をうまく伝えられないのが歯痒くて、わんわん泣いて駄々をこねてる小さな子供。 きっと銀ちゃん呆れちゃってる。だって、こんなに困ってる顔なんて見たことないよ。
へなぁっと眉を下げた困惑顔とにらめっこしながら、止まらない嗚咽を噛みしめる。 それでもなんだか心細くて、目に染みてくる色合いの法被の袖口をきゅっと握る。 だけどわけがわからなくなってるあたしの身体は自分じゃもうコントロール出来なくなってて、それがもどかしくて情けなくてすごく悲しくなってきて、発熱と混乱で限界を超えた頭の奥で何かがぷつんと切れてしまった。
ふぇえええん、って子供みたいに啜り泣きながら、床に突っ伏してうずくまった。

「・・・ちょ、え、?んだよ、俺?俺が悪りーの?おいおい勘弁しろやいくら何でもそこまで泣くよーなこたぁ、


・・・・・・・・・・・・・・・って、ぁ、あのぉぉ〜〜、ぃ、いやいやマジでいー加減にしろってお前いつまで泣い・・・・・・・・・、
・・・ちゃーん?・・・えっ、今のそんなにキツかった?銀さん言い方がキツかった!???」


不満そうに言い返してた強気な態度もころっと一変、がばっと伏せて横からあたしを覗き込みながらおろおろおどおど、キョドりまくったかんじの猫撫で声になった銀ちゃんに背中や肩を摩られたけど、答えられない。 ひっくひっくと激しい嗚咽が止まらないし、あたしだって自分がどうしてこんなに号泣してるのかわかんないんだから。 そんなあたしを前にしてる銀ちゃんは、わけがわからなくなってるあたし以上にわけがわからなかったはずだ。 なのに、それでも怒らなかった。しばらく黙り込んで、居心地悪そうに何かもぞもぞしてたんだけど、


「・・・おーいー。ちゃーん。なぁ聞いてる」
「ふぇ、うぅ・・・きぃ、てる・・・っ」
「お前ほんとどーしちまったの。めずらしくね、こんだけ泣くの」

――ひとしきり泣いて疲れきって嗚咽が弱まり始めたら、左の腕を肘のところから掴まれて。 倒れ込んでたあたしの身体はもう一方の手に肩を支えられて、床からゆっくり抱き起こされた。
だけど泣き疲れて脱力しきってる背筋はふにゃふにゃでぐらぐら、ちっとも力が入らない。 起こされた傍から姿勢がぐらりと崩れかけて、お、ってあわてたような声を上げた銀ちゃんの胸にへなぁっと顔から倒れ込む。 受け止めた腕に腰からぎゅって抱えられて、

「あーあー、熱あんのにびーびー泣くから。ほら掴まれや、寝床まで運んでやっから」
「〜〜っ。だ。だぃじょぶ、だもっ・・・自分で歩けるも」
「いや歩けねーだろ。つーか立てねーだろ、腰抜けちまってんじゃねーの」

そう言いながら首を傾げた顔が、あたしの表情を窺いながら迫ってくる。 ひっく、ひっく、って止まらない嗚咽を噛みしめながら顔を起こすと、泣きすぎて腫れぼったくなった目にぱぁっとまぶしさが飛び込んできた。 カーテン開けっ放しの窓辺から差し込む、公園の光。その光が、窓を背にした銀ちゃんの髪に反射してる。 晴れの日に雪を目にしたような真っ白なまぶしさに見惚れてるうちに、銀ちゃんはこつんとあたしにおでこをくっつけてきた。
「あれっ。また熱上がってね」
熱を計って少しだけ眉間をひそめると、

「なぁ、何で泣いちまったの。寝床から落ちた時にどっか痛めた?足捻ったとか背中ぶつけたとか」
「・・・ちがぅ・・・」
「ふーん。そんじゃあれなの、熱上がってテンションおかしくなって泣きじゃくったとか」
「ちがぅぅ・・・」
「じゃああれかよ、俺がベランダでガタガタやったから怖くてわけわかんなくなっちまったとか」
「それも・・・・・・ある、けど・・・」
「あるけど、何」
「・・・っ」

答えるのが恥ずかしくて口籠ったら、困りきってる表情の口端が呆れたような笑みで緩んだ。
「あーあーすげぇ顔、ぐっちゃぐちゃ」
目尻に溜まった涙のしずくを人差し指の背で掬い取られて、ぐっしょり濡れたほっぺたは法被の裾でごしごしされて。 優しく触れてくれる手が冷たい。 触れられるたびに肌が震えるくらいに冷たいんだけど、それでもこうして触れてもらうだけで涙が滲んでくるくらい嬉しかった。
だけど――やっぱりあたしって可愛くないなぁ。素直じゃないよ。恥ずかしくって「ありがとう」が言えない。 それどころか「心配させてごめんなさい」だって言えそうにないんだから。 目を合わせないようにうつむいて、暗い視界でそこだけぽうっと明るく見えるピンクの法被の端っこを摘む。 だって、不安でしょうがない。こうしてどこか掴んでいないと、銀ちゃん、またどこかへ行っちゃうかもしれない。いなくなっちゃうかもしれない――
うう、うっく、ってこみ上げてくる嗚咽で肩を揺らしながらうじうじめそめそ泣いてたら、

「――お前さぁ、ひょっとしてあれなの。さみしかった?目ぇ覚めたら俺がいねーから」
「・・・っ」

図星を指されてどきっとしたら、法被をぎゅって握りしめてしまった。かぁっ、とほっぺたが一瞬で染まっていったのが自分でもわかる。
「あー、当たり?当たった?」
たったそれだけの反応で、銀ちゃんは気付いちゃったみたいだ。 珍しいものでも見るような目つきでまじまじとあたしを眺めてくる。滅多に見開かない目が開き気味で、なんだかちょっと不思議そう。 「いやこれな、これ」なんて言いながら、法被の端を掴んでたあたしの手を上からすっぽり覆って。 その手をくいって引っ張られて、
――ちゅっ。
手首にやわらかく吸いつかれて、肌に触れた唇の氷みたいな冷たさにどきっとしたら、

「最初っからおかしいとは思ってたんだよなぁ、今日はやたらとのほうから触ってくるからよー」
「え」
「え、って何だよそのびっくり顔ぉ。まさかあれも無意識にやってたのお前」
「えっ、だって、・・・さ、触っ?」
「んぁー触ってたっつーかぁ、掴んでたっつーかぁ。何かっつーときゅーって握って離さねーじゃん、俺の服とか腕とかぁ」
「〜〜〜そ、そんなことしてな」
「いやいや触ってたって。何かっていやぁ触ってたって」

何それ、知らない。あたしそんなことしてないよ、いつだって触ってくるのは銀ちゃんのほうだし。
あわててぶんぶんかぶりを振って「そんなことしてないよ」って否定したら、すっかりいつものすっとぼけた半目顔に戻った銀ちゃんが、「いやいやいや」って顔の前で手を振って、

「いやいや触ってたって。 たまにしか俺に触ってこねー子がなーんかすんげー恥ずかしそーによー、甘えたそーな上目遣いで手とか腕とか触ってたじゃん。 それによーヤってる間もいつになく積極的だっただろぉ、銀さんのこと誘ってたじゃん」
「はぁ!?」

何なの上目遣いって、誘ってたって。いつ誰が何時何分何秒にそんなことをしましたか!?
すると着物がだらりと肌蹴けちゃってるあたしの胸を人差し指の先でふにゅっと押して、

「誘ってたって、ほっぺた赤らめて目ぇうるうるさせたやらしー顔でこの胸押しつけておねだりしたじゃん。 銀ちゃん抱っこしてぇとか早く来てぇとかあっためてぇとかぁ」
「〜〜あっ、あれはほんとに寒かったのっっ。誘ったとかそーいうあれじゃないしそもそも胸は押しつけてな」
「いやいや誘ってたって、言っただろぉそこのベッドでえっろいかんじに腰くねくねさせちまってよー「あぁんさむぃのぉもう我慢できなぁい、早く銀ちゃんの熱くておっきいのでのナカまであっためてぇ」って」
「言ってないっ、そんなの絶対言ってないぃぃ!てゆーか何なの、何この手っっ」

しれっとほざいたセクハラ侍に甲高く叫んで、べしいぃぃっ。
うにゅうにゅとふにゅふにゅとむにゅむにゅと、元は殺し屋で見た目はタコ寄り未確認生物なあの先生の触手的なヌルっとした手つきで人の胸を勝手に揉みまくってた図々しい手を払い落とす。 あぁもう、真面目に尋ねるんじゃなかった。どーして銀ちゃんてこうなの、どーしてこんな時まで最低なセクハラぶち込んでくるの!?

「あれっそーだっけ、言ってなかったっけ。俺の着物でソフトSMしながらよがってなかったっけ、あぁんすごいのぉもっと縛ってえぇこんなの初めてぇぇとか」
「誰がそんなこと言うかあぁぁ!っっゃだやだもぉっっししししねっしんじゃぇエロ天パっっ」

週に一度は亀甲縛りして万事屋の天井から降ってくるさっちゃんさんじゃあるまいし、人を縛られて喜ぶ変態みたいに言わないで! 頭から湯気がしゅーって出そうなくらい赤くなって、法被を着た胸をべしべし、べしっっ。 だけどその手を素早くぱしりと掴まれて、

「まぁそこまでは言われてねーけどー。言われたよーな気になっちまうんだよなぁ、お前にあーいう顔されちまうと」
「っっ!」

ぐいっと腕を引っ張られたら、ぼふっ。
冷えた空気を弾ませて、法被の衿元に顔が埋まる。ほんの一瞬の、あっというまの早業だった。 いつのまにか背中まで回された両腕に閉じ込められて、何が起こったのかもわからないうちに胸の中だ。
イメクラのお仕事で借りてきた法被が――ほっぺたに貼りついてくるピンクの布地が、すごく冷たい。 そう感じた瞬間に、むにゅっ。涙でぐっしょり濡れてる口許を、潰し気味に押さえられた。

「ぅにゅうっ」
「ふーん、マジで自覚ゼロかよつっまんねーの。まぁ昼間の抱っこして発言も無自覚だったみてーだしぃ、こっちも薄々気付いちゃいたけどよー」
「ふむっ、っぎ、ぎんひゃ、ちょ、これ、やめっ」
「けどあれな、お前。思ったより俺の事頼りにしてんのな」
「――っっ、ち、ひがぁ、っむ、ぅうん、っ」

胸の中ではどぎまぎしながら「違う」って言い張ろうとしたら、長い指の先に左右のほっぺたを挟まれて。
むぎゅ―――っ。
本気を出せばあたしの顎くらいは軽く砕いちゃいそうな握力がある手で、強制的に変顔にされる。 真っ赤になって絶句したら、銀ちゃんてば「あれっ」って意外そうに目を丸くしてみせた。 「あれあれ、あれぇ〜〜」なんて言いながらすっごくわざとらしいかんじの驚いた表情まで作ってみせて、

「あれっ何その顔、耳まで真っ赤になっちまってどーしたの。え、もしかして図星?図星だったから恥ずかしーの? ふーん。へーぇ。そーなんだぁ、変態とか最低とかエロ天パ死ねとかボロクソ言うくせによー、実は銀さんのことすげー頼りにしてんだぁ」
「なっ、なにそれっ。ちちちがっ違うからっ勝手に納得しなぃでっっ」

じわじわ迫ってくるピンクの法被を押し返しながらじたばたあたふた、うんと顔を逸らして黙り込む。
もう銀ちゃんのばかばかばか、そうはいかないんだから、何があっても絶対認めないんだから! だってこんなの認めちゃったら、自分で自分の首を絞めるよーなものじゃん。 ここであたしが「銀ちゃんがいなくてさみしかった」なんて認めてみなよ、銀ちゃん絶対調子に乗るでしょ、何かっていうとこれをネタにしてあたしをからかうつもりでしょ!? 今だってこっち見てる目の奥が笑ってるし、「へへー、いい弱味見つけちまったなーこりゃあ当分使えるぜ」とか企んでそーな悪い顔してるし!
ていうか、それ以前に・・・言えない。言えないよ、「銀ちゃんがいないからさみしくて泣いてた」なんて死んでも言えない。 普段は彼氏をボロクソにこき下ろしてるツンツン彼女のあたしが、どんな顔して本人の前で認めろと!? 想像しただけで顔から火が出そーになるよ、ぐしゃぐしゃな泣き顔を見られる恥ずかしさの100倍は恥ずかしいよ!
そんなことを考えておろおろあわあわしてたあたしの頭の中身は、たぶんすっかり見抜かれてたんだろう。 あわてるあたしを無遠慮にじろじろ眺めてた銀ちゃんは、やがて「ふーん」なんてつぶやいて、口端をにんまり吊り上げた。 「お前のことなんて何でもお見通しですー」とか鼻で笑って言い出しそうな、憎たらしいかんじに目なんか細めてにまにま笑って、

「ところでよー、どーしたのその目」
「ふぇ?」
「え、ひょっとしてアレなの、俺がいねー間ずーっと泣いてたの。 目ぇ覚めたら銀さんいなくて心細くてびーびー泣いてー、そんで俺が戻ってきたから気ぃ緩んでまた泣いちまったの」
「・・・っ!」
「ってよー目ぇ真っ赤じゃん。俺が入ってきた時にはもう赤かったよなぁ、ここ」

なんて得意げに言いながら、濡れたこめかみを指先で拭う。
目許まで乱れ掛かってた髪をその指で耳の後ろに掛けられて、露わになった耳たぶに銀ちゃんが唇を寄せてきた。
ちゅ、ちゅ、ちゅ、って輪郭に沿ってキスされたら、やわらかい触れ方がくすぐったい。 触れられるたびに肌がぽうっと熱くなって、じわじわじわじわ、身体中にくすぐったさが広がっていって。 伸ばした舌にもっと奥のほうをぺろぺろされたら背中が跳ねて、ひぅ、って変な声が漏れる。あわてて法被の衿元を引いて、

「ぎっ、ぎんちゃっ」
「んー?」
「ゃ、やだ・・・くすぐった・・・っ」
「やじゃねーだろ、気持ちいい、だろ。ここ舐められると弱ぇーもんなぁ、は」
「ぁ、やっ・・・もぉ、やめっ・・・っん、ひ、ぅぅ・・・」

形を変えながらぬるぬる蠢いている熱いものが、奥のほうまで入り込んでくる。
くちゅ、くちゅ、って音を立てながら舐められる。 感じやすいどこかを押し込んだ舌で撫で回されて、濡らされる感覚だけでぞくぞくして。 そのおかげで法被をぐいぐい引いていた手もいつのまにか止まって、じきにへなへなと力が抜けて掴んだ布地を離してしまった。
唇を覆って我慢しても、ん、んん、って声が漏れる。尖らせた舌先がねっとりと肌を這うたびに、肩が震える。
離れようとして身体を捩ったら耳を舐める動きが止まって、ぐ、って腰を引き寄せられて。 そのまま抱きかかえられたからベッドへ運んでくれるのかと思ったら、そうじゃなかった。 胡座で座ってあたしの腰を自分の太腿に乗せ直すと、大きな手で頭をぽんぽんしてくれる。よしよしよーし、って着物越しに背中まですりすり撫でる。 つまり、まるっきり子供扱いだ。ていうか赤ちゃん扱いだ。 見透かされてる自分がちょっと悔しい、恥ずかしい。 なのに胸の奥は黙って甘やかしてくれるやさしい仕草にきゅんとして、またこみ上げてきた泣きたい気分が目の奥をじんわり潤ませた。

「な。もっかいやってくんね、昼間のおねだり」
「ぉ、おねだり・・・?」
「あれだよあれ。「銀ちゃん抱っこしてぇ」って腕引っ張って甘えるやつ」
「そっ・・・そんなこと、してな」
「しましたー、したんですー。誤魔化そうとしてもだめですー、銀さんあれで股間が爆発しそーなくれームラムラしたからしっかり覚えてますー」
「〜〜っっむ、ムラムラとか言うなあぁっっ」
「なぁもっかいやってみろって、あれちょー可愛かったから」
「〜〜っ」

吐息混じりな囁きの後にちゅ、ってほっぺたにキスされたら、身体中がぞくぞくして。
背筋を走り抜けたどうにもならない感覚を法被の腕に縋りついてこらえてたら、ごそごそ動いた銀ちゃんがあたしの首元に顔を埋める。

「ほらほら、ー。言っちまえって」
「っっ・・・」

低くささやく濡れた感触を、鎖骨にそうっと押しつけられる。皮膚が薄くて感じやすいそこを舌先で吸われて、んっっ、ってうわずった声が漏れる。 肩に掛かってた髪を大きな手が後ろへ流して、白い着物がずり落ちて露わになった肌を甘噛みされる。 びくんと震えて仰け反った背中を、よしよし、って宥めるみたいに撫でられる。 そうしながら何度も胸元や首筋を甘噛みされる。ちぅ、ちゅうぅ、って舌先できつめに吸いつかれて、薄赤い痕が肌に散る。 お腹の奥がじわぁって疼いて、とてもじっとしていられない。 もじもじと腰を捩ってたらぎゅって抱え直されて、お尻のほうへ伸びてきた手に円を描くみたいに撫で回される。 着物越しに感じる銀ちゃんの手つきは、ゆっくりしていてすごく優しい。 なのにあたしの身体はびくびく震えて、背中を撫でる手の動きに合わせて腰がゆらゆら揺れ出した。

「・・・・・・はぁ・・・ん・・・あ・・・あぁ・・・」

はぁ、はぁ、って呼吸が乱れてせつなくて、なんだか泣きたくなってくる。
撫でられただけで感じちゃってる、いやらしい自分が恥ずかしい。 白く光る癖っ毛をくしゃりと掴んで、目の前の頭に両腕を回して縋りつく。たけどやっぱり我慢できない。 あ、あぁ、ってうわずった声が何度も漏れて、背中が震える。頭の芯までぽうっと熱でのぼせ上がって、抱えられた腰が腕の中で捩れる。
どうして――どうして拒めないんだろう。
抱きしめられてるわけじゃないのに――突き飛ばして離れたっていいのに。 銀ちゃんの手は背中を優しく撫でてるだけ。なのに、その手に全身の感覚を操られてるみたい。 長い指の甘い動きに手足の先まで縛られて、勝手に動かされてるみたい。
ぞくぞくした感じに縛られて震えが止まらなくなってるあたしを、首元に伏せた顔が見上げてくる。視線をこっちへ向けた目が、妖しい雰囲気で瞳を細めて。

「どーよ。その気になった」
「ふぇえ・・・?」
「はは、気持ちよくて忘れちまってんだろお前。ほらあれ、銀ちゃん抱っこしてぇ、ってあれ」
「うぅぅ・・・やだぁ。・・・んな、できな・・・っ」
「さっきは出来てただろぉ、いきなり抱きついてきたじゃん。むぎゅーって抱きついてわんわん泣いて駄々捏ねて、ガキみてーに甘えてたじゃん」
「〜〜〜違うぅ、それは」
「ほらほら、もっかい素直におねだりしてみろって。銀ちゃんさみしかったの抱っこしてぇ、ってよー」

やらねーともっと苛めるけど、いーの。
笑ってるのにどこか意地悪な銀ちゃんの声音にどきっとして、息を飲んだ瞬間だ。 うつむき気味だったあたしの顎に人差し指が掛けられて、くい、と顔を上向かされた。
光を浴びて毛先がぽうっと光ってる頭を傾げ気味にして、銀ちゃんはあたしを見つめてる。 やわらかく細めた目つきには、あたしと二人きりの時しか見せない甘い雰囲気が漂ってる。 だけどこの眠たそうでとぼけた目が何を思ってあたしを眺めてるのかは相変わらずちっともわからないし、こんなに近くで視線を合わせてるとそれだけでどきどきして困る。 ただでさえ熱でぐったりしてるのに、心臓に悪いよ。

「・・・ぁ。あしたも、お仕事あるんでしょ。も、いいよ、帰れば。もう平気だから・・・帰ってよ」

しどろもどろにつぶやいて、視線だけをふいっと逸らす。
言った傍から後悔しちゃって泣きたくなって、今にも漏れそうになった嗚咽を喉の奥で噛みしめた。
・・・あぁ、やっぱりあたしって可愛くない。
ほんとは一緒にいてほしいのに。戻ってきてくれてすごく嬉しかったのに。
なのに、来てくれてありがとうってお礼を言うどころか、口にしてるのは思ってもいないことばかり。 しかもこんなに素っ気ないって・・・なにそれ。どーなのそれ。可愛くないよ、可愛くない。これじゃあ気を悪くされたって仕方ないよ――
しばらくしてから、おそるおそる視線を戻してみる。ところが銀ちゃんの表情には、ちっとも気を悪くしたような様子はなかった。 それどころかやけに楽しそうににやつきながら距離を詰めてくるから、くく、って笑った顔の輪郭がぶわりとぼやける。 とくん、とくん、と心臓が高く跳ね上がる。 咄嗟に身体を引こうとしたけど、顎をきつく抑えられてる。 反射的に目を瞑ったら、熱い吐息と冷たい唇がふわりと目尻に触れてきた。
ちゅ、って音を立てて涙の粒を吸い取ると、笑い混じりな吐息を漏らして。


「んだよ、違げーの。早く顔見たくてたまんなかったのって、俺だけかよ」
「・・・っ」

――え。
拗ねたような口調と意外な言葉にどきっとして、あわてて目を開こうとした。
だけど開きかけた瞼は、素早く落とされたキスで塞がれてしまって。 っっ、って身じろぎして銀ちゃんから離れようとしたら、今度はキスが唇に移って。
ちゅ、 ちゅ、 ――ちゅっ。
冷えきった唇を押しつけるみたいにして数秒置きに啄まれて、ぎゅう、ってきつく抱きしめられて、

「あーあー、つまんねーの。冷てーよなぁうちのちゃんはよー、銀さんは何しててもお前のことばっか考えてたのに」
「え、ぎ、ぎんっ・・・んふ・・・んっ」

やんわり押しつけて、ほんの少し離れて。
ちょっとかさついたかんじがする冷えきったやわらかさは、すぐにまた欲しそうに触れてくる。
ほんのちょっと肌と肌を触れ合わせると、また離れて、また触れて。 反応を確かめるみたいにこっちを見てる銀ちゃんに何度も何度もキスされるうちに、唇を重ねている時間がだんだん長くなっていく。
優しく覆う冷たさと、ちゅ、ちゅ、って鳴らされる甘い音の響き。 その両方につられるみたいにして、あたしの身体も気持ちも自然ととろんと蕩け始めた。 銀ちゃんの上手な触れ方にうっとりして全身からへなへなと力が抜けたら、ふっと笑う声がして。

「これってよー、もうの風邪がうつっちまってんのかもな」
「え・・・――っふ、ぅう・・・ん」

尋ね返そうとして開いた唇は、漏らしかけた声ごと飲み込むみたいに覆われてしまった。
ちゅ、ちゅ、ちゅ。ごそごそ、ざわざわ、ばさっっ。
啄むだけのキスを繰り返す唇が鳴らすかすかな音と、派手な法被と黒のインナーを銀ちゃんが手早く脱ぎ捨てる音。 両方の音が、暗くて静かな真夜中の部屋に混ざり合って響く。 その音で銀ちゃんがどうするつもりなのかに気付いて、驚いたあたしは身じろぎした。 だけどそのまま休む間もなく繰り返し唇を塞がれて、抱かれた腰を大きな手のひらが撫で回し始めて。 その手が着物越しにやわらかいところを掴んだら背筋が跳ねて、お腹の奥がぼうっと熱を持ち始めた。

「――っふ・・・ぁあ・・・ぎ、ぎん・・・っ」
「何やってても集中できねーっつーか、お前の顔ばっか浮かんできてよー。何やってても、熱出してぽーっとしてる子の顔が頭から離れねーんだわ」
「ん、ふぅ、んん・・・・・っ」

拗ねたような口調でそう囁かれたら嬉しくて、身体中がふわふわして。とくん、とくん、と胸が高鳴って止まらなくなる。
捲れ上がった着物の裾から滑り込んできた手が、直に肌を撫で始める。 太腿の付け根を指先でくすぐられたら途端にぞくぞくして腰が跳ねて、はぁん、って甘ったるい声が漏れる。 せつなそうに吐息をこぼした銀ちゃんの息遣いが、すこしずつ、すこしずつ早くなっていく。

「・・・なのによー、何遍掛けても電話繋がんねーからマジで焦ったし。真面目にやれってぱっつぁんに説教されても、のことばっか考えてたしぃ」
「っ、ゃ・・・ぁっ。あ、あぁ・・・」

ゆるゆると撫で回される気持ちよさにめまいがして、身体が芯から火照り出す。
そんな自分が恥ずかしいのに――恥ずかしがってる気持ちとは裏腹に、もじもじと擦り合わせてる脚の間に熱が生まれる。とろりとこぼれて溢れ出す。
もっと、もっと――もっと深いところまで、触ってほしい。
キスだけでくらくらして倒れそうになってるあたしに、銀ちゃんにそう言えって身体が勝手に訴えてるみたいに。

「なー、お前は俺のことちっとも考えなかったわけ」
「そ、んな・・・と、な・・・っ」
「じゃあさみしかった?俺がいなくて」
「ゃ・・・やぁ、も・・・、ゃめ・・・っ」
「やめてじゃねーだろ、もっとだろ。さっきからきもちよさそーにびくびくしてんじゃん、ここ」
「ん、んっっ」

お尻の丸みをやわやわと大きな手のひらで揉みながら、銀ちゃんは指を伸ばしてくる。
かぁっと火照った脚の間の、とろりとした粘液で濡れそぼったところ。
迷わずそこを探り当ててゆるゆると動き始めた指先は、じきにぬるりとした感触を纏って滑り出す。 その感触に気付いたら恥ずかしさでもっと身体が熱くなって、だけど、気持ちいいところを掠めるだけの動きが泣きたいくらいもどかしい。 銀ちゃんの脚の上に横座りする格好にされたあたしの腰は、きもちよさそう、なんて指摘されたとおりにいやらしくびくびく震えてしまった。

「ぁあ・・・やっ・・・んちゃぁ・・・・・・やっ、それ、やぁ・・・」
「撫でられるだけじゃ物足りねーんだろ。ほらー、抱っこして、って可愛いー声でおねだりしてみな」
「ぁん、ゃっ、やだぁ・・・ぃえな・・・っ」
「んだよ言ってくんねーの。んじゃ、素直じゃねー子は限界まで焦らしていじめちまおっかなー」

なんてからかってくる銀ちゃんはあたしよりもうんと物足りなさそうで、限界まで焦らされてるような顔してる。 お尻を掴んで撫で回す手つきはいつもより性急でちょっと乱暴、息遣いだってなんだか荒い。 お尻に当たる熱い感触は黒いズボンの生地越しにびくびく跳ねるし、今にもはち切れそうなくらい張りつめてるのが伝わってくる。 たまに下から突き上げるみたいにして押しつけてくるのも、銀ちゃんにあまり余裕がない証拠なのかも。 だけど上目遣いにあたしを見つめてる目はうっすら笑っていて、表情は苦しそうなのにどこか嬉しそうにも見えた。

「ぎんちゃん・・・うれし・・・の・・・?」
「ん。まぁな」
「ど、して・・・?」
「そりゃあ嬉しいだろ、やっとお前にちゅーしたりぎゅーしたり出来てんだから」

客引きやってる間もよー、頭ん中がで一杯だったし。
そうつぶやいた銀ちゃんが、こつん。おでこを軽く押しつけてきて、もどかしそうな溜め息を吐いて。

「何度もイってオチた後の寝顔可愛かったなーとか、早く帰ってまたあの寝顔見てーなぁとか。 抱きしめてーなぁとか、抱きしめたら我慢できなくてヤっちまいそうだなぁとか。俺の着物パジャマ代わりにしてんの、可愛かったなぁとか」
「・・・ほ、んとに・・・?」
「んー?」
「ぁ、んん・・・、ぁ、あたしの、こと、ばっかり・・・?」
「ん、そーそー。なのにお前電話出ねーし・・・マジで焦ったわ」
「・・・っぁ、あぁ・・・ん・・・っ」

伸ばした舌先でちろちろと、耳や首筋を舐められる。 肌を這う濡れた感触の熱さにぼうっとさせられてる頭のすみっこで、聞いたばかりの声が鳴ってる。
(電話出ねーし)
そう口にしたときだけ、銀ちゃんの声は曇ってた。万事屋でもあたしの部屋でも、滅多に聞かない声だった。
・・・・・・そっか、そんなに心配させちゃったんだ。銀ちゃん、本気で心配してくれてたんだ。

「しんぱぃ、で・・・っ、ベラン、ダ、昇って・・・き・・・の・・・?」
「あー、んー。まーな。あん時ぁ頭に血ぃ昇ってて、他の方法なんざ思いつかなかったし」
「ぎんちゃ・・・そんなに、あたしに、むちゅう、なの・・・?」

はぁ、はぁ、って上がりきった呼吸を漏らしながら、途切れ途切れに尋ねてみる。
そしたらなぜか、お尻を撫でてた大きな手がぴたりと止まって。顔を埋めてた首筋から、ふわふわ跳ねまくった癖っ毛頭がむくりと起きて。

「・・・そーだよ。銀さんお前に夢中だよ」

ぎゅっと眉を寄せた顔は、不貞腐れた子供みたいだった。 じとーっとあたしを睨みつけて、かと思えばぷいっとそっぽを向いて。 口を尖らせ気味にして、「んだよ今頃気づいたの、遅せーよ遅すぎ」ってぼそぼそ、ぼそぼそ。
認めたくないことを認めさせられて拗ねてるみたいな、ちょっと怒ってるみたいな・・・なんだろう、あんまり銀ちゃんらしくない、ぎこちない顔してる。 嬉しくてぽーっと見惚れてるうちに、ぱっ、と目の前が暗くなる。 いつのまにか首のほうまで回されていた手が、あたしの後ろ頭をぐっと抑えつけた。 それと同時で、呼吸ごと封じ込めるみたいにして唇を強く押しつけられて。 くちゅ、って水音を鳴らしながら唇を割った、熱くてぬるついたものに侵入される。 瞬きをする間もないような早さで、口内を奥まで埋められて――

「――っん、ふ、ぁ・・・・・・っ」
「お子ちゃまのくせに生意気だよなぁ、この口ぃ。んだよお前、そんなに俺にいじめられてーの」
「は・・・ぅ、ゃ、って、んぅ、っっ、んふ・・・っ」

器用に蠢く舌に深く絡みつかれて、感じやすいところをなぞられる。
くちゅ、くちゅ、って頭の中で反響する水音が、なんだかすごくいやらしい。 だけど舌を絡め合った口内の熱さでそんな恥ずかしさも溶かされていって、頭の中までのぼせ上がって。 舌の裏側までなぞられたら抱えられた腰がびくびく跳ねて、甘い痺れが走り抜けていった背中からへなへな力が抜けていく。
外はどれだけ寒かったんだろう。押しつけられた唇はまだ氷みたいにひんやりしてる。 なのに、強引に唇を割って滑り込んできた舌は燃えそうに熱い。 その舌でぬるりと上顎を撫でられただけで鼻にかかった声が漏れて、背中も腰も震えてしまった。 素早く迫ってきたキスはほんのわずかに離れて、かと思えばまた触れて、また離れて、すぐに触れて ――あたしが受け止めきれないような早さで、何度も繰り返し唇を啄む。何度も繰り返し舌を伸ばして、はぁはぁ喘ぐ口内を撫で回して、くちゅくちゅと舌を絡めてはすっと引いて、なのにあたしが顔を離そうとすると、後ろ頭に回した手に力を籠めて動けないようにして唇を塞ぐ。
これじゃあ息をつく暇もない。もしかしたら銀ちゃん、照れてるのかな。こうやって出来る限り時間を引き延ばして、あたしに表情を見られないようにしてるみたい。
おかしくてくすくす笑ったら、
「おいおい、それはねーんじゃねーの。オッサンにこっ恥ずかしい告白させといて何笑ってんだコノヤロー」
むぎゅうっっ、て馬鹿力全開で頭を抱きしめられる。 ぴったり押しつけられた胸の圧力が苦しくてけほけほ噎せちゃったのに、それでも嬉しくて、嬉しすぎて、広い胸に自分から抱きついてまたくすくす笑ってしまった。

・・・なんだ。そっか。そうなんだ。
あたしだけじゃなかった。同じ。同じなんだ。 ちょっと離れただけで会いたくてたまらなくなったのも、こうしてキスしてるだけで気持ちよくなるのも。あたしだけじゃなくて、銀ちゃんも――

そう思ったら、なぜか泣きたくなってきて。
身体がふわふわ浮き上がりそうなくらいしあわせで嬉しいのに、目の奥がじわあっと熱くなる。 眠る前にさんざん弄られたところが――とっくに蕩けきってるお腹の奥がきゅんって疼いて、満足に呼吸もさせてもらえない喉からは、ふぁ、はぁん…、って甘ったるい響きの喘ぎ声ばかり漏れてくる。 お尻の丸みを撫で回してた手が、もっと奥まで伸びてくる。 きゅっと閉じたやわらかい割れ目へ潜り込んできた指が、熱くてごつごつした先を濡れた入口にぷつりと挿し入れる。 昼間にたくさん弄られたせいで敏感になってるそこは、自分でも判るくらいきつく狭まって震えてた。 くく、って笑った銀ちゃんがほんの少しだけ指先を回せば、お尻から太腿へぬるぬるした感触が滴り落ちる。

「ぁあ、ゆび、ゃん、熱・・・っ」
「お前のほうが熱いって。しかもとろっとろだし、俺の指まで蕩けそー」

色っぽく掠れた声でからかわれたらどきっとして、軽く曲げられた指先が粘膜を擦って上下するたびに腰が跳ねる。 くちゅ、くちゅ、って籠った響きの生々しい音が漏れる。こんな音を鳴らしているのが自分の身体だと思うと、恥ずかしくって泣きたくなる。
だけど引き抜かれるたびに弄られたところがじぃんと痺れて、恥ずかしさも忘れて銀ちゃんに縋って涙声で喘いでしまう。 最初は異物感を感じてた狭い中も、入口を念入りに解そうとする指の高い温度で蕩かされていって――

「あぁ、はぁ、ゃ・・・んっ、んん」
、ここも触っていい」

肌蹴けて肩先に引っかかってるだけになってた着物の衿を掴まれて、一気に腰まで引き下ろされる。
冷たい空気に晒されて粟立った胸が、持ち上げるみたいな手つきで握られて――ふわふわしてやわらかいそこを形を変えながら揉みしだかれたら、腰から首筋までぞくぞくしちゃって止まらない。 たちまちに尖って感じやすくなった薄赤い先を、固い指先で捏ねるみたいにして刺激されて、

「ふぁ、ぁ、やぁっ・・・きゅって、しちゃ、あっ、ゃあ」
「んだよ、触ったらダメなの。じゃあこれは」
「ぇ、――んっ、あ・・・あぁっ」

きつめに掴まれた左の胸を、ぐい、って引っ張られて前のめりに倒れる。
指先で繰り返し弄られてぷくりと膨らんだちいさな先は、あっというまに銀ちゃんの唇に含まれてしまった。 ぬるりとした熱とざらざらした舌の感触で感じやすいところを覆われて、舌を絡めて扱くみたいにちゅうって吸われて。 「あぁん」って声を上げて震え上がったあたしを熱っぽい目で眺めた銀ちゃんは、まるで見せつけるみたいにして赤い舌先でちろちろと弄った。

「はぅ・・・んっ、ぁあん・・・っゃ、み、見な・・・で、みちゃ、やぁ・・・っ」

いやいや、って大きくかぶりを振っても、銀ちゃんは視線を逸らしてくれない。
唾液で濡らされた胸を上下に揺らしてはぁはぁ喘ぐ、あたしの顔に注がれたまま。 きつく歪めた瞼の縁から、羞恥で湧いた涙がこぼれる。 ほっぺたを濡らした生温いしずくがつうっと流れて、銀ちゃんの舌で嬲られてる胸の先まで伝っていく。 ちろちろ、ちろ。尖らせた舌先で繰り返し舐められて痛いくらいに張りつめたそこは、真っ赤に腫れていやらしい。 見ていられないのに目が離せなくてぐすぐす啜り泣いてたら、すこし熱を取り戻し始めた唇にくちゅりと深く飲み込まれた。 その感触だけで腰の奥が疼いて涙がぽろぽろ流れるくらい感じちゃったのに、銀ちゃんの唇と舌は容赦なくあたしを責めてくる。
吸い込んだ先端をざらついたやわらかさで包み込むと、じゅく、じゅく。
唾液を絡めるみたいにして何度も何度も吸い上げて、そうしながら右の膨らみを早い動きで揉みしだく。 ぴん、って尖った蕾を爪先で弾いて、二本の指で摘んで苛める。 あん、あぁっ、って我慢しきれない声を漏らしながら震えてたら、今度は唇が反対の右胸へ移って、手も同じように右から左へ――
左右の胸を口と手で交互に刺激されて、お腹の奥まで熱が回ってじくじく疼く。
意地悪で甘い愛撫に植えつけられたもどかしさは、こらえようとしてもちっともこらえられなかった。 とてもじっとしていられなくて、自分からいやらしいことをおねだりするみたいに、銀ちゃんの太腿に腰をゆるゆると摺りつけて喘いでしまって――

「ぁあ、ぎっっ、ゃあ、おかしく、なっちゃ・・・っ」
「ん、、もっとおかしくなって。もっと甘えて、可愛いとこ見せて」
「ゃ、そこ、吸っちゃ、ぁん・・・・・・あぁ・・・ひ・・・うぅ・・・」
「なぁ、きもちいい。俺に触られて嬉しい?言うとおりに出来たらもっと可愛がってやるから、さみしかったって言ってみな」
「ゃ、やらぁ、いえな、はずか、し・・・ひぅ・・・んっ、あ、ぁ、あぁああっ」

胸から離れた手が背中に回る。 先を回すような動きで粘膜の襞を押しのけてきた長い指が、さっきよりももっと深いところまで届く。 奥までぐちゅっと割り込まれて、欲しがって疼いてるそこを広げながら往復される。 あん、ぁあんって涙声で喘いでるあたしの視界の真下で――開かされた脚の間で動く、銀ちゃんの手のひらが濡れていく。 長い指に透明な蜜がとろとろ滴る。 じゅぷじゅぷっ、じゅぷ、って耳にもとろりと纏わりついて羞恥を煽るような水音が、公園の明かりでほのかに照らされる部屋に漂ってる。
暖房もつけてない真夜中の部屋。
空気はすっかり冷えきっていて、はぁ、はぁ、って息苦しそうに短く漏らす銀ちゃんの吐息が目の前を白く霞ませてる。
腕に薄い着物を纏わりつかせてるだけの身体は肌が冷えて全身がぞくぞくしてるけど、脱がされた寒さで震えてるのか、潤みきった中を刺激される快感で震えてるのか、もう自分でもどっちなのかわからない。
だけど――熱い。押し込まれた太い感触が、すごく熱い。 あたしの身体、どうしてこんなに敏感になってるんだろう。
熱が上がってぼうっとしてるはずなのに。感覚だって鈍るはずなのに。いつもよりずっと生々しく鮮明に、銀ちゃんの指のかたちを感じちゃう。 ごつごつしてる爪先の硬さや、関節の太さまではっきりわかる。あたしの中で、動いてる。 奥から溢れる雫を掻き出すみたいにして、好きな人に触れられる気持ちよさに痺れきったやわらかい中で蠢いてる。
ずるりとゆっくり引き抜かれたら身体の力がくたりと抜けて、なのにその次の瞬間、もっと奥まで指先をぶつけるみたいにして埋め込まれて――

「ぁあっ!あっ、っぁあん、あぁ・・・〜〜〜っ!」

じゅぷじゅぷと激しく突き上げる指の動きを感じてるそこが、きゅううっ、って蕩けた粘膜を縮めて震える。
はしたないくらい感じてる自分の身体が恥ずかしい。 なのにどうしようもなくきもちよくて、長い指を根元まで締めつけながら達してしまった。
唇が震えて止まらない。喘いでばかりいた喉はからからで、啜り泣く声まで掠れてる。 目はうっすらと開いてるのに何も見えない。ぽろぽろ溢れて止まらない涙で視界が溶けて、真っ暗な水の中にいるみたい。
胸元をざわざわくすぐってるまっしろな頭まで、そのうちに涙に隠れて見えなくなりそう――
こわくなってしがみついたら、銀ちゃんはまるで宝物にでも触れるみたいに濡れた目許をそうっと舐めた。

「ほら、恥ずかしくねーから教えて。銀さんいなくてさみしかった?」
「・・・・・・っ」

何も言えずにはぁはぁ喘ぐあたしの返事を乞うみたいに、ちゅ、ちゅ、ってほっぺたや首筋、鎖骨や胸の谷間にも顔を埋めてキスしてくる。 唇が這った後に沿って、冷えきった肌にはほんのり赤い口づけの痕がいくつも残った。
ぐちゅぐちゅとすこし乱暴なくらいに中を往復してる指が、燃えそうに熱い。その熱だけで、お腹の奥からどろどろに溶かされちゃいそう。 火照りきってひくひく喘ぐ身体の芯から、泣きたくなるような気持ちよさばかり昇ってくる。 唇を覆って我慢しても喘ぎ声がこらえきれなくて、頭がおかしくなりそうなくらい恥ずかしくて、なのに――もっとしてほしくなる。
、って呼ばれて、睫毛を伏せ気味にした熱っぽい目に見つめられる。 瞳を覆った涙の膜で揺らぐ視線が、こめかみや喉元に汗を光らせてる苦しげな表情に吸い込まれる。

もっと銀ちゃんに触れられたい、抱きしめてほしい、溶かされたい。

・・・でも、だけど。それだけじゃないの。
ただそれだけで終わりじゃなくて、もっと、もっと――もっと欲しいの。
一晩中抱きしめて、甘やかしてほしい。
銀ちゃんがいなかった時間のさみしさも、この部屋で一人で寝込んでた時間のこころぼそくて不安な気持ちも忘れさせてほしい。
そう思っちゃう自分がおかしい。だって、まるで甘えん坊の小さな子供だ。 ふにゃりと崩れた泣き顔を銀ちゃんの胸にくっつけて、くすくす笑って目を閉じる。 ああ、だけど――今まで知らなかったもう一人のあたしは――泣き虫で我儘で感情が剥き出しな子供のあたしは、きっと普段の素直になれないあたしよりずっと正直で。 好きな人に対してひたむきで、普段のあたしよりもうんと可愛い。
さっきから銀ちゃんが欲しがってる答えをようやく見つけられたような気がして、逞しい腕に縋りつく。震える唇をゆっくり開いて――


「・・・・・・ぃったら、いっしょ、に、いてくれるの・・・?」
「へ」
「・・・さみしかったよ、銀ちゃ・・・もぅ、帰っちゃったんだって、おもったら・・・かなしくて、なみだ、とまらなくて・・・っ」
「・・・・・・」
「も、どこにも、いかなぃ・・・?ずっといっしょに、いてくれる・・・?」

熱が集まって真っ赤になってる顔を見られたくない。
おろおろしながらうつむいて、目の前の胸に抱きついた。筋肉が薄く張りつめたそこにほっぺたをぴとっとくっつけて、蚊の鳴くような声でぽそぽそつぶやく。
すると頭のてっぺんに、あったかい感触を押しつけられて。 そこにキスされたって気付いた途端に、頭ごとがしっと抱きしめられて、

「んむっ、ぎっ、銀ちゃあ、くるしぃ、ちょっ」
「っとに今日は素直だよなぁ・・・なにこれ可愛すぎんだろ」

呆れてるのか感心してるのかよくわかんない口調で、溜め息混じりに銀ちゃんが囁く。
耳に直に注がれた甘い言葉のせいであたしが全身真っ赤になってたら、
「あーあーもぉ、っだよ銀さん今日は昼からめちゃくちゃ我慢してんのによ〜〜、・・・なにこの子、何の拷問だよぉ」
困ったような声を漏らしながら、ぐりぐり、ぐりぐり。頭をがちっと押さえられて、思いきりおでこを押しつけられる。 まるで猫とか犬を撫でるみたいな無造作な手つきで、髪ををくしゃくしゃに掻き乱されて。

「・・・ー。ちゃーん、わかってる。お前さぁ、自分が何したかわかってる」
「な、何したって・・・??え、えぇ、なっっ、ええ???」

何が何だかわかんなくて肩を竦めてあわあわしてるうちに、あたしの倍は太い腕に、ぎゅ、って思いきり抱きしめられる。 途端にふぁ、って胸から押し出された吐息が漏れたら、もっと強く抱きしめられて。

「・・・・・・あのさー、今のうちに謝っとくけど。俺、今日はがっつくよ。余裕ねーし優しくできねーよ」
「ぇ・・・ぎ、ん・・・――っ」

ぼそぼそぼそぼそ、なんだかちょっと怒ってるような口調で銀ちゃんがつぶやく。
腰に回った片腕にぐっと抱え直されたと思ったら、まるであたしに食らいつこうとするような勢いでがばっと襲いかかってきた。
舌をぐちゃぐちゃに絡められる深いキスばかり繰り返されて、蕩けきってる頭の中まで混ぜ返されるような激しさに、くらくらくらくら、めまいがして――
「・・・つか、嫌だから帰れって言われても帰んねーけど」
キスの合間に顔を上げた銀ちゃんは、目許がうっすら染まってた。
すごく色っぽい顔してる。はぁ、はぁ、って濡れた唇から漏れる呼吸も艶めかしくて、でも、いつになく苦しそう。 荒い呼吸を繰り返す唇で首筋や胸にも吸いつきながら、ごそごそ、ごそ。 乱暴な手つきでズボンのジッパーを下げて中の下着もずり下ろして、あっというまにあたしを腰から抱え上げる。 唐突な浮遊感にびっくりして銀ちゃんにぎゅっとしがみつけば、急にがくんと下ろされて。 それと同時で脚を大きく開かされて、隠すものもなく広げられたそこにぐちゅりと熱を押しつけられる。あんっ、って叫んだあたしが腰を浮かせて仰け反っても、
――ずぶずぶっっ、ぐちゅっっっ。
お腹にくっつくくらい反り上がった先端で、とろとろに蕩けて狭まったそこを勢い任せに貫いて――

「――っっぁああ!」
「っあ・・・すげーわお前、やべぇ、・・・・・・・きもちい・・・っ」
「あっっ、ぎっ・・・!っっひ、ぁあああああんっっ」

何が起こったのかもわからないうちにお腹の奥まで埋められて、最後にずんっっ、って激しく内蔵に叩きつけられる。 狂ったような甲高い悲鳴が、真っ暗な部屋に甲高く響く。それが自分の声だって気付いたときには、手足の先まで甘い痺れが駆け巡ってた。
がしっと両腕で抱きしめられて、どくどくと心臓が脈打ってる胸や、奥まで繋がって火照りきってるお腹や腰まで密着する。 腰を掴んだ銀ちゃんの手が、あたしの身体を上下に大きく揺さぶり始める。 そのたびに先端まで抜け出るものにずるりと擦られて、強すぎる快感が突き抜けた身体が声も出せずに仰け反って。 雫がたらたらと滴る腰をがくがく震わせて涙をこぼせば、掴んだ腰をぐいと乱暴に引き戻されて――

「〜〜〜ぁあああっっっ!」

ずんっっ、って一息にお腹を貫く熱くて鈍い衝撃が、頭の天辺まで突き抜ける。
ぶわりと溢れた涙で目の前が溶ける。 お腹の奥を突き上げられた衝撃のせいで呼吸が止まる。身体の奥でびくびく疼いてる熱の塊を感じてるだけでおかしくなりそう。 なのに間を置かずにもう一度、ずんって同じところに打ちつけられたから、お腹の中で暴れてるものの動きや熱い重みに身体中の感覚が集中してしまう。
身体の力が抜けていく。がくりと脱力した腕が人形みたいにだらりと垂れて、銀ちゃんの太腿まで滑り落ちる。

「ああっっ、ゃんっ、ゃらあ、っっ、んな、はげし・・・めぇっ、あっ、あっ、ああぁ、あぁああっっ!」

唇は半開きのままわなわな震えて、短く途切れる悲鳴みたいな声しか出せない。 腫れぼったくなった瞼からこぼれ落ちた涙の粒が、ひっきりなしにほっぺたを転がる。 根元まで銀ちゃんを飲み込まされたそこは、きゅううっっ、って疼いて痙攣したみたいに震えてる。
――あぁ、知ってる。この感覚は知ってる。あたしの身体がおかしくなっちゃった時の感覚。 挿れられただけで気持ちよくなって銀ちゃんをきつく締めつけて、何をされて感じちゃってイきっ放しになっちゃうときと同じ。 こんなに締めつけてるんだから、きっと銀ちゃんだってわかってる。 それでもあたしを羽交い絞めにしてる男の人のがっしりした身体は動きを止めてくれなくて、腰を大きく跳ね上がらせては深い抽挿を送り込んでくる。
あたしの乱れた息遣いも狂ったみたいな甲高い悲鳴も、ちっとも聞こえてないみたい。
ときどき低く呻きながらぐっと歯を食い縛って、何かに取り憑かれてるような夢中さで腰のくびれを鷲掴みにして、ぐちゅぐちゅとずぶずぶと、下からいいように突き上げてくる。 蕩けきって蜜を滴らせてるそこから押し寄せてくる快感の波に、あっというまに浚われる。 ずんっ、ずんってお腹が破れそうなくらい激しく突かれる。
休む間もなくひたすら腰を打ちつけられたら苦しくて、なのに、何もかも忘れちゃいそうになるくらいに気持ちがよくて。 いつのまにか溢れた涙がぽろぽろこぼれて胸まで濡らして、口端からはつぅっと唾液が伝って――あたしは燃えそうに熱くなった頭を銀ちゃんの胸に擦りつけながら、上下にがくがくと揺さぶられ続けた。

「〜〜〜っひ、ぁんっ、ぁあ、あっっ、〜〜〜っっっ!!」

速い律動で突き上げられて、ずるりと大きく引き抜かれる。
悲鳴を上げて身体を捩るけど銀ちゃんは許してくれなくて、逞しい両腕に引き下ろされる。今にも爆ぜそうなほど張りつめた熱に、息が止まりそうな激しさで貫かれる。
衝撃で埋め尽くされたそこからせり上がってくる快感は、頭の中まで真っ白にしてしまうくらいに強烈。 強烈すぎて喘ぎ声すら出せない。呼吸だって上手くできない。 苦しくって涙が出るし、そのうちに頭も身体も壊されちゃいそうでこわい。初めて知った銀ちゃんの激しさも、少しこわい。
――こんな銀ちゃん、初めてだ。
いつもならゆっくり動いて焦らしたり、かと思えば打って変わって激しくしたり――銀ちゃんはあたしがついていけないような緩急をつけて、焦らしながら楽しんでる。 まるでおもちゃで遊ぶみたいに。可愛がってるものを手の中で撫でて甘やかして、たまにはいじめて泣かせたりして、あたしの反応を喜んでる。
だけど――今日は違ってる。夢中であたしを貪ってる。
あたしを気持ちよくさせることも忘れて、ただ自分の気持ちよさだけに貪欲になって、荒々しく叩きつけて。
時折あたしに火照りきった視線を投げかけてくるあの目には、息苦しそうに唇をきつく噛んだあの表情には、いつもの銀ちゃんが見せてる憎たらしい余裕なんてどこにもない。 まるで一秒でも早く昇り詰めて、どろどろに蕩けた中で果てることしか頭になさそうな動きで、痺れきって今にも達してしまいそうなあたしをひたすらに責め上げて――

「っゃ、あぁっっ、〜〜〜だめぇ、銀ちゃあ、ひ、っっあ」
・・・あいしてる・・・っ」
「〜〜ぁあんっっ、・・・ゃん、やらぁ、ぃ・・・っちゃうぅっっ」

いつもは擦られないようなところにも硬い先端をぶつけられて、知らない感覚を押し込まれた腰ががくがく震える。 何の遠慮も気遣いもなくて、獣みたいに獰猛な律動。ぐちゅぐちゅとめちゃくちゃに、抉るみたいに乱暴に突かれる。
上下に大きく揺さぶってくる腰の動きに振り落とされてしまわないように、震えが止まらない両腕を首に回してしがみつくだけで精一杯で。 いちばん奥を――お腹の底を突かれたら疼いてたまらなくなって、焼けた杭みたいに熱くなったもので埋め尽くされた中が、きゅうぅぅっっ、て銀ちゃんを締めつける。
自分じゃどうにもできないその動きのせいで、蕩けた粘膜の壁が奥までざわめいて、手足の先まで痺れて反って。
っっ、って呻いた銀ちゃんが奥歯をきつく噛み締める。 抱きついた身体がぶるっと震えて、強張った腕に腰を押さえつけられて、

、このまま・・・なぁ、いーだろ」

荒い呼吸の合間に漏れた声が、ひび割れて掠れた低い響きで懇願してくる。
だめだよ。だめ。そんなことしちゃ、だめなのに――
そう言いたくても喉が嗄れちゃって、声なんて出ない。かぶりを振りながら背筋を反らして腰を捩るけど、力強い腕はびくともしない。 ずんっっっ、ってお腹の底を鋭く突かれて、銀ちゃんの熱で犯されてるそこから息が止まりそうなくらいに強い快感がせり上がってきて――


「――っっあ、も・・・出る――っ」
「〜〜〜あっ、あぁっ、あぁあああぁぁ・・・っ!」


全身を縛る甘くて苦しい気持ちよさにあっという間に満たされて、まっくらな視界を白い光で染め上げられる。
離れるな、って言いたげに銀ちゃんに腰を押しつけられて、頭も背中も仰け反らせてがくがくと震える。
あたしの奥をぐちゅりと押し上げてるものの先が、どくんっ、って猛々しく脈打って、もっと奥まで入りたそうにやわらかいそこを押し込まれて――

「あ、あぁっやぁ、ぁあ・・・!」
「――っっく、・・・・・・っあ・・・!」
「ぁっ、ぁあ・・・あついの、ゃらあ、ぎんちゃあ、だめぇ・・・・・・〜〜〜っ」

どぷりと熱を注ぎ込まれる感覚が、いつもよりはっきりお腹に響く。
熱い。熱いよ。やだ。銀ちゃん、熱い――
うわ言みたいにそう漏らしながら、ひっく、ひっくって泣きじゃくってた唇を強引に奪われる。
割り込んできた熱い舌に喉の奥まで絡みつかれて、息苦しさに喘ぐ口内を、銀ちゃんが埋めてる中と同じように激しく掻き混ぜられる。 つうっと透明な糸を引きながら唇がわずかに離れたら、くらりと揺れた銀ちゃんの表情が潤んでじわりと暗闇に溶け出していく。
まだ――まだ終わらない。止まってくれない。
まだお腹の奥が、銀ちゃんでいっぱいにされたところがびくびくしてる。
まだどくどくと迸ってる、熱いものの勢いがようやく止む。長い長い絶頂で疲れきったあたしの身体は、背中から抱きしめてくれる腕の中にぐったりと沈んだ。 どくどく暴れる心臓の音とお腹を満たした快感の余韻が納まってから、泣き腫らした目で見上げたら、
――そこにいるのは、いつもの銀ちゃんとはどこか違う銀ちゃんで。
瞳の奥に熱を滾らせた目が、あたしを見つめて光ってる。 見慣れない目つきがちょっと怖くてびくんと肩を竦めたら、睫毛を伏せた艶めかしい表情が声もなく笑う。 気怠そうな吐息をはぁっと、白く漏らして、

「お前さぁ・・・あんだけ男煽っといて無事でいられるとか思うなよ」

嫌だなんて言わせないような凄味のある声でつぶやくと、赤い舌先が濡れた唇をゆっくり舐める。
服や法被が乱雑に脱ぎ捨てられた、冷たい床に組み敷かれる。 背中が床にぶつかる痛みも感じなくなるほど激しい抜き挿しで揺さぶられて、高熱に冒されて朦朧としてる頭の中は、こらえきれなくて泣き叫んじゃうような気持ちよさと銀ちゃんの熱で一杯にされた。




「猛毒いちごシロップ #5」
title: alkalism http://girl.fem.jp/ism/
text *riliri Caramelization  2015/12/23/       next →