「――っあ、は・・・・・・ぁん、あっ、あぁっ、あぁあ・・・っ」
パジャマも下着も全部剥ぎ取られた熱い場所から、また生温いものがとろりと溢れた。
長い指を二本も含まされて喘ぐ身体は、弱いところばかりくちゅくちゅと弄られ続けてぐったりしてる。
こんな自分を見られてる恥ずかしさまで忘れさせられてしまうくらい、頭も身体もすごく熱くてとろけきってる。
どろどろに溶けて流れていっちゃいそうな身体の中で、お布団に擦れてる背中だけがぞくぞくして寒い。
はぁはぁ乱れる呼吸に合わせて、上下に揺れてる胸の膨らみのすぐ向こう。
大きく開いた脚の間に顔を埋めてる、白っぽい頭が目に入る。でも、お腹をざわざわくすぐってる髪の先にすら手が届かない。
腕が、肩が、思うように動かせない。
さっき銀ちゃんが脱いだ男物の着物。
なめらかな白地は腰をくねらせるたびに纏わりついてきて、まるでやんわり縛られてるみたいだ。
「やんっ。めぇ、それ、だめぇ、あぁ、あっ、ひ、ぁあん」
荒い吐息を漏らしながら、銀ちゃんが唇を押しつけてくる。
熱い舌で弄られ続けて膨れ上がったところに、ちゅ、ちゅ。何度も軽く啄まれて、かと思えば舌先で挟みつけてきつく吸われる。
ごつごつした指の腹は弱いところから離れなくて、早い動きでぐちゅぐちゅ押される。
押されるたびに腰が跳ねてどんどん全身が痺れていって、高く担がれた両脚が爪先までぴんと反り上がって、
「っ、ゃっっ、ぁ、あ、あっああぁ・・・っ!」
付け根まで飲み込まされた指の先が、深いところをぐっと突く。
そのうえぐにゅりと回すような動きで押し込まれて、びくびくと全身を跳ねさせながらイってしまった。
なかなか消えない気持ちよさの余韻に髪を振り乱して背筋を反らせば、敏感になった胸の先が着物に擦れてじんじんする。
一度達して緩みかけた中が、もう一度銀ちゃんの指を締めつける。
硬くて太くてごつごつした、あたしのそれとはぜんぜん違う男の人の指。
その感触を中全体で感じたら、繰り返しいじられて蕩けきってるそこが震えて、生温いものをとろとろこぼして。
全身が苦しくなるようなきもちよさに、あっという間に呑まれていく。
――あぁ、目が眩む。息がつけない。
またイっちゃう。銀ちゃんの指、動いてないのに。
さっきイったばかりなのに。さっきだけじゃなくて、もう何度も繰り返してるのに。
なのにまた、中を埋めた指の熱さや感触を意識するだけで奥から疼いて――
「っあ、ぎっ、ゃあ、またっ、ぁ、ああ、ぁああああっ」
「・・・あーあー、やべーってお前。なにこれ」
「〜〜っっ。・・・ゃぁ、も、むりぃ、ゆび、ぬいてぇ・・・っ、はぁ、はぁっ」
「いやまぁ被せたの俺だけどー。なにこれ、何のプレイ」
掠れた声で呆れ気味に漏らすと、銀ちゃんはようやく指を抜いてくれた。
あたしの両脇に腕を突いて、むくりと上半身を起こす。
荒い呼吸で小刻みに揺れる胸にも、くっきり割れた腹筋にも、分厚い肩や喉元にも――
目の前で影を作ってる引き締まった身体のどこでも、うっすらと汗が光ってた。
いつも着ている黒いインナーは脱いじゃってるのに、発熱してるあたしよりもうんと暑そうだ。
ぼうっと銀ちゃんを見上げてたあたしと目が合うと、大粒のしずくが伝う眉間を寄せてせつなそうな溜め息をつく。
自分の着物が巻きついてるあたしの身体を、上から下までしげしげと眺めて、
「なにこれやべぇって、緊縛プレイ?ソフトSM?」
「ふぇえ・・・?」
「いやだからこれな、これ」
ものすごく呆れきってるような半目顔が、指先がとろりとふやけた右の手で自分の着物を摘まみ上げる。
どうやら「プレイ」なんて言われちゃったのは、銀ちゃんの着物でぐるぐる巻きにされてる今のあたしの不自然で窮屈なポーズのことみたいだ。
・・・そっか、そうなんだ。自分じゃわからないけど、これってそんなふうに見えるんだ。
でも、言われてみればそうなのかも。
何をどうしてこうなっちゃったのか、袖が絡みついた右腕は背中のほうへ巻き込まれてベッドとの間に挟まれてる。
左手は自由に動かせるけど、肩はまるでラップでも巻かれたみたいにぴっちりと着物地で拘束されてる。
残りの着物地はそこから胸とお腹を少しだけ覆いながら下へ流れて、腰に巻きついて太腿に絡んで
――なまじ男物の着物で大きいだけに、まるで包帯でも巻かれてるみたいな、変なかんじに縛り上げられてた。
「・・・そーいえば。銀ちゃんこの前、こんなビデオ見てなかった・・・?」
「へ?」
「夜中に見てたじゃん、えっちなビデオ・・・包帯でぐるぐる巻きにされた綾波コスのお姉さんが出てくるやつ」
「あーあれな。生き残ったシンジくんが綾波とアスカと三人で人類補完計画しちゃうやつな。
そーそーあれがよー、あの綾波役の姉ちゃんと身体つき似てっから5回くれー見・・・、」
なんて聞いてもいないことまで言いかけたのに、銀ちゃんは途中で口を噤む。
ちろ、ってなんだか恨めしそうな目であたしを眺めて、それから頭をぼりぼり掻いて、
「いやいやAVの話はどーでもいーって。とにかくこのグルグル解いてやっから、ちょっと腰浮かしてみな」
「えー・・・やだ。このままでいい」
「へ、いいの」
「うん。いいの。脱ぎたくない。これ、銀ちゃんのにおいするし・・・」
肩のところをきつめにラッピングしてる生地を引いて、顔を半分埋めてみる。
そんなに厚い生地じゃないから冷えた空気が入り込んですーすーするけど、さらさらした肌触りは気持ちいい。
それに顔を近づければ銀ちゃんの匂いがするから、こうしてくるまれてるだけで銀ちゃんに抱っこされてるみたいで安心する。
・・・変なの。片思いしてたときは、銀ちゃんの匂いがするくらい近くに寄るとそれだけで心臓がどきどきして苦しかったんだけどな。
なのに、今は――どきどきするのは変わらないけど、どきどきする以上にほっとする。
ずっとこうしていたいなぁとか、ここから離れたくないなぁって思っちゃう。
すぅ、て息を吸い込めば嬉しくて、自然と顔がふにゃりと緩む。
「そうだ、今日はこれ着て寝ようかな。もう銀ちゃんには返してあげないからね」
なんてふざけて笑ってみせたら、真上で影を作ってる顔はきょとんと目を見開いてた。
かと思えば離れ気味な眉をぎゅーっと寄せて、ぷいっとそっぽを向いちゃった。
銀ちゃんたらどうしたんだろ、なんだかむず痒そうっていうか、はがゆそうな顔してる。
汗が滴る喉のあたりをぼりぼりぼりぼり、大きな手が引っ掻きっぱなしで止まらない。
「・・・ちょっ。やめてくれるそーいう顔すんの」
やりきれなさそうな溜め息をつくと、銀ちゃんはあたしのほっぺたを摘む。むにゅーっ、って強めに引っ張ってくる。
銀ちゃん、また呆れたような顔してる。唇が不満そうにひん曲がってる。しかも溜め息までついてたよ。
もしかしてあたし、責められてる?さっきからこんな顔ばっかされてるよね・・・?
「銀ちゃん、もしかして怒ってる」
「怒ってねーよ、むしろ逆だよ」
「逆・・・?」
「いやかわいーけど。なんかもう飛びついて無茶苦茶にしてーくれーかわいーけど。
今はダメだって、今それやられるとキツいんだって」
「・・・?」
熱と涙で潤みきってるせいでぼんやりしてる目で見つめ返す。
キツいって、何がキツいんだろう。高熱で頭が回ってないせいかな、意味がよくわかんないよ。
それでも銀ちゃんのことばかり考えてしまうあたしの頭は「かわいい」って言われたことだけはしっかり理解していて、着物で覆われた耳までかぁっと熱くなった。
銀ちゃんの手が脚に伸びてきて、太腿を持ち上げて布地を解く。
「冷えちまったな、足」
持ち上げられた太腿の内側は粘液でとろりと濡れていて、そこに唇を落とされる。
ぺろ、って舌で舐め上げられて、濡れた肌はそのままぺろぺろと舐めつくされてしまった。
舌の感触を感じるたびに、んんっ、って噛みしめた唇から声がこぼれる。
ざらついた熱さになぞられた肌がぶるぶる震えて、きもちよさをこらえた爪先もきゅうっと縮んで震え上がった。
それを目にした銀ちゃんが、ほんのちょっと表情を曇らせる。解いた着物をあたしの脚に掛けながら、
「わりぃ、やっぱこれ一枚じゃ寒みーよな。大丈夫」
「んん、さむい・・・ずっと、背中、ぞくぞくして・・っ」
震える声で答えたら、たちまちに銀ちゃんの眉がへなぁっと下がる。
なんだか心配そうな顔だ。大きな手がおでこに伸びてきて、手のひらを弱めに押し当てられる。
肌から伝わってくるあたしの熱は、銀ちゃんの予想以上に高かったみたい。
自由気ままに跳ねまくった前髪の影からあたしを見つめる目の色が、困りきったように曇っていく。
めずらしく反省してるっぽいその表情が意外すぎてまじまじと見つめてるうちに、あたしまでじわじわ顔つきが曇ってしまった。
・・・いいのに。そこまで気にすることないのに。だってあたし、ちっとも嫌じゃなかった。だから銀ちゃん、そんな顔しなくていいのに。
「・・・いま、わるいことしたなぁとか、思ってる・・・?」
「・・・。や。あれだわ。いや、まぁ、悪りーっつーか、・・・」
やっぱり悪かったって思ってるみたい。
だって銀ちゃん、眉が下がったまんまだし。気まずそうに目なんか逸らして、頭ぼりぼり掻き始めたし。
どんな時でも憎たらしいくらいよく回るあの減らず口が、途中でもごもご口籠ってしまいには黙りこくっちゃったし。
ああどうしよう。あれは完全に気にしてるよ。
あたしがえっち初心者で慣れてないのをいいことに、普段は一方的にやりたい放題な銀ちゃんだ。
たまにはこんなかんじで反省してくれたほうが、今後のためにはいいんだろうけど。
・・・・・・でも――
「じゃあ、だっこして」
「――へ?」
「だっこ。さむいから、あっためて・・・」
恥ずかしいからついもじもじと腰を揺らしてしまったけど、唯一動ける左手で銀ちゃんの腕を掴んでおねだりした。
こういうことって、普段はめったに言わないんだけど・・・なんだか言いたくなっちゃったんだよね。
ヘコんじゃった銀ちゃんを、ちょっとだけ慰めてあげたかったから。
それに――この寒気を口実にしたら、甘え下手なあたしでも素直に銀ちゃんに甘えられそうな気がしたから。
・・・うん、今のはわりと自然だったよね。あたしにしてはうまく言えたよね。
自分からおねだりなんて慣れてないからきっとぎこちない顔してただろうけど、まあまあ自然に甘えられたんじゃないかな。
なんて心の中で自画自賛して、それでもちょっと照れながらそわそわと銀ちゃんを見上げてみる。
なのに――目に飛び込んできたのは、期待してたのとはまるで違う反応だった。
「えっ、ちょっ。・・・どーしたの銀ちゃん」
なんで、どーして?こっちを向いた銀ちゃんの全身が、なぜかかちんと固まってる。
何かものすごいショックを受けて、動けなくなってるみたい。
表情はどっちかといえば無表情なのにいつも半開きでやる気も生気も見せないあの目がかあああっって開眼、しかも白目が血走ってるからちょっとこわい。
銀ちゃん、ってもう一度声を掛けようとした直前にあたしの胸に突っ伏して、ぶるぶるぶるぶる震え始めた。
「・・・もしかして、銀ちゃんもさむいの?どうしよう、やっぱり風邪うつっちゃった?もう熱でたの」
「いや熱っておま・・・いやだからちげーって熱どころの話じゃねーって。
っつーかあのほらあれだよあれ今のあれでただでさえ煮え滾ってた銀さんのマグマが一気にドカンと大噴火・・・っっって、
〜〜ぁあああっっっだよこの子はどーしてこぅ・・・・・・ぅがあぁあぁああああああ!!!」
突拍子もなく上がった雄叫びと同時で、大きな身体ががばっと飛び退く。
ベッドがぐらぐら激しく揺れて、あたしの身体もクッションも枕も上下にぐらぐら激しく弾む。
唐突な激震状態に目をぱちくりさせてた間、銀ちゃんはベッドのすみっこで頭をわっしわし掻き毟ってた。
近くに転がってたアンティーク風なブルーグレーのベルベットのクッションを、がしっっ。
破裂させそうな握力で引っ掴んで、ぼすぼすぼすっ、どかどかどかどかっっ、なぜか全力で殴り始めて、
「なっ、何なの、どーしたの・・・!?」
「っあぁあああぁぁ!!いやちょっっっ待てって、待ってちゃんそれやめて!」
「は?」
やめろって、何を?
銀ちゃん、意味わかんないよ。寒いから抱っこしてってお願いしただけだよ。
少なくとも、銀ちゃんにそこまで暴れられるようなことした覚えはないんだけど・・・?
それでも目も口もぽかんと開ききった顔で、言われたとおりにしばらく待ってみる。
だけど――10秒、20秒、30秒、40秒――いくら待っても謎の破壊衝動はおさまらないみたいだ。
そのうちすっかり呆れきったあたしは、肩だけ起こして頭を上げた。
何の罪もないクッションをどかすかばかすか、妙に前のめりな姿勢で脚の間に挟みつけて全力で高速タコ殴りしてる背中を見つめる。
というか、一心不乱にクッションを殴る姿がこわすぎて見つめる以外に何もできない。
何なの、銀ちゃんたらどんだけそのクッションに恨み持ってたの?
・・・いや、いやいやそれよりも、あんまり殴らないでほしいんだけど。
セール品で安かったとはいえ、けっこういいお値段したんだよ。
会社の近所のかわいい雑貨屋さんで見つけた一点物でけっこう気に入ってるんだよ、その破裂寸前のかわいそうなクッション。
「ねぇちょっと、銀ちゃ」
「どぁああああ!!」
「ちょっ、声大きすぎ。ていうかそれ殴りすぎだよー、やめてよ壊れちゃうじゃん」
「っっっだよ全部俺のせい!?がいきなり声掛けっからだろぉぉぉ!!?」
「あぁもう、そんなにきつく握っちゃだめだってば。クッションぱんぱんになってるよ、今にも破裂しそーだよ」
「あぁああああやめてちゃんここでそーいうこと言うのやめてえぇええ!!」
クッションをむぎゅっとお腹に押しつけた格好で、銀ちゃんが一瞬だけこっちを向く。
ちらりと見えた横顔は苦しそうにぜーはー言ってて汗ダラダラで、なぜか顔色まで悪いんだけど・・・?
「銀さん今必死なんだってえぇぇぇ、クッションより銀さんがぱんぱんなんだって今にも破裂しそーなんだってえええぇぇぇ!!」
「は?何言ってんの、人間が破裂するわけないでしょ」
「しますぅぅ!男は破裂するからねっっ、溜まりに溜まると大事な部分がぱーんって破裂するからね!!?」
「・・・?もう銀ちゃんたら、何なのぉ。さっきからわけわかんないよー」
「ぅがあぁあああ!!とにかくやめてっっっ頼むからそのとろーんとした声で話しかけんのやめてええぇぇぇ!今銀さんやべーんだって!
がえっろいポーズで可愛いーこと言うからハートも股間もばきゅーんって撃ち抜かれたんだって!」
「はーと?こかん・・・?」
何なの、撃ち抜かれたってどーいうこと。よくわかんないけど、銀ちゃんたらこの短時間で本格的に熱が頭に回っちゃったみたいだ。
だって言ってることが支離滅裂すぎるもん。ぜんぜん意味わかんないもん。しかも突然喚いたりクッション殴ったり絶叫したり、どう見ても挙動不審だし。
どうしよう、困ったなぁ、って眉を下げて眺めてたら、背中から首筋のほうへ強い寒気が駆け抜けていく。
うぅ、ってあたしは肩を竦めてぶるぶる震え上がって、銀ちゃんの着物を握りしめた。
ああどうしよう。あそこの半裸でクッション殴ってる不審者も相当なヤバさだけど、あたしもいよいよヤバいみたい。本気で寒くなってきちゃった。
寒すぎて唇まで震えてきたよ。歯がかちかち鳴っちゃいそうだよ。
もぞもぞ、もぞもぞ。
まるで着物に縛られた芋虫みたいになってる身体を小さく丸めて、頭もちょっと動かして。
なぜかさっきよりもいっそう前のめり度が増してる背中に、銀ちゃん、て小さく呼びかけて、
「銀ちゃん、ね、こっち来て」
「――っ!?」
「寒いよ、すっごく寒いの。背中がぞくぞくして止まんないの・・・。おねがい銀ちゃん、あっためて。ね、はやくこっち来て・・・?」
最後に甘えたかんじで呼びかけてみる。すると今度は、クッションを頭上に振り上げたポーズで固まっちゃった。
びくりとも動かなくなった背中に注目してたら、じきにそこにだらだらだらだら汗が流れて。
がっちり浮き上がった肩甲骨や太い背筋が、ぶるぶるぶるぶる震え出して、
「何なのぉぉぉっ何だよこれぇぇぇっ、何の試練!?」
裏返った声で唐突に絶叫、振り上げたクッションが床に全力で叩きつけられる。
かわいそうなクッションは天井近くまで高々とバウンドして、ころころころっ。
部屋の隅まで転がっていく丸いかたまりを、あっけにとられて目で追ってたら――いったいどうしちゃったんだろう。
また他のクッションを掴んで脚の間に挟み込んで、「ぐぁああああぁああっ」って苦しそうに呻きながら四つん這いで動き出す。
・・・何なのあれ。銀ちゃんの動きが変なんだけど。キモいんだけど。
まるで海外ドラマに出てくるゾンビだよ。
腕や足腰がひっきりなしにぶるぶるしてる震え混じりの不気味な動きでベッドの足元に這い降りると、クッションをお腹にぎゅっと押し付けた格好でごろごろごろごろ転がって往復。
次はぶるぶる震えながら何かの発作みたいにのたうち回って、かと思えばびくうぅぅっと腰を跳ね上がらせて股間を押さえてじたばた悶絶、さらにクッションごと横方向に転がって窓や壁にどすどす体当たりを繰り返して――
「・・・なに、何なのぉ・・・???よくわかんないけどここ賃貸だからね、部屋壊しちゃだめだからね?ってねぇ、聞いてる」
「〜〜っっだよぉぉ何なのこの子、殺す気?銀さん殺す気!?いやいや落ちつけ俺!つーか俺の俺!
そうそうこーいう時はアレだわ萎えること思い出しゃいーんだわ例えば今朝のゴミ出しでうっかり見ちまった妖怪厚塗りババアのスッピンとかぁあああっっ」
「・・・うん聞いてないよね。だと思ったよ・・・」
ごろごろごろごろ転げ回ってもはや人間ローラー化してる彼氏の笑うに笑えない姿を眺めながら、肩を落として溜め息をつく。
仕方がないから銀ちゃんのことは一旦放置、あたしは自力でこのソフトSMっぽい状態をどうにかしようと身じろぎを始めた。
背中のほうに巻き込まれた右腕と肩を捩ってもぞもぞもぞ、腰も左右にくねらせてもぞもぞもぞ。
ぐるぐる巻きの着物から何とか脱出するつもりだったんだけど、これがなかなか解けてくれない。
それどころかかえって絡みついちゃって、それであわててまた身じろぎしたら、今度は脚の間に布地が割り入ってきて――
「――っあんっ」
いっぱい弄られて感じやすくなってるところをずるりと強く擦り上げられて、甲高い声を上げてしまった。
うわぁ、なに今の声。自分でもびっくりするくらいいやらしかったよ。銀ちゃんにも聞かれちゃった?猛烈な恥ずかしさで顔が赤く染まっていくのを感じながら、ベッドの足元におそるおそる視線を向けてみる。
すると「うがぁあああっっ」とか「んがぁあああ!」とかしきりに呻きまくって暴れてたはずの半裸の奇行種は、なぜかぴたりと動きを止めていて。
うつむき気味な顔だけが、こっちにのろのろと振り返る。
視線が合うと銀ちゃんは、なぜかすごーく恨めしそうな涙目になった。
じとーっとあたしを睨みつけて、うがぁあああ!ってまた叫んで頭を抱えて上下左右にぶんぶん振って、
「〜〜〜あぁあああっっったく何なのお前今日に限ってやめろって!具合悪りーくせに銀さん煽ってどーすんのぉぉ!!?」
「あお・・・?え、あおるって」
何のこと、って尋ねようとしたら、どかどかどかどかっっっ。
さんざん引っ掻き回したせいでもじゃもじゃ感50%増しになった天パ頭を、がんがん床に打ちつけ始める。
真下の部屋にまで響いてそうな音を鳴らして、今にも床がヘコみそうな勢いで・・・!
「!?ぎ、銀ちゃん!??〜〜あぁもうやめてってばぁ、床壊れちゃうぅっっ」
「いや、いやいやいやいや!待て落ちつけ俺頭冷やせって!今日はダメだろ、挿れんのは無理だろ!?
一度ヤったらきっと俺止まんねーし、今ヤりまくったらが死んじまうかもだしっっ」
「――はぁ?」
「どーせ自分が何言ってっかわかってねーもんこの子っ、俺を誘ったつもりなんて100パーねーもん!
あぁああどーするよっ、やめとく?やっちまう??いやいやいやいや、今は熱出てぽーっとしてっけど後で絶対怒られるしぃっっっ」
「はぁあ?な、なにそれ・・・あたしが、誘っ・・・・・・??・・・えっ。えぇえ!?」
ごんっ、ごんごんごんっ、ごんっごっっごっごっ、ごごごごごごごごごごごっっっ。
早い口調でぶつぶつぶつぶつ、銀ちゃんはひとりごとをつぶやきまくる。
口調が早くなるにつれて床への頭突きスピードも加速、床がじわじわめり込んでいく。
・・・ああああぁ、もうだめだ。あんなにヘコんじゃったらもうだめだよ。さようなら、このマンション契約した時に払った家賃二ヶ月分の敷金・・・!
なんてことを思ってがっかりする一方で、銀ちゃんの長いひとりごとのおかげで意味不明な奇行とその原因もようやくじわじわと理解できて、全身がかぁーっとのぼせ上った。
誘うって・・・誘うってつまり――あたしが銀ちゃんにえっちなお誘いをしたってこと??銀ちゃんにはそう見えたってこと?
「〜〜っえええぇ、うそ、ゃだ、ちちっ違うぅぅ!だ、だっこしてとは言ったけどぉ・・・ちがうってばぁ、そんなつもりじゃ・・・!」
芋虫ポーズであたふたと、ベッドの端まで這い寄りながら言い訳する。
だけど、おかしな興奮状態に突入してる銀ちゃんの耳には困ったことに何ひとつ聞こえてなさそう。
ぶつぶつもごもご呻きながら床に頭をごんごんごんごん打ちつけてばかりで、ちっともこっちを見てくれない。
それでもあれこれと言い訳し続けてたら、ようやく顔を上げてくれたんだけど――
「――っっ!!?」
目が合った瞬間に背筋をぞわあぁっと強烈な悪寒が突き抜けて、あたしは声にならない悲鳴を上げた。
やめてよ銀ちゃんこわいよその顔。かあぁぁっと見開いた目が血走ってるよ、ほっぺたも口端も引きつりっぱなしだよ、今にも人を殺しそうな顔だよ!
百歩譲って人殺し呼ばわりは止めるとしても、その顔のまま外に出たら指名手配犯かあぶないお薬の中毒患者に間違われておまわりさんに職質されること請け合いだよ!
…なんてかんじで頭にだだーっと渦巻いた長ーい文句を口に出すような暇すらなかった。
うずくまってた床から一瞬でびよーんっと天井近くまで跳躍、野生動物じみた驚異の身体能力を見せつけながらベッドを揺らして豪快に着地した銀ちゃんは、あたしの肩を馬鹿力全開でがしっと鷲掴みする。
その肩をお布団に押しつけながら仰向けにどさっと組み敷いて、ギラついた目つきでぜーはーぜーはーいってるぶきみな顔がずいっと目の前まで迫ってくる。
・・・・・・なにこれ。もしかしてあたし、今まさに、人生最大のピンチを迎えてるんじゃないの。襲われる?襲われちゃうの?
着物ぐるぐる巻きのおかげで手も足も出ないこの状態でこのケダモノに好き放題されちゃうの!?
・・・なんて思って涙目になって全身ガクブルでおびえてたら、荒い呼吸に肩を揺らしてるケダモノがなぜかベッドに両手ついて、がばっっっ。
いきなり土下座されちゃって、思わず涙も引っ込んだ。何なの、何で土下座?
「おねがいちゃんんんん!一回っ、一回で済ますからちょっとだけ身体貸してっっっっ」
「えぇ?か、貸すって」
「だいじょーぶ今日は無理させねーから銀さん我慢するから挿れねーからっっ」
「は?い、いれっ?」
「この前みてーにお前が寝た後でこっそりアレするか便所で抜くはずだったんだけどよー、ダメだわもう限界だわ!」
焦った顔の銀ちゃんにがばぁっと抱え上げられて、驚く間もなくふわあっと身体が宙に浮く。
片手で引っ掴んだお布団を、ばっっ。高々と捲り上げたその中にあたしごと素早く潜り込んで、
「すぐ終わらせっから我慢して。嫌だったら目ぇ閉じてていーから!」
「え?えぇぇ?ぎ、銀ちゃ」
「いやいや待てってだめだろこのままやったらだめだろ、の身体冷えちまうし」
なんてやけに切羽詰まった口調でぶつぶつ言いながら、あたしをころんと仰向けに転がす。
ばばっとお布団を頭まで引っ被るから途端に周りが薄暗くなって、
「脚閉じて。膝曲げて」
「え?ええ?な、なに、えええっっ??」
なんてあわてて口籠ってるうちに、少し隙間があった太腿をぐっと強めにくっつけられる。膝頭が胸の膨らみを押し上げるくらい、両足を深く曲げられる。
服どころか、下着も何も着けてない状態だ。
これが真上の銀ちゃんにどう見えてるのかを考えると死ぬほど恥ずかしいポーズなんだけど、あたしはなぜか逆らう気も暴れて拒む気も起きなくて、自分の身体を好き勝手に動かしちゃう大きな手をぽかんと見つめてしまってた。
謎の土下座までした銀ちゃんの勢いに呑まれちゃってるせいか、それとも熱が上がってぼうっとしてるせいなのか――恥ずかしいポーズに対する抵抗感がどこかへ吹き飛んじゃってるみたいだ。
がさごそがさごそ、もぞもぞもぞ。
その間に銀ちゃんは姿勢を変えながら何かもぞもぞ手を動かして、膝を立てた格好でずずっと迫ってきて。
すると、あたしのお尻が銀ちゃんの太腿に乗り上げる至近距離が完成。
くっつけた両膝を余裕のない手つきで掴まれたと思ったら、ぴったり閉じた太腿の裏側から、ぐ、って熱いものを押しつけられて――
「え、ぇえ?ぎっ、なっっ、〜〜〜〜〜っっっ!?」
「ん・・・――っ」
苦しそうで艶めかしい吐息をあたしの膝頭に吹きかけながら、銀ちゃんは閉じた太腿を割るようにして挿し込んできた。
突然目の前に突き出されたそれは、お布団の中で薄暗いとはいえはっきり視えた。
張りつめた先がもう濡れてる。がちがちになっててすごく熱くて、どくどくと早く脈が鳴ってる。
太腿の間に感じる感触は先から根元までどこも硬くて、もし脚の間から引き抜いたらすぐに腹筋にくっつきそうなくらい勃ち上がってる。
お付き合い初心者には見た目も感触も生々しすぎて、直視しただけでびっくりして息が止まるような状態だ。
そんな状態を間近で見ちゃって、全身竦めて真っ赤になって絶句したら、あ、って銀ちゃんが何か思い出したみたいにつぶやいて、
「そーいやぁアレもうねーんだっけ、こないだ使い切ったんだっけ。まぁいっか、挿れねーし」
「へ?ぇっ、銀ちゃ」
「脚もっと閉じて。そんでここ、もっと力入れて。挟んで、ぎゅっと」
「えっ、ぎゅって、なっ――っゃあ、んっ、〜〜っ!?」
言うが早いが銀ちゃんは腰を前後に動かし始めて、あたしの腰を左右から掴む。
そのままお尻を抱え上げられたら、閉じた太腿に挟まれた先端がずるりと下のほうへ滑り落ちていって――
「あぁっ!」
熱くてとろとろに潤んだ割れ目に、ぐちゅ、ぐちゅっ。
今にも弾けそうなくらい膨らんだ塊を着物の布地越しに押しつけられて、足先が宙に跳ね上がる。
でも、ほんのすこし入口を広げられただけ。真上でぐっと唇を噛んで息を詰めてる銀ちゃんは、それ以上は入ってこようとしない。
なのに弱い電流を流されてるような痺れが何度も身体の芯を走り抜けて、がっちり抱えられて動けない腰が逞しい腕の中でぶるぶる震える。
「っは・・・ぅ、ゃあ・・・ぎん、ちゃあ、ぁっ、そこ、ゃあ、ひぁっっ」
ずる、ずるって濡れた音が部屋中にいやらしく鳴り響く。
銀ちゃんの手があたしの腰をもっと高く掴み上げて、いちばん敏感な小さな芽まで深く強めに引きずられる。
それだけで頭の中まで痺れきって、我を忘れた悲鳴みたいな声が乾いた喉を突き抜ける。
思わずぎゅっときつく瞑った瞼の端に涙の粒が膨らんで、ぽろぽろとこめかみを伝って落ちて――
「ひぅ、あぁ、銀ちゃ、の、あたっ・・・ぁんっ、やっ、やめてぇ、擦れちゃうぅ、やぁ・・・!」
腰をがっちり固定してる手に、震える指を伸ばして縋る。
それでも銀ちゃんは夢中で動いて、あたしのおねがいなんて聞き入れてくれない。
ずっ、ずっっ、と濡れた音を立てて、内腿がひたすらに擦り上げられる。
さっき銀ちゃんは、あたしの身体を「貸して」なんて言っていた。
あれを聞いたときに、なんだか自分が物扱いされてるような気がしたけど――ほんとにそのとおりになっちゃってる。
これじゃあたし、まるで道具みたい。
頭の中に浮かんだのは、かぶき町の暗くてあやしい裏通りにある、えっちなことをするための道具を売ってるお店。
酔っ払った銀ちゃんがあたしをそこに無理やり連れ込んだことがあって、そのときお店の中で目にした「お人形」を思い出す。
今のあたしはあれと同じだ。ただ衝動をぶつけられるだけのおもちゃ。男の人の性欲を満たすためだけにある道具――
強制的に何度も何度も全身を揺らされ続けながら、恨めしさと恥ずかしさに唇を噛む。
布団を頭まで被った姿を潤みきった目で睨みつけたら、はは、って銀ちゃんはおかしそうに肩を揺らして、
「んだよその顔、えっろい顔しちまって」
「ぇ、な・・・ふぁ、んっ」
「きもちいーとこすりすりされたら欲しくなったんだろ。お前さぁ、今、挿れる前に焦らしてやってる時と同じ顔してる」
「・・・っ!」
恥ずかしくてたまらなくて顔を逸らせば、押し殺した笑い声が降ってきた。
銀ちゃんの手にしがみついた手を取られて、ちゅ、ちゅ。震えが走る指先や手の甲にやわらかく吸いつく甘いキスを落とされて、
「でも今日は挿れんのナシな。そのかわり、風邪治ったら一晩中可愛がってやっから」
「〜〜っ。ゃ、やぁ、んな、ぃらな・・・っ」
「ふーん、いらねーんだ。いつもきもちよさそーにしてんのに」
あたしの太腿を撫で回しながら不思議そうに言うと、すぅ、と深く息を吸い込む。
目深に被ったお布団の影に隠れて見えない顔が、愉しそうに口端を上げて笑ったような気配がした。
「なー、ほんとに。ほんとにいらねーの」
「――あぁっ!」
「・・・ほら、これだけでもうイきそーになってんじゃん。
ー、素直に言ってみ。ほんとは欲しいだろ。ぐちゃぐちゃになったのここ、俺ので奥まで一杯にされたいよなぁ」
「あっ、ゃあ、ひ、やめ・・・〜〜っあぁんっ」
言いながらぐちゅぐちゅと張りつめた先端を押しつけられれば、お腹の奥をもどかしくする気持ちよさで腰が震えて止まらなくなった。
銀ちゃんが中へ入ってくるあの瞬間を、身体が勝手に思い出してる。
それだけで銀ちゃんのを擦りつけられてるところがびくびく疼いて、透明なしずくがとろとろ零れる。
ああ、やっぱりあたしの身体、いつもと違う。熱のせいでおかしくなってる。どうしてこんなに感じちゃうの。
ぴっちり閉じた脚からかくんと力が抜けていって、太腿が離れそうになる。
すると銀ちゃんははぁって大きく息を吐いて、膝を立てて、抱え上げたあたしのお尻を後ろから支えるみたいにして自分の腰を押しつけてきた。
脚の間に貼りついてた着物は大きな左手に剥ぎ取られて、くっつけた太腿は右腕で軽々と一抱えされて、押しつけられた腰が前後に動く。
火照りきった谷間の潤みを太腿やお尻まで広げながら、背中を反らして喘ぐあたしを刺激しながら、熱い塊は太腿の内側を往復する。
まるで、銀ちゃんがあたしの中に入り込んで奥まで荒らしてるときみたいに。
「ぁ・・・ぁあん・・・ゃあ、銀ちゃ、の・・・あつ・・・っ」
あたしのほうが熱は高いはずなのに、どうしてこんなに熱いんだろう。
擦られるたびにお腹の奥がじくじく疼いて、もうじっとしてなんていられない。
浮いた背中を大きく反らせて、あたしは自分から腰を揺らしてしまった。
最初は唇を噛みしめて我慢した声も、すぐにこらえきれなくなって――
「あっっあっゃあっ、っ、ぁう、ぁ、ぁあ・・・!」
「んだよ、腰動いてんじゃん。そんなにいいのこれ」
「ん・・・っ。ぃ、のぉ、すきぃ、きもち、いっ・・・」
「はは、あんまかわいーこと言うなって。っとにお前、今日は素直だよなぁ。・・・なぁ、もっと欲しい?好きなんだろ、これ」
「あっっ、やん、ゃらぁ、ぎんちゃあ、っっ」
ぞくぞくするほど艶めかしい声でそう囁かれたら、腰の動きが早くなってしまう。
自分から銀ちゃんを挟みつけて感じて、涙が出るくらいきもちよくて。
両手で口を塞いでるのに、あん、あんっ、って高い喘ぎ声がひっきりなしに漏れて――そんな自分がすごく恥ずかしいのに、止められない。
くちゅくちゅ音を鳴らして擦られるたびにどんどんきもちよくなってしまって、我慢しても漏れてしまう声や呼吸が、鼻にかかった淫らな響きに変わっていく。
銀ちゃんの動きに合わせて前後に大きく揺らされる腰が、びくびく震えて跳ねてしまう。
ぐ、って歯を食い縛って何かを耐えてる銀ちゃんの動きが、少しずつ速くなっていく。
じきにあたしのお尻に自分の腰をぱんぱんって打ちつけるような、乱暴で激しい動きに変わっていった。
やわらかい内腿を擦りながら往復する熱い先端が、蕩けきったところをたまにぐちゅりと抉っていく。
そのたびに快感が全身を這い上がって、爪先が跳ねる。お尻を持ち上げられてるせいで宙に浮いた背中が、びくんと反っては打ち震える。
銀ちゃんは深くうつむいて、あたしの膝頭に顔を押しつけたまま前後に腰を振っていた。
表情はよく見えないけど――はぁはぁとこぼれる息遣いは苦しそうで、たまに歯を食い縛って低く呻いたりする。
ずっ、ずっ、と音を立てて擦りつけられるものは溢れた粘液でもうとろとろに濡れていて、擦りつけるたびにどんどん硬さが増していく。
「っは・・・・・・、っ。大丈夫、苦しくね」
「ん、へぃ、き・・っ」
掠れる声を振り絞って答えれば、銀ちゃんの腰がふっと止まって。荒くて早い息遣いに混じって、吐息みたいな笑い声が降ってくる。
潤みきった目でぼんやり真上を見上げれば、窓からの陽射しできらきら光る白い髪や、ぼやけて輪郭が幾重にもブレる顔が目に映る。
・・・ああ、忘れてた。
今はまだお昼で。外には陽射しが降り注ぐ明るい時間で。
なのにあたし、こんなことしてる。服も脱がされていやらしいことされて、頭の中まで溶かされちゃってる。
でも、思い出せないよ。どうして・・・どうしてこんなことになったんだっけ。身体を拭いてもらうはずだったのに、もう二人とも汗まみれで。
どっちの汗かわからないくらいに肌と肌がくっついて、脚や腰まで絡ませ合って。
敏感なところに押しつけられる銀ちゃんが熱くて、熱すぎて――何もかも忘れておかしくなっちゃいそうなくらい熱くて――
「・・・っ・・・っあ・・・っ」
太腿を抱えた腕に力が籠って、銀ちゃんが歯を食い縛る。
ずず、ってお布団が少しだけずり落ちて、薄暗くてよく見えなかった顔が光を浴びる。
あたしが眠ってる間にしたときも、銀ちゃん、こんな顔してたのかな。
こんなに苦しそうで、せつなそうで――普段万事屋で見せてるような、とぼけた余裕なんてどこにもない。
瞼を深く伏せた目許がうっすら染まった顔。気持ちよくてたまらなさそうな色っぽい顔。
こんなふうに二人きりになって、誰にも言えないことをしてる時しか見れない顔――
そう思ったら足の先から頭の先まで熱みたいな何かが一瞬で駆け昇って、心臓がどきどきして止まらなくなった。
ゆっくり瞼を上げた目が、まるで夢から覚めたばかりの人みたいに焦点を彷徨わせながらこっちを見つめる。
苦しそうに歪めた目許から流れた落ちた汗のしずくが、ぴちゃ、ってあたしの首筋で跳ねる。
息を荒げて苦しそうなその顔は余裕なんてどこにもなくて、だけど獲物を射竦めようとする野生の獣みたいな目つきであたしだけを見つめてる。
身体の下でベッドがぎしぎし軋んでる。二人で籠ったお布団の中が、じっとりした蒸し暑さで満ちていく。
視線はこっちに向けたままで、ちゅ、って膝頭にやわらかく吸いつかれる。
、って甘い声音で呼ばれたら胸をきゅうって締めつけられて、自然とくねらせた腰の奥までせつない感じが広がっていって。
抱え上げられた脚が跳ねて、爪の先まで痺れてぶるぶる震えて――
「っやぁ・・・に、これ、あ、ぁあっ、ふぁ・・・ぁあっ」
「・・・すげぇ、また溢れてきたし。これじゃ挿れてるときと変わんねーな。、またイキそう?」
「ん・・・んっっ」
尋ねられたことの意味もよくわからないまま、潤んだ目で銀ちゃんを見つめてこくこく頷く。
涙の膜で覆われて何もかもぼやけてる視界に、苦しそうに笑う顔がぼんやり映る。
あたし何してるんだろう。腰が勝手に動いちゃう。ゆらゆら揺らして銀ちゃんに合わせて、もっと、もっと、っておねだりするみたいに自分から擦りつけちゃってる。
はぁ、はぁっ、って甘えた響きでいやらしく喘ぐ唇は開きっぱなしで、口の中が渇いてからからだ。
「ん。じゃあ具合悪くなんねーよーにすこしだけ、な」
「っああぁ!〜〜〜ぁ、あ、ぎ、ちゃあぁ、・・・〜〜っ!」
腰を抱えてた左腕が脚の間に伸びてきて、銀ちゃんを挟みつけてる脚の間に指が潜る。
ごつごつした長い指が探り出したのは、熱で何度も擦られ続けてぷくりと膨らんだ小さな部分で。
器用な指先がそこを摘まんで、くちゅくちゅと弄る。強い刺激に息が詰まって涙が溢れて、全身がびくんって反り上がって、
「〜〜〜っ!」
「、イって、俺も・・・っ」
「っっぁ、ぁああぁあっ」
荒れた呼吸を繰り返しながら、銀ちゃんは何度か激しく腰を前後させた。
ぱんっ、ぱんっつ、って破裂音と透明な飛沫が目の前に飛び散って、っっ、って呻き声と同時で動きが止まる。
なのにあたしの一番感じやすいところに触れた指がぬるりと滑って、きゅう、って強めに押し潰されて、
「っあ!ゃん、やらぁ、それ、らめぇ・・・!あ、あぁぁああっっっ」
「――っっ」
お腹の奥で弾けた快感に、あっという間に押し流される。
あたしは銀ちゃんの腕を握りしめて、身体中を震わせながら達してしまった。
それと同時で上から重たい身体が圧し掛かってきて、ぎゅっときつく抱きしめられる。
イった途端にがくりと脱力した腰からむりやり二つ折りにされて、低く唸るみたいにして銀ちゃんが呻いて。
お腹や胸をめがけて掛けられた白濁が、喉や顎下まで熱く飛び散る。
びくびくと跳ねながら溢れさせるそれを銀ちゃんの手が握ったら、勢いが増して跳ねた飛沫に頬や目許まで汚されてしまった。
熱くてどろりとした粘液の感触にまで感じちゃって、力の入らない手を伸ばす。
窓からの光を反射させて輪郭が淡く光ってる頭に、夢中で縋る。
窮屈に折り畳まれた身体をまたびくびくと震わせて、ひりついた喉を軋ませる声にならない声を上げて――
「っっぁ・・・はぁ、はぁ・・・っ、っぎ、ひゃ・・・ぁ・・・」
髪を撫でながら呼びかけてみても、覆い被さった銀ちゃんの身体は苦しそうな呼吸を繰り返すだけで動かない。
一度出しても張りつめたままの熱いものも、濡れそぼってとろとろになったところにきつく押しつけられたまま。
どくん、どくん、どくん。力強く速く脈打ってる。まだ足りない、もっと欲しい、って言ってるみたい。
そう感じたら押しつけられたところが奥からじぃんと疼いてしまって、んん、って甘えた声が唇から漏れる。自然と腰をくねらせてしまう。
それに気付いたのか銀ちゃんはゆっくり上半身を起こして、気だるげで重たい溜め息をついた。
あたしの身体を冷やさないように、ずっとお布団を背負ってたせいかな。くっきり割れた腹筋にも逞しい肩にも、汗が幾筋も流れてた。
「、だいじょーぶ。まだ寒い」
「んん・・・も、さむく、なぃ・・・」
「いや肩震えてっけど。ほんとは寒みーんだろ。ったく・・・そーいうとこがよー、困るっつーか何つーか・・・」
姿勢を低めた銀ちゃんが、ずず、ってベッドを揺らしながら顔を寄せてくる。
ちゅ、って濡れた目許に唇を落として、それからお互いに吸い込まれるようにして唇と唇を重ね合せた。
くちゅ、くちゅ、ってゆっくり舌を絡めるだけの甘いキスが、寒気に震える背中の強張りを溶かしていく。
ぎゅう、って冷えきった肩を抱きしめられて、ふぁ…、ってうっとりして溜め息をついたら、汗ばんだ髪を手櫛で梳くみたいにして頭をやさしく撫でられる。
ただ身体を揺らされただけでくたくたになっちゃったあたしを、銀ちゃんなりに労わってくれてるのかな。
そう思ったらすごく嬉しくて、背中や首筋に走る寒さも忘れて夢見心地で銀ちゃんに見惚れた。
辛そうに歪めた汗まみれの顔が、こっちを黙って見つめてる。
おでこや鼻先まで乱れかかった髪を指先で肌を撫でながら避けてくれて、何か言いたげに唇を開いて、また閉じて――
「具合わりーのにな、ごめん、けど、・・・やっぱ、我慢できねぇかも」
「んっ・・・」
火照りきって朦朧としてきた頭を小さく振って、こくんと頷く。
その拍子にぽろぽろこぼれた涙のしずくが、濡れて冷たくなったお布団に染み込んでいった。
いいよ。銀ちゃんのすきにしていいよ。だって銀ちゃんになら、何されてもいいんだもん。
骨太な手が膝裏を掴んで、脚を左右に広げようとする。だけど風邪で弱ってるあたしの身体は、もう体力の限界だったみたい。
どうしても銀ちゃんに触りたくなって伸ばしかけた手が、ぱたりと落ちる。泣いて腫れぼったくなった瞼が、勝手にじわじわ下がってくる。
何かに気付いたような表情で覗き込んでくる顔がゆらりと揺れながら斜め下へ流れて、ふっと目の前が暗い灰色で覆われて。
、って焦ったように呼ぶ声がどこか遠くからぼんやり聞こえて、分厚い手のひらのあったかい感触をほっぺたに感じて。
それを最後に、意識が暗い灰色の中へ真っ逆さまに落ちていった――
「――・・・ん・・・・・・っ。・・・ぎ、ちゃ・・・・・・?」
掠れた声で呼びかけながら、重たい瞼をゆっくり開ける。
いつのまにか眠っちゃったみたい。
少し蒸し暑いくらいに熱気を孕んだお布団と、お布団とは違うあったかさに身体ごと包まれてる。
ほんのちょっと身じろぎしたら、肩のあたりに触れた何かがさらさら滑る。パジャマの代わりに銀ちゃんの着物を被せられたみたいだ。
下着までは着けてくれなかったのか、お尻を直に銀ちゃんの手が覆ってる。
白い薄地で覆われた胸には、さっき掛けられたもののとろとろした感触がない。
・・・眠ってる間に身体を拭いてくれたのかな。そういえば、首のあたりに感じてた肌のべたつきもなくなってる気がする。
もぞもぞもぞ、って狭い腕の中で動いて、目の前に迫った顔を見上げる。
・・・銀ちゃんよだれ垂らしてる。緩みきってる口許やほっぺたにぺたぺた触れて、「銀ちゃん」って小声でもう一度。
するとあたしの声が届いたのか、口が半開きになっただらしない寝顔がぴくんと揺れる。離れっぱなしな眉間がすこしだけ狭まる。
「んん…」ってだるそうに唸ったと思ったら、ほっぺたに触れてた手をぎゅうって強めに握ってきて。
「・・・・・・〜〜。・・・めだって・・・・・・だ寝て・・・ってぇ・・・」
寝言みたいなくぐもった声でもごもごごにょごにょつぶやくと、腰に巻きついてる腕があたしをぐいっと抱き寄せる。
まだ寝てろ、って言いたかったのかな。どう見ても銀ちゃん寝惚けてたし、声もよく聞こえなかったけど。
二人でくるまれたお布団の中は、二人ぶんの汗のせいかちょっと湿気が籠ってる。それに熱い。かなり熱い。
よく見れば銀ちゃんの髪の生え際やこめかみには、じわりと汗が浮いていた。
寝る前よりも身体に掛かる重みが増してるから、たぶん、毛布を何枚か重ね掛けしてくれたんだろう。
だけど風邪の寒気が背中から離れないあたしには心地いい熱さで、こうしているとまたすぐに眠ってしまいそうだ。
はしゃいで何か笑いながら言い合ってるような子供たちの声が、半開きになったカーテンの向こうから聞こえてくる。
飼い主さんと散歩中なのか、きゃんきゃん吠えてる犬の声も。どのくらい眠ってたのかわからないけど、もう夕方になったみたい。
カーテンの隙間から枕元まで差し込む光は、瞳を焼けつかせそうなまぶしいオレンジ色だ。
ほんわりしてあったかそうな夕日の色から少しだけ視線を逸らしてみると、涙でぼうっと曇ってる視界の端っこに、テーブルの上に置かれた携帯が映る。
それを見て思い出したのは、万事屋からの電話の声。神楽ちゃんの声だった。
『私、今から銀ちゃん連れ戻しに行ってもいいアルヨ』
神楽ちゃんにそう言われたとき、どうして断っちゃったんだろう。
あのとき神楽ちゃんにお願いしてたら、銀ちゃんに風邪をうつすようなことにはならなかったはず。
それはわかってたくせに、あたしは神楽ちゃんにお願いしなかった。帰るように説得するよ、なんてもっともらしいことまで付け加えて断った。
勝手に押しかけてきた銀ちゃんのことも、文句は言っても追い帰さなかった。
(放っておくとご近所迷惑になるから)
自分にそんな言い訳をしながら、結局部屋に入れちゃった。
口では文句ばかり言いながら銀ちゃんがしたいようにさせて。風邪がうつってもおかしくないようなことをされても、ぜんぶ許して――
何をされても許しちゃう理由。
それはどれも無邪気な14歳の女の子に説明するには気恥ずかしくて、子供っぽすぎて呆れられてしまいそうな理由ばっかりだ。
風邪をひいてこころぼそかったから。あたしのわがままを笑って許してくれる誰かに、子供みたいに甘えてみたくなったから。
高い熱にうなされながら、ひとりぼっちで寝てる時間がさみしかったから。
普段は何のさみしさも感じずに過ごしている部屋が、なぜかやけに静かで広く思えたから。
窓を通して外の物音は聴こえるのに、それでも自分ひとりだけがこの世界から隔離されてるみたいに思えてきたから。
そんなことを思って泣きそうな気分になったときに涙をこらえて瞼を閉じると、ぽうっと浮かんできた顔はいつも同じで、たった一人だけで。
・・・だから、ほんの少しの間でもいいから、一緒にいてほしくなったの。銀ちゃんに触りたくて、触ってほしかった。
ベッドや枕を揺らさないように気をつけながらそーっと動いて、呼吸に合わせて上下する胸にほっぺたをくっつけてみる。
熱い肌がきもちいい。このまま目を閉じたら眠っちゃいそう。
こうしてるだけで身体中が蕩けちゃいそうな気がするのは、それだけあたしが銀ちゃんのことを好きだって証拠なのかな。
肌に薄く浮いた汗や体温、それから胸の奥でとくとく鳴ってる心臓の音を感じながら、そわそわしながら斜め上の寝顔を見上げる。
・・・うん、大丈夫。
ずっと目瞑ったままだし。くーくー寝息立ててるし。よだれ垂らして熟睡してるもん。うん大丈夫、銀ちゃんには何も聞こえない。
そう言い聞かせても胸のどきどきはちっとも納まらないけど、銀ちゃんが眠ってる今しかチャンスは無さそうだし。
こくん、て息を呑んで決心すると、あたしはもじもじ身じろぎしながら口を開いた。
「・・・・・・銀ちゃん、来てくれてありがと。帰れなんて言って、ごめんね・・・?」
蚊が鳴くようなちいさな声でぽそぽそ、かあぁあぁっ、と顔まで熱が昇ってくるのを感じながら話しかける。
昇ってきた熱は気恥ずかしさで一杯な頭の中まで沸騰させて、じきに耳や首筋やうなじまでぽうっと火照ってくるから困ってしまう。
――可愛くないなぁ、あたしって。いちばん伝えたかった肝心なことは、銀ちゃんが眠ってるときにしか言えないんだから。
銀ちゃんは何かといえば可愛い可愛いって言ってくれるけど、そんなはずないよ。
こんな意地っ張りでつんつんしてて素直じゃない彼女なんて、どう考えたって可愛くないと思う。
そして銀ちゃんが言うほど可愛くもなければ、男の人受けが良さそうな「気の利いた女子力」もないあたしには、こんなふうに銀ちゃんが知らない間にこっそりお礼を言うのが精一杯なのも事実なんだよね。
・・・つくづく残念な子だなぁ、あたしって。せめてもう少し素直になれたらいいのに。
そんなことを思ってちょっとした自己嫌悪に肩を竦めながら、もう一度目の前のだらしなく緩みきった寝顔を見上げた。
「・・・・・・えと、あのね。あのね、銀ちゃん――」
だから、あのね。言えなかったけど――ほんとはね。顔を見れたときは嬉しかったの。
帰れなんて言ったけど、ほんとうはすごく会いたかったの。会いたくてしかたがなかったの。
何をされても、もっと具合が悪くなってもよかったの。
ただ一緒にいたかったの。一緒にいてほしくて、こうしてほしかったの。ぎゅってされたまま眠りたかったんだ――
面と向かっては言えないことをひとりごとに変えてつぶやきながら、握られたままになってる手にゆっくり指を絡ませる。
だらりと伸びて力が抜けきってる長い指を、銀ちゃんが目を醒まさないようにほんのすこしだけ握り返す。
大きくて分厚い手のひらはちょっと汗ばんでいて、熱なんて出ていないはずなのにやっぱりあたしと同じくらい熱い気がした。
「猛毒いちごシロップ #3」
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