「――うん、いいよ。わたしでよければ」

そんなの声を耳にしたのは、証拠品倉庫で刀剣を預かり隊舎へ戻る途中のことだ。
周囲を色づいた楓や紅葉の林で取り巻かれた、武器弾薬庫の傍。 銃火器類を運搬する装甲車が駐車された奥に、鮮やかな紅色に染まった大きな紅葉が立っている。 その木陰から、女の声は流れてきていた。

沖田が武器庫の影からそちらを覗けば、見慣れた姿も目に入った。
仲間の隊士たちが身に着けるものよりも細身で、身体の曲線に添った黒の上衣。腰から下には短めなスカートに、膝を隠す長さのロングブーツ。 だけが身に着けている、女性用の隊服だ。 一緒にいる男は、沖田よりも一周り以上体躯が大きい。近藤と同じくらい肩が分厚く、背中は沖田の倍近く広いだろうか。 表情を見ればと同じ年頃のようにも思えるが、声や仕草は体格に相応しくどっしりと落ち着いた印象だ。 稽古や実戦で鍛えてはいるものの生まれつき身体の線が細く、子供っぽさが色濃く残った沖田の姿とは対照的な男。 そんな彼の容姿は、プライドの高い少年が隠し持っている負けず嫌いの一面をちくりと微かに刺激してきた。
頼り甲斐のありそうな雰囲気を漂わせるその男の影から、の姿が半分ほど見える。 彼女は男に何度か頷いてみせ、その後で何を言われたのか、親しげな様子で彼の肩を叩いて笑っていた。
冷たくてざらついた武器庫の壁にもたれていた沖田は身体を起こし、二階建ての大きな建物の影になったそこから一歩踏み出す。 深く息を吸い込めば、晩秋の乾いた空気が肺の中まで滑り込んでくる。 胸を刺すようなその冷たさに息を詰め、足元に敷き詰められた赤い落葉を足音を立てないように踏みしめては、二人の背後へ近寄っていった。 少し離れた木の影に身を潜めると、二人の声がはっきりと届くようになる。会話の内容も一句漏らさず耳に入るようになった。


「・・・意外だな。断られると思った」
「え?何で、あんたの誘いなら断ったりしないよ。どうして?」
「決まった相手がいるのに他の奴から誘われたら、お前が気まずいんじゃないかと思ったんだよ。・・・その、つまり、噂で聞いてはいたんだ。 が沖田隊長と・・・」
「ああ、違うよ。それ噂だけだから。隊長はわたしのことなんて嫌いだし、口煩い女としか思ってないよ」
「――そうなのか?」
「ふふっ、ちょっと、嘘でしょ。まさかあんたまで誤解してるとは思わなかった。ていうかおかしいでしょ、隊長とわたしじゃ」
「・・・いや、俺は同期の奴から聞いたんだ。先輩達がそんな噂してたって」
「ないない、ありえないよそんなの。ねぇ知ってる、あの人わたしより三つ年下なんだよ。まだ未成年なの」

いちおう上司だし現場に出れば凄いけど、普段はまだまだ男の子ってかんじだよ。
そう言って呆れ気味に笑う彼女を目にすれば、沖田の胸に針で刺されたような痛みが走る。
との関係が屯所内でひそかな噂になっていることは、沖田も周囲の気配から察していた。 土方を介して近藤の耳にも入り、興味を持った局長自ら事の真相を尋ねてくるくらいだ。おそらくも、これまでに何度か似たような問いかけを持ちかけられたことだろう。
その度にあいつは、あんなふうに笑ってやがったのか。三つ年下のガキのことなど眼中にもない。 そう言いたげな態度で相手の目を眩ませては、無理やりに押しつけられた18のガキとの関係を繰り返し否定してきたのかもしれない。 そして、あの男の前でも同じように繰り返してみせるのだ。 「ありえない」だの「おかしいでしょ」だのという、疑念の余地すら挟ませないような否定の言葉を舌に乗せ、唇には嘘の笑みを浮かべながら。 俺の前では晒さなかった、俺への本音も織り交ぜながら――


「そ、そうか。実はあちこちで同じ噂を聞いたもんだから、てっきりそうなんだと・・・」

の嘘を見抜けなかった男は、噂話をすっかり真に受けていたことが気まずいらしい。悪いな、と頭を掻いて恥ずかしそうな表情を見せた。 まばゆいものに見惚れるようなまなざしでの耳元を見つめながら、何気なくそこへ手を伸ばす。 その瞬間、沖田は自分でも知らずに息を呑んだ。
沖田よりも太く頑丈そうな男の指先が、頬に掛かったやわらかそうな髪を掻き上げる。
髪の隙間からたまにちらちらと見えるだけの真っ白な耳。
そこに光る小さなピアスに男の手が触れれば、急に心臓を掴まれたような感覚に陥って――


「懐かしいな。まだ付けてたんだな、これ」
「・・・何よ。付けてたら悪い?」

は男を睨んでいたが、彼の手を拒もうとはしない。
上目遣いに相手を見上げた表情はあからさまに拗ねていて、彼女らしくない子供っぽさだ。 沖田にとってはこれまで一度も目にしたことのないの表情を、男は笑って受け流す。彼女のそういった態度に慣れているらしい。 怒るなよ、とまるで機嫌を損ねた妹を宥める兄のように気安く頭を撫でながら、

「誰も悪いなんて言ってないだろ。どうしてそう取るんだよ、相変わらずひねくれてるなぁお前」
「・・・。あんたは相変わらず兄貴面でムカつくよね」

男の肩をふざけたかんじで突き返すと、はごく自然に笑っていた。
その笑顔には見覚えがある。これまでに幾度となく目にした顔だ。
『わたしがいないと何もできないんですね、隊長って』
沖田にとっては面白くも何ともない冗談を、そういった時のはよく口にしていた。
二人きりの薄暗い部屋の中。 同じ布団の中に籠って体温を分け合っている時の彼女は普段よりも声や雰囲気が和らいでいて、なのにわざと大人ぶった態度で沖田をからかい挑発してくる。 その楽しそうな表情が、沖田はいつも気に食わなかった。 お前は三つも年下のガキだと、言外に言われているようで。 そんなの笑みを含んだ目に見つめられるだけで腹立たしくて、なのに、どういうわけか彼女から目を逸らせなくて ――
佇む彼の眼前に、紅い欠片がはらりと舞う。かさ、と靴先に触れて微かな音を立てたそれは、辺り一面を深紅に染めた落葉と同化し沈んでいった。 身じろぎもせずに二人を睨みつけていた沖田は、眉間を寄せて悔しげに目元を細める。
いつになく和らいだの表情が、彼にそれとなく教えてくる。
いつも何を考えているか判らない女が、あの男にはいとも簡単に心を開く。
彼の知らない子供っぽい素顔も自然に晒し、身体を重ねた後にしか見せてくれないくつろいだ笑顔も浮かべてみせる。
そんな彼女がまぶしくて、けれどひどくざわついた気分になった。 と同時に、自分でも理不尽さを認めずにはいられない感情の炎が巻き起こる。 こらえようとしても抑えが効かない憤りが、沖田の身の内を一瞬にしてどす黒く焼けつかせながら激しく燃え盛っていった。

――二日ぶりに見るの笑顔は、やっぱりどこか生意気そうで可愛げがない。
なのに、俺はずっとあれが見たかった。それにあれは、俺に向けられたもんじゃない。他の奴に向けられたものだ。
そりゃあそうだ、俺の前じゃもうあんな表情はしねぇだろ。あいつは今や本気で俺を嫌ってんだ。そう、顔も合わせたがらねぇくらいに――


「・・・まあでも、そういうところも含めてさ。お前がちっとも変わってなくて、俺は嬉しいよ」

ほっとしたように笑う隊士と、は何かを打ち合わせ始めた。
二人はどこかへ連れ立って出掛けるつもりらしい。 「わたしでよければ」というの了承は、この約束に対する返事だったようだ。 互いの非番を確認し合い、日取りや時間、待ち合わせする場所を慣れた様子で決めていく。 最後に男が「じゃあ、その後で飲みに行くか」と言い出し、いいよ、とが当然のように頷く。 そこで、沖田の中でかろうじて繋ぎ止められていた最後の我慢がぶつりと切れた。 考えるよりも先に足は踏み出し、無言でその場へ割り入った。
ブーツが踏んだ落葉の層が、がさがさと高く鳴り響く。その音に気づいたのか、最初にが、次に男がこちらを向いた。 突然現れた沖田に二人とも驚いていたが、男のほうは特に驚きが大きかったらしい。 沖田よりも年上とはいえ、入隊して半年足らずの新人だ。 幾多の修羅場を血で染め上げてきた局内一の遣い手の気配に異様さを感じ、本能が怖れをなしたのだろう。 男は何か得体の知れないものでも見たような顔つきで一歩下がり、青ざめつつも敬礼してきた。

「お、お疲れ様です・・・!」
「・・・・・・」

は沖田の姿に目を見張り、やや呆然とした様子だ。
見られているとは思わなかった。ぎこちない表情にはそう書いてあり、彼と目が合えば気まずそうにうつむいて男の影に隠れようとする。
そんな彼女を見抜いた上で、沖田はわざとの前に立つ。 やがて彼女が諦めたように顔を上げると、澄ました表情で笑ってみせた。

も隅に置けねーなァ、こんな人気のねーとこでデートの約束かィ」
「・・・・・・」

は何を考えているのかすっと表情を消し、冷ややかな沈黙で沖田の視線を受け止める。
狼狽えながらも直立不動を崩さない男に見せつけるように、沖田は彼女に顔を寄せた。 人との距離感を計ることを知らない無邪気な子供のような態度を装い、女の顔を覗き込む。 すると焦りが増してきたのか、男のほうが先に口を開いて、

「い、いえ!その・・・そういった約束ではありません。隊長にお聞かせするような話ではないのですが、来月が妹の誕生日でして。 誕生祝いに何を買ったらいいものか判らず、に・・・っ、い、いえ、に、同行してくれるよう頼んでいたところです」
「・・・・・・ふーん、妹ねぇ。そーかィ。けど、あんたには聞いてねーぜ。俺ぁこいつに聞いてんだ」

男のほうへ視線を流すと、沖田は明るい色の瞳を細めた。
預かってきた刀三振りのうちの一竿の鞘を、小柄な見た目の印象に反した長い指がゆっくりと滑る。 彼がその柄を握った瞬間、燃えるような赤一色で染め上げられた木陰に戦慄が走った。 かち、と刀の鍔が鳴り、剣を握った時にたまに見せる、寒気がするほど冷えきった表情で沖田がふっと笑ったせいだ。
ごくり、と大きく息を呑んだ男が、すみません、と強張った顔で謝ってくる。 は顔色を失いつつも、責めるような目で沖田を睨みつけていた。


「ちょっとこいつに話があるんだ。悪りーけど借りてくぜ」
「は、はい。ですが、その」
「・・・どうしてここじゃ駄目なんですか。別に誰がいてもいいじゃないですか、ここで話してください」
「聞かれたらお前が困る話だぜ。上司が気ぃ使ってやろうってんだ、素直に従ったらどーなんでェ」
「――っ!ゃ、ちょっと、待ってください、沖田隊長っ」

怯え気味な表情で身を引いたの手首を無理に奪い、沖田はその場から彼女を連れ出す。
一人置き去りにされた男が慌てて何か言っていたが、聞こえなかった。 一心不乱に歩く沖田の耳には、枯葉を踏み潰すざわついた音と木陰を擦り抜ける風の音しか入らなかったからだ。 もちろんあの男に何を言われようと聞き入れてやる気などないし、何を言われようとの手を離してやる気もなかったが。
きつく握った細い手首が嫌がるように捩じられても、その抵抗を跳ねつけるようにぐいぐいと引いた。 言いたいことはあるはずなのに何も言おうとしないを引きずるようにして、無言で進む。 武器弾薬庫の裏手に入ると、沖田はそこで手を離した。倉庫と紅葉の林に挟まれた小路は昼間でも鬱蒼として薄暗く、人目が届きにくい場所だ。 何も言わない沖田の様子を警戒してか、は不安そうに辺りを見回しながらじりじりと後ろへ下がろうとしていた。

「・・・・・・何ですか、話って」
「話?あぁ、そーいやぁそんなこと言ったっけ。ねーよ、そんなもん」
「・・・何それ、意味わかんないですよ。気紛れもいい加減にしてください。どうして隊長って」
「話はねぇが、用ならあるぜ」
「ぇ?っ、ちょ、 ――っっ!」

邪魔な証拠品の刀は足元にばらばらと放り、沖田はの肩を強く掴んだ。彼女の後ろに立つ紅葉の幹に、力ずくで押しつける。 どっっ、と振動音が小路に響き、痛っ、とが悲鳴を上げた。 深い赤に色づいた葉をざわつかせながら、紅葉の幹が大きく揺れる。焔のように鮮やかな赤や橙の切片が散り、はらはらと二人に降り注いだ。

「〜〜ぃたぁっ・・・もぅ、どうしていつもそう乱暴なんですかっ」

苦痛に眉を顰めながらも、は自分を閉じ込めた男の胸を押し返そうとしている。 沖田はそんな彼女の頭から脚までを眺めていく。 一見したところは醒めきっていて静かなのに、内に隠した残虐性が滲み出た目。 不穏な目つきで眺められ、が顔を引きつらせ始めた。
彼女の足の膝から下は長いブーツに包まれているが、膝上からスカートの裾までは張りのある太腿が覗いている。 色白な素肌が剥き出しになったそこに、ぐい、と脚を割り入れた。 咎めるような目で睨みつけてくる女の腕を押さえつけながら、もう一方の腕で隊服の懐を探り出す。 そこに忍ばせておいた茶色の小瓶は、掌に納まる程度の大きさだ。 ラベルも何もないその瓶を取り出し、金属製の小さなキャップを噛んで捻ると、

「・・・な・・・何ですか、それ」

が訝しげに尋ねてきたが、沖田は外れたキャップを吐き出し瓶の中身を一気に煽る。
冷えた液体の薬臭い甘ったるさが口内に広がる。とろりとした舌触りの曖昧な味は、不味いわけではないが旨くもない。 どこかで口にしたようなその味に吐き気と不快感を催しながら、彼はの顎を片手できつく押さえつける。 彼女の顔を無理やりに自分のほうへと向かせ、同時にその唇を奪う。 いきなり舌を捻じ込んで唇をこじ開ければ、んっっ、とが驚きの声を漏らして胸を叩いてきた。 沖田はその手をぐいと捩じ上げ、硬い木の幹に縫い付ける。 服越しに触れても弾力を感じる女の胸に自分の胸板をぐっと押しつけ、幹との間に彼女の身体を挟みつけて抵抗を奪う。 熱くやわらかい口内へと、冷えた液体を注ぎ込んでいった。

「〜〜〜っっ。ぉ、きたさぁっ・・・んふ・・・ん、んぅ、んんっ」

んぅ、んふ、と苦しげなのに甘やかな声が、触れただけで沖田の思考を蕩かしてしまうやわらかな唇から何度も漏れる。 用済みになった瓶が邪魔だ。何も考えずに背後へ投げる。がちゃん、とどこかにぶつかって割れたような音が響いた。
嫌がってかぶりを振る女の後ろ頭と腰を抑えつけながら、沖田はの喉に甘ったるい雫を少しずつ、少しずつ流し込んでやる。 そのうちに、けほ、とが噎せ込み、肩を揺らして苦しがり始めた。 それでも唇を押しつけて離さず、一滴も漏らさないように飲ませていくと、けほけほと噎せたせいで零れた半透明の液体が女の頬を流れていく。 薄いとろみがついたその雫に沿って、沖田は彼女の頬から首筋をつうっと指先でなぞっていった。 くすぐるようにしてそっと肌を掠めていく微妙な指の感触に、彼女の意志とは関係なしに身体が反応してしまうのだろう。 の肩や背中は時折びくびくと小さく震えて、そんな彼女を感じるたびに理由も判らない嬉しさが湧き上がった。 沖田の腕の中で必死に足掻こうとしているは、悩ましげに眉を寄せて涙ぐんでいる。 その表情に背筋がぞくぞくと粟立って、腹の奥を熔かしそうな、かぁっと熱い何かが溜まる。 おかげで最後の一口を彼女が嫌々飲み終えても、を離す気にはなれなかった。

「んぅ・・・っ、・・・な、なんですか、今の。なにする、つもり・・・っ」
「さぁな。死ぬほど酷でぇ目に遭わされるか、死ぬほどよがらされるか。どっちもてめえ次第でェ」
「〜〜っ、んふ、んんっ」

息苦しさに喘ぐ小さな舌を口内の奥まで追い詰めて、自分の舌をきつく絡める。 ちゅ、じゅく、と大きな水音を鳴らして吸いついたり、感じやすいところを先端で遊ぶようにつついてやると、抱きしめた女の腰がびくんと震える。 その反応にさらに煽られ、呼吸する間も与えずに、はぁ、はぁ、とせつなそうに息を乱すの中を蹂躙した。
その一方では、木の幹に押しつけて拘束した身体を優しく撫でる。
あの男と二人で、ずっと外にいたのだろうか。の隊服も、肌も髪も、どこに触れても冷えきっていた。 首筋やうなじ、隊服に包まれた胸や背中。 スカートの裾から割り込んで撫でた内腿や、指が埋もれるほどやわらかい丸みを薄布で覆った細い腰。 ゆっくりと余すことなく手を這わせ尽くした身体は、彼女が内心では怯えていることを伝えてくる。びっしりと冷たい汗で覆われた肌。 いつのまにか隊服の背中に縋りついていた手や、強引に重ね合せている唇の微かな震え。 最初に抱いた時と同じくらいに強張っている肩や腕の感触も、動揺を隠しきれていなかった。
しばらくそうして味わってから、沖田は彼女の様子を見つめながら離れた。とろりと濡れた赤い唇から、透明な糸が引かれていく。 飲ませたものがまだ喉のどこかに閊えていたのか、背中を折って激しく咳込み始めたが――今の彼にはどうでもいいことだ。 いくら彼女が苦しそうにしていても、恨めしげな涙目で睨まれても、身体の芯を熱く滾らせる獰猛な疼きが増していくだけ。少しも可哀想だとは思わない。
それどころか、嬉しいくらいだ。
この苦しそうな泣き顔や、恨めしげなくせに快楽に濡れている眼差しに、いっそう嗜虐心が掻き立てられる――


「どうだ、美味かったかィ。なぁ、今のこれ、何だと思う」
「っは、・・・っ」
「先々月にあっただろ。高級官僚のドラ息子どものグループが、ナンパした女どもに媚薬飲ませて集団レイプした事件」

言いながら沖田は懐に手を入れ、取り出した小瓶をの目の先で振ってみせた。
ラベルが無い茶色の瓶。さっき彼女に口移しで飲ませたものと同じ瓶だ。

「あん時大量に押収した薬が、さっき行った証拠品倉庫でまだ眠ってんだ。あぁ、そういやぁあん時ぁお前、現場にいなかったなァ」
「・・・・・・く、すり・・・?」
「あの現場、趣味は悪りぃが面白かったぜ。まぁ、どの部屋に入っても判で押したみてーに同じだったけどな。 こいつのせいでイカれちまった裸の女どもがだらしねぇ顔で涎垂らして、男の上で狂ったみてーに腰振ってやがった」
「――・・・っ」

薬で濡れた口元を拭おうとしていたの手が止まり、絶句した顔が血の気を失い青ざめていく。
今頃気付いてももう遅い。は全て飲み干してしまったのだ。 錠剤や粉薬よりも効きが早い液状の薬だ、彼女の身体に異変が訪れるまでそう時間はかからないだろう。
喉を押さえて唇を噛みしめる女を見つめ、ふっと愉しげに沖田は笑う。 吐き気と不安をこらえている彼女の肩を撫で下ろし、その衿元をしっかりと掴む。 そこから下へ、服を引き裂く勢いで腕を振り下ろす。 前合わせになった黒の上衣からボタンが二つ、宙に高く弾け飛んだ。 あ、と叫んで全身を竦ませたの胸元が、はらりと肌蹴ける。 光沢のある黒い布地に包まれた胸が、沖田の目前に晒された。
暗色の下着のせいで色白さが一層引き立つ膨らみが、あわてた仕草で隠される。 はたじろぎながらも彼の腕を掴み、困惑しきった様子で問い詰めてきた。

「ぉ、沖田さん、待って、聞いてください。ねぇ、どうして」
「この薬、切れるまで数時間かかるらしいぜ。なぁ、それまでここで楽しませてやろうか。 ・・・あぁ、けど俺ぁ弱ってる女には優しいから、おめーを逃がしてやってもいいや」
「え・・・」
「大人しく質問に答えるんなら、今日はこのまま部屋に戻してやるって言ってんだ。さぁ、どーする」
「・・・・・・ずるい、自分ばっかり。わたしだって沖田さんに、聞きたいことが」
「昔馴染みらしいな、さっきの奴とは。俺のいねぇところじゃあいつとよろしくやってるそうじゃねーか。 あれぁお前の何なんでェ。昔の男か。それとも、これからあれをてめえの男にすんのかィ」
「――え、」

が気抜けした声でつぶやき、ぽかんとした表情になる。
どうしてそんなことを言われたのかもわからない、そんな顔をしていた。

「・・・・・・違います。何で、そんな。違います、彼は」
「見るからに人が好さそうっつーか、単純そうな奴だったなァ。あれならお前が一度でもヤらせりゃあイチコロじゃねーか。 あぁ、それとももうヤッちまった後かィ。俺が来なかった昨日の晩に、さっそくあいつをタラし込んだってわけだ」
「・・・!」
「どーなんでェ、正直に全部吐いたら許してやるぜ。お前、どうして急に俺を避ける。 お前が何度もこうやって俺に好き勝手されてきたことを、そんなにあの野郎に勘付かれたくねーか」
「・・・・・・違います。それは。だって・・・」
「どうだった、あの男は。好いた奴が相手なら女の身体はそれだけで感じるっていうし、俺よりずっと善かったんじゃねぇか」

そう言ってやると、腕の中のの身体からすうっと力が抜けていく。
濡れた唇を半開きにしたまま呆然と沖田を見上げる彼女の表情は、何か信じられないものを見るような目つきへと変わっていった。 開ききったまま固まっている目から大粒の涙がぽろりと零れ、血の気が引いた頬を流れ落ちて、

「・・・・・・何それ。・・・ひどい」
「なぁ、そうだろ。俺には日に一度しか許さねぇお前が、あいつの前じゃ自分から足開いて何度も強請ってみせたんだろ」
「・・・違う、違います。わたし、そんな。・・・・・・・・・・・・・っ」
「どーした、まただんまりかぃ。だよなぁ、ガキだ何だと馬鹿にしてる俺の前でお前が本音なんざ晒すはずがねーや」
「・・・・・・また勝手に決めつける。いつもそうですよね沖田さんて。わたしのことなんて何にも知らないくせに」

歯痒そうにつぶやいたの中に、徐々に沖田への怒りがこみ上げてきたのだろう。
わなわなと震える細い手が、彼の隊服の袖が皺になるほどきつく握りしめてきた。

「そんなら、これが最後の質問だ。――あの間抜けな昔馴染みを盾にして、俺から逃げようってぇ魂胆か」

薄笑いで尋ねれば、ほっそりした手にぱしりと頬を高く打たれた。
手にした媚薬が足元に落ちる。 がちゃんっ、と硝子が割れる耳障りな音が真下から鳴り響き、の瞳が揺れ惑う。
沖田から視線を逸らそうとしない彼女の目は、やがてじわりとわずかに潤む。 叩かれた頬を赤くしても薄笑いを崩さない沖田に、これまでにないほどの深い失望を覚えたらしい。 瞬きも忘れて凍りついたままのその瞳が、悲しげな色を帯びて曇っていく。
「・・・ひどい。沖田さんて、ほんと、最低・・・」
萎れきった声でつぶやくと苦しそうな表情で笑い、は背後の紅葉の幹にもたれかかる。 木に腕を突いて両側を塞いだ沖田から逃れるように、かくん、と膝を折って幹の根元にしゃがみ込んだ。 膝を抱え込み、色鮮やかに足元を埋めた紅葉へと顔を伏せ、途方に暮れたような様子で黙り込んだ後で視線を上げる。
その顔にはまだ涙の跡が残っていたが、普段の生意気そうで憎たらしい笑みをすっかり取り戻していた。


「・・・・・・そんなこと、どうだっていいでしょう。沖田さんには関係ないですよ」
「あぁ?」
「また嫌がらせですか、ほんと、沖田さんって子供ですよね。 わたしが気に食わないから何でも邪魔したいんでしょうけど、これはわたしと彼の問題です」

沖田さんには少しも関係ないんだから、放っといてください。
面白くなさそうに眉を吊り上げた彼を見つめて不敵に笑い、ははっきりと言い切った。
しかしその腕はまるで寒気をこらえるかのように自分の身体を抱きしめており、よく見れば手足も微かに震えている。 唇から漏れる息遣いも少しずつ荒くなっていて、頬もうっすらと赤らんでいた。 即効性が強い媚薬の効力は、すでに彼女の内側で暴れ回っているらしい。 試しに両脇から支えて立たせようとすると、震えながら地面を踏みしめようとしたロングブーツの脚は、生まれたての獣の赤子のように力が入らずかくりと折れた。
さっきの笑顔はただの虚勢か。
気づいた沖田はを抱き上げ、背中を幹に押しつける。 顔を覗き込めば思いきり逸らされたが、彼を避けるために伸び上がった首筋に吸いつき、胸を鷲掴んでしまえば後はもう容易かった。

「――ぁあ・・・!」

硬く分厚い隊服と、それなりな厚みを持つ下着。二枚の生地の上から触れて、その中に秘められた膨らみを握っただけだ。 なのに大袈裟なほどに高く大きな嬌声が、ぶるりと震え上がったの唇から放たれる。
期待以上な反応と声の大きさに、沖田は嬉しくてたまらなさそうに笑う。
「っぁ、だめ、さわっちゃ、だめっ。・・・ゃあ・・・からだ、おかしっ・・・」
懇願してくるか弱い声は、胸の谷間から首筋の間を何度か舐め上げてやるとすぐに甘い喘ぎ声に変わった。 沖田はさっきと同じように片脚を女の股下に割り入れて支え、薬に力を奪われたためにすぐ崩れ落ちそうになる腰を抱く。 もう片腕で下着ごと掴んだ胸の膨らみをゆっくりと揉んだ。冷えきった身体の手触りが、何ともいえず心地いい。 汗に濡れてしっとりと潤ったやわらかさと、黒い布地のとろみのある感触が掌にひたりと吸いついてくる。 あ、あ、あん、と彼の手の動きに合わせてが腰を揺らし始める。 薬の効力に全身を冒され、たったこれだけの愛撫でもじっとしていられないようだ。

「ぁう・・・ゃあん・・・あ、ふぁ、やめっ」
「よく言うぜ、そんだけ腰振っといて。気持ちよくてイッちまいそうなんだろ、言ってみろィ、直に触って舐めてください、ってな」
「ち・・・ちがっ・・・って、らって、おきたさ、が、っっ」
「俺ぁ一服盛ってやっただけだぜ。たったこれだけで男欲しがっちまうお前の身体が悪りーんでェ」

手の動きを速めてやれば、腰の動きも早くなった。官能的にくねる腰の曲線を撫で下ろし、短いスカートを捲り上げる。 その下に隠れていたブラと同じ手触りのショーツは、びりっと一気に引き裂いた。 破られた薄布が足元に落ちると、露わになったそこから真っ白な太腿へ、つぅっと透明なものが滴る。 が腰を揺らすたびにそれはとろとろと流れ落ちて、彼女の脚の間に割り入れた沖田の太腿まで濡らし始めた。

「ひ・・・っ、ぅう、そこ、だめぇっ、擦れちゃう、擦れ・・・っ」
「あーあぁ、何でぇこりゃあ。ちょっと胸弄ってやっただけでとろとろじゃねーか」
「あぁ、やらぁ、も、だめぇ、ぉきたさ、っ」
「なぁ、あの男は知ってんのかィ。お前が好きでもねぇ男の前でこんなになっちまう淫乱だって」
「〜〜っ」

生温い蜜で濡れ光っている黒い隊服と、そこに跨り秘所を擦りつけ艶めかしく腰を揺らし続ける女の身体。 熱の灯った目で彼女を見つめながら、沖田は揺れ動く腰を抑えつける。 膝を曲げて高く上げ、ぐっとそこへ押しつけた。熱い谷間をぐちゅぐちゅと揉むようにして膝を動かせば、びくびくと震えながらが仰け反る。 今の彼女にはそれだけで充分すぎる刺激なのか、声も出せずに達してしまった。 がくりと全身の力が抜けて、白いスカーフで覆われた沖田の首元にぐったりともたれかかってくる。 それでも胸を掴んだ手の動きを止めずにいると、揉むたびにずれていく黒い布地から、ほんのり赤くなってさらなる刺激を欲しがっている小さな蕾が顔を出す。 そこを指先で転がしたり、口に含んで舌で舐め回して弄ってやれば、は再び喘ぎ出した。

「んっ、あはぁっ、ゃあ、めてぇ、おきっ、ぉ、きたさっ」
「どうだィ、身体中疼いてたまんねぇだろ。ドラ息子どもに監禁された女の一人が喚いてたぜ。 触られただけでナカが火照って我慢できねぇ、男のもんが入ってくると気が狂いそうなくらいイイってな」
「ゃあっ、そこ、なめちゃ・・・はぅ、んっ」
「どうなるか試してみてーだろ。お前も好きだもんなぁ、俺やあいつらみてーなろくでなしに嫌ってぇほど躾けられんのが」
「〜〜っっひ、ぁあっ。ぅ・・・う・・・っ」

空いているもう一方の手で剥き出しにされた腰の丸みを撫でてやると、いよいよこらえきれなくなったらしい。 助けを乞うような上目遣いで沖田を見上げ、瞳をじわりと滲ませる。けれど、まだ最後の意地が残っているようだ。 薬を使って自分を犯そうとしている卑怯な男に屈しまいと、震える唇を噛みしめていた。
――ムカつく女だ。こんなになっても俺には弱味を見せやがらねぇ。あの男には、あんなガキっぽい顔を晒して甘えた態度を取っていたくせに。
冷えきった目を光らせて微笑んだ沖田は、そんな彼女の表情を楽しみながらベルトを外して前を緩める。 をここへ連れてきた時にはすでに熱く膨れ上がっていたものを、窮屈な下着の中から取り出した。
蜜が溢れてじっとり湿った太腿を片方だけ持ち上げれば、あられもなく開かれたの秘所が目に入る。
指や舌で解してやったわけでもないのに、そこはとろとろに濡れそぼっていた。生々しい赤に色づいて震え、女の匂いを振り撒いている。 騙し討ちで媚薬を飲まされその効力に身体を操られているだが、これではまるで自から進んで男を欲しがっているようだ。 しかもここは、人気がないとはいえ屋外だ。 誰に見つかってもおかしくない開放的な場所で脚を開かされた淫らな姿は、見つめるだけで頭の奥が痺れるほどに背徳的で艶めかしい。
抑えきれない興奮に目の色を変えた沖田は、硬く勃ち上がった先をぐっと宛がう。
彼の熱さに震え上がったを木の幹に抑えつけながら、ずぶり、と奥まで突き立てて――

「〜〜ぁあああああ!」

途端に上がった悲鳴は大きく、弓なりに反り返ったの白い喉を裂きそうなほどに鋭く高い。
深紅の林に広がった声の残響が消え果てる前に、沖田はずるりと先端まで引き抜く。 男の欲に引きずられて蜜をたらたらと溢れさせたそこを、間髪入れずに奥まで埋める。 その衝撃で爪先まで痺れ上がったのかが全身を痙攣させ、うねりを上げて締めつけてきた。

「あ、ぁああっ、イくっ、イっちゃうっ、あっ、ぁあああ・・・〜〜〜っ!」
「・・・・・・っあ・・・っ!」

熱くぬめる内壁は強烈な快感にざわめき、やわらかな襞を瞬時にきつく狭めてきた。
たった一度の抜き挿しで根元から先端まで絞り上げられ、思わず放ってしまいそうになる。 沖田は表情を歪ませてを抱きしめ、しっとりと冷たい女の首筋に顔を埋める。ぐっと唇を噛みしめて、焼けつきそうなほど熱を高まらせた下腹に全力を籠めて情動を抑える。
・・・まだ腰の震えがおさまらない。あとほんの少し締め上げられたら、あっけなく達していたところだ。
けれどそんな自分はいかにも余裕のないガキのように思えるし、には絶対にそんな姿を見せたくない。 しなやかに反った薄い背中が折れそうなほど強く掻き抱き、彼女の奥まで埋めたものをどくどくと脈付かせながらどうにか意地でこらえきった。

「・・・はっ、挿れた傍からすげーじゃねぇか。根元までぎゅうぎゅう締めつけやがって・・・っ」
「っぃ、いやぁああっ。ゃっ、やめっ、おきたさ、のっ、ぁ、あつくて、あぁぁっ」
「どーしてやめなきゃなんねーんでェ。ここなら滅多なことじゃ人は来ねぇ、クスリで箍が外れた女を躾けてやるにはうってつけだろ」
「こ・・・、答え・・・ら、戻って、い・・・って・・・!」
「あぁ、約束どおり後で部屋に戻してやらぁ。けど俺ぁ、お前に何もしねぇたぁ言ってねーぜ」
「あっ!あぁっ、あぁん、っはぁ、ひ・・・ぃぃ・・・っっ!」

ぐちゅぐちゅと泡立った音が周囲に広がるくらい滅茶苦茶に突けば、が腕に縋りついてくる。
いや、とかぶりを振って拒みながらも、抱えられた腰を捩っては悶える。 つんと立ち上がった胸の先を弄ったり、上下に揺さぶられ続けている腰や太腿に違う触れ方をするたびに、こらえきれずに悲鳴を上げる。 そのうちに相手が自分を陥れた男だということすら判らなくなったのか、ぎゅ、と夢中で沖田に抱きついてきた。

――やだ。やだ。おかしい、あつい、あつい、助けて、しんじゃう、いや、たすけて――

うわごとのようにつぶやき続ける女の声が、救いを求めて涙混じりに変わっていく。
そうして耳の中までくすぐられると、彼女の中で破裂寸前まで昇り詰めた熱が出口を求めて一層昂る。
そして、それと同じくらいに胸の奥の不快さも昂っていった。

――そうだ、そんなこたぁ判ってる。
が助けてと呼んでいるのは俺じゃない。縋ろうとしているのは別の男だ。
昔馴染みだというあいつになら、は救いを求めるだろう。 あいつに向ける表情を見れば判ることだ。俺とは違って気を許しきった相手なら、は感情が素直に表れた偽りのない表情を浮かべてみせる。 心の底からあいつを信用してきっているからこそ、普段は見せない素顔も見せる。 憎たらしい薄笑いの下に隠していた、俺には見せたことのない顔を――

・・・そうだ。信用。 俺との間には欠片もないもんだ。
一方的に貪る側と、貪られる側。お互い嫌い合ってる者同士。
同じ隊の隊長と副官という表面上の関係を除けば、俺たちの間にあるのはたったそれだけ。 けど、それでよかったんだ。生意気さが気に食わねーから躾けてやろうって女相手に、他に何が必要だ? 気紛れに身体を繋げて欲を吐き出し、それにも飽きたら捨てればいいだけ。ただそれだけの空っぽな関係が、俺たちには似合いってもんだろう。 だから何もなくてよかった。こいつが何を考えていようと、俺をどう思っていようと、そんなこたぁどうだって構うもんか。そう思ってた。

――だけど――なのに。どうなっちまってんだ。
だってぇのに俺は、どうしてその空っぽな関係に焦れているのか。
あいつが俺の知らないところで他の男と居ただけで、相手の男を斬り捨ててやりたいほど腹が立って仕方がねぇのか――



「・・・・・・ぁあ・・・畜生・・・・・・どうして・・・・・っ」

を抱くたび浮かんできていた問いかけが、頭の中を虚しく回る。
どうしてもこうしてもねぇや、とどこかでもう一人の自分が皮肉気に返す。
そう、そんなこたぁもう判ってる。これまでに何度も無視してきた答え。 を見つめるたびにそんなはずねぇやと自分に言い聞かせて打ち消してきた、けれど、とっくに手が届いていた答えだ。
それでもその答えを沸騰しきった頭の中から振り切って、沖田は両腕での腰を抱え込む。
ぐいぐいと深く先端を捻じ込んでやれば、滾った熱の塊に押し上げられた柔肉は彼を締め上げ、堰を切ったように透明な滴りを溢れさせた。 強烈すぎる快感に飲まれて、疼きが止まらなくなっているのか。 ぐちゅぐちゅと淫らな音を鳴らしながら突き上げられるの腰が揺れ動き、彼をもっと奥へ奥へと誘い込むようにして妖しくくねる。 あっ、あっ、あっ、あん、あんっ、と啼きわめく声が、甲高さを増していく。夕刻も迫って深い影が落ちた紅葉の林を、悲鳴じみた声が突き抜ける。

「あっ、あん、あぁんっ、っっ、ぁああっ」
「はは、でけぇ声。ここがどこか判ってんのか、倉庫の裏だぜ。誰か来ちまったらどーすんでェ」
「〜〜・・・っっ。ぅ・・・・んぁ・・・っ、んっ、んふぅっ」
「おい、誰も我慢していいなんて言ってねーぜ。そのみっともねぇ喘ぎ声、もっと聞かせろィ。 その声聞きつけたあの野郎がここに戻ってきやがったら傑作だ」
「ぃ・・・いやぁ・・・っ、ゃっ、ぁあ、また、いっ、いく、っちゃうぅっ、ぁあ、ああああ!」

ぽろぽろと涙を滴らせながら昇り詰めたの悲鳴が、二階建ての大きな倉庫に隠された暗がりに再び広がる。
薬の効力に縛られた女の中は沖田をぎゅっと捩じ上げて、びくびくと痙攣し続けている。 それでも沖田は律動を止めず、おかげで絶頂の高みから降りられなくなったは恍惚とした表情で空を仰ぎ、狂ったようにか細い悲鳴を上げ続けた。
ぐらぐらとただ揺らされるだけの力が抜けた細腰を抱え、離さないとばかりに腰を打ちつけ激しく動く。 首に縋って絡みついてくる女の胸が、沖田が纏う黒の隊服に押し潰されながら揺れている。 下着もずり落ち露わになった膨らみから、甘い匂いが漂ってくる。 の部屋にも漂っているこの匂い。褥や枕に染みついたものと同じ。 汗ばんできた女の肌や揺れる髪から振り撒かれている、甘い香り。嗅いだだけで身体中が熱くなってしまう、厄介な香りだ。 この香りに囚われている時間が俺は思っていた以上に好きだったのだと、今になって沖田は思い知った。 だが同時にさっきの男の姿が浮かんで、この香りに包まれながら彼女を味わった男が自分だけではないことにも改めて気付く。 そんな発見に苦い思いが湧いたのも束の間、身体は思考を置き去りにしての身体に溺れていく。 彼女の身体がずるずると背後の幹を擦って落ちそうになっても、沖田は力任せに引き上げた。

「あっっ。ぅ、やぁ、あし、ぃや、上げな、でぇ」
「うるせぇ、俺から逃げようとした罰でェ。気絶しても咥え込ませて揺さぶってやらぁ」
「ゃあん、そこ、しびれ、っ。・・・〜〜っぁあ、ぁあんっ、も、やぁっ、たすけ、てぇっ」
「助け、ねぇ。俺も楽しみにしてたんだが来そうもねーなぁ。残念だったな。どうやらあの男、お前を見捨てて隊舎へ戻っちまったらしいや」
「〜〜ぁあぁああああっ」

抱えた太腿を高く上げさせてより深くへと割り入り、女の身体で一際過敏な小さな芽に触れ押し潰す。 すると途端に熱く蕩けた粘膜がざわめいて、じゅわりと蜜を零しながら沖田にきゅうっと吸いついてくる。 熱を上げて赤く染まった耳元から髪を掻き上げ、透明な石が控えめに光るやわらかい耳朶へと噛みついた。 あぁっ、とうわずった辛そうな悲鳴が濡れた唇から飛び出ると、苦痛にまみれたその声に興奮と歯痒さが押し寄せてくる。
何度齧りついても砕けそうにない、硬質な石の冷えきった感触。
いつも彼女を飾っていた小さなこれの存在を、あの男は当然のように知っていた。当然のようにこれに触れ、に触れ、懐かしい、とまで言っていた。 これは奴がに贈ったものなのか。こんなものを贈るとしたら、あいつはの何だったのか。そして、今もこれを身に着けているはあいつをどう思っているのか――
――馬鹿馬鹿しい。そんなこたぁ考えるまでもねえや。
つまり俺ぁ何も知らずに性質の悪い女に踊らされ、いいように道化を演じさせられてた。 生意気で腹の立つ食えない女をたっぷり躾けてやったつもりが、実はしっかり手ぇ噛まれてたってわけだ。 ・・・あぁ、そうだ。ただそれだけのことじゃねぇか。
きつく齧りついていた薄い肉をぬるりと舐め上げ、ゆっくりと沖田は歯を離す。
色素の薄い前髪をゆらりと揺らして頭を傾げると、はぁっ、と荒く唸るような溜め息を吐く。 悔しげに噛みしめられていたその唇は、くくっ、と自嘲混じりな笑いをこぼしながら吊り上っていった。 腹の底から湧き上がってくる怒りを隠して寒々とした笑みを作り上げた沖田は、こつんと互いの額を合わせる。 すでに意識が混濁していそうなほど弱りきっている女の、涙を湛えたせつなげな瞳をじっと覗き込むと、

「――諦めろ、。俺ぁお前を逃がさねぇ」
「ぁあ、ぬい、て、も、だめぇ、しんじゃうぅ・・・っ」
「そこの武器庫には倉庫番もいねーし、人も滅多に来るこたぁねぇ。 お前はここで好きでもねぇ男にいいように嬲られて、気が狂うまで食い尽くされるしかねーんでェ」
「んぅ、ぉ、おねが、っあぁ、お、きたさ、ぉきたさぁっっ」

震える女の指先が宙を掻き、やがて沖田の首筋に縋って爪を深く食いこませてくる。
皮膚をひりつかせる微かな痛みにも構わずに張りのある太腿を鷲掴みすると、ずぶずぶと生々しい音を上げながら彼はを貫いた。蕩けきった熱がとめどなく生まれる奥底を、何度も執拗に押し込んでやる。 頭の芯までじんと鈍く痺れさせる、眩暈がしそうな気持ちよさが押し寄せてくる。 じきにここがどこなのかも忘れそうだ。を追い詰めていくうちに、徐々に視界が狭まっていく。 我を忘れて快楽に呑まれる女の涙に濡れた顔と、幹がゆさゆさと揺られるたびに視界を霞める落ち葉の赤しか目に映らなくなる。 がむしゃらな律動に息遣いは荒く乱れ、火照った全身に汗が滲む。胸の中では興奮に心臓が暴れ、蕩けたの中を荒らす杭に沸騰した血が流れ込んでいく。 硬い木肌にの背中や腰がぶつかる。 いつも密かに見惚れていた綺麗な肌に傷なんて一つも付けたくなかったが、どうしても動きを止められなかった。 こいつを夢中で貪り尽くす俺の姿は、きっと余裕がなくてみっともないに違いない。こんなこたぁ、女に飢えたガキのすることだ。 そう思っても止められない。

――これが最後になるのなら、俺を忘れられないようにうんと奥まで刻み付けたい。
こいつを抱いてきたどの男よりも奥まで踏み入って、束の間でいい。壊してやりたい。融け合いたい。
独占欲と未練にまみれた彼の本音は、快楽に溶かされ薄れていく。 ぐちゃぐちゃに掻き混ぜた女の中では互いの熱さや体液も融け合い、どこまでが自分なのか、どこまでがなのかもわからないほどで――


「いや、ぃやぁあ、おく、だめぇっ、あつぃの、あつ・・・っ」
「――もっと熱くしてやらぁ。俺で一杯にしてやる。お前の中、ぜんぶ・・・っ!」
「ひ、あぁああっ、〜〜ぁああ――・・・っっ!」


腰から背中をぞくぞくと何度も快感が駆け上り、いくら厭だと泣かれようとここで止まれるはずもなかった。
ぐちゅぐちゅと手荒く突いた後で、歯を食い縛りながら一気に引いて最奥を穿つ。
限界を迎えてぶるりと跳ねた杭の先が弾け、狂ったような声を上げて背をしならせるを抱きしめた。 腰を小刻みに振りたくり、全て彼女に送り込む。 熱い白濁がどくどくとの中へ迸っていく。吸いついて離れない柔らかい奥を、突き破りそうなほど強く押し込む。 途方もない快楽の波に洗われ、頭の中が真っ白になる。 それでもの中を埋め尽くしたものはまだ硬さを保っており、腹の奥に溜まった熱も一向に冷める気配がない。
はぁ、はぁっ、と荒れた呼吸を繰り返す沖田は、全身をぶるぶると痙攣させたままの女の髪に顔を埋める。 甘く扇情的な彼女の匂いを胸一杯に吸い込み、汗が伝う顔を歪めてくくっと嬉しそうに笑う。
――たいした効き目だぜ、あの薬。
あれだけ何度も達したというのに、の身体はまだ満足していないらしい。
腰が抜けてしまい自力では立てなくなっている女の中が、びく、びく、と艶めかしく蠢きはじめている。 ぬるぬると動くそこにもっと来てほしいとでも言うかのように吸い込まれると、ついさっき吐精したことが嘘だったかのように彼は火照って滾り出した。
がもどかしそうな吐息を漏らし、焦点が合っていない目が沖田へと向かう。 彼以上に息が上がりきっている女は、まだ呼吸するだけで精一杯らしい。 半開きで喘ぐ唇は甘ったるい生菓子のようにとろりと濡れ光っていて、そこから覗く赤い舌先は苦しそうにわなないていた。


「・・・・・・ゃあ・・・ひどぃ・・・・・・・ど・・・してぇ・・・・」

震えるの口端から、つぅっと細く雫が流れる。
切れ切れに漏れ出た言葉はそれだけだ。けれどその短い抗議が気に入らなくて、悔し紛れに笑った沖田は深く彼女に突き入れる。 ずん、ずんっ、と彼女を木の幹に押しつけるようにして最奥を打ちつけてやると、がせつなげに顔を歪める。じきに短く甲高い悲鳴が飛び出し始めた。 強烈な快感で頭の芯まで真っ白になったは、自分が何をされているのかもわかっていなさそうな表情で喘ぎ続ける。
そんな彼女の乱れきった姿に、沖田は明るい色の瞳を細めてぼうっと見惚れた。
少年めいたか細い喉をごくりと鳴らし、舌の付け根に湧いた唾を溢れ出しそうな欲情ごと呑み込む。 、と掠れた声で呼びながら、濡れた女の唇を塞ぐ。薬の甘さがうっすらと残った熱い舌を、夢中で絡め取り撫で上げた。

――生意気で可愛げがなくて口が悪くて、いつも憎たらしい年上の女。
けれどこんな瞬間のは、普段の彼女が嘘のように可愛らしい。
媚薬の効果が切れるまで数時間。その間に、あと何度こんな顔をさせられるのか。
もっと見たい。もっと、もっと。不意に現れたあの昔馴染みに、を奪い取られてしまう前に――




「スパイシーバニラビーンズ #3」
title: alkalism http://girl.fem.jp/ism/
text *riliri Caramelization  2014/12/20/       next →