何かと年上面してくる生意気な女を、泣かせてやりたい。
最初は確かにそれだけだった。
他の女のようにただ弄んで、気が向くままに貪って。何かといえば突っかかってくる馬鹿な女の鼻っ柱を、へし折ってやるだけのはずだった。
なのに、どうなってんだ。何がどうしてこうなってんだ――
ス パ イ シ ー バ ニ ラ ビ ー ン ズ
「・・・・・・ほんとに酷い人ですね。女の敵ですよねぇ、沖田隊長って・・・」
あんまり女を甘く見てると、いつか痛い目に遭いますよ。
掠れた声でつぶやくと、は気怠そうに首を巡らせて背後の沖田へ視線を向けた。
振り向いた女の背中から腰には赤い鬱血の痕が散り、乱れた髪が波打っている。
真っ白な胸からは透明な汗が幾粒も滴り、薄赤く色づいた小さな先までしっとりと濡れて悩ましい。
そこに指を這わせようとしたが、途端にぴしりと払われた。
強く掴めば折れそうな腕にぐいと押されて横へ転がり、交わりを解かずにいたままのそこから熱がずるりと抜け落ちる。
「――っあ、ん・・・・・・っ」
引き抜かれる感触だけで感じたのだろう。
女らしくなだらかな稜線を描くの背中が、しなやかに仰け反る。沖田の耳を蕩かしそうな、甘くせつない声を漏らす。
秘所から粘液を溢れさせた腰が、がくりと崩れ落ちてなお震えている。
実際の年よりも大人びて見える容姿に相応しく、こんなときのの身体はいつもぞっとするような色香を放つ。
火照った目つきで彼女を見つめているうちに、腹の奥をかぁっと焼くような欲求が頭をもたげてくる。
彼女の中から溢れさせたものでどろりと濡れた下半身には、再び熱が集まってきていた。
まだ足りない。もう一度腕の中に引きず込んで、嫌がられても喉が嗄れるまで泣かせたい。
けれどそれを果たせそうにないことは知っていた。どうせは許さない。
彼女が沖田に許すのは、いつでも一晩に一度きりだけだ。
触れさせてくれない女に焦れる少年の目の前で、白い肢体はぐったりと褥に沈んでいった。
ぐちゃぐちゃによれたシーツに、じわりと白濁が染みていく。どろりとこぼれた生温いものを、沖田は指で撫で上げた。
あまり触り心地がいいとはいえない粘液は、さっき彼がの内に吐き出したばかりの欲の名残りだ。
これがあのやわらかな肌とどう馴染むかを味わってみたくて、もう一度細腰を掴もうとする。
けれどは身じろぎして嫌がり、彼の手を拒み受け付けなかった。
抵抗されてより加虐心を燃え上がらせた沖田の不穏な気配や、衣擦れの音で気づいたのだろう。
彼を避けるように褥の端まで寄って毛布を被り、笑い混じりに釘を刺してきた。
「もう気が済んだでしょ。早く出てってくださいね」
は毛布の中でもぞもぞと動き、顔だけを沖田に向けてくる。人を馬鹿にしたようなにやついた目が、ふふ、と愉快そうに細められた。
何がしてーんでェ、この女。近づこうとすれば突っ撥ねる。かと思えばこんなふうに振り返って、思わせぶりな笑みで惑わす。
一体何を企んでるんでェ、お前。
ここでそう尋ねれば、どんな答えが返ってくるだろうか。
そんなことも思ったが、沖田は普段の醒めきった表情を何気なく被る。笑う女を冷えた目つきで見つめ返した。
「やめろその面、てめーが笑うと俺ぁ腹立つんでェ。それともまだ文句でもあんのかィ」
「文句じゃありません、言っておかなきゃいけないこと思い出したんです。
隊長が机の引出しにこっそり溜め込んでる始末書の束ですけど、提出期限は明日ですよ。今夜は徹夜してくださいね」
「・・・油断も隙もねーや。いつの間に人の部屋ん中家探ししたんでェ」
「そりゃあ家探しくらいしますよ、把握しておかないと全部サボろうとするんだから。ほんとに困った人ですね、隊長って。
わたしがいないと何も出来ないんだから」
「・・・・・・」
呆れちゃいますよ、とでも言いたげな素振りで肩を竦めたが笑う。
これには沖田も鼻白んだ。何でェ、たかだか三つ年上ってだけで大人ぶりやがって。これじゃまるっきり子供をあしらう親の態度じゃねえか。
まだ幼さが残る目元を歯痒そうに顰め、沖田は右手を引っ込める。
に触れようとして叶わなかった手は、行為の最中に脱ぎ捨てた隊服のシャツを乱暴に掴んだ。
――沖田よりも三つ年上のは、今は彼の副官として一番隊に所属している。
沖田は最初から彼女のことが気に食わず、おそらく向こうもそうだったのだろう。
入隊時から一貫して年下の上司を子供扱いし、生意気な振る舞いが目についていた。そんな彼女の生意気さは、今になっても変わっていない。
上司といえども年下な沖田を一人前の男扱いしてやる気など、微塵もないということか。
何を言っても効き目はないし、生意気すぎる、と苛めてやっても効果はなし。
それなら身体に思い知らせてやると、ある晩、力ずくで犯してみた。
他の隊士達からは隔離されたの自室に忍び込み、寝ていた彼女の隙を突いて襲ったのだ。
抵抗出来ないように手足を縛り、大声を上げられないようにと轡を噛ませ、しまいにはが気を失うまで手荒な遣り方で辱めた。
普通の神経を持った女なら深く傷つき、男だらけのこの環境に怯えを感じて出ていくだろう。
ところが彼女は怯えるどころか、少しも態度を改めなかった。
「あんなの躾けがなってない小犬に噛まれたようなものです。どうってことないですよ」
翌日に顔を合わせたが、人に聞かれないように気遣いながらも微笑を浮かべて耳打ちしてきたときは、さすがに沖田も相手の悪さを思い知った。
こんな女も世の中にはいるのかと、半ば唖然とさせられたほどだ。
――最悪だ。何なんでェ、こいつ。
どこまでいっても図太いっつーか、恥じらいってもんがねぇときてる。
今も彼女は肌を晒した油断しきった姿で寝返りを打ち、猫か犬でも追い払うような仕草で手を振っている。
無言で彼の退室を催促してくる女をじとりと眺めて、沖田は静かに舌打ちする。
その上に、ふぁあ、と眠そうで気が抜けた欠伸のおまけまでつけられて、悔しさなんてものは通り越していっそ首でも絞めてやりたくなった。
何があってもけろりとした顔で澄ましきっている沖田だが、人一倍な気位の高さや負けず嫌いの一面を澄ました表情の裏に隠している。
そんな彼がたかが女にこんなぞんざいな扱いを受けているのだから、何もかもが面白くなくて腹立たしかった。
「・・・けっ。可愛くねー女」
腹に溜まったムカつきごと吐き捨てるように、沖田はつぶやく。
ごろりと転がりうつ伏せになると枕に組んだ腕に凭れて、遠めに見れば少女にも見える繊細な容貌を曇らせた。
金に近い明るさの髪が貼りついた目元を顰めれば、細い眉も自然と不満そうに吊り上る。
顔をずらして横を向くと、寝乱れた女の頭が目に入る。殺気が滲んだ苛立たしげな目で、沖田はを睨みつけた。
――まったくこの女ときたら可愛げがねぇ。いくら痛めつけてやっても、いつもこれだ。
場所も時間も判らなくなるほど感じさせて喘がせているうちは幾らかましだが、終わった途端に可愛げってもんが失せちまう。
俺が揺らすたびに気持ち良さそうな声を上げ、もっと、もっとと強請るようにしてせつなげに身を捩っていたくせに。
どこを責めても子供のような甘えた声で啼いてよがって、俺を煽ってきたくせに。
だというのに終わった途端に俺を押し退け、今ではすっかり普段の小憎らしい余裕を取り戻してやがる。あの人が変わったような媚態は何だったのか。
不意にこちらへ振り向いて「あれっ、どーしたんですか。まだ部屋に帰らないんですかぁ」などと皮肉気に笑う表情も、事後の艶めかしさに染まってはいるがすっかりいつもの彼女の顔だ。
どうせ年下のガキと馬鹿にして、足元でも見ているんだろう。
こんな時のの態度には、いつも沖田をからかって楽しんでいるような節があった。
――新たな試みとして入隊を募った、真選組初の女性隊士。
研修中に続々と辞めていったその中でただ一人残り、一番隊に配属されたこの女は、最初から生意気でふてぶてしかった。
誰に対しても態度を変えず、偉そうにずけずけと物を言う。口が悪くて可愛げがなくて、どこか相手をからかうような態度で男共を煙に巻く女だ。
そんな従順さには縁遠そうな性格が、沖田には最初から鼻についた。
「そいつぁふてぶてしい奴同士の同族嫌悪ってやつだ」などと副長の土方に揶揄されたが、耳を貸す気も起こらない。
よくもぬけぬけと口にしたもんだぜ、あの野郎。ふてぶてしさにかけちゃ、あんただって相当なもんだろうに。
「・・・つーか呆れたもんだな、今頃それかよ」
「何ですか、今頃って」
「そんなことに今気付くたぁ、いくら何でも遅すぎじゃねえかって言ってんのさ。やっぱ変わってんなぁ、お前」
「わたしは普通ですよ、変わってるのは隊長でしょう。
こうやって好きでも何でもない女のところに何度も来て、嫌がられても無理やりするのが愉しいなんて」
最低ですよ。趣味悪い。
は肩を揺らしてせせら笑っている。やっぱこいつ変わってやがる、と沖田は胡乱げに瞳を細めた。
任務ではそつのない仕事ぶりを見せているだ。
女としては頭が切れるほうのはずだが、時折、どうも察しが悪いというか、首を傾げたくなるような反応をする。
俺が最低だと。趣味が悪いだと。どっちも否定する気はねえが、今更それかよ。随分と気付くのが遅せぇじゃねえか。
いつも無理強いで媾うだけの人に言えない関係になってから、ゆうに数か月は経っているのに――
「だからそれをどーして今頃気付くのかって言ってんだろ。もしもお前が真っ当な女なら、とうの昔に判ってそうなもんだぜ。
俺が最低最悪のろくでなしで、今すぐここを追い出したほうがいい手合いだってこたぁ」
「ああ、違いますよ。隊長のこと酷いって言ったのは、わたしの扱いが酷いとかそういうことじゃありません。そうじゃなくて、あれ」
とろりとした質感のミルク色のネイルが光る指先が、枕元を差す。そこには女性から貰ったと一目でわかるものが見えていた。
沖田が脱いだ隊服から、それは顔を覗かせている。
花柄の包装紙で包まれた小さな箱。造花を添えた派手なリボンが飾ってあり、可愛らしくも甘ったるい印象だ。
「聞きましたよ。新入りの女中さんから貰ったんでしょ」
「・・・。何でェ、もう知ってんのかィ」
「そりゃあそうですよ、屯所中で噂になってますから。沖田隊長が女中さんに告白されてプレゼントまで貰ったのに、その場で突き返して泣かせたって」
「泣かせちゃいねーよ。あんまり押しつけがましいんで「うぜぇ」っつったら、顔青くして逃げてっただけでェ」
「うわぁ、ひどい」
それって泣かせたも同然ですよ、とは苦笑いして、
「あの子も今頃後悔してるんじゃないですか、あんな顔だけの男好きになるんじゃなかったって」
「あー、そーいやぁ逃げ際に捨て台詞吐いてやがったなぁ」
「捨て台詞?えーっ、すごい。よりによって隊長をディスったなんて、命知らずな子ですねぇ。ねぇ、何言われたんですか」
「さぁて、どーだったかねィ。もう忘れちまった」
江戸中の浪士たちを震え上がらせる局内随一の遣い手が、剣など握ったこともなさそうな普通の娘にどんな言葉で罵られたのか。
相当に興味があるらしく、は目を輝かせている。
沖田は枕に顔を伏せ、至極どうでもよさそうに「どーでもいーや、いちいち覚えてらんねーよ」と欠伸混じりにつぶやいた。実際、どうでもいいことだった。
今朝突然に声を掛けてきた女の顔は確かに目にしたはずなのに、今となってはどんな目鼻立ちだったかも、何を言われたのかもよく覚えていない。
「俺に告ってくる女の捨て台詞なんて、どれも大概同じだぜ。
こんな人だとは思わなかったとか、見た目がいーからっていい気になるなとか。どいつも面白味に欠けるっつーか、似たりよったりでつまんねーや」
そう、こんな騒ぎには慣れている。
慣れすぎて飽きがきているほどだ。いきなり女に呼び止められるたびに、沖田は内心「またか」と思う。
あれは呼んでもいない面倒事が勝手に自分に寄ってきて、目の前に勝手に立ち塞がろうとしているようなものだ。
今朝も寝坊して朝飯を食いっぱぐれるかどうかという時に女中が目の前に現れたので、早くそこを退いてくれ、つーかさっさと失せろ、なんてことを言ってやりたい気分になった。
興味がないので数えたことなど一度もないが、これで女に告白されたのは何度目になるだろうか。
近藤たちと江戸に出てこの隊服を纏うようになってからというもの、沖田は数える気もなくなるほど似たような目に遭ってきた。
最初のうちは面白がって、寄ってくる端から手当たり次第に食い散らかしていった。
しかしじきにそれもつまらなくなった彼は、声を掛けてきた中から好みの女だけを選ぶことにした。
自分と趣味嗜好が合いそうな女は、顔や仕草を目にすれば大体は判る。そいつらは適当に遊んで躾けてやり、そういった「例外」以外の女は相手にしない。
今ではそうして自分なりの線引きをしている。とはいえ中には一度断られても諦めず、どうしても付き合ってほしいと食い下がってくる女もいるものだ。
とりわけ沖田はそういった女が嫌いだった。
そういった女たちはどれも容姿がそこそこ良く、表情の端々に「自分がフラれるはずがない」とでも言いたげな、過剰な自信を覗かせているものだ。
彼女たちはなぜか揃って彼の好みには程遠く、沖田が生来の意地の悪さを発揮すれば揃って泣いて逃げていく。
件の女中もそういった類の女だったため、今日の事件もよくあるつまらない騒ぎの一つとしか思えなかった。
「いつものことでェ」とあっさり割り切り、沖田は枕に顔を埋める。
目を閉じて深く息を吸い込んでみれば、甘い香りが漂ってきた。
この枕にも褥にも染み込んでいる、眩暈がするほど心地いい匂い。
の匂い。彼女を抱きしめ首筋に顔を埋めれば髪や肌から立ち昇り、嗅いだだけで身体が熱くなってくるから厄介だ。
身体の芯に湧いた疼きを寝返りを打って誤魔化しながら、沖田は密かにやりきれなさそうな溜め息を一つ吐き出した。
「つまんないって・・・かわいそう。勇気出して告白したのに、そんなふうに思われちゃうんだ」
「知らねーや、向こうが勝手に俺に夢見て勝手に騙された気になってんだ。勝手に地獄に堕ちるのが筋ってもんだろ」
ふぅん、とが鼻にかかった甘い声音の相槌を打ち、
「隊長から見ればそうかもしれないけど・・・でも。かわいそうですよ、やっぱり」
ざわ、と掠れた衣擦れの音が鳴り、ゆっくりと沖田に向き合った彼女が真っ白な腕を伸ばしてくる。
内心ではどきりとさせられた少年の微妙な表情の変化に、気づいているのかいないのか。
沖田を見つめた瞳が瞬き、微笑を崩さない女の唇がうっすらと開く。艶めかしく動いて吐息を零すと、は何を思ったのか自分から彼の頬に触れてきた。
男の自分とは違うやわらかな手つき。いつ触れてもひんやりと冷たい指で撫でられると、思わず息を詰めそうになった。
わずかに強張った少年の面立ちを、精緻な美術品にでも見惚れるようなうっとりとしたまなざしが見つめてくる。
男のそれにしては白く透き通った彼の肌を指で味わうかのように、何度も撫でると、
「ふふっ、あの子もこれに騙されちゃったんですね。隊長ってほんと見た目負けっていうか、ほとんど詐欺ですよね。黙ってれば綺麗なのに・・・」
「――」
濡れた瞳をふっと細めた女の顔が、心の底から楽しげに笑う。
ぞくりと背筋を這い上った何かに一瞬で煽られた沖田の内に、彼女をこのまま組み敷いてしまいたい欲望がたちまちに膨れ上がっていった。
いつもこうだ。何気なく触れた手の感触や、何か思惑を秘めた表情だけで、は沖田を昂らせてしまう。
たまらなくなって手を掴もうとしたが、やはりは許さなかった。
彼の指先が今にも触れるかというところで、すっと手を引き離れていく。
再びころんと寝返りを打つと褥の端に身を寄せて、さっきまでの甘い雰囲気は何だったのかと疑いたくなるような表情でにやつき始めた。
鬱憤が溜まる一方の俺をからかうのが、楽しくてたまらないんだろう。
じわじわと殺気を漲らせ始めた彼の気配や表情の変化も、ふてぶてしいことに笑って無視を決め込む気らしい。
「――なんだかもったいなくないですか、少しくらい話してみればよかったのに。あの子って隊長と同じ18歳らしいし、意外と話が合うかもしれませんよ。
そうだ、一回デートしてみるとか」
「興味ねーや。あーいう女は躾けても面白かねーんでェ」
「・・・ふーん、そうなんですか。隊長ってそういうとこ、決めつけちゃっててつまんないですね」
「ふーん」の前の沈黙で、の顔から表情が消える。
けれどすぐに表情を変え、やけに神妙な調子の「そうなんですか」が続いた。
その些細な変化にちょっとした引っかかりを感じはしたが、その後の「つまんないですね」のほうが沖田の耳には引っかかった。
ついさっき抱いたばかりの女から男が言われる言葉としては、「つまんない」は十二分すぎるまでに衝撃的だ。
「あの子、今日は体調が悪いって早退したそうですよ。明日からはもう来ないんじゃないかってみんな言ってます。隊長、知ってました?」
「知ってらぁ、昼に土方の野郎が怒鳴り込んできたぜ。あの女、女中仲間にチクったらしいや」
「このラッピング可愛いですね。ね、何貰ったんですか」
「しらねーよ、開けてねぇし」
「ねぇ隊長、気になるから開けていいですか」
「そんなもん、見てどーすんでェ」
「・・・どうするって、・・・・・・・」
そうつぶやくとはほんの一瞬だけ、沖田にとっては見慣れない表情を見せた。
隊の副官だけあって日頃から彼女と一緒に居る時間は長いが、どうもこれまでの記憶にはない顔つきだ。
気まずそうに目元を曇らせ睫毛を伏せるその表情は、尋ねられたことに困っているような、どこか拗ねてもいるような――
けれどそんな表情もすぐに消え、いつもの人を翻弄するような笑みを戻して、
「どうもしませんよー。気になるから見たいだけです」
「・・・・・・」
「止めないんですね。じゃあ開けてもいいってことで」
枕元に転がされた甘い色の小箱に、は手を伸ばそうとする。
しかし彼女が身体を起こす前に、沖田は細い二の腕を掴んだ。
「・・・どーいう意味でェ」
「え?」
「言ったじゃねーか、・・・・・・って」
ぎり、と骨が軋みそうなほど強く、の腕を握りしめる。
「え?」じゃねーや、しらばっくれやがって。お前が言ったんじゃねえか、「気になる」って。
何が気になるんでェ。他の女が俺に何を贈ったかが気になるのか。それとも、単なる好奇心から口にしただけか。それともお前が、少しは俺を――
一旦は喉まで出かけたその言葉を、無理やりに飲み下して押し黙る。
最後に思い浮かんだのは、何を置いても尋ねてみたい問いかけだ。
けれどそれは同時に、の前では絶対に口にしたくない問いかけでもあった。
不思議そうに見つめてくる女の目から、沖田はふいと視線を逸らして、
「・・・・・・何なんでェ、そいつは。・・・てめえはいつもそうじゃねえか、思わせぶりな真似ばっかしやがって」
「え、なに、何ですか。今よく聞こえな・・・、――っ、ちょっ、た、隊長っ」
褥に沈んだ女の身体から毛布を剥ぎ取り引きずり寄せて、まだ汗や粘液に濡れた太腿を掴む。
「やだ、だめ、もう帰ってって言ったじゃないですかっ」
抗議の声を上げながら、は腕を掴んできた。だが、女性的な見た目に反した腕力を備えた沖田にとって、女の力は捻じ伏せるには容易い。
何より、すでにの抗議など聞き入れてやる気がなくなっている。
細い足首をぐいと掴み上げてあられもない格好に割り開き、沖田は奥まで突き入れる。ぐちゅっっ、と濁った音を上げ、の中にいきなり全てを呑み込ませた。
屯所の喧騒から離れた静かな部屋に水音は大きく鳴り渡り、真っ白な肢体は声も上げずに跳ね上がった。
「〜〜〜っっ。っっあ、っひ、ひど・・・っ、もっ、今日は、だめって・・・!」
「そいつは何の話でェ。俺ぁんなこたぁ聞いてねーぜ」
「っゃあ、やめっ・・・そ、そうやって女を甘く見てると、いつか痛い目に」
「それぁさっきも聞いた。つーか、甘く見てんのも痛てぇ目に遭わされんのも俺じゃねぇ、おめーのほうだ。それ以上俺を怒らせんじゃねーや」
「――っあ・・・んんっ、ゃっ、隊長っ、ねぇ、やめ――・・・ぁあ!」
口では嫌がるの中は、まだ充分に熱い潤みに満ちていた。
突けば突くほど狭くうねって、淫らに響く水音を零す。
熱い中で抉るような抜き挿しを繰り返すたびにだめだと言って泣くくせに、の泣き声は沖田が大きく腰を揺らせば揺らすほど快楽に濡れて甲高くなる。
やわらかな唇はきつく噛みしめられ、頬はぽうっと血を昇らせている。瞼の縁から今にもこぼれそうな涙を溜めた目が恨めしげだ。
苦しげに喘ぎながら彼を見上げる表情はさらに淫らさを増していき、沖田を捉えて離さない。
「〜〜・・・・・・っ。こんな、ひどぃ・・・っ、あ、あぁんっっ、ゃあ、っん、だめぇ、ぉ、沖田、さぁ・・・っ」
「・・・っ、く・・・・・・・っ」
喉を詰まらせた涙声に名を呼ばれ、息を詰めた沖田が動きを止める。
うっすらと紅潮した胸の膨らみを包んでいた手に、握り潰しそうなくらい力を籠める。
組み敷いた女の身体が、あぁっと弱々しい悲鳴を上げて大きく仰け反る。
痛みに震えているくせに、ずぶずぶと深く突いてやれば腰をくねらせて彼の動きに合わせてきた。
「はぁっ、あぁん、ぉ・・・沖田さぁんっ」
「――呼ぶんじゃねぇ」
「・・・っ」
「何でェその顔、えらく不満そうじゃねーか。俺にヤられんのがそんなに嫌なら、大声上げて人でも何でも呼びゃあいいさ。
・・・けどな。次に俺を呼んだらぶっ殺す」
「・・・・・・やっぱり、ひどぃ・・・」
「はは、そいつぁ俺にとっちゃ誉め言葉だぜ。てめーにしちゃあ珍しく気が利いた褒美に、その口、しばらく聞けねーようにしてやるよ」
はぁ、はぁ、と呼吸を乱しながらも目を見張ったは、悲しげに眉を曇らせていた。
その表情から何か言いたげな気配を感じて、半開きで喘ぐ濡れた唇にさっき拾ったシャツを手荒く押し込んだ。
呼吸も出来ずには苦しげに呻いたが、沖田は今にも弾けてしまいそうなほど膨張した先端を彼女の弱いところに強くぶつけ、意地になって腰を前後させる。
ぶつけるたびに女の身体はびくびくと仰け反り、繋がっているそこから透明な蜜がとろとろと溢れ出た。
より狭くなった内壁をこじ開けるようにして荒々しく擦ってやると、それだけで我慢出来ないくらい感じてしまうらしい。
沖田の衣服で塞がれた唇はくぐもった声で甲高く啼き続け、快感と息苦しさに責め立てられて涙を浮かべているの身体はひっきりなしに足先まで震え上がっていた。
・・・冗談じゃねーや。こいつの前で弱味を晒すなんざ絶対に御免だ。
知られてたまるか。あの唇から自分の名前が紡がれた瞬間、それだけで煽られて昇り詰めそうになったなんて。
絶対に、死んでも御免だ。ただでさえガキだ子供だと見縊られてるってのに、閨の中でまで見縊られるなんざ最悪だ。
沖田は薄い唇からせつなげな呼吸を深く吐き出し、ぎりっと奥歯を食い縛る。それでも歯の隙間から荒く上がった吐息が漏れて、いっそう歯痒くさせられた。
「ぉ、きたさぁ、っ、めえっ、あぁ、またっ、いっ、いっひゃうぅっっ。〜〜〜ぁあっ、ああああっ!」
蕩けそうな感触で沖田を包んでいるそこが、突如うねって絞り上げてくる。
あっけなく絶頂を迎えたが、腕の中でがくがくと震える。布地を詰められ無理に開かされた唇の端から、とろりと甘そうな唾液が伝う。
「ぁあ、まだ・・・まだ、うごいちゃ、だめえ、ぉ、きたさぁ・・・っ」
悔しげに歪めた目元に透明なしずくを溜めたが、くぐもった声で彼を呼ぶ。
呼ぶな、と戒められたことなど、この顔つきでは忘れていそうだ。
いくら泣いても止めて貰えない抜き挿しが送り込んでくる快楽に、女の表情は囚われていた。
涙に濡れてぞっとするような色香を放つその顔に、背筋が粟立ち激しい衝動が湧き起こる。
・・・・・・あぁ、この女、マジでムカつく。気に食わねぇ。
何なんだこいつ。好きでも何でもねぇガキくせぇ奴にこんな辱めを受けておいて、どうして一度も逃げやしねえ。どうしていつも笑ってやがる。一体何を考えてやがる。
それに――何がどうなっちまったのか。俺も俺だ。
こうして抱けば抱くほどに疑念や苛立ちは募るのに、どうしてこいつばかり欲しがっているのか。
抱けば抱くほど、蕩けきったこの声に呼ばれるほど判らなくなる。
このムカつく女の奥に秘められた甘さを知れば知るほど、惑わされていくだけなのに。
抱けば抱くほど、こいつのいいように踊らされっぱなしになるっていうのに。だってぇのに、どうしちまったのか――
「ぅ・・・はぅ・・・・・っ、あぁっ、やあ、まだ、ぁあん、だめぇっ」
「はっ、こんだけ締めつけといてよく言うぜ。嫌がるくせにナカじゃずっぽり咥え込みやがって、浅ましいったらねーなぁ、おめーの身体は」
沖田は唇の端を高く吊り上げ、じっとりと汗が伝う顔に冷笑を浮かべる。
ぐずぐずに蕩けつつも彼を締めつけて離そうとしない内側を、早い律動で擦り上げていく。
腕に縋りついて乱れている女の耳に、歯を立ててきつく齧りつく。
ぷつりと噛み切れてしまいそうなほどやわらかいそこに、お仕置きだ、とばかりに鋭い痛みを刻みつけてやった。
あぁっ、とかぶりを振って表情を歪めたの耳には、小さなピアスが輝いている。
ピアスといっても、そう目立つものではない。ダイヤモンドらしき透明で小さな石が一粒嵌めこまれているだけだ。
普段は髪に隠れているが、彼女はいつもこれを付けている。
沖田以外はあまり目にすることはないそのピアスごと耳朶をぬるりと舐め上げて、また噛んでからその耳の中へ舌を捻じ込み吐息を吐いた。
するとの中で締めつけが強まる。さらに乱暴な動きでぐちゅぐちゅと突けば、やわらかで熱い襞がそぞろ動いてきゅうっと彼に絡みついてくる。
身体の横で抑えつけている真っ白な太腿まで、彼女の中の動きに合わせてぶるぶると震えて、
「〜〜っっ・・・ゃ、んぅう、ぁう・・・っ、ぉ、沖田さあぁ・・・んっ」
「どうした、。さっきより締めつけてるぜ。そんなに嬉しいかィ、好きでもねぇ男におめーの恥ずかしいここを滅茶苦茶にされんのが」
「やめ・・・やめて・・・・・・ぅう、も、おきたさ、なんて・・・っん!やっ、ああぁっ」
「黙れ、躾けられる雌の分際で御主人さまに逆らうんじゃねーや。・・・ったく、クソ生意気な女でェ」
沖田はわざと酷薄な調子を装い、震えが止まらないの耳に再び嘲りの言葉を注ぐ。
少しでもを騙して、勘のいい彼女の注意を逸らしたかった。そうだ、これはガキの強がり。
いくら痛めつけても思い通りにならないムカつく女に、これ以上を見透かされたくはない。
何か訴えたそうにしているの潤みきった視線を、沖田は挑むような嘲笑で受け止める。
ぱん、ぱんっ、と破裂音を鳴らして腰と腰をぶつけるたびに、泡立った粘液がそこから飛び散る。
今や褥は二人の汗とぬるい粘液で湿りきって、動いても動いてもじっとりと肌に貼りついてくる。
火照りきって薄桃色に変わった艶めかしい肢体が、男に嬲られどろどろに熔けた淫らなそこが、自分の欲の塊で犯されている様に興奮する。
皆の前では生意気で何を考えているのか判らなくて、可愛げなんてどこにもない変わった女。
そんながここまで乱れて、人が変わったような素直さで身体を委ねては泣き喘ぐ。
彼女が誰にも見せたがらないだろうこんな秘密を握っているのは、ここでは自分ただ一人だけだ。
そう思えばどこか優越感にも似た、ぞくぞくするような嬉しさがこみ上げてくる。
汗ばんだやわらかな太腿を撫で上げ、膝裏を掴み直して彼女を自分へ引き寄せれば、
「ぁっっ、だめぇ、それ、んぅっ」
「よく言うぜ、ちょっと奥突かれただけでこれじゃねえか。なぁ、どこがダメだってぇんでェ」
「ゃあ、だめ、だめなのぉ・・・ふかく、て、ずん、って・・・あっ、あぁ、っぁあああ!」
密着させられより深くなった繋がりのせいで、ぐちゅりと鋭く抉るたびにうっすらと濁った生温い蜜が溢れ出してくる。
ネイルが光る白い指先が震えながらも触れてきて、冷えた手の感触に息を呑む。
どこまでもやわらかく絹のようになめらかな女の身体は、はぁ、はぁっ、と艶めかしい息遣いを漏らしながらぎゅっと首に縋ってきた。
明るい色の前髪から雫が伝うその顔に、沖田はかすかに陶酔を漂わせた笑みを浮かべてを見下ろす。
全身の血が集まって熱く滾った杭の先で小刻みに弱く揺さぶり、かと思えば奥を激しく突いて、彼女がすぐに達してしまわないように焦らしながら責め上げた。
――こうしている時だけだ、が生意気な態度も忘れて縋りついてくるのは。
胸の奥ではあまり味わったことのない昂揚が広がり、心臓がばくばくと脈打っている。
根元からぎゅっと締め上げてくる中のきつさに飲まれそうで、満足に息すらつけなくなってくる。
それでも可愛げがない年上の女を思うままに啼かせている充足感が、彼をひたすらに衝き動かし続けた。
唇を食い縛って達しそうになるのを耐える沖田の身体は、まるで何かに乗り移られたかのように夢中でを追い込み始める。
何も考えず、頭の中を空っぽにして、硬く滾った自身の熱で女の身体を揺さぶり続ける。
揺さぶるほどに新たな快感で塗り替えられて、徐々に思考はまどろんでいく。
自分を包んだ女の蕩けるような気持ちよさに全身の感覚ごと呑みこまれる寸前で、再び彼は思い返した。
――何かと年上面してくる生意気な女を、泣かせてやりたい。
最初は確かに、それだけだった。だが、今は、
――今はどうだろう。 俺はこいつを、どうしたいのか――
それ以上を考えてしまえば、きっと取り返しがつかなくなる。
沖田はの口に押し込んだ布を引き抜き、あっ、あっ、あっ、と短く高く喘ぐばかりの唇を奪う。
んんんっっ、と白い喉を逸らして狂おしげに達した身体に深く突き立て、逃がさないよう強く掻き抱く。
びくびくと蠢く熱い中を新たな高熱と絶頂で溢れ返らせると、考えるほどにいまいましさが増していくだけの思考をふつりと断ち切った。
「スパイシーバニラビーンズ #1」
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text *riliri Caramelization 2014/11/30/ next →