――左へ行けば、駅へと続く大通り。 右に行けば、先生が車を停めて待っている裏通り。
朝から昼過ぎまで続いた特別講習が終わった塾から、は人の波に押されるようにして外へ出た。
駅へ向かう友達と手を振って別れると、困りきった顔で立ち竦む。
先生はもう待ち合わせ場所に着いているはずだ。だけど足が動かない。
きのう一晩中、ほとんど眠らずに考えてやっと決心がついたのに――いざ約束の時間が来たら、やっぱり尻込みしてしまう。
どうにか覚悟を決めて右へ踏み出し、裏通りに繋がる角を曲がると、そこからはバッグの中ペンケースやポーチがかちゃかちゃと弾むような勢いで走った。
ここでもう一度足を止めたら完全に怖気づきそうというか、今すぐ回れ右して逃げ出してしまいそうな気がするからだ。
普段とは反対の方向に進んでいるだけなのに、心臓のどきどきが止まらない。なんだかすごくいけないことをしている気分だ。
もしここで友達や知り合いに会ったらどうしよう。
そう思ったら背中に汗が伝ったけれど、ビルとビルの隙間を走る細い道を駆け抜けた。
強い陽射しがじりじりと照りつける真昼の街は、サンダル履きの素足が焦げつきそうな暑さだ。
狭い通りを突っ切っていく車が起こすもわっとした熱風に、髪やスカートを煽られる。
飛び込んだ裏通りには、見るからにいかがわしい雰囲気の店やお酒を飲むための店ばかりが並んでいた。
見慣れない街のあやしい雰囲気や、知らない匂いに足が竦む。
でも、先生がこの通りを待ち合わせ場所に選んだ理由がなんとなく判った。
ここなら友達に会うことはなさそうだし、あの塾に通う同じ高校の子と出くわしたりもしないだろう。
数人の大人や宅配便のトラックとすれ違っただけで、先生の車が停まったコインパーキングに辿り着けた。
「――へぇ。ほんとに来たんだ」
言われていた通りに助手席のドアを開けて乗り込むと、煙草を咥えた先生は意外そうに瞬きしながらを眺めてきた。
そんな反応をされるなんてこっちが意外だ。ううん、心外だ。ここに来いと言ったのは先生なのに。
が不満そうに眉を寄せると、先生は煙草を挟んだ指まで揺らして可笑しそうに笑う。赤々と火が灯った先で頭上のミラーをすっと指して、
「そこにお前が映るまで、あーこりゃあすっぽかされたと思ってたんだわ」
「・・・そんなこと、しません」
「しそーだったじゃん。昨日は授業中もLHRでもぜんぜん目ぇ合わせてくんねーし」
俺ん家来たらどうなるか、昨日のあれで解っただろーし。
そう言った先生がミラー越しに含みを持たせた視線を流してくるから、どきっと胸が高鳴ってしまう。
そう、たしかに昨日は先生と目を合わせなかった。けれど、無視していたわけじゃない。恥ずかしくて目が合わせられなかっただけだ。
男の人に身体を触られたのも初めてなのに――なのにあんないやらしい声を上げてよがっていた自分を、先生と目が合うだけで思い出してしまいそうだったから。
ふんわりした白いブラウスの開き気味な胸元を隠すようにして置いたバッグを、両腕でぎゅっと抱きしめる。
先生がこっちを見ているのは判ったけれど、短めなスカートから伸びた自分の素足にぎこちなく視線を固定した。
学校の駐車場でも見かける古い型の車はちいさめで、中もそれなりに狭かった。
おかげで運転席がとても近くて、見慣れない私服姿の先生から妙な圧迫感を感じてしまう。先生がちょっと身じろぎしただけで、びくっと反応してしまうくらいに。
「――まぁ、ぶっちゃけ今日は期待してなかったし。すっぽかされてもしゃーねーか、くらいのつもりで来たからどっちでも良かったんだけど」
「・・・だって。・・・・・・いちおう、約束だし」
「はは、あっそ。やっぱ真面目だよなぁ、は」
しどろもどろに答えれば、乾いた声で笑った先生が可笑しそうに目元を細める。
学校にいる時とあまり変わらない、飄々とした態度だ。だらしなく緩んだ咥え煙草の口許から、白い煙がふっとこぼれる。
その唇の動きを無意識に目で追っていたは、途中であわてて視線を逸らした。
昨日のことを急に思い出してしまったせいだ。
先生があの唇でどんなことを囁いたか。どんなふうににキスをしたか。あの唇をどんなふうにの身体に這わせて、肌に噛み痕を残していったか――
どの記憶も生々しすぎる。思い出しただけで頭の中がかぁっと火照って、全身がじんわり汗ばんでしまう。
エアコンからの冷風で少し涼めたはずなのに、顔や耳にも一気に血の気が集まっていった。
「・・・そ、それに先生、言ったじゃないですか、どっちがいいって。・・・あの・・・選んで、いいんですよね・・・?」
「あ?何それ。選んでって、何を」
「だから、あの、・・・・・・塾の勉強、おしえてくれるって」
「あー、あれな。お前本気にしたんだ、あの二択」
「・・・っ!?」
そんな、とは目を丸くする。片眉だけを微妙に上げた先生に面白そうに眺められ、さーっと血の気が引いていった。
――うそ、ずるい、冗談だったなんて。あの二択があったからまだ安心していられたのに・・・・・・!
「んじゃ行くか。このまま俺ん家直行するけど、いい」
「せっ、先生!やっぱりわたし、む、無理・・・!」
「あれっ。もう逃げたくなっちまった?」
こくこくと必死に頷けば、先生は「ふーん」とだけつぶやいて煙をふっと吐き出した。
何か考えるような目つきでフロントガラスの向こうを眺めながら、
「――いいぜ、別に無理強いする気もねーし。このまま家まで送ってやるわ」
「は、はいっ。すみませ」
「なーんてな。今の、嘘」
「っ・・・!?」
はは、と乾いた声で笑う横顔は、ちっとも笑っていなかった。すっかり顔を引きつらせたは、逃げ出したくてたまらなくなる。
窓を閉め切った車の中には、先生が煙を吐くときの溜め息のような息遣いと車内を震わすエンジン音だけが響いて――
「これでも一応考えたんだぜ。
昨日の今日だしあんまり怯えさせてもアレだよなとか、下手打って嫌われたくねーなとか、もし嫌がられたら今日のところは逃がしてやるか、とか。
・・・なーんてことも思ってたんだけどな。お前の顔見ちまうまでは」
「え・・・っ?」
「悪りーな。気が変わっちまったから逃がしてやれねーわ」
そう言った先生は、斜め前に身を乗り出してきた。
肩と肩がぶつかりそうになってびくんと背筋が跳ねたけれど、別にに近寄ろうとした訳ではなかったみたいだ。
シフトレバーの横から灰皿を引き出し、そこに吸い殻を押しつけて捨てる。それからこっちへ視線を向けて、何か言いたげな顔になった。
「、塾の日は毎回こんな短けースカート穿いてんの」
「は・・・はい・・・?」
「なんか許せねーんだけど。誰に見せてんだよ」
頬を赤らめ固まったの前に、先生の腕が伸びてくる。
肩を竦めて身構えていると、その手はの前を通り過ぎて助手席のシートベルトまで伸びていった。
ぐい、とベルトを引いた手が目の前をもう一度通り過ぎ、身体がシートに拘束される。
かちゃん、と金具を嵌められると同時で、目の前がふっと暗くなる。眼鏡越しの視線に射竦められたの心臓は、どきんと高く跳ね上がって――
「なぁ、誰」
「・・・・・・ち・・・違います。いつもは、こういう服じゃ、なくて・・・だから、ぁ、あの、・・・塾の誰かとかじゃ、なくて・・・」
至近距離から見つめられる気恥ずかしさに耐えられない。もごもごと途切れがちに喋ったは、バッグを抱きしめ身体を縮める。
誰って――そんなの、もちろん決まってる。見せたかったのは、もちろん先生だ。
先生に会おう。一晩かけてそう決めてから、はクローゼット中の服をひっくり返した。
これでもないあれでもないと悩みに悩んでこの服に決めた。――そうだ。全部先生のため。
普段の倍は時間をかけて整えた髪も、服も、靴も、全部――全部先生のため。先生のために悩みに悩んだ。
自分の容姿にはちっとも自信がないけれど、好きな人の目にはほんの少しでも可愛く映っていてほしかったから――
「・・・先生です。今日は、先生に会えるから・・・だから、どうしようって、すごく悩んで・・・いつもよりうんと頑張ったつもり・・・なんですけど・・・」
ぽうっと頬を染めたは、潤んだ瞳で先生を見つめ返した。
すると先生は、珍しく拍子抜けしたような顔になった。それから困ったように眉間を曇らせ、前髪をぐしゃぐしゃに掻き回す。
かと思えば、顔を傾けながら一気に間を詰めてきた。の唇はやわらかい感触で深く塞がれ、中に滑り込んできた舌を伝って煙草の匂いが流れ込んでくる。
先生の唇が離れ、角度を変えてはまた塞がれる。そのたびに、かちゃ、かちゃ、と眼鏡が鼻先にぶつかってきた。
抵抗しようと伸ばした手も掴み取られ、びく、と背筋が震え上がる。
――煙草の匂いが薄く残った大きな手に、昨日の準備室で感じたのと同じ熱さと強引さを感じたから。
「――ったく、だからそれがダメなんだって。お前さぁ、妙なとこで物覚え悪りーのな」
「っだ・・・だめ、って・・・・・っふ、・・・ぅ、く・・・」
「昨日も注意しただろーが。無意識にそーいう顔してっから、俺みてーな悪い大人に捕まっちまうんだよ」
あわてて後ろへ退こうとした腰に素早く腕を回しながら、先生はちょっと不機嫌そうに咎めてくる。
押し返してもびくともしない。シートベルトで押さえられていた身体に男の人の身体の重みまで加わって、ちっとも身動きが取れなくなった。
はぁ、んん、と息苦しさに喘いで引っ込めかけた舌を、先生の舌が追ってくる。
逃がさない、とでも言いたげな動きで、濡れた熱はぬるりと絡みついてきて、
「っせ、せんっ・・・ゃ、んふ、ゃめ・・・っ」
「やめねーよ。うっかり男を煽るとどーいう目に遭うか、身体で覚えさせてやる」
「――・・・っ!ゃ・・・っ、っん」
先生の声が頭に響いて、身体の奥がじぃんと痺れる。
それだけでも身体がびくんと震えてしまったのに、歯列や顎の裏の粘膜をゆっくりとなぞられてしまえば震えが止まらなくなった。
昨日知ったばかりの大人のキスだ。口端から漏れた唾液のしずくが生温く滴り、口内どころか頭の中まで掻き乱されているみたいだ。
薄いスカート越しに腰を撫でられ「こーいうの、俺の前だけにしといてくれる」と囁かれたら、胸がきゅんとして熱くなる。
自然と手足から力が抜けていって、あ、あぁ、と自分でも驚いてしまうような甘い声が漏れ始めた。
「わかった?返事は」
「・・・・・・っせ、んっ、せ・・・・・・」
「――ん、なに」
「や、やだ・・・ここじゃ、いゃ」
――先生も、そして自分も信じられない。
密室の車内にいるとはいえ、透明な窓の外は屋外だ。
これじゃあ誰に見られてもおかしくない。路上でキスするのと危険度はたいして変わらない。
さいわい近くには誰もいないけれど、昨日以上に危ない場所でキスしているようなものだ。誰かが通りかかったら。他の車が来てしまったら。そう思っただけではらはらする。
なのにシートベルトと男の人の上半身で押さえつけられた身体は、服の上から撫でられるほどにもどかしい熱を帯びていくから困ってしまう――
「平気だろ。誰も来ねーし」
「んぅ、やだ、や・・・っ」
「嫌なら俺ん家来いよ。来るよな?」
「んっ・・・・・・んせ、の、おうち・・・・・・連れてって・・・っ」
この危ない状態から一秒でも早く解放されたくて、は縋りつくようにして先生に頼んだ。
ところが息苦しさをこらえながら必死につぶやいた言葉には、の意図とは違う効力があったらしい。
それを聞いた先生は一瞬動きを止めてくれたけれど、キスは止めてくれなかった。それどころか無言での頭を抱いて、舌の動きを激しく変えてきた。
艶めかしく動き回り続けるその感触のせいで、頭の中が真っ白だ。どう呼吸したらいいのかもわからなくて、あっというまに息が上がって涙目になる。
そんなにつられたのか、最初は余裕があった先生の呼吸も、次第に荒く乱れていった。
ここが車の中だということも忘れたような激しさで、先生ははぁはぁと喘ぐの奥まで撫で回す。
口の中でくちゅくちゅと鳴る水音は、頭の奥まで響き渡る。
その音と先生の苦しそうな息遣いを感じていると、それだけで腰が砕けてしまいそうだ。
ようやく舌を引き抜かれた時には身体中の力が抜けてしまって、先生の服を掴んだはずの両腕はだらりとシートに投げ出されていた。
「――・・・あのさ。うちに来たらどうなるか判ってんの。俺、嫌だって言われても止めねーけど、それでもいい」
「・・・」
煙草の匂いがする指先で唇を拭われたは、とろんとした目で先生を見上げる。
昨日から胸の奥をざわつかせていたもやもやとした不安やこわさは、まだ全部消えたわけじゃない。けれど――それでも、先生から離れたくない。
今は他のどんな気持ちよりも、先生と一緒にいたい気持ちのほうが強かった。
・・・・・・ううん、今だけじゃない。 いつも。いつもそうだった。
誰にも言えない秘密の恋人。学校の中でも外でも人目を気にしなければいけない、先生と自分。
一緒にいられる時間はいつも短くて、恋人になったはずなのに何かと距離を感じてしまう関係を、心の底ではちょっぴりさみしく感じていた。
だけど今日は違う。ここで勇気を出して先生の腕に飛び込みさえすれば、いつもよりもうんと長い時間、先生と一緒に居られるはずだ。
でも――そう思いつつも、もじもじと膝を擦り合わせ、頬を赤らめながら躊躇ってしまう。
だって・・・行けばどうなるか判っているくせに、自分から男の人の家に行きたがるなんて。わたし、いつからこんないけない子になっちゃったんだろう――
「。それでも来る?」
ふたたびび先生に尋ねられたは、何も言えずにこくりと頷く。
が口を開くのを待ってくれていた先生は、ずれかけた眼鏡の向こうの目を細めて声もなく笑う。
頬を優しく撫でてくれた手が促すままに顎を上げると、汗ばんだおでこや濡れた目元を啄まれて、
「・・・さっきは文句言ったけど、可愛いなその服。すげぇ似合ってる」
「――え・・・」
「お前が走ってくんの見えた時、正直見惚れた」
ほんとに、と尋ね返そうとした声は、伸びてきた舌に押し止められた。
大きめに開かされた口内を、熱い舌先が撫で上げる。
濡れた粘膜を奥までなぞり上げられたらぞくぞくっと震えが走って、身体の芯まで熱くなった。
ゆっくりと力を籠めて抱きしめられたら、煙草の匂いと先生の体温に全身が包まれてなんだか蕩けてしまいそうだ。
いつもの白衣を脱いだ腕は想像よりもずっと逞しくて、関節がどこもごつごつと硬い。
先生が動くたびにフレンチスリーブの袖から伸びた二の腕とぶつかってしまい、実はちょっと痛かった。
でも、じきに痛みなんてどうでもよくなってきた。
こうしていると好きな人の腕の中にいるんだと否応なしに感じさせられ、それだけでどきどきさせられてしまう。
それに――どきどきさせられているのは、先生の腕やキスのせいだけじゃない。
Vネックの衿元からがっしりした胸板が覗く、淡いグレーのTシャツ。履きこなれた感触のジーンズ、ちょっと潰したスニーカー。
キスの合間に薄目を開けて何度か先生を盗み見たは、遠慮がちにTシャツの肩に縋りつく。
わたしも、とだけつぶやくと、光に透けるような色合いの癖っ毛におそるおそる触れてみた。
――だって先生の私服姿にどきどきして見惚れていたのだけれど、先生みたいにさりげなく言えそうになかったから。
――連れて行かれたマンションがどんな場所にあるのか、どんな外観の建物なのか、先生の部屋は何階の何号室なのか。
駐車場からエレベーターに乗ってこの部屋まで来たはずなのに、はどれもよく覚えていなかった。
初めて来た先生の家だ。
以前クラスの子たちがここに押しかけたという話を聞かされ、その時は笑って聞いていたけれど、内心ではその子たちがすごく羨ましかった経験もある。
だから密かに楽しみにしていたのに――ほとんど何も覚えていない。
30分足らずの短いドライブの間、先生はしれっとした顔で手を繋いでくるし、がちょっと気を抜いた瞬間にキスまでしてきた。
おかげで外の様子を眺めるどころではなかったし、どこをどう通って先生の家に着いたのかも覚えていない。
車がマンションに着いてしまえばまたキスされて、服の中まで入り込んでくる手に身体をあちこち触られて――
ずっとそんな調子だったせいで、手を引かれてふらふらと車を降りた時には、身体どころか頭の中までぐずぐずに蕩けてしまっていたから。
先生が鍵を開け、室内に入ってからも、中を見回すような余裕はなかった。
玄関からまっすぐに連れて行かれたのは、カーテンが引かれた暗い寝室だ。
中へ入った途端に眼鏡を外した先生に逃げる間もなく唇を奪われ、舌先で唇の合わせ目を軽く突かれた。
早く中に入れろ、とでも言いたげな仕草だ。怯え気味ながほんの少しだけ唇を開けば、やわらかくてざらついた感触が何の躊躇いもなく滑り込んでくる。
大きく蠢く舌の動きに抗えないまま口内をめちゃくちゃに荒らされていくと、なぜか意識が蕩けはじめる。
心の中ではこんな先生をちょっと怖いと思っているのに、どうしてだろう。やがてとろりと瞼が閉じて、いつしか先生の服に自分からしがみついていた。
固い手のひらに背中や腰を撫でられれば、はぁ、と自然に溜め息がこぼれる。抱きしめられたりキスされたりすることに慣れてきたんだろうか。
こうして先生に自分の身体を預けきってしまえることが、昨日よりももっと気持ちよかった。
抱き合ったままで少しずつ身体を押されて、ベッドの端に座った先生の脚の上に抱きかかえられる。
薄く頼りないブラウスの裾から肌を撫で上げ、大きな手が潜り込んできた。
止める間もなくブラの中へと滑り込まれ、焦ったは服の上から先生の手を止めようとする。
なんとか逃げようとして身体を捩っても、だめ、と拒んでも、背後から抱きしめてきた男の人の力強い手は待ってくれなくて――
「っっ。せ、せんせぃ、やぁ・・・っ」
「あー、そーいうの逆効果だから。俺Sだからよー、暴れられると却って乱暴にしたくなるんだって」
「〜〜そ、そんな、っ・・・あっ、ぁぁ、」
下から掬い上げるようにしてやわらかい部分を握られてしまえば、後は何も言葉にならなかった。
昨日初めて知った感覚が――甘いのに刺激的な感覚が、背筋を一瞬で抜けていく。
「――っっ、ぁあ・・・ゃ・・・ん」
「なぁ、どっちがいい。優しくされたい?それとも乱暴にされたほうが感じるの」
「んっ、ゃあ・・・んなの、やあ・・・っ」
「嫌なら大人しく可愛がられてろよ。俺が変な気起こさねーようにな」
「やだ、待って、ま、まだ」
「無理。もう待てねーよ」
大きめに開いたブラウスの衿元は、手早くボタンを外されてしまった。
剥き出しになったブラを邪魔そうに押し上げた大きな手が、膨らみを掴んで動き出す。
白くやわらかい二つの丸みが、先生の意のままに揉みしだかれていく。
昨日までは誰の目にも晒したことがなかったそこを好きなように弄られている光景は、息を呑むほど生々しい。
尖った先をきゅっと摘ままれて悲鳴を上げたが顔を逸らすと、首筋に顔を埋めてきた先生に無理やり顔の向きを押し戻された。
「目ぇ逸らさねーで見てろ。お前の身体が昨日教えたことちゃんと覚えてるかどうか、今から確かめてやるよ」
「っだ、だめぇ・・・・・・っん、ぁ、あぁ・・・っ」
先生の動きを抑えようとした手のひらが、膨らみから伝わってくる痺れを受け止めきれずにちいさく震える。
水色と白のチェックのブラを押し上げるようにして蠢いている指の動きは、なんだかひどくいやらしい。これが先生の手だなんて。
そう思ったら身体がおかしいくらい熱くなってお腹の奥がもやもやして、昨日も感じたよくわからない感覚で手足の先まで一杯にされた。
「っぁ・・・、ゃ、はぁ・・・ん、まって、まっ・・・・・・ぁ・・・あ・・・っ」
「反応いいな。ここ触られんの好きだろ」
「あっっ。・・・・・・せ、せんっ・・・・・・ひ、ぁあ・・・んっ」
低くつぶやいた艶めかしい声に耳を掠められたかと思えば、やわらかくて熱い感触をぐっと押しつけられた。
先生の唇だ。ふぅ、と吐息を直に耳の中まで注がれて、は唇をきつく噛みしめてこみ上げた何かを必死にこらえる。
それでも先生が耳の溝を舐めたりわざと甘い声で囁いてくるから、途中からは声が押さえきれなくなった。
聴覚までぞわりとくすぐるような熱くて痺れる感触に、ひぁあん、と頭の天辺から抜けていくようなうわずった声が喉から漏れる。
昨日は色んなことが衝撃すぎて全然気づかなかったけれど、耳も感じやすい部分だったみたいだ。
何度も繰り返し舐め上げられて、奥まで舌を差し入れられたら、まるで昨日、開かされた脚の間を舐められた時みたいに感じてしまう。
腰の震えが止まらなくなり、は力無くかぶりを振った。
「・・・っ、めぇ、ぁ、っこ、これ、だめぇ――・・・っ」
「ダメって何が。どこがダメだよ。胸揉まれんのが?それとも――」
「っ、ど、どっちも、・・・・・ぁっ、だめ、奥、なめちゃ、だめぇ・・・っ」
やめて、と涙ぐみながら頼んでも、耳の奥でくちゅくちゅと水音を立てながら胸を回すようにして攻められた。
ごつごつと固い手の中で滅茶苦茶に捏ねられている膨らみの先が、じいんと痺れて固くなっていく。震えっぱなしの手足から、じわじわと力が抜けていく。
蕩けきった顔で目を閉じたは、Tシャツの肩にぐったりと頭を預けて身悶えた。
吐息混じりな甘えた声が唇から漏れ出した頃には、ブラのホックはすでに外され、感じやすい先の部分を指先で刺激されていた。
信じられない。昨日初めて経験したのに――たった一度だけの経験で、自分の身体がこんなに感じやすく変わってしまうなんて。
そういえば先生が、昨日何かおかしなことを言っていた。確か――そう、「お前は無意識なんだろうけど」と。
あれって、もしかしたらこのことだったんだろうか。先生はもうとっくに、の身体がこうなってるって気づいていたんだろうか――
「じゃあ次。ここも好きだろ」
「ふぁ・・・んっ、せん、せっ、ぁ・・・っ」
スカートの奥へと滑り込んできた左手は、昨日よりも無遠慮に、より性急に動こうとしているみたいだ。
止めようとするの手をものともせずに、ショーツの中を撫で回している。
昨日よりも強めに動く長い指は、じっとりと濡れた淵を辿って蕩けた中へと潜っていく。
つぷりと指を突き込まれ、あんっ、と声を跳ね上がらせたが仰け反ってびくびく腰を揺らすと、先生はうっとりしたような溜め息を吐いた。
「。声、もっと出せ」
「――っ」
そう言われて、心臓がとくんと高鳴った。
( 。 )
先生はそう呼んでくれた。
名前で呼ばれたのなんて初めてだ。学校では一度も呼ばれたことがなくて、名前で呼んでもらえるクラスの子たちに内心ちょっと嫉妬していたのに――
「・・・んせ・・・なま、ぇ・・・」
「あー、やっぱ気になる?けどよーこーいう時じゃねーと呼べねーだろ、、って」
「っああ・・・あ、ぁああっ。・・・・・・ゃん・・・やめ・・・っ」
首筋に埋められた唇から直に伝わってくるその響きで、節が太い男の人の指ので満たされた中の疼きはさらに強くなっていった。
先生はさらに指を増やして、狭い入口を広げるようにしてぐちゅぐちゅとそこを掻き混ぜてくる。なのに昨日感じた鈍い痛みを感じない。
むしろその指の動きを感じるほどに意識がとろとろに蕩けてしまう。とろりとして温い粘液が骨太な男の人の指に掻き出されていく。
それだけでも泣きたいくらい恥ずかしいのに、掻き出されれば掻き出されるほどに、そこから這い上ってくる電流のような感覚はもっと強さを増してしまうからどうしたらいいのかわからない。
「だ、だめぇ、ぁ、あぁ、やん、ゆび、やだぁっ」
「やだってどこが。奥?それともこのへん」
「ひ・・・ぁあ、っぅ」
軽く曲げられた指の先が、感じやすいどこかをくちゅくちゅと押しては刺激してくる。
自分でも触ったことのない柔らかい中を異物に犯される感覚に溺れてしまい、先生の手の動きに合わせて腰が揺れる。
こんなはしたない自分を、先生には見せたくないのに。なのにどうしてこんなに気持ちよくなって、もっとしてほしい、なんて思ってしまうんだろう。
恥ずかしすぎて涙が出るのに、短い喘ぎ声が止まらない――
「あ、あ、あっ、っ、いやぁ、せんせっっ、いっ、ぁ、あぁんっ」
「これだけいい声でよがっといてどこが嫌なんだよ。嫌じゃねえだろ。名前呼んだだけで締めつけてきたくせに」
「あぁ、やっ、やめっ、ぁん、は、あぁ」
「俺も呼びてーけど学校じゃ無理だわ。癖になったらマズいだろ。今だって点呼の時、お前呼ぶ時だけ感情籠っちまってんのに・・・」
掠れた声でもどかしそうに言われたら、その声で心臓を鷲掴みされたみたいな甘くてせつない気分になった。
はぁ、と荒めな吐息を吐き出した先生は、汗が滲んだの首筋をちゅ、ちゅ、と何度もきつめに啄んできて、
「ずっと苗字で呼んでたもんを急に名前に変えるってのもな。いくらバカしかいねークラスでも、気づく奴も出てくるだろーし」
「っん・・・せぇ、ひ、ぅ・・・ん・・・・・・っ」
「つーことで、卒業までは今まで通り苗字で呼ぶから。・・・こうしてる時以外は、な」
からかうようにそう言われたら手足の先まで甘く痺れて、先生の指でゆるゆると押し広げられていく中がもどかしく疼く。
「もう辛いだろ。そろそろイカせてやるよ」
ちろちろと舌先で舐められた耳に妖しい声を注がれたら、それだけで電流のような痺れが走る。
それと同時で、二本の指で掻き乱されている中の熱がさらに上がってしまったみたいだ。
熱くなったら気がおかしくなってしまいそうなほど感じてしまって、腰ががくがくと揺れて崩れる。
不意打ちでもう一度「」と名前を呼ばれたら、指で掻き混ぜられているところの奥からじゅわりと熱が迸ってくる。
きゅうぅっっ、と一気にそこが収縮して、は甲高い嬌声を上げて仰け反った。
「っぁっあぁっ、・・・ん〜〜・・・っ!」
全身を痺れ上がらせたのは、昨日と同じ感覚だ。
先生の指から襲ってきて全身を突き抜け、頭を真っ白にしてしまうあの感覚。
暗かったはずの寝室の天井まで、一瞬だけ白く弾け飛ぶ。視界を覆った熱い雫で、目に映るすべてが揺れてぼやける。
指を含まされた体内がまだ勝手にうねっている。
柔らかい中に留まっている先生の指をびくびくと蠢きながら締めつけるのを、泣きたいくらいに感じてしまう。
もう、だめ、と震える声で漏らした直後にがくりと力が抜けてしまって、背後から支えてくれる胸にわけもわからないまま倒れ込んだ。
――ずるりと指を引き抜かれると、昨日と同じように、あん、といやらしい声を上げてしまう。
先生は「イカせてやる」って言っていたけれど、――これがそうなんだろうか。
恥ずかしいから脚を閉じたいのに、男の人の指で嬲らた下半身は痺れきって動かない。
じっとりと汗ばんだ全身はとてもだるくて、泥のように重い。なのに、どこかふわふわしている。
ぎゅっと抱きしめられた時に、何か囁かれたような気がする。けれど、その声が何を言っているのかもわからないくらいに頭の中が蕩けきっていた。
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