――それからも、達した後の脱力感でぐったりしきっていたにはついていけないことばかりが続いた。 手を突っ込んでいたショーツの生地を撫でながら「脱がせていい」と尋ねると、先生はの答えも待たずにそのままベッドに押し倒した。 ベッドのスプリングで身体が弾む感覚や、シーツや枕から漂ってくる先生の匂い。 突然襲ってきた変化にすっかり混乱しているうちに、先生の手は脇腹をゆっくり撫で下ろしながらスカートのジッパーを下げていった。 肌を滑った手のひらの感触だけで、ぞくぞくと快感がこみ上げてくる。 そんな自分にも混乱しながら先生の腕にしがみつき、んんっ、と噛みしめた唇から甘い声を漏らしてしまった。
脇腹なんて、普段自分でもよく触れる場所だ。 なのにそこを先生が撫でただけで、どうしてこんなに気持ちよくなって、手足まで震えてしまうんだろう―― すっかりのぼせ上った顔を向ければ、先生はを見つめて苦笑していた。

「・・・さかた、せん・・・・・せ・・・?」
「ん。ちょっと待ってろ」

頬に掛かった髪の上からちゅっとやわらかく口付けると、先生は上半身をゆらりと起こして離れていく。 の表情や露わになった胸をどこか恍惚とした目で眺めながら、グレーのTシャツを脱ぎ捨てた。 目の前に現れた引き締まった肢体に、うっすらと汗が滲んでいる。 むせ返るような男の人の匂いにどきっとして、心臓が破裂しそうなくらいに高鳴り始める。
の身体は昨日先生に見られてしまったけれど、が先生のこんな姿を見るのは初めてだ。
今までは知らなかった先生。見たことのない先生だ。高校の教師の顔を脱ぎ捨てて、生身の男の人に戻った先生。 昨日も準備室で垣間見たその姿は少しこわくて、だけどどきどきしてしまう。
ぎっ、とベッドを軋ませて先生が立ち上がる。
近寄っていった棚は壁一面を占めていて、にはタイトルさえ聞き覚えがない文学書や教育関係の本、漫画や文庫や雑誌と、あらゆるジャンルの本がごちゃ混ぜに並んでいた。 その中段にある引出しを先生が開ける。 そこから何かを持ち出すと、ベッドの端に腰を下ろす。こっちに背を向けた先生が何をしているのかは見えなかった。 衣擦れの音が鳴り、かさかさ、と紙が擦れるような音が続く。 目の前に濃い影を落とす広い背中をぼうっと見つめるうちに、なぜか先生に触れてみたくなった。 とくとくと弾む心臓の鼓動を感じながらおそるおそる触れてみれば、びくりと指が強張った。
薄く張った筋肉の張りつめた質感は、女の自分とはまるで違う。頭に血が集まってくるのを感じながらあわてて手を引っ込めると、

「んだよ、そんだけ。もっと触ってくんねーの」
「・・・っ。・・・・・・って・・・いいの・・・?」
「はは、いいに決まってんじゃん」

お前の手、柔らかくて気持ちいいしな。
こっちを向いて瞳を細めた先生が、恥ずかしすぎて目を逸らしたをうつぶせにする。 背中や腰に、女の子の力では振り払えそうにない重さの身体がずしりと圧し掛かってきた。 あわてて枕に縋ったは、見た目以上なその重みにびっくりして声も出ない。 おろおろしているうちに腰からスカートを剥ぎ取られ、胸まで肌蹴た薄いブラウスもボタンを全て外されてしまう。 ブラと一緒に腕から引き抜かれれば、もう肌を覆うものは半分ずり落ちたショーツしかない。

「・・・っ!ゃ、やだ、これ、やぁ」
「ダメですー。言っただろ、嫌がってもやめねーって」

先生が身体を起こし、逆らう間もなく腰をぐいと持ち上げられる。
そのままの格好でショーツを膝まで引き下ろされたら、薄い生地からつうっと糸を引いたのが自分でもわかる。 羞恥心に火が点いたは、肌をぶるりと震え上がらせた。
すぐ後ろにいる先生の目には、何も身に着けていないこの身体がどんなふうに見えているんだろう。
それを考えただけでも死んでしまいたいくらい恥ずかしいのに、ちゅ、とお尻にキスされて「濡れちまったな、下着」なんて低めた声でからかわれたら、全身がかぁっと燃え上がった。
こういうことをされたのは、まだ二度目なのに。なのにこんなになってしまう自分が、恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない。

。こっち向け」
「っ・・・!?あっ、あぁっ」

掴まれていた腰をひっくり返され、仰向けにされる。 閉じていた太腿は大きく開かれ、は真っ赤になって身体を竦めた。

「せ、せんせっ、ゃめ――・・・・・・あぁ・・・ぅ・・・ぁあん・・・っ」

逞しい腕でシーツに抑えつけられながら、潤みきった熱いところをぴちゃぴちゃと音を立てて舐められる。
昨日も弄られたちいさなどこかに先生の唇が吸いつくと、痛みなのか気持ちよさなのかもわからない強い刺激がそこから全身を駆け抜ける。 それだけでがくがくと腰を震わせて喘いでしまい、脚の間に埋められた頭をぎゅうっと挟みつけてしまった。
なのに先生は、そんなの反応が気に入ったらしい。
くく、と喉の奥で笑う声が吐息に変わって、ぐずぐずに蕩けたそこをふっと撫でる。 あぁんっ、と腰を跳ね上がらせている間も、さっき指で割り広げられたところに視線を感じる。吐息の熱だけでぞくぞくと腰が震えてくる。 恥ずかしい、なんて感覚を通り越した猛烈な羞恥が全身を火照らせ身悶えさせているのに、先生の視線を感じたそこは奥からとろりと熱を零した。
本当にどうしちゃったんだろう。自分でも自分がわからない。
淫らな反応をしてしまう自分を好きな人に見られている恥ずかしさで、却って感じているなんて。 お腹や太腿にざわざわと擦れる白っぽい髪を引っ張っても、先生は動揺しきっているのことなど待ってくれない。 の腰を高く持ち上げ、脚を肩上に担いでしまう。はぁっ、とじれったそうな荒い溜め息をこぼすと、何の躊躇いもなく吸いついてきた。 まるで果物の果汁でも啜るみたいにじゅるっと吸われ、舌で舐められ、くちゅ、くちゅ、と感じやすい小さな何かを転がすようにして弄り続ける。

「っっう、ひ、は・・・ぅ」

中を抜き挿しされて蕩けきったところも焦らすようにゆっくりとなぞられて、全身の神経が先生の舌と手の動きに集中していく。 特に唾液をじゅくじゅくと絡ませながら啜られている部分に腫れ上がったような感覚があり、先生の舌で触れられるたびに感じすぎて痛いくらいだ。 弄り続けられているうちに痛みは少しずつ弱まっていき、今度は快感だけが広がっていく。 昨日も感じたその快感が全身を繰り返し駆け巡り、宙に浮いた腰ががくがくと震える。 じきにはぁはぁと喘ぐことしか出来なくなり、あっという間に恥ずかしさどころではなくなってしまった。

「お前ここも弱いよなぁ。なぁ、そんなに気持ちいいの。俺に舐められんの、すき?」
「い、ぃやぁ、そんな、ちが・・・っ」
「こんだけ濡らしといてどこが嫌なんだよ。お前が否定しても、お前のここは俺が昨日教えたことしっかり覚えてヒクついてるぜ」
「ゃ、やめ・・・ぁあ・・・!」

優秀な生徒で嬉しいよ。
大きく開ききった脚の間で、腰の奥まで響くような低い声を漏らされる。熱い吐息を吹きかけられただけで、じぃんと痺れる甘い愉悦が走り抜ける。 先生の肩に掛けられた脚が、びくびくと跳ねる。舐められているそこから這い上がってくる快感は、絶えず全身を痺れさせて――

「言えよ、もっと奥まで弄ってほしいって。昨日は舌突っ込まれて感じまくってたよな」
「やぁ、んな・・・こと、ぃ、言わな・・・っあ、ひぁ・・・っ」
「クラスの奴らが知ったら驚くよなぁ。男なんて知らなさそうなお前が、担任にこんなことされて泣いてよがってんだから」
「・・・っ!」

はぎゅっと目を閉じ、いや、いや、と否定するようにかぶりを振る。でも――ひどいことを言われているのに、先生の舌の動きに逆らえない。 それどころか、顔から火が出そうなくらい厭らしい言葉のせいでおかしくなりそうなくらい感じてしまう。 硬い指先でなぞられているぬるついた入口から、熱い滴りがとろとろとこぼれて止まらない。 ちゅ、じゅ、と先生の舌の動きに合わせて鳴る濁った水音を聞きたくない。 けれどには泣きながら蕩けきった声を上げ続けるしか出来なかった。 毛先が跳ねた白銀色の頭を挟んだ脚は、ずっと力無く震えているだけ。 先生の髪を握った腕にはほとんど力が残っていなくて、今にもシーツに落ちそうだ。 やがて二本の指で割られたそこに火照りきった舌先をぐちゅりと入れられ、耳を塞ぎたいほど淫らな水音は、暗い部屋中を満たすようにして広がり続けた――

「ぅ、あ・・・ぁあだめ、だめ、も、ゃあ、はぁ・・・・・・んっ」
、どこが一番感じる。胸?ナカ?それともここ?」
「ち・・・ちがぁ・・・ん、ぁ・・・う・・・っ」
「違わねーだろ。お前、昨日より良さそうだぜ。あれで癖になっちまったんだろ」
「やだゃだだめっ、も、もぅ、いっ、ゃっっ、ああぁん・・・っ!」

声はやけに甘いけれど意地の悪い口調で囁いた先生のせいで、の全身がぴんとしなる。
硬直した足先を小刻みに震わせながら、何度目かもわからない甘い快感に溺れてしまった。


「・・・・・・せ。せん・・・」
「――――・・・」

喉元や胸板に浮いた汗を鈍く光らせている身体が、ベッドを軋ませ迫ってくる。 何か言われたみたいだったけれど、はぁ、はぁ、と荒く乱れる自分の呼吸に遮られて聞こえなかった。
先生はジーンズや下着を下ろすと、開きっ放しな脚の間に腰を押しつけてきた。 粘液にまみれた無防備なところにぐっと当てられた硬い何かは、びくりと身体が跳ねてしまうほど熱い。 それが何なのかを考える余裕すら与えずに、先生が腰を上下させる。 密着させられた肌と肌がぬるぬると滑る。お互いの汗や体液が混ざり合っていく。 徐々に近づいてくる顔を呆然と見つめるうちに、の心臓は破れそうなほど高く弾んだ。
知らなかった。先生がこんな顔をするなんて。
昨日の準備室でも心臓が壊れそうなくらいどきどきしたけれど、こんなに余裕がない、なのに目が合っただけでぞくぞくしてしまうような色香を放つ表情は知らない。 初めて見る先生。細めた瞳や流れる汗、息苦しさに喘ぐような呼吸を繰り返す唇に視線が吸い込まれてしまう。唇を啄まれても舌が口内までのめり込んできても、目を逸らせずに見つめた顔はまるで知らない男の人みたいだ。 急に湧き上がった怖さに息を呑んだは、反射的に先生から逃れようとする。けれど、先生はそんな動きを見越していたかのように太腿をきつく掴んできた。

「――もう、いいよな」
「っ・・・?」
「教えてやるよ。昨日の続き」

おびえた視線で尋ね返したのお尻が、大きな両手で包むようにして掴まれる。
力無く横たわっていた身体はシーツの上をずるりと擦って、力強い腕で一気に引き寄せられた。

「――っあ、せんせっ、まって、〜〜ぁあ!」

腰を捩って逃げようとしても、ぐちゅりと濡れた音を立てて突きつけられる。 それを感じた瞬間には、焼けついた鉄杭のような何かが強引に押し込まれてきた。
まだ先生の指しか受け入れたことのないそこから、全身を硬直させる激しい痛みが襲ってくる。眉をきつく寄せたは、ぶんぶんとかぶりを振りながら伸び上がった。

「っっっう、・・・〜〜ぃ、たぃぃ、っ、も、むり・・・っ」
「――まだ半分も挿れてねぇって。、息止めんな。力抜け」
「っあ、ひ、ぃっ、・・・ゃあ、っっ」

痛い。痛すぎて息もつけない。唇を噛みしめて我慢していないと泣きじゃくってしまいそうな痛さだ。
爪先から頭まで突き抜ける痛みと、強張った違和感が広がっていく。それと同時に気持ちの悪い冷たい汗が全身に滲んで、不安が胸に広がっていった。 これだけでこんなに痛むんだから、もっと奥までなんて無理だ。 なのに先生がゆっくりと抜き挿しを始めて、狭い中を宥めるようにして浅いところだけをゆるゆると擦られていると、熱い潤みが溢れ出てきた。
「大丈夫だって。息吐け」
そう言って頭を撫でてくれた先生も唇をやや噛みしめていて、眉をきつく顰めた表情が息苦しそうだ。
口の中に指を差し込まれ、半ば強制的に呼吸させられる。 っ、っ、と短く引き攣った呼吸ばかりを繰り返していたは、ぽろぽろと涙をこぼしながらも先生の言うとおりにしようと頑張った。 すると痛みは少しずつ、波が引くように薄らいでいく。 けれど――ちょっと身体が楽になってほっとしたのも束の間、違う何かがの中にじわじわと迫ってきた。
ぐちゅぐちゅと擦り立ててくる灼熱が埋め尽くしている、そのもっと奥。
まだ開かれていないはずのそこから、思わずびくびくと腰を揺らしてしまう甘い疼きが昇ってくる。 まだ弱いその感覚を感じれば感じるほどに、中でどくどくと脈打っている先生の熱や硬さを意識してしまう――

「やぁ・・・・・・せんせ・・・の・・・・・・あつぃ・・・おっき・・・っ」
「はは、誰のせいだと思ってんの。お前のせいだろ。・・・お前が男を煽るよーなことばっかすっから――」
「そ・・・な、ゎ、わたし、ちが・・・っ、あ、あぁんっ」

先生はを咎めるように、大きめに腰を前後させる。 感じやすいところを狙おうとしているのか、深さを増した律動にやわらかい壁の一点ばかりを繰り返し突かれた。 こらえきれなくなったは、か細い泣き声を震わせながら先生の首にしがみつく。 組み敷いてくる重い身体の下で、腰や背中をびくびくと波打たせて跳ねた。

「っっあ・・・ひ、っん、ゃ、めっ・・・・・・ああっ・・・!」
「言っただろ、嫌がられてもやめねーって。・・・いい年こいた大人をこれだけ血迷わせたのはお前だぜ。最後まで責任取れよ」

目元を顰めて苦しそうなのにうっとりと笑っている先生の顔が、ぶわりと湧いた涙で覆われ蕩けていく。 ぎちぎちに締まったどこかがじりじりと押し広げられていく。
痛い。痛すぎて息が止まりそうだ。太腿や胸を撫でられ、感じやすい部分を弄られても、痛みは少しも和らいでくれない。 微かに感じる痛み以外のものが何なのかもわからないうちに、先生が倒れ込んできて頭や背中を抱きしめられる。 体重をすべて預けられた息苦しさに喘いでいると、先生が強引にの中を突き進んでいき、

「ああぁぁ!」
・・・もっと奥まで、入らせろ・・・・っっ」
「やらっ、は、はいってく・・・ぁああんっ、せんっ・・・んん・・・〜〜〜っっ!」

ずんっ、と一番奥まで叩きつけられ、その衝撃で息もつけない。
貫かれたそこから頭の天辺までを縛りつける激痛に、ぶるりと胸を揺らして仰け反る。 悲鳴を呑み込んだ喉まで痛い。きつく瞑った瞼の縁から、涙が溢れて止まらない。 なのにすべて受け入れ終えた中は先生の熱で蕩けきっていて、せつないくらいにきゅんとしている。 温い何かがとろとろと溢れてお尻まで滴ってくるけれど、それがシーツや先生のジーンズまで薄赤く染めているなんてには判るはずもなかった。 すぐに噛みつくみたいな勢いで唇を奪われ、舌を滅茶苦茶に絡められる。 長いキスで痛みから気を逸らされ、身体中を撫でられるうちに、心地良さが手足の強張りを熔かしていく。 そんな時に「大丈夫か」と苦笑した先生が顔中にキスしてくれるから、手足だけじゃなくて背筋までとろとろに蕩けてしまいそうだ。 最後にまるで壊れ物に触れるような仕草で頬を撫でられ、優しく唇を啄まれた。
濡れた睫毛をおずおずと上げて、視界を覆っている人を見上げる。
荒く短い呼吸を繰り返しているその顔にいつもとは違う熱っぽさや男の人の欲情を感じて、自然と胸が高鳴ってくる。 こつん、とおでこがぶつかる距離から、先生がせつなげな溜め息を吐いた。


「・・・ここ半年、お前の夢ばっか見てた」
「え・・・?」
「どのお前も抱き心地よかったけど、やっぱ本物には敵わねーわ」

白っぽく光る癖っ毛で半分隠れた先生の目が、とぼけた表情で瞳を細める。 そんな先生を放心しきった表情で見つめていたは、次の瞬間、急に泣きじゃくりたくなって唇をきゅっと噛みしめた。
知らないものを身体の奥まで受け入れる不安を、必死に我慢していたせいかもしれない。 喉から嗚咽がこみ上げてきて、腫れぼったくなった瞼の縁から熱い雫が次々とこぼれてこめかみを濡らす。 ちゅ、ちゅ、と止まらなくなった涙を何度も唇で吸い上げられ、震える手を握り締められれば、さっきまでは痛みやこわさをこらえきれなくて流していた涙が、嬉しさで溢れる温かい涙に変わっていく。 さっきまでの、あんなに怯えていた自分はどこに行っちゃったんだろう。
先生がこんなに近い。これまでで一番先生の近くにいる。
身体を二つに裂かれたような鈍い痛みと息苦しい違和感まで、誰よりも深いところで先生と繋がっていることをに教えてくれている。 大人の男の人には物足りないはずのを、先生がどれだけ特別に思ってくれていたかも――心臓の鼓動まで伝わってくる今なら、言葉なんてなくても感じられる。
・・・こんなにしあわせな気持ちで胸が一杯になるって知っていたら、あんなに怖がったりしなかったのに。
さっきの息が止まりそうな痛みも、今では何でもないことのように思えてしまった。

「辛れーだろーけどもう少し我慢して。・・・まぁ、我慢出来ねーって言われても止めらんねぇけど」

そう告げられ、なかなか止まってくれない嗚咽を我慢しながら頷くと、汗が滲んだ先生の顔がぎこちなく固まる。 そんな先生の反応に、の顔もつられるようにして強張った。
何かおかしなことをしてしまったのかも。 不安になって思わず泣きそうな顔になったら、「お前可愛すぎ」とお仕置きのように胸に舌を這わされた。 先生は薄桃色に色づいた先を口に含むと、ちゅうっとそこを吸ってくる。舌先で舐めながら引っ張って扱いて、感じすぎて尖ったそこを苛めてくる。 ざらついたやわらかさに甘く責められる気持ちよさが、じわじわ全身に回っていく。 なぜか先生に埋められたお腹の奥まで疼いてしまって、泣きたくなるようなもどかしさで腰が勝手に揺れ始めた。

「ぁあ、めぇ、んな、いじっちゃ・・・ゃ、んっ」
「もーちょっと自覚してくんね。そーいう可愛い反応見せつけられた男がどんだけムラっとしちまうか、判ってねーだろ」
「〜〜っ。そ・・・そんなこと、してな・・・っ」
「したんだって。現に教師をたぶらかして道踏み外させただろ」

目を丸くしたの頬が、嬉しさと恥ずかしさでぼうっと色づく。 そんな、だって、と口籠りながら先生を見上げたらちょっとした隙を奪うように唇を塞がれ、さらに頬を赤らめてしまった。
だって、こんなわたしに大人な先生を惑わせるような魅力なんてあるはずない。何もかも先生が初めてで、クラスの中でも特に子供っぽいわたしに。
「・・・その顔、まだ疑ってんの」
不満げに眉を曇らせた先生は、を抱きしめたままゆっくりと腰を揺らし始めた。 ちょっと身じろぎされただけでも中がひりひりと痛むのに、はぁん、と甘い吐息が唇からこぼれて、


「んだよ、それ。喘ぎ声まで可愛いとか反則だわ」
「せ・・・せんせ・・・・・ひ・・・・・・・・・ぁ・・・っ」
「ダメですー、んな泣きそうな顔してももう止まれねえって。なるべく力抜け。しがみついていいから――」
「――――っっぃ、っ、っっひ、っああ・・・!」

ずぶずぶと奥を突きながら動かれ、ひりつく中を擦られてしまえばやっぱり痛い。
でも、痛いだけじゃない。
数回に一度、一番深いところをぐちゅっと音を鳴らして押し上げられる。 初めて男の人に許したそこを刺激されると、そのたびに身体が勝手におかしくなった。 押しつけられれば衝撃で息が詰まり、ずるっと引き抜かれればぞくぞくするような刺激の強さで奥まできゅうっと縮んで疼く。 繰り返されたら何が何だかわからないほど感じてしまって、先生の動きが速くなればもっと追い詰められてしまう。

「あ、あ、あっ、だ、だめぇ、っあぁ、やんっっ」
「だめってどこが。なぁ、感じるんだろ。ここ?それとも、もっと奥」
「っあ!」

先生はの反応を確かめながら、浅いところと深いところ、両方を交互に突いてきた。
硬く滾った先を押しつけられるだけで、どちらも同じくらい痛む。 けれどその痛みも、一瞬で身体の中心を痺れ上がらせる電流のような何かに塗り替えられてしまう。 言葉にならない甲高い声が頭の天辺を突き抜けて、きゅうっと丸まった足の先がシーツを掴み締めて震える。 昨日準備室で味わされた感覚にも、さっき先生の指で掻き回されたときにも似ているけれど――
何なのかわからないその感覚に少し怯えながら、は先生の動きに揺られ続けた。

「――はは・・・っ、たまんねぇ・・・・・・っ」

荒々しく息を吐いた先生が動きを緩めて、お腹の奥から絞り出したような苦しそうな声を漏らす。
なのに、涙の膜の向こうに映る顔は熱の籠った目でを見つめながら満足そうに笑っていた。 濡れて真っ赤になった頬をそっと撫でると、瞼の端で膨らんだ涙の粒をちゅっと優しく吸ってくれる。 きつい刺激で責められた後で、宥めるように触れられたせいかもしれない。ふわふわと身体が浮き上がりそうな甘い心地にほっとして、身体も心も緩んでいく。 不思議なことに、その後はいくら激しい抜き挿しを繰り返されても痛みを感じなくなってしまった。

「ぁ・・・・・・やぁ・・・な・・・んで・・・・・・あっ、ぁんっ」
「お前も気持ちいい?」
「・・・っ!だ、だめぇっ、せんっ、そ、それ、っっ、ぁあ・・・・・・!」
「いいんだろ。抜こうとしても俺に絡みついて離れねぇし」

ぐちゅ、ぐちゅ、と浅いところを張り出した先で掻き回されて、あっ、あっ、と蕩けた声を上げて身悶える。 突かれるたびに熱い何かはとろりと流れて、深く繋がり合ったと先生の太腿を濡らす。
「――ほら。どこから溢れてきてんだよ、これ」
そんな意地悪を言われても、は好きな人に身体の奥まで掻き乱される快感に呑まれて言い返せない。 これまでに先生と付き合ってきた大人の女の人なら、こんな時でも上手な受け答えが出来るんだろう。 でも先生が初めての人なには、こんな意地悪を言われても返し方がわからない。 それでも意地を張って涙をこらえて見つめ返せば、先生は眉をわずかに吊り上げた。 はっ、はっ、と猛々しい呼吸を続けていた唇を、獲物を追い詰めた獣みたいに舐めてにぃっと笑う。わざと呆れたような溜め息を吐いて、

「あんだけ教えてやったのにまだわかってねーのな。そーいう顔されると逆効果。つか、もっと苛めたくなるんだけど」
「っだ、だめ・・・んな、の、ぁん、だめ・・・っ」
「なぁ、ほんとに嫌がってんのお前」
「っう・・・・・って・・・、せんせ、が、いじわる、ぃう、から、っ」
「じゃあ何、その声。触られんのが嫌なくせにエロい声出ちまうとか、どーなってんのお前の身体」

耳の中に吐息を注ぐような柔らかい口調で、先生はを問い詰めてきた。
いや、いや、と意地悪な言葉を否定したくて髪を振り乱しても、耳の中にぞくぞくするような声や息遣いを流し込んでくるし、 お腹の奥で暴れている熱で好きなようにのやわらかい中を犯してくる。 弱いところを二つ同時に責められるおかげで、だんだん気が遠くなってきた。息も絶え絶えに喘ぎながら、は赤く潤んだ目で先生を見つめる。
どうしてって、そんな。そんなこと恥ずかしくて口にしたくないのに。きっと先生も判っているはずなのに――

「答えろよ。答えねーともっと酷くするけど、いーの」
「・・・せんせぃ・・・です・・・んせ、が、すき・・・・・・から、ゎたしの、からだ・・・んな、いやらしく、なっ・・・」
「――・・・・・・」

心臓が破れそうなせつない息苦しさに肩まで揺らして喘ぎながら、途切れ途切れには答える。 すると先生がわずかに瞳を見開いた。透明な汗のしずくが幾つも滴る表情が、どこかぎこちないものに変わっていく。
ひどい。わたしの身体がどうなってるかなんて ――そんなこと、先生が一番感じてるはずだ。なのに、どうしてそんなに意地悪するの。をこんなに変えてしまったのは先生なのに。
男の人に抱かれるのも初めてなのに。最初からこんなに激しくされるなんて思わなかったのに。
なのに――それでたまらなく感じてしまって、声を上げ続けていないと気がおかしくなりそうなくらい気持ちいいなんて――

「も、ゃあ・・・ゎ、わたし、はじめて、っらの、に・・・っ。なのに・・・んな、かんじちゃっ・・・」

――そうだ。こんないやらしいわたし、昨日まではどこにもいなかった。
先生に触れられて生まれた知らない自分に、はずっと戸惑いっ放しだ。 なのにそんな自分を何ひとつ覆い隠せないまま、好きな人の目前ですべて晒してしまっている。 はじめての経験ばかりでついていけないのに、恥ずかしいのに――身体は覚えたての快感に逆らえなくてとろとろに蕩けて、どんどん先生のいいように変えられていってしまうなんて。
身体の中心をじゅぶじゅぶと擦られて髪の先まで揺らされながら、は胸の内に溜まっていた思いをどうにか言葉に変えていった。 子供っぽい舌足らずな口調になってしまったけれど、察しのいい先生ならきっと判ってくれたはずだ。 なのに、ちっとも動きを止めてくれない。泣きごとを漏らすを昂揚した色を帯びた目でぼうっと見つめてくるだけだ。 かと思えばふっと目元を細めて、何を考えているのかわからない顔が一瞬だけ笑う。止まるどころか、さらに律動を激しく強く変えてくる。 がつがつと腰を打ちつけられてしまえばもう悲鳴しか出なくて、繋がり合ったところから熱い飛沫が跳ね散った。

「せ、せん・・・・・・っ!?あっ、ゃあ、んっ、あ、だめ、だめえぇっ」
「お前がやらしくなっちまったのは俺のせいなんだろ。だったら責任取ってやるよ」
「っ、んな、ちが・・・・・・っ!あん、あん、せんせ、も、だめっ、ぁああっ」

ぎっ、ぎっ、と絶え間なく揺れるベッドの上で、汗に覆われた二人の身体はいやらしく絡まり合っていく。
いつのまにかきつく抱きしめられて、先生がの奥に熱いものを送り込むたびに、腰がシーツをずっ、ずっ、ずっ、と大きく擦って上下に動く。 互いの汗で密着した肌が滑って、つんと固くなった胸の先が擦れ合う。 あっ、あっ、あっ、と掠れた声を上げたがもどかしさに腰を捩れば、胸をぎゅっと鷲掴みされて揉みしだかれる。 くく、と声を殺して笑った先生が、尖った先を気紛れに弾く。そのたびにびくびくと打ち震えて、甘い快感に溺れてしまう。

「・・・、これからは日曜に来いよ。朝からここに閉じ込めて可愛がってやるから」
「っせ、せんっっ、あぁ、あ、あっ」
「お前がまだ知らねーこと、全部俺が教えてやるよ。学校じゃ教えてやれねー、悪りーこと・・・っ」

ぎりっと歯を噛みしめた先生が、苦しそうに上下する喉元や汗が光る胸までに押しつけて倒れ込んでくる。
奥を荒らしている先生の質量が急にどくんと膨れ上がり、圧迫感が増してくる。 驚いて仰け反ろうとすると頭と背中を羽交い絞めにされ、身動きできなくなったところを力強く衝かれた。 内臓まで押し上げられるような感覚にあぁあっ、と叫べば、わななく唇をざらついた熱にこじ開けられる。 感じやすいところばかりをちろちろとくすぐられ、伸びてきた濡れたものに喘ぐ口内を掻き乱される。
絡みついてくる舌がじゅくじゅくと鳴らす唾液の音。先生の喉奥から、獣みたいに荒く吐き出される苦しそうな息遣い。 淫らな音で聴覚を埋められ、頭の芯まで先生に埋め尽くされたような感覚に襲われる。 ただでさえお腹の奥底まで先生で一杯なのに――普段は何があっても平然と構えている先生の、見たこともない余裕のなさに胸がきゅんとしてしまう。 繋がっているところまでびくびくと物欲しそうに疼いてしまい、さらに先生を締めつけるのが自分でも判った。

「ぅあ、ぅ、んふ、っ、」
「っ・・・そう締めつけんなって。動いてねーとすぐイッちまうだろ・・・っ」
「って・・・ゎ、わたしの、なか、せんせぃで、いっぱ・・・――っ!あ、あ、あぁあんっ」

頭がおかしくなりそうなくらい貪られて、もう涙が止まらない。声の大きさなんて気にしていられないほど気持ちがよかった。
突かれるたびに熱いものが迸ってきて、繋がり合ったところを淫らに潤おす。お互いの体温がどんどん上昇していく。 先生がまた唇を塞いでくる。こうして呼吸まで混ざり合うようなキスをしていると、肌まで蕩けて体温まで同じになっていくみたいだ。 冷房は入っているみたいなのに身体のどこも熱くて、頭の中まで沸騰している。 じっとり濡れた先生の肌も、ずぶずぶと音を上げながら中を貪っているものも燃えそうに熱い。 そのうちに何も考えられなくなってきたは、夢中で腰を打ちつけてくる先生の動きにただただ震え、あ、あ、あ、あ、とひたすらに甲高い声を上げるだけになった。 ぐちゅぐちゅと突かれる衝撃を受け止め続けているやわらかくて深いところに、甘いのに強烈な深い痺れが溜まっていく。 、と名前を呼ぶ声や、興奮や欲情で艶めかしく濡れた熱っぽい瞳にも追い詰められて、突かれるたびに身体の力が抜けてしまう。 なのにはしたなく脚を開ききって男の人に揺らされるだけのを、先生は「可愛い」なんて言う。しかも、やけに嬉しそうに――


「可愛いって。教室で見るお前も、俺と二人になった時の物欲しそうでやらしいお前も、どっちも好き」
「・・・やぁ、もぅ、ぃっっ、んせっ、さかた、せんせぇっ」
「いいんだろ、奥。最初はすげぇ痛そうだったのにな。ビクビクして溢れっ放しで止まんねぇんだけど・・・もうイきたい?」
「ゎ、わかんなぁ・・・っ」
「俺も。早くのナカに出したくてたまんねぇ」
「・・・っ!ゃ・・・だめ、せんせ・・・っ」
「今日はそこまでしねぇって、さっき着けたし。けど、そのうち教えてやるよ。もっと熱くてきもちいーこと・・・っ」

荒い呼吸を漏らしながら低く唸った先生が、とろとろに蕩けた奥底を乱暴にぐりゅっと抉ってくる。
衝撃に震え上がったの、一番感じやすくて弱いところ。自分ではわからない小さなどこかに長い指が伸びてきて、粘液でぬるつくそこを手荒く弄る。 そこから広がった電流のような痺れで、全身が強張る。 それでも先生は、一気に狭まり熱を上げたの奥を我を忘れたような激しさで何度も抉った。逃げるどころか身じろぎも許してくれない硬い腕の中で、声にならない悲鳴を上げると、

――・・・っっ、あぁ・・・イクっ・・・・・・っ」
「〜〜〜・・・っっ!」

初めて聞く色っぽくて生々しい呻き声にぞくぞくっと震えて――これまで感じたことのない感覚が襲ってくる。
身体がふっと浮き上がった気がした瞬間、ずんっ、と激しく奥を穿たれて。頭上を塞ぐ先生の唇をきつく噛みしめた表情が、たちまちに発光して見えなくなって――


「っっせ、んせっ、っ、あぁあああっっ、・・・〜〜〜〜〜っっ・・・・・・!」
「――――っっ・・・・・・・!」


手足まで犯す快楽の強烈さに全身が打ち震えて、呼吸もできない。力無く唇を震わせながら大きく仰け反る。
ぶるりと全身を震わせた先生がぐっと息を詰めて、火のように滾った杭で突き破りそうなほどに捻じ込んでくる。 それがどういうことなのかもわからないまま狂ったような泣き声を上げて足先を跳ねさせ、はがくがくと腰を震わせた。
自分のものとは違う何かが、お腹の奥で微かに熱く広がっていく。瞼の端から勝手に涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。


「――・・・・・・はぁ・・・・・・ずっとこーやってられたら、いいのにな・・・」

後ろ頭を抱いた手で髪を撫でてくれる先生の声が、たまらなく甘い。 わたしも、と頷きたいのに、泣きたいくらい嬉しいのに、震えが収まるまで声も出せそうにない。手足の先すら動かせない。
気が遠くなりそうな気持ちよさに、まだ全身を縛りつけられている。
くたくたに疲れきったは、心地良いけだるさと先生の体温に包まれて眩暈のような眠気に墜ちる。 すきだよ、と囁いてそうっと触れてくれたご褒美のようなキスは、涙の塩辛さと煙草の香りが入り混じった初めて味わう味だった。











「――ダメだって、今帰ったら家の人に気付かれちまうだろ。いかにもヤりまくった直後ですってかんじのエロい顔してんだから」

遅い夕飯を食べるために寄ったファミレスの駐車場で、先生は車のキーをロックしながらを咎めるようなことを言った。 言われたは先生のあんまりな物言いのせいで顔から火が出そうになったし、ちょっと納得がいかなかった。 別に先生を責めたいわけじゃないけれど――誰のせいでがそんなふうに見えるかといえば、ほとんど先生のせいのようなものだ。
あの後――男の人に初めて抱かれて疲れきってしまったは、昨夜の寝不足のせいもあってぐっすりと寝込んでしまった。 それだけならまだ何とかなったのだけれど、夕方頃にぼんやり目を醒ました途端にまたキスされて、 眠る前にたくさん弄られて感じやすくなったところに焦らすような触りかたをされた。
「もう一回、忘れちまわねーように復習な」
なんて言った先生が上に跨ってきた頃には頭の中まで蕩けきっていて、おかげで意識が飛んでしまった。 次に目覚めてみれば九時過ぎだ。 焦ってすぐに帰ろうとしたけれど、なぜか先生は許してくれない。 反論する間もなくシャワーを浴びるよう勧められ、車で送ってもらうことになり、出発した途端に「飯でも食って少し落ち着けば」と強引に寄り道を決められてしまった。
とはいえ滅多に悪びれることがない先生も、この時間までを家に帰さなかったことに責任を感じているらしい。
運転中に時計を見ては時間を気にしているみたいだったし、一方的にファミレス行きを決めた理由だって、が家で気まずい思いをしないように気遣ってくれているからだと思う。
・・・ただ、誰のせいでがそんな顔をしているのかは、気にしてくれているのかどうか疑わしいけれど。


「・・・あの、先生、ほんとに?わたし、ほんとにそんな・・・ぁの・・・そういう顔、してる・・・?」
「してるって。ぽーっとしてるし顔赤けーし、そんなんで電車乗ったら男どもの今夜のオカズにされちまうだろうが」
「・・・っ!?ぅ、うそ・・・!」

そんな。そこまでだったなんて。お風呂で鏡を見たときは、そこまでひどくないと思ったのに・・・!
火照った頬を両手で覆い隠しながら、まぶしい明かりを漏らしているお店に向かうグレーのTシャツを着た背中を追いかける。 普段ならすぐ先生に追いつけるけれど、今日はなかなか追いつけない。脚の間に残った違和感と痛みが、を進ませてくれなかった。 オレンジ色の照明灯に照らし出された広い駐車場には、数台の車がぽつりぽつりと停まっているだけ。 その向こうに見えるファミレスの店内も人影がまばらだ。 時間が夜の十時を過ぎているからだろうか。塾以外では遅い時間に出歩くことがないにとっては、少し珍しい光景だった。
まだ見慣れない先生の私服姿と、ぬるくて湿った微風が漂う夏の夜景をぼんやり眺めながら後を追う。
覚束ない足取りで歩いていけば、先生は途中で立ち止まって待っていてくれた。 ほら、と伸ばされた手に胸が高鳴る。外で手を繋ぐなんてはじめてだ。
・・・学校の外でこんなことができるなんて。いつもこっそり憧れていた、普通の恋人同士になれたみたい。
そう思ったら嬉しくて、心臓がさらに弾んでしまう。


「でも、大丈夫ですか・・・?誰かに見られちゃうかも・・・」
「このへんの店ならうちの高校の奴らはいねーだろ。もし見つかっちまったら・・・ま、そん時はそん時で」

バレても適当にごまかすし。
ファミレスの建物を見つめたままの咥え煙草の横顔が、大した問題でもなさそうに答える。
校内でも大胆な先生は、学校の外でも大胆らしい。駐車場の薄明るい暗闇で差し出された手にどきどきしながら、は長い指をそっと握った。 この手がさっきまでの身体中に触れていたと思うと、耳までぽうっと熱を持つ。先生の熱い感触がまだ残っている身体の芯がきゅんとする。 なのにこっちへ視線を向けてきた先生が「あんましこっち見ねーでくれる。目つきが蕩けててエロいから」なんて意地の悪い顔つきで薄笑いするから、恥ずかしくて物も言えなくなってしまった。
・・・そんな顔してるつもりないのに。でも、そういうものなんだろうか。 たしかに顔は熱いし腰は痛むし、頭もぼうっとしたままで妙にふわふわしているけれど。


「そーいやぁ初めてだな。準備室以外で一緒に飯食うの」
「・・・・・・今日はわたし、はじめてのことだらけです。・・・昨日も、そうだったけど」

車道からの音で消えそうなくらい、小さな声でつぶやき返す。
はは、と先生が乾いた声で笑う。握った手にわずかな力を籠めて、ああ、と気付いたように付け足した。

「俺も初めてだわ。教え子に手ぇ出したのも、付き合ってる女に半年も手ぇ出さねーで我慢したのも」
「――え・・・」
「けっこう我慢出来るもんだな。・・・まぁその反動っつーか、おかげで今日はガキくさくはしゃいじまったけど」

意外さには目を見張る。そんなを横目に眺めた先生は、細く流れる煙を漏らしながらふっと瞳を細めて笑っていた。
――やっぱり、我慢しててくれたんだ。
そう思ったら、嬉しいような恥ずかしいような、けれど申し訳ないような、何ともいえないくすぐったい気分になってしまう。 それに、いつもマイペースで飄々としている坂田先生が「はしゃいじまった」なんて、・・・そんなに喜んでくれてたなんて。 たまに嬉しそうな顔は見せてくれていたけど、そこまでだなんて思わなかった。
どきどきしながら隣を見上げたら、うんと大人なはずの横顔がちょっと可愛く見えてくる。
新鮮な驚きにとくとくと胸を弾ませながら、は自分から先生の指に指を絡めた。意外そうに見下ろしてくる人との間を詰めて、ぴったりと寄り添うようにしてお互いの身体を触れ合わせる。
まさか、自分からこんなことが出来ちゃうなんて・・・なんだか不思議な気分だ。
急にこうしてみたくなったのだ。元から大好きだった先生を、今の遣り取りだけでもっと好きになってしまったから。 これ以上好きになったら、何でも許してしまいそうでこわい。そんな、自分でもちょっとどうかしていると思うような心配も浮かんでは消えた。
ところが先生は何を思ったのか、ずり落ち気味な眼鏡のレンズの向こうから何か言いたげな目で見つめてくる。 ぴたりとその場で足を止めると、握った手をくいっと引いて、

「なー、どうしても帰んの。今日は泊まってけば」
「・・・っ!?」

そんな――どうして急に、そんなこと。
耳や首まで赤らめたの前に、繋がれた手が持ち上げられる。
とぼけた顔でとんでもないことを言い出した先生は、絡め合った指を視線で指して、

「いや、お前滅多に自分から触ってこねーから嬉しいけど。こーいうことされると帰したくなくなるじゃん」
「〜〜〜っ、ちがいますっ。わたし、そんな、そんなつもりじゃ・・・!」
「なぁ、飯食ったら俺ん家戻ってもいい」
「だめっ、だめですっ。も、もぅ、無理・・・!」
「・・・ふーん。あっそ」

びっくりしすぎてあわてたせいで、強く否定してしまったからだろうか。 ぼそりと言った先生の眉が、癖の強い白銀の髪の影で少しだけ上がる。 いつも飄々として何を考えているのかよくわからない顔が、あきらかに拗ねているというか、不貞腐れたような表情に変わっていく。 しかしの数倍は図太そうな坂田先生は、それでもめげてはいなかったらしい。咥えていた煙草を指に挟むと、しれっとした顔で口を開いて、

「そんじゃ来週」
「それもだめです・・・!」
「はぁ?ちょ、何なのお前どこまで俺を・・・・・・――って、いや、まぁ、それならこのくれーは許せよな」

っっ、と口の奥で叫んだの背筋が跳ね上がる。先生の手にいきなり後ろ頭を抑えられて、やわらかい感触に唇を塞がれてしまったから。
ほんのり苦い煙草の味がするキスは、眩暈がするような素早さで口の中まで入り込んでくる。 車に囲まれた人気のない駐車場は薄暗いけれど、暗闇を照らしてまぶしく光るファミレスの入口は目の前だ。 店内から届く明るさや道路からの物音を気にしながら、それでもは拒む気になれなかった。そんな自分に戸惑いながら、薄赤く染まった瞼を閉じていく。すると先生は、なぜかわずかに唇を離した。 あわてて目を見開いたの耳に唇を触れさせると、「じゃあ再来週な」なんて、身体中に響いてぞくぞくしてしまう艶めかしい声でささやいてくる。

――ああ、やっぱり坂田先生はいけない先生だ。
覚えたばかりの甘い感覚で背筋をせつなく震わせながら、は心の中でつぶやく。

だって、ずるい。好きな人からこんなふうに誘われてしまったら、「はい」って頷いて許してしまいそうになる。だって内心では同じ気持ちなのに。 いけないことだと判っているけれど、本当はまだ帰りたくない。このまま一晩中でもいい。もっと先生と一緒にいたい。 だけどここでそんなことを口にしてしまえば、後はいったいどうなるか。きっとすべてが先生の思うままだ。
だから、今はまだ言ってあげない。 こんな気持ちは今はまだ、ないしょ。
生徒を誘惑してばかりのいけない先生には、自分でも大胆すぎて困ってしまういけない気持ちはもう少し秘密にしておこう。





この感情はまだあげない

title: alkalism http://girl.fem.jp/ism/
text *riliri Caramelization  2014/08/28/
「3Z/坂田銀八 Sな先生と内気ヒロイン 恋人同士 進展しない関係に焦れた先生が家に誘う」
神崎さま、ありがとうございました !!