「――それって、ちゃんを家に誘う口実じゃないかしら。女の子を家に連れ込みたい男の人の、よくある手口っていうか」
ポニーテールの頭を傾げて考え込むと、妙ちゃんはの様子を窺うような目つきでそう言った。
普段から頼りにしている友達が出してくれた結論に、思わず持っていたバレーボールを落としかける。
妙ちゃんが足元に転がったボールを拾い上げ、用具倉庫から出してきた大きな籠にそれを落とすと、
「まだその人の家には行ったことないのよね」
「う、うん・・・」
「半年くらい付き合ってて、相手は大人なんでしょ。なら、もうそろそろ…、って思ってるのかも」
そう聞かされ、頭の中が真っ白になってしまった。
体育館正面のステージ上から、四時限目終了のチャイムがすこし歪んだ音で鳴り響いている。
午前中最後の授業は2クラス合同の体育で、男子はグラウンドでサッカー、女子は体育館でバレーボールの試合だった。
しかしは試合中も上の空、トスもレシーブもミスを連発。
同じチームの妙ちゃんに具合でも悪いのかと心配されても、友達の声が半分も耳に入ってこない。
先生の家に誘われたことで頭が一杯で、何も手につかないのだ。
そこで他のチームの試合をコート際で見物していたときに、妙ちゃんに先生とのことを相談してみた。
相談といっても、ほんの少しだけ。
を悩ませているその恋人が担任の坂田先生だという、妙ちゃんどころか学校中が震撼する事実はもちろん伏せた。
ところがその話を周囲の子に聞かれてしまい、友達の恋愛事情に敏感なその子たちの好奇心に火を点けてしまったみたいだ。
目の色を変えて「ねえ彼氏ってどんな人、どこ校、ひょっとしてうちの学校!?」などと詰め寄ってくる彼女たちの食いつきはものすごくて、こんなところで話すんじゃなかった、と本気で後悔したくらいだ。
そのうちに試合終了のホイッスルが鳴り渡り、質問責めからは運良く逃れられたが、
――みんなが騒いでいた間は黙って話を聞いていた妙ちゃんは、が心配だったらしい。
他の子に聞かれないように人目を見計らいながら、控えめな助言を授けてくれた。
それでもがショックを受けてしまったので、妙ちゃんもちょっと困っているようだ。
「でも、男の人全員がそうじゃないと思うわ。私の勘違いかもしれないしね」
そんなことを言い聞かされて励まされるうちに、ばん、ばん、とボールをドリブルする響きが後ろから近づいてきた。
「えーでもすごくないその人、我慢強いよねー」
笑顔で話しかけてきたその子は、さっきの話を聞いていた一人だ。内気なとは逆の明るく屈託のない性格で、大学生の彼氏がいるらしい。
「半年もキスだけで我慢とか、普通ないよー。うちの彼氏だったらそんなのありえないよ」
「えっ。ぁ、ありえないの?そんなに?」
「そうだよ、それすごいよー、ちゃん彼氏に超愛されてるよー。うちなんて半年も我慢させたら十回はキレられそうー」
けらけらと笑いながらボールを籠へぽいと放ると、その子はステージ前にいる友達に呼ばれて行ってしまった。
後に残されたの頭の中では、実感たっぷりな彼女の話と何の悪気もなさそうな笑い声がまだ回り続けているのに。
体育館独特の埃っぽい匂いが染みついた真っ白なボールを、白い体操着の胸に抱きしめる。か細い声で妙ちゃんに尋ねた。
「ありえないって。・・・どうしよう。わたし、そんなに我慢させてたのかな」
「どうかしら。そういうことって人によると思うし、あまり気にしなくてもいいんじゃないの」
「・・・・・・うん」
は妙ちゃんにありがとうとお礼を言ったが、気にしないなんて無理だった。
「そんなのありえない」なんて言われて自分の考えと同級生の彼氏の反応との大きすぎるギャップに驚き、まだそのショックから回復できてもいないのだ。
頭の中は先生のことで一杯だ。でも先生のことばかり考えるうちに、先生のことを何一つ解っていないんじゃないかという気がしてきた。
恋人になって一緒の時間を過ごすようになってから、は少しずつ先生の素顔を知り、先生のことを解りかけたような気分になっていた。
だけどこうして困った事態に直面すると、その自信はいともあっさり揺らいでしまう。実際は――先生が何を考えてを誘ったのかすらわからないんだから。
畳んだネットを数人で抱えた隣のクラスの子たちが、楽しそうに話しながら過ぎていく。
はなんとなく彼女たちを目で追った。どの子も見慣れた体操着姿だ。
胸元に校章が入った白Tシャツに、学校指定の濃紺のハーフパンツ。学校指定の白い内履き。
同じものを履いた自分の足を見下ろせば、表情が自然と曇っていった。
彼女たちと同じ格好をしている女子高生の自分と、誰から見ても大人な先生。お互いの立場や考えの差がどれだけ大きいのか…、ともっと考え込んでしまう。
とそこへ、またさっきの子が戻ってきて、
「ところでさぁ、誰、どこの人、ちゃんの彼氏って。うちのクラスの男子じゃないよね?」
「えっ、あ、あの、」
「えぇー彼氏いたの!?いるの!?マジで!」
「聞いてないし!いつから付き合ってたの?」
「半年だって。ね、そうだよねちゃん」
「何それー、そういうことは早く言いなよ!ねぇ彼氏ってうちの学校!?」
屈託のない彼女の声は大きくて、おかげで体育館中の耳聡い子たちがどよめいた。
あっという間に周りを囲まれてしまえば、もう逃げ場なんてない。
これまでは彼氏が出来たこともなく、人の恋愛話を聞くことはあっても自分がその話の中心に立つことがなかったは、ボールを抱きしめ固まってしまった。
うろたえながらも「全然たいした話じゃないから」と何とかこの場をごまかそうとしたが、元々が控えめで強く出られない性格だ。
クラスの女子ほぼ全員の輝く視線と熱気に包まれ、圧倒されれば言葉も出ない。
コートの片付けもそっちのけでみんながきゃあきゃあと騒ぐので、この手の話には立ち入ってこない柳生さんが「君たちがそうやって騒ぐからさんは黙っていたんじゃないか」と見兼ねて擁護に入ってくれたくらいだ。
おかげでみんなの熱気も少し収まったところで、好奇心一杯の包囲網からどうにか抜け出て更衣室に向かった。
しかしほっとする間もなく更衣室に戻ってきた子たちに話しかけられ、これでは着替えも出来そうにない。
持ってきたバッグに制服やタオルをあわてて詰め込み、体操着姿のままで更衣室から逃げ出した。
――昼時で混雑する購買部前を擦り抜けて向かった国語科準備室には、運がいいことにどの先生の姿もなかった。
「失礼します、・・・・・・先生?」
呼びかけながらそっと中を覗き込んでみたが、ここで待ち合わせるはずの坂田先生の姿もない。
四時限目の授業からまだ戻っていないのか、それとも職員室に寄っているのか。
――でも、よかった。
これなら着替えられそうだし、一人で考える時間も少しくらいならありそうだ。
ほっとしたは、照明が消された室内に入る。窓はすべれ開け放され、さらさらと吹き込む風が壁のカレンダーや机上のプリントの束を揺らしていた。
真昼の陽射しで薄明るく照らされた室内を横切り、クリーム色のカーテンで仕切られた奥の一角へと向かう。
そこは国語科担当の先生たちの喫煙スペースなのだが、ここ数年で他の先生たちは次々と禁煙したとかで、今は坂田先生の専用スペースと化していた。
天井で大きな換気扇が回っているから、そこで先生とお昼を食べているはそんなに煙たいとは感じない。
それでも禁煙した先生たちからの遠回しな圧力はあるようで、なーんか最近視線が痛てーんだわ、と以前先生は妙に物憂げに、けれど普段と同じふてぶてしい顔つきで煙草をふかしながら嘆いていた。
カーテンにぐるりと囲まれた狭いスペースに入ると、バッグの中を探る。
お弁当は灰皿が乗ったテーブルに、制服やタオルは、壁際に寄せられた背もたれのない長椅子に。
汗に濡れてまとわりつくTシャツを脱いでしまえば、途端に蒸し暑さから解放された。
外からはにぎやかな声や足音、昼休みの校内放送が流れ込んでくる。
はしゃいだ声は一年生だろうか。窓から見下ろせる中庭にはベンチが並んでいるから、そこでお弁当を広げている子も多い。
付き合っている子たちが二人きりでランチしていることもあって、見かけるとちょっぴり羨ましくなってしまう。
と先生なら、校内であんなことは出来っこない。校外でも無理だろう。そういう秘密の関係だから。
でも――それでもいい。ここでこっそりお昼を食べられるだけでも嬉しい。先生と一緒にいられるんだから。
数人の女の子の大きな笑い声を聴きながら、ここへ来る途中で濡らしてきたタオルで汗を拭く。
拭いているだけで肌がすっと冷えて気持ちがいい。
先生にどう返事をしよう、とどきどきしながら考えつつ、うなじや首元も拭っていく。制服を置いた長椅子のほうへ視線を移すと、
「――・・・・・・えっ」
視線を流した位置に貼られた、小さな鏡が目に入る。そこに映った自分を眺めて、は驚き息を詰めた。
普段は髪で隠れている、耳の下あたり―― そう、先生にキスされて微かに痛みを感じたところだ。
そこがぽつりと色づいている。虫に刺されたような印の意味は、さすがにも知っていた。
かーっ、と一瞬で全身が火照り、すぐに壁の鏡に飛びつく。
首元を隠している髪をうなじまで避けて確認しているうちに、クラスの子たちに見られなかっただろうか、と気付いてはっとする。
誰にも指摘されなかったけれど、誰に見られてもおかしくない位置だ。そう思ったら恥ずかしさで叫びたいような気分になった。
まだ下着姿だということも忘れ、タオルを抱きしめソファにへなへなと座り込む。
・・・・・・付けられたこともなければ、目にするのも初めてだ。
知らなかった。キスマークって、ああやって吸いつかれると出来るんだ――
「・・・やだ。どうしよう・・・・・・どうして・・・」
どうして、と狼狽えながら繰り返したは、赤く腫れた痕に触れた。
指先でその感触を確かめながら、妙ちゃんの「もうそろそろ…、って思ってるのかも」という言葉を思い出せば、もうどうしたらいいのかわからない。
――どうして先生はこんなことをしたんだろう。今日の今日まで、キス以上のことはしてこなかった。
なのに今日は急に抱きしめたり、今までとは違うキスをしたり、今までとは違う手つきで触ってきたり。
さらにはこんな痕まで付けられ、どれも初めての体験ばかりなは気持ちの整理が追いつかない。
やっぱり今日の先生は変だ。態度は普段通りに見えたけれど、どういうつもりなんだろう。わたしを家に誘って、どうするつもりなんだろう――
そう思ったら、なぜか身体がおかしくなった。先生にキスされていたときの、あの感覚が蘇ってくる。
身体の奥は熱くなるのに背筋はぞくぞくしてしまう、あの変な感じが――
「・・・・・・先生、どうしてあんなこと・・・」
その感覚を思い出しただけで心臓がとくとくと鳴り出して、は胸元の濡れたタオルを抱きしめる。
その時、かしゃ、と何か軽いものが軋んだような音が鳴った。外からの音じゃない。今のは室内の音だ。
あわてて振り向くと、きっちりと閉め切ったはずのカーテンはなぜか半端に開いている。
は声もなく震え上がり、壁際まで後退して長椅子の上で全身を竦めた。
いつのまにか人がいる。温い風にゆらゆらとそよぐ、薄い布の向こう側だ。
逆向きにした回転椅子の背に頬杖をつき、コーヒーの缶を口に運びながらこっちを眺めている。
窓からの光で透ける白っぽい癖っ毛が揺れている。眼鏡のレンズ越しにを見つめる、白シャツの上にだらしなく白衣を重ねた姿。
昼休みに準備室を訪れる唯一の人 ――坂田先生が――
「せっっ、先生、いつから・・・!」
「お前が首のそれに気付くちょっと前」
とんとん、と自分のシャツの衿元をとぼけた顔の先生が指す。
「見えねーとこ狙ったつもりだったけど結構目立つな。悪い」と一応謝ってくれたものの平然とこっちを見ているし、悪びれた様子なんてどこにもない。
上半身だけとはいえ下着姿を見られたは、先生と目が合った瞬間から心臓がばくばくと暴れ続けているのに――・・・!
「ぁ、あっち向いててくださいっ。・・・ていうか、声くらい掛けてくださいっ」
「あーすっかり忘れてたわ、ここ入った途端に目が釘付けになっちまって。そのカーテン透けて見えっから」
「っっ、うそ・・・!えっ、ゃ、待って、まだ、着替えっ」
の制止は絶対に聞こえたはずなのに、ぎいっ、と椅子を軋ませて白衣姿が立ち上がる。逃げようにも間に合わない。
先生はコーヒーを机に置くと、視線を逸らすことなくこっちへ向かって来る。
来ないで、と心の中で叫びながらはあわててセーラー服を掴む。それで身体を隠そうとしたが、隠す前に先生に取り上げられてしまって、
「〜〜やだ、返して・・・!」
「ダメです返しませんー。一時没収な、これ」
信じられないことを言った先生が、テーブルに制服を放り投げる。
灰皿とお弁当の上にばさりとそれが落ちたときには、は先生に壁際まで追い詰められていた。
タオルもするりと胸元から抜かれ、伸びてきた両手に肩を抱かれる。
素肌に当たった手の感触に驚いてしまい、全身がびくっと大きく跳ね上がった。
「・・・・・・どーして、ねぇ。どーしてだと思う」
「――え・・・っ」
「いや、さっきのあれな。お前の独り言。どーして俺が「あんなこと」したのか、ってやつ」
えっ、と目を見開いたの全身が、かぁっと一瞬で熱く火照った。
そんな。たったあれだけで、何のことを言っていたのか見抜かれたなんて――
真っ赤になって口籠るに、上下に動く先生の視線が注がれる。
初めて見せた下着姿を間近でじっと見つめられ、全身が火を噴きそうだ。
恥ずかしさに震えながらうつむくと、首に残された赤い痕を指先でそっとくすぐられた。
すると背筋に何かが走って、身体が勝手に仰け反ってしまう。
「――あ・・・っ」
「これな、これ。俺がお前にこーいう痕付けたり、急に家に来いとか言い出した理由。どーしてだと思う」
「っぁ、ゎ、わかん、な・・・っ」
「はは、だよな。・・・じゃあ、知りたい?理由」
恥ずかしくて泣き出しそうなの肩から二の腕をゆっくりと撫で下ろしながら、先生は片膝を長椅子に突く。
一人で寝転がるのがやっとな大きさしかない椅子が、ぎいっと鳴る。
先生がそのまま身体ごと乗り上げてを抱きしめてくると、さらに音を立てて座面が沈む。
あわてて押し返したけれど、三時限目のときと同じように腕を掴まれ壁に押しつけられてしまう。
おかげで身体の自由を奪われた上に、薄いピンクのブラに半分覆われた膨らみが先生の目の前に突き出された。
先生は普段とあまり変わらない飄々とした表情で、じんわりと汗を纏ったの胸にじっと視線を落としている。
たまに視線がすっと流れ、白く日焼けしていない素肌の上を這うようにして移動していく。そのたびにぞくりとして唇を噛んだ。
室内に漂う夏の空気は生温いのに、肌がどこも粟立ってしまいそうだ。
――見られているのは胸だけじゃない。腕も肩もお腹も、椅子に乗ってきた先生の腰を跨ぐような格好で開かされた太腿も――
「や・・・いや・・・・・・もう、せんせぃ・・・っ」
「答えろって。なぁ、知りたい。何で俺がこーいうことするよーになったか」
答えたら、この恥ずかしくてたまらない状態から解放してもらえるんだろうか。
羞恥で瞳を潤ませたは、どうしようかと迷いながら視線を左右に泳がせる。
たまに先生を見上げて助けを乞うような視線を向けてみたけれど、先生はその度にふっと可笑しそうに目元を緩めるだけ。
が何か言うまで、離すつもりはないみたいだ。散々迷った挙句に諦めたは、仕方なくこくりと頷いた。
そう、先生の言うとおりだ。どうしてこんなことになっているのか知りたかった。ここで知りたくないなんて言えば、好きな人に嘘をつくことになるし。
「じゃあ教えてやるよ。時間ねーけど、特別授業な。・・・教科書には載ってねーこと一杯教えてやるから、覚悟して」
低めた声でささやきながら、先生は薄く笑っていた。眼鏡を外して白衣の内ポケットに差し入れる。
たまにしか見れないその仕草や素顔にが見惚れている間に、すかさず顔を寄せてきた。
拒む間もなく煙草の香りがする唇と触れ合う。押しつけられた濡れたものに口内を割られる。
のめり込んできた先生の舌にはコーヒーの苦みと甘みが移っていて、なんだかさっきよりも熱い気がした。んふ、と詰まった声を漏らしたの舌が奪われ、尖らせた先で撫でられたらびくびくと全身が震え上がって、
「――っ、・・・・・・んんっ、ふ、・・・ぁっ」
「・・・俺が変になってんのは、お前のせいだから」
「っな、なん、で、わたし、なにも、してな・・・・・・――っく、んぅ、」
「だからそれな、それ。・・・そーいう声とか反応の良さが、男を無意識に誘ってるようなもんなんだって」
舌を引き抜いた先生が、唇が触れ合ったままで熱い吐息と声を漏らす。
――そんな。男の人を誘うようなって・・・そんなつもりはどこにもないのに。
とんでもない誤解に耳まで赤らめうろたえるの唇を、ちゅ、ちゅ、と角度を変えて先生は啄む。その唇を顎から首筋へと滑らせていった。
首元を下りると鎖骨へ逸れた唇は、肩先に留まっていたリボン付きのストラップを軽く噛む。
そのままぐんと引っ張られれば、頼りない紐で吊られた下着は片胸だけがはらりと落ちた。
驚いて声も出ないの目の前で、白い膨らみは揺れてこぼれる。
そこに先生が躊躇いなく顔を寄せようとするから、は必死に腰を捩って、
「だ!だめっ、見ちゃ、」
「隠さねーで見せろって。見せてくんねーと下着も一時没収するけどいーの」
「や、だめですっ、だめ・・・・・・――っん、ぁ、あっっ」
壁に縫い止められた両手首が、ぐっと強めに締めつけられる。
おかげでの身体はさらに自由を奪われてしまい、鎖骨から胸の谷間までを舌先でつぅっとなぞられたら、ぞくっ、と腰が震え上がった。
――何だろうこれは。
弱い震えが残ったままの腰の奥が、感じたことのないもやもやした熱を帯び始めている。
さっきキスされたときのそれに似ているけれど、あれとは比べ物にならない強い感覚。
あっ、と悲鳴じみた声を上げてしまうほどの、強くて熱い何かが走ったせいだ。
その間も先生の赤い舌先はちろちろと肌の上で蠢き、濡れた感触が膨らみの上にひんやりと残る。
「、緊張してんの。ここ、さっきから震えてる」
肌をしっとりと潤わせているの汗を味わうかのように蠢く熱は、胸の中心へと寄っていく。
やがて桜色をした小さな先端に辿り着き、そこを掬い取るようにして舐め上げた。
「あぁっっ」
じゅっ、と唾液を含ませながら吸い込まれた先がじぃんと痺れ、痺れが止まないままのそこをぬるりとやわらかい口内で揉まれる。
くちゅ、くちゅ、とキスした時と似た音が、二人きりの準備室に漂い始める。
「もう固くなってきたな。もしかして、もっと早く触ってほしかった?」
「や・・・んっ・・・・・・っう、ふ・・・っ」
違う、と否定したいのに、息が上がって言い返せない。
はぁ、はぁ、と呼吸を乱して喘ぐには、生まれて初めて男の人に胸を晒し、こんないやらしいことをされていることに驚く余裕すらなかった。
先生に感じやすい部分を吸ったり捏ねたりされて、そこに全身の神経が集中する。
舌で押し潰されたり軽く齧られたりするたびに甘く痺れて、なぜかお腹の奥まできゅんと痺れる。
その痺れはあっというまに全身に回っていって、何も考えられなくなってしまった。
煙草の匂いがする頭が、胸の谷間で揺れている。先生の少し荒い息遣いが肌に触れるだけでぞくぞくするのに、捻じれて跳ねる白い毛先にもくすぐられてしまう。
先生が自分の胸に齧りついている光景が生々しすぎて、もう見ていられない。
だめ、だめ、と涙ぐみながらかぶりを振り、赤く染まった瞼をきつく閉じる。
震える唇もきゅっと噛み、喉の奥から勝手に昇ってくる鼻にかかった声を夢中でこらえる。それでも声が押さえきれない。
そこへ甲高い女の子の笑い声が響いた。開放された窓辺からだ。室内まで流れ込んできたその声で、の全身が竦み上がった。
「だ、だめぇ・・・こんな、だめぇ・・・やめて、せんせぇ・・・っ」
いつのまにか頬を伝って口の中まで流れてきた涙を飲み込みながら、は震える声で頼んだ。
するとを壁に抑えつけていた先生の手が片方だけ離れ、拘束力が一気に緩む。
次いで先生の唇も胸から離れ、はぐったりと頭を垂れる。
はぁ、はぁ…と苦しくなった息を整えながら、これで終わりにしてもらえる、とほっとした。
ところが――先生に止めてくれる気はなかったようだ。
の手首から離れていった手は、舐められていないほうの胸へと伸びていった。
いや、とあわてて身体を捩っても無駄で、ぐいっとブラをずり下ろされる。
大きな手のひらで包み込むようにして、零れ出た白い膨らみを握られてしまった。
先生はふにゅ、ふにゅ、と丸みを潰すようにして大きく揉み回しながら、先の尖りをつついてくる。ぴん、と爪先で弾かれれば、強すぎる刺激に腰が跳ねる。
何度もそこを弾かれながらもう片方の尖りも齧られ、ぶる、と全身が跳ね上がって、
「――あぁんっ」
頑張って噛みしめていた唇から、甲高い声も跳ね上がる。
手首を壁に縫い留めていた手がようやく離れて、力が入らなくなった身体がずるりと壁を擦って崩れ落ちる。
はぁ、はぁ、と唇を半開きにしたままで上がった呼吸を繰り返しながら、は目尻に涙を浮かべた顔で先生を見つめた。
熱い。先生に追い詰められて剥き出しにされた全身が、汗を滲ませ放熱している。
特にショーツのクロッチに擦れる部分が、たまらなく熱い。何かとろりとしている気がする。
そこがどんな風になっているのかを考えると恥ずかしくて消えてしまいたくなるのに、
――ああ、信じられない。
どうしちゃったんだろう。先生の手でこの熱をどうにかしてほしい、なんて淫らなことを心の底では願っているなんて――
「・・・って、っとに何しても反応いいな。ひょっとしてもう感じてんの、ここ」
苦笑しながら伸ばされた先生の指が、濃紺のジャージ地の上からそこに触れる。
湿り気を帯びたそこをそっとなぞられ、それだけできゅうっとお腹の奥が縮んで太腿をぎゅっと閉じてしまう。
はしたない、と思うのに、上下になぞられるたびに腰が揺れる。自分の口から飛び出ているとは思えない、甘えた喘ぎ声も出てしまう。
何度か撫でてから指を止めると、なぜか先生は瞳を細めてを眺め下ろしてきた。
眼鏡を外した顔を見ただけで、いつもどきりとさせられるけれど――
どうしてだろう。今日は心臓がとくとくと弾んで止まらない。
先生が、これまで一度も見たことのない表情をしているからだろうか。
嬉しそうな、けれどどこか艶めかしい笑みに視線を吸い込まれてしまう。ふたたび先生の指が動き出したら、身体中が甘い痺れにわなないた。
「せんせ、せんせぇ・・・あっ、ゃあ」
「自分でも判るだろ。もう濡れてんじゃんここ。すげえな、胸だけでこんなになっちまうのお前」
「っぁ、ひ、ぅ・・・っっ、ゎ、わたし、やだ、こんな、おかしい・・・っ」
「おかしくねえって。感じやすい女はちょっと触られただけでこーなんの」
「あんっ、っや、だめ、舐めちゃ、っっ・・・」
ぎゅっと捻りながら揉まれた胸は、先がすっかり固く尖って感じやすくなっている。
そこにちゅっと吸いつかれて、もっと感じろ、とばかりに舌で捏ねられてしまえばもう声を我慢できない。
クリーム色のカーテンを揺らす生温く気だるげな風に乗って、外から音が流れ込んでくる。
校内放送で流している流行りの歌。数人のグループらしい女の子たちの笑い声。押さえ気味な声で笑い合う、カップルらしい二人のひそやかで甘い話し声。
そんな声すらの耳にはもう届かなくなってきた。ただでさえ風が届きにくい準備室の隅は、うだるように暑い。頭の中まで溶かされてしまいそうな暑さだ。
そこで壁際に押し込められたの肌にはびっしりと汗が滴って、おまけに先生の白衣やシャツが張り付いてくるから、半分裸にされているのに熱くて火照って息がつけない。
その上先生の手や舌が動くたびに感じてしまい、ぼうっとして何も考えられなくなる。
自分がどんな場所で先生に身体をもてあそばれているのか、なんてことは頭の中から掻き消えてしまっていた。
長い指の先はそのうちにハーフパンツの奥まで潜ってきて、ぬるりと濡れたのそこを薄いショーツの生地越しに撫でる。
いっそう直接的になった刺激に苛まれて、あ、あ、と短い声が止まらなくなると、先生の指がショーツを押し込むような動きに変わる。
くちゅ、ぐちゅ、と粘っこい音が身体の奥から漏れてくるのが信じられない。
とろとろになったそこに硬い爪先を押し込まれるたびにああっ、と涙を振り撒き、びくびくと全身を震わせていたら、先生の腕がを包んで抱きしめる。
汗で湿ったおでこにかかる髪を、梳くようにして掻き上げられた。それから目尻の涙を吸われ、薄赤くなった瞼にも唇を落とされる。
「・・・それ。その顔な。そーいう物欲しそうな顔してっから、んなとこで教師に食われちまうんだよ」
吐息混じりな甘い響きの声で囁かれたら、ぞくぞくと震えが背筋を駆け上がっていく。耳元にも唇を寄せられ、ちゅ、と軽く啄まれて、
「駄目だろ。声、我慢しねーと」
「えっ・・・」
「窓、全部開いてんだけど。それとも何、お前の初めての喘ぎ声、俺以外の男にも聞かせる気ですか」
からかうような声で耳の奥に囁かれたら、猛烈な恥ずかしさと甘い痺れが一挙に襲ってくる。身体どころか頭の中まで蕩けてしまいそうだ。
――そうだ。すっかり忘れそうになっていた。
ここは他の先生たちも出入りする準備室。誰がいつ入って来てもおかしくない場所だ。
こんなところで、これ以上何かされたら。そう思っても、は身動きすら出来なかった。身体のどこにも力が入らない。
くったりと先生に凭れていると「これも没収な」と囁かれ、ずるりと一気にハーフパンツと下着を剥がれる。
そうしている間に先生はを長椅子に横たえ、肩や胸、脇腹や腰をゆっくりと撫で回しながら背中へと手を向かわせた。
背筋のところに微かな感触を感じたかと思えば、膨らみの下だけを覆っていたピンクのブラが一気に緩む。
ぐい、と引っ張られたそれも腕から抜かれる。
履いていたはずの上履きの感触は、いつの間にかなくなっていた。
肌を覆っているのは左の足首に引っかかっているハーフパンツと下着、それから黒い靴下だけだ。
「はは、何これ。エロいったらねーな」
の太腿を撫で回していた先生は、瞼を伏せたうっとりした表情で笑っていたけれど――どういう意味だろう。
どうして先生がそう思ったのかよく解らない。でも、エロいなんて言われたせいで顔が真っ赤になってしまった。
「――で、どーなってんだよここは」
ふと口を開いた先生が、長椅子の上に投げ出されていた右の太腿を掴み上げる。
びくん、と跳ねて泣きそうな顔になったは、咄嗟に先生の手を掴んで拒んだ。
それまでは閉じられていた脚を急に開かされ、誰にも見せたことのないところもいきなり空気に晒されたのだ。
こわい。それに、死にそうなくらい恥ずかしい。布地越しの感触でも、いやらしく濡れていると判ったくらいなのに。
しかし先生の手はの太腿を掴んで離さず、たいして力を籠めてもいないような手つきで両方の太腿を強引に開いてしまった。
「っっ・・・!」
「あーあー予想以上に蕩けさせちまって。ほら、また溢れてきたぜ。、俺に見られて感じたんだろ」
「〜〜っ。ゃ、やだあ・・・っ」
「恥ずかしい?だよなぁ、恥ずかしいよな。初めて男にイジられたのにこんなになっちまうんだから」
膝裏を掴んでそこにキスした先生の視線は、の一点だけに注がれている。
ねっとりと熱い視線を感じるその部分がたまらなく火照って、なぜかお腹の奥がきゅうっと締まる。
先生が見つめているそこから、とろり、と生温い何かが溢れて、流れ出てきたそのしずくがつうっとお尻まで濡らしていく。
いや、と泣き声を漏らしたはどうにかして脚を閉じてしまいたいのに、先生はそれを許してくれない。
・・・本気で押さえてくる男の人の力って、こんなに強いんだ。
先生には敵わないことを身体で理解させられたは、初めての怯えを感じながら足や腰を震わせる。
の両脚の間に割り込んでどさりと腰を下ろした身体が、鋼のように硬く思えた。
「――あー、クソ暑いな今日。・・・で、さっきの話の続きだけど。最近お前、変わってきたじゃん」
「そんな・・・し、しらな・・・っ」
「変わったって。つってもお前は無意識なんだろうけど。キスした時の反応とか、身体に触ったときとか」
緩みきったネクタイをさらに緩めてシャツの衿元を広げると、先生は太腿の裏側を撫でてくる。
それだけで先生が言ったとおりになった。んっ、と震え上がって鼻に抜ける声を漏らすと、そこにちゅうっと吸いかれる。
ちくりと刺すような甘い痛みが肌に残る。
吸われるところが開かされた足の間に近づいていくほど感じてしまって、最後にはぶるりと胸を震わせながらの全身が反り上がった。
「ふぁ・・・ん、せん、せぇ・・・っ」
「こーいうの見ちまうと男は我慢きかなくなってくんだわ。
さっきも反応よすぎてヤバかったんだけど、お前、ぜんぜん気付いてねーのな。自分がどんだけそそる顔して俺のこと見てるか」
な、と同意を求めるかのように先生に迫られ、恥ずかしさに身悶えしながら唇を噛んだ。
教師とは思えないほど悪そうな顔でにやりと笑った先生は、汗で潤った肌の感触を楽しむようにして腿の内側ばかりを撫でる。
がほんのちょっとでも声を漏らせば、そこを舐めたり吸ったりしてくる。
これまで意識したこともなかった。自分の身体にこんなに感じやすい部分があるなんて。
の汗で濡れた手のひらの感触がやわらかな肌を滑るたびに、開かれた脚の間におかしな疼きを感じてしまう。
しかも先生にいやらしいことを言われたせいか、身体の中心でびくびくと蠢いているその疼きはもっとを苛んでくる。
はぁ、はあっ、と荒い呼吸を繰り返しながら先生の腕に縋りついていると、先生はもっと手を滑らせて熱い谷間に触れてきた。
くちゅりと浅く割られたそこをつうっとなぞった指先が、小さなどこかを手荒く押した。
が触れたこともなかったそこに触れられた瞬間、電流のような痺れに貫かれて、
「〜〜んん・・・〜〜っ!」
反射的に唇を噛みしめ、背筋を反らして硬直した。
初めて感じる感覚だ――腰を椅子から浮き上がらせるくらいの、痛みと紙一重で強烈な何か。
覆い被さってきた人の影で薄暗い視界を真っ白に変えてしまうその感覚は、一瞬で頭の天辺まで突き抜けていった。
先生はそんなを色っぽい目つきで眺めながら汗で濡れた胸を揉み、熱い潤みで蕩けきったところをゆるゆると撫で続ける。
涙に濡れた瞼をぎゅっときつく閉じ、身体中を走る痺れから逃れようと背中を浮かせて伸び上がる。
けれどあの敏感な部分に何度か繰り返し触れられれば、腰が砕けて脚にも力が入らない。
しばらくすると先生はのそこに顔を埋め、熱い舌先を何か別の生き物のように動かして舐め始めた。
唇を啄む時と同じようにちゅっと吸われ、尖らせた舌を中まで強引に押し込まれる。
いやだ。そんなところを男の人に――しかも好きな人に舐められるなんて。
しかしの意志に反して、そこは先生に触れられたがっているみたいだ。
指よりもやわらかく熱い粘膜で擦り上げられてきゅうっと縮み、もっとしてほしい、と言いたげにとろとろと熱を溢れさせるばかり。
こんな自分を先生に見られて恥ずかしいのに、涙が止まらないのに――身体は先生が教えてくれるいやらしいことを喜んでいる。
好きな人の舌と唇が蠢くたびに従順になって、お腹を奥まで痺れさせる熱のもどかしさに支配されていく。
指を入れられたときには苦しかったし鈍い痛みが走ったけれど、敏感な部分を嬲られながら潤んだ中を抜き挿しされれば、もう何が何だかわからなくなる。
甘い喘ぎ声と甲高い悲鳴を交互に上げ続けながら、は先生の手と唇と舌で思いどおりに啼かされ続けた。
「――せんせ・・・さかた、せんせぇ・・・あ・・・・・はぁ・・・・・・っああ、あぁ、あっっ」
何をされても感じてしまって、腰が絶え間なくびくびくと揺れる。
口を強く押さえていないと叫び声が外に漏れてしまいそうだ。
途中からはもう、自分の身体に何が起きているのかもわからなかった。わずかに曲がった先生の指先でどこかをくにゅりと深めに突かれて、
「――っあぁ!」
「また狭くなったな。ここ、もっと弄られたい?」
「あぁだめっ、っへんなの、そこっ、じいんって、っあ、ゃんっ」
「ダメじゃなくてイキそうなんだろ。のナカもうぐちゅぐちゅだし、ずっとヒクついてる」
「やっ、やあぁっ・・・・・・・・・あぁ!」
初めて弄られたそこは他よりもうんと敏感らしい。粘膜の壁をさらに深く押し込まれたら、頭の芯まで痺れが達した。
先生の指を飲み込むたびに鳴る濁った水音の響きにも追い込まれ、は抑えつけられた脚の爪先を高く跳ねさせ背筋を逸らす。
そんな動きに合わせるようにぐちゅりと突かれて、声にならない声を漏らしながら快感の頂点まで駆け上がった――
「・・・・・・〜〜〜〜〜〜っっ・・・!」
頭の中が白く霞む。太腿の間でぎゅっと挟みつけた先生の頭が、薄暗い準備室の天井が、ぶわりと溢れた涙で歪む。
息を詰めて声を噛み殺した喉はせつない嗚咽で震え続け、ずるりと指を抜かれると、あん、と自分の声とは思えない甘い悲鳴を上げてしまった。
「はい、特別授業終わりー」
そう言って身体を起こした先生は普段通りに飄々としているのに、に注がれる視線がいつもよりも熱くてどきどきする。
子供を宥めるような優しいキスを唇に落とされたら少しほっとしたけれど、透明な粘液が滴る中指をやけに色っぽい仕草で舐められたら、恥ずかしくってどうしたらいいかわからない。
肩まで落ちてぐしゃぐしゃによれた白衣を脱ぐと、先生はを起こしてくれた。
ほとんど何も身に着けていない身体に、労わろうとしているような優しい手つきで白衣をふわりと掛けてくれる。
自分の膝上にを引き寄せた先生に頭や背中を撫でられるうちに、全身が蕩けてしまいそうな甘い気分になってきた。
今までだって、先生に撫でられたことは何度もあった。でも、なんだか今までのそれとは少し、手つきや指の動き方が違っている気がする。
・・・とはいえ何がどう違っているのかは、このまま眠ってしまいたいくらい疲れているには、まだよく解らないけれど。
「続きは明日な。塾終わったら迎えに行ってやるから、逃げるんじゃねーぞ」
素肌に当たる白衣の感触にどきどきしながら考え込んでいたら、先生が急にそんなことを言い出した。
えっ、と目の前がうっすらと白くなるほど驚きながらはつぶやく。
そんな。まだ行くなんて言ってないのに。
自分の意見をあまり主張することのないも、これには反発したくなった。
けれど初めての行為で疲れきってぼうっとしている頭には、上手い断り方なんて浮かばない。
人の意見に逆らったり反論するのも、性格的に苦手なほうだ。
担任している生徒だけに、そういうところも先生は見抜いていたらしい。
でも、でも、としどろもどろに口籠っているうちに、勝手に待ち合わせ場所まで決められてしまった。
とはいえ、先生の身勝手さを嫌だと感じたわけでもない。
むしろその強引さに胸がきゅんとしたし、先生が休日もと一緒に過ごしたいと思ってくれることが、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。 でも――
・・・どうしよう。明日だなんて、いきなりすぎる。
そう思ってなんとなく不安にかられたけれど、煙草の匂いが染みついた服の上から抱きしめられたら、うっとりするほど気持ちがよくて何がどうでもよくなってしまった。
ふわふわするのに気怠い身体を投げ出すようにして、衿元が乱れたシャツの胸にくったりと伏せる。
しかしそのうちにはっとして、ぱっ、と頭を上げ先生を見つめる。もっと重大な発言を見落としたことに気付いたのだ。
「――つ、つづき? 明日・・・?」
「そ。この続き」
「・・・・・・っ!」
そんな。いきなりすぎる。だって、続きって。この続きって。
――先生と今日のこれ以上に凄いことをする、ってことだ。
うそ、とか細くつぶやいたの頭の中は、再び真っ白になってしまった。
「せんせい・・・勉強、教えてくれるんじゃ・・・」
「あー、そーいやぁそんなこと言ったっけ。どーする、お前がそっちの方がいいなら教えてやるけど」
どっちがいい、と見透かしたような目を向けて尋ねられたが、そんなことを答えられるわけがない。
どうしてわたしに選ばせるの。先生、ずるい。
そう突っ撥ねてしまえればいいけれど、先生が初めての恋人で全てが初めて尽くしなは、好きな人の前でそんな言葉を口にする勇気もなかった。
わざと選択を委ねてくる年上の恋人のずるさに困り果て、真っ赤になってあわてているとなぜか先生に溜め息を吐かれた。
「だからそーいう顔がダメなんだって」と呆れたような顔で頬を掴まれ、唇を無理やり塞がれる。
拒む間もなく押し倒されたら、眩暈がするような深いキスばかりを浴びせられた。挙句にまだ痺れが残る身体を撫でられたら、もう何かを答えるどころではない。
あ、あ、と短く喘いでしまう口許を白衣で覆い、必死で甘い疼きをこらえる。やっとの思いで押し退けて先生から解放されたのは、昼休みのにぎやかな校内に予鈴が鳴り響くほんの数分前だった。
「 この感情はまだあげない #2 」 title: alkalism http://girl.fem.jp/ism/
text *riliri Caramelization 2014/07/28/ next →