「・・・・・・・・・・・んぅ・・・、んん・・・・・・・?」
腰を捩って寝返り打って、ごしごし、ごし。ぴったり閉じて開かない瞼を何度もこする。
んーっ、て腕を伸ばして伸びをしたら、手のひらが冷たくて硬い何かにぺたっと当たった。
いつのまにか居眠りしてたみたい。銀ちゃんに膝枕してたはずなのに、ソファにころんと寝そべってる。
寝息に耳を傾けてる間にうとうとして、そのまま一緒に眠っちゃったのかな。
・・・・・・あれっ。なんだろ、この音。
じ――――・・・・・・・、って小さな、ほんの小さな音が鳴ってる。
「・・・・・・。なにぃ、この音ぉ・・・」
「――あれっ。んだよ、もう目ぇ覚めちまったの」
「・・・ぎ・・・ちゃぁ・・・?」
がさごそともぞもぞと、真上で何かが蠢いてる。ざわざわ、ざわざわ。服が擦れ合う音が鳴る。
だらけきった声といいのそのそした動きといい、銀ちゃんに間違いなさそうだけど。
・・・・・・でも、何?なんなの、この変な音。それに、あたしが触ってるこれは・・・?
硬いものの正体が気になって、目を瞑ったまま撫で回す。表面はつるんとしてて、どこを触っても角ばってる。
「・・・?銀ちゃぁ・・・なに、これ。・・・・・・ふぇ・・・ちょ。ちょ・・・・・・?」
むにっ。
慣れないミニスカートのせいでつめたくなってた左の太腿を、わしっと熱い手で掴まれた。
やわらかいところに指が遠慮なくめり込んできて、むんずと握る。そのまま横へ引っ張られて、
「え。な。なに、ひぁ、な、なにし、てっ」
「んー何って、あれじゃね。「激写!ご主人さまのお気に召すまま☆いけないメイドさんの淫らなご奉仕」みてーな?」
「はぁ!?ご奉仕って、〜〜〜ち、ちょっっ」
ぴったり閉じてた脚と脚を離されて、スカートの中まで冷たい空気が。下半身が急にすーすーして、おかげで一気に目が醒めた。
え、ちょっ。何、何なの銀ちゃん。どーしてあたしの脚を開こうとしてんの。これじゃぱんつが丸見えになっちゃう。
あわててぱちっと目を開く。まず最初に目に入ったのは、照明の光で明るくなった天井の木目。おそるおそる視線を下にずらしていくと、
その次に目に入ったのは――
「っっっっっっぎゃあああああああ――――!!!」
スカートの中を覗き込んでるビデオカメラとそれを構えてる姿に気付いて、びくーっと身体が跳ね上がった。
目の前には「撮影中」の赤いランプが点いたカメラと、それを構えてる銀ちゃんが。
カメラで隠れて顔は見えない。けど、へらへらぁっとだらしなく笑ってる口端から、つーっとよだれが――
「〜〜〜っっひいいいぃぃいやぁあああ変態ぃぃ!!っっちょっやだやめっっ撮るなぁあっ」
「うっわ何そのポーズ、えっっろ。なぁなぁー、もーちょい脚広げてくんね。銀さんの一生もんのオカズにするからぁぁ」
「スカート捲るなぁああ!!ばばばばかっ、銀ちゃんのばかあぁ!無断で撮影とかははは犯罪じゃんっ、ありえないぃ!」
ひらひらスカートを中のパニエごと鷲掴みしてぐいぐい引っ張る盗撮犯の手を、「放してぇぇっ」て泣きわめきながらむぎゅっと掴む。
最っっ低。最低だよ銀ちゃん!いくらお付き合いしてるからってこれはないよ。本人の合意もなくこんなとこ撮ったら犯罪なんだからね?
法律により六か月以下の懲役もしくは50万以下の罰金なんだからね!
違法撮影には厳しい対処を!劇場内で不審な行為を見かけたら通報してやるNO MORE映画泥棒!!
「っっやだやだもうやだっっ信じらんないっ放してえぇっ」
「いやぁだってよー、こんなん次はいつやらせてもらえっかわかんねーしぃ。ばっちり記録して後世に残してーじゃん、
銀さんと可愛い専属メイドさんのうれしはずかしときめきメモリアルをよー」
「こんな腐ったときメモ残すなああぁぁ!!」
「あれっ、んだよその強気な態度ぉ。いーのかねぇ、メイドが御主人さまにそーんな生意気な口きいちまってぇ」
「っっゃあっ、ちちち、ちょっっっ!」
ふれぶてしい半目をにたぁーっと細めてせせら笑った銀ちゃんは、怪我人とはおもえない素早さで圧し掛かってきた。
軽く肩口を掴んでるとしか思えない手の力だけで、しっかりソファに縫い留められる。
這ってでも逃げたいのに、たったこれだけで身動きがとれない。カメラの影からひょいっと半分顔を出すと、
「っとにわかってねーなぁこの子はぁ」って言いたげなかんじで、ち、ち、ち、と舌打ちして、
「おいおいィそりゃーねーんじゃねーのぉ、忘れちまったとは言わせねーぜちゃーん。
言ったじゃんお前、言ったじゃん。銀さんに怪我させちまったお詫びに何でもするって言ったじゃーん」
「そ。それは・・・言ったけど、っ」
「だろぉ、言っただろぉ?だったら最後まで責任とって御主人さまにご奉仕しろや。
んじゃーあれなさっそく続きな、脚がばーっと開いてスカート捲ってえっろいかんじでこっち見てぇ、
「あはぁんもうらめええっお許しくださいご主人さまあぁぁん」な!」
「はぁああ!?」
すっかり調子に乗ったドヤ顔に、得意げに言い放たれた。
な。何言ってるのこの人。ばっかじゃないの、AVの見すぎじゃないの!!
言葉も出ないくらい呆れたあたしが口をぱくぱくさせてる間に、銀ちゃんはズボンのジッパーをいそいそと下げる。
緩んだズボンを腰まで落として、うきうきと鼻唄なんか歌いながらトランクスに手を掛けると、そのまま、ずるっと――
「〜〜〜ひいぃぁああ!ゃやややだばかっななななにしてっっ」
「何ってお前、もちろんハメ撮」
「調子に乗るな強姦魔っっ」
「んごおおおっっっ!!」
迫ってくるカメラのレンズを押しのけて膝を突き上げ、お腹めがけて全力の膝蹴りを一発。
息を詰まらせて呻いた銀ちゃんが、ソファから床へどさっと落ちる。いつまで経っても床にうずくまってうんうん唸ってるから、
落ちた拍子に怪我した脚を打ったのかと思ってちょっと心配になってきて、
「…ぎ、銀ちゃん…?」
乱れた服を直しながらおっかなびっくりに覗き込んだら、
――当たりどころが悪かったっていうか、自業自得っていうか天罰っていうか。あたしの渾身の膝蹴りの狙いは、目標から十何センチか下へズレてたみたいだ。
ダンゴ虫みたいな格好で身体を丸めた銀ちゃんは、両手で股間を抑えてうるうるの涙目になってぶるぶる震えながら悶絶してた。
「〜〜〜ぁあもうっっっ・・・。信じらんないっ。信じらんないぃぃぃ!!」
「いやいや信じらんねーのはおめーの方だって。なにこれ。メイドが御主人さまに対してSMプレイってどーいうことだよコノヤロー」
俺ぁSだからね。縛られるよりも縛りてーほうだからね。
なんて言いながらもごもごとがつがつと口いっぱいに夕飯のおかずのエビフライを頬張る銀ちゃんの両腕は、背中でクロスしてがっちり巻き止められてる。
脚の怪我を手当する包帯の余りを使って、あたしが後ろ手に縛ったからだ。
こんなことしちゃった理由は、別にあたしにさっちゃんさん的な、人には言いいづらい特殊な趣味嗜好があるからじゃない。
ほんとはあたしだって、怪我してる銀ちゃんにこんなひどいことしたくない。
けど、仕方ないよね。
だって相手は銀ちゃんだ。主にえっちなことに対してだけやる気と用意周到さを発揮する、化け物レベルな破壊力を備えた恐怖のケダモノ強姦魔なんだもん。
・・・・・・うううぅ・・、情けない。情けないよぅ・・・!どう考えてもこんなの彼氏に対する評価じゃないよ。全国に指名手配されちゃう凶悪性犯罪者の評価だよ。
自分の彼氏をそんな扱いで警戒しなくちゃいけないってのが泣けてくるけど、とにかく銀ちゃん相手に油断は禁物。
だからさっきソファの足元でうんうん唸ってうずくまって泣いてた時に、ちょっと腕を拘束させてもらったんだよね。
その後で夕食の支度して、今は使えなくなった手の代わりを務めて、せっせと口にご飯を運んであげてるんだけど――銀ちゃんてば注文多すぎだよ。
新八くんたちの目がないときはほんっとやりたい放題だよね、この図々しいセクハラ御主人さまは・・・!
「ー、飯ー。あと味噌汁ー、煮物ー。キャベツもなー、ソースどぱっとかけてー、どぱぁーっと」
「銀ちゃんうるさい。そんなにがっつかなくてもちゃんと食べさせてあげるってば」
「だーってよー、言っとかねーとお前ソースかけてくんねーしぃ。あぁ、飯食ったらプリン食わせて、プリン」
「はいはいプリンね。ちゃんと買ってあるよ。はい、あーん」
「んぁー」
あたしが差し出した箸の先をだるそうな半目で見下ろしながら、ばくっ。
ほくほくに煮えた黄金色のかぼちゃを、大口開けた銀ちゃんが一口で頬張る。もごもごもごもご。
銀ちゃんは揚げ物にソースをたっぷりかけたがるから、こっちは薄めの味付けにしてみたんだけど、
「ね。おいしい」
「ん?んー」
視線はバラエティ番組が流れるテレビ画面に向けたままだけど、こくこく頷いてくれた。
よかった、まあまあ気に入ってくれてるみたい。嬉しくなってこっそりにやにやしてたら、
「ー、もっかい」
って、口を「あーん」した顔にねだられた。
口端にごはん粒つけただらしなくて隙だらけな銀ちゃんに迫られたのに、・・・どーしてだろう。なぜかきゅんとしちゃった。
ぽうっと顔が熱くなる。「ぅ、うん」てあわてた手つきでかぼちゃを摘み上げて、銀ちゃんの口へ。
こうしてると、恐怖のケダモノ強姦魔もなんだかかわいくみえちゃうから不思議だ。
「あとよー、寝る前に身体拭いてくんね」
もごもご噛みながら籠った声で言われて、ああ、って気づく。
・・・そういえば銀ちゃん、しばらくお風呂に入らないようにってお医者さんに言われてるんだっけ。
昨日は新八くんが「さんが今の銀さんに近づくと危険です、僕がやります」なんてげんなりした様子で申し出てくれた。
だから、申し訳ないなぁって思いつつ全部お任せしたんだよね。
「はいはい。台所の片付け終わったらね」
「昨日落ちた時に背中や肩も打っちまったからよー、ちょっと動いただけで痛てーんだわ。
だから全身拭いてくんね、特に股間を重点的に」
「はいは、・・・・・・銀ちゃんそんなに鼻からお味噌汁飲まされたいの」
「うそ、今のうそー。だからやめて、お椀構えないでちゃんっっあちっ、あぢぢぢぢぢ!」
鼻の下にくっつけたお味噌汁の熱さに銀ちゃんが仰け反る、ソファに倒れて「あぢぢぢぢ!」って身悶えながらゴロゴロ転がる。
「〜〜〜ちょ、どんだけ沸騰させてんだよこの味噌汁!てかひどくねお前!?」って叫んでゴロゴロをやめて起き上がったころには、すっかり涙目になっていた。
ふー、ふーっ、って口を尖らせて自分の鼻に息を吹きかけて冷ましながら、
「ちぇっ。っだよおぉ、あーあー面白くねー。股間潰しに緊縛プレイに熱湯地獄ってどんだけドSな彼女だよ、銀さんそんな荒業お前に教えたっけ」
「銀ちゃんが悪いんじゃん。人が寝てる間にあんなとこ撮るから悪いんじゃんっ」
「だぁーってよーもったいねーじゃん。目ぇ覚めたらよー、えっちい服着た銀さん専属メイドが太腿剥き出しですやすや眠ってんだぜー。そりゃー記念に撮りたくもなるって」
「だからってぱんつ下ろすことないでしょ!?」
「しょーがねーだろぉ、がここ一週間ヤらせてくんねーからだろぉぉっ」
「っっ。し、しかたないでしょ!?」
女の子としては触れられたくないところをずばっと指摘されて、顔を真っ赤にして言い返した。
しかたないじゃん、女の子には人にいえない事情ってものがあるんだから。
毎月のあれが始まる直前のこの時期は、いろいろデリケートなんだから。
身体の調子がおかしかったり、やけに不安定な気分になったり、女の子だけが持ってる身体の仕組みのおかげで、いろいろ敏感になっちゃうんだから。
そんなの銀ちゃんだってしってるくせにっ。ていうか全部あたしが悪いみたいに言うな、ばかっ。
お行儀悪くテーブルに乗っかってた銀ちゃんの脚が、あたしのスカートの上にどさっと落ちる。
骨太で重い足の器用な爪先が、短いスカートの裾を飾る黒いリボンを引っかけてくいっと上げる。おかげでスカートがびらっと盛大に捲れあがった。
ぅわわわ、ってあたふたとお箸を放って裾を押さえる。隣からこっちを覗き込んでくる憎たらしい痴漢は、
へへーん、やってやったぜ、ってかんじで得意げににんまり笑ってる。ああもうっ、手だけじゃなくて脚も縛っておけばよかった・・・!
「なー、いーだろ。いーよな今日は。神楽もいねーしぃ」
「だめ。銀ちゃんもう忘れちゃったの?お医者さんに言われたじゃん、激しい運動は禁止って」
「あぁ平気平気、大丈夫だって」
おぼこいお子ちゃまメイドは知らねーだろーけどー、そんなもんいくらだってやりようがあんだからよー。
やらしいかんじに目を細めた銀ちゃんが、妙にうっとりした顔つきで天井を見上げる。でへへへ〜、って鼻の下伸ばしてしあわせそうに笑ってる。
それを目にしちゃったあたしの背中に、ぞぞーっと寒気が走り抜けた。
・・・うわ、怖っっ。
いま何考えたの。いったい何を思い浮かべたの銀ちゃん。いや別に知りたくないけど。
どーせあたしが全身真っ赤にして「最低いぃぃぃ!!」って連発するよーな、想像を絶する破廉恥妄想に決まってるし。
今にもよだれを垂らしそうなでれでれ顔が、ばっ、といきなりこっちを向く。もぞもぞ身じろぎしながらあたしに身体を寄せてきて、
「な、だから今日は仲良くしよーぜメイドさぁん。こーんな格好見せつけられちまってよー、昨日っから溜まる一方で限界だったんだよおぉ。
今も股間のダムが決壊寸前なんだよおおぉ〜〜」
「あっそ。そんなに苦しいならもう一回蹴ってあげるよ。決壊させて修復不能にしてあげるよその破廉恥ダム」
「つーかこれなこれ、これがいけねーんだって、このけしからん太腿と白ガーターがよー。
お前さぁ、ひどくね。こ――んなえろ可愛い格好見せつけといてお触りもなしってどんな拷問!?」
「いやあたしにとってはこの格好そのものが拷問なんだけど、・・・・・・ちょっと。まだやってるのそれ」
腕を縛られて自由に動けない上半身が、もぞもぞ、ごそごそ身じろぎしてる。
ああ、またやってる。ほんと懲りないんだから。どうにかして腕の拘束を外したいんだろうな。
しつこい強姦魔銀ちゃんは、腕の自由を奪ってる包帯と夕飯前から格闘してる。
もどかしそうに腕を上下に揺すってみたり、しきりに肩や背中を動かしてみたり。
結び目がどこにあるのかを確認したいのか、ちらっと振り返っては自分の手元を気にしてみたり。
あんなことしても無駄なのに。おもいっきり固く結んだもんね。いくら器用な銀ちゃんだって、そう簡単には解けないはずだよ。
「だめだめ、いくら頑張っても無駄だってば。それより銀ちゃん、いいかげんにしてよー。
元はといえばさ、この服押しつけてきたのは銀ちゃんでしょ。そんな人に文句たらたら言われたくないんだけど。何ならもう脱ぐし。今すぐ普段着に戻るけど」
「うそうそ、今のうそっっ。文句つけてすんませんっしたあぁぁメイドさんマジ最高っ」
「・・・。銀ちゃんこんなことで土下座しないで。情けなさすぎ」
言うが早いがソファの青い座面にがばーっと伏せた天パ頭を、つんつんつつく。醒めきった軽蔑のまなざしでじとーっと眺める。
ちょっと銀ちゃん、こんなことでそんなに必死にならないでよ。
こんなおばかさんでくだらないことで即座にプライドをかなぐり捨てる彼氏なんて、彼女としては見たくないよ。
「・・・もう。しょーがないなぁ許してあげる。でも次やったら許さないから、次やったらお仕置きだからね」
「え、いーの、許してくれんの!ちゃんマジ天使っっ」
「だからそーいうのもいいってば・・・ああ銀ちゃん、エビフライまだあるよ。食べる?」
「食う食うー!ソースもっとどぱっとかけて、どぱっと」
「はいはい」
面の皮の厚さがジャンプSQクラスなだけに立ち直りがやたらと早い銀ちゃんが、しれっと顔を上げて座り直す。
あたしはキャベツだけが残ったお皿を持って、立ち上がって台所へ。
コンロの脇に置かれた大皿を前にして、神楽ちゃんが居ないせいでたくさん残ったエビフライを菜箸で摘まむ。ひょい、ひょい、ってお皿に移す。
かりかりに揚がったきつね色でお皿に山が出来ていくうちに、
「――・・・・ ぅおっ。えっろ・・・・・・!!! 」
・・・・・・あれっ。今のって、空耳?わりと近くで、銀ちゃんの声がしたよーな。
それに、・・・これも空耳かな。すごーく小さな、「じー・・・」っていう音がしたよーな。
嫌な予感がして顔を強張らせながら振り返れば、そこにはしっかりカメラを構えた銀ちゃんが。
「あー、続けて続けて。こっちのこたぁ気にしねーでいーから」なんてしれっと言うけど、
――し、信じられない。
一体どーやって手首の包帯解いたの。
どーやって物音も立てずに居間からここまで移動してきたの。いつのまにあたしの背後にしゃがみ込んでたの?
しかも・・・最悪だ。カメラのレンズが向いてる方向、よりによってあたしのスカートの中だし!!
怒りでわなわな全身が震えはじめたあたしをよそに、盗撮犯は平然と撮影に没頭してる。
暗くてぼんやりした画面の中でショーツと太腿がやけに白く映るモニターをしげしげと眺めて、「ちぇっ、もっと光度上げときゃよかったぜ」なんてつぶやく。
いつになく眉と眉の間が引き締まってる真面目ぶった顔つきで首を捻って、
「つーかあれだわ、おかしくね。お前さぁメイドのくせに何言っちゃってんの。メイドが御主人さまにお仕置きとかありえねーから。
メイドってのは本来、御主人さまに絶対服従するもんなの。主のご要望に逆らうことなく、忠実に、献身的にご奉仕するもんだろぉ?
あんまり逆らってっと無理やり犯すぞコノヤロー」
「黙れ変態いいいぃぃぃ!!!」
がばっ、と高く振り上げた右足で、げしっっっ。カメラを思いっきり踏みつける。
ばきんっ、と折れた小さなモニター部分が天井まで吹っ飛んで、やけに甲高い銀ちゃんの絶叫が上がる。
その直後にもう一回股間を蹴られた悪質な盗撮犯には、ビデオカメラの内部が壊れて撮影データがまるごと飛んじゃうっていう自業自得な天罰も下った。
――その後。
エビフライのおかわりと楽しみにしてた食後のプリンは、罰としてお預けにしてあげた。
それでも懲りない銀ちゃんは、あたしがお皿を洗ってる間もしつこく後ろに貼りついてくる。
だから、仕方なく予定を変更することにした。
まだごはんを食べたばかりの早い時間だけど、先にお布団を敷いちゃって、うるさい銀ちゃんを寝かしつけてしまうことにした。
じゃないと銀ちゃん、うっとおしいから。松葉杖をコンコン鳴らして、家中どこでもついてくるから。
面白くなさそーに口を尖らせて文句と言い訳を繰り返しながら、いちいちあたしの後をつけてくるから!ああもう何なの。
あたしが知らない間に、さっちゃんさんや真選組の局長さんに弟子入りでもしてたんじゃないのこの家庭内ストーカー・・・!!
「・・・だーからよー、悪かったって。しょーがねーんだって。エロい恰好の女が近くに居りゃあ男はどーやったって反応しちまうの。
どーやったって見たくなるし触りたくなるし、ムラっとくるしヤりたくなんの、下半身がおさまんねーの!
なのに昨日は神楽がいるからダメとか言うしー、今日は神楽がいねーのに客が来るからダメとか言うしぃ。
んじゃー夜まで待ってやるか、ってんで自主的に我慢してやったのにこのザマだよ。ちぇっ、んだよおぉぉあぁぁもぉぉ面白くねー」
「だから何。ぜんぶ銀ちゃんが悪いんじゃん、自業自得だよ」
「はい終了。今日の銀さん終了――!!!」
べしっと杖を投げ捨ててヤケクソで叫んだ銀ちゃんが、敷いた布団の上で這いつくばって涙目に。
さらに顔を覆って、めそめそとうっとおしく泣き真似なんか始める。ごろごろごろごろ、子供が駄々をこねるときみたいに布団の上を転がり出した。
・・・ほんと、銀ちゃんの頑丈さと快復力ってば信じられない。普通の人なら痛くて動けないくらいの怪我したはずなのに、どーしてここまで元気なんだろう。
はーっ、とあたしは重いため息をつく。ひらひらスカートの短い裾を気にして抑えつけながら、銀ちゃんの前にぺたんと座った。
ああもう、これだから銀ちゃんは・・・!!
「・・・いいよもう。めんどくさいから許してあげる。めんどくさいから許してあげるっ」
「〜〜〜っだよおおぉっ二回繰り返さなくてもよくね、二回繰り返さなくてもよくね!?」
「はいはいはい、わかりました御主人さま。これからは少しだけメイドさんっぽくしてあげるから。
銀ちゃんのいうこと聞いてあげるから。ね?」
めんどくさいから、っていうひとことを付け足したくなる投げやり気分はごくんと飲み込む。
スカートが短いからちょっと恥ずかしかったけど、四つん這いになってもぞもぞ動いて近づいてみる。
毛先が自由に跳ねまくってる白っぽい頭に手を置いた。見た目よりもふわふわでやわらかい髪を、そっと撫でる。
よしよし、って心の中で唱えながら、布団に突っ伏していじけてるダメ大人の頭を何度も何度も撫でてみた。
・・・なんだか子供をあやしてるみたいで、ちょっとおかしい。
――だめだなぁ。甘いなぁ、あたし。
間違いないよ。二人きりになった時の銀ちゃんのわがまま放題もやりたい放題も、あたしがこーやって増長させてるんだよね。
だけど今回は、怪我させちゃった負い目もあるし。一緒にいると、ついつい、いろいろしてあげたくなっちゃうんだよね。
・・・うん。そうだよ。新八くんも神楽ちゃんも居ないんだもん。いくら無茶言われたって、やっぱり放っておけないよ。
いくら銀ちゃんに呆れても、愛想つかしそーになっても、やっぱり銀ちゃんが気になっちゃう。
このくらいの怪我で不自由するよーな銀ちゃんじゃないって知ってるけど、それでも心配なんだもん。
それに・・・あたしを庇って怪我した人を、放ってなんておけないよ。
――なんてこと知ったら銀ちゃんは絶対調子に乗るにきまってるから、絶対に思ってることを顔に出してなんかあげないけど。
「・・・・・・。マジで。いーの、ほんとにやってくれんの」
「いいよ。何してほしいの、御主人さま」
尋ねてみたら、布団に伏せてる頭がびくんと反応。わくわくと期待と怪しいときめきで無駄にきらめいてる顔がこっちを向いて、
「んじゃーメイドさん、ハメ撮りさせて」
「真剣な口調でそーいうこと言うな。もういっぺん股間蹴られたいの」
「うそ今のうそ、すんません調子こいてました許してください。・・・・・・んじゃーあれな、あれ。仲直りのちゅーして」
「えっ」
「えっ、じゃなくてよー。俺にちゅーして。のほうから、な」
ここな、ここ、って自分の唇を指して、眠たそうな半目を緩ませた銀ちゃんがふっと笑う。
あたしは途端にたじたじになって、そんな銀ちゃんから視線を逸らして、右に左に意味なく視線を泳がせた。
じわじわーっと赤くなってきたほっぺたが恥ずかしくって、両手で隠す。
面白がってすっとぼけた顔して覗き込んでくる銀ちゃんから逃げたくって、ずず、ってお尻で布団を擦って下がろうとしたら、
――むくっ、と銀ちゃんが上半身を起こす。と同時にあたしの手首をがっちり掴んで、
「おいおいィどーしたよ。ご奉仕してくんねーの、ちゃあん」
意地悪そーに細めた目つきに、間近からじいっと見つめられた。
まるでかぶき町の治安がよくない界隈をうろついてるチンピラみたいな、いかにも悪いことを企んでそうな表情だ。
そ、そんなこと言われても。自分からって・・・どうしたらいいの。
わかんないよ。いつも銀ちゃんのほうからしてくれるから、あたしから銀ちゃんにしたことはほとんどない。
・・・・・・でも、それくらいなら。ちょっと、ほんの一瞬、ちゅ、ってするくらいなら、・・・・・・・・・・あたしにだって。
「・・・・・・・・・・ぃ。いいよ。・・・・・・でも、あ、あのっ、・・・・・・目っ。・・・目、閉じて、っ」
「んー、はいはい。好きにしていーぜメイドさぁん」
「〜〜め、メイドさん言うなっっ」
しっかり掴んで離さなかったあたしの手首に、ちゅっ。
そこに結ばれた黒いリボンのブレスレット越しにやけに丁寧に唇を落としてから、銀ちゃんはごろんと寝返りを打った。
「いつでもいーぜー」なんておかしそうな笑い混じりの声に誘われる。握られた手首をくいくい引かれる。
あたしはスカートの裾のひらひら部分を意味なく弄りながら、うん、て蚊が鳴くような小声でつぶやいた。
だけど身体が動かない。どうしようもない恥ずかしさで頭の中が一杯で、顔が自然と熱くなる。
ー、ってもう一度腕を引かれてからやっと観念して、瞼を閉じてもにやついてる顔におずおずとのろのろと身体を寄せた。
〜〜〜〜〜っっ。うわぁ。銀ちゃんとキスなんて数えきれないくらいしてるのに。もう慣れてきたはずなのに。
なのに、自分からするとなると・・・緊張で心臓が破裂しそう。
おそるおそる顔を近づけると、銀ちゃんの息遣いが近くなってくる。・・・そっか。
この距離だと、どれだけ息を詰めていても、あたしの息遣いも銀ちゃんに届いちゃうんだ。
そう気づいたら、よけいに距離の近さを意識してしまう。恥ずかしい。身体が瞬間発火しそーなくらい恥ずかしいよ。
・・・・・・で、でも。・・・キスだけだし。ほんの一瞬だし。すぐ終わるし・・・・・・!
「・・・・・・き。今日はこれだけ、だからね・・・っ」
えいっ、と心の中で気合を入れて、逃げたがってる自分を奮い起こす。
目元に皺が寄るくらいぎゅーっと目を瞑って、ぎくしゃくした動きで銀ちゃんの寝間着の肩に手を置いて、息を詰めながら顔を下げる。
はらりと流れ落ちる髪を耳元へ掻き上げながら、心臓をばくばくさせながら、笑みのかたちを残したままの唇に自分の唇を重ね合せた。
触れたとたんに、かさついたやわらかさが肌にふにっと押しつけられる。ちゅうっ、と強めに啄まれた。
「んっっ、・・・・っ!?」
髪を梳こうとしてるようなやんわりした手つきで、後ろ頭に大きな手が滑り込んでくる。
動きを封じようとするみたいに手を広げて押さえられたら、もうどうしていいのかわからなくなる。あわてて顔を上げたんだけど、
「はいはい、よく出来ましたぁ。・・・・・・な。もっかいして」
「・・・・え・・・っ」
「いーだろ。な。ちょっとだけでいーから」
「・・・・・・っ。ほんとにこれで終わり、だから。・・・ね?」
そっぽを向いてもじもじ肩を揺らしながら答えたとたんに、頭の後ろに添えられてた手が髪をきゅっと掴む。
うなじのほうへ撫で下ろしながら引き寄せられた。
伸びてきた舌先に唇を割られる。熱くて濡れた、やわらかいものが滑りこんでくる。ぐちゅぐちゅ、て音を鳴らしながらあたしの舌に絡まってきて、
奥の方まで入り込もうとする。上顎の裏をゆっくりと、這うような動きで舐められた。ふぁあ…、って鼻にかかった甘い吐息が漏れる。
この感触がくれるきもちよさをあたしの身体はもうしっかり覚え込まされているから、ぞく、と背筋が震え上がった。
「ん・・・っ」
「・・・あーあー、悪い子だよなぁうちのメイドさんは。これだけでもう感じちまってんの」
「ん、や、ちがっ・・・、ぅ、」
「なぁ、いけないメイドさん。今のきもちーから、もっかいさせて」
「んふ、っぅ・・・っ」
断る間もなくもう一度絡め取られて、舌の根元に息苦しさが湧くくらいにぐいぐい引っ張られる。
自由を奪われてあっというまに引きずられていった舌先は、そのまま銀ちゃんの口の中まで引っ張り込まれた。満足に呼吸もできないまま、舌先をちろちろ撫でられる。
「ん、んぅ。・・・・・っゃ、・・・・・・んく、・・・っ」
はぁ、はぁっ、って肩や胸を大きく上下させちゃうくらい息苦しいのに、その息苦しさがきもちいい。
男の人の身体の熱さを感じて、銀ちゃんのすこし荒くなった息遣いを感じて、口の中から溶かされちゃいそうだ。
頭の芯がぼーっとしてきて、抵抗する気もなくしてぐちゅぐちゅと揉まれているうちに、舌の付け根に唾液が自然と湧いてきて――
そこではっとして、かぁーっ、と全身に火が点いた。キスされただけでこんなふうになっちゃう自分が、どうしようもなくいやらしい子に思えてきたから。
口の中に湧いたこれが銀ちゃんに届いちゃうんだって気づいたら、途端に恥ずかしさで頭が一杯になって、
「んっ。んぅ、う、っ、ぅう〜〜・・・っ!」
いやいや、って腰をよじってみる。もうやめて、って肩をばしばし叩いてみる。
それでも顔を離してもらえなくって、舌を伝って流れ落ちた唾液は下にいる銀ちゃんの口内へ滴っていった。
ふ、って小さく笑う動きが唇から伝わってくる。ごく、って喉が大きく動いて、強く飲み干す音が鳴る。
その音にもっと羞恥心を煽られちゃって、ぎゅうっと瞑った瞼の端から涙が転がる。
唇をこじ開ける深いキスを解いてもらえないまま背中や腰を震わせてたら、急に唇がすっと離れる。
はぁ、はぁ、って呼吸を荒くして喘いでる自分の唇と、とろりと濡れた銀ちゃんの半開きの唇。わずかに空いた二人の間が、透明な糸で結ばれてる。
直視できないその光景がいたたまれなくってあわてて顔を逸らしたら、くくっ、と喉の奥で笑う声がして、
「・・・ー、今どこ見てたんだよお前。んだよ目ぇとろーんとさせちまってぇー、何考えてんだぁ?ほらほら銀さんに言ってみー」
「っっ。〜〜〜ち、ちがっ」
「いやいや隠すなって。気持ちよかったんだろぉ、今の」
「違うぅ!だだだからあのっ、・・・・・・ぃ、今のは、苦しくってぼーっとしちゃっただけでっ」
「ちぇっ、素直じゃねーなぁこのメイド。ま、そーいうとこも好きだけどー」
うぅ、って肩を竦めて唇を噛んだ。
・・・これだから銀ちゃんはずるい。こんなときに好きとか言われたら、反応したくなくてもしちゃうじゃん。
頭の後ろから耳を通って撫で下ろされた銀ちゃんの手に、まぁるくほっぺたを撫でられる。
その手が顎から首筋、首筋から鎖骨、大きく開いたブラウスの衿元まで滑ってきて。
指先で掠める程度の弱さで、衿口と胸との境界線をなぞられる。そのくすぐったさに肌が震えて、びくん、と背筋が反り返った。
「ん、っ」
「かわいー。俺の想像以上だわ。すげー似合うわこの服。・・・な、かわいーメイドさん。もっとちょーだい」
「ぇ、ん、ゃ、これで、終わっ・・・・・・・・・・・・・・んっ、やぁ、っぎ、ちゃ・・・っ」
ほんの少しだけ顔が離れたと思ったら、銀ちゃんは空いていたもう片方の腕であたしを自分の上に跨らせた。
よろめく身体のバランスを取ろうと慌ててるうちに、大きく開かされた脚の間へすかさず銀ちゃんの腕が割り込んでくる。
むに、と固い指先を太腿の内側に押しつけられて、また背筋が反り返った。
膝上から太腿の付け根へ伸びた白のレース付ガーターベルトと、それに吊り上げられてるストッキングタイプのニーハイとの境目。
スカートの奥へ伸びる細いベルトの上から、銀ちゃんはあたしに触れてきた。太腿に立てた指の先を、ベルトに沿って滑らせる。
――じれったいくらいに遅く。まるで、かたつむりが這うみたいに。ねっとりと、ゆっくりと撫でていく。
銀ちゃんの指のかたちや皮膚の感触がはっきり判っちゃうくらいのもどかしい遅さが、微弱なきもちよさで粟立ったあたしの肌を這い上がっていく。
その感触に肌が震えて、唇を噛みしめて声をこらえたら背中が反った。自然と銀ちゃんに押しつける格好になったお腹の奥で、何かがじわりと緩み出して。
「ふあ、ぁ。・・・っやぁ、も、ゃめ・・・っ」
「お前これ、きつく締めすぎ。ほらここ。ベルトの跡ついてんじゃん、かわいそ」
「あ、っ。やだぁ・・・っ」
太腿の内側に付いたベルトの跡なんて、四つん這いになって頭を固定されてるあたしの目からは見ようとしても見えない。
その見えないところに、銀ちゃんは指先を何度も往復させていく。
往復させながらじわじわとスカートの中へ、もっと奥へ、もっと奥へ。手の動きを徐々に移動させていく。
ガーターベルトの上から肌をくすぐるいじわるな指先が近づいてくるのを感じるたびに、ショーツの中に秘められたやわらかいところがきゅんと疼く。
恥ずかしいのに身体が揺れる。何度も、何度も――
「――っっ、」
銀ちゃんの指に翻弄されて身体を揺らすうちに、はっとした。
薄い布に隠されたところがもう熱くなってる。そこが今にもしずくをとろりとこぼしそうに潤んでることにも、遅れて気づく。
そんな自分が恥ずかしくって泣きたくなる。逃げたい。――だけど、逃げられない。
世間一般的にはわりと大きな怪我をしてるはずの銀ちゃんの腕は、嫌がってよじれるあたしの腰を力強く抱え込んで離さなかった。
――熱い。
身体の芯が火照りきってて、たまらなく熱い。もうこんなになってるなんて。
――どうしちゃったんだろう。今日のあたし、自分でもびっくりしちゃうくらい感じやすくなってる――
「・・・・・・。お前さぁ。御主人さまにお願いしてーこととか、ねーの」
涙の膜を被った薄暗い視界の中。
とろりとぼやけたその中でいちばん間近に映る銀ちゃんは、笑ってるのに眉を歪めてる。すこし苦しそう。でも、すごく嬉しそう。
甘い声色でささやいてから、我慢しきれねー、ってかんじの詰まった吐息をゆっくりと吐く。
あたしの胸と重なり合った寝間着の胸も、そのどこかせつなそうな動きに合わせて上下していた。
とぼけたかんじでこっちを見上げてだるそうに笑う瞳の奥に、獰猛な色が浮かんでは消える。そうしてる間にも、指の動きが強くなって、弱くなって。
急に近づいては、波が引くみたいにすうっと離れる。
あたしが布団に突いた腕をがくんと折って脱力しそうになると、また近づけてくる。
たった一本の指の動きにぞくぞくして、「んんっ」と背中を仰け反らせて悶えるたびに、銀ちゃんはまた離れていく。
――焦らしながら嬲ることを楽しんでるみたいに。
ゆっくりとじわじわと追い詰めていって、焦れてどうしようもなくなってきたあたしの反応を欲しがってるみたいに――
「あ。ぁあん。も、だめって、・・・んちゃあ、っ」
「だめじゃねーだろ、言ってみな。スカート捲ってー、ここにもっと触ってほしいです、お願いします御主人さまぁ、って」
「〜〜・・・ふええぇっ。っ、ばか。ばかぁ。そ、な・・・・・・やあぁ、っ」
「あーあーごめんごめん、泣くなって。じゃあどこがきもちいーの。教えて。まぁ、怪我してっからたいしたこたぁ出来ねーけど」
「〜〜っあ、ゃだ、――ぁ、んっ」
衿口が大きくU字に開いた、ブラが透けそうなくらい布地が薄い白のブラウス。その衿口を、銀ちゃんが掴む。
元から大きめに開いていたそこはたやすく引き下げられて、肩から二の腕の半分くらいまでがぜんぶ剥き出しにされた。
ブラウスと一緒に掴まれてずり下げられたブラから、両胸がふるっと弾んでこぼれおちて。揺れる膨らみに銀ちゃんが手を伸ばして、ふにゅっと根元から握りしめて。
「ふあぁ・・・っ。だめぇ、ん、はぁ・・・ん」
「んなこと言われてもよー、手ぇ伸びちまうんだって。な。もっと触らせて」
ちいさめのボールでも持つみたいに丸くして受け止めた手のひらの中で、銀ちゃんはあたしの膨らみをやんわりと包む。
ふに、ふに、って指を強めに食い込ませて、かたちを変えながら揉み上げる。
きゅうっと深く掴んで回して、すこしずつ赤らんで尖っていく小さな先を指の腹で捉えた。
ちょん、とつつかれたり、きゅ、と潰されたり、くるくる回しながらくすぐられる。
違う刺激をそこに加えられるたびに全身が震えて、はぁ、はぁ、って喘ぐ声が止まらなくなった。
腰の力が抜けていく。なんとか力を籠めて膝立ちしてる脚も、もう崩れちゃいそう――
「ぅ、は、ぁ、も・・・っ」
「ー。ちゃーん。腰落として、もっと胸突き出して。ここ、舐めてやるから」
「だめ、・・・めちゃ、だめぇ」
「んじゃ、こっち来て。この体勢だとあんま上手く弄ってやれねーからよー」
「はぁ、ぎん、ちゃ、っっ」
もう片方の手にお尻をむにっと掴まれて、四つん這いの姿勢のまま、もっと前へ押し出されて。
銀ちゃんの目の前をあたしの胸が塞ぐくらいの位置になったところで、お尻をゆるゆる撫で回した手が太腿に移る。
内腿に貼りついてるガーターベルトの白いラインを指でなぞり上げながら、ピンクのミニスカートの中まで昇り詰めた。
ショーツのクロッチ部分をくにゅくにゅってなぞって探り当てた割れ目を、ごつごつして硬い指の先が、優しくやんわり撫でてくる。
撫でられた気持ちよさでふうっと身体が緩んだら、中指の先を深めに、きつく押しつけられて、
「んん・・・!」
「・・・なぁ、ここは。ここも弄ってほしーんじゃねーの」
「っっあ、ぁん、っ」
やだ。倒れちゃう。熱い指を押し込まれたせいでそこに快感が集中しちゃって、腕に力が入らない。
ぶるぶる震えているうちに限界がきて、肘が折れる。上半身が、がくん、と崩れた。お尻だけ高く上げたまま、銀ちゃんの顔に胸を押しつけて突っ伏す。
ぎゅうっっ、と頭に縋りついて、ふわふわな髪に顔を埋めて、すすり泣きながら声を我慢した。
明かりが点けっぱなしのまぶしい室内も、銀ちゃんの頭越しに見える枕も、ぐちゃぐちゃによれたシーツの皺も、もうはっきりとは映らない。
急に溢れて目の中をいっぱいにした涙で、視界がぼんやり曇ってる。
ぬちゅ、ちゅぷ、って布越しに突き上げてくる硬い指先の感触が気持ちいい。
いつまでも後を引いて頭の芯まで痺れさせるその感覚を、腰をびくびく震わせながら耐えてたら、
「・・・・・・うわ。やっぱりな。先月もそーだったけど、アレの前だとすげーわお前・・・」
ごく、と大きく息を呑んで、熱の籠った声で銀ちゃんがつぶやく。
弄られてるそこはとっくに蕩けていて、押し込まれた布地がぬるぬると滑る。
つん、つん、と弱くゆっくり押し込まれるたびに濡れた薄布のざわつく感触で刺激されて、焦らされ続けてきた腰がびくびく跳ねる。
ぁんっ、と高い声が漏れてしまう。銀ちゃんはあたしの反応を面白がっているのか、なかなかやめてくれなかった。
他に誰もいない万事屋の和室に、息遣いが乱れたあたしの声と、くちゅ、じゅぷ、と耳に粘りつくいやらしい水音が何度も繰り返し鳴り響いて――
「教えて。ここだろ、きもちいーの」
「っあ、ぁあん。ゃ、も、は、はいっちゃ・・・ゃん、やだぁ、ぃれちゃ、やぁ・・・っ」
困ってるような呆れてるような、どこか苦しそうにもみえる笑顔で表情を歪めた銀ちゃんが、肌に貼りつく白いショーツをずらして避けた。
指を浅く潜らせてくる。ちゅぷ、じゅぷ、って耳をふさぎたくなる音が鳴って、とろとろした蜜が籠っていた内壁をつんっと突かれて、そこから甘い痺れが広がる。
あぁっ、って腰を跳ね上がらせたら、にんまりと口端を吊り上げて。
「イヤイヤ言ってお前、しっかり腰揺らしてんじゃん。もう我慢できねーんだろ。・・・っとによー、やらしー身体してるよなぁうちのメイドさんはぁ・・・」
――そんな。自分だって――自分だって、ぜんぜん余裕なさそうなくせに。
おでこやこめかみがうっすら汗ばんでるし、目の色だって切羽詰まったかんじに変わってきてるのに。
「我慢すんなって。イきてーんだろ。言えたらもっといーことしてやるからよー、言ってみな」
なんて甘い声でささやいて、あたしのほうへ首を伸ばして唇を奪う。
だんだん深くなっていく指に、感じやすいところを強弱をつけながら突かれる。
ぐい、ってショーツの布を押しのけた親指が、中指を差し入れられたところのすぐ上に触れる。
あたしの奥からきりもなく溢れ出てくる透明な粘液を広げながら、ゆるゆると、やわらかく撫で回す。
そのたびに腰をびくびくと跳ね上がらせながら、あ、あぁ、ってかぶりを振って涙を散らした。
――銀ちゃんのばか。あたしのせいみたいに言わないで。
誰のせいだと思ってるの。
いやらしいあたしを欲しがって、そうなるたびに喜んで、さらに欲しがって――男の人をもっと喜ばせるような身体にしちゃったのは、銀ちゃんなのに。
「――。こっち。握って」
「あ、っっ」
掴まれた手を下へ引かれる。なんとか支えていた身体の重心がそれで崩れて、かくん、と腰が折れて銀ちゃんのお腹に乗っかってしまった。
自分の脚の間を通って導かれた手は、緩く履き崩した寝間着のズボンの中へ。それから、銀ちゃんの下着の中まで連れて行かれた。
すごく熱くて昂ったものに押しつけられる。一週間我慢のし通しだった、って言ってた銀ちゃんのそこは張りつめて苦しそうで、火で炙られた鉄の塊みたいになってた。
中で血が滾ってるようなその熱さにどきっとして、あっ、と小さく叫んで、やんわり握らされたそれを離しそうになったけど――
「・・・・・・・ははっ。なにこれ。いつもよか熱くなっててきもちーわ、お前の手」
呼吸を荒く乱しはじめた銀ちゃんに、ゆっくり、少しずつ、肩や頭を撫で回されながら、下へ身体をずらすように誘導された。
――気づけば銀ちゃんのズボンや下着が下げられてて、手のひらの中にある熱いものに顔が近づけられていて。
「・・・ごめんな。風呂入ってねーし汚ねーけど・・・、なぁ。舐めて」
気まずそうに苦笑いしながら銀ちゃんが言う。何がなんだかわからないまま、その熱があたしの唇を強引に割る。
口内にぐちゅりと割り込んできた硬い先端に舌をぐぐっと押されて、口を大きく開けさせられる。さらに、もっと深く飲み込まされて――
「っっ・・・・・・、やぁ、くる、ひっ、・・・はぁ、んふ・・・っ」
「・・・・・・ん・・・・・、。ぁあ・・・・・・すっげぇ。いい・・・っ」
喉の奥まで、息が出来ないくらいに大きな杭を捻じ込まれた。
自然と唾液が奥から溢れてくる。息苦しさで涙が滲む。溢れた唾液でたっぷり潤った口の中を、息苦しさに喘ぐ舌を、銀ちゃんは腰を振ってじゅぶじゅぶ擦り続けた。
濃くなった銀ちゃんの匂いと変な味を、舌の上に擦りつけられる。
感じた味はうっすらとにがくて、おもわず眉がきゅっと寄る。とくん、とくん、と心臓が弾んで、胸がいっぱいになる。
すぐにイきそうになってるのを必死にこらえてるような乱れた息遣いも嬉しくって、お腹の奥がきゅんと痺れた。
銀ちゃん、気持ちいいんだ。あたしの中ですこしずつ大きくなる。びくびくしながら高まってく――
「んっ、う、・・・ふぁ、く、ふ・・・・っ」
「ぅわ。やっべぇ。も、イキそー。・・・出る、っ」
「・・・っ!」
「なぁ。ここ、舌で弄って。――もっと。手、もっと強くしごいて」
びくびくと蠢く張りつめた熱を夢中で握ってたあたしの手を、銀ちゃんは上からぎゅっと握りしめた。
ずるん、と一旦引き抜かれて、上顎を刺激されて痺れた身体がびくんと大きく跳ね上がる。
やだ。こんなことだけで、どうしてこんなに感じちゃうの。恥ずかしいよ・・・!
ぎゅうっと瞑った目元から、涙がぽろぽろと頬を伝う。はぁ、はぁ、って大きく呼吸した唇の端から、つうっと雫が垂れ落ちた。
「・・・なぁ、かわいーメイドさぁん。銀さんお願いあんだけどー。・・・・・・・・・口ん中に出して、いい」
なんて猫撫で声で尋ねてきたくせに、がばっと上半身を起こした銀ちゃんはあたしの返事を待つこともなく入ってきた。
んぅっ、って涙声で喘いだ口の浅いところに、唾液を含んだ舌の上に、硬く張った先端をぎゅうぎゅう擦りつけられる。
「メイドさん。かわいー舌でぺろぺろして」って切羽詰まった声でお願いされた。
でも、・・・どうやって舐めたら銀ちゃんは気持ちいいの。わかんないよ。
夢中でそこに舌を這わせて、とろりと溢れ出た薄いにがさを丁寧に舐め取る。
びく、と大きく跳ねたそれをちょっと無理して口いっぱいに含んで、ぴちゃぴちゃ音を立てて舐めてたら、
「――っ、く、・・・っ」
「ん、っっ、」
ちっとも余裕がない、銀ちゃんらしくない喘ぎ声が頭上で聞こえた。
撫でてた髪をぎゅうっと引っ張るみたいにして握られて、お尻をむにっと握られたら、とたんに身体が反応して。
銀ちゃんの脚に押しつけてる胸が、とくん、と大きく高鳴る。きゅうっと縮んだお腹の奥に、もどかしくって泣きそうになっちゃう熱が溜まる――
「。も、やべぇ。ぜんぶ、呑んで、っ」
「ぅ、・・・・・んん、ふ、ぁ、・・・っ、」
「、っっ。・・・イ、く――・・・・・・っ!」
「っっ。〜〜〜〜んふ、っぅ、・・・〜〜〜っ」
ぐっ、と肩を掴まれる。限界まで膨れ上がってた銀ちゃんの熱が、どくんっ、と大きく脈打って一気に弾ける。
びっくりして息が止まった喉の奥まで、どろりと一瞬で流れ込む。
待って、なんて頼む間もなく流し込まれる。あたしは銀ちゃんが吐き出した辛い味を、すべて口の中で受け止めてしまった。
「っは、・・・ふ、ぁ、・・・・・・・っ・・・」
呑み込みきれなかった熱くてにがい白濁が、首を伝って胸まで滴る。我を忘れた銀ちゃんにきつく掴まれた肩の痛みが、今になってじんじんと身体に響いた。
・・・・・・頭の中がまっしろだ。だって、こんなの初めてで。
今までも何度か、銀ちゃんにねだられて同じことをしたことがある。でも、
・・・・・・こんなに強引にされたことはなくて。
もっと時間をかけて、あたしが怖がらないようにやさしく、自然とそうなるように仕向けられてたっていうか――
「・・・・・・・ぎ。ちゃ・・・・・・・」
胸を上下させて息を乱しながら、あたしを抱き上げようとする銀ちゃんを見上げる。
膝の上に乗せられる。唇を塞ごうとして濃い影を落としてくる熱の灯った目を、涙で曇った瞳で呆然と見つめた。
ちゅ、とやわらかく唇を落とされただけでぞくりと震えが走ったけど、気付かれたら恥ずかしいから、きゅっと唇を噛んでこらえる。
あたしを追い詰めようとしてるみたいにじっと見つめてくる、気だるそうな銀ちゃんの瞳。
濡れて艶めいたその目からあわてて視線を逸らしながら、
「っ。あの。もう、いぃ・・・?あたし、あの、・・・・・片付け、しなぃと・・・・・っ」
台所も居間もそのままだ。食後の片付けがまだなのに。灯りだって点けっぱなしなのに。
おろおろと、こっちを見つめてる目が視界に入らないように、深くうつむいて訴えた。だけど、銀ちゃんは離れてくれなかった。
どさっとあたしに覆いかぶさってきて、布団の上で組み敷いて。
もイきてーだろ。
はぁ、はぁ、って息を荒くした色っぽい声に囁かれて、もう一度ショーツの中まで手を突っ込まれて、
「やっ・・・!ゃ、はぁん、も、いっ、やめ、銀、ちゃあ・・・〜〜っ」
「声我慢すんなって。ほら。――・・・・・・」
「あぁぁ・・・っっ、あ、ゃあ、ん」
男の人の太い指先が、ぷくりと膨れ上がった小さな芽をちろちろ撫でる。
くすぐるようなやわらかい手つきなのに、とろとろに濡れたそこに指の感触が当たるたびに、あたしの腰はびくびく跳ねちゃう。
甲高くなる声を押さえられなくって、恥ずかしさで胸が張り裂けそう。
心臓がどくどくと早く鼓動を鳴らす。ぐちゅっと押し込まれた二本の指に中を擦り上げられるようになったら、気持ちがよくってもう気が変になっちゃいそうだった。
――だめ。これ以上したら止められなくなるのに。銀ちゃん、脚、怪我してるのに――
「ぁ、め、ぎっ、ひ、あぁん。・・・そこっ、ぐちゅぐちゅ、しちゃ、やぁ・・・っ」
「まだだって。お前、こんなに疼いてんじゃん」
お前だけこのまんまじゃ、辛れーだろ。
優しく掠れた熱い声に宥められて、恥ずかしさと気持ちよさでぶわっと涙が溢れた。
やだ、やだ、って髪を振り乱してる頭を、銀ちゃんは労わるように何度も撫でる。
ほっぺたに寄せられた唇にキスされたり、やわらかい声で呼ばれたり。背中に回した腕で引き寄せられて、大事そうに抱きしめられたり。
あたしを包み込んでる銀ちゃんの仕草はどれも、うっとりするほど優しくて。――なのに、往復する指の動きは激しくなっていくばかりで。
ぐちゅぐちゅと抜き挿しを繰り返してる指元から流れ出てくる水音が、いっそういやらしく、高く大きく響くようになって――
「なぁ、、イって。俺に弄られてイっちゃうとこ、見せて。かわいーメイドさん」
「・・・・・・ぁ、あ、だめ、ゃん、も、だめぇっ・・・!」
自分では触れたこともない、あたしが一番おかしくなっちゃうところ。
そこを捉えた指の先で、ぐちゅっ、と深く押し上げられた。
っっ、っと息が詰まったら、びくびく痙攣するやわらかいところへもう一度強く指がめり込む。
「〜〜ぁっ、あっ、あぁっ、 ・・・――っぁああ・・・っっ!」
連続して快感が弾けたら、もう何も見えなくなった。身体中を痺れさせる衝撃も、銀ちゃんの指で頭の天辺まで押し上げられる。
おもわず力が入った二の腕が広い背中を抱きしめて、全身がびくびくうっと反り返って――
「ぁ・・・っっ、は、ぁ・・・、っ、は・・ぁ・・・・・・っ」
「・・・・・・あーあー、ぶるぶる震えちまって。これぁもぅ今夜はご奉仕してもらえそーにねーなぁ」
「ふぁ、っん、んぅ・・・っ」
蜜をとろとろ伝わせてるそこからずるりと指を抜かれても、しばらく震えが止まらなくって。
ぐすぐす泣きながら喘いでいたら、銀ちゃんは顔を寄せてきた。
ごくん、って喉を鳴らして息を呑んで、えっろい顔してんなぁ、って掠れた声がつぶやいた。
くすくす笑いながら唇を塞ぐ。くるしくって喘いでいた舌をきゅうぅっとやわらかく絡められて、やんわりと名残惜しそうに放されて。
ほっぺたでちゅっと音を立てられて、濡れた目元を吸われて、――しばらくの間、顔や耳や胸元に、あったかいキスの雨を降らされた。
そのまま横抱きに抱えられる。
「――明日はもっといーこと教えてやるからよー。きっちりご奉仕してくれや、メイドさん」
抱きしめられたときにそんな言葉を笑い混じりにささやかれた気がするけど、よく覚えていない。
火照りきったあたしの頭は、銀ちゃんの身体の熱と力強さしか感じられなくて。
自分がどうなってしまったのかもわからないくらいにぼうっとしていて。
――途中で止めた居間や台所の後片付けも、すっかり忘れてしまったみたい。
じんわり汗ばんだ頑丈な腕に包まれたまま、ふたり一緒に眠ってしまった。