「あーあー。もーいーって。もぉそんな顔すんなって。な?」
これで三回目。
銀ちゃんは、さっきから困った顔して同じせりふを繰り返してる。
新八くんや神楽ちゃんが居るときには絶対に出さない、聞いたあたしが恥ずかしくなるくらい甘やかした声で慰めてくれる。
抱えた頭をしっかりした感触で撫でてくれる。
撫でてくれるのは、めいっぱい指を伸ばして広げた大きな手のひら。
こうして撫でられるのが好き。心地よさに身体を任せて目を瞑ると、陽だまりで昼寝している猫になったみたい。
頭の芯がぼうっと火照って眠くなる。うっとりする。嬉しくなる。それだけでしあわせになれる。いつもはそうだ。
・・・今はとてもそんな気分には浸れないけど。
銀ちゃんの声が繰り返されるたびに、うつむいたあたしの頭は被った毛布の中にもぞもぞ沈んでいく。
「んだよ隠れんなってぇええ。なに、お前さぁ、まぁーた気にしてんの」
「・・・・・・・」
「またちゃんと出来なかった、とか思ってんの」
おもってるよ。
だけど言えない。あんな話をした後だもん、ここで正直な弱音はさらせない。
そう、出来なかった。
また出来なかった。銀ちゃんはすごく丁寧にしてくれた。少しでもあたしが楽になれるように、いろんなことをいっぱいしてくれた。
どうしてそんなにしてくれるのってくらいに優しくされて、いっぱいキスしてくれた。いっぱい「すき」って言ってもらった。すごく嬉しかった。
なのに出来なかった。
布団から畳まで追いやられた枕の影から、目覚まし時計が覗いてる。銀ちゃんの腕の中から首を伸ばして斜めに見上げると、針はもう十二時を過ぎていた。
膝に抱っこされたままで着物を脱がせてもらって、銀ちゃんも脱いで、銀ちゃんのにおいがするお布団に二人で籠もったのが二時間前。
あんなに一杯時間をかけてくれたのに、それでもあたしの身体は銀ちゃんを半分しか受け入れられなかったらしい。
らしい、なんて曖昧な言い方になっちゃうのは、自分じゃどこまでなのかがわからないから。
半分ちょい、ていうのが銀ちゃんの自己申告だ。
「お前が悪りーんじゃねーんだからよ。落ち込むこたーねーんだって」
そう言ってくれた口調は普段通りの軽さだったけど、いつになく気を遣った響きも混ざっていた。
ぐいっと背中を引き寄せられる。見た目以上にがっしりした胸板に飛び込んだ。
汗が引いて冷え始めたあたしと違って、銀ちゃんの身体はまだ熱い。火照った手が髪を撫でつけてくれる。汗ばんだ下半身が絡まってくる。
とくん。とくん。まだすこし早い心臓の響きが胸を通して伝わってくる。熱い唇がおでこに触れる。
気にすんなって、と吐息みたいなぼんやりした声で慰めの言葉を漏らした。・・・わかってない。こんなの逆効果だよ銀ちゃん。
銀ちゃんがやさしくしてくれればくれるほど、あたしはいたたまれなくなっちゃうのに。
「銀ちゃん」
「ん」
「・・・がっかりした?あたしが。こんなだから、・・・」
ちゃんと出来ないから。
ぼそぼそっと口籠もって、唇を噛んだ。目の奥が熱い。
判っていたことなのに、自分の口を通してしまうとどうして泣きそうになるんだろう。
前の時――最初のあの人の時にも感じたことが頭をよぎる。すごく間抜けな例え話が。
えっちって土木工事みたいだ。しかもかなりの突貫工事。
工事するのが銀ちゃんで、工事されるのがあたしの身体。
それまでは自分にそんな器官があるなんて感じていなかったところに、いきなり男の人がぎゅうぎゅう入ってくるんだもん。
しかもその一番奥まで、メリメリ裂けそうなくらいに無理くりで入れられるなんて。女の子は痛くて痛くて仕方ないのに、
それが男の人には気持ちいいなんて。なんて不条理なんだろ。不公平すぎるよ。
あたしに入ってきた瞬間の銀ちゃんだって、くっ、って小さい声で呻いて、ちょっと苦しそうなしかめっ面にはなっていた。
なってはいたけれど、そこから奥へ押し込んでいくときの、あたしをぼうっと見下ろす上気した表情はなんだか色っぽかった。
かなり気持ちがよさそうだった。
なのにあたしは痛くて痛くて、やめてって叫びたくってたまらなかった。身体があそこから左右真っ二つに裂けるんじゃないかと思う痛さだ。
二人で一つのことをしているのに感じることがここまで違うなんて、やっぱり不公平だ。すごく不条理だ。だけど。
――銀ちゃんにされたことはどれも、最初のあの時とは感じかたが全然違ってた。痛くてもちっとも嫌じゃなかった。
だから。・・・ううん。だからこそ、落ち込んじゃうんだ。それでもちゃんと出来ない自分がかなしくて。いろんなことが気になり出して。
「・・・あたし、胸、小さいし、」
ぽつんとつぶやいて、暗い毛布にごそごそ潜って。胸元を見下ろす。ちいさなふくらみをふにっと摘む。
ずっと気にしてた。あたしの胸。ブラを外しちゃうとよりいっそう貧弱に見える胸。わかってたんだ。
これは銀ちゃんが見たらがっかりするって。
街を一緒に歩いていても胸の大きな子ばかりに目が行っちゃう銀ちゃんには、このサイズは到底物足りないはずだもん。
「痛くて暴れたし。・・・いっぱい引っ掻いたし」
身体が壊れそうなくらい痛かったせいでよく覚えていない。
けれど、何度も脚を蹴ったはず。痛い痛いって泣きじゃくりながら、天パの頭を何度も掴んで引っ張ったはず。
しがみついた銀ちゃんの背中に爪を立てたはず。しかも結構思いっきりだ。銀ちゃんは何も言わなかったけれど、あれで痛くないわけがない。
「・・・・・・ごめんなさい・・・」
頭をくっつけている胸板にも届くかどうかの消えかけた小声で、十秒くらい間を空けてから付け足した。
銀ちゃんの胸をおでこでこつんと打ってみる。
「・・・・・・・・・・」
銀ちゃんはぴくりとも動かなかった。何の返事もない。んー、とも、ああ、とも、っとによー、とも言ってくれなかった。
・・・おこってるのかな。もぞもぞと頭を出す。毛布から目だけを出して見上げる。
何をされても「いてぇ」の一言すら漏らさなかったやさしい人は、微妙に眉を曇らせて、口端をむすっと引き延ばして黙っていた。
あたしが空けた間の倍くらい空けてから、なんだか納得いかなさそうに口を開いた。
「はさぁ。もぉしたくねーとか思ってんの。嫌なわけ、俺とするのが」
「・・・・・」
言われたことにびっくりして、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
嫌だなんて。思うはずがない。そんなわけないじゃない。
「どーなのお前。こーいうことされて、少しも気持ちよくなんねーの」
「え、」
すばやく上半身を起こした銀ちゃんの身体が、あたしと毛布の間に滑り込んできた。
どさっと乗っかってきた重みにお腹がぎゅっと押し潰される。そのはずみで漏れ出た息が、ふぁ、とひっくり返った声と一緒に飛び出した。
「違うよな。感じてたよなぁ、」
「・・・っ、」
止める間もなく手が伸びてくる。指先が胸に触れたと思ったら、ぎゅうっ、とふくらみを強く絞る。
ひぁ、とまたひっくり返った声が飛び出て、背筋がびくっと仰け反る。指の間に挟まれた先に銀ちゃんは吸い付いて、舌先で意地悪く弾いた。
「ん、っ」
「ここ。舐めただけですげー声出してたじゃん」
「あっ。やだ。やだぁ。ぎんちゃ、・・・っ」
ぴちゃ。ぴちゃ。跳ねる音を立てて舐められて、ちゅっと吸い付かれて。口の中で食むように転がされる。ふくらみをやんわりと揉まれて、
尖らせた舌先に弾かれる。そのたびに身体が跳ねてお布団から浮き上がる。
「っ、・・・銀ちゃん、や、ぁ」
「。好き」
あたしの背中を布団から掬い上げて、銀ちゃんは大事そうにしっかり抱き締めた。
手のひらの熱くってごつごつした感触が、背中からすうっと這い上がってくる。固い指先の感触を肌に残しながら肩を滑っていく。
逸らした首筋に顔が埋まって、ざらついた熱さがつうっと鎖骨まで這っていく。舌の感触は線を描いて胸元まで下がっていった。
いろんなところに吸い付いては、かすかな痛みを残していった。
肩先から二の腕を、肌を掴むような手つきが撫でている。そこから脇腹に移っていって、腰の線や脚の内側を指先でつうっとなぞって。
たっぷりあたしを撫で回した銀ちゃんの腕が、肩を挟んで布団に手を突く。息を乱しているあたしを見下ろして、目を細めた。
「今日のお前。すっっげー、可愛い、・・・」
覆い被さってきた唇が、おでこの生え際にそっと触れた。
こめかみに触れて、まぶたに触れて。首筋に吸い付いて、かりっ、と噛み跡を残して。かぷ、と耳たぶに軽く噛みつかれた。
可愛い。可愛い。耳の中に何度も落とされる、甘ったるい響き。
蜂蜜とか溶けたチョコレートとかのねっとりした甘さを、直接耳の中にとろとろと注ぎ込まれているみたい。
聞かされていると耳の中だけじゃなく、頭の中も銀ちゃんで一杯になっちゃいそう。とろりと蕩けた熱い声が、もっと酔っていいよって迫ってくる。
戸惑ってるあたしを追い詰めてくる。
銀ちゃん。銀ちゃん。
呼ぼうとしても、あたしの喉ははぁはぁとだらしない息をこみ上げさせるだけ。声らしい声なんて出なかった。暗い中で見上げた銀ちゃんの口許はうっすら笑っていた。
指先が胸の先を摘んで、くにゅくにゅと遊ぶように転がす。
広げた手のひらを一杯に使って、ふくらみを強めに捏ねられる。もう片方の手は腰やお尻を撫で回してる。
「・・・っ。ぁ、・・・あ、」
遊ばれるうちに息が弾んできて、勝手に声がこぼれて、肌には汗がじんわり滲んできて。
目の奥までとろりと潤んできた。触られてるところに全部の神経が集中してしまう。
他のことがなにも考えられなくなってくる。
「なぁ。これ。いいんだろ」
お尻のふくらみを撫でていた手が離れて、指先で膝から太腿を撫で上げていく。
腿の内側のいちばん柔らかいところを爪先でなぞるから、あっ、と悲鳴が飛び出てしまった。
いつのまにか緩んでいた太腿に急に緊張が走って、下半身が固くなる。そこへ銀ちゃんの手が伸びてきて、
膝裏を掴んで。脚を大きく開かされた。
「や。は、恥ずかしぃ、っ。やだ、」
見えちゃう。膝にうんと力を入れて、かぶりを振って拒んだけれど、銀ちゃんの手はびくともしない。
あたしの動きを押さえつけながら、銀ちゃんは頭を下げていった。
顔が開かされたそこへぴったりと近づく。ふぅ、と掛けられた吐息の熱が肌をかすめる。んっ、と声が跳ねる。
背筋も足の先もびくんと上向きに跳ねた。くすぐったさと一緒に何かおかしな感覚が全身を駆け抜けていった。
変だ。身体が変。すごく変。わかんない。なに、これ。
「いいんだろ。ちょっといじくっただけでこんなに濡れてんじゃん」
ん、と短く漏らした吐息ごと、銀ちゃんはあたしに吸い付いた。伸びた舌先がちゅる、と割れ目を撫でた。
「ひ、はぁ、・・・んっ」
やだ。やだ。銀ちゃん。
うわごとみたいに叫んだ。
熱い。舌を埋めてぴちゃぴちゃと舐められたところがかあっと火照る。舌の先で線を引いてなぞられたところが、火がついたみたいだ。ああ、身体がおかしい。
湿った熱さに撫でられれば撫でられるほど張り詰めていく。足の先まで力が籠もる。そうしないと声をこらえられない。涙がぽろぽろ出てくる。
しならせた腰の奥に、熱くてこらえきれない何かが溜まっていく。何なのかわからないその感覚を抑えきれなくて身体がねじれて、身悶えして大きく浮く。
浮かせるたびに銀ちゃんの腕に沈められる。涙が止まらなくなって、胸を抱き締めてぶるぶる震えていると、
大きくひらいた銀ちゃんの唇があたしを食べた。舌をもっと奥まで突っ込まれて、強く吸われる。
「ゃあ、あん、・・・っ」
吸われたところが途端に痺れて、大きな震えが全身に走って。じゅくっ、とそこに溜まった水分を搾り取るような音がした。
ごくりと飲み込む銀ちゃんの喉音が、恥ずかしいくらいはっきり聞こえた。
「これも嫌か?・・・そーじゃねーだろ。んなえろい声出てんのによー、嫌なわけねーよなぁ」
「ん、あっ」
くにゅ、と何かの先が入り込んでくる。指。銀ちゃんの指だ。つぷ、と舌よりも硬い骨の通った感触がすこしずつ奥へ潜り込んでくる。
あ、あ、あ、と埋め込まれるたびに声が上がっていく。甲高くなるのが止められない。太腿がぴくぴく震える。
親指と人差し指の先もあたしに触れてきて、ぬるぬるになっちゃったところを探り始めた。指の腹を使って中のほうを撫で回す。
はぁ、はぁ、と息が弾む口を抑えて、あたしは固く目を瞑った。
やだ。銀ちゃんにそこを見られてるだけでも死ぬほど恥ずかしいのに。やめて。もう触らないで。もうやめてって叫びたい。
もう無理。目を開いて銀ちゃんを見ていられない。睫毛を伏せた表情が、あたしには見えないあたしの何かを確かめている。
軽くお酒に酔ったみたいな銀ちゃんのあの顔を見つめていると、それだけで変な気分に飲み込まれそうだ。
潜ってきた指がゆっくり確かめてる。線を描いて撫で回してる。やだ、と身体を捩ったら、知らないところへ――どこかの奥へたどり着いた親指が、柔らかいところを押し潰した。
それと同時で、半分埋められた指が動いた。ぐちゅっ、と勢いづいた動きで押し込まれて、
「!あぁ、やだ、やだぁぁっ」
「。なぁ。見せて」
「・・・っ、ぇ、・・・、ひぁ、だめぇ、うごかし、ちゃ、・・・っ」
「がイくとこ、見せて。俺に」
見たい。見せて。
うわごとみたいに繰り返しつぶやきながら、銀ちゃんはあたしを熱い吐息に閉じ込めた。
動き回る舌が歯を撫でる。ざらついた感触が奥まで侵入して口内を一杯にする。
あの中も銀ちゃんで一杯だ。ああ。やだ。動かさないで。押し込まないで。痛いよ。ばか。やだ。
「ばかぁ、銀ちゃんのばかぁ。・・・やっ。それ、やぁっ、い、いじめな、・・・でっ」
「ばーか、いじめてねーって。可愛がってやってんだろぉ」
こーやって可愛がって奥まで馴らしていって、がもっときもちよくなるよーにしてやってんの。
それを聞いたら全身が固まった。頭が破裂するかと思った。どうしてこの人はあたしの顔に火が点くようなことばかり言うんだろう。
「あーあーわかってねーなぁ、何言ってんだかなぁこのお子ちゃまは」って顔して平気で言うから、
痛さもおかしな感触もぶわっと一気に吹っ飛んだ。ひねくれた天パの髪を引っこ抜いてやろうとして掴みかけたら、
ひゅっと頭が逃げていく。伸ばした腕の手首はぱしっと引っ掴まれて、愉快そうに口端を吊り上げた銀ちゃんに顔を覗き込まれた。
唇がくっついて、ちゅ、と音を鳴らして逃げていった。耳まで赤くして膨れるあたしを、にっと細めた目が笑っていた。
「ん。その顔。可愛い。たまんねぇ」
「ばっっ、ばっっかじゃないの!?――ん、・・・いっ、」
ずっ、と指を大きく引き抜かれる。細く裂けるような痛みがぴりっと走った。抜きかけた指をまた中へ押し込まれる。
くっ、と指先が軽く曲がった。くちゅ、くちゅ、と蕩けた音を鳴らして、中を押し広げながら撫でられる。
「ぁあ、っ。銀ちゃ・・・・・やだ、い、やめ、・・・、あ、」
やだ。痛い。広げられると痛い。痛いのに。
「ん、・・・は、・・・ぁっ、」
痛いのに。痛さじゃない何かが、銀ちゃんの指が当たるところから広がっていく。あたしの表情を注意深く眺めながら、
ゆっくりと試しながら広げていくと、銀ちゃんは「なぁ。これ、すげえ痛てーの」と尋ねてきた。
ううん、と声にもならないような涙声で返すと、うんと深く押し込まれる。っ、と声にならない悲鳴が漏れた。
指の付け根が濡れた肌にぶつかってきた。奥まで押し込まれたら全身が竦む。痛い。痛い。恥ずかしい。ああ、でも、
「ゃあ。銀ちゃ。あ、ぁあ、見な、でぇ」
「いやいや、俺Sだからね。そーいう面されっと逆効果なんだけど。
もぉ見たくてたまんねーんだけど。なんならもぉパンって破裂しそーなくらいなんだけど」
ゆっくり引き抜かれて、また奥まで押し込まれる。ゆっくりと、何度も。ぐちゅ、ぐちゅ、と粘った音を鳴らして、銀ちゃんの指先にお腹の奥を突かれる。
引き抜かれると擦れたところが疼く。押し込まれるたびに息が詰まる。痛い。ひりひりする。なのに、・・・・・
「あ、あ、あぁ、あっ」
「なぁ。いいんだろ。ほら、言えって」
「〜〜っ、や、ぁ、そんな、・・・わ、わかんな、っ」
「ん。そっか。まあ、そらそーだわな」
初めてだもんな。なんとなく嬉しそうな響きの声がささやいた。
中に入れた指であたしを掻き乱して、もう片方の手ではあたしの髪を丁寧に撫でつける。
左右がまったく逆の動きを器用にこなしながら、銀ちゃんは、ははっ、と気の抜けた表情で笑って言った。
「だからな。そーいうんじゃねーんだって。どーでもいーんだって。
最後までとか途中までしか出来なかったとか、そーいうこたぁどーでもいんだよ」
お前が気持ちいーかどーかなの。
言いながら、銀ちゃんは一杯になっているあたしの中に、さらに何かを割り込ませた。
指だ。二本の指で埋められる。広げられる。びりっと裂ける。痛い。痛い。背中が跳ねる。なのに、痛さの中に何かがある。違う何かが紛れてる。
嬉しい。何なのかまだわからない、痛みを忘れさせてくれるその何かが嬉しい。
嬉しい。どうでもいいって言ってくれた銀ちゃんが。そう言ってくれた気持ちが嬉しい。
んっ、と悲鳴をこらえて両手で口を塞ぐ。眉をうんとしかめたら、涙がぽろぽろ溢れてきた。
「ふ、・・・・ぅ、っく、ひぇ、・・・っ」
「なぁ。わかる?お前が気持ちよくねーならぁ、こーいうこたぁどれだけやったって意味ねーの」
ずるっ、と指が引き抜かれて、お腹を占めていた息苦しさが急に消える。途端に下半身から力が抜けて、力んでた脚がぐったり布団に沈んだ。
銀ちゃんが浮かせた腰を前へ動かして、開いた太腿を固く掴んで。さっきはつけてくれたものを今度はつけてくれなかった。
・・・だめって言いたい。でも、身体中の骨が溶けちゃったみたいで口が動かない。声が出ない。
そのままで宛がった固い先を、銀ちゃんは割れ目に沿って動かした。あたしのそこに弱い刺激を残しながら、ぬるりと滑らせて上下に動く。
「んん、・・・は、ぁっ」
「いーんだよ俺は。半分でもめっちゃ気持ちいーし。どんだけ暴れられたって、引っかかれたって殴られたって上々よ」
「ぁ、あ。銀ちゃ、・・・っ」
「これで充分なんだって。久々に好きんなった女をやーっと抱いてんだからよ。俺の手の内で全部晒して喘いでるお前が見れたらそれでいーの。
文句なんて一個も出ねーよ」
震えているあたしの鼻先まで近づくと、両手で手首を掴んで、口を抑えた手を外して。唇を半開きにして涙目で喘いでいるあたしに、そっと触れるくらいのやわらかさで唇を重ねる。
ざらついて濡れた熱と、少し荒くなった息遣いを口の奥に押し込んでから、重たい声でぽつりと言い聞かせた。
「な。わかった?」
「・・・ぅん。・・・・・・・わかった」
かすかに頷き返すと銀ちゃんの目が笑う。もう一度、くっつくだけの優しいキスが落ちてきた。
「ぎ・・・銀ちゃんっ」
「ん?」
「・・・・・・す、き。大好き、・・・っ」
息を弾ませて、途切れさせた声で。まだ言い慣れていない、拙い響きを絞り出した。
頬がかぁーっと、一気に火照る。ただでさえ熱かった毛布と銀ちゃんの身体がもっと熱く感じて、頭がくらくらする。目が回っちゃいそう。
すき、なんて口にしたのは、最初にここの居間で銀ちゃんに告白したとき以来だ。恥ずかしい。恥ずかしくてのぼせ上がりそう。
それを聞いた銀ちゃんの腰が止まる。表情までぴたりと固まった。え、どうしたの銀ちゃん。不思議になって見ていたら、
「ばぁーか。知ってるっつーの、んなこたぁ、とっくに」
手首を乱暴にぱぱっと放されて、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
あ。珍しい。照れてる。口先がちょっと尖ったふてくされたような顔してるけど、あれって絶対そうだ。
だって表情が微妙に迷ってる。反応に困ってる。「何でんなこと言うんだよこいつはぁ」って顔してる。
面白い。銀ちゃんて変なの。こういうとこが天の邪鬼っていうか、変なところで照れ屋だよね。
自分はあんなに平気な顔して好き好き言うくせに、逆に言われるのは恥ずかしいだなんて。
「・・・つーことで、だ」
照れ隠しなのか何なのか、ちょっと怒ってるみたいに眉間を寄せた銀ちゃんは、しばらくの間目を合わせようとしなかった。
わしゃわしゃとがしがしと、ヤケになってるような手つきで後ろ頭を掻きまくってる。あたしはその様子をそわそわしながら見上げていた。
・・・裸の女の子をこんなあられもない格好で放置って。これはないよ銀ちゃん。
すごーーーく恥ずかしいんだけど。脚、めいっぱい開かされたままなんだけど。
どうしようかと思ったけど言いにくくって、腕で胸だけ隠して、黙って目線をうろうろさせていた。
頭を掻く手がようやく止まる。銀ちゃんはそっぽを向いたまま、半目のすっとぼけた顔つきに戻ってぼそっと言った。
「今のは準備運動と休憩な。これからが本番だから覚悟するよーに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、は?」
――準備、運動?
「・・・・・・・。銀ちゃん」
「ん−。なに」
「なに準備運動って。休憩って。プール入るんじゃないんだから」
「えっ」
と呻いた銀ちゃんがぱっと表情を変えた。
眉間が急激に狭まった妙に真面目な顔つきになって、
「なに、プールで水着がよかったのお前。ぇええ、うっわやっべーよ、そーいうプレイもありかよお前ぇぇ」
「は!?」
「けどよー、プールかぁ。んぁー、プールもいーけどよー、金がもったいねーよなぁ。・・・お、んじゃあれだわ、次は風呂場でビキニつけてってのはどーよ!」
「ぜってービキニなビキニ、ワンピース型のやつ禁止な!」といつにない積極的な食いつきっぷりでどこもかしこも最低でただれまくったせりふを吐いた。
しかも、やけに嬉しそうに目をきらめかせてる。
「よぉーし、そーと決まれば続きな、続き!」といそいそと迫ってくるひとの顎を、あたしはがちっと掴んで止めた。
「ていうか!さっきのあれは何だったの」
「んだよさっきって」
「言ったじゃん。言ったでしょ。あたしがきもちよかったらそれでいいとかなんとか!」
「へー。そーだっけ。んなこと言ったっけ俺」
「騙した・・・!」
「いやいやいや騙してねーし。まあいーじゃん細けーことは。ほらほらこの手、邪魔だって退けろって」
ああああ、やっぱり力じゃ敵わない。腕がぷるぷる震えてきた。
何か企んでいそうなへらへら笑いの銀ちゃんの顔が、押し返しても押し返してもじりじりしつこく迫ってくる。
ひどいよ銀ちゃん。あんまり情けなくって、情けなさすぎて、これじゃもう泣く気にもなれないよ。無理矢理フリーザと対決させられるヤムチャになった気分だよ銀ちゃん。
圧倒的な力の差がうらめしいよ。てゆうかこんなに全力で、自分でも「えっ、あたしこんなに力あったんだ」って驚くくらいの
火事場の馬鹿力全開で押し返してるのに、まったく何も堪えてないってどーいうこと。どーしてここまで頑丈なの!?
「つかもぉ無理だから。こんだけ我慢したんだからよー、もぉぜってー無理だって。
そこに山があるから昇るんだって言った奴と同じでよー、そこに穴があるから挿れてーんだって」
「〜〜〜〜〜っ、最っっっ低!!!!!」
「あーそーだよ最低だよ俺ぁ。言っただろぉ?お前がヤらせてくんねー限り俺ぁ最低なまんまなんだって!」
うそ。絶対うそだ。銀ちゃんは何回ヤらせてあげたって最低なまんまだよ!ちょっとやそっとじゃこの最低さは治らないよ!!
ポカポカポカ。怒りをこめて握った手を急激な筋肉疲労のおかげでぷるぷる震わせながら、あたしの肩をお布団に縫いつけた銀ちゃんの腕とか肩とかを思いきり殴る。
ポカポカポカ。ばかばかばか。銀ちゃんのばかっっ。
「っだよぉ、お前こそ忘れてんじゃねーのぉ。銀さんさっき言っただろォ?今日はどんだけ嫌がられても殴られてもするってよー」
「――、ぇ、」
ふっ、と左肩をお布団に縫いつけていた大きな手の感触が消える。
肩が軽くなった、と思った瞬間に、手首をばっと奪われて。ぱちっ、と瞬きしている間に、いつのまにか腕が両方とも上がっていた。
頭の真上で抑え込まれた手首は力強い感触にまとめて括られてる。腕を上げたおかげで自然と反った背筋が、
敷き布団から浮き上がっていた。
何が起こったのかもよくわからない。
わかってるのは、ほんの一瞬、しかも片腕だけで、銀ちゃんはあたしをねじ伏せてしまったってことだけ。
「・・・!あっ」
「が悪りーんだろ。お前が。可愛いこと、ばっか、言う、・・・・・から、っっ」
左足の太腿に銀ちゃんの指が食い込む。柔らかい裏側を掴まれて、その手が肌を滑っていく。
膝裏をきつく掴まれる。ぐいっと横へ開かされた。