「ん・・・んんっっ、・・・・・・・・」 ――いつまでもこうしていたいような。なのに、先を急ぎたくもあるような。 自分でも可笑しくなってしまう欲深な名残惜しさを引き摺りながら、土方はようやく唇を離した。 瞳が熱に蕩けてきた、泣きそうな女の表情が目に映る。抱きしめた細い身体の足元では、ばさりと重めな音が鳴った。 深いキスを覚えさせながら腕を回し、背中の固い結び目を解いていた帯や帯紐が畳に落ちる。 途端にはらりと肌蹴た着物を衿から掴む。肩を滑らせ、落とそうとした。 ところがの手がそれを拒んだ。あたふたと着物の端を奪い取り、肌蹴た布地を翻し、 流れるような動きで素早く腕の中から逃げていく。あわてて身体を隠そうとするその姿を眺め、 土方はふっと表情を緩めた。 時間の流れを忘れるほどに長く没頭したさっきのキスは、余程これの身体に堪えたとみえる。 畳を踏む足元はゆらゆらとふらついている。男に唇を塞がれた時の息継ぎの仕方を知らないせいで 酸素不足になったのか、薄く開いた唇は苦しげな呼吸を繰り返している。頬は火が点いたかのような赤さだった。 「やだ。やっぱりやだっ」 「・・・?」 「だ、だって、まだ、傷とか、あざとか、いっぱいあるし。治ってないしっっ。 どこも傷だらけで。肌、汚いから。・・・・・・・・・だからあの、今日は、やだ。恥ずかしい。見られたくないのっ」 「はぁ?ぁんだそりゃ。この土壇場でつまんねえこと気にしやがって・・・」 呆れたように片眉を吊り上げ、逃げる女を追いかけて腕を伸ばす。 やだ、と嫌がって揺れる肩を手の中に納め、しなって抵抗する背中を腕で捕らえた。 するとは逃げられないと観念したのか唇を噛みしめ、「もぅ、やだ」と 泣きそうに眉を曇らせてつぶやく。膝がかくんと崩折れて、へなへなと布団の端に座り込んだ。 ――綺麗だ。 女の前に膝を突き、熱を帯びた目で見蕩れながらそう思う。 視線が勝手にの素肌へと吸い込まれていく。彼女が気にしている細かな傷跡など、土方の目には どれもほとんど映っていないに等しかった。 ぽうっと色づいた赤い頬。彼と目を合わせまいとしてうんと顔を横に逸らしたせいで、皮膚が張りつめている ほっそりした首筋。今にも着物が滑り落ちそうな、なめらかそうな質感の肩。そこから下に視線を落とせば、 真っ白な胸の膨らみが見え隠れしている。 一点の濁りも曇りもない肌だ。どこも血の気を透かしてほんのりと染まりつつある。 あれを見ているだけで息が詰まる。まだろくに触れていないというのに、頭の奥には微熱が生じはじめていた。 淡い熱がじわりじわりと身体を責めてくるもどかしさを味わいながら、秘かにごくりと喉を鳴らす。 早く触れたい。帯を解く間に滔々と溜まっていった思いが、さっきから喉奥を焼けつかせていた。 「これのどこが汚ねぇ。どれも塞がってんだろ。見られたってどうってこたぁねえ傷しかねえぞ」 笑いを含んだ声で言い聞かせながら手を伸ばした。 拗ねて膨らんだ赤い頬を手のひらで覆う。深くうつむいてしまった女の機嫌を探るようにして、そっと撫でた。 親指の腹をすうっと口許へ滑らせると、唇の横から斜めに走った長い擦り傷が、 なめらかな触り心地にひっかかりを作って指先の動きを邪魔してくる。だが―― そうだ。これのどこが汚ねぇ。どれもお前が俺のために浴びた傷だ。受け容れこそすれ疎むはずがねえ。 胸の奥でそうつぶやけば、泣きそうな顔に刻まれた傷のほんの小さなひとつひとつまでが愛おしくなる。 それに、本音を言えば、この温かな女の肌身にどんなに醜い傷痕があろうが構わなかった。 どのみち俺にとって肝心なのは、この身体がだということだけだ。 「・・・・・・・・・・・・・・・・やだっ。いやですっっ、恥ずかしい、からっ」 「・・・・・・・っっの野郎、毎度のことだが聞いちゃいねえな。おい、頭ぁ上げろこの馬鹿女。 いいか、俺は傷なんざ別に構わねぇって言ってんだ。それでいいだろうが。何も問題ねえだろうが」 「・・・・・・・・・・・は・・・・はじめて。・・・・・だから・・・・」 「あぁ?」 「はじめて。なのっ。・・・か、からだ・・・・・・・・・男の、ひとに。見られたこと、ない、から・・・」 すっかり着崩れた着物でかろうじて隠されている胸元を両腕で抱きしめ、はおずおずと打ち明けてきた。 土方が間近に迫ってみても、羞恥にほんのりと染まった目元は深く伏せたままだ。 男とこういうことになったことはある。ただ、こんなふうに着物を脱がされ、肌を見られたことは 一度もなかった。そんなことをぽつりぽつりと自信なさげな声音で漏らし、きゅっと唇を引き結んだ。 「・・・いや、初めてってこたぁねえだろ。俺と風呂場で出くわしただろーが」 「っっ、・・・あ、あれはいいんですっ。あれは偶然見られちゃっただけっていうか、不幸な事故じゃないですかっっ」 思い出した光景が居たたまれなかったのか、うつむいた顔にじわじわと赤みが差してくる。 口許まで引っ張り上げた着物をぐしゃぐしゃと揉みくちゃにしながら、それでも彼女は 「ととととにかくっっ、あれとこれとは別なんですっ」と上擦った声で言い張った。 するとそこで、ぐっ、と喉を詰まらせたような音が鳴った。え、と気抜けした声でつぶやき、 は目の前の男を見上げる。きょとんとして目を見張った。 「ひ。土方、さぁん・・・?」 土方の反応が変だ。面食らったような顔をしてこっちを見ている。 やがて彼が肩を小刻みに震わせながらうつむき、口許を手で覆い、可笑しくてたまらなさそうに吹き出したものだから、 はいよいよ訳が判らない。こらえ笑いにくつくつと肩を揺らしている男の前からずりずりと後ずさり、 赤みの差した涙目を最大に見開く。灯りの消えた暗い室内を見回し、脱げかけた着物を握っておろおろとうろたえ始めた。 「はっ、何だってぇんだ。これだからてめえって奴ぁ。ったく、心底判らねぇ」 「ふぇ・・・?」 「おい、どうなんだ。そいつは何か。俺を喜ばそうとしてんのか」 「・・・・?よ、よろこ、・・・?」 「ああ、そうとしか思えねえ。少なくとも、今日はよしてくれってぇ時に男に言うことじゃねぇな」 なかなか引かない笑いに表情を歪めながら、の着物に指を掛ける。一瞬でそれを引き下げた。 すとん、と肩を滑り落ちた布地にはっとして目を剥き、はおたおたとあられもない下着姿を隠そうとする。 何するんですかぁっと叫んで、落ちた着物に飛びつこうとした。必死すぎて色気の無い仕草を、片手でぱしりと引き止める。 「やだ、やだ」と子供のような一点張りで繰り返し、あわてて彼から逃れようとする涙目の女に 笑いに細めた目を向けた。 喉の奥に詰まっている可笑しさはまだまだしつこくこみあげてきていたが、その一方では少し歯痒い。 いや、悔しいのかもしれなかった。何度も何度も歯噛みしてこらえてきたに対する鬱憤を、ここでまた、 とどめとばかりにぐさりと痛痒させられたのだから。 ――なんなんだこいつは。何て奴だ。まったくこの女ときたら、どうしてこうも手が掛かるのか。 どうしてこうも俺を振り回してばかりなのか。 「せめて体調が戻るまでは」と気を遣い、せいぜい紳士的に振る舞ってみれば、人の気も知らずに寝惚けて 抱きついてきやがる。我慢の限界に痺れをきらしたこっちがその気になって迫ってみれば、今日は嫌だと 肩透かしを食わせてくる。かと思えば何の気もなしに「誰にも裸を見られたことがない」などと、 わざわざ男の欲情を煽るような白状をしやがる。 まったく、これで本人には微塵も悪気が無えってあたりも始末に負えねぇ。自分の矛盾が男の目には どんな思わせぶりに映るのかなど、・・・呆れるほどガキ臭いこいつのこった。どうせ考えたことすら無ぇんだろうが。 だがこれで判った。おそらくこれは確かなはずだ。 男の目に晒されることがなかったお前の肌を、こうして夜気に晒したのは。 今にも泣き出しそうな顔をして心細げに見上げてくる、無防備なくせに艶めいた姿を目にしたのは―― その先に思い浮かべた予測のせいで、言いようのない昂揚感は増していく。口端にはふてぶてしい笑みが自然と昇る。 見覚えのあるその表情に何かを感じ取ったらしく、は怯えた上目遣いでちらちらと彼を見上げてきた。 「・・・まぁ、つまりだ。お前が最初に男に裸を見せるのは今日だってぇことだ」 「ふぇえ!?な、なな、なっ、や、や、ややややだぁっ、ひ、ひど、っ、やだって言っ、」 「煩せぇ。びいびい騒ぐな、夜中だぞ。泣きごとなら明日、幾らでも好きなだけ聞いてやる」 だから抱かせろ。 冷たいまでに整った顔立ちの男が実に平然とした表情で、眉ひとつ動かすことなくぼそりと告げる。 へ、と間抜けに漏らしたは途端に肌を紅潮させ、信じられない、といった顔で目を見張った。 震える手で土方を指差し、ぱくぱくと大きく唇を動かしている。 目をぱちくりさせて焦りまくっている表情から見るに、何か言い返したいらしいのだが―― 「や、な、ひ、う、ぁ、ぅぅぅ、ぅ、く、・・・・・・〜〜〜〜っっ!」 「あぁ?何だ、聞こえねえぞ。文句があんならはっきり言え」 わざとすっとぼけたふりを装っての反論を待ってみたが、どれだけ待っても女の口から 言葉らしい言葉は出て来ない。いつのまにやら首や肩まで赤くして、かちんと全身を固まらせてしまうほどの動揺ぶりだ。 くくっとせせら笑った土方は、言葉もなく震えている女の後ろ頭を片手に納める。胸元までぐいと引き寄せ、 くしゃくしゃっとやや乱暴に髪を掻き乱した。諦めろ、と宥めるように撫でながら真下を見下ろすと、 否応なしに彼の胸に頬を押しつける恰好にされてしまったは、ふぇぇと情けない泣き声を漏らして涙ぐんでいる。 誰が待つか。 喉から手が出るほどに欲してやまなかったものがここにある。 触れたくてたまらなかった頬が手の内で色づき、小さく尖らせた唇は恥ずかしそうに息遣いを潜めているのに。

片恋方程式。 54

触れられただけでどきりとするほど体温が高い手が、黙って腕を掴んでくる。 導くようにして布団に引き倒され、はどきどきと心臓の音を高鳴らせながら自分を跨いだ男を見上げた。 (・・・もう、土方さんから逃げられない。) 真上を塞がれた狭い視界の圧迫感にそう感じて、胸の奥がきゅうっと狭くなるようなせつない息苦しさを覚える。 降り注いでくる視線の強さに困ってしまい、すぐに目を背けたくなった。滅多に自分を見ようとしない男の 珍しい率直さに戸惑ってしまう。見られたところにあの目の鋭さがちりちりと刺さるようで肌が痛い。 ――あの目から自分の身体を隠したい。なのに思うように隠せない。 さっきまで身を隠してくれていた着物は文机のほうへと放られてしまった。下着もあっというまに 取り払われた。視線を横へ向けると、レースで縁取りされた白いブラとショーツが、畳の上でころりと 丸まっているのが目に入る。 心許なさで視界がじんわり潤んでくる。もう泣きたい。全部見られてしまった。恥ずかしすぎてもう、 どうしたらいいのかわからない。それでも深く伏せて影を帯びた眼差しは、自らの手で露わにした女の肢体を 愉快そうに見つめてくるのだ。 「どうした。怖ぇえか」 怯えて縮まった首筋を自分でも驚くような柔らかい手つきで撫でながら、土方はわずかに口端を吊り上げる。 この身体を偶然に見てしまった時のことを思い出していた。 あの日、こいつは呆然と俺を見つめていた。湯上りで上気した桜色の裸身は、湯気としずくを纏って輝いて見えた。 あの日は拒んだ。だが、今はこいつを拒む理由などどこにもない。 眺めれば眺めるほどに――触れれば触れるほどに実感として胸に迫ってくる、彼女の体温と確かな感触が嬉しかった。 「こわくは。ない。けど。でも。ひ・・・土方さ・・・あたし、やっぱり、き、今日は、もう・・・」 たどたどしい涙声には応えず、薄く汗ばんだ首筋に唇を落とす。 っっ、とは息を詰めた。 頼りない手つきに「やだ」と胸を押され、抗われたが、ほっそりした女の腕など何の造作もなく抑えつけられる。 ふわりと膨らむ掛布団に埋もれた薄い肩は、男の手なら軽く一握り出来てしまう程度の厚みしかなかった。 身体中のどこに触れても骨組みが華奢だ。どこもかしこも造りがヤワで、怖ろしく脆い。 「だって。こんな。・・・は、話したら、部屋に、戻るつもりで・・・こ、こんな。こんな、つもりじゃ・・・」 上から降ってくる強い視線に耐えられないらしい。はぎゅっと目を閉じて訴えてくる。 細くくびれた腰がざわざわと、かすかな衣擦れの音を立てて身じろぎしている。 これを思いのままに抱きしめたなら、ぐしゃりと潰してしまいそうだ。 他の女を抱いた時には頭の隅にも浮かべなかったことを危ぶみながら、肌に押しつけた手のひらで ゆっくりと腹部を撫で下ろす。あっ、とは悲鳴に近い声を上げた。 「お前。すっかり痩せやがったな」 「え、・・・・・っ」 「ぁんだこの腹。あばらが浮いてんじゃねえか。・・・あん時ぁこのへんにもう少し手応えがあったはずだが」 不満げな目つきで睨みながら言うと、はぱちりと目を見開いた。 浮かんだ疑問のせいで恥ずかしさも忘れたような、ぽかんとした顔で問いかけてくる。 「・・・? あ、・・・あのとき、って・・・?」 (だからあれだ。台風の夜に、ここの離れで――) 口に出しかけて踏みとどまり、土方はの唇に指先で触れる。 長かった口吻けでとろりと濡れたままの合わせ目を、固い親指の腹でなじるように擦った。 薄く開いていた唇がぴくりと震える。吐息のように儚い声が、ふぁ、と漏れた。 「まだ思い出せねえか。なら、これから思い出させてやる」 「ん――、んん・・・・・っ、」 顔の横に落としていた手に力強い手を重ねられ、指を絡めて動きを封じ込められた。 土方がすっと覆い被さってくる。煙草の匂いが強まって、開いた唇から伸びてきた舌に隙間を割られ、 あっという間に唇を奪われる。拒む間もなくどしりと腰を下ろされた。預けられた身体の重みで 背中がぐっと布団に沈む。潰された下腹から押し出された空気が、唇から深い溜め息のように吐き出される。 その息遣いを感じ取った土方がかすかに笑い、の背中を抱きしめて口内に深く侵入してきた。 「ん・・・・・・・、ふ・・・っ、」 強く引かれて絡めら取られた舌に、煙草の香りが這い移ってくる。濡れた音がくちゅくちゅと頭の中まで鳴り響き、 自分の熱が土方の熱と混ざり合っていく。かすかに甘い、けれどつんと鼻に抜けるような強い味もした。酒の味だ。 ・・・土方さんの身体、熱い。服を通していても熱い。 前にも味わされた男の重みで背が軋む。土方の身体と自分のそれとは、随分と密度や質量が違っているような気がする。 けれど、以前に身体を許した人とは違って、この身体の重みはあまり怖いとは思わない。 こんなことを言ったら恥ずかしさで消えてしまいたくなる。だから、死んでも口にしたくなんかないけれど ――こうして唇を重ねるうちに、前に抱かれた時よりも、何故か土方に組み敷かれることが 不思議とどこか懐かしいというか――前にもどこかで味わったことがあるような、ひどく自然な成り行きに思えてきた。 ・・・・・・・変なの。無理に身体を開かされたあの時は、こんなことを思う余裕なんてどこにもなかった。 なのに今夜は、すべてがあの時とは違っている。 身を焼くようなこの恥ずかしさからは今すぐにでも逃がれたい。けれど、土方から逃げたいとは思わない。 むしろこうして腕の中にいられることに心地良い安堵を覚えてしまう。 唇を大きく開かされ、口の中を濡れた熱で何度も撫でられる不思議さにぼうっとしているうちに 今まで知らなかったことがすらすらと、実感として身体にすうっと染みてくる。 唇を割って入り込まれ、舌を絡ませて確かめられる長いキスに自然と飲み込まれてしまう自分も。 上顎や舌を奥まで撫でられ、撫でられるたびに頭を大きく揺らされ、身体の力が抜けてしまうほどの 眩暈にうっとり浸ってしまう自分も。どれも嫌じゃない。こんなキスをされるのは初めてだけれど、怖くなんかない。 きっとそれは土方さんのおかげだ。 このひとがあたしの気持ちを受け容れてくれたから。だからこんなに安心しきって、身を任せていられるんだ―― 「ん・・・・・ふ、は・・・・・・・・・・・・・っ」 「・・・おい。その呆けきった面、他の奴に晒すんじゃねえぞ」 「・・・ぇ・・・・・・・・・?」 息を荒げて命令してきた男が、光る銀糸を互いの間に辿らせながら離れていく。 自分がどんなに悩ましげな表情をしているのかも気づかず、は瞳を潤ませて彼に見蕩れた。 土方さん、苦しそう。 いつも堅苦しく寄っている眉間が、さらにぎゅーっと寄っている。 なんだかちょっと怒ってるような顔してる。布団に腕をついて上半身を起こし、ベストやシャツのボタンを 首元からぱちぱちと外していく早い手つきも、苛立たしげで荒っぽい。 「あたし・・・・・・そんなに。へんな・・・かお。・・・して・・・・・・の・・・?」 「ああ。おかげで目が離せねぇ」 皮肉も混ぜてつっけんどんに言い返すと、はゆらりと頭を傾げ、不思議そうな目をして見上げてくる。 男に組み敷かれていることに何の不安も感じていなさそうな、無垢であどけない表情に思わず見蕩れる。 頭の中がかあっと火照った。まんまと見蕩れたことが少し悔しくて、土方は意地の悪い手つきを彼女の胸へと施した。 「あ・・・、」 指を柔肌に深く食い込ませ、揺れる膨らみを右手に握る。 しっとりと手のひらに吸いついてくる瑞々しい弾力をゆるゆると弱い力で揉みながら、 指先を小さな先端に這わせた。しばらくそこを硬い爪先で弄っていると、唇を噛んで耐えていたの背中が びくりと震えて仰け反った。 「あっ・・・!」 天井の闇色に放たれた高い声にぞくりとする。 この身体を貪る行為に溺れたことはあっても、こうしてにじっくりと触れるのは初めてだ。 手のひらを押し戻すほど弾力に富んだ膨らみをきつく掴み、左手に納めたもう片方の膨らみに顔を寄せる。 色づいた小さな蕾に舌を這わせ、そっと舐めて弱い刺激を与えてやる。 口に含み、ぴちゃ、ぴちゃ、と唾液を絡ませながらそこを撫でる。軽く歯を立て、音を立てて吸う。 新しい行為を加えるたびにの身体が左右に捩れる。濡れた蕾をつうっと舌で舐め上げながら 右手に握った胸の尖りをつんと弾くと、あぁっ、と辛そうな泣き声を上げて彼の頭に縋ってきた。 「ひ・・・、土方さ、・・・・・・・ん、んっ」 「嫌か」 「わ。わかんな」 「怖ぇえか」 「・・・・・・・・・っ」 問われたはこわごわと、涙に濡れた目を薄く開いた。 彼女の胸から顔を離し、身体を起こしかけた土方がこっちを見ている。 射竦めるような目が無言のうちに問い詰めてくる。見つめられながら背を撫でられ、初めて受けた愛撫で すっかり強張っていた身体から、すうっと力が抜けていった。 「・・・・・・・・・っ。こわく、・・・ない、・・・・」 「なら少し我慢しろ」 身体に響く低い声に言い含められ、大丈夫だ、と伝えてくるような優しい仕草で髪をゆっくり撫でられる。 暗い中で見上げた土方の顔にはじわりと汗が滲んでいる。可笑しそうに歪めた表情も、昼間に目にする 顔とはどこか違っている。鬼の副長と呼ばれる男とは無縁なはずの甘さが、表情の端々から滲み出ていた。 は赤く染まった顔を恥ずかしそうに逸らし、それでもこくりと頷き返す。 そんな顔で笑われたらまっすぐに目を見られない。そんなに優しく撫でられたら、それだけで胸がきゅんと 疼いてせつなくなる。おでこに被っていた髪をざっと指で掻き分けられ、ほんの一瞬の、素っ気ないくらいの キスを落とされた。目の前に煙草の香りが強く漂って、なぜか頭がくらくらした。長いキスを終えてからは 収まっていた眩暈が、すっかりのぼせあがった身体の内側に小刻みな揺さぶりをかけてくる。 もう背筋に力が入らない。手足はくたりと布団に垂れたままだ。 これからあたし、どうなっちゃうんだろう。 湧き始めた不安を噛みしめているうちに、土方の頭が下へと下がっていった。 「ん・・・・・・っ」 黒髪の毛先の硬さがちくちくと肌に当たる。 彼の頭が動くごとに舌先で舐められる。ゆっくりした動きで肌を濡らされ、初めて味わう感触の心地良さと じれったさを植えつけられる。唇にきつく吸いつかれるたび、ちくりと小さな痛みが走る。紅い噛み痕を幾つも 火照った肌に散らされた。熱くてごつごつした手のひらも絶え間なく動いて、の全身を撫で回している。 胸から腹へ。横に逸れて脇腹へ。背中から撫で下ろして腰の丸みを両手に納め、びくりと震えた下腹へ唇を落とす。 透けるような色をした太腿に達した手が、感じやすい内側を指先で撫でてくる。土方がその根元に吸いついた。 それだけでは腰を跳ね上がらせ、ぎゅっと強く目を瞑った。 「あぁ、あ、やだぁ、そこ、・・・っ、ぁあ・・・・・・・」 長い髪をはらはらと振り乱し、弱った声を唇から漏らす。 びくびくと揺れた膝を掴まれ、ぐい、と躊躇なく太腿を左右に割られる。きゃあっ、と叫んだは、 死にたくなるほどの恥ずかしさで真っ赤になった。慌てて手で隠そうとしたが、 「邪魔すんな。手ぇどけろ」 「やぁっ、や、やめ、見な、っあっっ」 「無茶言うな。ここで見ねぇことには何も出来ねぇだろうが」 「〜〜〜っっ・・・!」 何言ってんだお前は、などとでも言いたげな態度でさらりと言ってのけた土方に絶句させられ、 今にも泣き出しそうな情けない顔で彼を睨む。退けろ、と容赦なく手を払われ、再びぐいっと脚を広げられる 恥ずかしさを唇を噛みしめてこらえた。 開かされた秘部に土方が顔を寄せていく。そんなところに近付かれることに驚き、逃げようとしたが、 軽く漏らした息遣いが何の隔たりもなく吹きかけられ、それだけで腰がびくりと震え、ぐんなりと力が抜けてしまう。 火照った身体の芯に湧き上がってくる痺れと震えにおびえながら、は手を伸ばして 彼の髪を掴む。やだぁ、と裏返った声で泣きながら止めようとした。 「なっっ、なんで、そんな・・・!」 「我慢しろ。そのうち慣れる」 「〜〜〜〜っ、む、無理っ。無理ぃ、こ、こんなの、ぜったい、慣れないぃ、・・・ぁ、ぁあ!」 指先で軽く押し広げたそこは、熱い雫をとろりと垂らして彼の唇を受け入れた。 伸ばした舌でざらりと舐め、割れ目を縦に撫で上げる。途端にとろとろと溢れ出した透明な滴りを 押しつけた舌で受け止め、ごくりと喉を鳴らして呑んだ。熱い中に尖らせた舌を差し入れ、 ぐちゅぐちゅと弄りながら舐め回すと、あぁん、とが高い嬌声を上げて腰を振る。 折れそうに細いくびれを身動き出来ないように脚ごと抱きしめ、土方はさらに彼女を嬲った。 「ぁあん。や、あ、ぁんっ、」 びくびくと揺れる腰から片腕を離し、震える女の脚の間に指を潜らせる。 舐め上げている入口のすぐ上にある柔らかい芽はとろりと濡れていて、そこを弱く、くちゅりと摘んだ。 「ひぁ・・・!」 の全身が反り返る。露わにされた胸がぶるりと弾む。 涙に濡れた顔が強すぎる快感を受け止めきれずに絶句して、困惑の涙をつうっと伝わせた。 その過敏な反応を眉を寄せて眺めた土方は、しとどに溢れ続けている雫を舌でそこに塗りつける。 触れるか触れないか程度に、まだ刺激に慣れていない膨らみをちろちろと掠めるようにして舐めた。 弱い刺激を与え続けていると、はぁ、はぁ、と呼吸を乱して喘ぐ声にいつしか甘えるような響きが混ざり出す。 声の変化を感じ取り微笑を浮かべた土方は、指先をぐちゅりと秘裂に押し込んだ。 最初の関節までが熱いぬかるみに埋もれる。ゆるゆると指を回し、狭い入口を押し広げていった。 「いや、いや、そこ、やぁ、ゆ、ゆび、やっ、・・・・・っぁ、あぁっ、〜〜〜・・・っ、」 がシャツの肩に爪を立てて縋りつき、泣いて拒んでも、敏感な芽を舐め続けた。 布団に埋もれた柔らかな肢体がみるみるうちに強張っていく。太腿から先がぴんと突っ張り、 淡い色の首筋が、髪を舞わせながら大きく反り返った。 「やめ・・・あぁっ、・・・・・・・ふぇえ・・・やだぁ、そこ、やだ、やっ・・・・・・!」 浅く指を入れた中がきゅうっと締まる。土方が抱えた太腿や腰がびくびくと痙攣を起こす。 んん・・・っ、と奥歯を噛みしめて達したは、宙で突っ張っていた足先をばたりと布団に落下させる。 土方が頬を撫でながら覗き込むと、泣き濡れた瞳は力なく彼を見上げてきた。 「や・・・もぉ・・・・・・・ふぇえ・・・っ」 「まだだ。もっと奥まで確かめさせろ」 「ひじか・・・さ、やぁ、も、入れ、な・・・・・・・・・・やぁ、め、あ、ぁあっ、んん・・・っ、」 硬い指先を入口に宛て、長い中指の半分までを突き入れる。 ずぶ、ずぶ、と粘った水音をわざと大きく上げ、閉じようとする脚を広げさせて抜き挿しする。 ぐっと力を籠めて根元までを埋めると、の嬌声は一際高さを増してきた。 ぽろぽろと溢れる涙を伝わせている艶めいた表情から目を離せない。大きな瞳の蕩けきった眼差しに、 すっかり視線を吸い込まれている。 「どうだ。辛れぇか」 「ど・・・してぇ・・・・?ま。前は。こんなこと、・・・しなかっ、・・・・・・・っ!」 「あぁ。前は、な」 辛そうに細めた目の色は、初めての行為に怯えている。 なのに喘ぐ唇から透明な唾液とともに滴る声は、充分に女の啼き声だ。 感情では戸惑っていても、身体が受け容れつつあるからだ。今までは知らなかった、男の手で乱され生まれる快楽を。 「や。あぁ。こわい。・・・こわいぃ。・・・・・か、らだ・・・おかし、・・・・・・・っ」 はぁっ、と苦しげな顔で溜め息を吐きながら、土方は潜らせた中指を曲げた。この熱い中に自身を埋める前に、 もっとを知っておきたかった。とろりと柔らかく絡みついてくる内壁を探るようにして、じゅぶじゅぶと、 何度も指を往復させる。女の身体が特に弱りそうな浅い部分を隈なく撫でて確かめると、は 大きくかぶりを振って乱れ始めた。 「ぁ・・・っ、ん、んぁ、ひ、・・・・・・・ふぁ、ん・・・っ!」 「ほら見ろ。すぐに慣れただろ。しっかり感じてんじゃねえか」 「やだ、ぁ、なん、でぇ?・・・こ・・・・んな・・・・の、おか、し・・っ。ぁん、も。もう、やだぁ。は・・・ずかし・・・っ」 「別段変わったこたぁしてねーよ。お前が今まで、・・・」 (お前が今までの男にろくな抱かれ方してこなかったせいだ。) 浮かんできた台詞は頭の中で打ち消した。秘裂に潜らせた指をくちゅりと引き抜き、 はぁはぁと息を弾ませているのせつなげな表情を、困ったような目でじっと見下ろす。 乱れた髪を梳きながら撫で、黙ったままで顔を寄せる。呼吸を弾ませている唇を柔らかく塞いだ。 布団との間に腕を入れる。汗ばんだ裸身をぎゅっと、口には出来ない思いや謝罪の念を籠めて抱きしめた。 ――言えるわけがない。もしもこいつがそのことに、薄々は気付いていたとしてもだ。 他人の口から念押しされたら、こいつはそれだけで傷つくだろう。それでいて、傷ついた自分は隠そうとするだろう。 気の抜けた顔でへらりと笑って。えーっ、そうなんだぁ、と呑気そうに嘯いてみせるのがいいところだ。 脆い強がりを笑顔で通そうとするの健気な悪癖を、今では土方もよく知っている。 「・・・・・・・・、」 唇を重ねていた顔を離し、静かだが強い響きで呼びかける。 ぴたりと胸を合わせた身体の奥で、心臓の音がとくんと弾んだような気がした。 がかすかに目を見開く。呼ばれ慣れた苗字ではなく、土方が名前を呼んできた。 それは彼女にとっては、初めて耳にする響きだった。意志を籠めて囁いた男の声が、次第に身体へ染み通ってくる。 濡れた女の唇がふわりと開く。大粒の涙がぽろりと目元から転がり落ちた。 泣き濡れていた表情がじわじわとほころんでいく。まるで朝露を纏った花の蕾が咲き開こうとしているかのように。 柔らかな表情の変化を読み取り、土方もふっと厳しい目元を緩ませる。触れるだけの軽い口吻けを もう一度落とすと、いいか、と掠れた声で彼女に尋ねた。その言葉には息を詰めたが、頬を赤らめて頷いた。 「んっ、ぁあっ、・・・――んんっ・・・・・・!」 侵入してくる男の質量の大きさに耐えきれず眉を顰め、泣き喘ぐを抱きしめながら、それでもぐっと腰を進める。 狭まった女の中を先端で開いて圧し進めるたびに、彼の指や舌にたっぷりと触れられて蕩けたそこは ぐぷ、と籠った水音を鳴らす。ついには土方の滾った熱のすべてを、ぎこちなく奥まで呑み込んだ。 濡れた腿を抱え、ゆっくりと腰を動かし始める。まだ男に慣れていないこの身体に急な負担がかからないよう、 今すぐにでも激しく打ちつけたい衝動は腹の奥で堪えた。唇を重ねながら単調で弱い抽挿を繰り返す。 ずっ、ずっ、と布団に埋もれた背を擦られ、土方の律動に身体を揺られているうちに、の表情が緩み始める。 苦しげにぎゅっと寄せていた眉間が少しずつ解けていき、夢でも見ているようなぼうっとした表情で 彼の肩に縋りついてきた。 「ひ・・・ひじかた・・・さぁ・・・」 「痛てぇか」 尋ねると、は半開きの唇から、ううん、とか細い返事を零す。 土方が彼女を柔らかく貫くたびに、真っ白な乳房も揺れて跳ねる。片方を手の内に納めて やんわりと揉みしだくと、んんっ、と鼻にかかった声が上がり、濡れた睫毛がゆっくりと上がる。 瞼を半分ほど開いたは、夢の名残にまどろんでいるような蕩けた表情で応えてきた。 「・・・っ、・・・・・・・・い。いたく。な・・・・・・・いつも、痛かった、のに、・・・・今日、は・・・・・っ」 「今日は、いいか」 「・・・っ。そ。そんな。わかんな、・・・しらな・・・っ、」 「いいんだろ。・・・・・・お前。あん時と。声も。この中も。全然違ってんじゃねえか・・・」 「あ、ぁあんっ」 言いながらの脚の付け根を両手で押さえつけ、ぐっと腰を進めた。さっき指で探ったばかりの 弱い部分に先端を当ててぐにゅりと擦る。ああっ、と悲鳴じみた甲高い声が土方の耳を貫いた。 何度かそこをじゅぶじゅぶと音を上げて往復させてやると、粘液で滑る中がきゅうっと収縮して彼を締めつけ、 繋がった秘部からは熱い雫がたらたらと零れ落ちてくる。く、と唇を噛みしめた土方がたまらず奥へ打ちつけると、 はかぶりを振って泣き叫んだ。 「ぁ、あ、あぁっ、っぁあ・・・・・・・・・っ!」 身体を捩っても、大きな声で叫んでもどうにもならない。張りつめた熱い杭に何度も貫かれる中は、 自分の意志とは関係なく、土方を呑み込んでいやらしく蠢いている。こんなこと初めてだ。 どうしてあたしの身体、こんなにおかしくなってしまったんだろう。 こんなにこのひとを欲しがって、蜜を溢れさせて喘いでいる自分が恥ずかしい。消えてしまいたいくらい 恥ずかしくって涙が出る。なのに、もっとして欲しいと思ってしまう。 打ち込まれるたびに身体の芯をびくびくと疼かせる、甘い電流のような痺れには抗えなかった。 「あぁ・・・、もぅ、・・・めぇ、ひ、土方さぁ・・・・、ひじか・・・さ・・・・ん・・・・・・・っ、」 「・・・・・・・・っ・・・!」 いきなり強まった快感を喉奥で噛みしめ、土方はぬるりと濡れた真っ白な内腿に指をきつく食い込ませた。 鷲掴みにしたの脚を左右にぐいと大きく広げる。目の前で露わになった淫らに濡れたそこに、今にも 爆ぜそうな欲情の赴くに任せて腰を叩きつけ、引き戻し、深く、何度も彼女を衝いた。 衝くたびにの嬌声が高まっていく。 紅い唇を小刻みに震わせ、自分がどうしているのかすら忘れたような顔で泣き喘ぐ表情が色っぽい。 布団にぐったりと埋もれた細い手を取る。指を絡めて震える頭の横に縫い付け、細い骨が折れそうなほどに 強く握り締めた。激しい動きに翻弄され、上下に大きく揺らされ、泣きじゃくる彼女の中をさらに穿つ。 「だ、だめ、しちゃ・・・!そこ、おく、やだ、へんな・・・の、あ、あ、ああっ・・・!」 張りつめた先端が奥に強く当たるたびに、はびくびくと身体を震わせる。 時折脚を強張らせ、あぁっ、と声を甲高く引きつらせて軽く達しては、土方の首に縋りついてきた。 どっと打ちつけるたびに熱い蜜はどろりと漏れて柔らかな腿に伝う。泣きじゃくり、 淫らに喘ぐの濡れた脚を割り、熱く絡みついて甘えてくる中を責めている。昂った自分の熱が、 惚れた女を思いのままに犯している。――馬鹿な遠回りを繰り返し、ようやく自分のものになった可愛い女を。 土方の目の前にある光景は、目にしただけで興奮が湧き立つひどく淫靡な眺めで。と同時に、 自分のどこにこんな甘ったるい感情が隠れていたのかと驚くほどの、への強い愛しさを 止め処なく呼び起すものだった。 あ、あっ、と甘い声で啼いて乱れる女を両腕に抱き締め、、とせつなげな掠れ声で呼びかける。 擦り傷だらけの頬を両手に挟んで引き寄せ、噛みつくような荒さで唇を塞ぎ、どっと奥まで入り込む。 ずっ、と素早く引き抜けば、静まった閨に大きな水音がじゅぶ、ぐちゅ、と広がる。 その音を聞くと、頭の芯が焼き切れそうなくらいに火照ってきた。 「・・・、」 腕を突いて身体を起こし、紅潮した頬を覆った長い髪を掻き分ける。じっとりと汗に濡れた、熱い耳元に顔を寄せた。 紅く色づいた耳たぶを舐めると、女の肌は妙に甘ったるく感じられた。 眩暈がしそうな甘さだった。苦笑しながら柔らかな肌に歯を立てて、かりっと軽く甘噛みする。 ふぇ・・・、とせつなげに泣いたが、力の入らない腕を土方の首に絡めて必死に縋りついてくる。 「やだ。もぅ・・・離れな・・・・・で・・・・・・っ。もっと。ぎゅって・・・」 「あぁ。言われねえでも離しゃしねえよ」 深い快感と涙に濡れた瞳で訴え、舌足らずにねだって甘えてくる女に口吻ける。 ふっと声を零して薄く笑った。 んなこたぁ、言われるまでもなくそのつもりだ。 ――やっとの思いで手に入れた女だ。誰がそう容易く離してやるか。二度と逃がしやしねえから覚悟しろ。ざまあみろ。 自分でも冗談とも本音ともつかない、悔し紛れな脅し文句が頭をよぎる。…一句たりとも嘘ではないが。 「・・・たりめぇだ。誰が離すか」 「・・・・・っ!あ、ぁあ・・・やぁっ、土方さぁ、っっっ」 「喉から。手ぇ。出る、ほど、・・・・・・しかったもんを。やっと。抱いてんだ・・・!」 誰が逃がしてやるか。 再び腰を揺り動かしながら、息の上がりかけたもどかしげな声で荒く唸る。 柔らかな太腿を掴み上げ、浮いた腰に乱暴に突き込む。柔らかく彼を締めつけてくるの中を 捏ね回す動きも加えて、狭まった内壁をぐちゅぐちゅと広げるように掻き乱した。蜜に溺れた小さな芽に 指先を這わせ、焦らすような弱い動きでゆっくりと弄ってやる。感じやすいそこに触れられることに 慣れていないはそれだけで泣き叫び、腰を大きく捩って身悶えした。 ――もっと。もっと引き出したい。 こいつがどんな色めいた声を漏らして喘ぐのか。どんな羞恥に染まった表情で乱れるのか。 初めて知る快楽に堕ちていくこいつを、理性や意志の力など何の用も為さないほどに、 もっと深みに引きずり落としたい。を溺れさせたい。我を忘れてこの艶やかな身体を震わすさまを、もっと見たい―― 「ゃあ、そこ、だ・・・めぇっ、つよ・・・く、しな・・・・・・で、ぇ・・・!・・・あ、ぁ、ああっ、」 「――啼けよ。。もっと、声、聞かせろ」 「ぅ、ぁあ、あんっ、ぁ、あ、ぁあ・・・!」 土方の抽挿が速さを増した。いやぁ、とは透明な雫をぽろぽろと振りまきながらかぶりを振る。 こうして荒らされるたびにずぶずぶと淫猥な水音を鳴らしている自分の身体が信じられない。 奥を衝かれるたびに腰が跳ねて逃げ、けれどすぐに大きな手で掴み戻され、また衝かれる。 ――苦しい。せつない。恥ずかしいのに声が止められない。 けれど土方にぶつけられることは嫌ではなかった。身体の奥で受け止めたときの感覚が、 前にこのひとと繋がった時とはまるで違っている。こんなに激しく穿たれているのに痛みがない。 頭の中をぼうっと霞ませ、全身を痺れさせる甘い気持ちよさばかりが幾重にも重なって追いかけてくる。 ぐっ、ぐっ、と熱の塊で腹の底を衝かれる衝撃を浴びるたびに息が止まり、涙がぽろぽろとこぼれる。 打たれれば打たれるほどに何かが強まる。全身をぞくぞくと駆け抜ける甘い快感とともに、 それはお腹の奥に灼熱を生み、もどかしく狂おしく溜まっていく。土方が我を忘れような激しさで与えてくる、 男の欲を叩きつける行為が、今までは知らなかった官能を身体中に溢れさせていた。 快楽の洪水に押し流されそうなの意識を身体ごと飲み込み、彼女が知らない何処かへと連れていこうとする―― 「ぁあ・・・!もぅ、やぁ、・・・、い・・・っ、」 「・・・あぁ。また締まってきやがった。・・・・・・・・・なぁ、もっと欲しいか。」 「ぁっ、だめぇ、ひぅ、こわいぃ・・・・・・・っ、」 「何も怖かねえよ。このまましがみついてろ」 「や、あ、あぁ、ひ・・・かた・・・・・さ・・・っっっ!」 強い快感の波が全身を走り抜け、頭から足の先までをぶるぶると痺れさせる。 その波が一度過ぎ去っても、火照りきった腰の震えがまだ止まらない。 ぎゅっと閉じた瞼の裏に、目にしたことのない白光がちらつき始めた。 脚を担がれ、腰が布団から浮き上がる。不安定な体勢にされて、ぐっ、ぐっ、と垂直に近い角度で 熱い塊を打ち込まれる。ぐちゅ、ぐちゅ、と速い動きで硬さをぶつけられる衝撃に耐え、 何をされているのかも判らなくなって子供のように泣きじゃくっているうちに、やがて、土方に揺らされて 快楽に浸るだけの人形のようになっていた自分のすべてが、ぱっと弾け飛んでしまうような瞬間が訪れた。 ――奥まで埋めていたものを、ずるり、とすべて引き抜かれる。いやぁ、とは手を伸ばし、泣いて縋った。 苦しげな吐息を零しながら追い縋ってくる女の仕草を眺めていた土方は、わずかに顰めた目元を細めて 満足そうに低く笑った。担がれていた脚を放り出すような手荒さで下ろされる。肩を抱きしめて持ち上げられ、 背中が軽く浮き上がった。 「そんなに欲しいか。なら、全部くれてやる――・・・っ、」 「っっ!・・・ひぁ・・・・・・・っっ!」 急な喪失感できゅうっと縮んだの中に、ずぶりと粘った音を上げて衝き立てる。 限界まで張りつめて高まった熱を、眩暈がするほどの衝撃でぶつけられた。 欲しがっていたものを与えられたの中は、一気に、ぎゅうっと収縮した。 「―――ぁあああぁ・・・・・・・・・っっ!!」 ぞくぞくと背筋が粟立つほどに強い快感の波が襲ってきた。指先まで痺れきった身体が、びくん、と 胸から弓なりに跳ね上がる。ぶるぶると震えて波打つ女の身体をきつく抱き締め、ぐっ、と強く腰を打ちつけた土方の 熱がどくりと爆ぜる。迸った欲情はすべてに注ぎ込まれた。ひどく熱い何かが腹の奥までどくどくと流れ込んできて、 を一杯に濁して埋める。土方が動きを止めてもまだ打ち寄せてくる快感の波が、一瞬で彼女を浚っていく。 息が止まる。恍惚の海に投げ出され、目の前がまばゆい白で掻き消される。 何もわからなくなる。ここがどこなのかも、自分が何なのかも、何も。 あたし、あの光に呑み込まれたんだ。はぼんやりとそう思った。 ――なのに、もう少しも怖くはなかった。 「ふぁ・・・・ぁあ・・・・、ひ・・・かた・・・・さ・・・・・」 「・・・、」 耳元で名前をささやいてくれる気だるげで熱い声に、蕩けた意識が酔ってしまう。 髪を撫でながら力強く抱き竦めてくれる土方に、ずしりと遠慮なく身体の重みを預けられることが心地良い。 奪うようにして重ねられた強引な唇から漂ってくる強い煙草の香りに、なぜか泣き出してしまうそうなくらいほっとする。 怖くない。もう怖くなんてないんだ。 たとえどんな遠くに流されても、必ずここへ帰って来れる。このひとの腕があたしをしっかり繋ぎとめておいてくれる―― 暗闇を白く霞ませるお互いの荒れた息遣いだけが、ひんやりした真冬の静けさに響いている。 自分でも不思議になるほどのひどく満たされた幸福な気持ちで、は深い眠りに落ちていった。

「 片恋方程式。54 」 text by riliri Caramelization 2012/03/26/ -----------------------------------------------------------------------------------       next