「・・・・・・・・・ぅわぁ・・・・・」 ぱりん。 息を呑んで立ち尽くしたその時、何かが割れる音が足元から響く。 見下ろしたそこには、真っ白な灰を被った硝子の破片が粉々に砕けていた。 昨日までは親子連れで賑わっていたんだろう。そう思わせる残骸がところどころで目に入る。 カラフルなおもちゃやお人形。ファーストフード店のロゴが入ったカップや包装紙。 店ごと吹き飛ばされて生ゴミになってしまった食べ物の山。そこからかすかに漂ってくる饐えた異臭。 至る所に散乱する瓦礫。紙。硝子の破片。黒く焼け焦げて元が何だったのかもわからなくなった、何かの屑。 どれも埃だらけでぐしゃぐしゃだ。爆風で紙吹雪のように飛ばされてここまで落ちてきたのかもしれない。 現場の隅に撤去された瓦礫の中から顔を出していたのは、赤黒く染まったちいさな下駄。 建物から離れた敷地の外れにぽつんと立っていた掲示板には、年末年始の子供向けヒーローショーのポスターが貼られていた。 あの爆破テロさえなかったら、今日もこのショッピングモールには大勢の子供たちが詰めかけていたはずだけれど、 そんな光景が嘘だったかのように、がらんと空洞化した殺風景な見晴らしになっている。 煤で汚れたゲートのある正面から、奥の方へとゆっくりと見渡す。 ここにある現実をひとつひとつ自分の目で認めていくうちに、あたしの背筋は柱か何かになってしまったかのように固まっていった。 足が竦む。この先には進みたくない。身体がそう言って拒んでいるのがわかる。 こうして眺めるだけで、鉛でも仕込まれたみたいに胸の奥が重くなる。この感覚も久しぶりだ。 昨日の現場が気になる。 そう言い出した土方さんにくっついて、爆破テロのあったショッピングモールに来てみた、・・・んだけど。 久しぶりに体感した生々しさに身体が怖気づいてしまっているところだ。 いたるところに血痕が飛び散った殺傷現場。爆発の風圧に荒らされ、火に呑まれて焼け落ちた火災現場。 テロによる爆破現場は、その両方の凄惨さと残虐さを持ち合わせている。 隊士になって最初に見た現場では、そのむごたらしさに打ちのめされて吐き気がこみ上げた。 あのときの気持ちの悪さを身体は今も覚えているみたいだ。ごくり、と息を詰めた喉が鳴った。 「行くぞ」 前に立っている土方さんが、肩越しに少しだけ振り返る。 強い風に煽られる煙草の煙は、何か言いたげに薄く開いた口許から途切れ途切れな白糸を流していた。 向けられた視線には気遣うような気配が含まれている。黙ってその目に頷き返す。 幾度も見てきた爆破現場を思い出したつもりでいた。それなりの覚悟はしていたはずだった。 それでもこうして目の当たりにすると、息を呑んで立ち尽くし、絶句するだけになる。 「KEEP OUT」の文字が繰り返された黄色いビニールテープ。 現場を囲って張り巡らされたそれを片手で掴み上げて、土方さんが現場に一歩踏み出す。 燃え残って白く炭化した木材が、ぐしゃっ、と乾いた音を立てて足元で潰れた。 この奥に隠された雰囲気がその音からも伝わってきて、少し足が竦んだ。

お お か み さ ん の ふ ゆ や す み *4

「・・・。これ。2階にあったアイスクリーム屋さんの看板だ。溶けちゃってるけど」 「来たことあんのか」 「うん。小菊姐さんと、一度だけ」 キャラクターもののかわいいトッピングが人気で、小さな子供連れのママ達で席が埋まっていたアイスクリームショップ。 その店の大きな看板が、あたしがしゃがみ込んだ足元で白黒の瓦礫に埋もれている。 「・・・美味しかったのにな。ここのアイス」 指先で触ってみる。でこぼこした表面は泥や灰を被ってざらついていた。 派手なオレンジ色の看板は爆風にへこまされてぼろぼろで、プラスチック部分は形成前の飴細工のように ぐにゃりと歪んで溶けていた。看板からしてこれじゃ、店自体はどうなっていることか。 ・・・ううん、あの店だけじゃない。 あの時はどこを見ても真新しかったショッピングモールは、影もかたちも残っていない。 目の前に広がるのは白と黒と灰色で埋め尽くされ、色褪せた焼け野原。どこに目を向けても崩れ落ちた建物の残骸ばかり。 まるで十年も前から廃墟だったかのような生気のなさが、焼け野原に踏み込んだあたしたちを取り囲んでいる。 延々と続いていそうな瓦礫の先を見渡しながら、昨日、不幸にも爆破の瞬間に居合わせた人たちの恐怖感を思う。 そのうちの何割かは小さな子供だ。燃え残った残骸や灰の上に飛び散った赤黒い染みを見つけるたびに胸がしめつけられた。 ぐしゃ、ぐしゃ。足元で音が鳴る。 撤去作業前の事件現場では歩きやすい道なんて望めない。障害物もなしにまっすぐ歩ける現場のほうが稀なくらいだ。 敷き詰められたでこぼこの瓦礫をブーツで踏んで崩して、コンクリートの外壁なんかの大きな塊は 飛び越えたり乗り越えたりしながら、一人でどんどん先に行ってしまう土方さんの後をついて歩く。 どこも灰に埋もれていて、風が起こるたびに白っぽい砂塵が舞い上がる。うっかりしていると灰が目に飛び込んできてすごく痛い。 ぽっかりと何もない空間が出来てしまったせいで、現場には真冬のビル風が渦巻いていた。 転ばないように注意して足元の瓦礫を踏みながら進むごとに、体温がどんどん奪われていく。思わず自分で自分を抱きしめる。 そこへ、ごおぉぉっ、と耳を鳴らして竜巻みたいな北風が通過。ぶるっっ、と大袈裟なくらいに背筋が震え上がった。 「ひぃぃいいいやぁあああ!!っっささっさぁああむぅぅいいぃぃ!」 「ほらみろ。言わんこっちゃねえ、だから屯所に居ろっつったじゃねえか」 「なにこの寒さ、信じられないぃ!こここっ凍るぅぅ!」 「あぁ?音ェ上げてんじゃねえぞビル風程度で」 「あーあっ、いいなあ土方さんはあったかくてっっ。隊服の上にコートまで着込んでるんだもんっ」 あたしなんて着物の上は薄い羽織だけなのに。 さっきパトカー降りた途端にくしゃみは出るし寒気はするし鼻水も出そうだ。 とか思いながら唇をぶるぶる震わせていたら、こんっ、と何かが頭を小突いて飛んでいく。 結構痛かったけれど何が当たったのかもわからない。ビル風に吹き飛ばされた木材か何かの破片だったみたいだ。 そのうちに歯までカチカチ鳴って、くしゃみが止まらなくなって立ち止まる。 ああもう最悪だ。こんなに寒いって知ってたら、もう少し考えた恰好で、・・・・・・って、あれっ 「!ちょ、待って!一人で先に行かないでくださいよぉぉ!そんなに離れちゃったら風避けにならないじゃんっっ」 「知るか。俺ぁ止めただろーが。ついてきたお前が悪りぃんだ」 えーっ、と口を尖らせながら走っていって、隊服の上着を長く伸ばしてフードを付けたようなデザインの ロングコートの背中を掴んでくいくい引っ張る。 防寒対策のために今年初めて支給された、隊士全員お揃いの黒いコート。 これを着た土方さんを最初に見た時、あたしはその姿に目が釘付けになった。 あたしに気付いた土方さんが近寄ってきても、我を忘れて呆然と見蕩れていた。オーバーヒートした頭から 煙が出ちゃいそうなくらい見惚れていた。近くで見たらさらにこのひと特有の色気に気圧されて、どぎまぎして何も言えなくなって。 怪訝そうに片眉を吊り上げた土方さんに小突かれて、「どこ見てんだコラ。花畑か。またどっかの花畑に飛んでんのか」と 気味悪そうに小突かれ抓られ、ほっぺたをグイグイ引っ張られ。それでも溜め息混じりにぽやーーーっと見蕩れていた。 ほんとに誰が考案したんだろうこのコート。こんなの卑怯だ、反則だ。 実は今だって、上目遣いにチラチラ背中を見上げるのがやっとだ。普段の隊服姿ならいくらだって見ていられるのに まだ見慣れないこの姿は――長い裾を風に靡かせて颯爽と歩く土方さんの後ろ姿は、恰好よすぎて三秒以上は正視できない。 ・・・なんてことは、もしこのひとに知られたら一生頭の上がらない弱味を握られたみたいで悔しいから 一生黙っておこうと思う。 「ねえ、土方さん。どこにいくの。みんなと合流するんですか」 「ついて来んな。そのへんの茶屋で甘酒でもすすってろ」 「えー。いやですよー。お金持ってないし」 「はぁ?小銭も持ってねえのかよ」 「はい。だからお年玉ください!気持ち程度でいいですから。 こたつ買って人生ゲーム買ってみかん箱買いしておつりであんみつ三杯と甘酒五杯呑める程度でいーですから」 「・・・いーかげんにしろ」 凄んだ声でつぶやいた土方さんが足を止め、唐突にくるっと振り返る。 あ、これはやばい。こっちを睨んでる目が据わってる、と思ったら、 ゴッッッ。 固めた拳が避ける間もなく頭を直撃。ふぁあああ、と眩暈と頭痛にくらくらして頭を抱えながらうずくまる。 痛い。痛くて涙が止まらない。殴られた瞬間、目の奥で火花散ったし!花火みたいでなんかちょっと綺麗だったし! 「ったぁあああいぃ!」 「フン、くれっつーからくれてやったんじゃねえか」 「いりませんっっ。そんな古典ネタいらないからっっ」 「生憎だがネタじゃねえ本気だ。おらその手ぇどけろ、もう一発くれてやる」 「だからいらないってばあぁぁ!ちょっ、誰かぁあ!助けてえぇぇ!! 瞳孔開いた怖ぁーいおまわりさんがか弱い女の子に暴力を振るいますうぅ助けてくださいぃ!っていた、いだだだだだっ」 ぐりぐりぐりぐり。ぐりぐりぐりぐりっっ。 拳にがちっと耳の上を挟まれ、両側からぐりぐり捩じられる。頭痛っていうかもう激痛だ。てゆうか割れる、頭が割れる! 瞳孔は開ききってるのに口端がにやりと笑って凄まじい顔になってるひとが、けっ、と憎たらしいせせら笑いを飛ばした。 「てっっめえ、どんだけ食う気だ?ここ来る前に飯食わして、そこの甘味屋で汁粉とぜんざいも食わせただろーが!」 「いいじゃんお汁粉の一杯二杯!お正月だからちょっと多めにお餅食べたかったの! あーあーやだやだっ、妙なとこでケチくさいですよねぇ土方さんって!男なら黙って奢ってくださいよぉっ」 「ぁあ!?一杯二杯だぁ?七杯だろ七杯!お前が餅をモゴモゴ啜ってやがった間、店中がドン引きしてただろーが! 俺ぁ金がどうこう言ってんじゃねえ、人目が痛てぇからやめろって言ってんだ!」 「――あれっ。トシかぁ?までいるじゃねえか。どーしたんだぁお前ら」 聞き慣れた通りの良い声に振り向く。 目の前を塞いでいた大きなコンクリート壁の向こうから、新品の黒いコートを白い埃まみれにした近藤さんが 数人の隊士と共にひょっこりと顔を出した。 近藤さんに会ったおかげで、土方さんの予定は少しだけ変更になった。 事件当時の目撃情報の聞き込みに当たっているみんなの様子を見に行く、という局長にお供してあたしたちも現場を出る。 並んで歩く二人の後ろを寒さに身体を竦めながらついていったら、土方さんは道の途中でコンビニに消えた。 あれァ煙草だな、そうですね、と近藤さんと二人でガラス越しに店内を覗きながら待っていたら、すぐに戻ってきた。 おら、と胸元に無造作に押しつけられた袋の中には使い捨てのカイロ。袋をあたしに持たせると、 長いコートの裾を風にはためかせながらさっさと一人で歩いていってしまう。歩調がいつにもまして速足だ。 「ん?なんだ、煙草じゃなかったのか?」 同じくコンビニ前で置き去りにされた近藤さんが、大きな背中を屈めて袋の中を覗き込む。 薄くて四角いビニールパックを眺めてから、おどけた表情で目を細めた。 「・・・ー、こいつはてえしたもんだぞ。人ってえのはよぉ、変われば変わるもんなんだなぁ」 「変わったって、・・・?誰のどこが変わったんですか?」 「あいつだよ」 と、土方さんの背中を目線で指してみせる。 近藤さんは遠くなっていく背中を眺めながら、感慨深げに言った。 「あいつの昔を知ってる奴ならどいつだって驚くだろうよ。 女には貢がれる専門だったあのトシが、こうもこまめに女に貢ぐようになるとはよぉ」 貢ぐ、なんて大仰な言われようがちっとも似合わないぺらぺらのコンビニ袋を探って、ぴりっと赤い袋を破く。 中から出てきたのはオレンジ色の不織布の袋。ほんのりした温度を伝え始めた袋を手の中に収める。 それから、あたしたちの居るコンビニ前から数件先まで遠ざかっている背中を眺めて、あたしは口を尖らせた。 なんだかふてくされたくなったのだ。 「・・・・・あたしは困りますよぉ。土方さんっていつもこうなんですよ。無言で置き逃げするんだもん」 「まあまあ、そう言ってやるな。あれでもお前のこたぁ大事にしてんだぞ」 「・・・。はい。でもね、近藤さん。こういうことされるたびにああやって逃げられたら、あたしだって」 すぐお礼を言いたくっても言わせてもらえないし、言うタイミングを伺うのも大変なんです。 口の中でもごもごつぶやいて、赤くなった頬をぷうっと膨らませた。 あたしの頭をぽんぽん叩き、近藤さんは、ははは、と大口を開けて笑う。 さあ、行くか、と背中を押され、あたしは近藤さんの後ろについて歩き始めた。 手のひらに収まった温もりが心地良い。でもなんだかくすぐったい。 後ろに回した両手でその温かさを味わっているうちに、頬まで熱くなってきた。 ずるいと思う。さっきまでは人の頭にゲンコツをグリグリ捻じ込んで悲鳴を上げさせていたひとが、 そのすぐ後にやることがこれだ。 こんなことをされたら、こっちはもう手も足も出ないっていうか、・・・不意打ちだから余計に嬉しくなっちゃうのも困る。 これだから土方さんって性質が悪い。しかも本人はどれもこれも、たいした意図や思惑もなくやってのけていそうだ。 これじゃあ寄ってくる女のひとたちにどんな勘違いをされても仕方ないと思う。 今も、歩道をすれ違った女の人が、ちらちらと振り返ってはあのひとに熱の籠った眼差しを向けている。 ・・・女の人の目線を惹きまくりの、あのコートを羽織った後ろ姿以上に、この癖の悪さは反則だ。 だってずるいよ。いつも、お前のことなんか目の端にも入れてねーよ、って態度でいるくせに、 たまに思いもしなかったタイミングでこういうことをしてくるんだから。 その度にこっちは嬉しいやらどきっとさせられるやら、どぎまぎさせられて落ち着かなくなるやらで 今だって近藤さんと目が合わせづらいのに。 本当はすごく嬉しくて心臓が高鳴っているのに、なんだか逆に拗ねたくなるような、恥ずかしくて ちょっと居心地の悪い、あの背中を無意味にベシベシひっぱたいてやりたいような気分にさせられてしまう。 ・・・勿論、この居心地の悪い嬉しさを嫌だと思ったことなんて、たった一度としてないんだけれど。 「寒くないんですか近藤さんは」 「そーだな。この程度ならどうってこたぁねえな。丈夫なだけが取り柄だからなあ、俺ぁ」 「そうなんだ。いいなぁ、あたしなんて全身にこれをぺたぺた貼り付けたいくらいですよ」 これを、と握っていたカイロを持ち上げてみせる。 軽くこっちを振り返り、そういうもんか、と興味深そうに近藤さんがつぶやく。 「そういやあお妙さんも、日に日に厚着になっていくな」 「いや日に日にって。・・・近藤さぁん。お願いですから今年こそやめてくださいそのストーキング癖」 「そーか、女性は野郎よりも寒さが身体に堪えるように出来てるんだろうなぁ」 「いやまあ確かにそうなんですけど。聞いてます?聞いてませんよねあたしの話」 「うちの奴等なんざどいつもこいつも、寒稽古つけたって水浴びたって風邪もひきゃあしねえがなー」 「だったら何もこんなもんに予算使うこたぁなかったんじゃねえか。まったく、とんだ出費だぜ」 いつからあたしたちの会話を耳に入れていたのか、少し先を歩いていた土方さんは唐突に振り向いた。 ちょっと皮肉っぽい口調で「こんなもん」呼ばわりされたのは例のコートだ。 真新しくてかっちりした分厚いコートの襟を掴んで、土方さんはこれ見よがしに突き出す。近藤さんは ちょっと肩を竦めてきまりが悪そうに苦笑いした。 このコートを新調することになったいきさつを、あたしは詳しく聞いていない。 けれど山崎くんが言うには、この不景気で仕事が無かった近所の仕立て屋さんを見兼ねた近藤さんが その店に助け舟を出した、っていうのも、隊士全員分の大予算を捻り出してこれを誂えた理由のひとつになっているらしい。 「まあそう言うな。いいじゃねえか、こいつで救われた一家があるんだ。 うちの注文のおかげで年が越せる、子供に玩具のひとつも買ってやれる、って、あそこの店主も喜んでくれたしなぁ」 そう言って深く頷き、薄曇りの冬空を見上げた近藤さんは満足げに頬を緩めた。 仕立て屋さんの顔でも思い出しているのかな。それとも、その家の子供たちの顔なのかもしれない。 こういう近藤さんをあたしたちは見慣れているし、こんなことも今に始まったことじゃない。 見返りも何も期待できそうにない弱っている人達を相手に、近藤さんはいつもそうするのが当たり前のように手を差し伸べる。 そのたびに「あれァ性質の悪りぃ病気みてえなもんだ」と土方さんは呆れ返る。けれど、あたしは近藤さんの そういうところが大好きだし、隊士だった頃は、そういう人の許で働いていられることがいつだって嬉しかった。 「人がいいにも程があるよねぇ」と笑ってこのコート新調の裏話を打ち明けてくれた山崎くんも、 「またうちの局長は、しょーがねえなぁ」と笑って見ている局内のみんなも、誰もが同じ思いを感じてるんじゃないのかな。 それに。・・・口にはしないだろうけれど、土方さんだって実は同じ気持ちなんじゃないのかなぁ。 「とんだ出費だぜ」と言いながら近藤さんにちらりと目を向けたときの表情は、いつもより少しだけ砕けた、柔らかい雰囲気だった。 「それにしても・・・近藤さんも土方さんも寒さ慣れしてますよねえ。滅多に風邪ひかないし」 「たりめーだ。この時期、武州の寒さはこんなもんじゃねえからな」 「へー、そうなんだぁ。そんなに寒いんじゃ何でも凍っちゃいますよねぇ。あっ、もしかして。釘でバナナが打てちゃうとか?」 「それを言うなら「バナナで釘が打てる」だろ。んな古りぃ例えどっから拾ってきた」 「この前近藤さんに聞いたんですよぉ。かちこちに凍るとバナナでも釘が打てるらしい、って話を。・・・あ、それからぁ、 お仕事帰りの姐さんを志村家の庭で待ち伏せしてたらあんまり寒くて身体が凍っちゃって、姐さんに 「俺のバナナをお妙さんの熱で溶かしてくださあいぃ!!」って抱きついたらあやうくバナナに釘を打たれそーになったって」 ドカドカドカドカドカドカ、ゴッッッ。 眉間に皺を寄せて歩道を逆行してきた土方さんに問答無用の勢いで拳骨をお見舞いされる。 あまりの衝撃でそのままばったり倒れそうになった。ずきずき痛む頭を抱えて、 拳骨を構えたままで凄んでくるDVおまわりさんを必死の涙目で睨み返す。 「っったぁあああいぃ!!花火がぁああ、目の中で花火が散ってるうぅぅぅ!!!」 「新年早々くっっっだらねー下ネタ仕込まれてんじゃねえ!」 「だからって殴る?殴ることないよねえぇ!?」 もうこれは間違いないよ。割れる、今年こそあたしの頭蓋骨割れる。 例えるならば生卵の殻みたいに! 「頼むからやめてくれ近藤さん。あんた新年早々こいつに何を吹き込んでんだ?いや、それ以前にストーキングをやめてくれ」 「いやいやお前には言われたかねーぞぉ。お前こそ何やってんだトシぃ、今日が久々の非番だってえのによぉ」 「それとこれと何か関係あんのかよ」と、屯所中のほぼ全員が怯えそうな剣幕でつっかかってくる土方さんを ちらりと見下ろすと、それ以上は相手にもしないで、近藤さんは泰然とした態度で先を歩き出す。 「昨日といい先月の連続爆破事件といい、冬場に入ってからこっち、犯人の目星がつかねえ妙な事件が立て続けだ。 こんな時にお前に倒れられちゃかなわねえ。たまの休みくれーゆっくり身体休めてくれねえと」 「心配いらねえよ。すぐ戻る。こいつが初詣に行きてえっつーから、ついでに足伸ばしただけだ」 「それで休みに隊服着てかぁ?」 「現場に出向くのに私服って訳にもいかねえだろう」 納得いかねえ、って顔で咥え煙草の口端をひん曲げて怒ってる土方さんが、コートのポケットに手を突っ込んだ 不貞腐れた態度でその後を追った。 近藤さんといる時の土方さんって、ちょっと子供っぽく見える。 あの辛辣な皮肉屋ぶりも、何でもおおらかに受け止めてしまう近藤さんの前にあっては形無しだ。 こういうところにこの二人のちょっと不思議な関係性が滲み出てるっていうか、・・・いつ見ても可笑しくなる。 こっそりくすくす笑っていたら、隣を歩いているひとにじろりと尖った視線を投げつけられた。 突き刺さってくる鋭い視線をひょいっとかわして、吹けもしない口笛をひゅーひゅー吹いてごまかす。 違うってば。違いますよー。別に土方さんのことは笑ってませんよー。 今のはちょっとほら、ええと、そう、昨日読んだマンガを思い出して可笑しくなっただけだもんね、ひゅーひゅー。 「あれっ。じゃねーかィ」 そこでまた聞き慣れた声に呼ばれた。 参拝客で混み合った神社の赤い鳥居の隣に建っている、小さめなお店。 店先に並べた縁台が初詣客で埋まっている団子屋さんからだ。 縁台からひょいっと立ち上がった総悟が、どう見ても聞き込み中とは思えない呑気そうな足取りでこっちへ向かってくる。 コートのポケットに突っ込んだ腕には「大阪名物元祖たこ焼き」と書かれた袋が。口には食べかけのみたらし団子の串が。 首元に大きなヘッドフォン。蜂蜜色の前髪にはいつものアイマスクがひっかかっていて、口端からうっすらよだれの跡が。 ・・・ここ数時間のあの子の行動が一目で判る出で立ちだ。 こっちにひらりと手を振った総悟が、姫ィさーん、とすっとぼけた顔でにやにや笑う。 ああ、隣で肩を強張らせてる土方さんの怒りのオーラがどんどん沸騰していくのが怖い。 ぎりっと噛まれた短い煙草がぐしゃっと曲がる。これはやばいよ。結構本気で怒ってるよこのかんじは。 少しでも場の空気を和らげないと。あたしは作り笑顔を引きつらせながら、たたっと総悟に駆け寄った。 「だめだよ新年早々さぼっちゃ。聞き込みにはもう行ったの?」 「まあまあいいから、こっち来なせェ。そこの神社に屋台が出てんだ。行こーぜ」 総悟は目の前に立つなりあたしの手を取った。冷えた細い指が絡まってきてくいっと腕を引かれる。 え、と目を丸くしたあたしを眺めて、色の綺麗な悪戯っぽい目がほんのり笑う。 「え、総悟っ」 繋いだあたしの手をぐいぐい引っ張って、総悟は愉快そうに鼻唄を歌いながら鳥居をくぐっていく。 参拝の順番を待つ行列の両脇には、美味しそうな匂いを放つ屋台がずらりと並んでいた。 「屋台って総悟あんた、聞き込み中でしょ!?」 「何が食いてえんです姫ィさんは」 「何がって、そうじゃなくて仕事は?ねえ、総悟ってばぁ」 「なんでも頼みなせェ。好きなもん奢ってやらぁ」 「林檎飴!!あとねあとねっ、綿飴とクレープと甘酒とじゃがバターとぉぉ」 「待てェェェェェ!!!!」 頭の後ろでドスの利いた怒号が轟く。着物の衿の後ろをわしっと引っ掴まれ、喉が締まって「うぐっ」と呻いた。 一歩も動けなくなったあたしをちら見して、総悟の足もぴたりと止まる。 わざとらしいくらいにゆっくりと、余裕たっぷりなとぼけ顔で振り向いて言った。 「あれっ。何でェ、あんたもいたんですか土方さん。そーいや新年の挨拶がまだでしたねェ。あけましておめでとうごぜーやす」 「挨拶なんざどーでもいい。それより総悟、てめえに訊きてえことがあるんだが」 「何です。つーか正月早々縁起の悪りぃツラして近寄らねーでくれませんかねェ」 「っせえ黙れ。正月早々うっとおしい思いすんのぁお互いさまだ。おい、あれぁ何だ?」 「だからなんです、あれってえのは」 「シラ切ってんじゃねえぞコルァァ。新年早々俺のマヨネーズに激辛わさび仕込みやがったのはてめーだろーがぁぁ!」 「へーぇ、わさびねェ。新年早々ロクでもねえ真似する奴がいたもんですねィ」 ・・・始まった。またこれだ。もう止める気も起きやしない。 あっという間に刀を鞘から抜き払い、ガチッと刃を競り合わせながらいがみ合う二人を白い目で眺める。 「なんだなんだ」「ケンカですってよ」「見ろよあれ真選組じゃねーか」「仲間同士で討ち合いかよ、おっかねえなあ」 「あれ本当に警官かよヤクザじゃねーの」「やーねえ怖いわねえ通報しようかしらぁ」「なにあれぇ、撮影?ドラマの撮影?」 当然と言えば当然な、ひたすらに不名誉なざわつきが、狭い境内にあっというまに広がっていった。 二人を遠巻きに見物している人たちの輪が分厚くなっていく。中にはお正月の見世物と誤解している野次馬さんまでいそうだ。 ・・・すぐ近所で爆破テロがあったばかりだっていうのに。意外と平和っていうか呑気っていうか警戒心が薄いっていうか、 お正月気分をのんびり満喫してるんだなあ市民のみなさんって。ははは、と一人で力無く笑う。 近藤さんもあたしと似たようなことを思っているのか、あーあー、しょーがねーなあこいつらは、とぼやきながら 平然と腕を組んで見物に回っている。これを眺めるのも今年に入ってからはお初、つまりは初物だ。 だからってまったく、さっぱり、今年もこれが見れて嬉しいとか、ラッキー、とか思うようなことは一切ないんだけれど。 なんて諦め半分、呆れ半分の妙に悟った気分で眺めていたら、ポン、と近藤さんの肩に手を置く誰かが背後に。 へ、と二人で間抜けに口を開けて振り向くと、そこには―― 「やれやれ。勘弁してくだせェよ土方さん、参拝客の前で抜刀ですか。他の奴等は真面目に仕事してるってえのに あんた一人のおかげで真選組の好感度は新年早々ガタ落ちですぜ。ったくどーしてくれんでェ」 「・・・ちょっ、総悟っ、土方さん?ねえ、やめてってばぁこんなところで」 「あぁ?そりゃあねーぜ。めでてぇ正月じゃねえか。祝いついでにもっと楽しませろやクソガキぃぃぃ」 「お、おいぃ、トシぃ?総悟ぉ?お前らなあ、少しは場所柄ってもんを」 「いいですぜお相手しやしょう。その代わり、副長の座もも俺に任せて今年こそ心おきなく死んでくだせェ。つーか死ね土方」 「上等だ。今年こそ落とし前つけてやらあぁああ」 「〜〜〜ちょっ、やめてっ、やめてよぉぉ!!」 徐々に迫ってくる野次馬さんたちの人壁を必死で押し返しながらあわてて叫ぶ。 近藤さんは額に汗を流して「すんません、本当にすんませんんん」と、騒ぎに駆けつけた神社の神主さんにぺこぺこ謝ってる。 人混みで周りが見えない。いつのまにか野次馬さんが増えすぎてる。 参拝の列に並んでいた人達まで、騒ぎを聞きつけて集まってきたのだ。 「やーめーてえぇ!初詣中の市民の皆さんが正月早々引きまくってるからぁあ!もっと平和に挨拶できないの、平和に! 普通に新年の挨拶とかないの、ふつーに!」 「何言ってんでぇ姫ィさん。これが俺と土方さんの例年通りの普通で平和な挨拶ですぜ。ねえ土方さん」 「ああその通りだ。どっからどう見たって和やかな新年の挨拶だろーが、普通に鍔迫り合いになってるだけだろーが!」 「バカだ。救いようがないバカだこのひとたちいぃぃぃ!」 どーしてそこまで喧嘩好きなの?つける薬もなければ掛ける言葉もないくらいの喧嘩バカですかあんたたちは!? 新年早々市民の前で、わざわざ警察の恥を晒しにきたんですかこのおまわりさんたちは! もう勝手にしてっ、と諦めて溜め息をつき、「押さないで!危ないですから押さないでくださいぃ!」と 人混みの壁に向かって両腕を広げて呼びかけながら、なんとなく不思議な気がした。 ・・・あれっ。なんだろ。周りの様子が妙に引っかかるっていうか、何かが気になる。なんだろう。 再びきょろきょろと人の壁を見回す。何がどうおかしいのか、そこでやっと気づいてはっとした。 野次馬のみなさんが向けてくる視線の中に、まったく違う種類の視線がちらほら混ざっているのだ。 見てる。社務所前で、集団でおみくじを引いている女の子たちが。晴れ着が綺麗な二人連れの色っぽいお姉さんたちが。 野次馬さんの最前列で屋台のクレープを食べてるギャルっぽい子たちも。臨時雇いのバイトの子らしい巫女さんも。 彼氏と仲良く腕を組んだ、明らかにデート中の振り袖姿のお姉さんに、甘酒片手に野次馬に混ざったおばちゃんたちまで。 見てる。この場に立ち止まった「女の子」と呼ばれる年齢の子たち(と、かつては「女の子」と呼ばれていただろう 微妙なお年頃の女性たち)のほとんど全員がこっちを見ている。 刀で押し合いへし合い、お互いしか目に入っていない総悟と土方さんを 「あの二人なんかかっこよくない?いやでもちょっと変だけど」と、その目に書いてありそうな甘いピンク色の視線で! 「・・・・・〜〜〜っ!」 女の子たちの熱い目線なんてお構いなし、殺気立ってるのに妙に生き生きした顔で総悟に迫る土方さんを 胸の奥をじりじりと焦げつかせながら見つめて。右の野次馬さんたちを見て、左を見て、もう一度右を見て。 あたしは眉間を曇らせて、さっき食べたお汁粉のお餅みたいにぷーっと膨れた。 「鬼の副長」なんて物騒な呼び名以外にも「真選組一の色男」なんて看板も背負ってる土方さん。 その土方さんと競り合うくらいにモテているのは間違いなく総悟。それは屯所の誰もが認めるところだ。 この二人が隊服姿で揃って歩けば、見廻り中だろうと事件現場だろうと、時と場所を選ばず女の子の目を惹くことになる。 まあ、それもいつものことなんだけど。・・・今日はこっちに向いてる視線の数が、いつもよりも心なしか多いような。 しかもなんだか、向けられる視線の熱っぽさがいつもとはちょっと違うような。 ・・・はっ。もしかして。これは、あたしもうっとり見蕩れたこのコートの効果!? てゆうか、まさか、これはあの、・・・・・・・・・・・・・・・・世に言うあれなんじゃないだろーか。 そうだよきっと間違いない。握り拳を震わせ、あうあうあう、ぱくぱくぱく、と何度も口を空回らせてから、 「これぇぇ!!?これなのぉぉ!?これが噂の「制服は三割増」の法則なのぉぉぉ!!!?」 「急にどーしたんでェ姫ィさん」 「土方さんんんんっ」 「ああ?」 怪訝そうに刀を下ろし、ぽかんとこっちを見ている二人の間にズカズカズカと割って入る。 夢中で土方さんに飛びつくと、唐突さに驚いたのかあからさまにぎょっとされた。 それでも二の腕をはしっと掴んで、分厚いコートの袖をやきもきしながら引っ張って、 「これ脱いでください今すぐ脱いで!」 「はぁ?」 呆れ返った土方さんの口がぱかっと開く。短い煙草がぽろっと落ちる。 総悟も唖然としているのか、妙なものを眺めるような顔つきでこっちを見ている。 ああっ、おでこにじわあっと変な汗が。二人に集中していた野次馬さんたちの視線はいまやあたし一点にぴしっと集中、 さっきの土方さんじゃないけれど、興味津々な人の視線って本当に「痛い」んだと実感する。 もうやだ死ぬほど恥ずかしい。顔がかーっと火照って暑くなってきた。でも嫌だ。新年早々からこんな嫉妬でじりじりするなんて ぜったいいや!こうなったらもうヤケだ、あの熱い視線の集中砲火を見逃して我慢するくらいなら いっそ顔から火が出そうなこのこっ恥ずかしさを我慢してやるぅぅ! 「てゆーか脱げ、男なら潔くがばっと脱いでみせやがれ土方ぁぁ!!」 「おい、お前いつからその手の趣味に走った」 「オルァァァ脱げ、さっさと脱げや土方ぁぁ!」 「はぁあ!?ぁんだそりゃ、何で俺が」 「つべこべ言わずに脱げやこっっの女たらし!女の敵いいぃ!なによぉぉところかまわず注目集めちゃってさっ、 いっつもはらはらさせられるあたしの身にもなってみろぉっっボケハゲ変態!バーカバーカ、土方のバーーカ!!」 土方さんのこめかみがぴきぴきと引きつりはじめる。 刀を握った拳がわなわなと震えてきて、何を言い出しやがんだこいつは、とでも叫び出しそうな顔になってきた。 「脱がないならあたしが脱がせてやるっ、身ぐるみひん剥いてやるぅぅぅ!!」 「てっめえええええ、ぁんだコルァ喧嘩売ってんのか!?つーかそれが女が新年早々に神前で野郎に向かって言うことか!?」 「なによ抵抗する気!?いじらしい乙女のささやかなお願いに新年早々逆らう気ですかコノヤロー!!!」 どーしても脱がないなら切ってやるぅぅ! と奪った総悟の刀で斬りかかると、周囲からはなぜか、うぉおお、と妙にテンションの上がった野太いざわめきが。 「脱げぇぇ!」と刀でグイグイ押し、恥ずかしさのあまり涙目で迫るあたし。 「だから何でだ、てか何でお前泣いてんだ!?」と怒鳴って防ぐ一方の土方さん。 ところが数分後、なぜか土方さんが周囲を見回し、何かものすごく面白くないことに出くわしたかのような むっとした顔になる。「くっだらねえ、やめた」と刀を収めて、あたしの顔に戦利品=問題のコートを べしっとぶつける。眉間に皺を寄せ煙草をふかしながらあたしを引きずり、野次馬さんの混雑を脱出した。 「ちっ、新年早々赤っ恥かかせやがって・・・!」 「土方さんが素直に脱いでくれないからじゃん!あたしだってねえ、新年早々あんな大恥かきたくなかったですっっ」 「だからって斬りかかってくる奴が、・・・――ん?おい、そういやどこ行ったんだあいつらは」 「あれっ。どこ行っちゃったんだろ。近藤さんならたしか、このへんで神主さんに叱られて・・・」 気づくと近藤さんと総悟の姿がどこにもない。 しばらく辺りを探し回っていたら、意外なところでその姿を発見した。おみくじや御守りを売っている社務所の中だ。 「――ああ、あの瞳孔開いたチンピラですかィ?あれァうちの上司なんだが、俺が真面目に仕事してるのが 気に食わねーらしくってねェ。なにかってえといちゃもんつけて邪魔してくるんでさァ。まったく困ったもんだぜ」 「えーっそうなんだぁ。あの人のほうが沖田さんより真面目そうに見えるのにぃ。ねぇ?」 「ねえ沖田さんっ、後であの人紹介してもらえませんかぁ?ちょっと怖いけどかっこいいしぃ、話してみたぁーい」 「やめときなせェ、あれァ見た目だけでさァ。中身はやたらと気の短けぇ、危ねー変態マヨラー野郎ですぜ。 姉さんたちは近寄らねえほうがいい、うっかり近寄ると一瞬で孕まされちまうからねィ」 「えぇ〜〜〜っ、やだぁああぁっ、怖ぁぁいいぃ!!」 総悟は土方さんとの初競り合いなんかすっかり忘れてしまったような澄まし顔で、きゃっきゃとはしゃぐ可愛い巫女さんたちに ハーレム状態で囲まれていた。お茶やお菓子なんかを貰いながら、我が家のお茶の間状態で図々しく寝転がっている。 そのすぐ後ろでは、社務所の畳に正座した近藤さんが大きな身体をうんと小さく縮めて 「すんませんすんませんうちのバカどもがすんませんんんん」と、長いお説教中の神主さんに頭をペコペコ下げていた。

「 おおかみさんのふゆやすみ *4 」 text by riliri Caramelization 2011/01/15/ -----------------------------------------------------------------------------------     next