「・・・っだこの服。どんだけボタン付けてんだ、多すぎだろ」 真新しいシャツの衿口を黒のネクタイで締め上げながら、袖口にずらりと並ぶ飾り釦を邪魔そうに睨む。 仮装用に準備されていたスーツ一式――いわゆる執事服というやつらしいのだが、 土方にとってはこれまで全く縁が無かったその洋装ときたら、どれも呆れるほど着付けに手間がかかる代物だった。 これをわざわざ着ようって奴の気が知れねぇ、と自分の姿を見下ろしてみる。 細身で窮屈なシルエットも、装飾が多く気取った雰囲気も、どうも身体に馴染まない。しかし、他に着替えがないのだ。 朝から着ていた隊服はシャツがぐっしょり濡れてしまった。それにいくら馴染まない格好だろうと、汗臭い パンダの着ぐるみよりは遥かにマシだ。胸のあたりにピンタックが並ぶ小洒落たウイングシャツに、 ダークグレーの衿付きベストを重ね着する。さらに黒の燕尾服を羽織り、これで着替えも終わりかと思ったものの、 ・・・甘かった。衣装が入った袋の底には、まだあれこれと残っている。 沖田が付けていたものと同じ懐中時計。燕尾服の胸ポケットに挿す白い布。白い手袋。 他にもネクタイピンらしきものや、どこに付けるものか不明な謎の釦など――小洒落た衣装に合わせてか、装飾品もやたらと多い。 白手袋の片方を目の高さまで摘み上げ、土方は怪訝そうに眉を寄せる。 こんな小道具が必要か?のような若い女を着飾らせるならともかく、野郎の衣服にここまで凝る意味がわからねぇ。 猫 可 愛 が り に も ほ ど が あ る   *3 「つーかこれで着方は合ってんのか・・・? おい武田、そこにいるんだろ。間違ってねぇか確かめ――」 片方の手袋は口に咥え、もう片方は手に嵌めながら厨房との仕切りになっているカーテンを引けば、 そこには携帯電話を手にした猫耳メイドとヘアブラシを手にした赤いドレス姿の金髪オネエが待ち構えていた。 どちらも土方の姿を目にした途端に「きゃあああっ」と叫んで飛びついてきて、げっ、と呻いた土方は思わずじりっと後ずさる。 きゃーきゃーと黄色い声を張り上げる女とオネエ、二人が全身から発する異様なオーラに気圧されたのだ。しかも、どちらも 目の輝き具合が尋常ではない。 「なっっ、てめえら人の着替え覗いてやがったのか!?」 「土方さんんんん!!おねがい写真撮らせてっっ、一枚っっ、一枚だけでいーですからっ。 ちょっとポーズつけてほしいとか目線こっちに下さいとかあたしも一緒に写りたいとか言わないからぁぁっ」 「いや〜〜ん、思ったよりいいじゃな〜い!洋装なんて隊服以外はしたことないって言うからどうなるかと思ったけど、 やっぱり素材がいい男は違うわねぇ〜!初めてにしては様になってるわぁっ」 「お前ら一遍にまくし立てんな!つーか武田てめっ、やめろあんま迫ってくんな!」 ふふふ〜、と怪しく笑いながら迫ってくるゴツいオネエの、上腕筋が浮き上がる逞しい腕を慌てて掴む。 胸の谷間を大胆に見せつける、峰不二子風なホルターネックドレスの女 ――だと思っているのは、 きっと本人だけだろう。実際のところは、厳めしい顔の輪郭を隠すような金髪ロングのウィッグを被り、 ドレスの胸元から分厚い胸筋を覗かせる筋骨隆々なオカマである。 この出店の提案者であり、カフェの一切を取り仕切っている五番隊隊長の武田。こいつが今日の責任者だ。 飲食店として客に食事を提供するには、そこの経営者や従業員が幾つかの資格や免許を保持していることが 条件となるが、その必要な資格全てを取得していたのがこいつだった。何でも「あたし老後にバーを経営するのが夢なの」 だそうで、その老後の夢とやらを実現するための叩き台として、まずはこのコスプレカフェを成功に導きたいらしい。 店のコンセプト、食事のメニュー、食材等の調達、隊士達の役割分担決定、屋台の内装にコスプレ衣装、 運営資金の捻出に予算管理・・・出店準備に関するあれやこれやを、こいつが一人でやってのけてしまった。 おかげで近藤と土方は完全に出店企画にはノータッチ、当日の主導権もこのゴツいオネエに握られているのだが―― 「ちょっと副長、じっとしてよー。ダメよーせっかくおめかししたんだから髪もきれいにセットしなきゃ」 「だからって勝手に弄るな!っっコラおめーもそこで何やってんだ、隠れてこっそり撮ってんじゃねぇ!」 「えーっ、だって近くで撮ると土方さんに携帯没収されちゃいそうだしー」 「判ってんなら撮るんじゃねぇ!」 ヘアブラシを振りかざし迫ってくるデカいオネエと、カーテンの影まで下がってパシャパシャとシャッターを切る女。 苦々しい顔の土方は、二人を怒鳴りつけながら厨房へ出る。それでも武田は引き下がらないし、の方もまだまだ 写真を撮りたいらしい。ちりんちりんと鈴の音を響かせ、土方の後ろをついてくる。コスプレ姿を撮られたくない彼は 追い払うつもりで振り返ってみたが、いざ目を合わせれば「撮っちゃだめ?」とでも言いたげな顔つきの女が、 頭に乗った白い耳をちょこんと傾げて見上げてくるのだ。 ・・・何だ、その甘えた目つきのお強請り顔は。うっかり撫でたくなるだろうが。いや、うっかり撫でるくらいで 済めばまだいい。僅かにでもこれに触れてしまえば、どうせ勝手に手が動くのだ。透きとおりそうなほどに白い こいつの肌に触れたら最後、その柔らかさに誘い込まれてあちらこちらと撫で回したくなるに決まっている。 ところが周りは人目だらけ、目敏いオカマも傍にいる。だってぇのにこいつときたら、人の気も知らねぇで―― 困りきった土方は、を見つめて眉を顰める。何かと鈍い猫耳女は「えーっ、そんな顔するほど嫌なんですかぁ。 いいじゃない写真くらい、土方さんのケチー」と勘違いして膨れていたが。にんまりと笑みを浮かべて二人を 眺めていた武田が、声を潜めて耳打ちしてきた。 「どう、あたしの力作気に入ってくれた?メイクも髪型も今日は少し変えてみたのよ」 「あぁ?どこが少しだ、少しどころじゃねーだろ。今日のてめえは髪型どころか性別が変わっちまってんだろ」 「違うわよ、あたしじゃなくてちゃんよ。どうせ副長の目には普段からあの子しか 映ってないでしょうけど、今日は一段と可愛いでしょ。メイド服も猫耳も新鮮でしょ、見蕩れちゃった?」 「・・・。うっせぇな、放っとけ」 土方はわずかに口籠り、口端をひん曲げたむっとした顔で武田をじろりと睨みつけた。勝手に髪を撫でつけてくる ヘアブラシを、べしっと手荒く叩き落とす。 「あらぁ、見蕩れたことは否定しないのね」 斜め上から見下ろしてくるデカいオネエが、「あたしは全てお見通しよ」とでも言いたげな、 気色の悪い目つきでくすくす笑う。一発殴ってやりたいが、そうすると実はこいつの想像が大当たりだったことを 認めてしまうようで腹立たしい。のメイド服姿を初めて目にした今朝の屯所で、ほんの一瞬ではあるが 彼女しか目に入らなくなくなり、まるで時間が止まったような感覚を味わったことは誰にも秘密だ。 「なに、何の話ですかぁ武田さん。二人でないしょ話?」 「うふふ、気になるわよねぇちゃん!あのね副長ったら」 「お前には関係ねぇ話だ」 小指を立てた手を口許に当てて笑うオネエと何も知らずに笑いかけてくる猫耳メイド、両方に 指を構えてデコピンをかます。「いったあぁいっっ!」と武田が仰け反って絶叫、「痛い痛い痛すぎ!! 割れる、頭割れるうぅぅっっ」と、額を押さえたが泣きわめく。ぷうっと頬を膨らませたは 理不尽なデコピン攻撃がかなり頭にきたらしく、その後しばらくの間べしべしと背中を殴ってきた。 しかしそれでも土方の傍を離れず、涙目でちょこちょこと後ろをついてくるのだ。 常々思っていることだが、こいつのこういったところがどうも遣りにくい。 ・・・畜生、何なんだこいつ。可愛すぎて追い払えねぇ。まるで、苛めてもからかっても 「もっと構って、もっと遊んで」と主人の後を追いかけてくる小犬のようだ。実際付けているのは猫耳だが。 「ねぇ、せっかくだから少し髪型変えてみない?前髪流したらもっと垢抜けたカンジになるわよ」 「いらねぇ、触んな。これ以上弄られてたまるかってんだ」 「あら反抗する気?今日はあたしがこのカフェのママなのよ、大人しく従ってちょうだい」 「どこがカフェだ、二丁目のショーパブの間違いだろ。つーかお前、今日は完全に遊んでやがるな」 「まぁ失礼ね、そんなことないわよ。あたしは責任者として真面目に任務を遂行してるだけ、 ママが店の子たちの身だしなみに気を配るのは当然のことでしょ」 「気を配った結果があれだってぇのか。あんな化け物量産してどうする気だ」 「オーダー入りまーす!」と声を張り上げ厨房に入ってきた猫耳メイドの一人を指せば、 「いいじゃない、枯れ木も山の賑わいって言うでしょう?それに、副長が気に食わなくてもお客さまにはウケてるんだし」 「物珍しさで集まってきただけだろ」 「それもあるけど、それだけじゃないわ。こういうのって男には判らない需要があるのよ」 「見て」と言われて厨房との仕切り口から店内を覗けば、十数席ほどのテーブルが並べられた空間には 女性客の声が華やかに響いていた。 白い薄布で覆われた、天蓋風のテントの中。 警察庁長官の松平公をスポンサーに就けた真選組のカフェは、周囲の屋台とは一味違う本格的な雰囲気だ。 木製のガーデンテーブルを囲む客席、客の目を癒す緑や花。ウッドデッキまで設えたテラス席に、 陽射しを遮る大きなパラソル―― 天蓋越しの自然光に照らされる明るい内装は女性の集客を狙ったもので、 メニューも見た目重視の料理や甘味が並んでいる。客層の九割以上が女性という比率は、 こういった店に興味が無い土方の目にも納得がいった。しかし、そんな店内をうろつく店員たちはといえば、 右を見ても左を見ても、どいつもこいつも骨太な男共が扮したむさ苦しいメイドメイドメイドメイド・・・・・・、 ちりんちりんと鈴を鳴らして練り歩いているそいつらは、彼の目から見れば明らかに異様で見るに堪えない存在だ。 おまけに接客もなっていない。客が訪れるたびに「おかえりなさいませお嬢様ぁぁ!」と、まるで脅しているかのような ドスの効いた大声で出迎える。いや、別に奴等は客を脅そうとしているわけではない。女相手の慣れない客商売に 柄にもなく緊張しているのだ。水一つ出すにも上手くいかず、注文は間違え、転んで食器をぶち割って、 客の前で文字を書こうとしたオムライスには、皿中真っ赤に染まるほどの大量のケチャップをぶちまける―― ・・・何だこの情けないザマは。一体こいつらのどこが、攘夷浪士を震え上がらせる武装警察だというのか。 しばらく店内を観察していた土方は、嘆かわしげにうなだれる。ところがそんな接客を受ける女性客たちの 反応はといえば、意外なことに悪くなかった。奴等がどんなに失敗しても笑って許している彼女たちは、どうやら ここのメイドの存在自体を面白がっているらしい。食事を運んできた奴と楽しそうに談笑したり、 「一枚いいですか」と頼んで一緒に写真を撮ってみたり・・・引ったくり犯には化け物呼ばわりされたメイドの群れも、 ここにいる女達にとってはそれなりに親しめるというか、かなり珍妙ではあっても充分に容認できる存在のようだ。 ・・・武田の説はどうやら当たっているらしい。しかし、これだから女ってのは底が知れねぇ。怖ろしげなものほど 覗いてみたくなるという、お化け屋敷効果ってぇやつか・・・? 「――おうトシ、お疲れさん。聞いたぞ、新人の代役で風船配ってたんだって?」 ぱんっ、と力強く肩を叩かれ振り返れば、身長180センチを超える髭面の猫耳男が笑っていた。 すね毛が生えた足がガニ股気味で、猫耳よりは熊耳が似合いそうなゴツいメイド。サイズが小さいワンピースを 無理やり着込んだ近藤が、食器がカチャカチャと鳴るトレイ片手に尻尾を揺らして通りすぎる。 ・・・今朝から何度か目にしているが、何度目にしてもこのインパクトたるや凄まじい。何度も目にして 慣れるどころか、目にするたびに頭をいきなり鈍器でぶん殴られたくらいのダメージが襲ってきやがる。 何か言いたげな困惑顔で土方がメイドを睨みつける。やがて額を押さえた彼は、がくりと落胆に肩を落とした。 「近藤さん、頼むからその格好やめくれねぇか」 「ん?どうした、うなだれちまって。まさかお前まで熱中症か?」 「違げーよ落ち込んでんだよ・・・ったく、局長が何やってんだ」 「いやいや、今日の俺は局長じゃねえぞ。メイド長の勲子さんだ!」 メイド長とお呼び!とトレイを振り回した近藤が、まるで魔法少女アニメの 変身シーンのようなポーズをキメる。本人はこの格好に抵抗が無いらしく朝からノリノリだったのだが、 土方にとっては目を覆いたくなる光景だ。いや、この店のどこもかしこも、俺にとっては目を覆いたくなる光景ばかりだが。 「勲子だか勲美だか知らねぇがそのガニ股どうにかしろよ。つーかあんたなぁ、判ってんのか? 町内会の祭りとはいえ江戸中の不特定多数が集まってんだぞ、もし警察関係者に知れたら事だろうが。 少しは自分の立場ってもんを」 「まぁまぁ、今日くらいはいいじゃねえか。日頃は物騒で嫌われ者のチンピラ警察も、 市民に混ざって思いきり楽しめるのが祭りの良さってもんだろ」 おどけた口調でそう言うと、近藤は土方の横へ視線を流す。そこにいるのは、 土方の背後で携帯を構えてはパシャパシャと写真を撮っているだ。 なぁ?と含み笑いを浮かべた顔に尋ねられ、言葉に詰まった土方は不自然なほど遠くへ視線を逸らした。 「・・・にしたってあんたはやりすぎだ、その格好で場内うろつくんじゃねーぞ」 「わかってるわかってる!今日の俺はメイド長だからな、売上達成するまではきっちり働くから安心しろ」 「すみませーん、注文お願いしまーす」 「おう、今行く・・・じゃねーや、はーいただいまー!」 女の声が店から届き、近藤はばたばたとガニ股気味に出て行った。 「近藤さんたら張りきってるわねぇ。でもさぁ、ここに志村の姐御が来ちゃったらどうするのかしら」 ふふふ、と真っ赤に塗った口元を手で覆って笑う武田の頭を、土方が後ろから一発殴る。 「いったぁい!」と悲鳴を上げた金髪オネエは頭を抱えてしゃがみ込んだが、 ――何を他人事みてぇに笑ってやがんだ、この野郎。今日の衣装を用意したのはお前だろうが。 「もう、ウィッグがズレちゃったじゃない!いきなり殴るのやめてよっ、口より先に暴力奮う男ってどうかと思うわっ」 「おい、どういうこった。お前の企画書じゃ、確か近藤さんと俺が同じ衣装になってたはずだが」 「そこ?今更そこを怒ってたの!?〜〜あのねぇ、確かにそうなんだけど、発注の時に業者と 行き違いがあったみたいなのよ。注文した執事服が二人分足りなくて、代わりにメイド服が2着多く入ってたの」 「2着?」 「そうよ2着よ。近藤さんが着てるあれと、もう一着は――」 言いかけた武田が、ああ、と気付いたように視線を流す。 仕切り口のカーテンをばっと押し上げ、近藤に負けないほどガタイのいいメイドがやって来た。 「――おーいてめぇら、オーダー入るぞー。パンケーキにチーズケーキ、コーヒーにアイスミントティー」 ツルツルのスキンヘッドに猫耳カチューシャ、という何とも斬新なスタイルの男が、 大股でスタスタと彼等の横を通過していき、愕然として声も無い土方がその姿を目で追う。 ういーっす!と声を揃える厨房スタッフを前にしてオーダー票を読み上げていくのは、十番隊隊長の原田だ。 注文を伝えると出来上がったパスタだのドリンクだのをトレイに乗せてきびきびと働く彼の様子は、普段と何ら変わりない。 女装姿も猫耳も全く気にしていないらしいその態度は、服装に似合わず男らしいが―― 「おっ、おい原田。何もお前まで局長に合わせるこたぁねぇんだぞ・・・!?」 「いやぁ、これも祭りの余興と思えばどうってこたぁねーです。それにこの格好で写真撮って 彼女に送ったら、意外とウケたし」 けろりとした調子で言い切られ、ハートやら笑顔やらの絵文字が随所に入ったメールを見せられた。 『猫耳可愛いですね!私も見に行きたかったです、お仕事頑張ってくださいね』 「猫耳可愛い」の文字に土方の目が釘付けになり、横から覗き込んだ武田が「あら、あの眼鏡美人さんて 意外と可愛いメール送ってくるのね。やーねぇ相変わらずラブラブじゃない」と羨望のまなざしで文面を眺める。 可愛い?このいかつい猫耳タコ坊主が可愛いだと?――いや、人の女の趣味嗜好をとやかく言うつもりはねぇんだが―― 「すげえなお前の女。猫耳如きじゃ動じてねぇな・・・」 「はぁ、そーっすね。年のわりに大人で理解があるっつうか、俺には勿体ねーくらいの出来た子なんで」 「・・・お、おう、何つーかあれだ、その、き、肝が据わった女で良かったな」 多少変わった趣味のようだが、という余計な一言は飲み込んで、堂々と惚気てみせたスキンヘッドの猫耳男を 複雑な表情で見送る。すると、背後で「うおおおーーー!」と野太い声の大合唱が湧き起こった。 見れば武田が厨房に詰めている調理担当の隊士たち全員を集め、テンションの高い叱咤激励をかましていて―― 「聞きなさい野郎ども!今日はあたしがこの店のママ、あんたたちクソの役にもに立たないウジ虫どもの司令官よ。 あたしからの命令は絶対だと肝に命じなさい!その1、何を置いても衛生管理は徹底すること!いいわね!」 「イエッサー、マム!」 「命令に背く奴が一人でも出たら連帯責任、これなら死んだほうがマシだと××××チビって後悔するような ファッキ××××な拷問が待ってるわよ。もし食中毒なんて起こしてみなさい、 あんたたち全員の×××××××なケツの穴に×××××を×××してブチ込むからね! さあ戦闘再開よ、売上目標達成目指して死ぬ気で働きなさいブタ野郎ども!」 「サー、イエッサー、マム!!」 「・・・何がメイドカフェだ、どこぞの陸軍特殊部隊の間違いだろ」 うおおおー!と菜箸やらおたまやらフライ返しやらを各々振り上げた隊士たちの雄叫びが、厨房に轟く。 そもそもメイドカフェなるものにママはいるのか、という根本的な疑問を土方が思い浮かべたあたりで、 メイド役の隊士がワンピースの裾を持ち上げ猛ダッシュで厨房に戻ってきた。慌てた様子のその男は土方の姿を見つけると、 「副長大変ですっ、沖田隊長がレジから売上金抜き出してます!」 「はぁ!?〜〜っっだとあの野郎ぉぉぉ!」 すぐさま店に飛び出てみたもののすでに遅く、ウサ耳小僧はとっくに店の外だった。 レジから拝借した軍資金を何に使おうかと考えているのか、近くの射的屋だの金魚掬いの屋台だのを きょろきょろと眺めながら歩いている。「総悟ぉぉぉ!」と怒鳴ってみればシルクハットを被った頭が振り向いたが、 レジからくすねた一万円札をヒラヒラと振り、馬鹿にしきった顔でくすりと笑う。「それじゃあ土方さん、 俺の分までせいぜい身を粉にして働いてくだせェ」と言い残すが早いが、祭り会場を行き交う町民たちの中に ふらりと紛れ込むようにして消えてしまった。 しまった、着替え云々に気を取られすぎた。局内一素行の悪い馬鹿ウサギをうっかり野放しにしちまった・・・! 「何が身を粉にしてだふざけやがって!あっっの悪ガキが、戻ってきたらウサ耳ごと厨房の大鍋で煮込んでやる・・・!」 うぐぐぐぐ、と怒りを噛みしめ拳を握り締める土方の元に、騒ぎを聞きつけた近藤と、 偵察任務で女装慣れしているためか、妙に板に着いたメイド姿の山崎が寄ってくる。 メイド三人は「じきにこうなると思ってた」と言わんばかりな顔で祭りの雑踏を眺めながら、 「あーあー、逃げちまったなぁ総悟の奴」 「祭りなのに遊べないからつまんないって、昼頃から不貞腐れてましたからねー」 「朝からずっと客の相手させられてたから、飽きちゃったんでしょーね。まぁ、沖田さんにしては 真面目に働いたほうじゃないですか」 「うんうん、だよなぁ。うん頑張った、頑張ったよなぁ総悟にしては」 「ですよねー、総悟偉ーい」 「〜〜てめえら揃いも揃ってあいつに甘すぎだ!だからあの馬鹿がつけ上がるんだろーが!」 うんうんうん、とメイドたちがこくこく頷き、こめかみにびしっと青筋を浮かべた土方が、 持っていた手袋をべしっと地面に叩きつける。そんな四人の背後の店では 「おかえりなさいませお嬢さまあぁぁぁ!」と、新たなお客を迎えた猫耳男たちの唸るような大声が響いていた。

「 猫可愛がりにもほどがある #3 」 text by riliri Caramelization 2015/05/23/ -----------------------------------------------------------------------------------       next →