※一部微えろ注意です。 ↓

似 て る 二 人 の 楽 園 協 定  *3

「〜〜〜ぅ、わ、っっきゃあっ!」 「!!」 「!」 動かなくなったオールをお腹で受け止めてしまったせいで、薙ぎ払われるみたいにしてボートから落ちた。 ぼちゃぁああんっっ、と水音が跳ねる。 全身をいきなり呑み込んだ冷たさと水音の大きさにびっくりして、咄嗟に身体を丸める。思わずぎゅっと目を閉じた。 身体が水路の底へと引きずり込まれていく。どうにかバランスを取ろうともがきながら、息苦しくて喉を抑えた。 喉と鼻がつーんとする。落ちたときに水を飲んでしまったみたいで、喉からかすかな消毒液の匂いが上がってくる。 冷たい感触で塞がれた耳にわずかに入ってくるのは、水を隔てて届く歪んだ声。 それと、あたしが吐いた息が泡を作ってごぼごぼと浮上していく音。感じ取れるのはそれだけで、 水上の物音は何ひとつ聞こえない。落ちた時にきつく閉じたまぶたを、おそるおそる、ゆっくりと開く。 勢いよく落ちたせいでわりと深く沈んだそこは、マングローブを模した木々の根がぐにゃぐにゃと蔓延っている。 この根の影になっているから、光はほとんど届かない。視界が良好とはいえないけれど、 ・・・でも、それ以外はわりと平気だ。水は少ししか飲まなかったし。 (ええと・・・そんなに深く沈んでないよね・・・?) 水の流れに浚われて広がる髪を抑えながら、濃い緑色がゆらゆら浮いてる明るい水面を見上げる。 真上には、通過していく二隻のボートの底が見える。 川岸ではボートのオールが一本、林の根元に突き刺さってふらふらと水に揺れられていた。 ・・・オールが突然動かなくなった原因って、あれだったんだ。 妙に冷静に納得して、曲がりくねった木の根を強めに蹴る。その勢いに任せて浮上して、 水面を目指そうとしたら―― (・・・?あれっ・・・・・・・・・・?) 上がりたいのに上がれない。どーなってるの、これ。 困ったあたしは立ち泳ぎの要領でがむしゃらに水を蹴った。 それでも上がれない。いくら頑張っても、身体がちっとも浮き上がっていかない。 そのうちに、パーカーの首のあたりを後ろから何かに引っ張られてることに気付いて。 振り返ると、――とんでもない非常事態が起きていた。ううっ、と唇を噛んで青ざめる。 ・・・どうしよう。パーカーのフードに通った紐の端が、がっちり絡みついてる。 本物をリアルに再現したマングローブの林の、複雑に入り組んだ根の中に・・・! これを脱がないと水面に出れない。咄嗟に判断して、あたふたしながらパーカーから腕を引きぬこうとする。 だけど濡れたパーカーは重たくて肌から剥がれないし、水中では思うように身動きもとれない。 じきに息が苦しくなってきて、ごぼっっ、と大きく息を吐いてしまった。苦しさに顔を歪めながら 焦って腕を引きぬこうとしているうちに―― (・・・・・っ!?) 頭上が影で真っ暗になった。えっ、と思う間もなく背後から抱きつかれる。 ビキニの胸を押し潰すようにして回された誰かの腕を、あっけにとられて見つめる。背後から伸びてきた もう一本の腕が、マングローブの根に絡まって揺れていた紐を掴む。ぐいっ、と容易く引き抜いてしまった。 喉をきつく締めつけられているような息苦しさに喘ぎながら、あたしは必死でその腕に縋った。 腰をしっかりと抱きしめられて、水流に逆らいながら浮上する。 だんだん視界が明るくなっていく。小さな波紋を輝かせながら揺らめく水面は、きらきらとまぶしさを増していって―― 「――!」 ばしゃっ、と水面を割って顔を上げたとたんに、緊迫した怒鳴り声が。 大きく口を開けて息を吸い込んで、けほけほとむせる。心臓がどくどくと鳴りっぱなしで苦しいけど、 煩いくらいに鼓動が身体に響くことと、周りの音がちゃんと耳に届くことに安心した。 ぱし、と頬を軽く打たれて、 「意識はあるな。・・・おい、大丈夫か」 「ぅ、・・・・・うん、っ・・・・・」 力なく頷いた後は、ぜんぜん息が続かなくて。はぁはぁと呼吸を荒げてぐったりしていると、 水路に飛び込んで溺れかけたあたしを助けてくれたひと――土方さんは岸へ向かって、 水中から引き上げてくれた。 マングローブの林の対岸。水路をボートで通り過ぎていくひとたちは、みんな驚いた顔でこっちを見てる。 人目が気になったのか、土方さんはあたしを抱き上げてさらにその奥へ進んだ。 熱帯雨林風のセットの一部になってる、大きな木の陰。人工芝の緑で覆われたそこに下ろされて、 しばらく横になっていたら、呼吸もどうにか落ち着いてきた。 ようやく起き上がれる状態になってふうっと安心の溜め息をついたら、それまではどことなく不安げに、 唇を噛みしめてあたしの様子を窺っていたひとが急に表情を変える。 待ちかねたとばかりに、がつん、と拳を振り下ろされて。 「い、っったぁあい!」 「何をうっかり死にかけてんだてめえは!!」 頭を痺れさせる重ーーーい衝撃に耐えて顔を上げたら、案の定、頭のてっぺんから ずぶ濡れになった土方さんにすごい剣幕で怒鳴られた。うわっ、と急な大声に反射的に耳を抑えて、 ふと土方さんの手に目が留まる。 あたしを殴った拳はきつく握られたまま。小刻みに震えるほど力んだ腕には、血管の筋が浮き上がってる。 「人騒がせにも程があんだろ馬鹿野郎!そもそもだ、てめーには注意力ってもんが・・・!」 身体に響く重低音のお説教にひたすらこくこく頷きながら、あたしはこっそり苦笑いした。 ぽりぽりと頬を掻いて、上目遣いに土方さんを見上げる。 水に沈んでたのは、そんなに長い時間じゃなかったと思うんだけどな。・・・なのに、こんなに心配させちゃったんだ。 「あはは、ご、ごめんなさいぃ・・・・・・。 こんなところでうっかり死んじゃうなんてちっとも笑えないですよねぇ?やだなぁもう、あはははは」 「たりめえだ、笑ってどーする。つーか死にかけたばかりの奴がへらへらしてんじゃねえ!」 土方さんはもう呆れきったと言わんばかりに長い長い溜め息をついて、どかっと目の前に腰を下ろす。 「ったくてめえは・・・!」ともどかしそうに唸ると、透明な雫を顔に滴らせてくる 前髪をひどく邪魔そうに掻き上げる。 長い指がざっと前髪を押し上げると、普段は黒髪の影に隠れている額が見えて、――どきっとした。 ・・・困ったなぁ。 苦しいくらい鳴りっぱなしだった心臓が、さっきまでとは違う柔らかい響きでとくとくと弾み出す。 髪型がほんの少し違ってるだけなのに、なぜか視線を釘付けにされてしまう。 ぽーっと頬を染めてみとれてしまう。 今の土方さん、なんだか別の人みたい。髪や身体が濡れてるせいなのかな。 それとも、普段は半分隠れている切れ長の目がはっきり見えるせいなのかな。もっと大人の男のひとみたい―― 「いつまで呆けた面してんだ・・・?まさかお前、今のあれで頭ん中まで水浸しになってんじゃねえだろな」 「〜〜〜っ。違うぅっっ。入ってませんよ水なんて!ていうか、そんなことになるわけないしっ」 「いや。お前のスッカスカで軽い頭なら、その手のふざけた事態に陥っても不思議はねぇ」 「ちょっとぉぉ!人の頭をスポンジで出来てるみたいに言わないでくださいよっっ」 眉間を曇らせたひとに真顔で断言されたけど、濡れた髪をぶんぶん振って否定する。 飛ばした水飛沫を涼しい顔して避けながら、土方さんがずっしり重くなったパーカーを掴む。 あたしの肩からずるりとそれを引き下ろして、 「ここまで濡れちまったら使えねえな。・・・・・・仕様がねぇ、売店で何か買ってやる」 パーカーを腕から引き抜きながらそう言われて。 この暑すぎる羽織りものを邪魔に思ってたあたしの頬は、不満でぷーっと盛大に膨れた。 「えぇー!やだー、もう何も着たくないー。ここ暑いし、着てるだけで邪魔なのにぃ」 「うっせえ。俺が出すって言ってんだ、黙って着てろ」 「なにそれっ、あたしは別に買ってほしいなんて言ってないもんっ。なのに黙って着てろなんて、横暴ですよそんなのっっ」 「・・・・・・・・・・・・ったく。てめえは・・・!」 さっき口にしたのと同じせりふを、怒りをこらえた低い声が繰り返す。 勢いよく顔を上げたひとと視線がばちっと合った瞬間、パーカーを脱がされた肩をわしっと掴まれる。 そのまま後ろの木の幹に、どんっ、と身体ごと押しつけられた。 無言で迫ってくる顔は、こみ上げる苛立ちを噛みしめてこらえてるような表情だ。あたしはごくりと息を詰めて―― 「〜〜〜う、うそっ、今のうそっ!ややややだなぁっ冗談ですよ冗談っっ」 「・・・・・・」 目元を引きつらせながら笑っても、眉を急角度に吊り上げた険しい目つきに睨まれるだけ。 威圧感たっぷりな重たい無言が返ってくるだけだ。 ・・・や、ヤバいかも。土方さんのこめかみの青筋、今にもブチっとはち切れそう。どうしよう、 これは相当に相当なときの顔だ。思い出しただけで背筋が凍るこれまでの経験が次々と浮かんできて、 もう身体の震えが止まらない。顔はガチガチに強張ってるし、条件反射で涙目になってるし・・・! 「ききっ着ますっ、着ますよ何でもっ!土方さんの命令なら何でも着ますっっ、 パーカーでもジャージでもドテラでも着ぐるみでも宇宙飛行士の遊泳服でもっっ」 「・・・・・判った」 「えっ」 「そこまで着たくねえんなら仕様がねぇ」 「・・・!ほんとに?いいんですかぁ?」 「ああ。・・・なら、人前で脱げねぇようにするまでだ」 「・・・・・・な、なんですかぁ、それ・・・?」 意味が解らなくて尋ねたら、土方さんは挑発的で毒気たっぷりな薄笑いを唇の端に浮かべる。 前髪を上げているせいで普段とは少し違ってみえるその顔に、またどきっとさせられてしまった。 ・・・困ったなぁ。やっぱり、なんだか変なかんじだ。 見れば見るほどどきどきしてしまう。土方さんだけど、土方さんじゃないみたい。 それだけでも困るのに――水着姿の土方さんなんて珍しいものを見るのも、初めてで。 おかげで視線がうろうろしてしまう。どこを取っても見慣れない。 こうして二人きりになってしまうと、普段は暗い中でしか目にすることがない引き締まった上半身や、 服を着ているときはわからない腕の逞しさや、鍛え上げられた身体つきがやたらと目についちゃうし。それに、 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、あたしも当然、パーカーの下は水着だし。 下着程度の面積しかないブラとショーツ以外は、隠しようもない姿だし、・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・〜〜〜〜〜〜っっ!!」 しゅううっ、と煙が出そうなくらいに頭が芯から熱くなる。脱ぎかけた パーカーの衿をあわてて掴んで、おろおろと肩まで引き上げる。 ・・・ああ、やってしまった。うっかり溺れたりするんじゃなかった。 どうしてこんな誰もいないところで、二人きりになっちゃったんだろう。 旦那たちが一緒で賑やかだった時は、こんなこと意識しなくて済んだのに・・・! 「・・・判ってんのかお前。いや、どーせ判ってねぇんだろ」 「えっ、な、何が・・・っっ!?」 今ここで目を合わせるのは恥ずかしいなぁ、・・・なんて思いながら顔を上げたら、 いつの間にか距離を縮められていて。肩を掴んでいた土方さんの指にわずかな力が籠もる。 怒った顔でこっちをじっと見つめるひとに、覆いかぶさるような姿勢で迫られた。 唐突な近さに驚いてびくんと身体を竦めた、その時だった。幹に押しつけられていたあたしの肩に、 土方さんは躊躇なく顔を寄せた。戸惑う間もなく熱い感触が触れてきて、濡れた肌にざらりと、 尖らせた舌先を押しつけられて。ちくっ、と肌を刺さすみたいに強く吸いつかれて―― 「〜〜〜っひ、っっ!!?」 「――よし。これで脱ごうにも脱げねえな」 「よっ、よしって何が、・・・・・っっ!?」 ちゅっ、ときつめに吸われたせいで、唇が離れたそこには血が集まったような赤いしるしがぽつんと残った。 やけに目立って見えるその痕にびっくりしているうちに、土方さんの手が水着のブラに掛けられて。 「〜〜〜やだっ、な、ひゃ・・・っ!」 男のひとの長い指がカップの上端に食い込んできた。胸の膨らみに直に当たった指の熱さに、身体中がびくんと震える。 それだけでも仰天して泣きそうになってしまったのに、図太い土方さんはそこから覗いた柔らかいところに すかさず顔を近づけた。 ブラで覆われていたところに、急に降ってきた唇の感触。素肌をふっと掠める吐息。 肌をぬるりと舐め上げる舌先を「熱い」って感じた瞬間に、肌にぞくぞくと震えが走って―― 「〜〜〜〜〜〜〜ん、んんっ」 涙のしずくが溜まった目をぎゅっと閉じて、背中を突き抜けた感覚をこらえながら腰を捩る。 両手で抑えた唇を噛みしめて声をこらえる。それだけでも必死で精一杯だったのに、 気付いたらあたしの身体は土方さんの脚の上まで抱き寄せられていて、しっとり濡れたままの 胸からお腹がぴったりと隙間なく触れ合っていた。 そのおかげで全身がかぁっと火照ってくる。なっっ。なにこれっ・・・! 「なっっ、ななななななっっ、んぎゃああああああ!」 「・・・あんだそりゃ。色気のねぇ声出しやがって・・・」 「だっ、誰がその色気のない声出させてるんで・・・ってぎゃあああっっ、どっっ、どこ触っ!!」 あたしの口答えであからさまにむっとした土方さんは、首の後ろに素早く手を伸ばしてきた。 止める間もなく、うなじのあたりでリボン状に結ばれたブラの紐をぐいっと引っ張る。しゅるん、と解く。 途端にブラが胸からはらりと落ちそうになって、 「ひぇぁあぅあぁあああ!!ななっっ、な、なにすっっ」 「俺がお前に触ってどこが悪りぃ。万事屋の野郎には堂々触らせてやがったじゃねえか」 「なにを悪質な痴漢の言い訳みたいなこと言ってるんですかぁ!てゆーかそんなに堂々と開き直るなぁああ!! それに旦那は触っただけですっ。こ、こんな、紐を解いたりなんか・・・・・〜〜ゃ、ちちちょっ、っっ!」 両腕で胸を覆うようにしてブラを押さえたその隙に、今度は鎖骨のくぼみにきつく吸いつかれた。 びぃびぃ泣き叫んで、肩を押し返して抵抗したけど、 ――もちろんそんなことをしたって何の意味もないっていうか、腕力の差がありすぎるせいで悲しいくらいに無駄だった・・・! 「ひ、土方さぁ、っ。ゃ、やめっ・・・、んっ・・・!」 何でこんなことに、と、こんなところで何を、っていう二つの疑問が頭の中で交差しながら渦巻いてる。 肌をなぞるようにして動いていく唇に吸いつかれるたびに身体が熱くなって、びくんと跳ねそうになる背中を 丸めて息を詰める。そのたびに土方さんが見透かしたような目を向けてくるから、猛烈な恥ずかしさで身体中が沸騰しそうだ。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜だ、だってだってだって、だって!! こんなに近くで、こんなにぴったりと肌と肌を重ねた状態で、しかも、ブラを外されかけたこの格好で 水着姿の土方さんを目にしたら――、 ――万事屋の旦那がへらへら笑いながら口走ってた言葉が、なぜか頭に浮かんでくる。 飄々としてとぼけきってるあの口調が、なぜか大音響でリピートされる。 『水着ってやっぱ裸同然だよなーいやこれやべーわえっろいわー』 ・・・・・・・旦那の言う通りだ。やばすぎてどうしたらいいのかわかんない。もうお互いの姿が裸同然にしか思えないよ・・・! 「――冗談じゃねえ」 ちっ、と歯痒そうに舌打ちしたひとは、肌がほとんど露わになったあたしの身体を見つめてる。 きつく細めた目で、睨むようにして。 「何でこんなもんを、あの野郎に見せてやらなきゃなんねーんだ」 「・・・っ」 耳をいっぱいにしたその響きもすごく不愉快そうなのに、なぜか胸が詰まってどきどきした。 どうしようもなく嬉しくなった。 ほんの数秒前までは泣き叫んでいたことも忘れてしまって、涙目で土方さんを見つめる。 だって今の「あの野郎」って、・・・万事屋の旦那のことだよね?ていうことは、つまり、 ・・・・・・・・やっぱり、猿飛さんの言ってたことが正しかったのかなぁ・・・・? ボートから落ちる前に言われたことが、ぼーっとして何も考えられない頭の隅にぽわぁんと浮かんで。 「・・・・・・・・・・・いや、だった・・・・・・?」 「――あぁ?」 「そんなに、見せたくなかったの・・・?えぇと、・・・・・ぁ、あの、・・・・・・っ」 あたしの水着姿を、――なんて口にしたら、恥ずかしさで頭に血が昇って倒れちゃいそうだ。 唇をぱくぱくさせて口籠っていたら、――あたしが言いたがってることに気付いたみたい。 土方さんはもどかしそうに顔を歪めた。 柔らかな人工芝が繁る青々とした床に、歯痒そうな色を浮かべた切れ長な目がすっと視線を流して。 あたしの目をまっすぐに睨み据えて―― 「・・・だったら悪りぃか」 投げやりに低くつぶやくと、きまり悪そうに目を逸らす。 不貞腐れたみたいに口を引き結んでるうつむき気味な表情に、あたしはここがどこなのかも忘れてぼうっと見蕩れた。 恥ずかしさに頬を熱くして、それでもとろんと蕩けた目で見つめていたら、 今度は顎を持ち上げられた。あ、とつぶやいた時には、もう唇と唇が触れ合っていて。 遊ぶように、啄むように、ちゅ、と短く吸いつかれる。 繰り返し何度も吸いつかれて、ゆっくりと髪を撫でられる。そのたびに、しっかり抱き寄せられた身体が甘く痺れる。 紐を解かれたブラごと胸を抑えてる両腕が、かすかに震える。 こんなところで、こんな格好でキスしてることにどきどきして、すごく恥ずかしくて。でも、拒む気になんてなれなくて―― 「・・・」 「・・・ひ・・じか・・・・・さ・・・っ。・・・・・・・・・んふ、ぅ・・・・・・」 囁くように呼びながら唇を割って入り込んできた熱を、掠れた声で呼び返しながら受け止める。 口の中で絡みついてくる濡れた感触が、いつになく優しく撫でてくれるのが嬉しかった。 「――Tシャツでも買ってきてやる。お前はここで休んでろ」 「・・・ぅ。うん・・・」 長く重ねられていた熱が、名残惜しげに少しずつ離れていく。 わずかに唇を離したひとと目が合えば、その顔はもう怒ってなんていなかった。 さっきまでの不機嫌さはどこに行ったんだろう。そんなことを思っちゃうくらいに熱を帯びた目で見つめられて、 肩や頭を撫でられた。ふっ、と穏やかに苦笑した土方さんがまた顔を寄せてくる。 どきっとして肩を竦めたら、今度はおでこにそっと唇を落とされた。 泣いた子供を宥めるような触れるだけのキスは、気持ちいいのと同じくらいくすぐったい。 これだけで身体が小さく震えてしまう。 濡れて冷めかけていた肌が急速に熱くなっていくのを感じながら、あたしはおずおずと唇を開いた。 「・・・だ、・・・・・だめっ。はやく戻らないと・・・っ」 「――・・・・・・・・あぁ?」 「だって・・・万事屋の旦那が待ってるし。だから、あの、・・・きっとこのコースの最後で 待たせちゃってると思うし。ほ、ほら、旦那も土方さんと同じで気が短そうだしっ」 「・・・・・・んだとコルぁあああ」 「えっ。え、ええっ、ちょ、痛っ、痛いですってば土方さっ」 あわてて胸を押し返そうとした手を、意地の悪い笑みを深めたひとが馬鹿力を籠めて握り返す。 妙に凄んだ低い声で、くっっ、と笑う。 な。・・・・・何で? ぱちぱちと瞬きして驚いてるあたしを、土方さんは殺気立った笑顔で見据える。ぎりっ、と 音がしそうなくらいに歯を噛みしめて、 「おいィィィ、いい度胸だなてっめえええ。んな時に野郎の名前なんざ出しやがって・・・!」 「・・・・な、ひ、土方さぁん?何で怒っ・・・・・・・・・・〜〜〜〜っっぎゃあぁぁあああっっ!!?」 ――結局、そのまま人工芝にどさっと押し倒されてしまった。 その後はもう散々だった。 変なところで大人げのない土方さんは、そこであたしに思う存分「大人げのないお仕置き」をしてくれた。 人目が届かない木の陰で誰も来ないのをいいことに、あの濡れたパーカーを使って腕をしっかり縛られた。 それでも脚で蹴って抵抗しようとするあたしの動きを巧みに封じながら、上半身のあらゆるところにキスをする。 すぐに人目につきそうなところにも、とても人には見せられないようなところにも。 幾つも幾つも、嫌がらせみたいに吸いつかれて。おかげで肌のあちこちに生々しい赤い痕を刻まれた。 「――さすがに脚まで隠したんじゃ不自然だからな。 安心しろ、下半身には残さねぇ。まぁせめてもの情けってやつだ」 なんて、どこにも情けなんてものは感じられないふてぶてしい表情で言ってたけど―― 「・・・ふぇえええええっっ〜〜〜〜〜。も、やだぁっ、もう絶対土方さんの前で水着なんて着ないぃっっ。 ・・・・・・って、やぁ、そんな、とこ、だめぇ・・・・っ、んん〜〜〜っ!」 泣きじゃくりながら喘ぐあたしの情けない声は、ボートの水路から届く楽しげな声と水音にしっかり掻き消されていた。

「 似てる二人の楽園協定 *3 」 text by riliri Caramelization 2013/05/05/ ----------------------------------------------------------------------------------- 今年もおめでとうおめでとう!!!        next