片恋方程式。 31
「ねえおじちゃん。それってそんなにおいしいの?美代にもひとくち飲ませてよー」 指に挟んだお子様ランチの旗をくるくると回しながら、美代は土方を覗き込んでいた。 土方が頼んだコーヒーをウエイトレスが運んできてからというもの、幼い少女はそれを飽きることなく、 興味津々に見入っている。昼食に入った百貨店のレストランは、最上階だけあって 窓からの眺めも良い。青空とビル群を映した窓が一面に並んだ店内は、明るく光に溢れている。 フロアも広く、居心地はよかった。背後に響くのは音量を押さえたBGMと、音を立てずにテーブルの間を行き交う ウエイトレスたちの気配。たまに近くに座る子供連れの客のくつろいだ笑い声が耳を掠める。視線を戻せば、 お互いの食事を分けあっている少女とが目に入った。 土方は椅子の背にもたれかかり、深々とした息を吐く。満腹感もあってか、表情まで自然と緩んでいた。 ガキが二人もいるせいか。それとも、向かいに座るの楽しそうな表情に当てられたせいか。 座っているだけで欠伸のひとつも湧いてきそうな、えらく呑気な気分になってくる。 平日だけあってこの店の混雑もそれほどではない。四人はすぐに窓際の席に案内された。席についてしばらくは、 子供たちは慣れないレストランの風景にきょろきょろと視線を彷徨わせていたが、食事が運ばれてからは 周囲の様子を気にすることもなくなった。初めてのお子様ランチにはしゃぐ美代を見つめて、向かいに座る 兄の爽太まで嬉しげだ。そんな兄妹の姿が微笑ましいのか、は笑顔を絶やさない。 とりとめなく続く美代の話に、面白そうに耳を傾けていた。階下で見てきた売り場の話や、爽太のリハビリの話。 小児病棟で仲良くなった友達の話。兄妹を世話してくれている病院の職員たちの話。 取調べでは驚くほど正確な記憶力を発揮した幼い少女は、なかなかの話し上手でもあるようだ。 口を挟まず食事に専念していた土方でも、つい話に惹き込まれ、耳をそばだててしまうものがあった。 「美代はね、コーヒーってまだ飲んだことないんだよ。病院でも大人のひとはみんな飲んでるから、 いっぺん飲んでみたかったのー」 好奇心に満ちた黒目がちな目はコーヒーカップに釘付けになったままだ。土方がソーサーにカップを戻すと チャンスだと思ったのか、小さな手をそろそろと伸ばしていったのだが。寸でのところで カップをひょいと持ちあげられる。 煙草を挟んだ指の長い手を美代は恨めしげに眺めた。 「おじちゃんのけちー」とテーブルの下で足をばたつかせながら文句を言うと、 「お前にはまだ早えぇ。こういうもんはな、ガキのうちは味が判らねえもんだ」 「そんなことありませんよ。どんなに小さい子供でも土方さんよりは味が判りますよ」 とろりとした半熟の卵で包まれたオムライスを口に運びながら、が呆れきった顔をする。 土方の手許を不気味そうにじとーっと眺め、口に咥えたスプーンを何か言いたげに噛みしめた。 あのカップの中身はたしかにコーヒーなのだが、ウエイトレスに運ばれてきた時と比べれば見る影もない。 白いカップの縁からはみ出さんばかりにこんもりと、彼の食卓には欠かせない例の調味料が渦巻いているのだ。 「ここまでコーヒーの味を冒涜したトッピングなんて見たことないです。ていうかさっきから回りの目線が痛いです。 恥ずかしすぎてすっかり食欲なくなっちゃいましたよ。どーしてくれるんですかぁぁ」 などと言いながら不自然なまでににっこりと笑い、はテーブルに手を伸ばした。 端に置かれていた注文伝票を、ちょん、と指先で押さえると、 その手が土方の前までつーっと滑ってくる。伝票を置き去りにして引っ込んだ。 「ていうことで土方さん、ここは迷惑料として土方さんの奢りでお願いします」 「おいコラ。何をさりげに寄越してんだ。何が「ていうことで」だ。 お前、話の流れを無理矢理俺の奢りに持ってきてえだけじゃねえか」 「えぇええ。そんなことないですよー。今のはほんの冗談ですからぁ。 お忙しい副長のたまのお休みにここまで付き合ってもらったんだし、お昼代もあたしが払いますってばぁ」 「んだとコルぁ。今まで全部自分が財布出してきたみてーな言い方すんじゃねえぞ図々しい」 ぱしり、と即座に伝票を突き返したが、は少しも堪えなかった。土方の様子に怯むこともなく 幼い少女とぴったりくっつき、怒る土方を二人で指差し、顔を寄せ合ってけらけらと笑い出す始末だ。 むっとした土方はコーヒーカップの取っ手が割れそうなほどの握力で握り締め、元から皺の寄っていた眉間を さらに険しくしてを睨んだ。――ったく、何が「あたしが払う」だ。 これまでお前から出た金ったら、せいぜいが電車賃くれーだろうが。他は全部俺が持ってやったじゃねえか。 自棄になった手つきでコーヒーを掻き回しながらブツブツとぼやく。 斜め向かいに座る美代の傍に置かれた大きな百貨店の紙袋には、彼が自腹を切って買い与えた玩具や 児童書の数々が詰まっている。それを興味も無さそうにちらりと眺めた。まあ、どのみちここも 俺が持つ気でいたのだ。こいつの懐から金を引き出そうなんざ、こっちはハナから思っていない。 こいつの財布ときたらいつ見ても呆れるほどのすっからかんで、給料日以外は大体が 申し訳程度の千円札と小銭しか入ってねえときている。今どきどこのガキだって、これよりはマシな額が 入ってんじゃねえのか。そう感想を述べて溜め息をつきたくなる、憐れみを覚えずにはいられない薄っぺらさだ。 しかし、――前からおかしいと思っていたのだが。 副長附きという役目上、の給金は同期入隊の奴等よりも心持ち上乗せした額が与えられている。 そのほんの少し色付けされた給金を、こいつは季節変わりに着物の一、二枚を揃える程度にしか使おうとしない。 あとは小物だの菓子だのといったガキっぽい愉しみに使う程度。他にこれといった贅沢をしている様子もない。 なのに昼飯時の支払いなどでたまに目にする財布の中身は、ガキの小遣い以下のしみったれぶりだ。家賃も食費も 一切不要な屯所暮らしをしていれば、金は多少なりとも浮くのが自然。それをこいつはどうしているのか。 見ていてたまに不思議を覚えるのだが―― 「ねーおじちゃん。コーヒーちょうだい、ねーってばぁ」 「うっせえぞ小雀。ガキは水でも舐めてろ」 「けちー、おじちゃんのけちー!少しでいいからちょーだい、飲みたいー!」 「うっせえなぁ店ん中で騒ぐな。いいから少し待ってろ、じきにあれが、・・・」 カップを持とうとする子供の手を払いながら横に視線を流した土方が、お、と低くつぶやく。 美代もそちらに振り向き、黒目がちな瞳をぱあっと輝かせる。テーブルに手をついて身を乗り出した。 「わぁー、すごーいぃ!」 「お待たせいたしました」 トレイを持ったウエイトレスが、土方たちのテーブルの前でにこやかに立ち止まる。 紙製のコースターを美代の前に敷き、その手前に、白いナプキンに包まれた銀色のフォークとスプーンを置き。 トレイから背の高いグラスを手にとって、 「チョコレートパフェといちごパフェ、お持ちしました」 「え?」 テーブルに降ろされたグラスを見つめ、はきょとんと目を丸くする。 透明なグラスを埋めた白いアイスクリームと生クリームの山は、バナナや苺、キウイなどの色鮮やかな果物で 彩られていた。天辺からはチョコレートソースがたっぷりかけられている。美代は顔をグラスに近づけ、 チョコレートの甘い匂いを一杯に吸い込む。あれほど飲みたがっていたコーヒーのことはもう忘れたのか、 とびきり嬉しそうな笑顔になった。は美代を眺め、自分の前に置かれたグラスを眺める。 ピンクのアイスにいちごやラズベリー、赤いソースがあしらわれている。見た目にも可愛いらしくて 美味しそうなパフェだ。どちらかといえばご飯よりも甘味が好きなは、冷たそうに曇ったグラスを しげしげと見つめた。食べたいなあ、とは思いつつ、しかし気まずそうにウエイトレスを見上げる。 注文したのはオムライスだけで、パフェを頼んだ覚えはない。きっと他のテーブルと間違われたんだ。 「あの。あたし、パフェは頼んでませんけど」 言い辛いなあと思いながら話しかけると、振り向いたウエイトレスは目尻を下げてに微笑んだ。 「いいえ奥さま、旦那さまからご注文をいただきましたので」 「は?」 それを聞いたが、あんぐりと口を空ける。がちゃんっ、と陶器がぶつかる大きな音がした。 土方がコーヒーカップを取り落としたのだ。姿勢はカップに口をつける直前だったポーズのままで、 険しく目を見開いた顔はウエイトレスを見上げて硬直していた。 「・・・お?おく、・・・・・・・・・・・・、」 「はい、先程奥さまがお手洗いに立たれた時に、ご主人さまから承りました。奥さまとお嬢さまにと」 目を点にしたは息を呑み、手の先まで石に変わったかのようにかちんと固まってしまった。 手からスプーンがぽろりと落ちる。皿にぶつかってがちゃんと派手に鳴り、周囲の客が振り返り、 どうしたんだ、と興味本位な視線を送ってくる。 全方位からの注目が土方たちに押し寄せ、背中にもビシビシ刺さり、ざわついた雰囲気が 四人のテーブルを取り囲でいく。ざわめきが店内に伝染する速さに比例して、仏頂面で固まっていた土方も どんどん焦った顔つきになっていき。額にじわりじわりと止めようの無い冷汗が湧いてきて、 背筋を硬くするいたたまれなさに嫌が応にも追い詰められる。 …頼んだ。確かに俺があれを頼んだ。 だが、これが嫁だの娘だのと言った覚えはまったくどこにもねえんだが! 「〜〜〜〜ち、ちちちちちちち、ちちがっっっ、違いますぅぅぅ!!!」 「いえ、ですが、先程は確かにご注文を」 「ちが、ちがうんですぅぅ、そこじゃなくて、そうじゃなくてぇえええ!!!」 あたふたと腕を振り回しながらががばっと立ち上がり、頬に赤く血の気を昇らせてぱくぱくと口を動かす。 焦りすぎて声も出ないらしい。まあ、とつぶやき、ウエイトレスは困った様子でトレイを下げ、頭も下げた。 「ご注文の品と違っていましたでしょうか。申し訳ございません奥さま、すぐに作り直しますので」 「違うううぅぅぅ!!」 「いやその。何だ、・・・・・ち、注文はまあ、合ってんだが、」 「どーしたのおじちゃん、そんなに暑いの?お顔が汗ダラダラだよー?」 「うるっっせええぇ、放っとけ!!!」 焦りのあまり凄まじい引きつり顔になった土方が、注文伝票をばしっとテーブルに叩きつけた。 ぐっと低く噛みしめた低音が美代を唸るように叱り飛ばす。するとその大声のおかげで周囲の視線は さらに彼等に集中してしまい。隣のデーブルでは彼の怒声に驚いた子供が「ママぁああ!あのおじちゃん怖いようぅぅ」と 母親にしがみついて本気で泣き出す大騒ぎとなった。しかし怒られた当人の美代にしてみれば、 いつも怒りっぽい「ふくちょーのおじちゃん」のちょっとした大声など、今さら驚くほどのものでもないのだ。 つぶらな目を不思議そうにぱちくりさせながら、騒ぎに唖然としている兄に問いかけたのだった。 「ねえ兄ちゃん、お姉ちゃんておくさまなの?ねえねえ、おくさまってなぁに?」 「うーん、・・・結婚してる女の人のことをそう言うんだけど、・・・・・・・」 僕たちがいるから勘違いされちゃったんですね。すみません。 心底済まなさそうに爽太に謝られてしまい、は顔を真っ赤に染め上げて絶句した。 「・・・おい、聞いてんのか。どーしてくれんだ、まだ注目浴びてんじゃねえか。 何度言わせりゃ気が済むんだ。どうしててめえはそうも落ち着きがねえんだ?」 隣の席の子供がどうにか泣き止み、他の客たちが向けてくる視線の痛さをやり過ごし。 こぼしたコーヒーも拭き終えた土方は、うんざりした表情でテーブルに頬づえをついていた。 ようやくありついた煙草を疲れた気分で味わいながら「聞いてんのかコラ」と目の前の女を叱りつけているところだ。 深くうつむいたは頬を染めてしゅんとしているが、スプーンを持った右手と口はやたらと忙しなく動いている。 いちごパフェに飾られた赤い果実はすっかり平らげて、今はピンクの苺アイスを掬うのに余念がなかった。 ぱくぱく、ぱくぱく、ぱくぱく、ぱくぱく。 冬籠り前のリスかお前は。そう馬鹿にしたくなる熱心さでアイスを頬張る女の顔は よく見れば口端がにんまりと緩んでいる。彼女の真正面に構えた土方の片眉が、それを発見してびしりと跳ね上がった。 「おい馬鹿パシリ。美味えか。それはそんなに美味ぇのか」 「何言ってるんですか美味しいに決まってるじゃないですか。てゆうか土方さん少し黙っててくださいよ。 あたし急いでるんです、早く食べないとアイス溶けちゃうじゃないですか。このとろける美味しさが減っちゃうじゃないですかぁ」 土方は無言でスプーンをもぎ取る。途端にはああっ、と慌てた悲鳴を上げた。 「こうも家族連れが多い店だ、んなとこでガキ連れてりゃあ紛らわしく見えるってもんだろうが。 それをわざわざ立ち上がって人目惹きやがって。ったく、あんなもんは適当に受け流しゃあ済むってのに」 「だ、だってぇえええ!土方さんがあのお姉さんにちゃんと否定してくれないからっ」 返してくださいっ、と伸びてきた手がスプーンを奪い返す。 唇を尖らせたはパフェのグラスの底をカツカツと突きながら、ぶちぶちと文句を垂れてきた。 「だいたい土方さんはねえ、いつも外面ばっかりいいんですよっ、しかも女のひとにばっかり! 身内にはすぐ怒鳴るしすぐ暴力奮うくせに、よそのお姉さんには結構やさしいし何言われても許すじゃないですか。 うちの女中さん達とか近所の呑み屋の女将さんとか、すまいるの綺麗なお姉さんたちとか!」 「よーし判った、てめーがお払い箱になる期限は三年じゃねえ、あと三日だ。それ食ったら速攻ハローワークに走れ」 「はぁ!?そんなの職権乱用ですっ、どんだけ横暴な不当解雇ですかぁああ!!」 が情けない顔で叫ぶと、隣の美代がけらけらと身体を揺すって笑いだす。楽しそうな妹につられたのか、 気付けば爽太まで声を上げて笑っていた。喜怒哀楽が控え目なこの少年にしては珍しい、心から可笑しそうな表情だ。 今でもたまに何かを深く考え込む様子を見せたりもするが、笑う顔は随分と子供らしくなったものだ。 そう思い、土方は感慨深げに細めた目で彼を眺めた。 少年の傍には新品の松葉杖が立て掛けられている。これを使ってようやく歩行訓練に入ったのは二月ほど前からだ。 入院して半年が経ち、爽太の身体は少しずつ快復のきざしを見せていた。 斬られた背中の傷も癒え、子供らしい元気さも取り戻している。とはいえ軽い歩行障害は残っているし、 栄養不足で痩せ衰えた手足の細さは相変わらずだ。そこから来る発育不良が祟ってしまったためか、 こうして眺めても十一歳という年に相応な体格には見えない。同時にその表情も、 年相応とは言えないものがあった。貧弱で子供っぽい体つきとは逆に、妙に大人びている、という点でだが。 普通に暮らしていれば見るべくもないものを見てきた子供の、どこか悟りを開いたような表情。 我が身に降りかかるこの世の浄も不浄もすべて受け容れてきたような表情は、この小さな体躯の少年に 不思議と大人びた印象を持たせていた。 こうして見るとあらためて不思議になる。 あの捨て鉢なまでのがむしゃらさが、この弱々しくて慎重なガキのどこから湧いてきたものか。 慈善団体の施設で妹を庇い、子供を盾にして逃げようとした卑怯な男の腕に噛みつき、背中を斬られて重症を負った少年。 あの時の爽太は、土方の目にはまだ考えの足りない、年相応に無鉄砲なただの子供にしか見えなかった。 ところが、――実際に接してみて、すぐに考えを改めた。 これは元来、そういった無茶を頻繁にする馬鹿ではないらしい。明るく人懐っこい妹に比べれば 無口で大人しく、常に周囲から一歩引いているような感はあるが、元々が思慮深く、我慢強い性質なのだろう。 周囲の大人の問いかけにはその都度慎重に考え込み、相手の意図をよく汲んだ、筋の通った受け答えを返してくる。 幼い妹を何より大事にしていて、長引いている病院暮らしの最中でも美代を何かと気遣っている。この寡黙な少年が 何にでも妹を優先させ、兄らしい眼差しで妹を見守っているところを、土方ももこれまでに幾度となく見掛けてきた。 つまりあれは、こいつ本来の性格から出た浅はかな無謀さなどではなく、 このガキが妹を護りたい一心で選んだ、自分の命を賭しての無謀さだったのだ。 自分の命を投げうってでも妹を護りたい。ガキらしくもない肝の据わった気概と決意が、 この痩せ細った大人しい少年をあの目も当てられない無謀さに走らせたのだと、今は理解しているが―― 「・・・ねえねえ、兄ちゃん、兄ちゃん」 アイスの白とチョコソースの焦げ茶がゆるやかに混ざり合うグラスの中身をつつきながら、 美代は真正面に座る兄の目を見上げる。兄が「どうしたの」と訊くと、グラスの中に視線を落とす。 小さな身体をもじもじと揺すり、遠慮気味な声で答えをもらした。 「美代、お手洗いに行きたい」 「うん。じゃあ行こうか」 「あ、お手洗いなら一緒に行くよ」 そう言って、爽太とが席から立ち上がったのはほぼ同時だ。 斜め向かいに座る二人はお互いに顔を見合わせ、困ったように口籠る。 どちらから先に発言するのかを互いに譲り合っているようなぎくしゃくした間が空き、ようやく爽太が口を開いた。 「ありがとうございます、でも大丈夫です。杖もありますから」 「ううんいいの、あたしはもう食べ終わってるから。爽太くんはゆっくり食べて。ね?」 「・・・はい。すみません、ありがとうございます」 お互いに立ち上がった二人は、お互いの遠慮した関係を感じさせるぎこちない笑みを交わす。 間もなくは美代を連れ、レストランの入り口を通って姿を消した。 土方はそれまで、二人のやりとりを黙って眺めていたのだが。が姿を消した入り口を見つめて 怪訝そうに瞬きした。煙草の煙をゆっくりと長く吐きながら視線を戻し、隣に座る爽太を興味深げに眺める。 前から気に掛かっていたことがある。 爽太がに向ける表情には何かがある。いつも目つきが僅かに戸惑っているのだ。 あの微妙さは何故なのか。の存在に困って、どう接していいのか判らずにいるのか。 見ているとそんな印象も受けるのだが、しかし、それだけでもない気がする。 かといって、を警戒しているのではなさそうだし、ましてや敵視しているわけでもないだろう。 あの穏やかで素直な態度からも、爽太が自分を救った彼女に感謝の念を抱いていることは見てとれるが。 「あの。ありがとうございます」 吸い終えた煙草を灰皿に押しつけて潰していると、少年のほうから声を掛けてきた。 ・・・へえ。初めてじゃねえのか。 このガキが自分から声を掛けてくるたぁ、珍しいこともあったもんだ。 意外さを感じながらも土方は視線を上げた。この少年に感じている怪訝さの一切を態度から消し、 冷やかで隙のない目を爽太に向ける。 爽太は緊張しているのか、あわてて深く頭を下げた。それからまっすぐに、率直な視線で彼に向き合う。 多少表情を固くしているが、土方を怖がっていそうな気配はあまりない。やはり見た目以上に肝の太いガキらしい。 「こんなに楽しそうな美代を見るのは久しぶりです。・・・母さんがまだ生きていた時みたいだ」 「ああ。そいつぁ良かった。まあ、お前のほうはそう楽しくもなさそうだがな」 「・・・楽しくなさそうですか、僕」 「そうだな。俺の目にはそうとしか見えねえが」 嘘だ。そんな風には思ってもいねえが、ここらで一度カマをかけておくとするか。 よそよそしく距離を保った口ぶりで平然と返すと、爽太は食べかけの丼に入れた箸先をぴたりと止める。 痩せた少年の表情は見る間に固くなったが、土方は彼からその鋭い目を逸らそうとはしなかった。 視線を合わせたままで手を入れた袂の奥を探り、そこから出した煙草の箱をテーブルに置く。 もう一度手を袂に戻し、そこにあるはずのライターの行方を探りながら話を続けた。 「どうせがお前に無理言ったんだろ。あいつが美代を連れ出してえがばっかりに、 お前まで妹の付き添いに引っ張り出されたんじゃねえのか。あのお節介が騒がせちまって、悪かったな」 「そんなことはないです。僕まで本を買ってもらったし、美代が喜べば僕も嬉しいんです」 「そうか?それならいいが。そういった礼なら、あいつに言ってやってくれねえか。 あれぁどうせ今も気に掛けてんだ。お前が楽しんでるかどうかをな」 「・・・・・。そうなんですか。困ったな、・・・」 どうやらそんなことは思ってもみなかったらしい。 軽い驚きと困惑を浮かべ、爽太は箸を置いて口籠る。 食べかけの丼の中身に視線を落とし、少し黙って考え込んでから、遠慮気味に小さく笑った。 「病院でも、歩行訓練の先生や看護師さんや、僕たちのお世話をしてくれるみんなに訊かれます。 ここの生活は慣れたか、何か辛いことはないかって。入院生活が少しは楽しめるといいんだけど、って。 だけど。・・・僕はどう答えたらいいのかわからないんです。 みんなは僕のことを気遣ってそう訊いてくれるんです。それはわかるし、すごく嬉しいけど、・・・」 少し困ります。 そう言って固かった表情をほころばせ、爽太は和らいだ笑みを浮かべる。 顔を上げ、周囲をゆっくりと眺め回した。広い窓からの陽光がたっぷりと注ぐレストランの店内は 座席や調度も明るい色に統一され、ゆったりとした雰囲気だ。子供の耳にも心地良いだろう楽しげな音楽が流れている。 平日なのでそう多くないが、爽太や美代と同じような年の子供を連れた家族客もちらほらと見えた。 どの親子も笑顔が絶えない。それは何かと皮肉気味な土方の目にも、穏やかで幸せそうな光景に映る。 それらすべてを少し不思議そうに、物珍しげな眼差しで爽太は見つめて。ぽつり、と小声で切り出した。 「僕がずっと考えてきたのは、美代を守ることだけでした。…今まで僕たちには楽しいことなんて滅多になかったけど、 僕がいつも気にしていたのは、僕が楽しくなることよりも、美代をどうやったら笑顔にしてあげられるかでした。 本当にそれだけだった。僕が楽しいかどうかなんて、あまり考えたことがなかったから」 だから、自分でもよくわからないんです。 少し困っているような、照れたような表情で土方に笑いかけてから、爽太は再び箸を手に取った。 箸の運びが急に速くなっている。それは彼が、子供らしい旺盛な食欲を発揮しているだけのことにも見えるのだが、 ――こいつが自分の本音を誰かに打ち明けたのは、俺が初めてだったのかもしれない。 ずっと気にしていた喉の支えがとれたような、和らいだ表情で昼食に箸をつける爽太の様子を伺いながら、 なんとなく土方はそう思った。 「ひとつ訊いてもいいか」 「・・・はい、」 「前から気になってたんだが。お前、たまにを、妙な目で見てねえか」 たちが戻っていないかと入り口あたりを見回してから、声を落として尋ねる。 箸を止め、数秒だけ考える間を空けてから、爽太は素直に頷いた。 「なるべくそう見えないように気をつけていたんだけど、・・・」 「そうか。てえこたぁ、だ。お前、あいつに何か思うところがあるのか」 「いいえ」 爽太は土方の目を見て答え、きっぱりと否定するべく首を振った。 そこに妹の姿がないことを確認したかったのか、黙って入り口のほうを見つめると、 あまり子供らしくない、落ち着いた表情の思い出し笑いを浮かべて答えた。 「お姉さんは僕たちを助けてくれた人だし、いつも優しくしてくれます。美代はお姉さんが大好きだし、 僕もあの人が会いに来てくれるとほっとする。今日も誘ってもらって嬉しかったです」 そう答え、ふと口の動きを止める。 急に表情を消した少年は、隣に座っている土方の存在すら忘れたような顔になっている。 また何かの記憶を思い返しているらしい。視線をすうっと横に流して、 窓の向こうに林立するビルたちの一点に、遥か遠くを見通しているような、どこか達観した目つきを固定させた。 「・・・・・・・・。ただ、あの人を見ていると。時々わからなくなるんです」 沈黙の果てに爽太はつぶやく。それが土方の耳には、 彼が心の最も深いところに隠していた、静かだが複雑そうな本心に聞こえた。 「でも、あの人は美代をとても可愛がってくれる。美代を妹みたいに思ってくれているんです。 美代や僕がこれからどうなるのかを、家族みたいに心配してくれる。そういうところが警察病院の人たちとは違います。 それだけは僕にもわかるから――だから僕は、あの人を信じます」 また違う何かを思い返したかのような表情で黙り込んだ爽太に合わせ、 土方はしばらく黙って煙を味わいながら眺めてみたが。結局彼には判然としなかった。 どうも足りない。こいつの話は肝心な部分が欠落している。 爽太がの何を思い、何を目にして彼女のことが「わからなくなる」のか。 人に何かを説明するのが不得手とは思えない聡明さと、大人びた語り口を披露した少年は、 そこを一切口にしなかった。それがどうも引っかかる。 それは単に話し忘れただけのことなのか。その不自然さに、この考え深いガキが気付いているのか、いないのか。 「そうか。・・・まあ、あれが人を騙すような芸当は出来ねえ奴だってこたぁ、俺が保証するが」 「はい」 爽太は感慨深そうな、彼の年頃には似合わない表情で頷く。 そこへちょうど美代がと手を繋いで戻ってきたので、その姿を満足そうに微笑んで眺めていた。 昼食を食べ終えて店を出れば約束の三時間は終わり、百貨店を出た四人は 表通りで迎えのパトカーを待つことにした。 子供たち二人が前に並び、その背後に大人二人が立っている。 肌を撫でる微風はさらりと乾いているが、秋が深まっても昼過ぎの陽射しは目にまぶしい。 土方は車道を駆け抜ける車の多さを暇潰しに目で追っていた。 目の前では幼い少女が兄の袖をくいくいと引いている。腕に抱いたうさぎのぬいぐるみの名前を決めたいらしい。 「うさちゃんがいいかなぁ。うーちゃんがいいかなぁ。ねえ兄ちゃん、何がいいかなぁ」 美代は相変わらずの上機嫌だ。買ってもらった玩具を爽太にあれこれと見せ、 たまに目を輝かせて振り向いて、や土方にも話しかけてくる。は笑って答えているが、 ――禁煙が常識な百貨店を出た途端に煙草を咥えた土方は、またもや浮かない気分に晒されていた。 隣に並ぶ女との距離は、ここへ着く前にも感じた微妙な遠さだ。 今日に限ってのこのとってつけたような遠慮は、既に消えたのかと思ったが。まだまだ消えていなかったらしい。 これがどうしても気になる。なんともいえない焦らされた気分になる。懐に突っ込んだ腕は妙に疼くし、 下駄の先ではかつかつと地面を打ちっ放しだ。 この一見どうでもいい隙間がやけにもどかしい。というよりも、こうされると却って意識がへ向いてしまうから もどかしいのだ。 土方は子供っぽく不貞腐れた半目顔で彼女を見下ろし、煙草を軽く噛みしめる。 「やりづれえったらありゃしねえ、・・・」 独り言をつぶやき、ちっ、と歯痒そうに舌打ちすると、はそれに気付いたらしい。 心配そうに見つめてくる。なのに彼が苛立った目を向ければ、すぐにぷいっと横を向くのだ。 「あぁ?何だ」 「・・・・・・別に。なんでも。ないです」 「・・・?」 怪訝そうに眉を寄せて、土方は鋭い視線を彼女の姿に集中させた。 なんだこいつ、いやに力んでねえか。 肩におかしな力が入って身体が竦んでいるし、そういえば横顔もなんとなく赤い。 瞬きの多さも不自然だ。その顔をなんとなく眺めるうちに、 ――いや、違うな、と見当がついた。 そうか。最初からして思い違いだったのだ。 俺が浮足立った気分にかられて落ち着かねえ思いをしているように、 こいつはこいつでひどく緊張しているのだ。同じ屯所に住み、ほぼ同じ日程で日々を過ごしていても、 こうして非番に約束をして出掛けること自体が今までに一度も無かったことだ。それを思えば、 こいつがこうも固くなっているのも当然か。いや、それにしたって、 「あの。・・・・・。ありがとうございました。ごめんなさい。いっぱいお金使わせちゃって、・・・」 パーッ、と対向車線の車から飛んできた長いクラクションが通りに響く。 その喧騒に重なって、土方の耳には申し訳なさそうな声が飛び込んできた。 隣に目を向けると、髪の長い小さな頭がお辞儀のようにこくりと揺れる。 スピードを上げた車が目の前を通り過ぎる。 長い髪と白い花飾りがふわりと揺れて、ほんの微かな甘い香りが漂ってきて。その香りを感じ取って、 胸の奥にある何かがくらりと揺らぎかけて。おもわず目を見張った土方は、視線をそこから離せなくなってしまった。 「でも。今朝まではね、本気にしてなかったんですよ。土方さんが本当に来てくれるなんて思わなかったから」 胸の前で重ねた両手で意味なく帯を弄りながら、が潜めた声で語りかけてくる。 うつむいた顔の表情は、上から見下ろす土方の目には影になって見えなかったのだが―― それでも土方は、薄く色づいた女の頬や柔らかそうな輪郭を無言で見つめ続けた。 しばらく経ってから微かに目を細める。素っ気なさが目につく冷然とした顔に、一瞬だけ愉快そうな笑みが上った。 あれだけ気にしていた距離の違和感はどこにいったのか。こいつと居るといつもこうだ。 たったひとこと礼を言われただけ。たったそれだけで、それまでにわだかまっていたものが嘘のように消えていく。 を避けるのを止めて以来。 この浮き足立った気分に戸惑いながらも慣らされていくうちに、もう幾度感じたことか。 結局のところ俺は、誰も騙しきれなかった。そりゃあそうだろう。誰を騙せるはずもない。 こいつや周囲を騙すどころか、俺はてめえの本心すら欺ききれていなかったのだから。 あの夏の日。 柳生がこいつを屯所の目前から掻っ攫っていったあの日だ。 あの頃の俺は、なんだかんだと理屈を立ててこいつを突き離して、こいつとの間に埋めようのない溝を掘ったつもりでいた。 ところが最後の最後で根負けした。を諦めきれなかった。 いや、今にして思えば、最初から諦める気などどこにもなかったのかもしれない。 あれぁ今思えば、最初からの負け戦だった。そんなことを、今になってみれば思うのだ。 元々が直属の部下と上司という間柄だ。隣に目を向ければ必ずがそこに居る。 それがいつしか当たり前の景色になっていて。いや、実際にそれは当たり前な景色だったのだが、 が居ることに慣れきった心の奥底――本人ですらはっきり掴めない深層では、 知らないうちに馬鹿げた過信が生まれていたらしい。 (何があってもは俺についてくる。多少突き離したところで、こいつが何処かに行くはずがねえんだ) ほんの少し考えれば、それこそが勝手な思い上がりだと気付く話だ。それでもどこかでそうなると信じていた。 ところが、屯所の風呂場でを泣かせてから、その見慣れた景色は決して当たり前なものではなくなった。 との距離が開いていくのを感じるほどに勝手に抱いた過信は崩れて、胸に空いた風穴が広がっていった。 それでも突き離した態度を変える気はなかった。その頃はまだ、感情よりも理性を優先させる自信があったのだ。 状況が一変したのはあの夏の日からだ。 柳生の若様にを奪われたくないがばかりに、ついつい恰好のつかない真似をしてしまったあの日。 あの時にようやく自覚が芽生えた。何だかんだと理屈をこねつつ、俺はこいつを誰にもやる気がないのだと。 もしもこの先、を自分から引き離そうとする奴があれば、俺は柳生の時と同じ行動に出るだろう。 それもなんとなく想像がついていた。いやこれは、言葉を変えれば諦めとも言うのだろうが。 どれだけ自分に頭を抱えたくなろうと、どのみち俺はそうするのだろう。 理屈では抑えようのない、身勝手甚だしいもんをそいつの前に突きつけて。戸惑うこいつの前に立ちはだかって。 どうしようもない自分の矛盾を、こいつが目を見張っている自分の背中にみっともなく晒して言うんだろう。 こいつは俺のもんだ、誰にもやるか。それこそが、俺が患ったこの浮ついた病の核心だ。 今さらながらに思い知った核心だが、彼にとってのそれは病と呼ぶに相応しいほど痛かった。 言うなれば頭痛の種に近いだろうか。 それまでは「まさかそこまでじゃえねえだろう」と、自分で自分にたかを括って見ないふりをしていた部分。 見てしまったが最後「俺ぁ相当いかれてやがる」と自覚せざるを得ない核心だ。しかも、 そんな自分に焦っているうちに、これまでは平気で隠せていたはずの本音が勝手に水漏れしやがるようになった。 「美代ちゃんも爽太くんも楽しそうでよかった。・・・あたしも楽しかったです。 あのパフェもすごく美味しかったです。あたしまで御馳走してもらってすみません」 急に思い出したようにそう言われ、隣を見れば、の口許が嬉しそうに微笑んでいる。 土方は喉の奥まで溜まっていた煙をふうと吐き、 「気にすんな。お前のあれはおまけみてえなもんだ。つーか、ガキどものついでだ」 深く伏せた視線を車で混み合う表通りにすうっと逸らして、醒めた口ぶりで返した。 …内心ではやれやれと肩を竦めたくなっていたのだが。 眉をわずかに顰めながらしみじみと痛感する。まさしくこれは病だと。 ああして嬉しそうにされれば、似合いもしねえ甘い顔をしたくなる。 こうして横に立っていれば、あのほっそりした手を握ってみたくなる。 どこまでも高い秋空を見上げれば、自分で自分に溜め息が出る。ゆらゆらと頭上に上っていく白い煙を、彼は苦笑で見送った。 何がついでだ。白々しすぎて笑えもしねえ。 風呂場での一件以来苦労して抑え続けてきたもんも、今となっちゃあ水栓にガタがきてついぞ緩みっ放しじゃねえか。 あの嬉しそうな顔を見るにつけて、俺は腑抜けにさせられる。こいつに対するガードも日に日に甘くなってきた。 こいつが未だに隠しているあれやこれやも見ねえふりで、もしもこの場に出くわせば拳銃ぶっ放して 俺を始末にかかるだろう、あのとんでもねえ親父の牽制も忘れたふりで、職務時間外までこうして一緒に出歩く始末だ。 その上、――それだけであればまだしも、だ。 よせばいいのに、これからさらに要らねぇ真似をしようってえんだ。・・・手の施しようがねえたぁこのことだ。 「おい」 「はい?」 呼びかけながら下駄履きの足を横にずらし、との距離を心持ち詰めた。 こっちを見上げる女に醒めた視線を合わせる。 は小首を傾げて、綺麗に生えそろった睫毛を大きく瞬かせている。 距離が縮んだ、見慣れた景色だ。さっきまで感じたこそばゆい違和感はなくなっていた。 ところがそんないつもの距離は、今日に限って妙に新鮮で、心の弾むものにも映るのだ。 口端を笑いに歪めた土方が深めに背筋を屈める。 の耳の真上に飾られた、白い花飾りに顔を寄せた。 途端に真っ赤になった女の身体がぴくんと身じろぎするのが可愛らしくて、思わず吹き出しそうになったりもしたが。 「ガキどもの迎えが来たら店に戻るぞ」 「え。」 「出費ついでだ。お前にも一つ買ってやる」 赤く火照った耳に愛想もなく告げると同時で、ぼうっと彼を見つめるの前には一台のパトカーが滑り込んできた。 それから五分後。 二人は一階のアクセサリー売り場に戻り、土方は女物の髪留めをひとつ買い求めた。 彼が貴重な休日を潰してここへ来た本来の目的は、こうしてには明かされることなく果たされた。 百貨店のロゴ入りの包装を困惑しきりなに押しつけ、隣の化粧品売場から流れてくる香水臭さで 息が詰まりそうになるこの売り場を脱出するべく、出口を目指して歩き出す。 二歩三歩と、高く鳴る下駄の足取りを速めて先を急ぐと、消え入りそうな細い声が背後から追いかけてきた。 「・・・ついででも何でもいいです。・・・嬉しい、・・・」 その声に縛られたかのように足が止まった。 吐息めいた声を漏らした女が、どんな表情でこっちを見ているのか。 見てみたい気がした。振り返って確かめたい気がした。 ただ、とてもではないが気恥かしくて、実際に振り返る気にはなれずじまいに終わったのだが。
「 片恋方程式。31 」 text by riliri Caramelization 2011/06/05/ ----------------------------------------------------------------------------------- next