純愛狂騒曲! 13
足が自然に動き出す。 硬い地面に踏み出すたびに、覆われた傷口に痛みが冷たく尖る。 痛みなんて、どうでもよくなってしまっていた。 周りを行き過ぎる人の姿も。毒々しいくらいにぎやかに灯っているはずの看板の、ネオンの色も。 何も目に入らない。 虹のような線を引く色の残像を作って、暗闇に溶けて。あたしの横を流れていくだけだ。 頭の中には、さっきお風呂場で聞いた神楽ちゃんの声が甦ってくる。 『はどこに帰りたいアルか?』 まぶしいくらいにまっすぐな瞳が、問いかけてくる。 別のものに変わってしまったみたいに、脚が柔らかく重く感じる。 まるで夢の中を走っているみたいだ。水を踏んでいるみたい。もどかしいくらいに、うまく走れない。 あのひとがどこかへ行ってしまうんじゃないかと、気が急いてしまう。 早く、早く。 焦って踏み出すほどに、足がもつれそうになる。握った刀の鍔が、カチャカチャと煩い。 転びかけて、また駈け出して。 格好悪く繰り返しているうちに、曲がり角の街灯は目の前に迫ってきた。 あのひとの頭上を。暗闇を細く上っていく、煙草の煙の白い色も。 あたしはそのまま、まるで体当たりでもするように走って背中に飛びついた。 腕を回してしがみついてしまえば、後はもう、どうしたらいいのか。 頭の中が真っ白になって、わからなくなった。 言いたいことも謝りたいことも、伝えきれないくらいあるはずなのに。言葉なんて、ひとつも出てこない。 だからただ夢中で、ぎゅっと抱きしめた。 飛びつかれたひとは、大きく煙草の煙を吐いて。 深々とした長い溜息をつくと、肩を落とした。 胸のあたりに回したあたしの手を片方掴むと、ぐいっと下へずらす。 掴まれた手が、大きな手のひらに覆われる。硬くてごつごつした感触が、冷えた手を包んでくれた。 温かい。 こんなに温かいんだもの。 夢じゃない。夢じゃないから、消えたりしない。 「まだ塞がってねえって、言ってんだろォが」 疲れた声でボヤくだけ。 ちっともこっちを見てくれない。 けれど、それでもいい。 ううん。それでいい。 振り返ってくれなくていい。 怒っていてもいい。もうこいつの顔なんて見たくないと思うほど、呆れていてもいい。 あたしの泣きごとなんて、聞いてくれなくていい。縋った腕を振り払っても、それでもいいから。 何度振り払われたって、ついていくから。 もう逃げたりしない。怖くなって逃げ出したりしない。だから。だから。 我慢できると思っていたのに。 擦りつけるように背中に顔を埋めてしまうと、じわあっと涙が湧いてきた。 「・・・もう、帰るんじゃなかったの?」 「一服したくなっただけだ。・・・お前。もう戻らねェんじゃなかったのか」 「・・・あんなこと、云われたら。すぐ帰りたくなっちゃうよ・・・」 「あァ?」 「だって。・・・だって、嬉しかったんだもん。」 頬を擦り寄せて、涙をこすりつける。 涙は途切れることなく湧いてくるのに、顔はつい笑ってしまう。 思い出しただけで頬が緩んでしまった。 「初めて言ってくれた。俺の女だ、・・・って」 あたしの言葉を聞いていた背中が、ぴたりと固まる。 抱きついた身体はすこしずつ強張って、どんどん硬さを増していった。 「・・・ばっ、・・・・・・・っ!」 怒鳴りかけた声をぐっと詰まらせて、土方さんは黙り込んだ。 手にしている煙草の先が、意味なくふらふらと揺れているのが見える。 「違げーよ。今のあれァ、その。アレだ」 焦りの滲む口調で、しどろもどろに否定する。 あたしは可笑しくなって、隊服に涙を擦りつけながら笑ってしまった。 「アレって?ねえ。アレってなに?ねえ。土方さんてば。ねえ」 「言ってねェ」 「え?」 「んなこたあ言ってねェ。聞き違いだろ、ただの空耳だろ。言われたよーな気がしただけだろ。 テメーの妄想だろ、言われてもいねえことを聞きてーよーに聞いただけだろ。んなもんいつもの思い込みじゃねーか。 そのくれえでいちいち喜んでんじゃねーよ、っとによ。馬鹿じゃねーの。つーか、っっとに馬鹿だろテメエ」 顔を上げると、不満気に逸らされた横顔が目に入る。 煙草を吸っては吐いてをせわしなく、ひたすらに繰り返している。 口許から噴き出してくる煙の量が、いつにも増して物凄い。 しがみついて黙ったまま、あたしは少し待ってみた。 それでも、見上げた横顔は逸らされたままだ。頑として引き結ばれた口も、開く気配が無い。 「・・・あーあ。素直じゃないんだから」 「フン。てめえに言われたかねえ」 そう言うと、土方さんは巻きついていたあたしの腕を邪魔そうに解いた。 痛ェんだよ、と文句をつけながら、あたしの持っていた刀を奪い取ると なぜか膝を折ってしゃがみ込む。 何だかわからずに眺めていると、こっちに振り返って横目に睨んできた。 「さっさと乗れ」 「・・・旦那には、手ェ貸すなって云ったくせに」 「うっせえ。乗るのか、乗らねえのか」 何も言わずに、あたしは背中に飛びついた。 何も言わずに、背負ったひとが立ち上がる。 「土方さん」 「何だ」 「・・・土方さん」 「だから何だ」 「・・・探してくれて、ありがとう」 「来いっつったのは、てめえじゃねえか」 「え。・・・あたし?」 云っただろうか、そんなこと。 屯所から逃げて以来、ずっとこのひとを避けてきた。 その前だって、そんなことを云った覚えはない。何のことだろう。見当がつかない。 訊き返そうと覗きこんだら、ふいと顔を逸らされてしまった。 「礼なんざ要らねえ。散歩ついでに、拾いに来てみたまでだ」 速足な歩みに従って揺れる、温かい背中をじっとみつめる。 泣きだしたくなるような嬉しさが、身体じゅうを満たして回っていく。 煙草の香る髪に顔を埋めて、目を閉じた。 このままここで眠ってしまって。目が覚めたって、消えたりしない。 あたし、帰ってきたんだ。このひとのところに。 揺れる背中に、ぴったりとくっついてみる。 隊服を通して伝わる体温が、冷えた身体にじんわり染みた。 顔を上げるのも勿体無い気がした。 「・・・えらくデケえ道標だな」 「え?」 不思議に思って顔を上げた。 首を傾げて、表情の薄い横顔を覗き込む。 あたしを背負ったひとの眼は、まっすぐに夜空を仰いでいる。 つられて見上げた闇には、白く淡い光が射している。 その先にはこぼれそうなほどの光に満ちた丸い月が、煌々と輝いていた。 「やーまァーーざァーーーきィィ!!起きろォォォ!!!」 乗り込んだパトカーの後部座席で、鬼の副長が怒声を張り上げる。 運転席で眠りこけ、後ろから襟元を揺すられても目が覚めない山崎くんを 苛々と一発、殴りつける。それでも山崎くんの目は覚めない。 首をグラグラ揺らして死体みたいにぐったりしたまま、深い寝息をたてている。 「こンの野郎ォ!上官差し置いて寝てんじゃねえぞ!起きろオルァァァ!!!」 「ああああ、だめっ、死んじゃうよ土方さんっっ」 掴んだ首を一捻りしそうな勢いの鬼に怯えながら、あたしはなんとか二人に割って入った。 殴るくらいで済むならまだいい。この狭い車内でもし、キレた土方さんに刀を抜かれたりしたら。 山崎くんだけじゃ済まない。あたしまで、流血沙汰のおすそ分けをくらうに違いない。 「ね、少しでいいから。お願いっ、ちょっとだけ、このまま寝かせてあげてよ! きっとすごく疲れてるんだよ。山崎くんが、土方さんに怒鳴られても目が覚めないなんて」 ね?と不機嫌倍増の鬼を宥めながら、起きる気配も無い山崎くんの首から手を外す。 外し終わってふと眺めた山崎くんの首には、すでに薄紫色をした手形のアザが。 ぞっとしながら、あたしは引きつり笑いを浮かべる。 ・・・この現場見てなかったら、心霊現象にしか見えないよねコレ。 きっと今夜は眠れないんだろうな、山崎くん。 シートにどさっと倒れ込むと、土方さんは懐を探り始めた。 また煙草が出てくるのかと思ったら、違うものを手にしている。 それをいったいどうするんだろうと思いながら眺めていると、土方さんはあたしの手を取った。 有無をいわせず引っ張ると、取り出したそれをあたしの手に嵌める。 カシャン、と音がして、輪が閉じる。 あたしの手首に、銀色に光る手錠がかけられた。 「・・・しょーがねえ。」 「え、なっ・・・?」 呆れ半分でぽかんとしているうちに、 土方さんは手錠のもう一方を、自分の隊服のベルトにかけていた。 カシャン、と音が響いて、また輪が閉じる。 まるで犬にでもなったような気分だ。なぜかわからないまま、繋がれてしまった。 「ちょっ、なっ、・・・何のプレイですかこれェ!?」 「そいつが起きたら起こせ」 「・・・はあァァ!?」 何の説明も言い訳も無く、土方さんがだるそうに腕を組む。 シートの背もたれに身体が深く沈みこんで、すぐに目を閉じた。 ・・・かと思ったら、また眼光鋭く目を開いて。 すごく不機嫌そうな、疲れた顔であたしを見た。顎でこっちへ来い、と示してみせる。 「えっ、何?どうし」 言い終わらないうちに背中に回された腕が、あたしの腰を抱いてぎゅっと引き寄せる。 抱き抱えられて、足まで持ち上げられて。座る土方さんの脚の間に、すとんと落とされるような格好になる。 落とされた途端に間近で目が合ってしまって、息を呑みそうになる。どきっとした。 あたしはあたふたと身じろぎして、身体を捩じって横を向く。すこし間を開けて、土方さんにくっつかないようにして。 「・・・これじゃ、眠れなくなくなくな・・・じゃなくて、ええと、あの、っ!」 手錠をグイっ、と引かれる。 倒れ込んだら、問答無用で羽交い締めにされた。 「こうでもしねえと、気になんだよ。眠れねえだろーが」 「え、ええっ、なっ?」 「人の夢ん中までのこのこ出てきやがって。しかも泣いて出てくんじゃねェよ。 んなツラして出てこられたら、どっかでのたれ死んでんじゃねえかと思うだろーが」 背後からブツブツとぼやかれて、あたしは目を丸くした。 そういえば、さっきも言ってた。 あたしを探す時間を割いて、仕事が溜まって眠れない、って。 だけど。・・・眠れなかった理由は、それだけじゃないみたいだ。 「ねえ、土方さん。」 「んだよテメ。まァだ文句あんのかよ」 よっぽど眠いんだろう。 いまいましそうに、まるでケンカを売るような勢いで突っかかってくる。 そこまで眠いんだなあと思ったら、可笑しくなってつい笑ってしまった。 夢だなんて。この現実重視なひとが。眠れないくらいに夢を気にしていたなんて。 「そんなに心配してくれてたの?」 「バーカ。冗談じゃねえ」 土方さんは冷えた声で、ぼそっと言い捨てた。 ふと前を見ると、疲れて不満気な表情が窓に映っていた。 一点を貫きそうな目で、暗い外を睨んでいる。 「してねえとでも思ったのか」 ぽつりと漏らした声に、身体が竦んだ。 珍しく響きの悪い、ふてくされたような籠った口調なのに。 ううん、と首を振った。 涙と一緒にこみあげてきた後悔で、肩が震えそうになる。 「・・・・・・思ってない」 茶化したりしなければよかった。きちんと謝ればよかったのに。 ひやかし半分に軽く訊いたりした自分が、嫌になってしまう。 二人揃って黙ってしまったら、今度は外から届く音がやけに耳に響いてきた。 土方さんが睨みつけている窓ガラスは、ほんの数センチ程度に上が開けられている。 ドアを隔ててすぐ外を、歩道を歩く人たちが過ぎていく。 もう深夜も近い。その殆どが、繁華街で遊んだ帰りの酔っ払い。 パトカーが停まっているだけでも気になるのか、中をじろじろと覗き込んでくる人たちもいた。 窓から入るひんやりした風が、肩のまわりを取り巻いていく。 冷えた空気が肩にまとわりつく。肩が冷えるほどに、あたしは湧いてくる後悔に襲われた。 「解ってんなら、手間かけさせんじゃねえ」 「・・・うん」 「・・・次は無ェぞ」 「うん。もう、こんなことしない。だから。・・・だから」 うつむいて返した言葉は、唇が震えて、涙混じりになって。 最後は涙に呑まれて消えてしまった。 土方さんの上着に手を伸ばして、裾をそっと捕まえる。 カチャカチャと、手錠を繋ぐ鎖が擦れて鳴った。 「・・・まだ傍にいても、いい・・・?」 手首にかけられた手錠が、引き寄せられる。背中から回された腕に、腰を引かれる。 土方さんは覆い被さるように、ぎゅっとあたしを抱きしめた。 「土方、さ・・・」 やってられっかよ。 洩れた声と熱い吐息が、耳を塞ぐ。くすぐったくて身を捩った。 頭の後ろに回された手が、髪を掴んで握りしめる。握った髪をぐしゃぐしゃにされる。 「。」 「・・はい・・・」 「金輪際言わねえからな。聞こえてねえとかもう一回とか、後でぬかすんじゃねえぞ」 「え、・・・・・うん」 「考えてもみろ。このくだらねえ騒ぎの発端にしたって、全部テメーの思い込みだろうが。 だいたい俺ァ、一度だって云ってねえんだ。俺がいつ、お前を。・・・・・、・・・」 「・・・・土方さん?」 問いかけて顔を上げた瞬間。唐突に、唇が押しつけられる。 否応なしに侵入してきて、あっというまにあたしを呑み込んでしまった。 久しぶりのキスが、こんなに強かっただろうかと驚くくらいの煙草の香りを運んでくる。 意識が飛んでしまいそうなくらいの、強い眩暈がした。 まるで離れていた間にあったことすべてを、確かめられているみたい。 吸い尽くされて、呑みこまれていく。このひとに食べ尽くされてしまう。 これじゃ唇が離れる頃には、きっともうあたしの中は空っぽになって、骨と皮だけになってしまうだろう。 息苦しさに喘ぎながら、抱かれた腕にしがみつく。 けれど削られていくような身体の感覚とは逆に、こうしているだけで心はこのひとで一杯になる。 昨日までのあたしは、どこへ行ってしまったんだろう。 あんなに躍起になって逃げていた自分は、どこに行っちゃったんだろう。 あたしは、どうやってこのキスを忘れるつもりだったんだろう。 どうやってこのひとを、忘れるつもりだったんだろう。 そっと唇が離れて、おでこをこつんと打ちつけられる。 肩に回されている腕が急に重みを増す。 手先がだらりと垂れて、あたしの胸元まで落ちてきた。 そろそろと目を開けてみる。 シートに身体を沈めた土方さんは、深くうつむいて目を閉じていた。 「・・・土方さん。」 問いかけても返事がない。 しばらく経っても目を開かないし、ぴくりとも動かない。 鬼の副長らしくもなく、そのまま熟睡してしまったみたいだ。 いいのかな。 ・・・山崎くんに、見られても。 副長の威厳も何も、あったものじゃないと思うんだけど。 しかも歩道はすぐそこで、外を歩く誰にこの姿を見られてもおかしくない。 そう気づいたら、なんだか人目が気になって。 外を通る人がいなくても、誰かに見られているような気がしてしまう。 眠る土方さんの顔を、じっと覗き込んでみる。 もしかしたら、寝たふりをして聞いているんじゃないの。 そう思って顔を近づけてみたけれど、山崎くんに負けないくらいの深い寝息しか聞こえてこない。 試しに耳元でそっと、つぶやいてみた。 「土方さん」 少し待ってみても、睫毛がぴくっと揺れただけ。 起きる気配はどこにもない。 ぐらっと傾いだ頭が、あたしのほうへ倒れてくる。 こんなに疲れさせてしまったことを、悔やみたくなった。 なのに、心の奥で何かがふわりと弾む。 悪いと思っているのに、この疲れきった寝顔が愛しくて。どこかくすぐったいような甘さに包まれる。 「・・・ただいま」 ごめんね。 また帰ってきちゃった。 迎えに来てくれて、ありがとう。 閉じた目元に、一瞬だけ唇で触れてみる。 目が覚めているときなら、させてもらえないはず。してみたことはないけれど、たぶんそう。 相手にもされないか、素っ気なく避けられるかのどっちかだろう。 だから起こさないように、そっと。かすめるくらいに軽く、触れてみるだけ。 触れられる。突然消えて、いなくなったりしない。 目の前にいるこのひとは。身体が竦むようなさみしさにかられる、あの夢のように。消えたりしない。 「・・・・・大好き」 ほっとして溢れた涙を、もたれた胸に押し付ける。 繋がれていないほうの手で、眠ったひとの髪を撫でてみたり。 頬をつまんで、軽く引っ張ってみたり。 目が覚めているときなら、嫌がってさせてくれそうにないことばかりを何度も繰り返してみる。 そのたびに眠っているひとの眉間が、険しく曇る。 そんなことすら、涙が出そうに嬉しくなってしまう。 目が覚めたら、最初に何て言おう。 色々思い巡らせてみても、ぴったりくる言葉なんてひとつも見つかりそうにない。 結局、ただ笑って「おはよう」と云うだけ。それが一番、ぴったりくる気がした。 夢から醒めて。瞳が開かれる瞬間。 あたしと同じように、このひとも。 目の前で笑うあたしを見たら、ほっとしてくれるんだろうか。 それから一時間後。 びくっと大きく震えて突然目を見開いた山崎くんが、「スンマセン副長ォォォ!!」と裏返った声で叫ぶまで。 あたしは飽きることも無く、珍しく無防備に寝顔を晒しているひとを眺めていた。 自分でも、どうにかしているんじゃないかと笑いそうになるくらいに。 目の前で眠るひとだけを、ただみつめていた。
「 純愛狂騒曲!」end text by riliri Caramelization 2008/11/26/ ----------------------------------------------------------------------------------- 次は過去編 クリスマス前でお仕事中です。 next ↓ はおまけの「純愛…」その後妄想。 「その夜のスナックお登勢 」 長ーーい風呂から上がった総悟 上着は肩に引っ掛けて 万事屋の階段降りていきます 赤い顔してます 目もちょっと赤いかもしれないです 何も無いようなとぼけた顔で降りてきて 銀さんとカウンター席に並んで呑み始めます。 いいのかオマエ、いーのかよオイ、とツッコミつつ。店内を見回すと 釜ごと抱えてご飯を食べる神楽と、とっくに帰ったはずの新八が烏龍茶か何かを飲んでいる。 一度は家に帰ったものの 気になってまた戻ってきたらしいです。 最初から赤かった顔が、真っ赤に変わった頃。総悟がぽつりと漏らします。 「泣いてたんでさァ」 「すぐに酔っ払って、何の警戒もねえ顔して寝ちまった。 寝言じゃ野郎のことばかりだ。・・・あんなんじゃ、こっちの戦意も失せるってもんだぜ」 総悟と行った飲み屋でも泣いてたそうです。神楽が銀さんの布団の中で聞いたのと同じです。 カウンターに伏せると、総悟はそのまま寝ちゃいます。やっぱりお酒強くない。 それを横目に眺めた銀さんは、頬杖ついたままで何も言いません。 背後から近寄ってきた新八が、銀さんに声を掛けます。 「もしまたさんが、泣いて逃げてきたら。そのときは僕、銀さんの味方になってもいいですよ」 「バーカ。いらねーよ、青臭せェガキの助けなんて」 コップ片手に目を伏せた銀さんが、ふっと笑います。ちょっとだけ嬉しそうな顔になりました。 * * * * * * * * 以上 入りきらなかったおまけ妄想でした