「・・・・・・ひじかたさん・・・おこってる?」
「・・・・・・」
酒のせいで熱の上がった細身な身体が、その細さには似合わない大きさの膨らみを押しつけながら尋ねてきた。
土方は伏せた視線を背後に流す。
視界の端で着物の肩口に額や唇を押しつけうつむいていた女の頭がわずかに上がり、眉を下げた泣きそうな目で見つめてくる。
庇護心をそそる甘えた視線にどきりとさせられた彼は、むっとしたような困ったような、複雑そうな表情で口端を下げた。
本音では「たりめーだ」と即答してやりたい。だが、自分が何に対して腹を立てているのかを教えてやるのは癪だった。
腹に巻きついた薄桃色の振袖を、やや乱暴に解いて離れる。
すると背後から、ざわりと布団を這って離れていく衣擦れの音と、いっそう萎れているような女の気配が流れてきた。
「・・・。後で山崎に謝っとけ」
沈黙が気まずくて一言投げかけてみたが、からの返事はない。
動く気配もなければ、布団に潜る気配もない。落ち込ませたか、と土方は内心で舌打ちする。
本来はひどく恥ずかしがり屋で、いつまで経っても男慣れしないだ。
こちらから抱きしめることはあっても、彼女のほうから抱きついてくるなど滅多にない。
何も言わない男の態度がそれだけ不安だったのだろう。そう思えばさっきのをいっそういじらしく感じてしまい、うっすらと罪悪感まで湧いてくる。
ここで事情を話すなり、抱きしめるなりしてやればこいつは安心するだろう。だが、・・・そうなれば自然、俺が腹に据えかねた理由をこいつに白状する流れになる。
そいつは御免だ、と決めた土方は分厚い羽根布団を引っ掴む。漆塗りの箱枕を邪魔そうに払い、に背を向け横になった。
「・・・・・・ひじかたさん・・・」
一瞬瞼を伏せかけたが、背中越しに舌足らずで心許なさそうな声が響いた。
仕方なく瞼を上げた彼は、睨むような目で布団を見据える。
の次の言葉を待って一点を見据えているうちに、間近から視界に飛び込んでくる褥の色が目につき始めた。
暗闇でもとろりとした光沢が輝く赤い生地は目に鮮烈で、ちかちかと煩く光ってわずらわしい。
苛立ちつつも黙っていると、背後では掠れた音が鳴り始めた。ざわざわ、さら、と布地が触れ合う衣擦れの音。
背後の女の動きに合わせて鳴っているらしいが、は何をしているのか。
階下の座敷からは隔離された最上階の大広間では、吹き抜けを通して昇ってくる人の声や三弦の音色がぼんやりした響きで漂うだけ。
そんな静まった場所で聴くこの音は、普段耳にするそれよりもずっと妖しくひめやかに聴こえた。
背後の気配につい神経を集中させてしまう自分を歯痒く思い、土方は、ちっ、と舌打ちしてから目を閉じる。
ごそ、と大きく身じろぎすると布団を頭まで被ったが、すぐに彼は目を見開く。どこか投げやりな溜め息を吐き、狭く温かな暗闇を睨んだ。
――抱きつかれた時の甘い感触が全身を疼かせ、身体のあちこちに火を点けている。おかげで眠れる気がしねぇ。
「ひじかたさん、あのね。あの・・・」
「・・・・・・」
「ひじかたさ、の、着物、匂いが、するれす・・・たばこじゃ、らくて・・・おはな、みたいな、いー匂い・・・」
「――・・・・・・っ!」
ぼんやりした声の指摘にぎくりとさせられ、彼は思わず肩を揺らした。
しまった、さっきの移り香だ。座敷で芸妓に纏わりつかれていたのを忘れていた。
再びかあっと目を見開いた彼は、ここで言い訳すべきかどうかと頭を悩ませ焦り始めた。
と同時に、背後の女が怒り出すのではないかと布団の中で身構える。
ところが焦る土方に対して、彼女が怒り出すことはなかった。
しょんぼりと落ち込んだ泣きそうな声で、「・・・ごめんらさいぃ・・・」と舌足らずに謝ると、
「ゃ。やや。やっぱり、おこってる?あたしのこと、おこってるんれすよね・・・?
らって、やまらきくんが言ってた、芸者さんと・・・・・・なのに、あたし、邪魔しちゃっら、から・・・っ」
「・・・・・・、はぁ?」
怪訝そうに唸った男のこめかみが、ぶちっ、と音を鳴らして千切れそうな勢いで激しく引き攣る。
・・・邪魔しただと?何をだ?まさかあれか、俺が、あの芸者と?何を言ってやがんだこいつは。何をどう曲解したらそんな結論に行きつくのか。
つまり、あれか。山崎が不用意に漏らした、あれが原因か。
あれを聞いたせいで、こいつは俺が他の女と寝る機会を持ちたがっていると誤解して。さらには、その機会を自分が邪魔してしまったと誤解して。
邪魔をしてきた自分に対して、俺が――いや、俺といっても実際の俺ではなく、あくまで思い込みが激しいこいつの想像内での男のことだが
――こいつを我が物顔で傍に置いているその身勝手な男が、他の女を抱く機会を潰した自分に理不尽にも腹を立てていると――そう思い込んでいやがるのか。
しかもこの馬鹿ときたら、一体どこまでお人好しなのか。
そんな男に腹を立てるどころか、邪魔をした自分が悪かった、などと謝る必要もないことを詫びてきやがった。
――・・・・・・何だそりゃあ。心外だ、どころの話じゃねえぞ。こいつの目には、俺がどれだけ薄情な奴として映っているのか。
そこまでの経緯を嫌々ながらも仕方なく理解した土方の胸に、言いようのないムカついた気分が徐々にもやもやと溜まっていく。
ふざけんな、とここで一喝したいのは山々だ。だが今日は感情的に動いたがための失敗を既にしでかしていることだし、
ここでまた二の轍を踏み怒鳴ってしまえば、ただでさえ思い込みが激しいこいつの誤解が一体どんな途方もない思い込みを生むことか
・・・・・・どう考えても、ロクなことにはならなさそうだ。いや、考えるだけで頭が痛い。
ここは冷静に言い聞かせるか、と眉間を険しくしながらも土方は頭を切り替える。布団に潜った格好のままで口を開いた。
「・・・お前な、散々言い聞かせただろーが。俺ぁここには仕事で来てんだ、女を買いに来た訳じゃ」
「いいんれす、言い訳しないれくらさい・・・」
わかってますから、とか細く頼りなげな声が付け足してきた。落ち込んでいる時の彼女の声だ。
「よろずやのだんながね、言ってたんれす。
こういうおみせは、おとこのひとにとってはすっごく楽しい場所なんらって。栗ごはん炊き放題もんぶらんも作り放題のえろえろうはうは天国らって」
「またあの野郎かァァァ!」
鼓膜を破りそうな音量で土方が叫び、ばふうぅぅっっっ、と空気が漏れるような音を立てて羽根布団を蹴り飛ばす。
全身から殺気を放ちながらがばっと跳ね起き、さっき払った箱枕をわしっと掴んでべしっと投げた。
「つーかお前どーいうこった!?野郎の戯言は片っ端から真に受けといて俺の話はガン無視か!?」
「そ、そうれすよね、おこってるよね・・・ひじかたさ、きれいなおねいさ、と、えっちなこと、しに、来たのに、っっ」
「人の話を聞けえええええぇ!!!」
数十畳ある大広間を突き抜ける剣幕で土方が絶叫、遣り場のない怒りに任せて拳をどかっと振り降ろせば、めきっ、と布団の下で畳が軋む。
それでも憤慨が収まらない彼は、途方もない勘違いばかりを持ち出してくるに食ってかかろうとした。ところが、
――しゅる、しゅるしゅる、しゅる。
今にも飛びかからんばかりの勢いで振り返ったものの、掠れた衣擦れの音と彼女の姿に不意を突かれて動きを止める。
そんな彼の目に映ったのは――
「・・・ぁ。あたしじゃ・・・・・・らめ、れすか・・・?」
「――っ・・・・・・!?」
絶句する土方を潤んだ目で見つめてきた女は、細い肢体に巻きつけられた帯や帯締めをすでにどれも紐解いていた。
鮮やかな真紅の帯が、細い紐状の帯締めが、藍色の地に薄赤い蓮の花をあしらった帯揚げが、艶やかに輝く真っ赤な褥に円を描いて落ちている。
その中央にいたたまれなさそうに座るの着物が、土方の目の前ではらりと肩から滑り落ちていく。
まばゆいほどに白い胸のふくらみが同じく白い襦袢の影からふるりと零れ、薄い腹部、背中もすべて露わになる。
大胆に肌を曝け出してきたが、それでも腰回りだけは隠したいようだ。
褥に落ちた薄桃色の着物を震える両手がきゅっと掴み、もじもじと揺れる下腹部まで引き寄せていく。
「お、おっ、おんなの、ひと、かっ、買いに、きた、ん、れしょ・・・?それなら・・・ぁ・・・あたしを、買って、くらさ・・・っ」
自分から裸身を見せつけているのにひどく恥ずかしそうな彼女は、腰だけを着物で隠しながら褥の上を擦り寄ってくる。
が。・・・・・・抱きしめるだけで恥ずかしがって腕の中で暴れる、あのが――
ほっそりした女の手でおずおずと腿に触れられ、呆然と彼女を見つめるしかなかった土方は、ごくり、と大きく喉を鳴らした。
いや、こんな事は前にもあった。ほんの一、二度ほどではあるが、確かにあった。
けれどそれは、どれもがいつものではなかった時だ。偶然が重なって起きた事故により彼女が普段の彼女ではなくなってしまい、日頃の強い羞恥心が鳴りをひそめていた時。
だが、今はその時とは違う。上目遣いに彼を見上げる濡れた瞳が、恥じらって揺れ惑いながらも何かを語りかけようとしている。
の意思が、その目つきから読み取れる。恥ずかしいけれど触れてほしいと、唇を噛みつつも訴えてくるのだ――
ふい、と女の素肌から視線を逸らした土方の目元が吊り上がる。普段は冷えきった色をした瞳に、焦れたような熱っぽい色が生まれ始めた。
――この野郎。何が自分を買え、だ。お前を買えだと?冗談じゃねえ。金で済むなら苦労はねえんだ。
俺が積んだ金でこいつの全てが手に入るものなら、とっくに金をつぎ込んでいる。
誰の目にも入ることがないよう、他の奴の手が届かねえよう、俺の手しか届かない何処かに鍵でも付けて閉じ込めておくってぇのに――
「・・・・・・お前、てめえが何を口にしてんのか判ってんのか」
掠れた声を漏らした喉は、いつのまにかひどく渇いていた。腹の奥が急に熱く滾ってきて、乱れた着物の袷をきつく掴んで衝動をこらえる。
彼は自分でも意識することなく、ごくりと大きく生唾を飲んだ。
そうだ。こいつはひどく酔っている。
――朝が来れば、ここで何があったかは覚えていない。
「・・・買えだと?はっ、やなこった」
「・・・・・・っ」
「俺が買いに来たのは、一晩遊んでも後腐れがなさそうな女だ。てめーみてーなガキくせえ馬鹿は願い下げだ」
身体の奥にこみ上げてくる感情が外に出ないよう抑えつけながら、彼は無愛想に言い捨てる。
は唇を噛みしめていたが、こらえきれなかったのか全身が震え始めた。
悲しそうに曇った大きな瞳が、目尻にじわじわと膨らんでいく透き通ったしずくで潤んでいく。
「・・・・・・・ぃ。行っちゃう、の。さっき、言ってた、人の、とこ・・・」
「・・・行くなら、どうする」
「ゃあ。やだ。行かないで。やだ。あたし・・・・・あたしだって・・・できる、もん。
そのひと、が、ひじかたさんに、してあげる、ことっ、できるもん。・・・が、がんばるから・・・できる、から・・・っ」
嗚咽で唇を震わせ、何度も言葉を途切れさせ、たどたどしい子供のような口調では彼を引き止めてくる。
瞼の縁から溢れたしずくが、赤く染まった頬へつうっと滴っていく。
何か我慢しているような苦々しい顔でそれを眺めた土方は、黙って細い手首を取った。
ぐい、と唐突に腕を引けば、あっ、と驚いた声を上げ、姿勢を崩した女の身体が彼の胸に倒れ込んできた。
真正面から抱き止めたやわらかな腰を強引に奪い、自分の脚を跨ぐようにして座らせる。
両腕できつく抱きしめ逃げ出せないようにしながら、まだ状況が飲み込めていなさそうに目を見開いている彼女の唇をすかさず塞いだ。
「っあ・・・・・ん、ふ、ぅ」
驚いた女の肩が竦んでいたが、ぐ、と強めに唇を押しつけ迫っていく。
胸と胸を密着させれば、何とも言えないやわらかい感触で頭の中を一杯にされた。
着物越しに手のひらに納まった腰の丸みをきつく握ると、びくん、と身体を浮かせたはそのはずみに唇を半開きにした。
はぁ、と火照った吐息を漏らしたあわいから、一気に舌を滑り込ませる。
酒に酔った女の口内は熔けそうに熱く、さっき呑んでいた苺色の酒のせいかやたらに甘い。
甘味など口にしない彼にとっては眉を顰めてしまうほどに甘かったが、どうにもならない飢えを癒そうとしている獣のような気分で甘ったるい舌に絡みつく。
ざらざらとした互いの感触が触れ合うと同時で、火照った頭を後ろから押さえる。怯えたように縮こまる女の舌をきゅうっと吸う。
途端にびくんと背筋を跳ねさせた感じやすい身体を、俺の好きにさせろ、と言い聞かせるつもりでやわらかく撫でた。
浴びるように呑んだせいか、火照った肌は汗ばんでしっとりと手に馴染んでくる。
腰から腹を撫で上がり、豊かな膨らみを露わにした胸に辿り着けば、薄紅色の小さな蕾を中指の先で押し上げる。
すると、あっ、とが甲高く啼いて彼の腕に縋りついてきた。
固くなってきたそこを何度も捏ねたり弾いたりしながら、いつもより熱く感じる膨らみを捻るようにして握る。きつく揉み潰して形を変える。
身体の芯が疼き始めてこらえきれなかったのか、土方の指先が頂に触れるたびには声を漏らしていた。
胡座を掻いた脚の中に納まった細い腰が、彼の手の動きに合わせてびくびくと跳ねる。
「っう・・・ひ・・・・・ぁ、だ、めぇ・・・」
「どうした、もう逃げ腰か。そりゃあねえだろ。あの娼妓の代わりに一晩愉しませてくれるんじゃなかったか」
早くこいつを貫きたい、と腹の奥で燃え盛っている衝動を押し殺しつつ言い聞かせたが、はまだ戸惑っているらしい。
彼の着物の肩のあたりを握り、これ以上の口内への侵入を拒むかのように必死に仰け反り背を逸らす。
身体ごと離したがっているのだろうが、土方は許してやる気になれなかった。
いやいや、と左右によじれる腰を抱きしめ、酒の甘さが残った女の口内を大きくこじ開け、舌を深く絡ませる。
くちゅくちゅと厭らしい音をわざと鳴らし、甘い口内で酒の香りと煙草の匂いを混ぜ合わせながらじっくりと嬲った。
土方の動きに翻弄された彼女が抗う気力もなくした頃に、舌を引き抜き赤い唇をそっと啄む。
唇がかすかに触れ合う距離から苛立たしげに目元を細めて彼女を見つめ、はぁっ、ともどかしそうな溜息を吐いた。
「お前、どこまで触れさせた」
「え・・・?」
「あの男だ。随分と好きにさせてたじゃねえか」
「・・・すきに、・・・・・・?」
彼が言う「あの男」が誰を指しているのか、例の座敷で踊ったときにはすでに泥酔していたには判らないらしい。
男の手により身体を乱され蕩けはじめている大きな瞳が、不安そうに彼と見つめ合う。
何を言われているのかすら判っていなさそうな目。酒気に呑まれて思考がうまく回っていなさそうな目だ。
下手をすれば握りつぶしてしまいそうに華奢な顎を掴み、喉から耳の下へ五指を這わせて力を籠める。
きつく抑えて顔を上向かせ、濡れて光る赤い唇をまた塞いだ。苦しげに喘ぐちいさな舌を、根元からきつく絡め取る。
は舌を引っ込めながら離れようと足掻いていたが、土方は彼女を抱いたまま腰を浮かせた。
暗闇の中にあっても妖しく光る真紅の褥に、腕に薄桃色の振袖を纏わりつかせただけの真っ白な裸身を押し倒す。
んんっ、と驚いて喘いだ彼女にすかさず覆い被さり、開かせた脚の間に腰を割り込ませながらさらに舌先を伸ばしていく。
じゅ、くちゅ、と籠った水音を鳴らして激しく求め、息苦しさに首を振って逃れようとする身体を抑えつけ、手と手を絡めて自由を奪いながら彼女を味わう。
腹に溜め込んでいた不満をぶつけるかのように、呼吸ごと奪って蹂躙していった。
身体を震わせ仰け反るから何度か唇を離し、顔の向きを変え、すぐにまた、酒気を帯びて熱く火照った女の唇に食らいつく。
息つく間も与えずに貪っていくと、じきに彼の着物を握って抵抗を繰り返していたの指が離れていく。
伏せ気味にした目で真下へ視線を流してみれば、真っ赤な褥の上に晒された淡い色の肩や胸は小刻みに震え、口中で繰り返される激しい愛撫に身悶えていた。
もう腕に力が入らないらしい。
彼女が弱い上顎の裏や喉奥をちろちろと舐めてくすぐり、同時に胸を掴んで揉みしだいてやると、まっしろな喉が反って弓なりにしなる。
互いの唾液で濡れた唇からは、言葉にならない声が漏れ始めた。最初はただ苦しげだったその声に、甘く艶やかな響きが徐々に混ざり始める。
「ぅ・・・・・ふぅ・・・・・ん・・・んっ・・・」
「。言え。どこまで触らせた。名も知らねえ奴の薄汚ねぇ手に、どこまで許した」
「ゎ、わか・・・な・・・・・ぁあ・・・っ。ひ・・・かた、さぁ、」
「どうした。言う気になったか」
「も・・・行かなぃ・・・?そのひとの、ところ・・・おねが、行かな、れ・・・・・ぁ、あたし、がんばる、から・・・っ」
「・・・お前なぁ。何を聞いてやがったんだ・・・」
怒りが滲む双眸をぎらりと光らせ、土方は地を這うような低い声で唸る。
今にも泣き出しそうな顔をした女を叱る気にはならなかったが、ちっ、と鋭い舌打ちで溜まりに溜まった不満の強さを露わにした。
何が「頑張るから」だ、この野郎。人が眉間に皺寄せてくどくどとしつこく説明した話は、ちっとも頭に入っていやしねえ。
「そんなに俺を行かせたくねえか」
「ぅん・・・」
「なら、てめえで脚開け。俺に抱かれてぇなら、自分から身体開いて強請ってみせろ」
「――っっ、ゃだぁ、そこ、っ、さわっちゃ、だめぇ・・・」
粘液に濡れた太腿の内側に指を這わせていけば、彼の手を拒もうとする左右の脚に力が籠った。
閉じようとする太腿を力任せに押し広げた土方は、彼女の奥から漏れ出たぬるつく感触を色づいた素肌に塗りつけていく。
自ら帯を解いたときにも懸命に隠そうとしていた、普段は薄布の中に秘められている部分へ手を伸ばしていく。
感じやすい彼女の腰が褥の上でびくびくと跳ねて「やら、そこ、めなの、らめぇ」と泣いて拒まれても、きゅっと閉じた熱い部分を無理やりに撫で回した。
抱き寄せた時から気になってはいたのだ。なぜか今日のは下着を付けていない。
このまま脚を広げてやれば、愛撫で蕩けた花のような秘所をあますことなく晒すことになる。
真下で組み敷かれているに助けを乞うような涙目で見つめられたが、酷薄そうな笑みに口端を歪めて見つめ返した。
――判っている。どうせ「自分を金で買ってくれ」というあの言葉は、ただの酔っ払いの戯言にすぎない。
彼女が本心からそう望んでいるわけではない。
ビール一本で足腰が立たなくなるほど酔っちまうこいつは、もはやまともな思考など保てていない。
それは判っているのだから、ここまで苛めてやることはない。こいつが本気で泣き出す前に、止めてやればいい。そう判っているのに、それが出来ない――
「どうする。これ以上は嫌だ、ってんなら他を当たるが」
「・・・・・・やだぁ・・・っ。じ、自分で・・・する、から。だから・・・」
大きな目から透明な珠のように湧き出る涙の粒をぽろぽろと零し、ついに屈服させられたは怖気づきながらも彼に従う。
男を知らない少女のようなぎこちない動きで、太腿を震わせながら脚を開いていく。
横たわった褥の表面に爪を立てて縋ると、横を向いてきつく目を瞑る。死にたくなるような羞恥に耐えながら、彼女は土方の目前に晒していった。
たまに啜り泣くようなか弱い声を唇から漏らし、一瞬も逸らされることのない男の視線を身体中で一番熱く疼くところに感じながら、蜜をとろりと滴らせる花弁を左右に広げていく。
秘められていたそこが外気に触れるとぞくりと寒気が這い上がったが、こんな淫らな姿を土方に見られている、と思えば、どうしようもなく疼いてまた熱が上がる。
どうにか脚を開ききったは、ぼうっと潤ませた目で土方に視線を向ける。
これでいいの、と尋ねてくるような視線は羞恥に染まってもどかしげで、脚を閉じたくてたまらないはずなのに閉じようとしない。
彼女に触れたい衝動に強く揺り動かされた土方は、何も言わずにを抱きしめその唇を深く奪った。
――涙を流して恥ずかしがりながらも止めようとしない必死さが、どうしようもなく可愛い。
他の女に奪われたくない一心で男の我儘に従おうとする健気さも、彼の胸を強く締めつけて離さなかった。
このまま抱きしめて離したくない、などとらしくもないことを本気で思ってしまうほど愛おしい。
そんな姿を伏せた眼で陶然と見つめるうちに、こらえっ放しだった欲情がどくんと波打つ。
土方はきつく眉を顰めながら、やわらかな左の太腿に指を埋めて持ち上げた。
どこにどう触れてやれば、この身体が淫らな声を上げて溺れていくか。
数えきれないほど彼女を抱いてきた彼には、考えるまでもなく判っている。
ゆっくりと頭を下げながら、彼女の身体がびくびくと跳ねて反応するところばかりに唇を落とし、素肌に強めに押しつけるようにして熱い舌を這わせていく。
酒のせいでうっすら色づいた首筋から、かすかに震える膨らみの先端。
汗が溜まった胸の谷間や、手で持ち上げて視界に晒した膨らみの下部。ちいさく窪んだ臍のあたりや、太腿の裏側。
たまに舌先で啄み、きつく吸い上げ、鮮やかな赤が目立つ生々しい印を滑らかな肌にいくつも刻んだ。
男を誘いたがっているかのようなあられもない格好で広げられた、熱い部分に唇を寄せる。そこで咎めるような声を漏らした。
「・・・お前、どうして何も着けてねえんだ」
「あっ。ん・・・あぁっ。ゃああ・・・・・・」
「これを見せてやったんじゃねえだろうな。ここの客の男共に」
伸ばした舌の先で震えるそこをつつき、口づけを落とせば、甘い蜜が舌や唇に纏わりついた。
唇に残ったそれを一舐めした彼は、とろりと潤んだやわらかな花弁をざらついた熱で割り開いていく。
悶えて跳ねる腰を逞しい両腕でがっちりと抱え込みながら、こぼれた蜜を縦に深く舐め取る。
ぁあんっ、と喘いだ彼女の秘所へ、ぐちゅり、と荒い仕草で中指を突き入れた。
酒のせいで熱くなった狭い中を、普段のそれよりも早くて手荒な抜き挿しで掻き乱す。
彼女が感じて蜜を溢れさせるところばかりに狙いをつけて、ごつごつと硬い指の腹で強めに扱く。何度もそこを往復させる。
びくびくと腰を浮かせてしなる身体が狂ったような嬌声を上げ、震える指が宙へと伸びて彼女の脚の間に顔を埋めた男の頭に縋りつく。
が長い髪を振り乱し、空いている手で口を押えながら啜り泣く。
快楽の深さについていけずに「もうやめて」と泣きじゃくっても、何も聞こえていないような態度で責め立てた。
「。言え。誰に見せた」
「ち。ちがぁ、・・・れにも、みせて、なっ・・・」
「なら、いつ脱いだ」
「お、ぉきゃく、さ、の、じゃまに、なる、から、んっ、脱げ、て、言わ・・・んっ、ああっ、やぁ、やらぁぁっっ」
はぁ、はぁ、と早い呼吸で喘ぎながら、うわごとのようにが口走る。
涙混じりに蕩けていく女の声にそう聞かされ、一気にかぁっと、頭の芯が熱くなった。
が言っているのは、俺を追ってこの廓に入り込み、引き着に着替えさせられた時のことか。
――客の邪魔になるだと。ここの番頭は、素人のこいつに身体で客を取らせるつもりだったのか。
「・・・・・・っ。ふざけやがって・・・」
「あぁ・・・ゃあ、ぁ、らめぇぇ・・・っ」
「そいつもそいつだがてめえもてめえだ。女が廓街でこれを着せられたらどうなるもんか、少しは疑ってかかれってんだ・・・!」
大胆に開かれた太腿に纏わりついている薄桃色の引き着を掴み、土方は悔しげに呻いた。
とろとろと内腿に伝う蜜と汗に濡れた素肌から引き剥がし、半ば埋もれた小さな芽を舌先で暴いて強く弾く。あぁっ、と叫んで涙をこぼしたの腰が、途端に褥から跳ね上がった。
「〜〜ぁあ・・・・・っ!」
羽交い絞めにした女の全身が、強すぎる快楽を受け止めきれずにがくがくと揺れる。
涙混じりの軋んだ悲鳴を放ちながらが狂ったようにかぶりを振ったが、暴れられても土方は止めてやらなかった。
ぷくりと膨らんだ小さなそこに、溢れ続ける蜜を舌で塗りつけながら執拗に舐める。
抗う彼女を快感の渦に突き落して溺れさせながら、とろとろに濡れた熱い中を乱暴な抜き挿しで荒らしていった。
「っひ、ひじか・・・っ、あん、あっ、ぁあっっ」
「・・・仕様がねえ、俺がお前を買ってやる」
「ひっ、っああぁ、んん・・・っ!」
指の根元をぶつけるようにして深く差し入れ、素早く引き抜き、往復する動きを速くしての熱を上げていく。
ぐちゅっ、ずちゅっ、と濡れた音を大きく上げ、普段のそれよりも熱が高い透明なしずくを中から掻き出す。
弱いところを何度も突いて、我を忘れて乱れる身体にさらなる快感を与えて追い詰めていく。
やがて「もう、だめ・・・っ」と泣きながら漏らしたの全身が、息を詰めて強張った。
「ぁっ、ぁあんっ、 〜〜ああぁ・・・・・・っ!」
まっしろな背中をぶるぶると震えさせながら土方にしがみつくと、大広間の暗闇を裂くような高い悲鳴を放つ。
絶頂に呑まれていく女の蕩けきった奥に指を増やして突き立ててやれば、達したばかりで感じやすくなっているはもう一度背中を仰け反らせて甲高く啼いた。それでも土方は彼女の身体を抑え込み、手首まで蜜に濡れた手で強い抽差を送り込んでくる。
二度達しても止めてもらえない指の動きに嬲られ続け、涙が止まらなくなったの全身は頭の中まで蕩けさせてしまいそうな甘い痺れで支配される。
じゅぶっ、じゅぷっ、と速い音を鳴らして熱く硬い男の指で突かれるたびに、潤みきったそこはきゅうっと縮む。
土方の指を自分で締めつけているのがわかって死ぬほど恥ずかしいのに、泣き叫んでいないと正気を保てそうにないほど感じてしまう。
「らめぇ・・・・・やめ・・・も、おねがぁ・・・っ」
「はっ、言いやがる。お前、俺に買われてぇんだろ。この手の店で買った女をどう扱おうが、客の自由だ」
「で、でもっ、もう、っっぁ、やらぁっ、ぁあんっ、っあぁ・・・!」
汗で湿りかけた漆黒の髪を握り、やめて、やめて、と口にしながらも男の手の動きに翻弄されて腰を揺らす。
連続して何度も意識を真っ白に弾けさせながら、は子供のように泣きじゃくった。
自ら大きく開いた脚は膝を曲げた状態でだらしなく褥に投げ出され、達するたびに爪先がぶるぶるとうち震える。
しっとりと汗に濡れた悩ましい肢体が自分の手によって追い込まれていく様に見蕩れるうちに、押し殺していた土方の呼吸が次第に荒くなっていく。
彼はようやく指を引き抜き、眉間を曇らせた憮然とした表情で身体を起こす。
長く滑らかな手触りをした女の髪が、赤い褥に波打ち広がっている。
すでに痛いほどに下肢を張りつめさせ、鋭い双眸に欲情を滾らせている土方には、それがひどく扇情的な光景に見えた。
彼女の頬や目元を覆った髪に指を入れて流してやり、力無く横たわる肢体を抱き起す。
くったりともたれかかってくる頭に宥めるような甘い口付けを落とし、自分の胸元に凭れさせてやった。
ちゅ、と音を鳴らして彼女の耳に唇を落とす。それから耳たぶのくぼみに沿って、ゆっくりと焦らすように舐め上げた。
「・・・あぁっ。ゃあ、ひじかたさ、も、らめえぇ・・・っ」
「まだだ。俺に自分を買わせようってんなら、もっと愉しませろ。――」
吐息混じりな低い声で呼びかけ、赤らんだ耳の奥深くまで舌を捩じ入れていく。
くちゅ、くちゅ、と淫靡で籠った水音を鳴らしながら熱い中を舐め回すと、ぐったりしていたはずの身体がびくんと揺れる。
彼の声と舌の蠢きに感じて、蜜に濡れた太腿がか弱くうち震える。
感じやすいところへの愛撫でふたたび疼き始めた彼女が悩ましく腰を捩り始めると、土方は閉じられた腿の間へ手を伸ばす。
秘所に無理やり手を割り込ませ、すっかり乱され火照りきったそこを指で左右に押し開いた。
「ひ、ぅ――・・・っ!」
ずぶ、といきなり奥まで差し入れられ、は暗い天井を仰ぐようにして高く仰け反る。汗に濡れて艶めく胸の膨らみを、ぶる、と大きく弾ませた。
土方の腰のあたりに落ちていた彼女の手が、助けて、とでも言いたげな仕草で彼の着物を掴んでくる。
それでもやや乱暴な動きで奥を突き、土方は勢いをつけて抜き挿しを続ける。
締めつけてくる内部に曲げた指先を押しつけ、急激に狭まったそこを広げるようにしてぐちゅりと回すと、
「っひ、ひじかたさ、ひじかたさぁんっ、ゃあ、こわい、からだ、おかし・・・っ、あぁぁ・・・っ!」
ひっく、ひっく、と弱々しい嗚咽をこみ上げさせていたが、透き通るような白さの背中を逸らせて啼きながら達する。
それでも彼女の手は土方の着物を放そうとせず、夢中で彼にしがみつこうとしていた。
感じやすい自分の身体に戸惑っている女の可愛い仕草に、彼は余裕の無い目を細めて苦しげに笑う。
狭まった中をぐちゅぐちゅと掻き乱しながら、彼女が弱い耳の中も似たような水音で乱してやって同時に責めた。
二つの狭い中を蠢く感触と水音で埋め、触れると嬌声が一際大きくなったところに狙いをつけて指を送り込む。
まるで気が触れたかのように泣いて悶える華奢な身体を、両腕で閉じ込めて気が済むまで弄んだ。
――ここまでやるのはさすがにまずいか。
女の髪や肌が放つ甘い匂いに酔い痴れながら彼女の耳の中を舌で責めるうちに、そんな問いが土方の頭をすっとよぎる。
いや、判ってはいるのだ。彼女が正気に戻った時に、ひどい、と泣いて咎められそうな悪ふざけをしている自覚はある。
けれどここまで煽られたのに止めてやる気になどなれないし、どうせは酔っている。俺がこいつをどうしようと、何を言おうと、腹立たしいことに朝が来れば忘れているのだ。
そんなことを考えて不貞腐れた気分になりながら、唾液で濡れた耳の中に、、と火照った声音で囁けば、深く挿し入れた指をきゅうっと一気に絞られる。あぁーっっ、と甲高く喘いだ白い喉や背筋がしなやかに逸った。
彼の腕の中にある細い腰が、やわらかな太腿が、唐突に襲ってきた絶頂に痺れきって力無くわななく。
土方が指と舌を引き抜くと、熱くて淫らな粘液が彼の腿や真紅の褥にゆるやかに零れる。快感をこらえてきつく閉じていた薄赤い瞼が、わずかに上がった。
はぁ、はぁ、と胸を揺らして辛そうに喘ぐ女が、透明なしずくが滴る睫毛の影から縋るような視線を向けてくる。
「――いいな。お前を一晩買ってやる。ただし金を取るってんなら、俺が言う通りにやってみせろ」
立て続けに達して意識を失いかけている彼女に、息遣いを荒くした土方の命令はどうにか届いたらしい。
衿が肌蹴た男の胸に濡れた頬を預けたまま、はこく、と恍惚とした表情で頷いた。
Caramelization *riliri 2014/04/24/ next →