明け方に、ふと目が覚めたのは。 膝のあたりに感じた柔らかな重みと、そのしっとりした温もりのせいだった。
白の剥落
土方は、自室の障子戸にもたれて一夜を明かした。 固まった身体を伸ばし、ほぐしながら、着物の襟元に目を向ける。 肌蹴ている胸元から、わずかに覗いた白い包帯を手で押さえてみる 左肩から胸へ。昨日負った浅い刀傷が、その奥に隠れている。 しかし痛み止めがまだ効いているのか、寝ている間も痛みは感じなかった。 背後から差し込む眩しさに、ふたたび目を閉じて眉間を抑える。 閉めたはずの障子戸には、わずかな隙間が開いていた。 室内に忍びこむのは早朝の白々とした光と、ひんやり湿った空気。 仰ぎ見た空は、わずかに裾に蒼を残すだけ。 屯所の庭は、すでに光に染まっている。 障子戸の隙間から漏れた白の景色は、眩しく目を焼いた。 焼きついた光の像を目の中に残したままに、もう一度膝を見下ろす。 こいつは、いつからこうしていたのか。 いつのまにか布団から這い出し、その身体を彼の膝に預けている。白い着物の女。 彼の着物に縋りつくようにして、膝上に眠っている。 女の横顔がその目に映る。 焼きついた光の残像が、その横顔のすっきりとした輪郭をぼやけさせていた。 「。」 女の名前を呼んでみた。返事は無かった。 は静かな寝息をたてている。 細い肩と胸元が、その音とともに深い呼吸を繰り返しては、ゆっくりと上下する。 彼の指先が、の髪に触れる。 その流れの表面に軽く触れただけ。何かにためらうように、すぐ指先を離した。 起床時間にはもう少し間があるのだろう。 屯所内には、誰かの起きた気配もない。 見えない糸を張ったように張り詰めた、早朝の空気。 そこにはわずかなゆらぎもなく、すべてが息をひそめてしんとしていた。 「土方さん。」 膝元から、かすれたちいさな声がした。 薄く目を明けたは、身じろぎひとつしない。 ぼんやりした視線を部屋の壁に向けたまま、彼の膝に頭を預けている。 「具合はどうだ。」 問いかけてみても、返事が無い。 瞬きすらしない。 まだ夢の続きから醒めていないような。 身体はここにあるのに、心は遠くに置いてあるような。うつろな表情のままだ。 「・・・寒い・・・」 絞り出したようなちいさい声で、はそう言った。 たった一言。 それだけ言うと、ふたたび目を閉じる。 黙ってそれを見ていた土方が、浅い溜息を漏らす。 背後を振り向き、腕を伸ばして障子の隙間をぴしゃりと閉めた。それから布団を掴み、手繰り寄せる。 寄せられた布団が、の身体ごと彼の膝を覆った。 「てめえで布団から這い出しておいて、寒いもねえだろ」 「・・・ごめんなさい」 「ったく。どういう寝相だ。せめて布団の上で」 「ごめん。・・・土方さん。ごめんなさい。ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・」 ただそれだけが、うわごとのように繰り返される。 そのちいさな声には、感情の起伏が浮かばない。表情と同じにうつろな声で、ただ繰り返すだけ。 彼はしばらく、黙ってそれを聞いていた。 繰り返されるほどに、やりきれない気持ちが彼の中に波立っていく。 そのうわごとを穏やかに止める術は、波立った心には浮かばなかった。 「・・・・謝られたって、嬉しかねえよ」 投げやりな口調で言い捨てると、土方はの肩を抱いて持ち上げる。 そのまま力の抜けた身体を抱き上げて、布団へ移そうとした。 すると、の腕が彼の首にするりと巻きついてきた。 彼女の腕に力が籠もる。その身体が起き上がる。 首にぎゅっと抱きついて、柔らかな胸を彼に押しつけるようにして膝上に座り込んだ。 「・・・ごめんなさい」 「よせっつってんだろ。謝るくれえなら、笑え。」 「・・・・・うん・・・・でも」 「んだよ。」 「・・・・土方さん」 憮然としている土方の前で、目を閉じたの顔が視界を埋めた。 そのまま彼女は、彼の唇を一瞬だけ塞いだ。 ただ触れるだけの、掠めるようなキスだった。 すぐに彼の唇から離れると、また首元に縋りついてくる。 抱いて。 喉から絞り出すような声が、耳元でささやかれる。 土方の唇が何かを言おうと、わずかに開く。開いたところに、の唇が重なった。 彼女の舌が彼の口内にそっと這い、慣れない仕草で彼を追い求める。 おずおずと、ぎこちなく彼女が捉えたその舌先は、捉えられたとたんに深く絡み付いてきた。 そのまま彼女の口内へ自分の舌を圧し込み、奥へ向かって荒らし始める。 「・・・・・んっ・・・・ふ・・・っ・・・・」 熱い吐息が、の口からわずかに漏れた。 朝日に染まり始め、うっすらと白くなりかけた部屋の中。 障子戸にもたれていた彼の身体が動き、縋りついたとともに、畳にゆっくり倒れこんだ。 解かれた二本の帯の流れが。 剥ぎ取られたの下着が。 脱ぎ捨てられた土方の着物が、畳の上に投げ出されている。 「・・・・あっ、や・・・・あっ」 仰向けで布団に組み敷かれたの腕だけが、まだ白い着物に覆われていた。 彼女の首筋に沿って線を描くように、土方が唇を落としていく。 その唇が淡い色の素肌に吸いつき、甘く噛む。そのたびに、の身体は弱く震えた。 彼の頭に、はぎゅっとしがみついている。 その腕を、土方の手が掴んだ。 自分の頭に回された腕をふり解き、彼女の手首をそれぞれに掴むと、身体の両側で布団に抑え込む。 細い腕の束縛から自由になった男の身体が、下へと這っていく。 その唇が、すでに朝の光に露わにされているの素肌に、次々と落とされる。 震えている首筋から、肌の色が淡さを増してゆく胸元へ。そしてまた、その下へと。 弄るように強く吸われたかと思えば、優しく甘く噛んでくる。 強く無造作な刺激と、弱く優しい官能。 その両方が、の身体に交互に重ねられていく。 何度かそれを繰り返しているうちに、彼の唇は柔らかく張ったふくらみの先へと辿り着いた。 それを口に含むと、手を彼女の胸へと這わせる。 ふくらみを持ち上げるようにして掴み、大きな手が強弱をつけて揉みしだく。 口に含まれた先端は彼の舌先に転がされ、噛まれ、そっと吸われた。 「・・・ゃぁっ、ふぁ、んっっ、・・・・」 ふたたび繰り返されていく、強い刺激と弱い官能。 甲高く上がる、の甘い声。 しかし、そこに織り成されているのは、彼女を快楽の渦中へとまっすぐに導く行為ではなかった。 の感じやすい部分を知り尽くしている男だからこそ、出来ること。 どんなふうに触れてやれば、自分に縋りつかずにいられなくなるような身体の火照りを覚えるのか。 どこに唇を落としていけば、身体の奥に湧き上がる快楽に怯えたかのような震えを起こして、悶えるのか。 どうすれば彼女がいっそう甘い啼き声をあげ、理性を失くしてしまったかのように求めてくるか。 彼はとうに知り抜いている。 だが今の彼は、をすぐに満たしてやる気にはなれなかった。 土方は、の最も感じやすい部分をことごとく外した愛撫を続けている。 しかもそこをわずかにずらした、歯痒さを感じるほどに身体が疼く箇所ばかりを狙いながら。 を焦らし続けていた。 「んっ、あんっっ、・・・は・・・ぁんっ」 上がりつづけているの甘い声。 極まりつつあるようにも聞こえる、喘ぎ混じりの細い声。 けれどその声は、実は与えられる刺激への物足りなさと、 その焦らしにすら高い声を上げ、感じてしまう自分を恥じる心に揺れていた。 もどかしさを口に出すことは、羞恥心が拒む。 けれど、身体は正直すぎる。 触れて欲しいところを彼の愛撫が掠めただけで嬌声を上げ、すべてを忘れてしまいそうな 感じやすいところへの刺激を欲しがっている。 乱される女の羞恥と、どうしようもない欲情の高まり。 それを身体で、そして耳で感じとりながらも、彼は女の無言の求めに応えようとはしなかった。 顔を上げると、せつなげな喘ぎなど耳に入っていないかのような醒めた目で、をじっと見る。 すでに力が抜けきっている。 瞳をとろりと潤ませ、その唇は緩く開かれていた。 土方の視線に、気づいてはいる。 けれど、その無遠慮で見透かしたような視線に抗えるほどの力も気力も、その身体にはすでになかった。 それでも、震える手を彼の頭に伸ばす。 細かく揺れる指先が、彼の髪をぎゅっと掴んだ。 それに構うことなく、土方はふたたび彼女の胸に顔を埋め、同じ行為を繰り返す。 苦しげに身を捩り、肌を桜色に染めて乱れるを、無視するかのように。 彼の身体が、の上を次第に滑り降りていく。 胸のふくらみを揉みしだく手はそのままに、唇をさらに下へと這わせていった。 なめらかな肌の上を、なぞるように絶え間なく落とされていく口吻け。それがふと止まる。 土方が上半身を起こす。 その手がの脚に伸び、その太腿を掴んで。 「っっ、ひ・・・じかた、さ、だめっ」 すぐ目の前で、脚を大きく開かされる。 は恥ずかしそうに首を振り、身じろぎして抗った。 濡れた瞳が、懇願するような必死さで、やめて、と訴えてくる。 だが、彼がその懇願を受け入れ、手に込めた力を緩めることはなかった。 土方に抱かれる。 今も変わらず思いつづけている男に、自分の身体のすべてを委ねる。 初めて抱かれた日から、もう幾度繰り返されてきたのかもわからないこの行為。 それでもは、慣れるということがなかった。 何度こうして抱かれても、その恥ずかしさは尽きることが無い。 行為そのものも羞恥を誘う。けれど、より彼女の羞恥を誘うのは、この男に視られる恥ずかしさ。 この近さから、この男に。 すべてを見透かしてしまいそうなその眼に、淫らに溢れさせたところをじっくり見られるなんて。 そう思うだけで、の羞恥の心は強まる。 掴まれた脚は硬くなり、せめてもの抵抗に、泣きそうな顔で首を振る。 しかしその一方で、本気で逃げ出すほどには抵抗しきれない。 すでにコントロール出来なくなってしまった欲情の深さは、この行為の先を求めている。 それぞれに強まる、羞恥と欲情。 心はその両方に挟まれ、耐えられなくなって混乱を来たす。 の目には、じわりと涙が浮かびつつあった。 愛しい女の目に浮かんできた涙を眺めながら、土方はふと口許を緩めた。 彼がこうして強いるたびに、は同じように頬を赤く染め、恥じらい、嫌がってみせる。 幾度と無く彼が目にしてきた、この姿。 剣を奮う姿とは別人のような、頼りない仕草。 こうして抱くたびに彼の腕の中で繰り返されてきた、この頼りなげな抗い。 彼は、彼女よりもよく知っていた。 この抵抗の先にあるものが、実は土方の情動を欲しがってやまないの身体が求める、本音なのだと。 そして、彼女の身体の奥に秘められたその本音を、自分が渇きを覚えるほどに欲していることも。 目の前で彼に開かれた秘所へと、目を向ける。 そこへ辿り着くまでにひたすらに重ねられ、肌に刻まれてきた快感が、彼女の中をすでに蕩けさせていた。 いまにも溢れそうな水量を湛えたそこを外し、わざとそこから遠く離れた膝裏へと唇を這わせる。 さっきまでと同じように、甘く噛み付く。強く吸いつく。 「ゃ、ぁんっっ」 の脚がビクッと揺れて、反った爪先が大きく跳ね上がる。 痛いほどに掴まれていた内腿は、強く撫で上げられ、何度も擦られる。 繰り返される二つの行為は、すこしずつ彼女の内腿を伝い、溢れかけた彼女の中心へと向かっていく。 泣きたくなるほどの焦れったさで、そこへゆっくりと向かってゆく。 指先が、すでに蜜を溢れさせた彼女の入り口に触れた。 わずかに潜らせて、溢れたものを手荒く、掻き出すように拭う。 それだけで、の背筋は大きく反った。 「ぁあんっっ!」 さらに高さを増した、悲鳴のようなの喘ぎ。 それがまるで合図だったかのように、彼女の濡れた秘所へと顔を埋める。 熱くなったそこに舌を這わせ、掻き乱す。湧き上がり、とろりと溢れ出てくる蜜を強く吸い上げる。 ピチャピチャと、大きく音を起てながら舐め回し、その舌先が中へと入る。 ふたたび短い悲鳴が上がる。 熱く潤んだのそこは、さらに奥へ侵入していく舌先の感触に縮み上がった。 淫らな水音と、動きの絶えない舌先の感触。 の羞恥と快楽は、さらに高まっていく。 彼の頭をぎゅっと挟むようにして閉じた太腿はか弱く震え、 背中を大きく捩りながら、指先に捉えた男の髪を縋るように掴み、ぐしゃぐしゃにする。 伏せられた目は、見上げた天井を映すこともない。 自分を翻弄している男の舌が、彼女の中へと押し迫る快楽に溺れていく。 土方が顔を上げる。 同時に彼の指が、彼女の中へと差し込まれる。 ぐちゅっ、と粘り気のある水音をたててそこへ押し入り、今までよりもさらに奥へ進んでいく。 「あっ、ああっっ、ゃ・・・ぁあっ、あんっっ!!」 閉ざされた内壁を圧し開け、その指がさらに奥へと伸びる。 入り込む指を溶かしてしまいそうな熱を帯び、狭まった彼女の中。 知り尽くしたはずの熱の中を、まるで調べつくすように指が這い回る。 見下ろした女の反応を、逃すことなく確かめるような静かさで見つめながら、 より熱さを孕み、蜜を絶え間なく湧き出させているその奥を、長い指先で掻き回す。 すでに陽は上りかけ、絡み合う二人の肢体も白い光に晒されている。 長い髪を振り乱しているの額から、玉のような汗の粒がこめかみへと伝っていく。 その汗を吸い取るように、土方はそっと、彼女のこめかみに口吻けた。 乱れた髪に指を入れて梳きながら、愛おしそうにの頭を撫でる。 彼の背に伝う汗が、朝陽を浴びて光っている。左肩から胸へと巻かれた包帯まで、汗を含んでいる。 熱を帯びた二人の身体は、すでにどちらのものとも知れないほどに濡れていた。 ぐちゅぐちゅと、の奥で奏でられた水音が部屋中に響く。 その音が、の羞恥をさらに掻き乱す。 濡れて火照った身体の芯が疼く。 その奥まで満たされたいと願う、欲しがる自分に逆らえない。 か細い、けれど自制を失くしかけた悲鳴が、寸断無く彼女の口を突いていた。 「あぁんっ、・・・めぇ、だめ・・・っ、あんっっ!」 もう一方の手が、濡れた入り口を撫で上げる。 滑らせた硬い指先が、刺激を欲しがり膨らんでいる、ちいさく尖った先へ触れる。 膨らみは、潰すようにぎゅっと抑えられた。 ぶるっ、と痙攣を起こしたかのように、の全身が震え上がる。 「ぁああんっ!!!」 背筋が跳ねる。 強い刺激をこらえきれずに、細い悲鳴が続く。 潰された膨らみが濡れた指に撫でられ、強く擦られ、弄られる。 入れられたままの指は止まることなく抜き差しを繰り返し、彼女の中を責め立てる。 起き上がった土方の片手が、突き動かされる刺激に跳ね上がっては揺れる、の胸を掴んだ。 白く張ったふくらみを鷲掴みにして揉み、その先を爪で潰すようにして刺激を与える。 「ゃあっ、ひゃ、ぁんっっ!」 彼女の中で動き続けている指が、もう一本増やされた。 ぎゅっと締めつけてくる内壁を広げるように、指先で大きく掻き乱す。 「ぁあんっ!・・・だめ・・・ぇっっ、あっ」 「・・・あァ?」 「っあっっ!ゃぁっ・・・も・・う・・・」 「聞こえねえ。」 可笑しそうな声音でそう言いながら、くくっ、と喉の奥に籠もった笑いを響かせる。 土方は指の動きを止めると、の中から引き抜いた。 物足りなさを感じながらも、欲情のままに呑み込んでいたそれが、 ズブッ、と物欲しげな水音をたてて、熱く締まった中から消えた。 引き抜かれる感触にまで感じてしまう。 の中はびくびくと震え、喪失感に耐え切れずうごめいた。 「!!っっ!ひぁ、んっっ」 「聞こえねえよ。。」 上から倒れ込むように覆い被さってきた、土方の身体。 背中に回された、力強い腕。 指を引き抜かれた快感にまだ息を弾ませていたは、ぎゅっと背が軋むほど抱きしめられる。 子供をからかうかのようにグシャグシャと、髪を掻き乱され、頭を小突かれた。 力の抜けた腕を伸ばし、は男の首に縋るように抱きついた。 この乱暴な仕草の中に、はいつも嬉しさを感じていた。 一見女を扱うにはぞんざいにも見える、その手荒い仕草。 けれど、そのためらいや遠慮の無い仕草の中に、 他の何にも代えがたい、包まれるような安らぎを感じるのだった。 それは家を失い、行き場を失くした彼女が、ずっと求め続けてきたもの。 この腕の中には、自分の居場所がある。 そう信じさせてくれる安心感を、彼女は無意識のうちにずっと探し続けていた。 そしてこの男の腕の中に、それを見つけた。 それは今までに出会った、他のどんな男にも感じられなかった安らぎ。 普段は素っ気無いし、お世辞にだって女の扱いに慣れているとは言えない。 どこか無器用で子供じみたところの残る、自分の世界に生きている男。 なのに、どうしてだろう。 ほんのすこし触れられただけで、すべてを委ねてしまいたくなる。 この無器用な男に、無造作に抱かれる喜び。 その力強い腕にしか感じない安らぎが、胸の奥底まで自分を満たす。身体じゅうを埋め尽くす。 このひとに満たされたい。 そう願うほどにの身体は熱く火照り、蕩けそうな身体が彼を求める。 「云え。どうして欲しい。」 「・・・バカ。・・・いじわる・・・。」 髪から香る煙草の匂いに、顔を埋める。 縋るように抱きしめれば身体が布団へ沈みこむ、火照った男の身体の重み。 背が軋みそうになるその重さは、何度抱きしめても心地よかった。 「・・・・・おねが・・い・・・もう・・・ん、出来な・・・」 「何が」 耳元をくすぐるように素っ気無く返された言葉は、普段と変わらない温度に聞こえた。 だが、すでに彼女の濡れた秘所へとあてがわれたものは、熱を帯びて張り詰めていた。 あてがわれ、焦らすようにぎゅっと押し付けられるその固い感触。 それを欲しがる彼女の腰が、押し付けられる動きに耐えられずに動く。 「やんっ、んっ・・・ぁっっ、やぁっ」 云えよ、とでも言いたげな顔で、土方が彼女の顎に指を掛ける。 乱暴に唇が重ねられて、は甘い喘ぎを漏らす。 口ではの舌を絡め取り、大きな手は胸へと伸びて、固く張ったふくらみの先を痛いほどに弄ぶ。 押し寄せてくる性急な愛撫。だが、それだけで満たされるはずもない。 自分からこんなことを口にするのは、恥ずかしい。 だけど、もう我慢出来ない。 焦れたはどうしようもなくなって、目を伏せる。 真っ赤に頬を染めながらも、本音を漏らした。 「・・・欲しい・・・の・・・」 最後は消えてしまうほどの、か細い声。 震え混じりのそのつぶやきが終わらないうちに、彼女の腰が強く掴まれる。 土方はそのまま彼女の中へと、自身を深く突き立てた。 「っっ、ぁっ、ああんっっっ!!!」 突き立てられた衝撃に、押し広げられ。いっぱいに満たされた快感に、埋め尽くされる。 の身体が大きく跳ねる。 か細かった声が、障子戸の向こうまで届きそうな悲鳴に変わる。 耐え切れず跳ね上がるの身体を抱きしめながら、土方は薄く笑った。 無遠慮に押し入った彼。 彼をぎゅっと咥え込み、溢れさせる彼女の中が欲しがるままに、奥まで激しく突いてやる。 こうやって欲しがるままに突いてやるうちに、いつのまにかもうひとりの彼女は彼の前に現れるのだ。 乱れる自分の欲深さを、隠そうともしない。 潤んだ瞳にまで女の蜜を溢れさせたような恍惚とした表情で、ただ無心に、貪欲に彼を求める女が。 緩みきった唇。 桜色に染まる汗ばんだ肌。 熱にうかされたような、せつなげな表情。 彼の、そして自分の欲望から逃れようとしなって伸びる華奢な身体。淡い色の素肌。 何度視ても飽きなかった。 そして何度触れても、すべて知り尽くした気になれなかった。 「あっ、やんっ、あっっ、あんっ、ああっっっ!!!」 衝動のままに、彼女の中を埋め尽くす。 欲情と羞恥に乱れた身体は、こうして自分の腕の中で溺れている。 愛しい女が、自分を求めて啼いている。身体ごと委ねるように、縋ってくる。 その淫らな声も、その身体の温もりも。すべて自分の腕の中にある。 だが、何度抱いても閉じ込めきれた気がしない。 淡雪のように熱に解けて、消えてしまうような錯覚すら覚えた。 逃すまいと抱きしめた腕には、どこかに隙間が空いているような気がしてしまう。 そこからは、空気のようにするりと抜け出してしまうのではないか。 自分が目にしたことのない、見知らぬ女のような馴染みの無い表情で。 彼女はいなくなってしまうのではないか。 突然別れを切り出してきた、半年前のあの日のように。 「ぁ・・・ぁあん、やぁ・・・も・・・」 うわごとのような甘い嬌声を漏らし、ビクビクと身体を震わせ始めた。 彼女の奥も、身体と同じようにビクビクと彼を捉えてうごめいている。 打ち付けるように抜き挿しを繰り返す彼の限界も、もうそこまで来ていた。 「・・・・・・・っ」 彼女の唇を塞ごうとした、そのとき。 ガタン、と遠くから音がした。 その音に驚いて、の肩がびくっと震える。 互いに障子戸のほうを向き、それから目を見合わせた。 ガタガタと、何かを小刻みに揺らすような音が続く。 おそらく、対の棟かどこかで雨戸を開けている音だろう。 起きてきた者同士が、挨拶を交わしているような声もした。 いつしか部屋の障子戸は、眩しいほどの光で染まっていた。 起き上がって彼女から離れた土方の下で、がもぞもぞと動き出す。 すっかり我に返ってしまえば、明るい中で見られることが恥ずかしい。 腕だけを覆っていた着物の衿を、胸元に寄せる。 流れ落ちる汗が光る胸を隠し、顔を陽光から逸らした。 「・・・もう、朝なんだ。」 そうつぶやいて、ほんの少し残念そうな、けれどほっとしたような顔をする。 疲れきっていた彼女は、そのまま目を閉じようとした。 ところが、強引に抱き上げられた。着物がするりと脱げて落ちる。 胡坐で座った彼の上に差し向かいに座らされると、まだ濡れているそこにそそり立ったものを当てられる。 身を捩り、は土方の腕を振りほどこうと慌ててもがいた。 「やっ、・・・なにす・・・、なんで・・・や、やだっ」 「『なんで』もねえだろ、今さら。」 「だっ、だめっ」 「あァ?」 訊かれたが、言葉に詰まる。 拗ねたように口を尖らせたものの、云いづらいことを口にする恥ずかしさにうつむいた。 「だって・・・だって、あの・・・だから。・・・聞こえちゃう・・・」 「聞こえねえよ。 聞こえたところで、どうせ野良猫が棲みついたくれえにしか思わねえ」 土方がふてぶてしい口調で返す。嫌がるの頬を抑え、無理に唇を塞いだ。 焦らしていたのはこっちのはず。 腕の中で嬌態をさらすが、満たされないもどかしさに、熱い吐息のような本音を漏らすほどに。 なのに最後の最後で、こうして焦らし返される破目になる。 男としては面白いはずもなかった。 思わぬ阻害にあったものの、彼の衝動はすでに抑えきれないものになっている。 「全部呑み込んでやる。好きなだけ啼け。」 「・・・そんな声・・・・出したり、しない・・・・・・」 頬を染めたが、弱々しくかぶりを振る。 「言いやがったな。」 ふっ、と口許だけで笑って、土方はの腰を押し下げた。 いまだに滴るものが絶えないその入り口へ、固さを増したものを無理に押し付ける。 ぐちゅっ、と濡れた音が鳴る。 きゃっ、と小さな悲鳴があがる。 わずかな刺激にも過敏になっているの背中は、それだけで大きく反った。 「きゃっ、・・・・あ、ああっ、やんっっ」 「・・・嫌ってほど啼かせてやるよ」 下から突き上げるようにして、を貫く。 他愛もなく啼き声を漏らす緩みきった唇を、素早く塞ぐ。 彼が突き上げるたびに、華奢な身体の奥からこみあげてくる、我を忘れた嬌声と弾む吐息。 逃がすことなくその唇が吸い上げ、入り込んだ舌が彼女の口内を掻き乱す。 「んんっ、っぁっっ!ふぁ、んっっ!!!」 細い腰を持ち上げ、突き上げるごとに、の中が彼を欲しがり、狭まっていく。 濡れて締めつけてくる、火照った女の奥へ。 放ちたい彼の衝動を、追い立てるようにつのらせていく。 障子戸を通して、室内を白々と照らしている陽光。 陽の光を受け、眩しいほどに白く染まったの身体が弱々しく震え、時折びくんと背筋が跳ねる。 ぎゅっと閉じた目からは、涙が溢れていた。 目を閉じていても、瞼のむこうはうっすらと白く染まっている。 激しく突き上げられる快感に身を任せながら、の意識も真っ白に染まっていく。 土方が、彼女の身体を高く持ち上げる。 そのまま離されて下へ落ちた身体は、強い衝撃で貫かれた。 あっっ、とひときわ大きく放たれた声は、彼の口内へとそのまま吸い込まれ。 同時に起こった身体の震えは、背筋を貫いて彼女の意識を遠くへ運ぼうとする。 ビクビクと痙攣するようにうねり、が彼を締め付ける。 限界を迎えた土方が、彼女の中をさらに突き上げて、その奥へと放つ。 放たれる感覚に身体をしならせて、は意識を手放した。 目の前が、朝の陽光に照らされた障子戸のような、眩しい白に染まっていった。 ぐったりと自分の胸にもたれ、意識の無い。 その身体を布団に下ろし、着ていた白い着物を身体に掛ける。 桜色に染まった頬に、軽く唇を落とす。 緩んでぼんやりと開かれた唇が、わずかにぴくりと揺れた。 あどけなさの残る寝顔を見下ろしながらも、頭の中は昨日から持ち越した仕事を追っていた。 このまま気だるい余韻に浸る時間がないことは、解っている。 土方はどこか眩しげな、憂いの残った表情で立ち上がった。 身支度を整え終わり、懐にあった煙草を取り出す。 それを咥えてから、刀を枕元に置いたままにしてあるのを思い出す。 布団へと振り向いた。 しかしなぜか枕元へ踏み出そうとした足が止まり、怪訝そうな顔になる。 「・・・おい。なにやってんだ」 彼の問いかけに、答える声はなかった。 はいつのまにか、音も無く起き上がっていた。 彼が掛けておいた着物は、布団に座り込んだ膝の上に落ちている。 露わになった淡い色の胸には、彼の刀が挟み込むように抱きしめられていた。 「・・・・ないで・・・」 「あ?」 「・・・行かないで・・・・・」 深くうつむいたまま、目も合わせようとしない。 乱れて顔を覆う髪。そこから覗く唇は、噛み締めるほどにきゅっと結ばれている。 彼が刀の柄に手を掛けると、取り上げられるのを嫌がって振りほどいた。 しがみつくように刀に抱きつき、裸身を強張らせている。 「何の寝言だ。つーか、寝言に付き合う暇ァねえんだ。 お前だってわかってんだろ。おら寄越せ、それ。」 「いや」 「はァ!?」 「いや・・・どこにも、行かないで。」 「ぁに言って・・・・だから寝言は寝て言えっての。 ・・・?おい。まさか昨日のアレで、ついにブチ切れたか」 呆れた顔で、土方がの前に座り込む。 それでもは駄々をこねる子供のように口を引き結び、首を大きく振るばかり。 目にはうっすらと涙まで滲んでいた。 「返せ」 「いや!」 叫んだが腕を伸ばして、いきなり飛びついてくる。二人が布団にどさっと倒れ込む。 勢い余って彼に振り込まれた刀身に顔面を打たれそうになり、うっ、と土方が呻く。 目の前数センチのところでかろうじて受け止め、必死の呈で怒鳴り返した。 「なっっっ、てめっ!!」 「・・・・っ、ふっ、くくくっ、ふふっ、あはははっ」 土方に馬乗りになり、腕で胸を隠しながら、は肩を揺らして笑い始めた。 泣いていたはずの目は可笑しそうに見開かれ、険しい形相の彼を見下ろしている。 「!!?なァに笑ってんだ!!」 「だあってえ!今の顔ォ!!すっっごい必死なんだもんっっ」 「るせえ!誰のせいだと思ってんだ!?鼻ァ折れんだろォが!」 「あーあっ、つまんないっ。見たかったのにぃ!『鬼の副長鼻血ブー』の瞬間っ」 「んなモン見たがる馬鹿ぁ、テメエだけだ!」 「そんなことないよォ!総悟なんて、見たら絶対お腹抱えて喜ぶのに〜〜」 「あァ?総悟が俺の鼻血程度で喜ぶわけねえだろ。」 「ええー。そうかなあ。」 わかっちゃいねえなという顔で眉間を寄せて、土方が短い溜息をつく。 咥えただけの煙草が、ぽろりと落ちた。 「喜ばねえよ。あのドSが腹抱えて心底喜ぶったら、俺の葬式くれえのモンだ。」 ふと彼の口を突いたのは、皮肉めいた戯言。 それを聞いたの身体が、怯えたように竦む。 笑顔で彼をみつめていた表情がたちまちに曇って、沈み込むようにうつむいた。 そのまま急に力が抜けてしまったかのように、彼の胸にぐったりと身体を横たえてきた。 隊服に隠れた彼の刀傷のあたりに触れて、何度も撫でる。 「・・・おい。どうした。」 「土方さん。」 下に敷かれたまま、怪訝そうに自分の表情を覗き見ている。 顔を起こしたは、目の前の男の顔を見上げた。 その顔をまっすぐに見上げれば、昨日のうちから胸に秘めていた思いが揺らぐ。 それでも見ずにいられなかった。 この一瞬を、その目に焼きつけておきたかった。 手にとった砂のように零れ落ちていく、時間が奪っていく記憶の隙間を埋めつくしてしまいたい。 無理だとわかっていても、心の中でそう願った。 目を閉じていても、この鋭い眼差しの奥に潜んだ温かさが、灯りのように暗闇に浮かんできますように。 まるでこの手で、このひとに触れているかのようにはっきりと、どんなときにでも思い出せるように。 声にならない願いは、彼女の瞳を潤ませた。 ぎこちなく口許だけで作った笑顔で、は笑ってみせた。 「ううん。なんでもないっ。」 ぱっと跳ね起きると、まだ何も着ていなかったことを思い出す。 二人の身体に敷かれた着物を引っ張り出しながら、はにかんだように肩を竦めた。 刀身を起て、土方は頭を掻きながら立ち上がった。 「・・・・ったく。何がしてえんだか」 の悪ふざけの理由すら掴めず、不服そうにぼやく。 見下ろしたは、さっと着物を羽織って布団に座っている。 可笑しそうな表情で彼を見上げながら、乱れた髪を指で梳いていた。 白い着物が華奢な身体を包んでいる。 淡い色の肌は、朝の日差しを受けて目映かった。 幾度となく夜を明かして、そのたびに同じ姿を目にしてきた。 なのに、何度見ても飽きなかった。 その姿を目にするたびに感じるのは、この女を自分の腕に閉じ込めておけることへの充足感。 彼がこれまでに、一度も口にはしたことのない思い。 それまでは、女に深く関わる面倒さを越えてまで、誰かを求めることをしなかった男を満たすもの。 自分でも図りかねるような、を抱くたびに湧いてくる柔らかい思い。 障子戸に手を掛けてから、彼は振り向いた。 「お前、今日は一日ここで寝てろ。また倒れられたら敵わねえ。 ・・・明日は非番だからよ。それまでに治しとけ」 「はい。いってらっしゃい。」 見送るは、笑顔で小さく手を振った。 それに応えるのも照れくさい気がして、彼は不服そうに口を曲げたままで部屋を出た。 その日の夜。 普段よりも少し早い時間に、土方は屯所に帰り着いた。 そのまま部屋に戻った彼を待っていたのは、暗く静まり返った部屋。 きちんと畳まれた女の白い着物。 その前には、昨日の夜にあの料亭で刃毀れするまで奮われた、血まみれのの刀が横たわっていた。 気づいて文机の引き出しを開けてみれば、その中に入れてあった彼女の家の合鍵が消えている。 引き出しの中には、合鍵の代わりに置いていったかのように、煙草の箱が一杯に詰まっていた。 暗がりに溶けて見えなかったものが、彼の目に映り始める。 白い着物の上には、同じ色の封筒が重ねられていた。 手にとってみると、裏には見覚えのある丸い字で「土方さんへ」と宛てられている。 封筒の中のものを引き出してみる。中に折られていた白い便箋を広げた。 それはただ目映く白いばかりで、彼に何を語ることもない。 文字のひとつも打たれてはいなかった。 真白い便箋に浮かんできたのは、今朝のの姿。 肌身を晒したままで刀を抱き「どこにも行かないで」と子供のように彼を引き止めた。 「・・・・こっちが訊きてえ。」 てめえこそどこに行く気だ。いつまで俺を待たせやがる。 夕方からわずかに疼きだしていた肩の傷が、機が熟れたかのように痛み出す。 苦い口調でつぶやく彼を、開けられたままの障子戸の向こうに浮かぶ半月だけがひっそりと見ていた。
「 白の剥落 」text by riliri Caramelization 2008/09/04/ ----------------------------------------------------------------------------------- 次は過去編です。 next