「・・・あぁ、さっき言い忘れたけど・・・あのビルだぜ。俺がそのビッチちゃんに一目惚れしたとこ」
「っっあ、ふぁ、あぁ、いっ、ぁあんっ」
「さっき教えたあのビルな。あそこから見てたんだわ、ここのマンションを。 あの浮気調査中に、偶然目に入ったんだよなぁ。最上階の端のこの部屋で、一緒にいる男に裸にひん剥かれてく姉ちゃんを――」
「あっ、あっ、あっっあ、ぁああ、っっあ!」

囁かれながら腰をぐいぐいと押しつけられ、ずちゅっ、と大きく音を鳴らされる。やわらかく潤んだ奥へ鋭く達した先端に、甘い快感を押しつけられる。 最奥に叩きつけてくるその動きは、わたしの上半身を前へ前へと押し出して深夜の冷えた硝子戸に押しつけ、 開かされた脚ががくがくと揺れるような激しさで幾度も繰り返された。

「あぁ、あっ、銀ちゃ、ぎんちゃあぁ、っっ」
「自分でもやべーと思ったぜ。 次の日もその次の日も、依頼が終わっても、ほとんど毎晩あのビルからこの部屋ばっか見てたもんな。 会ったことも声聞いたこともねー女なのに、毎日お前のことばっか考えてたし。 暇さえあればあの子を俺のもんにしてぇって、そればっか。いつかあの男ブチ殺して、あんな辛そうな顔させねーよーにしてやるって。 ・・・馬鹿みてーに毎日、そればっか。なのに――・・・・・・ははっ。何でこーなっちまったんだろーな」

自嘲するような響きの声がところどころ耳に入ってくるけれど、話の内容はほとんど頭に入ってこなかった。
ぐちゅ、ずちゅっ。突き上げられるたびに泡立った水音が大きくなり、頭の中まで響き渡る粘着質な音が銀ちゃんの声を遮ってしまう。 強い抜き挿しをひとしきり繰り返されたわたしの中は、あっという間に熱い潤みで満たされていった。 その潤みをじゅぷじゅぷと掻き回すような動きをされたかと思えば、今度はじれったいほどゆっくりした動きで入口から奥までを擦り上げられる。
息遣いを荒くしながら何度も何度も、銀ちゃんはわたしの中に何かを強く残そうとしているかのようなもどかしい抽送を繰り返す。 最初は慎重で緩慢だったその動きが、次第にスピードを上げていく。 ぐちゅぐちゅに蕩けきったわたしの奥に、所有の印でも刻むかのように、強く、深く、何度も、執拗に突いた。 そんな銀ちゃんを受け止めているだけで何も考えられなくなったわたしは、苦しそうにはぁはぁと喘ぐ硝子の中の自分と向き合いながらまるで人形のように揺さぶられ続けた。 スピードが増したせいで声も出ない。 ずるっ、と勢いよくすべて引き抜かれて、せつなさに全身がぶるぶると身悶える。はぁんっ、と甲高い嬌声が喉を突き抜け、膝ががくりと折れてしまう。 それでも銀ちゃんはわたしを腰から持ち上げて、ぬるりと濡れた先端を奥深くまで叩きつけてきた。

「あああぁ・・・!」
「あん時ぁもうとっくにおかしかったんだよ。今だって、やってるこたぁ結局お前の兄貴と変わんねーし。・・・って、なぁ、聞いてる」
「〜〜っ、はぅ・・・き・・・て・・・るっ」
「ふーん。まだ聞こえてんだ。・・・兄貴にヤられてたときは良すぎて何にも聞こえねーって顔でよがってたのに」
「ち、ちが・・・っっひ、ゃんっ、あぁあっ」

銀ちゃんと義兄しか触れたことのないそこが、きゅうっと彼を締めつけて疼く。 ぁああんっ、とあられもない声で啼いたわたしは両手で硝子に縋りつきながら背中をびくびくと弓反りにしならせた。
違う。違うのに。
そう思いながら覆い被さってきた銀ちゃんの重みや肌蹴た胸の熱さに震え、入口から最奥までを張りつめたもので埋められたままの腰の奥を震わす。 どうして銀ちゃんは信じてくれないんだろう。確かに義兄にも同じことをされてきたけれど、こんな気持ちよさは感じなかった。 こんな、声も何も我慢できずに乱れてしまうような快感を与えられたことは一度もないのに。 心からそう思っているわたしは、何度も銀ちゃんにそう訴えてきた。 なのに銀ちゃんはなかなか信じてくれない。こんな激しいセックスに二人で溺れるたびに義兄のことを引き合いに出し、疑いの言葉を向けてくる。 そして、同じような高さのビルから何度も目にしてきたわたしと義兄の行為がどんなだったかを口にする。 何度かやめてほしいと頼んだけれど、銀ちゃんはいつも行為を激しくすることでそんなわたしの願いをうやむやにしてしまう。
あの日からずっとそうだ。
最初のあの日――わたしが銀ちゃんに秘密を打ち明け、銀ちゃんもわたしに黙っていたことを ――依頼人と便利屋として出会う前からわたしを知っていたことを明かしてくれた、あの日。 あの日から何度も銀ちゃんに抱かれて、いつでも彼の思い通りに身体を委ね続けてきた。 それでも彼の中で燻っている義兄への嫉妬やわたしへの猜疑心は、消えることがなくて――

・・・・・・」

深く息を吐きながら伸ばされた手が、硝子に押しつけられて冷えはじめた胸の膨らみを回しながら撫でる。 横から寄せられた唇に汗と涙に濡れた頬を啄まれ、涙の跡を舐められる。顔を後ろへ向けられて、無理な姿勢に背中が軋む。 喉の奥まで塞ごうとする激しいキスで求められ、眩暈がするくらいに息苦しい。
ようやく唇を離されると、汗と唾液で濡れた背中に、そうっと、くすぐるように口づけられた。 冷たい壁に押し潰された膨らみの先を、くちゅくちゅと指で弄られる。 それと同時に銀ちゃんの腰が動き出せばお腹の奥が重く痺れて全身を快感が駆け抜け、手の甲に押しつけた唇からは言葉にならない淫らな喘ぎ声が漏れるだけだ。

「んふっ、っっぅ、っっぅあ、いっ、ぎんちゃっ、ぃいっ、あっ、あっ、あっ」
「・・・かわいい。かわいいよ、。 最初に見ちまった時もこーやって硝子に胸押しつけられてぐちゃぐちゃに揉まれて、後ろからガンガン突かれてよがってたよな」
「んな、っ、ょがって、なんて、っっ、あっ、あっあっっ」

違う、と否定したくても何も言葉にならなかった。
ぎゅっと両胸を握り潰してきた銀ちゃんの、激しく前後する腰の動きに揺られ続けて、

「よがってたぜ。あの野郎に胸もここも揉みくちゃにされて、こんなふうに」
「っっ、っあぁっ、ゃあ、そこ、っっだめぇ、だめえぇっっ」

くちゅくちゅ、と水音を立てながら、一番感じやすい小さな膨らみも弄られるようになった。 指先で撫で上げたりぐにゅりと突いたりする手の動きに、全身の神経が集中してしまう。 ずんっ、と押し込まれた拍子に上半身まで前へ押し出され、すぐ目の前まで硝子が迫ってくる。 窓枠までみしみしと軋む強い抜き挿しで責め立てられて、男の人の太い指先で快感を押し込まれるそこからは絶え間なく小さな絶頂感が昇ってくる。

「〜〜あぁあっ、だめ、だめだめぇっっ、それっ、いっちゃうっ、あぁまたっ、いっっ、・・・〜〜〜っ!」

わたしは髪を振り乱しながら泣き喘ぎ、窓に縋りつく腕や激しい抜き挿しで揺れる腰を震わせながら何度も何度も昇り詰めた。 こんな時しか出ない涙が瞼の裏を熱くして、視界は霞んでぼやけてくる。 輪郭が曖昧に滲んだ裸のわたしと、わたしを突き上げてはせつなそうに眉を顰める銀ちゃんが硝子越しに目に入った。
・・・・・・ひどい顔だ。あれがわたしだなんて、何度目にしても信じられない。
頬を紅潮させ、ぽろぽろと涙をこぼし、喘ぐ口端から涎を垂らし、苦しさと気持ちよさに顔を歪めきって胸を揺らす厭らしい子。 目の前の夜景に紛れるようにして映っている、見たこともない表情をした子――

「駄目じゃねえだろ。ここ触り出したら余計俺のこと締めつけてんじゃん。 ここが一番感じるよーに仕込まれたんだろ、あいつに・・・・・・あの野郎、んなとこにこれ見よがしに痕残しやがって。 はは、やっべぇ・・・・・・マジで腹立つ」

あの男、マジで殺しときゃよかった。
苛立った声が唸るようにこぼす。触れられるとひりひりと痛みが走るうなじの傷を、熱くて濡れた感触を押しつけるようにして舐められる。 ぬるぬると濡れた肌と肌がぶつかり合うたびに、ぱん、ぱんっ、と破裂音が鳴り響く。 あぁあっ、と震え上がった甘えた声が、啼きすぎて嗄れてきた喉から漏れる。 わたしの体温で温もったせいで白く染まった硝子の表面を、縋るものを求めて立てた赤い爪の先がかりかりと引っ掻く。 強い羞恥で全身が竦んでいるのに、気持ちよすぎておかしくなってしまいそうだ。 突かれるたびにお尻をぶたれてお仕置きされているような感覚に全身が酔って、爪の先まで震えてしまう。
・・・もしかしたら、銀ちゃんはそのつもりなのかもしれない。だけど、判っているんだろうか。
彼にどんなことをされてもわたしの身体は快楽としてしか受け取らないから、いくら苦しくても、酷くされても、あまりお仕置きの意味がないのに――
突き出した腰を思い切り押され、わたしの右脚を、っっ、と苦しそうに唸った銀ちゃんが膝下に腕を入れて持ち上げる。 高く上がった右の脛や太腿の内側が冷たい硝子に貼りつけられ、火照りきった肌がそこだけ泡立つ。 自分の重みを支えきれなくて、左脚の膝がかくかくと揺れてしまう。 立っているのがやっとなこんな格好では、銀ちゃんの動きの激しさに耐えられずにすぐに倒れてしまいそうだ。 震えが止まらない腕を高く上げて硝子に縋ると、ぐちゅ、と押し込む動きで身体ごと窓に押しつけられた。 頬や胸、お腹や腰もぴったりと、透明で冷たい壁に隙間なく素肌がくっつく。 こんなわたしが外からどう見えるかを思えば、死んでしまいたくなるほど恥ずかしい。 けれどそうしている間も銀ちゃんの動きは止まないから、夜景の中で瞬く光に身体を照らされる恥ずかしさに身悶えながら、どうにか身体を支えるしかなかった。

「っっぎ、ちゃあっ・・・」
「あぁ?どした。苦しい?」
「んっ。ちが・・・キス・・・・・・して・・・?」
「ん、後でたっぷりしてやるからちゃんと立ってな。・・・なぁ、ここにもほしいだろ、キス」

そう言いながらわたしの耳を唇で食み、熱く濡れた舌先で撫で、ぴったりと押しつけた腰を大きく上下に揺さぶってくる。 ぐちゅぐちゅと音を鳴らしてゆっくりと、触れられるだけで感じてしまう敏感なところを捏ねるようにして抉られる。 それだけでも脚ががくがくと震えて、左の爪先が床から離れて倒れてしまいそうなのに、奥をぐちゅぐちゅと捏ねながら押し上げられて、

「っああ・・・!」
「きもちいい?それとも、俺よりあいつのほうが良かった?」
「ど・・・して・・いつも、ぃつも、比べたがるのぉ・・・・・・っ。わた・・し、銀ちゃ、と、あのひと、比べたり、しなっ・・・」
「・・・・・・違げーって。比べてーんじゃねえよ。確かめてーの。この身体全部もう俺のもんだって、お前の身体に教えときてーんだよ」
「で、でも、ぎん・・・っっあ、あ、あっ、あんっっ」
「・・・・・や。違うわ。そーじゃねーな。比べてんだわ俺。さっき見ちまったからよー、お前の兄貴の隠し撮り。 どれも辛そうな泣き顔ばっかだったけど、腰、揺れてたぜ。俺とヤってるときみてーに」
「っっ、ちが・・・っ、ゎ、わたし、っ、」
「何が違うんだよ。あいつのこたぁ嫌でも、身体はしっかり感じてたんだろ。 あいつにキスされて、舐められて、何度もここに突っ込まれて好き放題にぐちゃぐちゃにされて・・・はは、やべーわ、思い出しただけでぶっ殺したくなる・・・っ」
「っっ、あ、あ、ああああっ」

速い動きで揺さぶりを掛け、銀ちゃんは下から滅茶苦茶に突き上げてくる。繋がったところから肌を伝って、粘液の雫が太腿や膝までたらたらと滴る。
片足を上げたままの不安定な姿勢にされているせいか、いつもは当たらないところを硬く反り上がった先端が鋭く叩く。 甘く痺れきって潤みに満たされたやわらかい奥を、嫉妬心を剥き出しにした銀ちゃんにぐちゅぐちゅと乱暴に突き上げられる。 義兄とのことを引き合いに出してきたときの銀ちゃんは、いつもこうだ。 突かれるたびに胸の先が硝子に擦られ、どんどん敏感さを増して尖っていく。 上下する動きで押し潰される膨らみには、大きな手の中で揉みしだかれている時と似た気持ちよさが襲ってくる。 全身の震えが止まらなくなる激しさで強制的な快感に溺れさせられて、銀ちゃんの胸と腕で後ろから支えられたわたしは一気に頂点まで追い詰められた。

「あ〜〜っ!あっ、あっ、あぁぁああ、も、だめっ、」
「ごめんな。ごめん。いくらお前抱いても、何回抱いても、忘れられねーんだ。 野郎にヤられてた時のお前の顔が頭ん中にこびりついて、消えねぇんだ・・・だから、こんな・・・っ」

くっ、ときつく唇を噛みしめた顔が、横からわたしに頬ずりしてくる。
すでに何度も達したせいでいつまでも絶頂感で満たされたままの腰をぐっと抱え直されて、ぐりゅっ、と痺れ上がった奥を突かれて、

「〜〜ぁあ!」

衝撃に大きく見張った目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ち、喉や胸まで湿った感触が伝っていく。

「っっだ、だめぇっ、っっあ、それっ、ゃんっ、だめなのぉっ」
「・・・だから殺してやりたくなった。 殺されたっておかしくねえだろ、あんな奴ら。お前のこと散々弄んできた兄貴も、・・・お前に四六時中つきまとってた、あの学生も」

銀ちゃんはどこか陶然とした甘い声でそんなことを言い、目元を緩めて微かに笑う。 甘い口調に気を取られて聞き流しそうになったわたしは、蕩けきった目でぼうっと彼を見つめて――やがて、ふっと息を呑んだ。
(お前に四六時中つきまとってた、あの学生も)
たった今言われたばかりのことを、何度か頭の中で反芻してみる。それでも言われたことが信じられない。え、と尋ね返したら、

「ごめんな。お前には説得したって言ったけどよー、あれ、嘘だわ。あれから一度も見てねぇだろ、あの兄ちゃん」
「・・・・・・」

ごめんな、ともう一度口にした気だるげな顔が、苦しげに表情を歪めて笑う。
うそ、と口の奥でつぶやくと、火照りきった身体中がすうっと冷えた。心臓が不規則な鼓動を打ってざわめき出した。

「・・・・・・ぎん、ちゃ・・・」
「ん。なに」
「・・・あのひと・・・・・・死んだの・・・ころしちゃった、の・・・?・・・・・・・・・・・・にいさんは・・・?」
「・・・・・・ふーん。まだ気になんの、あのクソ兄貴が」

はぁ、はぁ、と荒れた呼吸を漏らしながら心底不思議そうに銀ちゃんがつぶやく。
醒めきったその口調は義兄を痛めつけていたときと同じでどこか異様で、ぞくりと背筋が粟立って、

「どっちだっていいだろ、あんな奴らのこたぁ。あいつらどっちもいらねえだろ?いらねえよな。 お前を付け回して苦しめたり、傷付けるしかできねー奴らなんてよ。忘れちまえよ。・・・俺が全部忘れさせてやるから」

熱く濡れた扇情的なまなざしが、呆然と銀ちゃんを見上げるわたしを横から覗き込んでくる。 すっかり怖気づいて顔を強張らせたわたしの感情の揺れを探るかのように見つめながら、深く繋がり合ったままの腰を上下に大きく振り始めた。

「っ、んな・・・ことっ、って、だって、ぁあ、ぎ、銀ちゃぁ、っっ」
「・・・その顔かわいい。こんな泣き顔もあいつらに見せたんだろ。なぁ、見せてたよなぁ。だよな。 俺も見てたわ、お前が野郎に犯られて泣きながらイッちまうとこ・・・っ」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、っっあぁ、ああああああ・・・!」

滅茶苦茶にぶつけてくる銀ちゃんを締めつけながら達してしまい、ふっと身体が浮き上がるような絶頂と眩暈に飲み込まれる。 抱きしめられた身体がぶるぶると躍りながらしなり、一瞬でがくんと落とされ、また狂ったように貪られ、また達してしまう。 まだ全身を縛る強い痺れから解放されないうちに、銀ちゃんの熱を喜んでとろとろと熱いものを滴らせるそこを突き上げられて――

「ぁあっ、いっ、いっちゃ・・・〜〜〜〜〜〜っっ!」
「もっと声出せよ。どうせ防音だろ、ここの窓。なぁ、きもちいい」
「ん、っっ。きもち、いっっ、あっ、だめっ、だめだめだめだめっ、だめぇ、そこっ、ぃっ、いっちゃ、〜〜〜っ」

何度かそれを繰り返されるうちに、がりっとうなじに噛みつかれる。
つぷり、と皮膚に歯を立てられた痛みが身体を一瞬で突き抜ける。声すら出せない鋭い痛み。 義兄に噛まれたときとは比べ物にならないくらい、衝撃的な痛みが。 全身を強張らせて喉から振り絞った悲鳴が、広い部屋の闇に響き渡った。

「〜〜〜ぃっ、ぎっ、っっ、ぃたぁ・・・ぃっ」
「・・・忘れろよ。忘れちまえよ。あの野郎のことも、この傷も、、全部、俺が消してやるから・・・――っっ、」
「ゃあっ、ゃ、やめ・・・・・・〜〜〜っあああぁっ」
「っあ・・・すげぇ・・・・・いぃ・・・・・・・・・っ、」

苦しそうなのにどこか甘い囁きをお腹から絞り出した銀ちゃんは、力が籠り過ぎて震えが走る手でわたしの胸や太腿をぐっと掴んだ。 じきにその手からふっと力が抜けたかと思えば、かみついたままのうなじからゆっくりと歯を引き抜き、唇を離した。
「・・・ごめんな。痛かっただろ」
達した直後の余韻にうっとりと浸っている時のような甘い声が、荒い呼吸を繰り返しながら尋ねてくる。 跡が残りそうなくらい強く握りしめていた胸や太腿を、愛おしそうにゆっくりと撫で始める。 噛まれたうなじには燃えるような熱が灯り、鋭い痛みが身体中を痺れさせている。 なのに、この人に与えられたものは痛みさえ甘い刺激として感じてしまうわたしの中はいやらしくうねり、銀ちゃんにきゅっと絡みついていた。 はぁ・・・っ、と満足しきったように熱い溜め息を吐いた人に、じゅる、と溢れ出た血を啜られ、噛み痕を宥めるように舐められる。 やわらかく蠢く感触は、ぴりぴりとした痛みをさらに強く押しつけてわたしの肌に染み込ませようとする。 ひりつく感触が嫌で背中を逸らして逃げようとしてしまうのに、それでも蕩けきった身体の芯はうなじの痛みの中に潜む快感のほうを追ってしまう。 手足の先まで弱い痺れが這って、逸らし気味になった背中がぞくぞくと震える。 身動きしただけでぐちゅりと擦れる奥が疼いて、あ、あ、あぁっ、と甘えた声で啼いてしまう。 今にも絶頂に襲われて、強烈な快感に流されてしまいそうだ。 銀ちゃんとこうして何の隔たりもなく繋がれてぐちゃぐちゃに融け合えることが、ただ気持ちよかった。あんな告白を聞いたばかりなのに――
膨らみを撫で回してくる手に自分の手を重ね合わせながら、わたしは銀ちゃんにどんな言葉を返すべきかをぼんやりと思う。 自分の中でびくびくと脈動する熱を感じて喘ぎながら、赤く尖った胸の頂きを弄る指先に自分の指を絡めつける。 夜景に紛れて硝子に映る銀ちゃんは、そんなわたしを見つめて困ったように眉を曇らせて笑っていた。 ちゅ、と頬に唇を落とされても、わたしは硝子に映るその顔にぼうっと見蕩れ続けた。 どこかさみしげに見えるその表情がせつなくて、愛おしくて、どうしようもなく胸を締めつけられる。
(泣かないで――)
疼き続けている身体の辛さを唇をきつく噛みしめてこらえながら、なぜかそう思った。どうしてそんなことを思ったんだろう。 硝子越しにわたしを見つめる銀ちゃんの顔には、一粒の涙も浮かんではいないのに――

「・・・・・・わたしの・・・せい・・・?」
「・・・なにが」
「あの人も、義兄さんも・・・・・・わたしのために・・・してくれたの・・・?」
「・・・さあな。・・・・・・まぁ俺のためじゃねえの、どっちかっつーと。・・・・・・なぁ。俺のこと、嫌んなった?こわい?」
「んん・・・・・・・・・・・・すき。銀ちゃん・・・すき・・・っ」

掠れた声で囁きながら舌を伸ばして舐め上げれば、びく、と背後の銀ちゃんの肩が揺れる。
いつの間にかわたしは血がこびりついた大きな手を持ち上げ、汚れたままの手のひらに口づけていた。
「・・・駄目だって。汚ねーから」
そう言って手を引こうとする銀ちゃんを遮り、ちゅ、と咥えた人差し指の先に吸いつく。
わたしの中を満たしている張りつめたものにそうする時のように、自分のそれとは違う骨太な指を喉奥まで招き入れ、唾液を絡めて吸い上げる。 口内に広がる鉄錆の味は、大嫌いな人のもののはずなのになぜか甘い。誰より憎んだ義兄のもののはずなのに、少しも嫌悪感を感じない。
きっと銀ちゃんの手に付いたものだからだ。
この人に与えられるすべてが、わたしの苦しみや痛みを洗い流してくれる――わたしはもう、それを身体で知ってしまった。 好きな人とこうして交わり夢中で愛される瞬間に、抗いようがない快感や、泣きたくなるような愛おしさや、それまでの自分を一瞬で変えてしまうような何かがあることを、わたしは身体中に教えられてしまったから。
瞼の裏や鼻の奥に自然とこみ上げてくる熱を感じて、あぁ、と感嘆の声を漏らす。 じわりと瞳を潤ませた熱いしずくが、ほろりと一滴、目尻からこぼれる。 頬を濡らしながら落ちていくその涙に、いつも流れる生理的なものとは違う何かを感じて胸の奥まで熱くなる。 銀ちゃん、と囁いて咥えていた指の先をかりっと齧ると、ゆっくりと銀ちゃんの腰が動き始める。 張り出した先で蕩けた壁の気持ちいいところばかりを擦りながら、ずん、ずん、と重く鈍く突かれる。 じきにぎゅっときつく抱きつかれ、硝子に押しつけられながら上下に揺さぶられるようになった。
お腹をどんどん痺れさせていくその動きがせつなくて苦しい。なのにどうしようもなく気持ちよくて、好きな人にこうされることが嬉しくて、しあわせで。 ぴちゃぴちゃと音を立てて手のひらを舐め、指先を舐める。口内の浅いところで咥えていた指が、ぬるりと中へ入り込んでくる。 わたしの舌や粘膜を撫で始めた銀ちゃんに口の中まで犯されているような気分になりながら、涙声を絞り出した。

「すき。すきぃ、っ・・・ひどいよね。おかしいよね、わたし、あの人の、ことも・・・にいさんのことも、こうしてると、ぁん、ど、でも、よくなっちゃ ・・・・・・・ぁあ、ぎんちゃ・・・銀ちゃんの、こと、だけ・・・かんじちゃうっ・・・感じて、たいの・・・っ」
「――っ」
「っあ、・・・っっぁああああ!」

急に腕をぐいと引かれて身体が仰け反り、がりっ、と再びうなじの傷に歯を立てられる。
肌を貫かれるショックと血が噴き出る感覚に背筋が跳ねて、新たな痛みにかぶりを振る。涙腺が壊れてしまったかのように大粒の涙が溢れ続ける。 うなじに溢れる血をざらついた熱い感触で舐められ、押しつけた唇でじゅっと啜り上げられるたびに、金切り声を上げて悶えてしまうくらいの痛みが走る。
このまま殺されてしまうかもしれない。そんな不安が胸をざわつかせている。
けれど、少しもこわさを感じない。こわくはなかった。わたしの首なんて容易く噛み砕きそうな鋭い歯を、薄い首の肉に突き立てられる痛みも。 がむしゃらにわたしを抱きしめて離そうとしない人の腕も。
どれも義兄がわたしに与えた苦痛を遥かに凌ぐ獰猛さなのに、こわくない。嫌だ、なんて思えなかった。
きっと今なら、何が起こってもこわくない。 どんなに義兄に苦しめられても死ぬことを選べなかったわたしなのに、――死にたくなるほど辛くても自分から命を絶つことを一番怖れていたわたしなのに、この人が望むなら死んでもいい、殺されてもいいと心から思えた。 こうして繋がれたまま血を啜られ、首も喉も噛み千切られて、いっそ全身を食べ尽くしてもらえたらいいのに。 そうしたらわたしは、ずっと銀ちゃんのものでいられる。大好きな人の一部になれる。いつでもこの人と融け合っていられる――
片腕を後ろで拘束されて身動きも出来ない姿勢で銀ちゃんに凭れ、わたしは上擦った泣き声と嗚咽を上げ続けた。 ようやく突き立てられた歯が肌から抜かれ、喉を震わす涙声も途切れて全身からがくりと力が抜ける。 なのに次の瞬間、銀ちゃんの熱はわたしを突き破りそうな勢いで突き上げてきて、

「〜〜っっ!ひ、あぁ・・・っ、ぃっ、ゃ、あっ、ぁあああっ」
・・・・・・ごめんな、痛い思いさせて、傷つけて、ごめん、愛してる、、っっ」
「っっぎ、ぎんちゃぁっっ、ぃ、いっ、っあ、ぁあんっ・・・〜〜あああああぁっ」

そのままぐっっと押しつけられ、息が止まるほど強烈な快楽に背筋が跳ねる。
中をみっちりと満たして震える張りつめた熱に頭の芯まで埋め尽くされ、同時に目の前が白光で染まって――

「っっいくぅ・・・っ、いっ、いっちゃうぅっっ」
「いいぜ。イケよ。・・・俺もこのまま、ナカで、出す、・・・っ」
「〜〜っぁあっだめえぇっ、ぎんっ、いっ、いっちゃ、っっあ、あーっ!あっ、あっっ、ああぁ〜〜っ!」

絶頂感に押し上げられた身体が、手足が、びくびくと打ち震える魚のようにもがいて跳ねる。
ついに左足が傾いて身体が崩れ、っっ、と唸った銀ちゃんに硝子に押しつけられながら腰を抱いて持ち上げられた。 右の足先まで床から浮いて、わたしの奥を抉っている張りつめた先がさらに深く食い込んできて、内臓まで刺し貫かれそうなその状態で何度か突かれて ――連続で襲ってくる絶頂でどんどん狭まっていったわたしの中が銀ちゃんをきつく締め上げた瞬間、熱い飛沫をどっと弾けさせた。


「〜〜〜っあああ、あ、あつ・・・いぃっ、やらぁ、あ、あ、ぁああ・・・・・・!!」
「っあ・・・・・・っく、――・・・っ」
「〜〜あぁ・・・・・・だめっ、もう、だめえぇっっ」

密着させられた互いの腰がぶるぶると震える。 鈍く重い快感と、絶え間なく流し込まれる感覚に埋め尽くされる。 さらに何度かじゅぶじゅぶと突かれ、塗り替えられていく絶頂に呑み込まれてふたたび目の前が発光した。
わたしはぐったりと凭れかかった胸の中でぶるぶると震え、力ずくで抱きしめてくる逞しい腕に爪を立ててしがみつく。 銀ちゃんの熱が押し寄せてくる。身体中に溢れ返っている。義兄に同じことをされたときの苦しみも痛みも、この熱は熱く蕩かして洗い流してくれる。 流し込まれる勢いがいつまで経っても弱まらない。 お腹中を満たされていく感覚はたまらなく気持ちがよくて、気がおかしくなってしまいそうだ――
はぁ、はぁっ、と荒く乱れるわたしたちの呼吸の音が重なっては離れ、重なっては離れて火照りきった頭の奥まで生々しく響く。 すべてをわたしに注ぎ終えた人の身体が後ろへ退かれ、その場にがくりと膝を突いた。 支えをなくしたわたしの身体も、冷たい硝子に熱くなった膨らみを押しつけたままでずるずると崩れる。 背後から回された腕に、倒れそうになった身体を抱き止められる。 そのまま二人で硝子に凭れて、わたしは血生臭さが残る手のひらに身体中のあらゆるところを撫でられながら上がりきった息を整えた。 まだ熱の名残りを感じている奥を疼かせるせつなさに震えて、大好きな人とひとつになれた喜びに全身が震える。 なのに指をしっかりと絡めて繋いだ銀ちゃんとわたしの手が目に入ると、その喜びは途端にすうっと退いていった。
夕陽の色に似たブラッドオレンジのネイル。あの人の血を吸った、赤黒い爪――
見下ろしたわたしの手と銀ちゃんの手は、どちらも爪が似たような色に染まっている。 暗い部屋の中でも生々しく感じるその色を怯えた目で見つめるうちに、温かい腕の中にいるのに歯がかちかちと煩く鳴る。 どこから来たのかもわからないこわさに全身が竦む。ふっ、と笑い出す瞬間に出るような小さな震えが喉の奥からこみ上げてくる。 噛まれたうなじが唐突にずきずきと疼き始める。 それと同時に、銀ちゃんの熱を受け止めて蕩けきっていた背筋に、快感とは違う強烈な震えが――強烈な寒気に襲われた時にも似た感覚が、ぶわりと湧いた。


「銀ちゃん・・・・・・・・・・どうしよう・・・こわい・・・どうしよう・・・」
「・・・・・・――お前、そんな顔して泣くんだな」

不思議そうに瞳を凝らした銀ちゃんが、目元を細めて気だるげに笑う。
初めて見た、と嬉しそうにつぶやいた唇が、濡れたわたしの頬に吸いつく。 唇を大きくこじ開けられ、喉の奥まで舌先を捻じ込む深いキスで口内を好きなように味わわれる。 髪を梳きながら頭を撫でてくれる手つきは甘くて優しい。爪の中にこびりついたままの血の匂いが、わたしの髪にも移ってくる。 不規則で早い鼓動を鳴らす胸の中は整理しきれない数の感情と不安で一杯で、混乱と恐怖が身体中を駆け巡っている。

どちらなんだろう。わたしは何を、誰を怖がっているんだろう。
わたしのこころを冷たく侵食していくこの恐怖は、銀ちゃんに対してのもの――?
それとも、義兄たちにこの人がしたことを知っても何の罪悪感も感じていない自分に対してなんだろうか。それに――

――どうしてなんだろう。どうしてこの瞬間なのかわからなくて、自分で自分に戸惑ってしまう。
ごめんな、と囁かれてそのまま抱き寄せられた腕の中で、ひっく、ひっくとしゃくり上げながら、わたしは数年ぶりに訪れた涙の洪水に溺れ続けた。






「 わたしだけのかわいい化け物 」
title: alkalism http://girl.fem.jp/ism/
text *riliri Caramelization  2014/06/08/
「坂田銀時 銀時依存 デレデレ 病み銀時」
華々さま、ありがとうございました !!