――ごうごうと降り注ぐ土砂降りの雨音に紛れて、壁の向こうから声がする。
・・・・・・さっきから聞こえてた、女の人の声。だけどさっきまでみたいに苦しそうでも、せつなげでもない。
壁を通して漏れてくる声は笑ってた。ちょっとあどけないかんじの、鈴を転がしたようなかわいらしい声。
掠れ気味な響きでくすくす笑ってみたり、耳をくすぐる甘くて色っぽい声でささやきかけたり。
普段の銀ちゃんだったら、この色っぽさにいち早く反応しそうなんだけど――今日の銀ちゃんは違ってる。
そんな声なんてちっとも聞こえていないような顔して、あたしの着物を緩めてた。
帯留めや帯紐が器用な指先にするりと解かれて、あっというまに外される。
帯や着物もふわりと緩んで、ずり下げられてたブラのホックも背中でぷちんと外されて――
じっとり湿った雨の日の空気が、半端に脱がされて肌を晒した身体にじわじわ纏わりついてくる。
緩んだ衿元から入り込んできた手に、背中やうなじを撫でられる。そのままずるりと肩まで着物を落とされる。
露わになった肩や鎖骨のところを舌でちろちろ舐められて、んんっ…、って喘いで身体を竦めた、その時――
「――・・・・・・、・・・・・・・・・・・・―――――」
何を言ってるのかまでは判らなかったけど、社殿の中から声がした。鈴を転がすような可愛い声、じゃない。男の人の低い声・・・!
しかも、けっこう大きな声。壁一枚隔てただけの距離を意識させられるのには十分すぎる音量だ。
おかげで元から竦みがちだったあたしの身体は、いきなり冷水を浴びせられたみたいにびくぅぅっと縮み上がって、
「〜〜っぎぎぎんちゃ!まま待っっななっ中の人がぁあぅああわわぅぅ」
「わーってるって。大丈夫、向こうさんにはバレねーよーにすっから」
「・・・っ。ほ、ほんと、に・・・しちゃぅ、の・・・?ここで・・・?」
「するけどー。なに、そんなに気になんの」
壁の向こうを気にしながら必死にこくこく頷いたら、銀ちゃんはちょっとだけ目を見張った。しょーがねぇなぁ、って言いたげな顔が、眉を寄せ気味にして笑う。
「大丈夫大丈夫、気になんのは最初のうちだけだから。すぐに何も考えらんねーよーにしてやるから」
「〜〜っ!っっっな、ば、〜〜ばばばばばばっっ」
「あれっ、どしたぁ、急に真っ赤になっちまってぇ。んだよぉぉそんなに照れんなって」
「照れてないぃ!ちちちちがっっ、これはっ・・・〜〜〜ばっっっ、ばっかじゃなっぅうあうにゅっっっ」
「はいはいそう慌てんなって、舌噛むぞー。・・・ほらー、こっち見て」
よそ見しねーで、俺だけ見てて。
背中をゆっくり撫でられながら、耳元でささやく吐息みたいな声に言い聞かせられる。
耳の奥まで忍び込んでくる息遣いがくすぐったくて、甘い言葉が嬉しくて、・・・でも、目が回りそうなくらい恥ずかしい。
頭の中がしゅわーっと湯気を吹き上げて沸騰しそうなくらい熱くなってる。
こんな時って、どんな顔して銀ちゃんと目を合わせたらいいんだろ――
唇をふにっとくっつけられて、一度離して、角度を変えて。
ちゅ、ちゅってやわらかい音を鳴らしながら大事そうに啄んでくる銀ちゃんは、目尻が下がった嬉しそうな顔してる。
濡れた黒い生地が肌にぴったり貼りついた下半身へ、大きな手が伸びていく。じ、じじっ、ってジッパーを素早く下げてく音がする。
その音が大雨の境内まで広がっていくのが、いかにもここは屋外ですってかんじがして生々しくて、・・・どんな顔してたらいいのか、余計にわからなくなっちゃうよ。
濡れた天パの頭に縋りついてるせいで浮きかけた腰を、大きな両手で力強く掴まれた。
床にぐっと据えられて、閉じかけてた脚の間に割り込まれて――
隠しようもなく開かされたところに、滾ったものを突きつけられる。
燃えそうに熱いそれで触れられたら、銀ちゃんの舌ですっかり蕩かされてる腰がびくんと大きく跳ねて震えた。
「・・・っあ、ぁ、っっ」
「――あぁ、また溢れてきた。なに、これだけで感じちまうの」
「〜〜っっ。ん、んんっ・・・!」
ぐちゅ、ってのめり込んできた銀ちゃんの先は、熱い鉄の塊みたい。太腿を左右に割られて開かされたところに、ずんって強く圧しつけられて、
「ああっ、・・・ぎん、ちゃ、っ、・・・・っめぇ・・・、声、で、ちゃぁ・・・っ」
「さっきもすごかったよなぁお前。ここ、ぺろぺろされて舌突っ込まれただけでイッちゃうとかマジですげーんだけど」
「っあ、ぅ、・・・や、は・・ぁ・・・っっ!」
ぐっ、ぐっっ、ってすこしずつ、だけど勢いをつけて押しつけられて、銀ちゃんの先が狭い中に呑み込まれていく。それだけでイキそうなくらい感じちゃって、
腰を捩じっても脚を振り上げても、唇を噛んでこらえても声が我慢できない。
押し込んでくる動きが途中で止まると、ようやく呼吸できるようになった。強張ってた身体が少しずつ緩んでいく。
はぁ、はぁ、って肩を揺らして息を整えようとしていたら、銀ちゃんがわざと腰を揺らしてくる。
小刻みで弱い刺激がもどかしくて、せつなくって、腰が勝手にくねくね動いて止まらない。
はぁあ・・・っ、って甘えておねだりしてるみたいな溜め息が何度かこぼれて、銀ちゃんが肩を揺らしてくつくつ笑って、
「ははっ、可愛いーその声。お前さぁ、今日いつもと反応違くね。銀さんまだ先っぽしか入れてねーんだけどぉ」
「っ、だっ・・・てぇ、銀ちゃ、が・・・――っっぁ、・・・・・・んん・・・っ、」
わざとからかってくる銀ちゃんの低くて艶っぽい声色に反応して、半端に受け入れさせられた身体の芯がきゅうぅって痺れきってる。
腰が小刻みに震えてくる。
あたしの震えに気付いた銀ちゃんがとぼけきった目を愉快そうに細めて、ゆっくり顔を寄せてくる。
雨に濡れて冷えた耳たぶの輪郭を、熱い舌先でつうっとなぞられる。耳の中をくちゅくちゅ舐められて、甘い震えが背筋をぞくぞく駆け上がった。
必死で我慢してた声がもう抑えきれない。ばか、銀ちゃんのばか。あたしがこれに弱いってしってるくせに・・・!
「ふあぁ・・・、めぇ、それ、っっ」
「んだよー、いーだろぉちょっと舐めただけじゃん」
「だめぇっ、ほんとに、めぇ、なのぉっ・・・ぁ、も、ぎ、ゃ、あぁんっ」
「んなこと言ってぇ、ほんとは全然ダメじゃねーんだろぉ。・・・俺のもんきゅーきゅー締めつけて感じてるくせに」
「だ、だって、ぎんちゃ、が、っひ、ぅう・・・っ!」
腰を抱いてた手が、あたしのお尻を軽く持ち上げて自分と密着させようとする。
ず、ずず、って古びた床と着物が擦れる。硬い床上で引きずられるせいで背中がちょっと痛かった。
だけど蜜をこぼす入口をじわじわ広げられる感覚のほうがうんと強いから、痛みなんてほんの一瞬しか感じなくて――
「あぁ・・・〜〜っ!」
あぁ、入ってく。
じわぁっと潤んだ目をぎゅっと瞑って、唇が切れそうなくらい噛みしめて声をこらえる。
ぶる、って全身をしならせたあたしを、銀ちゃんが広げていく。
もっと深く、深く、ぐちゅ、ずぶ、って粘った水音を鳴らしながら沈んでくる。弱いところをずるりと擦られて、おもわず
ああっ、て悲鳴みたいな声が出た。涙が浮いた目で見つめ返したら、銀ちゃんが「…ん?」って何か気付いたみたいに目をぱちくりさせる。
床に着いてた頭を抱かれて、背中にもう片方の腕が回ってきて、
「あーわりぃわりぃ、お前が下はねーよなぁ。痛てぇだろ、背中」
「――ひゃ、ぇ、っ」
ぐいっ。そのまま軽々と引き上げられて、床から背中がふわりと離れて身体が浮いた。向い合せで脚の上に抱っこされて、違う角度でぐちゅりと擦られる。
あぁっ、と高く喘いで、服が乱れて胸元が大胆に肌蹴けてる銀ちゃんにしがみついた瞬間、
――ずんっ、といちばん奥まで突き上げられた。
「――っぁあ・・・〜〜っっ!」
深くて鈍い衝撃が身体の中心を突き抜けて、頭の中をまっしろに染めて弾け飛ぶ。手足の先まで痺れさせた強い快感が消えないうちに、
腰を持ち上げられて、ずるっと強引に引き抜かれる。あぁぁっ、って叫んで背中を仰け反らせたら、真下から突き上げてきた銀ちゃんに奥までぐぶりと抉られる。
腰から持ち上げられて、また下ろされて。血管が浮くほど力を籠めた両腕にしっかり抱きしめられながら、息がつけないくらい激しく上下に揺さぶられた。
「っあ、やぁ、だ、あ、っそ、そんな、しちゃ、ぎ、ちゃああっ」
「ぇえー、やだって何がー。やだじゃねーだろ、きもちいーんだろぉ。奥突いたら途端にイッたじゃん」
「あっ、だめっ、だめぇっっ、〜〜っっぁ、ぁあんっ、」
「・・・ちょ、なにそのえっろい声。おいおいいーのかよぉそーんなによがっちゃってぇー、
さすがにそれは聞こえんだろぉ、壁の向こうに」
あんだけ恥ずかしがってたくせによー、大胆だよなぁちゃんはよー。
なんて言ったくせに、胸の谷間や膨らみをちろちろ舐めてくすぐってくる銀ちゃんは声を押さえる余裕なんてくれなかった。
ぐちゅ、ぐちゅ、って泡立った音を鳴らしながら、ずん、ずん、ってお腹の底が破れそうなくらいに突かれる。
こわい。身体が壊れちゃう。そんなふうに思うくらい激しくって強いのに、
――腰が揺れる。逞しい胸に押しつけられた身体が、激しい突き上げに合わせて動こうとする。そんな自分が恥ずかしくっていやで、でも、
止められない。身体が勝手に動くのを止められない――
「ひぅ・・・ぁ、あ、あぁっ、・・・・・・――っあ!」
泣きながら銀ちゃんにしがみついてたどたどしく腰を揺らしてたら、もっと奥まで熱い塊を叩きつけられた。
泣き濡れた瞼を薄く開けて見上げたら、うっすら汗を流してこっちを見てた銀ちゃんがにいっと笑う。
一瞬で迫られて、唇を塞がれて、あたしの中で暴れてるものとおなじくらい熱い舌が絡まってくる。
何度もぶつけられて、今にも突き破られそうなお腹の奥が、くるしい。叩きつけられるたびに息が詰まる。
そこに溜まっていく銀ちゃんの熱が全身に回ってくる。お腹の中だけじゃなくて、背中も、肩も、
頭の芯まで銀ちゃんに埋められて突き上げられてる気分になる。
それがすごくくるしくて、突かれれば突かれるほどわけがわかんなくなって、頭の中がぐちゃぐちゃで、うんと大きな声を上げて泣きじゃくりたいような気分になって。
でも。 それでも――止められない。
腰の動きが止まらないよ。やだ。もうやだ。どうして自分からこんなことしてるの、あたし。恥ずかしくって消えちゃいたいよ。どうしよう――
「っあぁ・・・やぁ、やだぁ、だめぇ、ど・・・・・してぇ・・・っ」
「んっ。・・・っ、いい。すげぇいーわ、これ。なぁ、もっと動いて」
「ふぇええっ・・・やぁんっ、だめ、ぎ、ちゃあ、ぎん、ちゃっ」
「だめじゃねーって。泣きながら腰振っちゃうお前、マジ可愛い。てか、えろすぎんだろ――、っ、」
「あぁ・・・!あ、あ、あぁっ」
お尻を大きく持ち上げられて、ずるり、と銀ちゃんがあたしの中を潤してる蜜を掻き出しながら抜け出ていく。
透明なしずくを纏った先端だけが中に残っている高さで、ぱっとその手を離される。
ずん、ってお腹から頭までを強い衝撃で貫かれる。
震え上がって仰け反った首筋に、ふにふにと揉まれて形を変える胸の先に、銀ちゃんが吸いついてくる。
ちゅう、って肌をきつめに吸い上たり甘噛みしながら、何度も持ち上げられて、落とされて――同じことを繰り返された。
身体中が銀ちゃんの匂いと熱で覆われてる。深く、もっと深くって目指してるみたいに突かれる。
身体を割られそうな勢いでずぶずぶと打ちつけられる。蕩けた中をずるりと擦って銀ちゃんが出入りするたびに、
じゅぷ、じゅぶ、って籠った水音が雨音に混ざる。あたしと銀ちゃんの下半身がぶつかるたびにその音は大きくなって、
耳の奥まで纏わりついてくるような濁った響きで頭の中まで埋められて――
「・・・やぁ、だめぇっ・・・、こ、こんな、しちゃ、あっ、あぁっ」
「な。。聞こえるこの音。聞こえてんだろ。どっから出てんのかわかる、このやらしー音」
「〜〜っ。ぁあ、だ、めえぇっっ。・・・っ、っく、ふぇえ・・・・っ、そこっ、だめな、のぉ・・・っ」
甲高い泣き声でうわごとみたいに、だめ、だめ、って繰り返す。
いくら泣きじゃくって頼んでも、逞しくて力強い腕は止まることなくあたしを上下に揺さぶり続けた。
揺さぶられるうちに、何も考えられなくなっていく。
ここがどこで、どんな状況でとか、銀ちゃんに身体を弄られる前ははっきりしてたことが、どれも霞みがかってわからなくなってくる。
水の膜を被った涙目にぼうっと映ってる神社の景色みたい。あふれる水滴に滲んで、揺らいで、かたちを失くして溶けていく。
銀ちゃんにぶつけられる衝撃で痺れきってるそこに、あたしをぜんぶ蕩けさせてだめにしてしまいそうなものが――甘くて熱いきもちよさが生まれる。
あたしの中をいっぱいにして、溢れ出す――
「あっっ、ぃやぁ、いっ、っっ、 んん〜〜・・・っっ!」
「・・・ちゃーん、イッたの何回目。そんなにきもちいーのこれ。俺の脚までお前のでとろっとろになってんだけど」
「っや・・・やあ、ばかぁ、・・・・・・んな、言わな、でぇ・・・っ」
「んだよいーじゃん、今さら恥ずかしがることねーだろ。・・・で、お前今、どーだったの。
誰に見られてもおかしくねーとこで自分から腰振ってイっちゃうのって、どんなかんじ。銀さんにだけ教えろって」
「〜〜〜っ。ぅあ・・・ばかぁっ。ぎんちゃ、きらぃぃ・・・っ」
「んなこと言うなって。・・・いーだろ、教えて。秘密にするから」
あたしの腰を跳ね上げさせてた腕の動きがすこしずつ遅くなって、ぴたりと止まる。
こっちを見つめたままの汗に濡れた顔が、ほんのちょっとだけ眉を歪めた。銀ちゃんも苦しそう。
はぁ・・・っ、て深くてせつなそうな呼吸を漏らして、だらしなく緩んでる唇がふっと微笑む。その直後にずぶりと貫かれて、
「っっあ・・・!」
「。教えて。これ、いいんだろ。それともだめ?だめならやめるけどー。・・・なぁ、言って。きもちーの。よくねーの。どっち」
「っあ〜〜〜・・・!あ、ぁ、や、・・・〜〜〜ひぅ・・・っ」
深い刺激を押し込まれた身体が跳ねて、びくんっっ、と弓なりに反り上がる。銀ちゃんの服が皺になるほどぎゅうっと握りしめて、
涙と熱で詰まってる喉から震えた声を絞り出して、
「やらぁ・・・っ。ぎんちゃ・・・ぁ、もぅ、だめ、だめぇえっ」
「んだよ、だめ?へぇ〜〜だめなんだ、これぇ。んじゃ、ここでやめとくかぁ?」
「〜〜〜〜っっ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・めぇっ。やめな、でぇ・・・っ」
啜り泣きながら答えたら、銀ちゃんがまた動きを止める。
はぁ・・・、って呼吸を整えるみたいに深く息をつく。上がりかけた呼吸を繰り返してる唇は、ちょっと苦しそうに開いてる。
濡れた前髪の下にうっすらと汗が流れる顔は気だるげで、でも余裕ありげに微笑んでて。
あたし以外のものなんて何も見えていなさそうな、どきっとするほど熱っぽい目でこっちを見つめてて――
「・・・ー、もっとはっきり言ってみ。なぁなぁ、気持ちいいのこれ。もっと欲しい?言ってくんねーとやめるけど」
「・・・・・・・・・っ。・・・・・・・・ち、いぃ・・・っ。銀ちゃあ、もっと、してぇ」
「ん。わかった。もっとな。よく出来ましたぁ、っと」
軽い態度でへらっと笑うと、涙で濡れたあたしのほっぺたに、――ちゅっ。
ごほうびのキスをくれた銀ちゃんは、「んじゃ、もっといーことしてみよーかぁ」なんて、弱ってる人をたぶらかそうとする悪魔みたいな笑顔でささやいてくる。
な、いいだろ、って許しを求めるみたいにそっとこめかみにキスする。ひっく、ひっくって肩を揺らして泣きじゃくってるあたしの目を、
瞼を半分伏せてるだるそうな目がじいっと覗き込んできた。
意味深に瞳を細めた表情が妖しげだ。普段の銀ちゃんとは違う銀ちゃん。
新八くんや神楽ちゃんは知らない、あたしだけが知ってる銀ちゃん。飢えた獣が獲物を狙うような目をしてるくせに、
とぼけた笑顔で獰猛さを隠しながらあたしをおかしくしちゃうときの銀ちゃん。
こういう時はいつも胸がどきどきするし、身体中がきゅんと熱くなるし、ほんのちょっとだけこわくなる。
でも、あたしにはこの笑顔の意味を読み取る余裕なんてもう残ってない。
泣いて熱くなった目でわけもわからずにぼうっと見つめ返していたら、銀ちゃんは急に立ち上がった。
あたしを両腕に抱えたままで――熱く潤んだ中で、深く繋がれたままで。重力に従って落ちようとするあたしを、
硬く張りつめた銀ちゃんの先が、ぐちゅっっ、と奥を突いて押し返してきた。
「ひ、ぁ――・・・っ!」
熱い塊で抉られた衝撃で全身が痺れて、大粒の涙がぽろぽろこぼれた。腰や太腿がぶるぶる震える。だらりと力無く垂れてた足の先までぴんとしなって、
お腹の奥から押し寄せてくる波みたいな快感にぶるぶる震える。銀ちゃんの首に縋りついて、肌蹴た胸に顔を埋めてかぶりを振って、
「ふぇええ・・・っ、ゃ、ゃらぁ、これ、だめえ・・・っ」
「ん。いい子だからちょっと我慢して」
背中を丸めて震えをこらえてるあたしのおでこにちゅっと唇を押しつけると、なぜか銀ちゃんは踏み出した。
古い床板をみし、みしって小さく鳴らして、社殿の裏手へ歩いていく。
大股な動きのせいで抱き上げられた身体をずんずんと揺らされて、あたしの中を埋めてる熱にぐちゅぐちゅと深く掻き乱される。
銀ちゃんが足を踏み出すたびに、知らなかった感覚で身体中が満たされていく。
しっとり濡れた黒服の衿にしがみついた手が、銀ちゃんの動きに揺られてる足先が、ぶるぶる震えて止まらない。
だめ。もうおかしくなっちゃう。何度も突き上げられてぐちゃぐちゃにされて、限界なんてとっくに超えてるのに――
回廊の角を折れたところで足を止めると、銀ちゃんはそこの壁にあたしの背中を押しつける。
左脚は下ろして床に足を付けさせて、右脚は下ろさずに膝裏からぐいって持ち上げる。
しっとり冷たい着物の裾を捲り上げられて、下半身がぜんぶ露わになる。着物を避けられて脚やお尻は鳥肌が立ってるのに、
いっぱいに満たされたそこだけが熱い。
――銀ちゃんが腰をゆっくり押しつけながら奥を丸く掻き回してくる。
ぐちゅり。狭い中を広げようとするみたいに抉られて、ずぶりと引き抜かれて、いちばん弱いところを声も出ないくらいに深く擦られた。
「〜〜っっひぁあっ。っああ、あぁんっ」
「しぃーっ。声でけーって」
「っく・・・、ら、ってぇ・・・っ、んなの・・・がま・・・できな・・・っ」
「あーあぁ、いけない子だよなぁはあぁ。外で男にずぶずぶ突かれてんのに、こーんなに濡らして喜んじまって」
「・・・ふぇええ・・、ひど・・・やらぁっ。・・・ってぇ、・・・・・・・・・・ぎんちゃ、が・・・っ」
とろとろと熱いしずくを零すところをぐちゅ、ぐちゅって捏ね回しながらからかわれて、全身をかぁっと火照らせる強い羞恥心が湧き上がる。
どうしていいのかわからなくって、ひっく、ひっく、って泣きじゃくりながらかぶりを振った。
ひどいよ、ばか。・・・・・・・・あたしじゃないのに。
何も知らなかったあたしの身体を、こんなにしちゃったのは銀ちゃんだ。なのに、なのに――
「・・・あーあぁ、そんなに泣くなって」
なのに銀ちゃんは楽しそうにくつくつ笑って、あたしの顔に手を伸ばす。しっとり濡れた頬をやわらかく撫でて拭って、
目尻に唇を押しつけてくる。じわじわと膨らんでいく熱いしずくを、ちゅ、って音を鳴らして吸い取られた。
・・・なにそれ。ばか。銀ちゃんのばかっ。誰がこんなに泣かせてると思ってるの。
あたしだって、こんなことされても感じちゃってる自分にびっくりしてて。
自分で自分がわかんなくって、恥ずかしくって、恥ずかしすぎて死んじゃいたいくらいなのに。
なのに、・・・・・・ひどいよ。銀ちゃんにそんなこと言われたら、もうどうしたらいいのか――
涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、こみあげてくる嗚咽を我慢しながら目の前を塞いでる銀ちゃんを睨む。
銀ちゃんはあたしが口を開くのをじっと待ってたみたい。しっかり目が合っても、熱っぽい色した瞳を細めて薄く笑うだけだ。
「ぅう・・・も、やあぁ。銀ちゃん、きらぃっ・・・・」
「うそうそ、今のぜーんぶ嘘だから。
感じすぎて訳わかんなくなってるときの、すげぇ好き。素直に甘えて縋ってくれて、最高」
「・・・――っ!?」
耳元に寄せられた唇に、ないしょ話みたいに低くひそめた声でささやかれた。
注がれた言葉も声も、甘くて、やさしくて、――とくん、と心臓が跳ねちゃうくらいに胸が高鳴って――
「あのよー、わかる。銀さんよー、今日すげー調子に乗ってんの。つーかかなり嬉しいんだけど。
は普段俺が何してもダメとか最低とか死ねとか言うしー、俺に対してだけつんつんしてんだろぉ」
「そ、それはっ、・・・銀ちゃんがわるいんじゃん・・・っ。こ、こんな、へんなことばっかり、して、くる、から・・・っ」
「んー、けどよー、それでも俺がこーやって強請るとー、おぼこいお子ちゃまなりにいっしょけんめい応えよーとしてくれんだろぉ。
びーびー泣いちまうくらい苦しそーにしてんのにー、なんやかんやで俺に付き合ってくれるしー。そーいうとこが可愛いっつーか、いじらしいっつーかぁ」
男としてはたまんねーし、嬉しいんだけど。
そう言って、ちゅ、って耳たぶの端にキスをする。
甘いささやきにどきまぎしてるあたしの顔に、じわじわ熱が集まってくる。自分でも赤くなっていくのがわかるくらいに、頭の中までぽーっと火照ってくる。
だけどいつも銀ちゃんにお子ちゃま扱いされてるあたしには、こんな時にどう答えたらいいのかなんてわかんない。あわあわしながらうつむいて目を伏せたら、
「だからよーもう一回言ってくんね、さっきのあれ。いつもダメダメ言ってばっかのちゃんがー、あぁん銀ちゃんもっとぉぉ、って素直に欲しがってくれるあれ」
「・・・・・・し・・・しらないっ。ばかぁっ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・銀ちゃんずるい。ずるいよ。
さっきまではいけない子だとか言ってあたしを責めてたくせに。なのに、ずるいよ。
急に好きとか、可愛いとか、・・・・・・・思ってもみないこと言われたから、
身体中が熱くなる。とくとくと弾みつづけてる胸の奥まで、かぁっと火照ってきた。
銀ちゃんの声の響きや吐息の熱が残ってる耳の中がくすぐったくて、もう二度と顔が上げられないんじゃないかってくらい恥ずかしい。
・・・・・・でも、・・・嬉しいって言われちゃった。これって、銀ちゃん嬉しいんだ。呆れてないんだ。喜んでくれてるんだ・・・
意外だった銀ちゃんの言葉を頭の中でリピートしてるうちになんだかすごくほっとして、涙もいつのまにか止まっていた。
そんなあたしの反応が面白かったのか、銀ちゃんはしげしげと眺めてた。くすくす笑った唇を、ふにっと目元にくっつけてくる。
あったかくて濡れた感触で、ぺろりと涙の粒を舐め取られる。その仕草がやけに優しくって甘いから、あたしはいっそう真っ赤になって、どきどきして――
「・・・やっべぇ。そろそろ限界。なぁ、動いてもいい」
「っっ・・・、ひ、あぁん」
「だめ?どっち?いいだろ、なぁ、――」
いいって、言って。
耳を痺れさせる低くて甘い声でおねだりされて、ぎゅっと心臓を掴まれたみたいな気分になった。
だけど返事もできない。銀ちゃんが腰をゆっくり大きく揺り動かしてくるせいで、ぐちゅ、ぐちゅ、ってとろとろに潤んだ中を大きく擦られる。
入口から奥までを往復する感触のせいで頭の芯まで痺れ始めちゃって、ちっとも言葉になってない甘えた喘ぎ声しか出せなくって――
「〜〜っひ、ぅ、ぁあ・・・んっっ。・・・ぎ。ぎんちゃぁ・・・・・・っ。もっと、もっと、してぇ・・・っ」
こんなこと、口にしただけで泣きじゃくりたくなる恥ずかしい。
だけど耳まで真っ赤にしながら我慢して、髪がへなへな萎れた癖っ毛の頭にぎゅうっと抱きつく。
ん、もっとな。
短く答える気抜けした声が耳元で響いて、楽しくって仕方なさそうなかんじでくすくす笑われて。
ぴったりと耳にくっつけられた唇に、息が弾んだせつなげな声を注がれた。
「――。好き」
「・・・〜〜っっ!」
へなへな脱力しそうになる腕にありったけの力を籠めて、唇を噛んで、お腹の底から湧いてくる甘い痺れを涙目でこらえる。
ぐちゅ、ぐちゅ、って濡れた狭い中に深く潜っていく音が聞こえる。どろどろに熱くなったあたしの身体から漏れてくる音。
それがすごくいやらしく聞こえて、どうしていいのかわからなくって。なのに銀ちゃんの腕で腰をきつく抱きしめられて、ぎゅうぎゅう捻じ込まれる。
火みたいに熱くてちょっと乱暴に中を掻き乱してるものが、あたしの中でびくびく脈打ちながら硬く強張っていく――
「っ。ゃ、やらぁ。ぎ、ちゃ、の・・・・・・おっき・・・っ、あぁっ、やぁ、またっ、・・・きく、なっ・・・!」
「ははっ。なにそれ、えっろ・・・っ。てかよー、そりゃあデカくもなるって。・・・んな真っ赤な顔してねだられたらよー。
こっちだって、たまんねぇっつーかぁ、・・・煽られんだろ・・・っ」
「ひぅ・・・・・っ!」
ずっ、ずっ、って背中や帯が壁と擦れてる。床に着いてる左の足まで浮き上がらせてしまいそうな、激しい動きで揺さぶられる。
――まるで壁に縫い止められてるみたい。
銀ちゃんが押し込んでくる強い快感から腰を逃がそうとしても、背後は冷えた壁で遮られてる。
どこにも逃げられなくって、あたしはただ銀ちゃんにされるままになる。今にも弾けそうなくらいに昂ったもので揺らされて、
はぁ、はぁ、って息を乱して。たまに息が止まりそうなくらい強く打ちつけられて、ぽろぽろ転がる涙で頬を濡らしながら喘ぐしかなかった。
きつく目を瞑って視界を塞いで、荒くなった吐息で耳を塞がれる。他に聞こえるのは、水の音だけ。
ざあざあと降り注ぐ雨音と、夢中であたしを貪ってる銀ちゃんが鳴らす、じゅぶじゅぶと泡立つ濁った水音。
ふたつの水音が、ふたりの乱れきった息遣いにいやらしく混ざって、狭い境内まで広がっていって――
湿気をたっぷり含んだ重い空気が肌を冷やす。濡れた髪を、肌をすうっと冷やしていく。
なのにお互いをぎゅっと抱きしめあってる銀ちゃんとあたしの身体は、燃えそうに熱くて滾ってて、もっともっと、ってお互いを欲しがって疼いてて――
「――ぁあ・・・っ!そ、そこ、やっっ。っあ、あっ、やらぁっっ」
「・・・あぁ、いい。すっげぇ、いい。・・・の、ナカ、熱・・・っ」
銀ちゃんの火照った吐息が耳元をもっと熱くする。器用な指先が、熱い抜き挿しを繰り返してるところをぬるぬると撫でてくる。
その上の感じやすいところも、指を何本も使ってくちゅくちゅとめちゃくちゃに弄る。
強すぎる快感が身体の芯を駆け抜けていく。腰ががくがくになっちゃって、声が止まらなくって、・・・もうだめ。立っていられない。
でも銀ちゃんが、すごく熱くて。 なにもかも忘れてしまいそうなくらい、きもちよくて――
「・・・あっ、あっ、あぁんっ、ぎっっ、やぁんっっ、もっ、ぁあっ、だめぇええっっ・・・!」
「・・・・・っ、んっっ、、イッて、っ。俺も――・・・っ」
「ぎ、んちゃぁ、ぎんっ、ひ、・・・っぁあ・・・――っ!」
あっけなく絶頂まで駆け上がってしまっても、まだずぶずぶと打ちつけられる。
っっ、って苦しそうに唸った銀ちゃんの汗がこめかみからぽたぽた垂れて、あたしの肌に染みてくる。繋がったところから太腿へ、熱いしずくがたらたら伝う。
銀ちゃんの激しい動きにどうにか耐えてる左足ががくがくと震えて、腰も震える。
――あぁ、もう、おかしくなっちゃう。きもちよすぎて頭がまっしろになっちゃう――・・・・・・!
「〜〜〜〜あぁん、っぁあ・・・〜〜〜っっ!!」
「――っっ、・・・・・・く・・・はっっ」
土砂降りの大雨を突き抜けるような声を放って達しても、身体の震えがとまらない。
黒い服にしがみついてた手から力が抜ける。無理に片足でささえてた身体がぐらりとよろめく。
その瞬間に、銀ちゃんがぐっと歯を噛みしめて息を詰める。びくびく疼いてる奥をずんって突き上げられて、腰を壁に押しつけられた。
苦しそうな声を漏らしながらずるっと一気に引き抜いて、震えが止まらなくて膝が崩れかけてるあたしの太腿に、ぐちゅり、と強く押しつける。
すごく熱いものを、とろとろに濡れた脚の付け根に吐き出された。どろりと溢れて肌を濡らすその感触にもぞくぞくして、がくん、と腰が砕けてしまった。
ずるずる背中を壁で擦って床にへたり込んだら、伸びてきた腕で抱きしめられる。
そのままずるずる引っ張られて、腰を下ろした銀ちゃんの上に乗せられて、
「〜〜ふぁ・・・ん、む、ぎ、ぎんっ・・・」
「・・・ぁあもうお前さぁ・・・、何なの。んなかわいー声で呼ばれたら銀さんもたねーって。んっ、・・・」
くらくらめまいがしてされるがままになってるあたしと違って、銀ちゃんはあいかわらずな元気さだ。
ほっぺたを両手で抑えられる。むにゅっと挟まれたと思ったら、もう唇を塞がれてた。
くるしぃ、ってもぞもぞ動いてみたり胸を押したりするうちに、腰に回された腕が太腿まで伸びてきて、
白い粘液を浴びせられた肌を何か言いたげな仕草で撫でられる。
――ゆるゆる撫でられただけなのに、ぐったりしてるはずの身体は長い指が這う感触にぶるっと震えた。
「・・・んん、ふ・・ぁ・・・っ」
肌がぞくぞくしてきちゃう。まだずくずく疼いてるお腹の奥から、とろりと何かが溢れ出てくる。
・・・・・・・・銀ちゃんも気づいたかな。・・・いやだ。気づかないで。
泣きそうになって身体を強張らせても流れ出てくる熱いものは止まらなくて、火照りきった腰が勝手に動く。
銀ちゃんの黒い服に肌をぴったり押しつけて、もじもじと揺れる。そんな自分が恥ずかしくってぎゅっと肩を竦ませてたら、
奥のほうまで舌を伸ばして口の中を撫で回してた銀ちゃんが、少しだけ離れて。
だらしなく半開きになってる唇がゆっくりと口端を上げて、愉快そうににんまり笑った。
「・・・なぁなぁ、あのよー、ちゃぁーん」
「なに・・・ぃ?」
「気づいてたー?この中、もう誰もいねーんだけど」
「・・・ぇえ、そ・・・なの・・・・・・?ほんと、に・・・?」
「んー、マジでマジで。さっき扉開けて出てく音したし。なぁ、だからよー」
耳貸してー、って口許に手を当てた銀ちゃんが顔を寄せてくる。
・・・うわぁ、なにこの目つき。目尻がでれでれに下がった、すっごくやらしい目してる。こんな目してる時は絶対に要注意なんだけどな。
だけど身体が動かなくって頭もぼんやりしてるし。ここで「やだ」って断って、銀ちゃんに拗ねられたらめんどくさいし。
まだ夢の中にいるような気分のまま、なぁに、って素直に耳を寄せたら。
「・・・・・・・・・・・・・・って、・・・・・・・・・・・で、・・・だろぉ?だからぁー、・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・〜〜〜っ!?」
こしょこしょこしょ。ごにょごにょごにょ。
耳の中にとろりと滑り込んできたのは――笑い混じりのひそひそ声と、熱い吐息と、それから、・・・聞かされただけで頭が爆発しそうになっちゃうよーなおねだりだ。
「〜〜っっばばばっ、ばっっっかじゃないの!?」って絶叫して、目の前でへらへら笑ってる崩れた顔が腫れ上がるまで往復ビンタしてあげたくなる、とんでもなく破廉恥なおねだり。
耳や顔どころか首や胸元まで赤らめて絶句したあたしを、銀ちゃんがひょいっと抱き上げて、
「な、許してくれたら雨が止むまで可愛がってやるから。もちろん誰にも言わねーから。ぜーんぶ俺だけの秘密にすっからあぁぁ」
「で、でもっ、〜〜〜〜ちょっ、待ってまってっ、っぎ、銀ちゃっっ」
・・・なぁんてあたふたしながら頼んだって、えっちなことで頭がいっぱい、完全にケダモノ化してる今の銀ちゃんが止まってくれるはずがない。
みしみし床が鳴る古い回廊を急ぎ気味に巡って、建物の正面にある扉へ向かう。
あたしたち以外は誰もいなくなったちいさな神社は、土砂降りの雨音に包まれたままだ。
「・・・・・・ほ。ほんとにぃ・・・?」
「んー?」
「・・・誰にも見られない・・・?銀ちゃんだけの、ひみつ・・・・・・・・・?」
心臓が破れそうなくらいどきどきしながら問いかけて、濡れて肌に貼りついてる黒い服をきゅうっと引っ張る。
――こんなふうに尋ねたら、いいよ、って許しちゃってるのも同然な気がする。
でも、だけど、・・・ここであたしがダメ出ししても、勢いづいてる銀ちゃんを止められる気がしないし。それに、あたしだって――
・・・・・・ああ、どうしよう。
あたしってば、本当に、――・・・・・・どうしちゃったんだろう。 銀ちゃんが言ったとおりに、すごくいけない子になっちゃったみたい――
「・・・ん。秘密な」
ちろりとこっちを見下ろしただるそうな半目が、いたずらっぽく細められる。
目の前に影を落として迫られて、そうっと唇を啄まれた。大事そうにやわらかく触れてくれる、甘い感触がきもちいい。
じわり、じわりと伝わってあたしを染めていく銀ちゃんの熱を感じながら、うっとりと瞼を閉じる。すきな人にぎゅっと抱きしめられる気持ちよさに浸る。
きっとこの腕の中が、あたしを世界中のどこにいるよりもしあわせにしてくれる場所なんだって、心だけじゃなくて身体中で感じる。
この腕の中にいられるのが嬉しい。すごく嬉しい。泣いちゃいそうなくらいにしあわせだなって思って、ふふっと笑った。
もしかしたら、――銀ちゃんがこうしてあたしを欲しがって、ぎゅっ、て抱きしめてくれるなら、
そこが万事屋でも、自分の部屋でも、降り注ぐ雨音で隔てられただけの空間でも、他のどこでも、あたしにとっては同じなのかも。
だって、こうして広い背中に掴まってキスをして、ゆらゆら揺られてるだけでしあわせだもん――
「・・・あのよー。いちおう謝っとくわ」
「・・・?謝るって・・・?」
「や、だからよー、いちおうな、一応。・・・さっきは調子こいて泣かせすぎたからよー」
言い辛そうにボリボリ頭を掻きながら切り出してきた銀ちゃんは、よっ、て掛け声付きであたしを高く持ち上げる。
自分の肩の高さまであたしの腰を抱え上げると、苦笑気味に目を合わせる。
・・・なんだかへんなかんじ。いつも見上げてる人を見下ろしてるせいかな。
普段はあたしよりもずっと大人に見える銀ちゃんの顔が、ちょっとだけ子供っぽく見えてくる。
「とにかくあれだわちゃん、こんな小汚ねーとこで見境いなく発情してすんませんでしたっ」
「・・・・・・ぅん。・・・いぃよ」
「へ、・・・・・・えええっ。
ちょっ、いーの、大丈夫なのあれ。いやいやあれだよ、俺、あんだけイジめてあれしてこれして・・・・・・、ええっ、いーの、怒ってねーの。マジで!?」
「ち、ちがっ。そういう、いい、じゃなくて・・・。・・・・・だ、だから、い、いいっていうか、ぇ、えぇと、ぅああぁああの・・・〜〜っ」
よくない、ほんとはよくないよ。だってこんなところで、こんなことするなんて、
あの、その、ええと、だから・・・・・・・・・・最初はすごーくびっくりしたし。・・・ダメだよねって、思うけど――
口許を隠してごにょごにょと言葉を詰まらせながら、真っ赤になった顔をうつむかせる。
だけど銀ちゃんが意外すぎて言葉も出ませんって顔して口をぽかんと開けて待ってるから、仕方なく打ち明けることにした。
「ほ。ほんとは、全然、ダメだけど。よくないけど。・・・・・・・・・いいの。銀ちゃんなら、・・・ゆるしてあげる」
「・・・」
めずらしく口籠った銀ちゃんが、面食らったみたいな顔してあたしを見上げる。それから、眉間をきゅーっと寄せてそっぽを向いた。
あーあーいーのかねぇ、んなこと言ってぇ。知らねーぞ、どーなっても。
こっちを見ようとしない横顔が皮肉っぽく言った。むっとしてるみたいに尖らせた口先も、機嫌を損ねてそうなかんじにも聞こえるあの素っ気ない声も、
変なところで恥ずかしがってぎくしゃくする銀ちゃんのひねくれた照れ隠しなんだってことは、もう知ってる。
だからあたしは、自分から銀ちゃんに唇を寄せた。
濡れた毛先が気ままに跳ねてる横顔にそっと触れたら、拗ねたままの表情がこっちを向く。ばつが悪そうな目と視線が合った。
――こんなあたしをしってるのは銀ちゃんだけ。こんな銀ちゃんを眺められるのも、あたしだけ。
そんなことを思って胸の中にあったかい何かが膨らんでいくのを感じながら、何度もキスを繰り返す。
ぎいっと硬い音で軋みながら、古くてこじんまりした神社の扉が閉じていって、
――誰もしらない二人だけの秘密が、またひとつ、始まる。