ご――ん、と霞んだ音でまたひとつ。
神社を離れて万事屋まで戻っても除夜の鐘の音は後ろから追いかけてきて、白一色に覆われた夜の街に鳴り渡っていた。
ご機嫌な鼻唄混じりで、だけど脇目もふらずまっしぐらに突っ走ってきた銀ちゃんは、階段をどどどーっと駆け昇った。
がちゃがちゃがちゃっ。あわてた手つきで鍵を開けて扉も開けてブーツをぽいぽい脱ぎ捨てて、
呆然としてるあたしをお風呂と繋がってる洗面所兼脱衣所にどさっと降ろして、
「な。風呂、後回しにしていい」
「・・・、は?」
「あれっ、わかんねぇ?…いやまぁしゃーねーか、はお子ちゃまだもんなぁ」
銀ちゃんが背中を屈めて、甘酒でべとついた髪が貼りついてるあたしのおでこに、ちゅ。一度離れて、もう一度触れて、舌先で軽く吸いつくキスを
目元やほっぺたに繰り返す。ばりっ、て引っ掻いてやりたくなるような調子に乗った表情があたしと向き合うと、
唇をぺろりと舐めて「うわ、甘めー」って肩を揺らして笑ってた。
・・・銀ちゃんてば、また言った。またお子さま呼ばわりされた。
さっきも新八くんにあたしがお子ちゃまだとかなんとか言ってたよね。むっとしてじとーっと睨みつけたら、
あれっ、て顔して目をぱちくりさせてる。
「・・・銀ちゃんむかつく。いっつもそーやってあたしのことバカにするよね」
「違げーって、全然バカにしてねーから。つーかむしろ喜んでるんだけど。の初々しいお子ちゃまっぷりを」
わかんねぇかなぁ、って銀ちゃんがにたにた、にまにま。「やっぱこいつお子ちゃまだよなぁ」って思ってそうなにやけ顔は、
意地悪だけどなんだか嬉しそうにも見える。背中を支えてくれてた右腕がするりと降りてきて、お尻のあたりをやらしい手つきで撫でられた。
っっ、と息を呑んで身体を竦めてるうちに、コートの中にするするっと手が潜ってくる。がさがさ、と素早く動く手が帯の結び目を探って、
何のためらいもなく帯の端を強く引かれた。ばらり、と結び目はあっけなく解かれて、わわっ、て叫んで緩んだ胸元を押さえたけど、
その隙に身体をくるりと回されて、帯紐や帯留めまでしゅるっと解かれて。ばさばさ、と音を立てて全部床に落ちていった。
・・・信じられない。なにこれ。何の手品・・・?
お気に入りの帯も帯留めも、新品の晴れ着もコートも、ニットのふわふわストールも。
ほんの十数秒前まではこれだけたくさん着込んでたのに、もうあたしを覆ってるのは淡いピンクの襦袢だけだ。
びっくりして声も出ないまま散らかった床を見つめてたら、
骨太で重たくて図々しい身体が、のそっと後ろから寄りかかってきた。
お腹に両腕を回して抱き寄せられて、背中や後ろ頭が銀ちゃんの体温で覆われる。ざわ、と頭の横でお互いの髪が擦れ合って、
ぴた、と頬を寄せられた。おそるおそる視線を合わせたら、
何か企んでそうな薄笑いの顔が半開きのまぶたを瞬かせる。にやにやとへなへなと、やけに嬉しそうに目尻を緩めて――
「っっっちゃぁん、銀さんもぉ限界だからここでヤらせて」
「・・・はぁ!?」
「あれっ、まだ通じてねーの。だーかーらー、ここでえっちしてもいーですかって訊いてんだけど。なーなーしよーぜー、
銀さんと大人の甘酒ぶっかけプレイしよーぜー!」
「〜〜っっさ、最っ低!銀ちゃん最っっっ低!!いや!絶対いやぁあ!!」
「あー大丈夫大丈夫、今日はあんま余裕ねーけどばっちりきもちよくしてやるから。が疲れてへとへとになってもばっちりきれいに洗ってやるから。な?」
「やだっっ、絶対絶対、いや!そんなの無理ぃ!!って銀ちゃんどこ行くのっっ、聞いてる!?」
「あー聞いてる聞いてる。お湯溜めてくっからちょっと待ってろって」
「ぅ、うん、じゃあ待って・・・・・・っって、違うぅぅ!そうじゃなくてぇええ!!!」
いそいそと脱いだ帽子やマフラーやスカジャンや着物をぽいぽいと洗濯機の上に放り投げて、がらっ。曇りガラスの扉を引いて、銀ちゃんはお風呂場に行っちゃった。あぅあぅあぅ、と口をぱくぱくさせながら、
真っ赤になったほっぺたをぎゅううっと押さえる。ちろ、って人影が映る扉に目を向けて、恥ずかしくなってすぐに逸らす。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっちって。ここで!?
銀ちゃんのお布団の中じゃなくて、居間のソファでもなくて、こんなところで・・・!?
心臓がとくとく弾んで落ち着かない。もじもじと腰を捩って、洗面所の壁際まで引っ込んで身体を丸める。下駄を脱ぐのも忘れてうろたえてるうちに、
じゃあああああ、と水音が響いてきた。
どどど、とお腹に低く響く音。大きく開いたお風呂の蛇口から、お湯がどんどん流れ出て浴槽に溜まっていく音。万事屋に泊りにくるたびに聞いてる音なのに、
〜〜うぅぅ、もうやだっ。なんだかすっごく恥ずかしい音に聞こえてくる。銀ちゃんのせいだ。銀ちゃんがあんな、あんなこと言うから・・・・・!
あたしは頭を抱えておろおろしてたのに、銀ちゃんは普段と全然変わらないすっとぼけた足取りで、ふふふ〜〜ん、なんて呑気な
鼻唄を漏らしながら戻ってきた。壁を背にして丸くなってるあたしの前で、どさり。片膝を突いて腰を下ろして、
「んじゃ、脱がせていい」
「・・・。あ。明かり。明るいの、やだ、消して・・・っ」
「おいおいィ何言ってんのぉ。風呂場だよここ、暗れーと足元があぶねーだろぉ、つるっと滑っちまったらどーすんのぉぉ」
あたしの頭の両側の壁に腕を突いて、目の前に影を落として迫ってくる。
薄笑いが消えない顔がほんの数センチ先で首を傾げる。口端がわずかに上がってる唇が、、ってささやく。新八くんや神楽ちゃんたちの前じゃ絶対に出さない
甘い声だ。銀ちゃんがあたしと二人っきりになった時にしか出さない声。
二人きりのときしか出来ないことをしたくてたまらないときの銀ちゃんが、あたしをどうにか言いくるめようとするときのおねだりの声。
そんな声を聞かされたせいでこれまでにあった色んなことを一気に思い出しちゃって、あたしの身体は熱くなった。かぁーっ、と頭の中に血が昇る。
とくとくと心臓が弾んでくる。両腕で抱きしめてるお腹の奥がきゅうっとしめつけられたみたいになって、あっというまに頬や耳まで熱っぽくなって、
迫ってくる顔をむぎゅっと掴んで押し返しながら、
「〜〜〜〜〜っっっ。ばかぁっ。銀ちゃんの、ばかぁああっっ」
「ははっ、っだよその顔ぉ、風呂入る前から真っ赤じゃん、かっわいー」
「んっ・・・!」
いくら押し返しても笑いながら迫ってくるふてぶてしい顔が目の前に濃い影を作って、唐突にくっついて視界を塞いだ。文句をつけようとして
半開きだった唇が、やわらかくて熱い感触に覆われる。咄嗟に退こうとした肩を掴まれて、
壁に背中と後ろ頭を押しつけられる。暗くて寒い路地でしたのと同じキス。深く入り込んできた銀ちゃんの舌に埋められて、
奥までぐちゃぐちゃに荒らされるキスがはじまる。口をめいっぱい開けさせられたまま、
熱くてざらざらした先に舌をつうっとなぞられる。歯や上あごも奥まで好きなように撫で尽くされて、ぐらぐらと頭を揺らされた。
「っふ、・・・・ぅく、んっ、〜〜っっ、」
「ん。ごめ、・・・苦しー?・・・・・・・けど、なんか、もぉ、止まんねぇわ、これ・・・っ」
「ふぁ、ぁ、んぅ・・・っ、」
唇の端から混ぜ合わされた唾液がこぼれて、しずくが首筋を伝って肌を冷やす。
舌を押し込まれる勢いが強すぎる。後ろ頭が何度も壁にぶつかったけどそれでも銀ちゃんはキスに夢中で、
あたしの頬を大きな手でしっかり包んで離さなかった。どどどどど、とお湯が浴槽に流れ込んでいく水音と、
あたしたちの唇から流れ出る小さくて粘った水音。それから、銀ちゃんがたまに、はぁっ、と漏らす、
せつなそうで荒い息遣いが耳を埋めて――
「っう・・・、ん、く、・・・っ」
「やべー。ハマるわこれ。・・・どこ舐めても甘酒味だし」
息を弾ませた掠れ声で、あたしの唇をゆっくり舐めながらつぶやいた。もう一度奥へ入り込んだ銀ちゃんは、ぐちゅ、と音を立てて強引に絡まってくる。
とろとろと溢れて混ざり合うお互いの唾液が、喉まで流れ込んできてすごく熱い。口の中で起こる濡れた粘膜どうしの摩擦も燃えそうに熱くって、
頭の芯がぼうっと痺れる。お腹の奥の熱がじわりと滲む。もじもじと腰を捩じって太腿をすり合せて、その感覚に耐えようとするけど、――だめ。
お腹の奥から湧き上がってくる熱のせいで、身体の内側がじわじわと疼きながらとろけてくる。いつも使ってる万事屋のお風呂場で
これから銀ちゃんにどんなことをされるのかって考えたら、なぜか逆に身体が火照りを増してしまう。
いつのまにか銀ちゃんの手が下がっていって、薄い襦袢の上から胸の膨らみをゆるゆると丸く撫でられる。
その手の感触をぼうっと感じるうちに瞼がとろんと落ちてきて、気づけば深くて長いキスにすっかり夢中になっていた。
そのうちに上半身がひんやりと肌寒くなって、襦袢を半分脱がされていて。ブラだけになっちゃった上半身を、
銀ちゃんの舌がぴちゃぴちゃ音を立てて舐め始めて。
「ぁ、は、あ・・・っ」
「な。ここにも流れたんじゃねーの。なんかべたついてるし、ここ」
「あ・・・!」
甘酒が流れてべとついていた胸の谷間に、はぁっ、と熱くて荒い息をこぼす唇が噛みついてくる。
痕が残りそうな強さできつく吸われて、伸ばした舌でつうっと肌を舐め上げられて、
「は、ぅ・・・っ」
「な。どこ。どこまで流れたんだよ。言ってみ。のどろどろになったとこ、全部きれいに舐めてやっから」
「ゃ、やらしぃ、言い方、しない、でぇ・・・っ。・・・・はぁ・・・ん、やだぁ、そこ、吸っちゃ、だめぇっ・・・」
背中のホックも外さないままブラをぐいっと引き下ろされて、胸がひんやりした空気に晒される。
左の胸は五本の指で、右の胸は歯を立てて齧りついてきた唇で、すっかり尖って固くなった先をきゅうっと弱く引っ張られた。
それだけで肌がざわめいて、びくびくと疼く腰が大きくよじれて、もうじっとしていられない。
やだ、だめぇ、って声を震わせながら黒い服にしがみついたら、銀ちゃんの腕を腰の下へ差し入れられた。
よっ、とあたしを片腕で担いで立ち上がって、身体が床からふわりと浮く。
ぐらぐらと背中が傾いて今にも落っこちそうだ。癖っ毛が萎れて甘い匂いがする頭に、あわてて縋りついたけど、
・・・いろんなところを弄られたせいですっかり力が抜けちゃって、腕にも力が入らない。
運ばれたお風呂場では、白い湯気がほわほわと天井まで立ち籠めてた。ころん、ことん。宙に浮いてぷらぷらしてた足元から、
履きっ放しにしていた下駄がぽろぽろと脱げて、転がって。
「なぁ、風呂ん中がいい。それとも洗い場がいい」
「ぇ・・・っ」
「あー、その前に流さねーとなぁ。甘酒」
お風呂場の白っぽいタイルの床にあたしを座らせてから、銀ちゃんは壁のシャワーヘッドを手に取った。
じゃぁあああああああっ。
どっちを選んでも恥ずかしいことになりそうな二択にあたしが目を白黒させてる間に、お湯の栓を大きくひねる。
いつもの黒い服は着たままなのに、ちっとも気にしてる様子がない。霧状の湯気を昇らせ始めたお湯を、頭からじゃあじゃあと豪快に被る。
髪の汚れを軽く洗い落とすと、ぶんぶん、ぶんっ。まるで水浴びした犬みたいな仕草で大きく頭を振っていた。それから「あ、そーいや脱いでねーんだっけ」と
濡れた服がぴったり肌に貼りついた自分の身体を、すっとぼけた半目で見下ろした。ぽたぽた雫が垂れてる白っぽい前髪の下で軽く眉をひそめながら、
「んぁー、まぁいーか」ってどうでもよさそうにひとりごとを漏らす。衿元を緩めて胸を軽くはだけさせながら、
「はーいシンキングタイム終了ー。なぁどっちがいーの、風呂ん中?それともここ?」
「ゃ。やだっ。お風呂でなんて、そんな、・・・無理、どっちも、無理っ」
「ふーん。へーえ。嫌なんだぁ。・・・とか言ってるわりに逃げねぇんだよなぁ、ってよー」
「〜〜〜っ。そ、それは、銀ちゃんが、っっ」
「んー?なに。俺がなに。どーしたってぇ?」
「・・・・・・・・・〜〜っ、も、もうしらないっ、ばかぁっっ」
「ははっ。やっぱ逃げねーのな、お前ぇ」
「ぅ。うるさいっ。うるさいぃっっ」
にたにたと意地悪く笑いながら寄せられた顔から、ぷいっとそっぽを向いて逃げる。
ぅおーいちゃーん、ってほっぺたをつんつんされても、口をつんと尖らせて怒った顔して拒んでみせたけど、
――違う。違うの。本当はそこまで怒ってない。ただ、いくら口では拒んでみせても、最終的には
銀ちゃんのすることを全部許しちゃう自分が恥ずかしいから。口で言うほどには嫌がっていない自分を銀ちゃんに見透かされてることが、
恥ずかしくってたまらなかったから。
目の前にしゃがみ込んだ銀ちゃんの手元からは、あったかいシャワーの雨がざあざあと降ってくる。あたしたちの足元を温めながらさらさら流れて、
排水溝に渦を巻いて落ちていく。しばらく黙り込んでた銀ちゃんは、何を思ったのかシャワーヘッドを壁へ戻した。お湯、
出しっ放しなのに。
「なぁ。そんなにいや?だめ?」
「・・・ぅ、うん」
シャワーの雨のむこうに透けて映る銀ちゃんにそう訊かれた瞬間、ちょっと戸惑った。
それでも心にもない返事をして、頬をぽうっと火照らせた顔でこくこく頷く。ちょっと上を向いただけでざあざあと雨が降ってきて、
数秒も経たないうちにあたしは頭からびしょ濡れになった。はっ、と気づいた時には襦袢もブラもショーツも肌にぴっとり貼りついてる。
あっというまに全身が透け透けになってしまって、ひゃああっ、とあたふたしながら胸の前で抱いた両足で身体を隠そうとした。
ところが濡れたタイルの上であわてたせいで、ずるん、とおしりが前へ滑って、
「っきゃあっっ」
悲鳴を上げてタイルに倒れて、足袋がつるっと滑った。変な格好で横にずるーっと転がって、足が左右に大きく開く。
そのせいで濡れた襦袢がはだけてしまって、銀ちゃんが見てる目の前で太腿から腰が剥き出しになった。
うろたえまくってばちっと脚を閉じて、襦袢の裾をぎゅぎゅーっと引っ張る。下着はどうにか隠せたんだけど、・・・・
目の中が勝手に涙で潤んでくる。ふぇええ、と半泣きになって
うつぶせて、濡れた着物であたふたと前を隠す。ざあざあと降り注ぐシャワーの下で身体を丸める。
な、なんでこんなところで、こんなことになっちゃったの!?今すぐここから消えちゃいたい。恥ずかしくって憤死しそう・・・!!
「・・・・・・・うっわぁ・・・、ねーわ。そりゃねーわ。何やってんのお前ぇ・・・」
ざあざあと止まないシャワーの雨音に混じって、銀ちゃんの声が降ってきた。呆れすぎてドン引きしてます、ってかんじの硬い声。
真っ赤な泣き顔をおずおずと上げてみる。お尻をちょっと上に突き出した芋虫みたいになってタイルに転がってるあたしを、銀ちゃんはかあっと剥いた目で瞬きもしないで見下ろしてた。
じーーーーーーーーっ。穴が開くほど見つめてから、なぜか眉をぎゅーっと寄せる。
うわぁ、って呆れた声でもう一回つぶやいて、妙にそわそわした手つきで濡れた前髪を掻き上げたり、かと思えば、
舐めるような目つきであたしを頭から足の先まで眺めたり。最後に、ごくり、と生唾を呑み干して――
「着物透けてっからすげぇやらしーんだけど、そのポーズ」
「ふぇえ!?」
「いやいやエロいわ、新八が見たら鼻血噴きすぎて失血死するくれーエロいって。まぁさっきのずぶ濡れM字開脚も相当キタけどぉ」
「!?えっっ、えむっっっっ!!?」
「俺的にはこっちのがそそられるっつーか、好みなんだけど。布が張り付いてっから尻のライン丸見えだし、なんかもぉ、好きにしてぇ、ってかんじだし。
いやぁんあたしもう我慢できなぁあい、銀ちゃんおねがぁい早く来てぇぇ、…みてーな?あとあれな、ドM属性AV女優の淫乱おねだりポーズにも見えるんだけど」
「っっ!!?」
あ、やばい。すご――く嫌な予感がする。ゆらゆらぁっ、と銀ちゃんが動いて、透明なシャワーのカーテンを破って手を伸ばしてくる。
あわてて逃げようとしたけど、もう遅かった。後ろからぐんと伸びてきた濡れた腕が、タイルの上で半分潰れてたあたしの胸をむにっと掬い上げて。
「ひゃあ、んっ、や、銀ちゃ、待っっ」
「や、無理だって。ここで待つとか無理だからね」
「っぁ、〜〜っ、や」
「だから言っただろぉ、もぉ限界だって。・・・お前がかわいーことばっかして煽るから、銀さん正月早々箍が外れちまったじゃん」
「っや、ぁ、あっ、んんっ・・・」
拗ねてるみたいにぼそぼそ喋ってる銀ちゃんが座り込む気配がして、ブラをずり下ろされた胸を絞るみたいな強さで揉まれる。
両方の胸の先を親指と人指し指できゅっとつままれて、ぁん、と甲高い声が弾ける。つままれたそこから全身に甘い痺れが走っていく。
腰を浮かせて逃げようとしたら、――ぐちゅり。やわらかくて濡れた熱を耳に突き入れられて、全身がびくんと竦み上がった。
「ほらほらぁ、いいんだろこれ。ここ舐められんの好きだろ。我慢しねーでかわいー声聞かせろって、」
「ひぅ、〜〜〜っっ。ゃ、やだぁ、喋っちゃ、ら、めえぇ・・・・っ」
笑い混じりの火照った吐息が耳の奥まで流れ込んでくる。銀ちゃん、ずるい。そこが感じやすいってしってるくせに。
尖らせた舌の先で、じっくり耳の中を責められた。奥でくちゅくちゅと舌先を鳴らされるたびに、
鼻にかかった声で泣きながらぶるぶる震えてしまう。濡れた音を上げながら抜け出た舌で、耳のくぼみに沿ってぴちゃぴちゃと舐められる。
ぶるぶると震えた脚から力が抜ける。もうだめ。動けない。
銀ちゃんの舌が鳴らす音を頭の中に直接流し込まれてるせいで、もうシャワーの音も聞こえない。外の音から遮断されたぶんだけ神経が銀ちゃんの
手の動きに集中しちゃって、腰が砕けそうなくらい感じてしまう。
尖った先を指の腹でくにゅくにゅって捏ねられはじめて、びくん、と大げさなくらいに背中が反る。唇を噛みしめて声をこらえてる
間に、ブラのホックをぷちんと外された。
「ぎっ、銀、ちゃ」
「ん。ごめん、もぉ無理。・・・こんなお前見ちまったら、もぉ我慢できねぇって」
ちゅ、と耳に吸いついた唇に熱い吐息ごと吹き込まれて、身体中のぞくぞくが止まらなくなる。
いつもより荒っぽい手つきにブラを剥ぎ取られて、襦袢の袖から腕を引き抜かれる。肌に纏わりついてくる布が肩や背中を離れると、
銀ちゃんはあたしの腰を軽く持ち上げて身体を起こして、タイルに腕を突かせる。ぎゅう、と後ろから覆いかぶさって抱きしめた。
抱きしめられたとたんにお尻に当たった固い感触にびっくりして、ぎゃあああっ、て悲鳴を上げそうになったけど、
・・・だめ、無理、無理無理無理、ぜったいに無理!だってもし声を上げて「ん、どーしたぁ」なんて尋ねられても、返す言葉がないじゃない・・・!
言えない、言えないよ、そんなこと口にしたら、恥ずかしくって死にたくなるに決まってる!
口を塞いで必死に唇を噛みしめて、真っ赤になって声を我慢した。なのに、ちゅ、と銀ちゃんがうなじに吸いついてくるから、
ぞくぞくと背筋が震えて、腰の奥がきゅんと疼いて――
「っあ・・・!」
「なぁ。あのよー。そーやって泣きそうな顔で我慢されっとかえってエロく見えるんだけど。かえってムラムラするんだけど」
「やぁ、ばかぁっ、そぉいう、こと、言わな・・・っ」
「やらしーよなぁ、濡れたもんがべったり貼りついてる、って。素っ裸よりも卑猥だよなぁ。・・・あ〜〜、やっべぇ。早く挿れてぇ・・・」
「ぁん、や、そこ、ひぅ・・・・っ」
つんと尖ったところを爪先で弄りながら、手のひらで包んだ膨らみをめちゃくちゃに揉んでくる。
銀ちゃんの濡れた手の動きを感じてるうちに、意識がぼんやり溶けてくる。シャワーの雨音に包まれながら、はぁ、はぁ・・・と顔の横で低く漏らされる
押し殺した息遣いに耳を澄ました。銀ちゃんの手つき、いつもよりも早くて強い。先を急いでるようなその手つきはやっぱり少し乱暴で、
肌にめり込んでくる指がちょっと痛いくらいだ。
――でも。
・・・・・・どうしちゃったんだろうあたし。変。すごく変だ。自分でもわからなくて混乱しちゃうよ。
どうしてなんだろう。この乱暴さにかえってどきどきしちゃってる。いつもと違う銀ちゃんの手つきが気になるのに、
すこしずつ身体が慣れてきて、もっと、もっと、って求め始めてる。きもちいい、って思い始めてる――
はぁ、はぁ、と息が上がる。半開きになった唇から、じわじわとシャワーのお湯が入り込んでくる。喉へつうっと流れていく。
くったりと力が抜けてきた腰がタイルに落ちそうになったら、はぁっ、と大きく息を吐いた銀ちゃんの手が、
肌が剥き出しになってるお腹を素早く撫で下ろす。あたしのショーツにたどり着いた手は
濡れた薄い布をぐしゃりと掴んで、ずるり、と膝下まで一気に下ろして脚から引き抜いてしまった。
隠してたところを熱いシャワーの雨粒と冷えたお風呂場の空気に急に晒されて、思わず身体がびくりと跳ねる。頭の後ろでかすかに笑う声がした。
「へーぇ。こーいう荒っぽいのも感じちまうの、お前」
「ふぁ・・・、だ、だってぇ。ぎん、ちゃぁ・・・」
「あーあー何その声ぇ、すげぇ気持ちよさそうな声出しちゃって。これ以上銀さん煽ってどーする気だよぉ」
「っう・・・あ、やん、やぁ、そこ、さわん、な、でぇ・・・」
やだ、と顔を真っ赤にして太腿に力を籠める。
だけど銀ちゃんは、閉じようとしたあたしの太腿の間にすぐに手を捻じ込んできた。
「やじゃねーだろ。さっきから腰がびくびくしてんじゃん。ちゃんのえっちー」
「あっ、や、・・・・・っっ」
潜ってきた手の力の強さには逆らえなくって、
脚は簡単に広げられた。無理に開かれたそこに骨太な指が埋められていく。濡れた指先でやんわりと縦に撫でられて、そこから全身に
甘くてせつない痺れが走った。
「あぁ・・・!」
「ほら、ここも。・・・まだ弄ってねーのにな。すげぇ濡れてる」
「っ、あぁん・・・!」
くちゅ、と音を鳴らして入口を割られる。違う指がその上の小さな膨らみに触れて、ぴんと爪先で弾かれて、
「――あぁん!」
全身が強い痺れで震え上がって、ぞくぞくっ、と火照った腰の奥から強い疼きが追いかけてくる。足の爪先がきゅっと縮んでぽろぽろと涙がこぼれ落ちて、
だめぇ、って泣きながらお湯が流れる床にへなへな崩れ落ちた。だけど銀ちゃんはもっと深く指を潜らせて、ちょっと触られただけで
膨れ上がったそこをたくさん弄った。きゅうっと潰してみたり、もっと感じやすくするために、膨れた芽を直に触って撫で回したり。
そんなことをされたらもう声が止まらない。シャワーの音も浴槽にお湯が溜まる音も響いてるのに、甲高いあたしの喘ぎ声はやけに大きく聞こえた。
「はぁ、んっ、あ、あぁん、や、らぁ、ぎ・・・ちゃぁ・・・!」
タイルのせいで声がお風呂場中に反響するから、すごく、すごく恥ずかしい。なのに銀ちゃんがもっと奥へ指を進めて、
じゅく、じゅぶ、っていやらしい音を立てて浅いところを掻き乱すから――
「あぁんっ。めぇ、も、やめてってばぁ、銀ちゃあ・・・!」
「んなこと言ってぇ、きもちーんだろ。お前の中、とろっとろになってんだけど」
「やぁ、っ、はぁ、ち、ちがぁ・・・」
「へーぇ、違うんだぁ。銀さんに弄られて気持ちよくって濡れたんじゃねーんだぁ。
てーことはアレかぁ?ここまで垂れてきてんだ、さっきの甘酒」
「あっっ。や、ひろげちゃ、やぁっ」
「。もっと脚開いて。が泣いてよがるとこ、もっとよく触らせて。な?」
「やぁん、やだやだやだっ、やめっ、――んっ、あぁ・・・っ!」
銀ちゃんの指が奥まで入ってくる。ぐ、ぐ、って男の人の太い指の関節が自分の中へ埋められるたびに、ぞくぞくと背中が震えてしまう。
ぐちゅぐちゅと上下する指で中を解すみたいに撫でられて、腰の奥がずくずく痺れて声が止まらなくなった。
「ぁ、ああんっ。ま、まだ、お参り、して、ない、のにぃ・・・っ!」
「んー。後でな」
「まだ、おみくじ、引いて、ないぃ・・・っ。ぁ!や、やらぁっ、そこ、だめぇ・・・っ」
「ん。それも後でな」
ずるり、と銀ちゃんの指が抜け出ていく。
お腹の両側を力の強い手に握られて、腰からぐいっと引っ張られた。銀ちゃんの脚の上で膝立ちにさせられて、濡れて太腿に貼りついた襦袢を乱暴に
払われる。その手つきの荒さにもどきっとしてしまって、あたしは銀ちゃんに気づかれないように息を詰めた。
とくん、とくんと心臓が弾む。びく、と腰が跳ねてしまうくらい固くって熱いものが、
ついさっきまで銀ちゃんが指を入れていたところにぴとりと吸いつく。ぐぶ、と濁った水音が鳴る。濡れた割れ目を押し広げながら、
張りつめた先が潜ってきて、
「っああ・・・・・!」
んっ、と息を詰めた銀ちゃんに、ぐちゅ、と卑猥な音を上げてさらに奥を広げられる。ああ、もうこんなに大きい。
びくびくって脈打って蠢く熱を浅いところまで突き立てられて、自分じゃ触れたり出来ない身体の内側が熱と重みで埋められていく。
埋められたところから手足の先まで全部、身体中を銀ちゃんに支配されていくような感覚で満たされて、脚も腰もぶるぶると震える。
何度こうして銀ちゃんと繋がっても慣れそうにない、その感覚に身悶えた。
熱い。銀ちゃんの、熱い。あたしの中まで焼けつきそうなくらい熱い。
まだ全部入ってもいないのに、すっごく固くなってる。ぶるっ、と弱い快感が突き抜けて、力の抜けた脚ががくがくと震えた。
「あっ。や、ああ、んぅ、ぁあ・・・っ」
「。・・・。――なぁ、今は俺のことだけ考えて。俺のことだけ感じてて」
「・・・っ!」
甘くて濡れた声で耳の中にささやかれた。それだけでぞくっとしてしまって、痺れかけていた腰の奥がたまらなく疼いて――
「・・・ぎ・・・・・ちゃ・・・は・・・?」
「っ。・・・・ん、なに、」
「銀ちゃ・・・も・・・?ぁ、あたし、だけ、かんじて・・・くれ、る・・・・・?」
はぁ、はぁ、と息切れした掠れ声で尋ねたら、銀ちゃんの動きが急に止まった。
「ん。・・・俺も。俺も、だけ。つーか俺、元々のことしか見えてねぇし」
ちゅ、と熱い唇が頬をやわらかく吸って、くくっ、と低い笑い声で耳をくすぐる。
っだよ、わかってねぇなぁ。
息遣いが苦しそうなその声は、どこか優しい響きであたしの頭の中を埋めた。背中からぎゅうっと抱きしめられて、
ぐっ、と腰を突き上げた銀ちゃんの動きにまた広げられて、
「ひぁ・・・あぁっ」
「ははっ、すっげぇ殺し文句な、それ」
「だ・・、だって、ぇ・・・っ」
「つーかわかってんの。なぁ。ここでそーんな可愛いこと言ったら、お前が大変な目に遭うだけなんだけど」
「ぇ、――あ、ぁあんっ」
浅いところに留まってる張りつめた先が、びくん、と大きく跳ね上がる。狭い中でずるりと壁を擦られて、全身が快感にさざめいてしまう。
もう腰の震えが止まらない。ぎゅっと閉じた目の奥が、じわぁっと熱くなってくる。
「ひぅ、あ、ぎ、ちゃ・・・、ぎん、ちゃ・・・〜〜っっ」
「はぁ・・・、やっべぇ。まだ先っぽしか挿れてねーのに、もうやべーわ。すげぇがっついちまいそーなんだけど、――っ」
「っっ!ぁあああっ・・・!」
掴まれた腰をぐんと引き下ろされて、奥まで一息に貫かれた。息が止まりそうな衝撃がお腹の底にぶつかってきて、
銀ちゃんを全部飲み込んだ中がきゅうっと締まる。すぐに腰を持ち上げられて、ずるりと一気に引き抜かれて、
あぁっ、と涙を滲ませて仰け反った途端に、また深く突かれる。何度も何度もそれを繰り返されて、じゅぶじゅぶと擦られて、
お尻や太腿にとろとろと熱いしずくが伝う。シャワーのお湯ですぐに流されてしまうけれど、お湯とは違う質感のそれは
ひっきりなしにあたしの奥から溢れてきた。銀ちゃんが背中に顔を押しつけてくる。はぁ、はあっ、と余裕のない息遣いが肌を撫でて、背筋を
強めに舐め上げられて、燃えそうに熱いもので中を捏ねるみたいに掻き回される。それだけでも我を忘れて泣き声を上げてしまうくらい
感じてるのに、銀ちゃんの手はあたしがもっとおかしくなるところを弄ってきた。――うんと押し広げられて熱い蜜を垂らしてる入口と、その上にある
膨らんだ芽を――
「〜〜〜っぁ!ああっ」
「く、あぁ、これ、いぃ、・・・・・・・っ。、・・・っ」
「あっ、やぁんっ、銀ちゃ、ぎ、ちゃぁ・・・っ!」
苦しそうに喘ぐ銀ちゃんの声が、唇をくっつけられた耳から直接に身体中に響く。
その色っぽい響きのせいで腰の奥の疼きが増して、よけいに感じやすくなってしまう。下から強く突き上げられて、
抱きしめられた身体の奥深くで受け止めさせられる。そのたびに、息が止まりそうなくらい鈍くて重い快感がお腹にずくずくと溜まっていく。
持ち上げられる動きが早くなる。銀ちゃんの張りつめた先が弱いところを何度も掠めて、そのたびにかぶりを振って泣きじゃくった。
「っあ、あ、ああっ、あ、ゃあっ、ぁん、あん、ぁあんっ・・・!」
「・・・・・っ。あぁ、いい。すげぇ、いい・・・っ!」
「っっ、や、やらぁあっ〜〜!・・・・・っ、そこ、めぇっ、しび、れっ〜〜、ゃあ、ぁ、はぁんっっ、銀ちゃぁ・・・!」
「っ・・・!」
ぎゅっと腰に抱きつかれて、そのまま身体を前に押し出された。咄嗟に突いた両手と膝がタイルの上で突っ張って、
四つん這いになったあたしを銀ちゃんが後ろから乱暴にずぶずぶと突く。熱の塊みたいな先端をめちゃくちゃに打ち込まれて、激しく前後に揺さぶられて。
そこから這い上がってくる恐いくらいのきもちよさのせいで、涙も喘ぎ声も止まらない。頭を真っ白にする快感で、身体中を埋め尽くされて――
「ひぁっ、あっ、あ、やぁっ、あっ、あああ・・・〜〜〜〜っ!」
全身がぶるっと大きく震え上がって、うわずった声を張り上げてイってしまった。っっ、と息を詰めた銀ちゃんに、背中が軋むくらい強く抱きしめられる。
膝ががくんと横へ倒れる。水が流れるタイルにうつ伏せて泣きじゃくっていたら、両手でお尻を掴まれた。
掴んだ腰を高く持ち上げられると、また銀ちゃんにずぶりと貫かれる。動きがぐんと深くなって、一番奥を抉るみたいにして揺さぶられる。
銀ちゃんの腰が速くなって、ぱん、ぱんっ、と濡れた肌と肌が高い音と水飛沫を上げてぶつかる。ずんっ、とお腹の底を痺れさせる鈍い快感を押し込まれて、
「あ、あんっ、あ、あ、あっっ」
「〜〜〜っ。っはぁ、っっ、、っ・・・!」
「っあ、はぁっ、ぁん、あ、ああっ・・・!」
短くて悲鳴じみた声しか出せなくなる。銀ちゃんのせつなそうな呻き声に混じって、呼吸する間もないくらいにあたしの声は上がり続けた。
意識が遠く霞んでいく。熱いお湯の雨に全身を打たれてることも、四つん這いでお尻だけを高く上げさせられてることも、
獣みたいな恰好で身体を交わらせてる恥ずかしさも、何もかも忘れてしまいそう。じわじわと硬く張りつめながらあたしの中で往復してる、
銀ちゃんの熱さと激しさしか感じなくなってる。こんなに乱暴にずぶずぶ突き立てられていると、気持ちがいいのか痛いのか苦しいのか、
そんなことすらわからなくなっちゃいそうだ。
狂ったみたいにかぶりを振って、お湯が渦巻くタイルの床にしがみついた。だって、こうでもしていないと頭がおかしくなっちゃう――
「やぁあ、も、だめぇ、っああんっ、おく、やらぁ、めぇええ・・・っ!」
「っっ。あぁ、もぉ、出る、イく・・・・・っ!」
「〜〜〜っ、あ、ぎ、ぎ、ちゃ、〜〜〜ぁあああっ!!」
ぎりっと歯を噛みしめて唸った銀ちゃんが、ずるっっ、と熱いものを一気に引き抜く。
銀ちゃんに引きずられたあたしの中はきゅうっとせつなさで締めつけられて、痺れに呑まれた全身がぶるぶると震えてしなった。
掴まれたままの腰からがくんと力が抜ける。ばしゃっと水を散らしてタイルに倒れたら、背中とお尻にぼたぼたと、大粒のしずくを振り撒かれた。
お湯とは違うどろりとした感触。お湯とは違う熱さが肌にじわあっと染みてきて、それだけで背筋がぞくぞくと震えて。
――排水溝に吸い込まれていくお湯の流れの中から抱き上げられても、脚や腰の痺れがおさまらなかった。
「――どーしたよ、まだ震えてんじゃん。そんなによかった?」
「・・・ってぇ。・・・銀ちゃ、激し・・・から・・っ」
「んだよぉ、誰のせいだと思ってんの。がやたらと煽るからだろぉ?」
おかげで正月早々、ガキみてーにがっついちまったじゃねーかよぉぉ。
口を尖らせたふてくされ顔でそう言って、それからふっと表情を崩して苦笑いする。ああ、もしかしたら、銀ちゃん、
――ちょっと照れくさいのかな。そんなふうに感じたのは、あたしが腫れ上がった涙目をこすりながら銀ちゃんの表情を追いかけても、
一度も目を合わせようとしなかったから。
それからも銀ちゃんはやけに静かだった。肌にぺたっと貼りついた襦袢と足袋をあたしの身体から剥ぎ取ると、
上も下も半分脱げてる状態だった服をさっさと脱ぎ捨てる。もう一度抱きかかえられて、二人で浴槽に向かう。
湯船の縁を乗り越えて、縁から溢れる寸前だったお湯にざぶんと浸かった。ざぁあああーっ、と流れた大量のお湯で洗い場にちょっとした洪水が起こる。
斜め上で漏らされる息遣いは、まだ少し荒かった。真正面から抱きしめられて胸と胸が重なると、
銀ちゃんの心臓はまだどくどくと鳴っている。
・・・・・・同じだ。あたしの心臓と同じくらい、せつなそうに震えてる。
そんなことを感じてどきどきしていたら、やっと、ふつうに目が合って。ちょっと掠れた吐息みたいな声で、銀ちゃんはぽつりとつぶやいた。
「まだ足りねぇから、もっかいしていい」
「・・・・・っ」
透明なお湯を揺らしながら動く引き締まった腕に、どーなの、って尋ねられるみたいな仕草で身体中を撫で回される。なぁ、って一声、
焦れた目つきで漏らした銀ちゃんは、こつん、とおでこをくっつけてきた。
濡れて艶が増した髪の色と似たような色をしたしずくが、前髪からぽたり、ぽたり、と垂れている。
あたしの胸元でぱちゃ、と弾けたその冷たさで、背中がびくんと揺れてしまう。ふと窓の外から人の声が聞こえてきて、
今は何時なんだろう、って唐突に思った。
もう新年になったのかな。除夜の鐘は鳴り終わったのかな。だけど銀ちゃんに撫でられてる身体中が弱い熱で疼いてきちゃって、
外の気配なんてもうよくわからない――
「なぁ、ー。・・・だめ?やだ?」
「・・・ま。また、ここで・・・?」
「ん。のおかげで銀さん変なスイッチ入っちまったから。もう待てねーから」
はぁっ、と深い息遣いで漏らされたその言葉は、おねだりというよりも懇願するみたいな苦しげな響きで。
銀ちゃんの上に横座りしてた脚を掴まれて、跨る格好に変えられる。中で大きく動いたせいで、浴槽の縁にぶつかったお湯がぱしゃぱしゃと跳ねる。
くっついたままのおでこを、濡れた肌でぐりぐりされて、
「ー。ちゃーん、いつまで待たせんの。お子ちゃまのくせに焦らしプレイですかこのヤロー。
もぉ爆発しそーなんだけど、秒読み体勢なんだけど。ここで焦らされっと無理やり襲っちまいそーなんだけど?」
「・・・・・・。新八くんたち。帰って、きたら・・・?」
「んぁー。まぁ、んなとこガキどもには見せらんねーけどぉ、・・・まーいーんじゃねーの、そん時はそん時でどーにかするし」
「・・・初詣。後で、一緒に行ってくれる・・・?」
「あー行く、行く行く行く、朝な朝、ちゃんと行くから」
「・・・いっしょにおみくじ引いてくれる?」
「はいはいはい、一緒な。・・・・・・ずーっと、一緒な」
今日も明日も、あさっても、な。
歌うような調子をつけて銀ちゃんは言った。むにっとほっぺたを挟まれて、ちゅ、とやさしく唇を啄まれる。
鼻先が触れるくらいの近さから「いい?」って尋ねられた。うん、て答えるのは恥ずかしい。だから声を出さずにこくんと、
赤らめた顔を振ってうなずいた。
「やくそく・・・?」
「はいはい。約束な」
破ったら針千本な。
眉を下げ気味にして表情を緩めて、籠った声でくくっと笑う。お風呂場に反響していたあたしたちの声の響きが、ふつりと途切れる。ちゃぷ、と胸元でお湯が揺れる。
顔中に雫を伝わせてる銀ちゃんにどこか蕩けた目で見つめられて、とくとくと心臓が弾み出した。
ゆっくり身体を寄せ合って、熱いお湯の中でキスを繰り返しながら繋がったら、それだけで身体中の感覚が変わった。
肌を取り巻いてる心地いい熱に二人でいっしょに融けていくような、ふしぎで甘い感覚に溺れていく。狭い浴槽の中でお湯がゆらゆら踊る。
はぁっ、って荒い息を吐いて胸元に顔を埋めてきた銀ちゃんは、夢中であたしを抱いている。
あたしも夢中で腕を伸ばして、濡れて癖が弱くなった頭にぎゅっと縋りついた。
銀ちゃん。銀ちゃん。 約束だからね。
うわずった甲高い啼き声の合間に何度も何度も、甘えた声でうわごとみたいにつぶやき続ける。
繰り返すたびに、ん、て銀ちゃんが抱きしめて返してくれるから、しあわせすぎて泣いちゃいそうだ。
ぼ―――ん、と霞んだ響きがまたひとつ。湯気に曇った暗い窓の外では、白く染まった街中を包み込むようなやわらかな鐘の音が鳴り渡っていた。