ビタースウィート
真選組屯所の、これといった事件も出動も無く、平穏なある日の昼下がりのこと。 首に異様なデザインのアイマスクを引っ掛けて、聞き耳を側立てながら障子に張り付く男が一人。 一番隊隊長、沖田総悟の姿がそこにあった。 副長の土方十四郎の部屋の障子に指で穴を開け、彼は室内を覗き見ている。 そのこと自体、特に疑問を持つ者はこの局内にはいない。 沖田を知る者にとって、それは「絶対ェぶっ潰す土方」をスローガンに掲げる彼としては、ごく通常の彼らしい行動。 局内の誰が見たところで、いっこうに不審を買うものではないからだ。 だが、今日に限ってはいつもと様子が違っている。 もし今誰かが彼に近寄り、彼の表情を目にしたならば。 局内の誰もが驚きに戸惑い、「アレ?俺、ひょっとしてまた視力落ちた?」と眼鏡の度を疑ってみたり、 普段は滅多に使うことのない目薬を探しに、首を傾げながら立ち去ったりしたことだろう。 誰もに困惑を持って迎えられるであろう、この男の異変。 それは今、彼が浮かべている表情にある。 沖田は今、真顔なのだ。 彼にしてはめずらしく真顔なのだ。 地顔からしていかめしい、熱血ゴリラ局長でもなく、 クールなんだかムッツリなんだか無表情なんだか解りゃしない、副長でもなく。 この眉ひとつ動かさずにバズーカ砲を撃ちまくる、トボけたドS少年の表情が、である。 悔しそうに噛み締めた唇。怒りに染まる目は大きく見開かれ、 今にも障子を蹴り倒し、鋭く抜刀するや中へ飛び込みかねない勢いに気色ばんでいる。 彼は先刻から、こうして副長室から漏れてくる会話を聞いている。 身を硬くして立ち尽くし、すでにその指は刀の鍔へと掛けられていた。 中にいるのはこの部屋の主。 沖田にとっては長年の天敵でもあり、恋敵でもある土方十四郎。 そしてもう一人は元真選組隊士で、別れてはみたものの土方とはつかず離れずの仲の元カノ、。 沖田が自らの気持ちをその飄々とした態度の裏に封印してしまうほどに、真剣に想っている年上の女性。 ところで、沖田が珍しく真顔で聞き入っている二人の会話。 それはいったい、どんな内容だったのか。 話は、彼がこの部屋の前に立った五分ほど前に遡る。 「俺ァ知らねェ。全部てめえが悪いんじゃねえか。」 土方の冷え切った声が響く。 そこに、哀感を抑えきれないのすすり泣く声が重なる。 「責任を取るようないわれは、俺には無い。金なんて一銭も出さねえぞ。 俺には一切関係ねえんだよ。その腹の始末くれえ、自分でなんとかつけろ。」 「・・・・ひどい・・・・酷いよ、土方さん・・・・」 「・・・おい。お前、泣きゃあ済むとでも思ってるのか」 「何よ!・・・そっちが気をつけてくれないから、こんなことになっちゃったんだよ!? あの時も・・・ううん、あの時だって。土方さんがちゃんとしてくれたら、こんなことには」 「あァ?テメエはどうなんだよ。お前には責任が無えってのか。 はっ、笑わせるぜ。そんなもん、自業自得ってやつじゃねえのかよ。 毎晩毎晩、嫌がりもしねえで流されたてめえに、何が言える。」 「・・・・だって・・・・我慢・・・出来なかったんだもん・・・・」 うつむいたの頬が、うっすらと紅色に染まる。 悲しみに潤んだ目から、ほろほろと涙が零れ落ちる。 座ったままの彼女の周囲には、ばら撒かれたように転がる蜜柑の粒が。 涙を拭い、そのひとつを手に取ると、彼女はそれを震える手で剥きはじめる。 「酷いよ・・・どうしてそんな、他人事みたいに言うの?」 彼女に背を向け、文机に向かう土方。黙したまま、口を開く気配すら無い。 その気配もひどく醒めていて、障子を隔てていても強い苛立ちを匂わせるものだった。 「こんなにしたのは、土方さんだよ?他の誰でもないんだよ」 剥いた蜜柑から割り取られた房がひとつ、わずかに開かれた紅い唇へと消えてゆく。 うつむいた頬を、ひとすじの涙が伝う。 涙混じりの蜜柑の味。 が味わうその苦さを思えば、自分の口も同じ苦さを味わっている気さえしてくる。 沖田は視線を力無く床に落とした。 「そりゃあ、言えなかったあたしだって悪いけど。・・・もう引き返せないよ。 無かったことになんて、出来ないよ。 ・・・・・だって・・・・もう、ここに・・・・・」 の言葉は途絶えた。涙に滲んで、途切れてしまった。 それでも土方は、振り返ろうとすらしなかった。 「・・・・もう、こんなになっちゃったんだよ? 始末しろだなんて・・・・無理だよ。今からじゃもう、間に合わないよ」 悲しみに沈む表情で自分のお腹を見下ろすと、 は大事そうに、慈しむかのようにそっとさすり始めた。 その痛々しい姿に、障子の向こうに立つ沖田の胸は震えた。 同時に、土方への激しい怒りが燃え上がる。 この男は、何故。 事有るごとに、別れたへの強い執着を覗かせていたこの男が、なぜ。 なぜこんな、酷な態度をに向ける。 それとも俺の買いかぶりだったのか。 この気に食わない男がに向けている思いが、芯の通った、偽りの無いものだと頭から信じ込んでいたのは。 この最低な野郎がに向けていたものは。 が野郎を心から信じ、けなげに慕い続けていたことの代償は、こんなクズのようなものだったのか。 子を孕んだと判った途端、手の平を返すような仕打ちを向けられることなのか。 「・・・わかった。もう責任とって、なんて言わないよ。 責任取れなんてもう二度と言わない。約束するから。・・・だから、土方さん。これだけは、お願い。 認めてよ。せめて、こうなったことには土方さんが関わってるって。認めてほしいの。」 黙したまま動かない土方の背中に、がしなだれかかるように縋る。 「・・・・それと。あたしたちのこれからのための、お金も。 ・・・・・・・・ねえ、お願い土方さん。 もう絶対に迷惑なんてかけないから。ねえ。お願いだから、土方さ」 「うるせえ!」 突然振り返った土方が、その腕での身体を強く薙ぎ払う。 か細い悲鳴を上げ、畳に倒れ伏したが、悔しそうな顔に涙を浮かべて彼を睨んだ。 その表情に怯むことも惑うこともなく、土方は酷薄な表情でふっと笑った。 「出てけ。」 障子戸の向こうに立つ沖田の刀が。 鞘からわずかに引き抜かれ、カチリと乾いた音を鳴らす。 斬る。 今すぐ奴を、ぶった斬る。 そうしちまえば先は無い。近藤さんには、この先合わせる顔が無え。 だが、これ以上はもう我慢が効かねえ。 野郎がどうなったって構うもんか。 もうあの気に食わねえツラに我慢してやる必要なんざ、どこにも無え。 消してみせる。 の奥に残ったあいつの面影ごと、微塵も残さず俺が消してやる。 あいつァを泣かせやがった。 不安に怯えて、野郎に縋るを捨てようとした。 泣くほど悲しませやがった。 それだけで奴を斬る理由には充分だ。充分すぎるほど、事足りる。 この間、時にしてわずか数秒。 沖田は瞬時に覚悟を決めた。 土方を斬ったら即座に、を連れて逃げる。 きっとは狂ったように泣き、抵抗し、俺を責めるだろう。 倒れた土方に縋り、号泣し、崩れ落ちて。薄情な男の亡骸から、離れようとはしないだろう。 自分が弟のようにしか思われていないことは、惚れた女から男として見られていないことは解っている。 解っているのだ。 それでも、彼の決意は揺らぐことがなかった。 それでもいい。それで構わない。それでも俺は、を連れて逃げる。 追手をかわし、身を潜ませながらでも護る。逃げ延びてみせる。 俺はを護る。腹の中の子も護る。 腹の中にいる奴ァ、半分はこのクソ野郎の血を引いている。 けれど、残りの半分はの子。 初めて本気で惚れた女の、愛しい子供。 俺はその残り半分だけに、すべてを賭ける。 今の俺にあるもんを、全部捨てる。何ひとつ惜しいなんて思わねえ。 俺のこの先すべてを注いで、と生まれてくるガキを護ってみせる。 抜き解かれた刀の鞘が、音をたてて板張りの廊下に転がった。 障子戸に手を掛ける。 荒れた気を整えるような、深くて苦しげな一呼吸を置いて。 沖田がその戸を開け放つ。 彼が室内に飛び込もうとした、まさにその瞬間。 涙をこらえながらのの叫びが、開け放たれた廊下まではっきりと響き渡った。 「土方さんのせいだよォォォ!!!! 牛丼だのラーメンだの、ハイカロリーなゴハンばっっかり食べさせるからァァァァ!! 見てよこの、あたしのぽっこりお腹ァァ!!!オラ見ろ、見ろよ土方ァァ!!! コレ絶対アンタのせいだよ、どーしてくれんのさァ!! アンタがもっとカロリーに気を使った店で奢ってくれたら、こんなコトにならなかったのにィィィィィ!!!!」 「あああァァァ!!!??なァに言ってんだテメエ!!!ヒトに毎晩メシ奢らせといて言うコトかァ!? しかも何だよ!!?どーすんだよコレはよ!?ふざけんなァァ!!今すぐ返せ、始末しろ、返品しろこの山!! 俺の奢りで太ったからって、俺の名前で、しかも屯所に着払いで注文すんじゃねェ!! どんだけヒトの金で食う気だテメエ!どーすんだァ!?この大量のマ○ク×ダイエットォォ!!!」 「はあァァァァ!!!??何それェ!?責任逃れもいい加減にしてよォォ!! 土方さんがあたしを太らせたの、間違いないの!!それに、もォマジでお金無いんだもん!! 小金溜め込んだモトカレ以外の誰に、気軽にたかれっていうのよォ!? いいじゃない、ゴハン代くらい!マ○ク×ダイエットの山くらい!別れた女への慰謝料だと思えばいいじゃない! いくら自分が高コレステ犬餌丼毎日食べても太らないからって、いい気になってんじゃねェぞ土方ァァ!! ちょっとは気ィ使いなさいよ!モトカノの健康管理に気ィ使え!金も使えェェ!!! そーゆうマメさが無いから、土方さんはモテないのォ!!いつまでたっても、次の女が出来ないのォォォ!!!」 「んだとォ!?テメーが言うか、ソレ言うか!?慰謝料請求してえのはこっちだァァ!!!!」 「ウルサイ!!ウルサイィィィ!!土方の馬鹿ァァ!!! どーすんのよォ、このお腹ァ!!これじゃ水着なんか着れないィィィ!!!!!! 今から必死にダイエットしたって、絶対夏まで間に合わないィィィィ!!!!!!」 部屋を飛び交う蜜柑。 部屋を飛び交うマ○ク×ダイエット。 泣きながら土方に蜜柑を投げ続ける。 苦々しい顔で、隣に置かれた大きなダンボール箱からマ○ク×ダイエットを取り出しては投げつける土方。 それらを顔色ひとつ変えずにみつめていた沖田は。 とりあえず廊下に戻り、刀を鞘に納めた。 それから。 ・・・・気落ちしきった気配を意地だけで押し隠し、馬鹿にしきった冷えた声で来訪を告げた。 「・・・・・何をやってんでェ、アンタらはよォ」 「あれっ。総悟。いつのまに来てたの」 「・・・テメエ。いつも言ってんだろーが。人の部屋に入る時は声のひとつくれえ掛けろ」 くだらない痴話喧嘩を目撃されたのは、彼にしてみれば余程照れくさいことらしい。 土方は沖田に素っ気無く背を向け、机に置かれた書類を掴んだ。 「あ、そーだ。総悟ォ。これ食べる?」 涙をまだ目に溜めたままで、がぎこちなく笑う。 はい、と差し出した彼女の手には、今や部屋中に転がっている蜜柑がひとつ。 「バイト先の人に貰っちゃった。いっぱいあるんだよ、あんまり美味しいからおすそわけに持ってきたの」 「おい。何しに来た。用があるんじゃねえのかよ。」 問われた沖田が黙り込む。急に力が抜けたかのようにうなだれた。 彼らしくも無い、沈んだうつろな表情をその顔に浮かべながら。 蜜柑を差し出していた手を下ろし、が問いかける。 「総悟・・・・?どうしたの?」 「どうもしねえ」 「・・・・どうもしねえ、って。そんな顔じゃないよ。ねえ。何かあったの?」 が手にしていた蜜柑が、畳にころんと転がり落ちた。 蜜柑の大きさが手に余り、持ちきれなかったのだ。 彼女はすでに、違うものを手に取っている。 沈んだ顔で言葉も失くした、沖田の両手を。 弟のように可愛く思っている少年の手を、真摯な目をしてそっと握る。 知らないからこそ出来ることだった。 その表情の真剣さが、見守るような視線の温かさが。 今の沖田には何よりも辛いことを、彼女は。 「ねえ総悟。言って?話してみてよ。あたしじゃ役に立たないかもしれないけど。でも」 「何でもねえよ、。・・・あんたが心配するようなこたァ、ひとつも無えのさ。」 感情の乗らない小声でそう言うと、彼はの隣に膝をついた。 そこに座ると、何も言わずに寝転がる。 寝転がった彼の頭は、測ったかのようにぴったりと、の膝上へと落とされた。 突然膝枕をさせられたが。その気配に感づいて振り向いた土方が。 沖田の大胆な行動への驚きに声も無く、彼を見つめる。 沖田はまっすぐに、の顔を見上げていた。 の紅い唇が、半開きのまま動かない。 目の前にあるのに届かない、遠い唇。甘く香る、の唇。 もしもあの綺麗な唇が、野郎じゃなくて俺のものだったなら。 俺ァ他に、何にも要らない。 何ひとつ欲しくなくなっちまう。全部捨てたって構わないとさえ思っちまう。 そんな捨て鉢な願いは、良くねえことだ。 そいつァきっと、俺にとっては良くねえことに違いない。 それでも欲しい。 俺ァやっぱり、が欲しい。 声すらないの表情をみつめながら、沖田はわずかに微笑んだ。 「・・・・・けど、ちょいと疲れた。 ねえ土方さん。俺ァただ、昼寝しに来ただけでさァ」 すうっと、闇に吸い込まれるように目を閉じる。 自分で感じていたよりも疲れていたのかもしれない。 閉じた瞼は溶けた鉛のように、光を拒んで動こうとしない。 もうこのまま開くことがないのかもしれない。そんな錯覚に陥る。 温くて気だるい深みに堕ちていくような感覚が、彼にその黒い手を伸ばす。捕らわれそうになる。 すると、見えないぶんだけ彼の五感は、目には映らないものへと傾き出した。 彼の頭が触れている、の膝の感触に。 眩暈を覚えるほどに甘く切ない、の匂いに。 ふわふわと身体も心も漂うような、何ともいえない心地よさに。 短く気だるいトンネルを。 暗闇を通り抜けて辿り着いた場所。 懐かしい場所だ。 こんな気持ちの良い、柔らかな、安らげる場所は久しぶりだ。 の柔らかな身体から漂う温かさ。 姉上が亡くなって以来感じたことの無い、春の日差しに包まれたような温もり。 今に見てろ。 絶対奪い取ってやる。 勿論、近藤さんの隣にだって、この野郎をいつまでものさばらせておく気は無え。 ここだって、いつまで野郎のもんにしておくつもりも無えんだ。 ここァ、俺のモンだ。絶対俺のモンにしてみせる。 こんな気持ちの良い場所を、よりによってこの世界で一番気に食わない男に、 一生のうのうと占領させておくこたァないだろう。 ゆっくりと目を開けた。 開けた途端に、膝枕に興じる彼を黙って睨んでいる土方と目が合う。 表情こそ薄く言葉も無いものの、今にも掴みかかってきそうな目をしている。 沖田の瞳が、その奥底に生まれた決心に光を放つ。 心の中でつぶやいた。 「今すぐ死にやがれ土方。・・・なーんて、言わねーけど」 「聞こえてんだよコノヤロ、さっさとそこから起きやがれ!!」 にやりと笑って、沖田が跳ね起きる。 跳ね起きる途中で、彼はに顔を寄せた。 まるでついでに奪うかのようなさりげなさで、唇を彼女の頬に掠めさせる。 そっと触れるだけの口吻けが、の頬に残されて。 「寝覚めの一服、たしかに戴きやしたぜ土方さん」 トボけた顔でそう言いながら、沖田はふざけて土方にキスを投げる仕草までしてみせた。 少女のようなベビーフェイスがトレードマークとはいえ、彼もそれなりのお年頃。 本音を言えば少し、いや、かなり物足りないその行為の清らかさ。 それでも沖田は満足だった。 そんな素振りをこの二人には悟らせないが、心の奥では笑い出したくなるほどに嬉しかった。 驚きに目を見開いた、幼さの残るの表情を、かつて無い近さで見れたことも。 沖田の唇が触れた瞬間は、自分が何をされたのかすら解っていなかった。 その頬が、次第に赤く色を帯び、じんわりと染まっていく。 呆然とすると、そのを見て固まってしまった土方。 二人を愉快そうに眺め回すと、沖田はさらりと口説き文句を口にした。 「あんたに涙は似合わねえよ、。笑ってるほうがいいのさ。 俺の姫ィサンには、笑顔のほうがずっと似合う。笑顔のほうが、別嬪さんが引き立つぜ?」 「沖田ァァァ!!!!」 目の前での頬を奪われたことに激怒した、鬼の形相の土方の刀が、唸りを上げて彼に襲い掛かる。 激怒で狂いが生じている土方の太刀筋を、軽々と避けてかわす沖田。 わずかに掠めただけの口吻けに赤くなった頬を抑えながら、二人を呆然と見上げる。 「逃げんじゃねェェェェ!!!」 怒鳴る土方に追われ、いつものように屯所の廊下を駆けながら。 沖田総悟は、自らの唇に指で触れてみる。 触れながら思い出すのは、あの頬の滑らかさ。 触れた瞬間の、わずかにきゅっと身を竦めたの、無意識の抵抗。 こうしてみたところで彼女は自分以外の男のものなのだと気づく瞬間の、ほろ苦さ。 あの柔らかな膝の温もり。 の柔らかな身体に感じた、安らぎに満ちた心地よさ。 覚えてやがれ、土方。 もしもあんたが、どこかでしくじるようなことがあれば。 もしもあんたが、を泣かすようなことがあれば。 俺は絶対に黙っちゃいねえ。 必ずてめえをぶった斬る。その時ァ、必ずを浚ってやる。 てめえを始末すんのは俺だ。俺以外の奴は許さねえ。 他の奴にゃあ手出しはさせねえ。 もしもあんたに手出しする馬鹿がいたら、俺が全員片ァつけてやる。 どんなに化け物じみた奴等が星の数ほど現れようと、俺ァまとめてぶった斬ってみせる。 もし俺が、それで命を落としたとしても。 いいさ。それでも構わねえ。 あんたか俺のどっちかが、の隣に残りゃあそれでいい。 を護って支えて、笑顔にさせる男が、この世に一人残りゃあそれでいいのさ。 けどよ土方さん。 あんたがもし、俺より先に逝っちまったら。 その後のことは、何ひとつ心配要らねえぜ? どんなに悔しかろうと手も足も出ねえ岸の向こうで、今みてえに怒りに任せて刀振り回してりゃいい。 どうか気を揉みながら見てて下せェ。 あの柔らかい膝の占領権は、俺がしっかり貰い受けてやりまさァ。
「 ビタースウィート 」text by riliri Caramelization 2008/08/05/ -----------------------------------------------------------------------------------