おおかみさんとちいさなこいびと *5
「ねぇねぇ。とーしろー。・・・、びょうきなの・・・・・・?」 それはひどく不安そうな、どうしていいのかわからずに縋ってくるような声だった。 心細げな声音に耳を奪われ、薄く色づいた蕾のような先端から唇を離す。 はぁ、はぁ、と呼吸を乱して上下に隆起する女の乳房との間に、つうっと透きとおった糸が引かれる。 土方は身体を起こし、布団に横たわる淡い色の裸身を見つめた。しっとりと汗ばんで艶めいたの肌は、 浴衣を脱がせた時よりもほのかに赤く色づいてみえる。普段の倍以上の時間をかけて施された愛撫のせいで、 全身が火照ってきたのだろう。 口端に残った雫を手の甲でざっと拭う。その唇にはかすかな笑みが浮かんでいた。 「のからだ、すごぉくあっついよ。どーして?さっきまでお熱なかったのに・・・」 見下ろした女はまっすぐに土方を見つめかえした。視線こそ率直な子供のそれだが、 乱れた髪が赤らんだ頬に貼りつき、唇は熱く短い吐息を悩ましげに漏らしている。 何も言わずに頭を撫でてやると、は眉を深く下げてひどく困った顔になった。 細い腰をもどかしそうにくねらせながら、もじもじと太腿を擦り合わせる。 肩をうんと竦めていて、ぴんと伸ばした両腕で浴衣の端を掴んでいた。どうにかして下半身を隠したいらしい。 下着を彼の手で下ろされてからは、覆うものが何もないことが心許ないのか、ずっとそこばかり隠そうとしている。 「ねぇ。どーして・・・?どーして何も着ちゃだめなの」 「俺が見てぇからだ」 取りつく島もなくそう答えれば、が目を丸くする。頬が見る見るうちに赤みを増していった。 下半身から邪魔な浴衣を取り去る。あっ、とつぶやいたは、浴衣を遠くへ放り投げた彼の腕を 心細そうな目で見つめていた。 この手の答えに詰まる返答を向けられたのは、これで何度目なのか。 あまりに多すぎてもう数える気もなくなったが、布団に組み敷き、唇を奪ってからは、ずっと質問の連続だった。 絡めた舌を強く吸った時も、浴衣の帯を解いた時も、露わになった胸に舌を這わせた時もそうだった。 彼が新しい何かを始めるたびには驚き、戸惑い、繰り返す。「どーして?」と、不思議そうに繰り返すのだ。 そんな無垢な反応が可愛らしくて、もっと困らせてみたくなる。土方はが困りそうな言葉ばかりを わざと選んで答えてやった。 「ねぇ。どーしてこんなことするの。ねぇとーしろー。どーしていっぱいぺろぺろするのぉ・・・?」 はっ、と土方は笑い飛ばし、表情は厭味の抜けた苦笑で大きく歪んだ。 同じ質問をもう三度は受けていたからだ。 土方が自分の身体に及ぼしているこの不可思議な行為が何なのか、やはりは判っていないらしい。 しかし、判っていないにしても、何らかの羞恥は感じているのだろう。訊いた後は必ず目を逸らし、 落ち着きのない視線を静まった部屋の闇に彷徨わせている。 頭に添わせた手で乱れた髪を梳いてやる。彼の指先が頬や首筋に触れるたびに、こそばゆそうに細い肩が竦んだ。 「安心しろ。身体が火照るのは病気じゃねえ」 「・・・?」 「お前の身体はそうなるように出来てんだ」 「・・・わかんないよー。・・・・・どーしてぇ?どーしてお熱がでるの?」 「・・・・・・・」 ねえどーして?どーして、お熱がでるの?ねえねえ、とーしろー、どーしてこんなことするの? 舌足らずな声が降らせる疑問符の雨に閉口して、土方の苦笑いは次第に無愛想な仏頂面へと戻っていった。 優しく女の頭を撫でていた手も動きを止め、前髪で隠れたおでこに二本の指で照準を構える。 びしっと唐突に爪先で弾く。っっ、と身を縮めて悲鳴をこらえたは、泣きそうな顔で彼の髪を引っ張った。 「いたぁいぃぃ!」 「少し黙ってろ。そもそもなぁ、質問が多すぎんだお前は」 言いながら顔を近づけていくと、は戸惑いに満ちた目を向けてくる。 いつものの目ではない。あれは嘘もごまかしも通らない子供の目だ。 ひとしきり続いた愛撫でぼんやりと蕩けてはいるが、俺が知るは抱かれる間にあんな目はしない。 あれに見られているのはやりにくい。 目を閉じようとしない女の瞼に触れて、上から下へとそうっと撫でる。存外な素直さで彼の指に従い、子供の瞳は閉じられた。 重ねた唇の感触を味わいながら舌で割る。手のひらで感じている膨らみの熱よりもわずかに熱の高い、の口内へ潜り込む。 捕まえた舌先を舐める。強く吸う。彼が吸うたびに戸惑いをみせる唇を一度放して、すぐに角度を変えてまた塞ぐ。 何度か同じことを繰り返してじっくりと弄んだ舌を離し、そっと歯列をなぞる。どれも時間をかけてゆっくりと 進めてやれば、の戸惑いと強張りも解れていく。口内を通して土方に伝わる吐息も、少しずつ弾み始めていた。 「ふぁあ・・・、ん、く・・・ふぅ、・・・・・っ」 舌先を奥まで伸ばして深く絡め取ると、はびくんと身体を震わせ、夢中で彼の肩に縋ってきた。 これも最初は驚いて目を見張っていたが、徐々に慣らしていくうちに気持ちよさそうな喘ぎ声を漏らすようになった。 一丁前に感じてやがる。可笑しそうに目を細めた土方は膨らみをその手に収め、指先で捉えた蕾をきゅっと捏ねる。 「っっ、」 上げた嬌声は土方に呑み込まれ、苦しげに眉を寄せたは背中を反らせる。まだ殆ど弄られていなかったそこは、 それだけで途端に硬くなった。親指も使って転がしたり摘んだりしてやると、はまた身体を震わせる。 驚いた顔で彼から唇を離してしまった。 「・・・・・・・やだぁ。とぉしろぉ。やだぁあ」 「くすぐってえのか」 「んん、くすぐったぁいぃ」 「はっ。ガキんなっても弱ぇえとこは変わらねえな」 笑って見下ろした硬い蕾を指で突くと、ああ、と弱った声で啼く。 は涙目で彼を見上げ、やめて、と懇願するように首を何度も振った。振るたびに溢れた涙がこめかみへ伝い落ちていく。 さっきから執拗に襲われているそこを隠したいらしい。腕で覆って彼の手を妨げようとするのだが、 しかしその腕はそれぞれに手首を掴まれ、胸元から引き剥がされて、 「隠すな。見えねぇだろうが」 「ん、っ・・・ぁあ、やだ、あ、んん・・・・・やぁあ、とおしろ、っ」 抵抗してくる細い腕を抑えつけ、目の前で開かれた胸へ土方は吸いついた。舌先で弾き、柔らかく撫でて、 強弱をつけた刺激を与える。ふぁああ、とは身体をしならせ、乱れた声をひっきりなしに上げ続ける。 くちゅくちゅと唾液を混ぜながら甘噛みすれば、頼りない喘ぎ声は初めて感じる恍惚に呑まれていった。 「ああ・・・・・っ。ぁあ、やだぁ、噛まない、でぇ、・・・っ」 「なんだ、もう終いか。そこまで嫌なら止めてやってもいいが」 「・・・っ」 震える身体を腕の中に閉じ込める。背中を摩って宥めながら「おい、どうする」と、それとなく訊いてみた。 しかしは紅い唇をきゅっと噛んだままだ。 こう見えてなかなか負けん気が強いのか、それとも何か他に理由があるからなのか。 愛撫を施すたびにこうして恥辱に濡れた弱音をみせるくせに、はけして「やめる」とは言わない。 「どうする」と土方が選ばせるたびに涙目で彼を睨むのに、じっと黙って耐えるのだ。 見ていて何度か笑いそうになった。こんないたいけな表情で抵抗されると、かえって嗜虐心をそそられる。 あの今にも崩れそうな頼りない強情さをぐらぐらと揺らしてやりたくなる。あの幼い表情がどう崩れるのかを知りたくなる。 嫌だ嫌だと泣きじゃくらせたら、こいつはどんな顔をして俺に縋りついてくるのか。口に含んでいた硬い先端を、 かりっ、と強めに歯を立てて噛んだ。 「ひ、ぁっ、」 「どうした。痛てぇか」 「・・・っ、・・・・いたく。ない、も、へーきだもん、・・・いたく、ないぃ、・・・・」 瞼の縁一杯に雫を溜めた泣き顔が愛らしい。引き結んだ唇が必死に涙を耐えている。 であってではない表情だ。無垢で穢れのない表情の端々には、何度も抱いてきた女の面影も残っている。 だが、彼の知らないいかにも子供らしい表情も見せてくれるのだ。散々貪ってから唇を離すと はしばらくぼうっと天井を仰いでいたが、少し不安そうに尋ねてきた。 「とーしろー。どうしよう。ね、やっぱりびょうきなんだよ・・・?」 「あぁ?」 「だって。のここ、何かでてるよ。・・・。ねえ、どーして?なぁに、これ、」 下半身に沿わせた細い指先が、彼女の中心から太腿の内側へと溢れた蜜を指している。 「とろとろしてるよ・・・?なぁにこれ。」 「お前の身体が欲しがってんだ。そん中を弄ってほしいって」 「・・・とーしろーに?とーしろー、のここ、触るの?さわりたい・・?」 「ああ。お前がいいなら奥まで弄って、もっと溶かしてやる」 頬を撫でながら言い含めると、はきょとんとして彼を眺めた。 我ながら仕様の無い台詞だとは思う。だがここでガキ向けの遠回しな台詞を口にして この行為が何を意味しているのかを半端に隠す気はなかった。普段のなら頬を真っ赤に染めるような 不躾な指摘をしても、今のは何の疑念も持たずに素直に受け止める。新雪のようにまっさらな純白さで、 こいつはすべてを受け入れる。受け入れてもなお染まらずにいられる強さは、ガキなら誰しも持ち合わせて いるものなのか。それとも、持って生まれついた、本人すらも知り得なかった本来のこいつの姿なのか。 「とーしろー・・・?どーしたの」 長く生えそろった睫毛を瞬かせている少女に頬を撫でられ、小声で呼ばれる。不思議そうなその声で、 思案に潜っていた意識がようやく目の前の少女に向いた。いつのまにか無言を続けていたらしい。 平静さを装い、わざと無表情を繕い、土方は「いいな」と言い聞かせる。 すると、は怪訝さを瞳に浮かべながらも「うん」と頷いた。 何の迷いもなく応じてきた。俺が言うなら何をされても大丈夫だとでも思っているのだろう。 俺に向けるこいつの信頼は、それだけ大きく確かなのだ。 そう思うとやはり胸の隅がちりちりと、ばつの悪い罪悪感に焦げ付くが。 「あのね。ね、びっくりすることいっぱいだけど、いやじゃないよ」 とーしろーなら、いやじゃないよ。 何の曇りもなくそう言って、目を細めて嬉しそうに笑う。 「ねー。とーしろー、」 「ん、・・・」 「もっとして・・・?」 甘えた口調で言いながら、は目を閉じて土方に唇を寄せる。ちゅ、と軽く重ね合わせた。 身に潜む貪欲さを知られることも、それを彼の手によって引き出されることも、少しも恥じてはいないらしい。 濡れた内腿に心底不思議そうに触れる様子を眺めていると、思いがけなく無知と無垢の違いを悟らされた気がした。 遊ばせていた手を掴んで、その指先を潤んだ割れ目へ添える。足を左右に開かされたは、何するの、という目で 彼を見てはいたが、嫌がる様子はなかった。華奢な指を導き、ぬるりと滑らせながら、火照りきったぬかるみに 彼女の指先を浅く突き入れる。すると、びくん、と脚が強張って爪先が反り返った。 「やぁ。あ、ここぉ、だめぇ、じんじんするぅ、・・・・」 「。わかるか。お前ん中がどうなってるか」 自分の指を取り込もうと収縮する柔らかな壁を、焦らしながらゆっくり撫でさせる。 固まって動かないの指を押しこんで、引き抜いて、くちゅくちゅと熱い潤みを掻き出した。 「っ。・・・・ひぁあ・・・・・・やだぁ。あついぃ。あっつい、ようぅ」 「全部お前の中から溢れてきてんだ。・・・はっ、止まらねぇな。腿までぐっしょりじゃねえか」 「とーしろ、っ。・・・どうしてぇ・・・?いっぱい、なの、流れて、くる、のぉ、・・・・あ、ぁあ、」 焦点の合わない目で天井を見つめながら、はうわごとのように繰り返す。土方が導いた手は 触れただけで蜜を溢れさせる自分の秘所を、たどたどしい指遣いで撫でて慰めている。 半開きになった唇は、親に甘える仔猫のようなか弱い嬌声を漏らしている。あ、あ、あ、と短く喘ぐ しっとり濡れた白い喉に触れて、手のひらでゆっくりとそこを撫でる。胸の膨らみを柔らかく揉みしだく。 「もっと弄れ。奥までその指突っ込んで、イっちまうまで掻き回してみせろ。。もっと俺に見せてみろ。なぁ、」 「はぁ、んんっ、・・・とーしろ、の、手、あつい、あっつい、よう・・・・・・っ」 きもちいい。小さく掠れ声を漏らす女の胸をやんわりと可愛がりながら、土方は陶然とした表情で彼女を見下ろす。 こんなに気持ちよさそうに痴態を晒すの姿は初めて目にした。それは土方の知らない大胆で奔放なで、 しかし、快感に浸るその表情は彼の知っているとそう変わらない。感じたことのない不思議さが彼を火照らせる。 こいつの中にはこんな女も隠れていたのか。そう思いながら、喉の奥にこらえようのない渇きを感じる。 ごくりと喉を鳴らして渇望を抑え込んでも、乾きは全身に広がっていく。乱れ喘ぐ肢体から目を逸らせなかった。 「とーしろー・・・・・のこと、もっと、さわって・・・?」 唇から儚げな声がこぼれて、潤んだ瞳が切なげに訴えてくる。 太腿を掴んでぐいっと大きく広げ、熱を持ったの奥に顔を埋める。とろりと雫を伝わせている 割れ目をなぞって、縦に強く舐め上げた。 「ああっ・・・!」 それだけで一際甲高くなった悲鳴が上がった。舌先を細くして差し入れて、透明な蜜を掬い取り、 わざとの耳に響くような派手な音を立てて掻き乱す。じゅく、じゅく、と快感に喘ぐそこを絞って水音を奏でた。 表情を歪めて強く閉じたの瞼から、ぽろりと涙の粒が転がる。頬を伝って流れていく。 「ねえ。どーしてぇ・・・?どーして、とーしろー、の・・・。いっぱい。・・・のぉ・・・?」 切れ切れで息苦しそうな問いかけには答えずに、舐めている谷間の上を――膨らんだ小さな突起を指できゅっと摘む。 指先で上下に揺らして弄り、そこへも舌を這わせる。やぁ、と叫んで追い縋ってきた頼りない手が土方の手を包む。 曲げた中指の先を濡れた中にふつりと突き入れ、ぐっと送りこんでやれば、ひぁあん、と 大きくかぶりを振って啼いたの背筋が、びくびくと震え始める。震えは腰や足にも生まれていて、 組み敷いた裸身は彼の指が動くたびにしなり、電流を流されたかのように全身を痺れに仰け反らせる。 「ひぁ、あ、とー、しろ・・・っ、ふぇええ、やだあ。こわいよぅ・・・っ、」 身体を小刻みに震わせながら、は両手で口を抑えて泣いている。漏れてくる泣き声は さすが子供と言うべきか、苦しげな表情ですすり泣く普段のとは違って、周囲への遠慮のない声だ。 「馬鹿、そうデケぇ声で泣くな。・・・ほら、こうしてりゃあ平気だろ」 姿勢を変えての背後に身を横たえ、背中から前に腕を回して抱きしめる。 伸ばした手の先で下半身を撫でて宥めながら、硬い指先で再び秘所を割った。ぐちゅ、と淫猥な音に耳を刺激される。 土方は指先に感じるの熱と、蕩けた内壁の感触が恨めしくなった。 駄目だ。早速抑えが効かなくなってきやがった。 あ、と背中を反らせて喘いだの横顔をすこし辛そうに眺めながら、じっくりと中を探っていく。 肌と肌を密着させたことで気分が落ち着いたようだ。陶酔しきったか弱い声で、ぽつりぽつりとは喋り出した。 「だってぇ。おかしいんだよ・・・?そこ、とーしろーが、ぐちゅぐちゅって、すると・・・・ い、・・・いっぱいに。なっちゃうの。、おかしくなっちゃ・・・・・・あ、ぁあ、っ」 「何もおかしかねえよ。お前の身体が俺に言ってんだ。もっとよくなりてぇから弄ってくれって」 奥へ届いた彼の指先が、ある一点を捉える。するとの反応はがらりと変わった。 土方の二の腕にぎゅっと抱きつき、自ら腰を彼に擦りつけるようにして揺り動かすようになった。 初めての愛撫を受け止めるのが幼い少女でも、この身体の感じやすさは変わらないらしい。 もっとぉ、とせつなげに泣きながら土方を求めてくる。奔放に刺激を求めてくるその仕草が可愛くて、 腕の中でぎゅっと抱きしめた。汗の伝うこめかみにキスを落とし、頬や耳にも唇を這わせる。 「あ、ぁん、あぁっ」 「どうだ。もっと欲しいか」 「ぅん、・・・あぁ、もっとぉ、きもちいい、のぉ、してぇ、とぉしろ、っっ」 もう一本指を突き入れ、何度も往復して敏感なそこを擦ってやる。快感が深みへ達するたびには身体を震わせる。 喘ぐ女の表情は苦しげなのにどこか神聖なまでに綺麗で、見ているうちに手が伸びて、自然と頬に唇を落としていた。 「ん、あ、あ、ああ、あ・・・・・ぁっ、っ・・・!」 二本の指で強く擦るうちに、がくがくと腰が揺れて背筋が跳ねた。 狂おしげで甘い声を部屋の闇に散らしながら、はあっさりと絶頂に達してしまった。 「、・・・」 「・・・・・・・・・・・っ。・・・あ、・・・・とぉ、しろ、・・・・・」 背後からぐっと引き寄せれば、は薄く目を開いて彼を見つめる。土方に抱きついて熱い肢体を預けてきた。 目を閉じてうっとりと余韻に浸る表情は、すでに少女の殻を脱ぎ捨てた女のものへと変わっている。 無言に包まれた部屋の中には、の火照った息遣いだけが響いていた。 はぁ、はぁ、と全身で息をしている華奢な身体はどこも薄い汗に包まれている。胸元に埋められた女の顔は うとうととまどろんでいて、じっと抱いていたらこのまま眠ってしまいそうだ。 シーツと擦れて絡まった髪に指を入れて梳きながら思う。 ここで止めにしておけばいい。このままを眠らせてしまえば、それでこの奇妙な夜は終わる。 医者は完治までに二日と言っていた。おそらく明日明後日になれば、この流行病のふざけた症状は消えるだろう。 ここで止めておくべきだ。そうすりゃあ俺も、思い返すたびに頭を抱えたくなるような、困った後悔はせずに済む。 いや、のためにそうするべきだ。 ――なのに身体は違う答えを選ぼうとしている。ひどく手前勝手な答えを。 この身体を思うさま突いて、泣き声すら上げられないほど感じさせてやりたいと。 弱りきったを見ているといつもそうだ。荒々しくて一方的な衝動にかられて、苦しげな呼吸を続けている唇に 無理矢理吸いついた。深く塞いで舌を絡め、苦しげな口内から酸素を奪ってやる。 息が出来なくなったはたちまちに暴れ出した。どうにか土方の腕から逃れると、 「っっ・・・!ぷ、はっっ」 大きく息を吸い込み、身体を起こして彼から離れた。醒めた目つきで彼女を眺めていた土方を、 あまり迫力のない怒った顔で睨んでいる。灯りの無い暗さに夜目が慣れて、土方にはの汗に光る身体が すっかりよく見えていたのだが、そこには気づいていないのか、裸身をどこも隠そうとはしない。 こういった羞恥心の薄さがいかにも子供の態度だ。そう思って苦笑を浮かべそうになったところで、 彼はつんと口を尖らせた少女に耳を疑う言葉を向けられた。 「とーしろー。・・・のこと、きらい・・・・?つまんない?」 「・・・・・・・・・・・・・・・、はぁ?」 「だって、ずっとつまんないお顔してるもん。さっきもそうだったよ、ぜんぜん嬉しくなさそうだもん・・・」 気落ちした口調でぽつぽつと話すと、は心細げに指を咥える。 しゅんとして深くうつむいた。そう、ずっと気になっていたのだ。 さっきは背中をぎゅっとされて「こうしてりゃあ平気だろ」と言ってもらった。あの時は何も言えなかったけれど、 何が起こっているのか判らなくて不安な時に優しくしてもらえて、泣いてしまいたいくらい嬉しかった。 なのにその後、一瞬だけ見えたとーしろーのお顔はこわかった。 眉がちょっと狭まっていて、お口はむすっとして不機嫌そう。 とーしろーのことがだいすきで、いつも気になってしまうには、その顔はなんだかとっても つまらなさそうに見えた。本当はとーしろーが、のことを疎ましがっているんじゃないかと不安になったのだ。 でも、すぐにとーしろーの指がのきもちよくなるところをたくさん苛めてきたから、 そんなことを考える余裕はすぐになくなってしまったのだけれど。 「ねーねー。とーしろー、」 「・・・・・・」 とーしろーは呼んでも何も言ってくれない。腕で起こした頭を支えた恰好で、シーツがぐちゃぐちゃなお布団に 寝そべっている。はぁ、と疲れきったような溜め息を吐いて、黙ってを睨んでいる。少し鋭くなった細いお目々がこわい。 とーしろー、楽しくないのかな。のこと、つまんないのかな。きらいになったのかな。 ・・・・・・・・・・・・・そんなのいやだ。きらわれちゃったらどうしよう。 悲しくって瞼が熱くなって、は泣きたくなってしまった。シーツをずるずると手繰り寄せて、口許をぎゅっと 抑えてこらえる。こんなのいやだ。とーしろーが楽しくないとも楽しくなれないよ。 「悪かったな愛想のねえ面で。しょーがねえだろ、愛想がねえのが俺の地顔だ。つーか何か、お前、 んな最中にずっと笑ってろってえのかよ?」 「・・・・わかんないよぅ、・・・どーしたらいいのかなぁ・・・・・」 「ぁんだコラ、そっちから訊いといて今度は無視か、…っておいてめぇどこ見てんだ、聞いてんのか?」 「・・・!あぁーっっ、そーだぁあ!」 「人の話を聞けェェェ!!」 枕を殴って怒鳴る土方は完全無視で、が勢いよく顔を上げる。 布団から起き上がった土方の腕に飛びつくと、周囲の暗闇までぱあっと輝くような天真爛漫な笑顔でこう言った。 「とーしろー!がきもちよくしてあげたら、とーしろ、楽しい?」 暗闇を100ワットで照らす満面笑顔のとは対照的に、表情をぴきっと凍りつかせた土方の周囲の温度が さあーっと冷えていく。「きいてとーしろー、ね、すっごくいいことおもいついたんだよ!」と 目を輝かせている子供を恨めしげに眺め、土方は額を抑えてがっくりとうなだれた。 ・・・誰かこいつをどうにかしてくれ。 それからしばらく、二人の間に、まったく何の意志の疎通も計れていない、妙にちぐはぐで滑稽な沈黙が流れ。 ――ようやく土方が苦々しくしかめた顔を上げ、そこから数秒が経過。 黙って怒りをこらえていた男の口が、震えながらもようやく開いた。 「っっの野郎、人が苦労して頭冷やそうってぇ時によくもぬけぬけと、・・・!」 「ねえとーしろー。ここさわったら、とーしろー、きもちよくなるの?」 「・・・!」 そう言ってはシーツに手を突いた。四本脚で歩く猫さんのようなポーズで、 脚を開き気味に座っているとーしろーの前にうずくまる。 これもずっと気になっていたのだ。背中から抱っこしてもらったときから、お尻に当たる熱くて 硬い感触がずっと気になっていた。これはにはないけれど、身体のおなじところに生えているのだから、 がここをすりすりしたり舐めたりしてあげたら、とーしろーはきもちよくなって喜んでくれるかもしれない。 絶句しているとーしろーが手で止めてくるのを避けて、はその先を手のひらに包んだ。するとそれが びくんと反り返った気がした。とーしろーはびっくりした目でを見ている。というか、 だけしか見えてないみたいだ。嬉しくなってえへへと笑ってから、頼りない手つきで握ったものを じいーっと、曇りのない目で見つめる。 すごく不思議だ。がお風呂で見たことのあるおにいちゃんやとうさまのとは、大きさも何もぜんぜん違っているから。 「あのね。ね、とーしろーのことだいすきだよ。だからね、だから、・・・」 とーしろーにもしてあげたい。がしてもらったのと同じ、きもちいいことをしてあげたい。 その思いは五歳の少女の唇から紡がれるまでには至らなかったが、嬉しさで胸の中を一杯にしながら、 はそこに口吻けた。ちゅ、と触れた先から疼きが走って、土方は声にならない快感をこらえる。 戸惑いながらもの頭へ手を伸ばす。ぎこちなく固まった手つきで髪を撫でてやると、は嬉しそうに微笑んだ。 ぺろ、と慣れない舌遣いで先端を舐め上げられる。何度か角度を変えて、少し怖がりながらそこを舐めてから、 顔を上げて土方を見つめた。ちょこんと首を傾げた顔が困っている。この先どうしたらいいのかわからないらしい。 ・・・・畜生。散々人を振り回しやがって。 全身の血がそこへ集まってくる苦しさに耐えながら、土方は心中で悪態をつく。 自分を握ったの手を上から包んで、ゆっくりと上下に動かす。するとはそれで心得たのか、 そうっと手を動かし始める。先に顔を寄せ、舌も這わせるようになった。 土方は黒く沈んだ色をした前髪を苦しげな面持ちで掴み、ぐしゃぐしゃと掻き乱す。 はぁ、と思わず深い溜め息が漏れた。 これだけでも相当にきつい。なにしろ彼は、今の今までにこんな真似をさせたことがない。 理由は単に彼がさせたくなかったから。以前にこういった事を強請ってに拒まれたのではなかった。 にこんな真似をさせてしまうと、何か負けが見えた気になりそうで嫌だったのだ。 彼が知りつくしてしまった、の唇と口内の心地良い柔らかさ。あんな柔らかさで包まれたら、何があっても もう彼女には敵わない気がしてしまう。つまりは女には一生理解しえない、男の意地の問題だ。 とはいえそのこだわりには、自分でも理解しえない部分もあった。今になって思えば、そんなこだわりを 持って女を抱いたのはだけだ。他の女をいくら抱こうが、そんなもん、一度も考えたことはなかったが―― 「ん、ふ、・・・・とーしろー、・・・・きもち、いい・・・・・?」 張りつめていく土方を指でそっと撫でながら、はむ、と蕩けるような熱い感触で先端を包む。 舌で撫でられたり、先端に吸いついてそこから溢れたものを舐められたりしているうちに、は目をぎゅっと閉じ、 彼を咥えた口内ではくちゅくちゅと柔らかく音が鳴るようになった。 布団に手を突いて身体をやや後ろに倒し、少し荒げた息遣いを漏らしながら、土方はぼうっとに見蕩れた。 脚の間にいる華奢な身体はいつにも増して愛おしく見えた。ミルクを呑む仔猫のようだ。 伏せて丸くうずくまった身体の、しなやかなくびれを作る腰の曲線に見蕩れて。 淡く光る肢体の輪郭に見蕩れて。たまにもどかしそうに動く腰に触れて、その円みをゆっくりと撫でる。 腰から脇腹へ、肩からうなじへ。労わるような手つきを滑らせていくと、はもじもじと太腿を擦り合わせはじめた。 「あ。やぁ。お手々で。すると。へんなのぉ。びくびくって、・・・するの、」 「・・・・・・・・、ああ。ここか」 「・・・っ。あぁん、やだぁ、・・・・」 腰に手を戻して丸い輪郭を掴んだだけで、びくびくっ、との全身が震える。 腰が小刻みに揺れている。濡れた脚の間まで手を伸ばし、指で探ると、は甲高く啼いて 指先に熱い雫を感じた。放っておかれた身体が、男のものを咥えてだんだん焦れてきてやがる。 「。もういい」 土方に肩を引かれ、口の中を埋めていたものがずるりと抜ける。 は息苦しさから解放されてほっとしたような顔で彼を見つめた。 口端に滴る唾液を親指の先で拭ってやると、あどけない顔でくすぐったそうに微笑む。 「とーしろー、きもちよかった・・・?」 「ああ。来いよ」 手を差し伸べ、細い腕をぐいっと引っ張り寄せる。 向かい合わせになって脚の上に彼女を乗せ、曲げた脚を開かせた。滾っている熱の中心まで女の腰を引き寄せる。 の手や唇が血を昇らせたそこはすっかり張りつめていた。女の肌と擦れただけで痛い。 軽く持ち上げた腰を先端に宛がいながら、彼はふと思いついた。「我慢できなくなったら言え」との耳にささやく。 「きもち、いい・・・?」 「ああ。さっきと同じになったら言ってみろ」 「・・・が言ったら、とーしろー、うれしい?」 黙って笑って、頷いてやる。 はすこし戸惑っていたが、土方が笑ってくれたことが嬉しかったのだろう。 安心しきった目で彼の目を見つめ、こくん、と深く頷いた。 持ち上げていた腰を徐々に下ろしていく。ぐ、と押しつけられた感触に表情を硬くした少女は、 自分のそこに土方が熱を押しつけてくる意味そのものがわからない。なのに、その張りつめた熱さを 感じた途端、彼女の身体のとろとろと溶けた内側は彼を欲しがって勝手にびくびくと疼き出したのだ。 こわい。また身体がおかしくなってきた。こわいよ。とーしろー、何するの。 先端がぐちゅりと濡れた音を立てて沈み始める。は身体を強張らせた。 初めて知った男に開かれる衝撃が、幼い少女の全身を貫こうとしていた。 「や、・・・!あ、やだぁ、こわいぃ、」 ずぶっ、と蜜を溢れさせながら深く沈めるごとに、悲鳴が喘ぎ声に変わり、ふぇええ、と辛そうな泣き声に変わる。 先端が奥に当たるまで深く腰を繋げると、土方の腕に抱きしめられた。 うなじに吹きかけられた長い溜め息はひどく熱くて心地良いい。目を閉じ、お腹の奥を 疼かせるあの大きなものを感じていると、なぜかひどく満たされた気分になれる。それだけでとっても気持ちが よかったけれど、その気持ちよさに充分浸れるような時間は与えられなかった。お腹を埋めた熱い塊に ぐっと下から突き上げられる。土方の首にしがみつき、背筋を仰け反らせて何度も彼を呼んだ。 「っ、あぁ、ふぁ、んっ、とぉしろ、っ」 「、・・・しばらく我慢出来るか」 はぼんやりと重たい瞼を上げる。 少しだけ頭をずらして顎を上げたら、こっちを見ている土方の表情は暗闇の中でもよく見えた。 薄く開いた口から漏れる息遣いが早くなっている。伏せ気味にしている目はなんだか熱っぽくて、を見つめて 何か言いたげな色を浮かべていた。その目に見つめられたら、の心臓は胸が苦しくなるくらいにきゅうっと縮みあがる。 とーしろーもくるしそう。高いお熱が出て苦しくて、すごくお水を欲しがっているひとの顔みたいだ。 とおなじだ。・・・じゃあ、とーしろーもきもちいいんだ。 「っ・・・、う、んっ。、がま・・・・・、でき、・・・っ、あ、ぁあっ」 答えたらすぐに大きな手に腰を強く掴まれ、ゆっくりと上下させられた。さっきもそこばかり擦られた、 特に敏感な部分を何度も責められる。ああっ、と声を漏らして悦びに喘ぐとすぐさま腰が持ち上げられ、 中を埋めた土方の感触を奪われ。焦らされる辛さを全身に思い知らされると、また深く引きずり下ろされる。 自分と土方の腰がぶつかるたびに、静まった闇を濁らせる濡れた音。嗅いだことのない、汗と何かが混じり合った匂い。 探るような目で見つめてくる土方に強く穿たれる衝撃。自分の内側で繰り返される、初めて知る激しい快感。 何も考えられなくなるような瞬間が絶え間なく押し寄せてくるうちに、は自分が何を しているのかも判らなくなってしまった。繋がっているところから湧き出る何かが血のように身体に回って、 指の先まで甘い痺れで一杯にする。お腹の奥がじんじんする。そこをじんわりと刺激する火照った何かが ――幼い少女に戻ったにとっては耐えられそうにないものが――尿意によく似た何かが溜まり始めていた。 「ふぇえ・・・っ、っく、ひ、ぁあ、んんっ、やらぁ、やあ、」 もう泣き声が止まらない。一番奥を突かれるたびにそこがびくびくして、ちっとも呂律の回らない おかしな声を絞り出していた。 こんなの嫌だ。赤ちゃんみたいで嫌だ。はずかしい。そう思うのに止められない。それどころか、どんどん声が高くなる。 「やあ、とーしろぉぉ。がま・・・でき、な、ぃい、出ちゃう、出ちゃうぅ・・・!」 顔を赤らめて泣き叫んだ瞬間に腰を打ちつけられて、奥をぐっと抉られる。 頭の中のすべてが掻き消えてしまいそうになって、は闇を裂く悲鳴を上げて背筋を反らせた。 すると全身に痺れが走って、足の先まで強張って、ふつりと意識が飛んで―― どのくらいそうしていたのかわからないけれど、いつのまにかの身体はぐったりと蕩けて、土方の胸にもたれていた。 たまにお腹の中がきゅうっと縮んで、そこを占めている土方を締めつけているのがわかる。 ゆらゆらと腰を動かされたり、先端で一番いいところを擦られるたびに、その締めつけがじわじわと強くなっていく。 その感触を苦しいくらいに感じてしまう。なのに声すら出なかった。重く貼りついた瞼は上がらなくて、手足は力が入らない。 男と身体を重ねる行為を初めて知った幼い少女には、それが二度も絶頂に達して脱力している証拠なのだとは 知りようもなかった。 判っているのは、後ろ頭を支えている土方の手がとても優しく撫でてくれること。 耳をざらついた舌で舐められ、背筋がぞくりと騒いでしまう低い声に「」と愛おしげに呼ばれたこと。 土方に埋め尽くされた秘所から何かが漏れて、内腿をぬるぬると濡らしていること。他のことはすべてがはっきりしない。 だから、おい、と彼女の意識を覚ますために呼びかけてきた土方の声も、朦朧とするの耳には 壁を隔てたような遠い音に聞こえていた。 「いいな。これぁ俺とお前だけの秘密だ。こういうこたぁ黙ってるもんだ。他の誰かに言うんじゃねえぞ」 「ひみつ・・・?ひみつってなぁに・・・?」 問いかけに眉をひそめてから、ああ、と気付く。 秘密。大人であれば耳慣れた響きだが、五歳の少女には初めて聞く言葉だったらしい。 土方は乱れて前髪の貼りついたの額に唇を落とし、五歳にも相応な言葉で答えた。 「要はまあ、誰にも言うなってこった」 「ないしょ、なの?言ったらだめ、なの・・・?」 「ああ。そうだ」 きょとんと目を丸くしたが、なぜか軽く息を詰める。 土方が少し動くと、あっ、と腰を震わせて、控え目な嬌声を漏らした。ぎゅっと彼に抱きついてくる。 息遣いを浅くしている背中を撫でながら、顔を寄せていって唇を塞ぐ。熱の上がった口内は 侵入してきた彼につたない動きで応えてくる。濡れた中を柔らかく探ってから唇を離すと、んく、と喉を鳴らしていた。 「・・・・・とーしろー、」 うつむいた顔は頬を薄桃色に染めている。はゆっくりと土方に目を合わせた。 大きな瞳が甘えた視線で彼を見つめる。 はぁ、とせつなげな吐息を漏らしながら、濡れた唇が訊いてきた。 「・・・とーしろーがしてるの、いけないことなの・・・・・・?」 そのたった一言。たったそれだけで、もう我慢が効かなくなった。 「――」 「とーしろー・・・?」 何も言わずに薄い肩を押し倒す。きゃ、と声を上げたをうつぶせにして、膝が曲がったままの太腿を抱える。 後ろから突き入れて何度も抉った。何も考えずに荒く突く。大きく引き抜き、先端を引き抜くすれすれでまた抉る。 ずん、と最奥まで叩きつけて、また引き抜いてを繰り返した。透明な熱をたらたらと滴らせているの入り口を 熱の上がった自身で激しく割って、ずぶずぶと奥まで乱暴に掻き乱してやる。 「っ、あ、だめぇ、ふぇえ、いたいぃ、とーしろ・・・・!」 妙に冷えた頭の隅で、こっちを振り返ってやめてと泣きじゃくるの横顔を見つめる。 どんなに泣いていてもこいつは可愛い。濡れた瞳が綺麗だ。あの泣き顔を知っているのは俺だけでいい。 そう感じながらも思う。 これぁ酷でぇ。強姦だ。あの一言でぞくぞくと煽られた背徳感や、抑えきれなくなった欲求を、 無垢な少女に強引に、ひたすら身勝手にぶつけている。こみ上げる衝動を熱い中に吐き出して、無残に穢そうとしている。 「ひぁ・・・!あ、あんっ、ふ、く、ぁあっっ」 わけもわからず男に組み敷かれ、荒々しく穿たれて、布団に肩を押しつけられたは全身を震わせている。 あ、あ、あ、あぁ、と短く喉を裂くような悲鳴を上げていた。 最初はただ揺さぶられていたのだが、そのうちに土方の動きにつられて腰を揺り動かしてくる。 感じやすい奥に強く打ちつけられる快感を、自ら求め始めていた。 「・・・・ふぇえ・・・・・・きもち、い、っ・・・・」 目を閉じ、唇を震わせて泣いている彼女の喉奥に、か弱くて淫らなつぶやきが生まれる。 それを聞き届けた土方は腕を先に伸ばし、が深く彼を呑み込んでいる部分の少し上を探り出した。 濡れた小さな膨らみを二本の指先で捉える。くちゅくちゅと捏ねる。 「あ、あ、あ、やぁ、きもちいいようっ、あぁ、いいっ、」 「、」 「んっ、もっと、してぇ、とーしろ、・・・・・とーしろ、ぉ、あぁ、すき、だいすき、っ、」 「ああ、」 「あ、ぁあ、とーしろー、っっ。・・・の、こと、・・・・・・・・・すき、ぃ・・・?」 「・・・ぁに言ってんだ。お前、ここまでされてまだ判らねえのか、・・・」 てめえに惚れてっからこうも抑えが効かねえんだろうが。 の内側の熱さに浮かされて思わず口にしてしまい、軽い後悔と照れ臭さが押し寄せてくる。 まだこれだ。昨日から子供相手で調子を崩しているせいか、普段は言わねえ本音がついうっかりと飛び出やがる。 どうも口が緩んじまって仕方がねえ。 「まだ手荒にするが。いいな、辛抱できるか」 「ぅん、・・・・・うんっ、」 は涙に溶けたうつろな視線を土方に向け、顔をシーツに擦りつけながら何度も頷いた。 すでに膝から力が抜けて布団にくずおれている。その身体を両腕に抱え、しなる背中に上から覆い被さって ひたすらに責めた。華奢な身体が内側から砕けてしまいそうなくらいに、欲求のままに衝く。 熱い蜜をじゅくじゅくと泡立たせながら深いところを抉り続けているうちに、背筋を反り返らせた身体から 悲鳴じみた喘ぎ声が上がった。 快感から逃れようとした腰を胴に回した腕で引き戻し、土方は一気に貫いた。 「!!っ、ひぁ、あぁ、あぁんっっ・・・・・!」 激しく甘い痺れで全身を震わせてが達した。 快感の残滓が過ぎてもなお腰を揺らし、苦しげに泣き叫ぶ唇を大きな手が塞ぐ。きつく羽交い締めにする。 すでに意識が遠のきかけていた彼女に追い打ちをかけるように自身をぶつけて、土方は強く締めつける中へ放った。 「・・・・・・、」 息を弾ませながら呼びかけて、腕の中で気を失っている身体を抱きしめる。 ぐったりと動かない背中に口吻けを落とした。濡れた背中を包んでいる、かすかな甘みのある汗の味が舌に広がる。 腕に感じるの重みは何度こうしても愛おしくて、何度感じても身体に慣れないくすぐったさだ。 無防備に預けられた柔らかさにも、途方もない満足感を得ていた。 を起こさないように布団に横たえ、恍惚とした表情で眠る女の濡れた睫毛を撫でる。 彼女が起きている時にはけして見せない、壊れ物に触れるような優しい手つきだった。 「とぉしろ・・・・」 身体を動かされたことに気付いたらしい。 うっすらと目を開けたは彼を見つめて、うわごとのような眠たげな声でつぶやいた。 「あのね。ね。あした、ね。・・・しろ、に、いいもの、・・・・・あげる、・・・・・・・」 だいすきなとーしろーに初めて抱かれて疲れきってしまった少女は、言い終えるのを待たずにすうっと瞼を閉じる。 もぞもぞと身体を寄せてきて、土方の腕にぎゅっと縋って。唇をあどけなく半開きにした表情で、幸せそうに眠りについた。 「バカぁぁああ、バカバカバカっっ。土方さんなんかもう知らないっっ」 その翌日。 がおかしな宇宙風邪を患ってから、三度目の朝がやってきた。 日課の朝稽古から部屋に戻った土方は、涙目でびいびいわめく女に朝から手を焼かされていた。 寝間着姿のは衿はずり落ちて髪はぐしゃぐしゃ、どこから見ても寝起き直後の乱れた姿だ。 「みっともねえから着替えろ」と指摘されてもいっこうに着替えようともせず、土方が部屋のどこで 何をしていても背後にべったりくっつき回り、頭や背中をしつこくポカスカ叩いてくる。 どんなに宥めすかしても諭しても、何を言っても聞く耳持たずだ。最初のうちは土方も頭にきて が向かってくるたびに「しつけえ!」と叱り飛ばしていたのだが。…目元一杯に涙を溜めた女が 「ぅううううう」とあまりに情けない脹れっ面で威嚇してくるのに辟易して、それも途中でやめてしまった。 「だって土方さんっ、子供になってたあたしに、・・・・・し、ししし、したんでしょ!?したんですよね!?」 「あぁ?したって何をだ。人に訊く時ぁもっとはっきり物言いやがれ」 「そっっ、そんなこと女の子の口からは言えませんんん!ああもうっ、変なとこでとぼけないでよっっ、 しっ、・・・しし、したんですよね、あたしが変な病気に罹ってる間にあたしの代りに出てきた、違うあたしと!」 「うっせえな朝から怒鳴るな。何もしてねえって言ってんだろ」 「した!したでしょ、絶対したぁぁ!じゃあこれは何、これはっっ」 と、両目からだーっと涙を流しているが自分の首筋を指してくる。 そこにはぽつぽつと赤いしるしが散っているのだが、にはこんな痕が残るような真似をした覚えが どこにもない。彼女はさっぱり覚えていないのだ。 自分がおかしな宇宙風邪に罹っていたことも、二日の間、子供に戻って過ごしていたことも。 ついさっき、稽古を終えた土方が部屋に戻った頃のことだ。 はいつものように目を覚ました。 枕を抱きしめてぼーっと彼を眺めて、「あれぇ、もぉご飯の時間れすかぁ・・・?おはようございますぅう」と、 いつもの彼女らしい呑気な笑顔を向けてきた。一見して元気そうな様子だし、本人も身体の具合は悪くないという。 だが、自分が幼い少女に戻っていたことは微塵も覚えていなかった。にしてみれば、たった一晩眠ったはずが なぜか二日も時間が過ぎていて、その間に自分だけが時間に置き去りにされていたという、なんだか納得いかない 事態になっているらしい。今のにとっては、自分が子供に戻っていたことも木登りで屯所を騒がせたことも、 土方を二日に渡って振り回したことも、すべてが身に覚えの無い話である。もちろん昨夜の秘め事も、全く記憶にないらしい。 「ひどいぃ。ひどいですよォォォ!それってう、うわ、・・・ぅううわわわうわ、うわ、き、っっ!」 「はぁ?浮気だぁ?」 言うに事欠いて浮気だと、この野郎。 土方は眉を吊り上げてを眺め、はーっ、と呆れきった顔で煙を吐いた。 「よくも言えたもんだなてめえ。人がより戻せってぇのにすっぱり断りやがった奴が、浮気だなんだと言えた筋合いか」 「〜〜〜〜!!」 は振り上げた手をぴたりと止め、困りきった様子で腕を下ろした。 それまでは土方の後ろ頭をポカスカと、いまいち力の入っていない手つきで殴っていたのだが、 ぴたりと動きを止めて口籠る。その気になれば他にいくらでも女を作れるはずの土方を散々待たせ、 中途半端な関係を続けさせていることを、はいつも気にしている。それを言われると弱いのだ。 そこは土方も心得ているので、普段であれば滅多に口にはしないのだが。 「フン、くっだらねえ。中身がガキでもありゃあお前だろうが」 「違うぅぅ!違うのっっ。それあたしじゃないもんっ、別人だもん!それってつまりう、うううわわ、ぅぅ・・・!」 「何が浮気だ。俺がてめえのいねえ隙見計らって他の女に手ぇ出したみてーな言い方すんじゃねえ、人聞きの悪りぃ」 「だってそれあたしじゃないもん!何があったのかちっとも覚えてないし!」 口を尖らせて言い返しながら、はずるずると大きなスーツケースを引っ張ってくる。 それには彼女の長期用お泊り道具が詰まっていて、明後日くらいまではここに泊るつもりで持ってきたのだ。 開閉ボタンを乱暴に押し、ぱかっと勢いよくそれを開けると、傍に落ちていた着物やら化粧ポーチやらを ぎゅうぎゅうと雑に詰め込み始めた。その様子を醒めた半目で眺めながら、土方は灰皿を持って立ち上がる。 の態度など気にもしていなさそうな顔つきだ。俺は知らねえ、勝手にしろ、といった平静な様子で文机に向かう。 ・・・少しは引き止めてくれるかと思ったのに。 その背中を今にも泣きそうな目で追うと、はスーツケースの中身をぐしゃぐしゃと引っ掻き回した。 「〜〜いいですよもうっ。あたし別に土方さんの彼女じゃないし、土方さんが誰と何してたってちっとも気にならないし! ここには当分来ませんからっっ。バイト先に来ても家に来ても、電話してきても出ませんからっっ」 全部嘘だ。そんなことぜんぜん思っていない。単にさみしさの裏返しで、意地を張りたくなっているだけ。 あたしって本当に可愛くない。――素直に「土方さんを他の子にとられたみたいでさみしい」って言えばいいのに。 立ち上がって部屋の隅まで走って、そこに落ちていた携帯を拾う。 スーツケースを広げた文机の前まで戻ると、その前に敷いた座布団にどかっと腰を下ろした土方がこう言った。 「ああそーかよ。俺ぁ構わねえから好きにしろ。てめえともそろそろ潮時だな。 いつまで経っても戻ってこねえ女のこたぁ見放して、次に乗り換えるかと思ってたところだ」 「――え、」 土方は細い煙を昇らせている灰皿を書類だらけの文机に置き、白いシャツを纏った背中越しに素っ気なく告げる。 途端には顔色を変え、拾ってきた携帯をぽとりと落として黙りこんでしまった。 余程にショックだったのか、ついさっきまでは土方に殴りかかっていた両腕をだらんと下げ、 生気を失くした顔が硬い声で尋ねてきた。 「・・・つ。次って、・・・・・・・・・・他の、ひとが。出来たって、こと、・・・・・?」 「ああそうだ。残念だったな。俺ぁもう他の女から先約が入ってんだ」 は言葉もなく、膝から畳に崩れ落ちた。 元から潤んでいた目がじわじわと涙を滲ませていく。きゅっと唇を噛みしめていた。 「・・・そ。そう、なん、ですかぁ。・・・そっか。なんだ、そういう、こと、・・・・・」 涙が出そうになっているのか、一言漏らすたびに唇を噛みしめながらぽつぽつと話す。 ・・・何だあの面、今にも泣きそうじゃねえか。 まったく他愛のねえ奴だ。あれだけですっかり真に受けやがった。 彼女の様子を横目に見物していた土方は、何食わぬ顔で灰皿に置いた煙草を咥える。 ふう、と煙を吐いて、ふと顔を逸らした。普段は表情に乏しいその口端には、こらえていた笑いを 我慢しきれずにこぼしてしまったような、ひどくおかしそうな笑みが浮かんでいた。 彼は手許にあったから手配書の束から一枚を指に挟み、ぴしゃりとの鼻先にぶつけた。 それはいたって普通な手配書だ。特に変わった点はない。は頬に伝っていた涙をあわてて拭きながら、 わけがわからず土方を見つめた。 「そっちじゃねえ。その裏だ」 そう言われて裏を捲ると、そこには―― 『とうしろ だいすき おおきくなったらおよめさんになってあげる まっててね』 手配書の裏に綴られた、やたらに大きな字の落書き。 子供っぽくたどたどしい筆遣いではあったが、そこに書かれている字は確かにの筆跡だ。 ところどころに鏡文字が混じっていたり、点が足りなかったり棒が多かったり。 左下には下手な絵が添えられていて、二人の顔が書いてある。 一人は墨で塗りつぶした黒い頭で、口端に棒のような何かが刺さっている。もう一人は大きく口を開けて笑っていて髪が長い。 「たった二日の短けぇ付き合いだったが、いい女だったぜ。 やたらに積極的で、頭も回るし察しもいい。素直で可愛げもあったしな。どこぞの馬鹿女とはえれぇ違いだ」 「・・・・・っ、」 「まあ、ガキだけあって恋文はえらく下手だが。・・・見ろよ。こいつぁ誰の字だ?」 今はもういない五歳の少女が土方の留守中に落書きして、手配書の束に忍ばせておいた拙い恋文。 その裏側――人相の悪い攘夷浪士の写真の貼られた手配書の面を、土方はぴん、と爪先で弾く。 手配書を両手に握り締め、目を丸くしていたはおずおずと顔を上げた。 土方と目を合わせると顔色がみるみるうちに染まっていって、かーっと真っ赤に茹で上がる。 ふっと愉快そうに目を細めた土方は、の頬に煙草を挟んだ手の甲で触れる。 嗅ぎ慣れた煙の匂いが、ふわりと彼女を包んで広がった。 真っ赤な頬を手の甲でとんと突くと、土方は見透かしたような笑顔で彼女を覗き込んで。 「おい。これでも浮気だ何だとぬかす気か」 「・・・う。浮気ですっ」 裏返った声でそう嘘ぶいた横顔は、さっきまでとは打って変わって恥ずかしそうだ。 脹れっ面なことに変わりはないが、急にしおらしくなったというか、ひどくいたたまれなさそうな様子をしている。 真っ赤な頬が髪の影に隠れるほど深くうつむき、両手でもじもじと浴衣の帯の端を弄っていた。 あの様子だ。こっちの女もまんざらでもねえらしい。 すっかり満足した土方は文机に振り返り、まだ充分に長さのある吸いかけを灰皿に押しつけ、ぎゅっと捻った。 朝飯までにはまだ時間がある。近藤さんや総悟もそろそろ起き出して、こいつの具合を見に来るだろう。 それまでこいつをからかってやる。あの拗ねた面が治らないようなら、機嫌のひとつもとってやってもいい。 そう思い、背後をちらりと振り返る。 すると、は数年ぶりに再会した大事な友達「クマのくーちゃん」を抱きしめてこっちを見ていた。 「・・・アパートに帰るのは、やめてもいい、・・・けど、っ。 土方さんとはとうぶん一緒に寝てあげないっ。今日からあたし、くーちゃんと一緒に寝るからっ」 「・・・・・・」 茶色いクマの影から顔を半分だけ覗かせて、頬をぷうっと膨らませたが潤ませた目で睨んでくる。 そのどことなく子供じみたいつもの表情に、あの幼い少女の面影をほんのわずかに垣間見て。 思わず目を見張った土方は、なんとなくどきりとさせられたのだった。
「 おおかみさんとちいさなこいびと 」 end text by riliri Caramelization 2011/05/23/ -----------------------------------------------------------------------------------