お お か み さ ん の ふ ゆ や す み *5.5
「んっ、・・・・・・ぁん、ゃあぁ、」 「おい。目。開け」 「・・・・・・・・・っ。やだ。やだぁ、・・・」 「開けって」 胸を探っていた手がそこを離れて、ささくれ立った親指の先が瞼を押してきた。 ぎゅっと瞑っていた目をおずおずと、少しずつ開ける。なんとなく不満そうな土方さんの表情を確かめて、すぐに顔を逸らした。 身体を起こしてこっちを見下ろしているひとの目が見れない。土方さんは平気でも、あたしはこれだけでもう息が上がっているのに こうして黙られると余計に恥ずかしくなる。 こんな居心地の悪さに反して、身体は拗ねるあたしから解き放たれたみたいに自由になっていく。 好き勝手にこのひとを感じて酔い始める。身体の隅々まで躾けられてしまったその心地良さには どうやっても抗えなくて、だからあたしはいたたまれない。こんな見え透いた嘘なんて、このひとにはお見通しのはずだから。 「・・・おい。」 「え、・・・・?」 「・・・どうにかなんねえのか。その。あれァ」 「・・・・・・。あれって?」 「だからあれだ。その。いつものあれだ、・・・てめえの得意な」 「・・・・・・・・」 何が?と目で訴えると、土方さんはなぜか気まずそうに顔を逸らした。 ついさっきまで煙草を挟んでいた手が伸びてきて、見るな、と目元を塞がれる。 「いや。まあ。そりゃあ、・・・だな。絶対に言うな、たぁ言わねえが。 あれの連呼で泣かれるこっちの身にもなれ。・・・・・・・・・・みてえじゃねえか」 「・・・・・・・・?」 「少しは察しろ。屯所中が寝静まった中で、お前のあれが聞こえてみろ。しかもだ。・・・あれだろお前。ちょっと無理させりゃあ必ず 恨めしそうな面しやがって。そりゃあまあ、昨日は俺も・・・・・・・いや」 途中で言葉に詰まると、土方さんはあたしの目隠しを外した。 顔を襖戸のほうまで思いっきり逸らしてから、ごほっ、と妙に不自然な咳払いをする。 「・・・・・・。とにかくだ。後味が悪くてどうにもならねえ。どーにかしろ」 「・・・?何。あたしが、なにを?・・・何をどうするの・・・?」 むにっ、と親指と人差し指の間に摘まれた頬が、遠慮なく引っ張られる。ぐい。ぐいぐいっ。 口端を下げて不満げに黙り込んだ土方さんは、これで手持無沙汰を紛らわそうとしているらしい。 またこれだ。都合が悪くなるとすーぐ黙っちゃうんだから。どうしてはっきり口で言ってくれないかなぁ、もう。 「え。あの。土方さぁん。・・・・ほっぺがいたい。痛いんですけど。あのぅ。・・・聞いてくれてます?」 引っ張られてるほっぺたが赤くなりだして悲鳴を上げている。しかも下半身だけ剥き出しの状態でこのひとに繋がれたままだから、 身体中がなんだかすごく変なかんじだ。土方さんがちょっと身じろぎするだけでむずむずするし、そのたびに爪先に力が入ってしまう。 てゆうか・・・なにこれ。いやだ。すごくやだ。だってなにこれ、・・・どういう焦らしプレイなのこれは!? この状態で何が一番嫌かって、とにかく恥ずかしいのがいやだ。ほっぺたの痛みで半端に我に返っちゃったせいで 急にいろんなことが気になり始めてしかたがない。右足に絡まったままの下着が濡れてて冷たいし、その冷たさがまず恥ずかしい。 このひとから見下ろしたあたしってどんなすごい恰好になっているのか、それを考えるともう 土方さんの胸をどんっと突き飛ばして逃げちゃいたいほど恥ずかしい。ああどうしよう。 点けっ放しの照明の明るさや、部屋の隅にあるテレビのバラエティ番組の声まで気になってきた・・・! …ようするに、いざ正気に返ってみれば何もかもが恥ずかしいことだらけで、地球の裏まで穴を掘って そこに飛び込んで埋まってしまいたいくらいにいたたまれない!・・・いやでもそれはともかくとして、 「いだっ、やめっ、伸びるぅぅ!やあ、いた、やめ、 土方さっ、・・・・土方こんのやろっ、少しは加減しろやコルぁぁ!そんなに引っ張ったらほっぺた伸びちゃうぅ!」 「・・・まるで。」 「はあ?何?ちょっ。聞いてる?聞いてるあたしの話!?」 「・・・俺が。」 「・・・・・・・・・・?」 「無理にやってる気分になんだろ。・・・嫌がる女を無理に手籠めにしてるみてえじゃねえか」 その言葉を聞き届けて、すこし間があって。なぜか、きゅうっ、と身体中が一斉に縮んだ。 そう言われただけで身体が、土方さんに埋められた中が――びくりと震えて反応した。 ぁっ、と弱った声が口から自然と漏れる。身じろぎしてしまうような強い快感に、受け入れたままのところが縛られる。 熱さがとろりと溢れ出るかんじが自分でも判って、土方さんと目を合わせたままの顔がじわじわと赤らんでいく。 あたしのあちこちに起こった全身の変化を目で追っていた鋭い視線は、火が点いた顔に固定された。 目を覗き込むようにしてじいっと表情を確かめると、まだ少し不満げだった表情が、微妙に緩んで晴れていく。 最後にはにやりと楽しげな笑みに歪んだ。 「・・・ちが!違うよ!?違うの、今のは」 「まだ何も言っちゃいねえぞ。つーか、何がどう違うってえんだ」 「だから。・・・・・〜〜〜っっ。ち・・・違うの、聞いて!」 フン、と含み笑いを浮かべて、土方さんが手首を掴む。あたしの反応を眺めながら。焦らすようにゆっくり近づいてきた。 楽しげに笑った唇に塞がれて、腕に背中ごと抱きしめられて。ぐっ、と奥まで押し込まれる。無言で腰を突き動かされた。 「ぁあっっ!んっ、ぃやぁ、あんっ」 「聞かねえよ。こうやって身体に聞いたほうが早ぇえからな」 「ぁあんっ、・・・・・めぇ、あぁあっっ、」 急激に深く、速くなった動きについていけない。毛先が肌に刺さる硬めな黒い髪をぎゅっと握って、 夢中で土方さんの頭に縋りつく。がくがくと震える脚の間に圧しかかって、土方さんはいいようにあたしを突き動かした。 逃げようとする腰を捕まえて。自分の下に抑え込んで。責められている場所以外の感覚がなくなるくらいに、激しく。 「はぁ・・・っ、はぁ、あん、ぁあっ、ひじ・・・さぁ、・・・だめぇ、」 「・・・ーかよ、・・・そんなに。好きか。無理にされんの、が、・・・っ」 「・・・・やぁっ・・・・ちが、〜〜〜ちがぁ、っ」 「違わねえな。・・・そうだろ。なぁ。。そろそろ。吐けよ。吐かねえん、なら、・・・」 「ぁあ、ひ・・・・ぁあんっ」 「・・・なぁ。どうだ。白状するまで。止めねえぞ」 「・・・・・・・・・ぃ、・・・っ」 布団を擦る衣擦れの音で消えそうな掠れ声に耳を留めたのか、息遣いを浅くした土方さんが顔を近づけてくる。 乱れた呼吸で喘いでいるあたしの唇に、ほんの軽く、その先の言葉を促しているような仕草で唇で触れた。 「何だ・・・?」 「・・・・・・い、ゃあ。言えない・・・ぃ」 またそれか。 心底げんなりしているような、けれどどこか拗ねているような響きの声がつぶやく。 言葉を交わしていても緩まない激しい動きに揺らされながら、あたしは夢中で上擦った声を絞り出した。 「そんなこと。・・・言ったら。・・・土方さんに。聞かれたら。は、ぁっ、・・・恥ずかしくて、っ。死んじゃぅ・・・」 それを聞いた土方さんはあたしの唇を啄ばむのを止めて、何かの思いがけなさに戸惑ったような顔をして動きを止めた。 吸い込まれそうになる強い視線から目を逸らせなくて、あたしもぼうっと見つめ返す。唇をきゅっと噛んで、無言で小さく頭を振った。 違う。今のは違うの。昨日といい今日といい、ほんとうにあたしはどうかしている。そうじゃない。 揺らされるうちにそんな気分が高まってしまって、誘うような土方さんの声音に乗せられて。 抱きしめてくれる身体に激しく穿たれる気持ちよさに抗えなくて、つい言ってしまったけど。 情けなく眉を下げ、今にも泣き出しそうな表情で訴えようとした。 ・・・土方さんのバカ。土方さんのせいだよ。あなたがあたしの身体を、こんなにおかしくなるように躾けちゃったから。 そう思って恨めしくなって、でも羞恥心に邪魔をされて、言葉がひとことも出てこない。 食い入るような鋭い目で、涙目になった表情を黙って見つめられる恥ずかしさで、さらに頬が火照る。 はぁ、はぁ、と弾む呼吸に肩が小さく上下している。土方さんの手に覆われている胸の奥が熱い。とくとくと大きく脈打っている。 汗で濡れた肩先に肌寒さを感じるようになった頃、土方さんはうつむいて目を逸らし、はぁ、と肩を落とした深い息を吐いた。 心地良い満足感に身体の芯から浸っているような深い呼吸だった。繋がれているあたしの身体にまで その心地良さが伝わってきて、つい声を漏らしそうになる。あっ、と唇を噛んでそれをこらえた。 「言ったようなもんじゃねえか、今のは」 「・・・っ」 「どうだ。違うのか」 「だ、だから。言えないって、」 「否定もなしなら、こっちも好きにするまで、だ」 「あっっ」 あたしの中から急に、ずぷっ、と大きな水音を立てて土方さんが引き抜く。 抜き取られただけで反り返った背筋を抱え込むと、布団の上で体勢を変えさせられた。 身体をうつぶせにされ、肩を布団に圧しつけられ、顔も枕に圧しつけられる。圧しつける力が強くて息が出来ない。 はぁっ、と息苦しくなって頭を横に倒す。解放されて大きく息を吸い込んだ口許に、土方さんの手が回ってきた。 熱っぽい硬さとそこに染み込んだ煙草の匂いが密着して、あたしの呼吸を再び止める。 広げた手のひらが顔の下半分をしっかりと覆った。ほんのわずかな声や息遣いさえ逃すまいとしているかのような強引さで。 途端に胸が騒いで、なに、と横目に背後を見上げる。それを見計らっていたかのようなタイミングで土方さんはあたしの 腰を抑えつけ、閉じかけていた太腿を無理矢理に開かせて、ずぶっ、と後ろから入ってきた。 「!んんっっ」 いきなりの衝撃で自然と胸が弓なりに反り返る。浮きかけた腰を土方さんは追い詰めるように一番深く抉った。 「おい。どうした」 「・・・ふ、くぅ、っ、んんっ、」 「ちったぁ逆らってみせろよ。・・・っ」 「ん、んんっ――!」 ずん、ずん、と狭まった奥を衝かれて、その度にぐちゅ、ぐちゅ、と水音が鳴る。腰がその激しさから自然と逃げようとする。 それに気づいた土方さんの腕がお腹に回ってきて、動けないように羽交い締めにした。一度引き抜いて、また強く打ちつけられて。 衝かれたところから脚まで溶かすような痺れが奔って力が抜ける。一切の身動きができなくなった。 骨っぽくて熱い重みが真上から重なってきて、あたしの背中を押し潰す。狭い中を掻き乱して押し広げようとしているような 滅茶苦茶で荒っぽい動きが打ち据えてくる。耳に粘りつく淫猥な水音が、土方さんに打ち据えられるたびに奥で泡立っている。 空いていた片手がシーツを握ったあたしの手を掴んで、力でねじ伏せる。指を絡め取って手を重ねると、頭の横に押しつけた。 絶え間ない動きで布団ごと揺らされて、ぎし、ぎし、と畳が軋む。男のひとの骨っぽくて硬い重みが背中を軋ませる。 それでも痛みはどこにも感じない。不思議なことに抑えつけてくる手や身体を怖いとも思わない。 羽交い締めで口を固く抑えつけられて、後ろから無理にされている。 唇を塞いだ手は頬や顎までがっちりと抑え込んでいて、頭の動きも拘束してくる。密着した手のひらのおかげで息が苦しい。 上半身は背中に潰され、下半身は布団に抑えつけられて、布団と同じように揉みくちゃにされて。 あたしの身体はただこのひとを受け止めるだけのものになっている。拒むことは許されていない。 自由なんて指一本分も与えられてない。声を枯らしながら喘ぐだけ。それ以外には何も許されていない。 手籠めにするみてえな、と土方さんが言っていた――それと何ら変わらない無理強いなのに。 あたしの身体はどこも嫌がっていない。濡れた奥を突き崩すような動きに導かれて、ただ蕩かされていくだけで 小さな嫌悪感すら湧かなかった。だって身体は判ってる。肌で、耳で、きつく抑えつけられた手で、深く受け止めた奥で。 全身が痺れるくらい感じてる。 これがこのひとなりのあたしの可愛がり方だって、甘い言葉なんて掛けてもらえなくたってわかってるから。 「・・・ああ。まただ。昨日と変わんねぇな」 「っ、・・・んん、っ」 「お前、本当はこれも嫌じゃねえんだろう。」 うわごとのような声は次第に低くなって途切れて。頭の横に当てられた唇が、苦しげな呼吸と熱を耳に注ぎ込んでくるようになった。 結局何でもこのひとの自由にさせてしまうあたしがどう思われているのか、それが気になって恥ずかしかったけれど、 土方さんが夢中になってくれる。欲情の赴くままに求められて、そそり立ったものを好きなようにぶつけられるのは嬉しかった。 後ろから打ち込まれる激しさと、汗に濡れた熱い肌に包まれた気持ちよさで、全身がきゅうっと縮むような感覚を味わう。 なのに涙がぽろぽろと、止むことなく雨のように溢れてくる。我を忘れて泣きじゃくりたくてももう声も出ない。 口許を覆った土方さんの手はほんのわずかな息継ぎすら漏らそうとしなくて、あたしは耳を一杯にする吐息の 速さと穿たれる熱さに身体ごと引きずられていって、意識が飛んで自分を失くしてしまう寸前まで泣き続けた。 ようやく口を塞いだ手が離れたのは、土方さんがあたしを両腕で抑え込んでから。 あたしが大きくかぶりを振って、背筋を張りつめさせる絶頂感から逃れようとした時だった。 「ん――っっ、」 「・・・!ぁああっっ」 後ろから鋭くぶつけられて全身が強張る。布団と土方さんの身体に挟まれた背筋がぞくぞくと震えて、 こらえきれなかった高い声が頭の天辺から抜けていく。 何度かぶつけられた後で、熱い何かがお腹の奥まで巡って充たしていった。 はあ・・・、と、身体の芯に注がれたのと同じ熱を持った溜め息を、耳の中に注ぎ込まれる。 「・・・」 「ん、・・・・・・・」 「どっか痛てぇか」 「・・・。ううん。平気。・・・・・でも。もぅ。力。入んない、・・・・・」 小さく頭を振って答えると、汗で濡れたうなじに土方さんは吸いついた。舌先が肌をなぞる。くすぐったいくらいの柔らかさだ。 ちゅっ、と鳴らしてそこを離れて、次は耳たぶに吸いついた。昂った速い吐息が、頭の中で熱く大きく鳴りひびく。 反り返った身体を強く抱きしめられて、ようやく引き抜かれて。頭をぐいっと引き寄せられて 狭くて身動きもままならない腕枕の中に閉じ込められると、強張りが少しずつ解けていく。 荒くなっていたお互いの呼吸の音が重なり始めてから、土方さんの手はあたしの頭をちょっと強めな手触りで撫でた。 何度も撫でられているうちに、とろんと瞼が落ちてくる。眠れ、と低く籠った声で簡潔に言われた。 ちらりと見上げると、土方さんは眉を寄せ気味にしてこっちを眺めている。額やこめかみには薄く汗が滲んでいるし ちょっぴり気だるそうではあるけれど、その顔はいつも通りの無表情だ。 これで頭を撫でる手が、素っ気ない口調とはまったく反対の、労わるような優しい仕草で 触れていなかったら、まるで事件現場でみんなに「行け」と号令を掛けているときのこのひとの態度と何も変わらない。 ちょっと可笑しくなって笑っていたら、唇に触れるだけのキスをされる。同じようなキスが瞼にも落ちてきた。 「何が可笑しい」 「だって。ぜんぜんいつもと変わらないから。そんなに涼しい顔されると、可愛くない、・・・」 「あぁ?人のこたぁ言えんのか」 さっきまでのこのひとが嘘みたいに思えるような、穏やかに慈しむような感触が瞼をすっと離れる。 ・・・今の。すごく気持ちよかったのに。もう少ししてほしかったのにな。 惜しみながらゆるゆると瞼を開ける。指先で顎をくいっと持ち上げられ、強制的に視線を上向きにされたら―― 心外だ、とでも言いたげなあからさまに不服そうな視線があたしを待ち構えていた。 「お前だって必死で抱きついて息切らしてる時のほうが、まだ可愛気があるじゃねえか」 「・・・・・・・」 こんな時でも負けを認めたがらない意地っ張りなひとの目が、どうだ、とむきになって尋ねてくる。 笑いながらその首筋に抱きついて、頭に巻きついてきた腕に包まれた。 身体の芯が溶けてしまいそうな火照った体温に抱かれて、眠気にうとうとしながら目を閉じて。 唇を深く重ね合ったままで、その短くて優しい命令に従った。
「 おおかみさんのふゆやすみ *5.5 」 text by riliri Caramelization 2011/01/22/ ----------------------------------------------------------------------------------- *3からはみ出たので最後のおまけにしてみました 急に中断されたときのおかしさが書きたかったんですけど …書けてないね うん orz