熱い。 腰を抱いている腕が熱い。 皺を寄せて着物を掴む指が、熱い。 衣擦れの音をたてながら下へ、下へと這っていく熱さを布越しに感じるうちに、土方さんの指先は 短い丈の着物の裾へと辿り着いた。 もどかしそうに荒く動く手が、中に着ている襦袢の裾ごと手繰り寄せる。 布越しに、肌に爪を立てられた。 「・・・・・っ」 食い込む爪先は驚くほど熱くて、痛いくらいに硬い。 帯のすぐ下まで着物が捲り上げられて。下着の上から、お尻の割れ目をすうっとなぞられる。 土方さんは膨らみを手の内に収めると、力の籠った指先でそこを固く掴む。大きく揉みほぐすようにしてまさぐった。 時々、大きく動いた爪先が下着を引っ掻く。肌に深く爪を立てる。慣れない熱さの体温と、引っ掻き傷が出来そうなくらい 乱暴にまさぐる指の動きに、どうしても違和感を感じてしまう。 いつもと熱さが違うだけでも、このひとの手じゃないみたいなのに。爪先が深く食い込んでくるから、 誰か知らないひとの手で、柔らかくて触れられ慣れていないところを掴まれているみたいで。すこし怖い。 柔らかい部分を抉られるたびに飛び出そうになる声をこらえて、土方さんの胸にしがみつく。 唇をぎゅっと噛み締めた。 もう片方の手が、尾てい骨のところに出来た窪みを抉るように撫でる。そのまま下着の中へと滑り込んでくる。 あっ、と声を漏らした時には、下着の上から揉んでいた手が薄い布を掴んでいる。太腿の付け根までずり下ろされた。 剥き出しにされた割れ目に沿って走った指先は、容易くあたしの入り口を探り当ててた。 熱い。宛てられた指先が燃えるように熱い。 はぁ、と、溜息が喉の奥から漏れてくる。あたしの身体は無意識のうちに背筋を伸び上らせて、 その焼けるような熱から逃れようとしていた。けれど。 「んっ、・・・!ぁあっ」 何の前触れもなく、ためらいもなく。無造作に指が押し入ってくる。ぐっと一息に衝き込まれた。 いきなり侵入された痛みと圧迫感で背筋が跳ねて、肩が跳ねる。 悲鳴を上げて拒もうとするあたしの中で、構わずに土方さんは動かした。少し引き抜いて、また深くまで押し込める。 「や・・・ぁっ。・・・・・・・・・い、たぁい・・・・・・」 痛みから逃れようとして背筋を伸ばしても、大きく開かされた脚に力が入らなくて動けない。 泣き声まじりに訴えても、押し込められた指は止まらなかった。構わずに深々と潜ってくる。 内壁を擦りつける指の感触がいつもより熱い。その慣れない熱さが、このひとがあたしの中をどう動いているのかを、 いつもよりはっきりと生々しく伝えてくる。 単調なくらいに規則正しい抜き差しを繰り返されるうちに、あたしの身体にはちょっとずつ変化が起きてくる。 最初に渇いた異物を突然押し込まれたときは、まるで粘膜をやすりで擦られているみたいにひりひりと痛かったのに、 あたしを揺り起そうとする土方さんの動きが何度も何度も内壁を擦るうちに、ひりつく痛みや異物感は消えていって。 代わりに中が擦られた熱に侵されはじめて、粘膜から伝染ってくる指の熱さに蕩かされたみたいに潤み出す。 どのくらいの間、そうされていたのかはわからない。気づいたら、あのひとが蠢くたびに、身体の奥がきゅうっと縮んで、 締め付けがきつくなって。寝間着の胸に押しつけた唇を噛みしめて、衿元にしがみついていた。 声をこらえないと。そう思っても勝手に疼いてくる。責め立てられているせつなさで声が漏れて、涙も滲んできた。 じゅくっ、と濡れた音をたてて指を引き抜かれる。 もう一度衝き込まれたら、土方さんの指を呑み込んだ中は途端に喘ぎ始めた。 潜った指を根元まできつく捉えてる。 お腹の奥で生まれ始めた快感を逃がすまいとしてこのひとを締め付けているんだと、自分でもわかるくらいに。 「ぁあん、っっ」 土方さんの指が、あたしの中をゆっくりと、深く衝く。衝かれた、と感じて背筋を仰け反らせると、素気無く引き抜かれる。 同じ動きが何度も繰り返された。引き抜かれるたびに、じゅくっ、と同じ音が鳴る。 さっきよりも大きなその音が頭を埋める。やけに耳にこびりつく、粘り気のある水音が。 途中から、指の動きががらりと変わった。 中で折り曲げられた指先が内壁を押して掻き乱して、踏み荒らそうとしてくる。 狭い中を自分の思い通りに広げようとしているかのように、乱暴に。ぐちゅぐちゅと音を鳴らしながら。 ぐちゅ、ぐちゅ、と粘り気のあるくぐもった水音が、静まった部屋の中で 淫猥に響き出す。こんな音が自分の身体から漏れてくるなんて、信じられない。耳を塞いでしまいたくなった。 「・・・!やぁ、んんっ」 いつのまにか蠢いている指が増えている。 半ば手を突っ込むようにして入り口を押し広げられたそこが、硬い指先に内壁を強く擦り上げられる。 締め付けるあたしに抗って、二本の指が中で暴れる。感じやすいところを刺激されるたびに、腰がその衝撃から逃れようともがく。 なのに、苛立った声で短く唸った土方さんが、肩や背中を羽交い締めに抱きしめてくる。 動けなくなったところに指を根元まで打ち付けるから、びくんと疼いた奥から、どうしようもなく 強い快感と痙攣が湧きあがった。 「だめぇ、・・・・・・・・・んっ、・・・・・ぁ、あぁっ、〜〜〜〜〜ゃあんんっ」 指が打ちつけられるたびに、手の骨の硬さまであたしにぶつかってくる。 指だけじゃなくて、手まで中へ入っているんじゃないかってくらい、強引な動きで。 あとわずかで一番奥まで届きそうなくらいに激しく衝かれて。 熱い手の動きに揺られて、熱い身体の上に縛りつけられて。あたしは上擦った声の乱れた悲鳴を上げた。 こうなってしまうたびに「どうしてこんな声が出てしまうの」と泣きたくなるような、喉の奥から夢中で絞り出される あの恥ずかしい声を。 涙でぼやけた目に見えているものや、頭の奥まで真っ白に染まりかけてきた。 ああ、もうすぐあたしはあたしじゃなくなる。何もわからなくなる。 混濁している頭の片隅でぼんやりそう思って、すべてが視界を覆った涙の向こうに掻き消されていって。 消えかかった意識を手放しそうになったところで、中を乱していた圧迫感がすうっと消える。ずるっ、と素早く指を引き抜かれた。 「・・・!ひ、ぁんっっ」 圧迫していたものを引き抜かれた時の、指が一気に滑り抜けた感覚で、背筋が反り返って身体が跳ねる。 デケぇ声だな。 ぽつりと一言だけ、土方さんが掠れた声で退屈そうに言った。 「・・・・・ぁあ、・・・・・・・・・・・・・・・っ」 身体はもう解放されたけれど。だからって楽にはなれていなかった。 中をびくびくと疼かせている物足りなさは責め立ててくる。もっと、もっと、と欲しがっている。 厭らしく疼くその震えに抵抗できなくて、あたしはこの先をねだるようにして土方さんに腰を擦りつけた。 ふっ、とせせら笑うような声が聞こえた。あのひとが喉の奥で笑いをこらえている気配が、身体を通して伝わってくる。 いやだ。恥ずかしい。 こんなあたしは、このひとにどう思われているんだろう。 そう思ったら目も合わせられなくて、耳の中まで火照り出すくらいに恥ずかしくなった。 なのに、感じている疼きは逆に増していく。 あたしから溢れ出たもので汚れているはずの、太腿に貼りついたひんやりとした感触が、なぜか急に気になり出した。 こうしているといつも、自分が人間らしい人間じゃなくなった気がする。 言葉なんて何も出てこなかった。全身からぐったりと力が抜けてしまっているし、手も足も泥になって溶けてしまったみたい。 力がちっとも入らない。背筋まで溶けてなくなってしまったみたいで、びくりとも動けなかった。 けれど、解放されたあとに襲ってくる気だるさに落ちる間も与えずに、土方さんの腕はあたしの脇腹を掴んだ。 両手で持ち上げてあたしの上半身を起こすと、こっちを見ることも無く素っ気ない声で言った。 「腰。浮かせろ」 「え、・・・・・・・・」 「いいから上げろ」 ほら、とあたしを軽く持ち上げた手が、痛いくらいにぎゅっと脇腹を握って急かしてくる。 ぼんやりした意識の中に急に痛みが走る。思わず顔を顰めてしまうくらいに痛かった。 やっぱり怖い。あたしを掴んでいるこの手は、間違いなくいつもあたしを抱いているひとの手なのに。 下に寝ているひとの身体を間に挟んで、指を一杯に広げた手を布団に突いた。 気を抜くとすぐに崩れそうになる腕と膝に力を籠めて、なんとか少しだけお尻を浮かせる。 濡れた太腿の内側が、このひとの寝間着と擦れているのが恥ずかしい。 まっすぐに顔を見られるのも耐えきれなくて、大きく顔を逸らす。すると、顎を硬く掴まれて、ぐいっと引き戻された。 「」 「・・・・・・っ、・・・・・放し・・・てぇ」 「そう嫌がるなよ。・・・・・・ほら。見せてみろ」 「あ、・・・・やだ、・・・・・・や、っ」 「ぁんだ、お前。さっきと話が違うじゃねえか。それともあれぁ、苦し紛れの出まかせか」 「・・・・さ。さっき、・・・って・・・・・」 「もう忘れちまったのか?・・・・・・言ったじゃねえか。俺がやれって言やぁ、何でもするって」 抑揚のない冷えた声を聞いて、びくっ、と唇が震えた。 あたしの腰を掴んでいるひとの目は、あたしの目を見ていない。 着物の裾が深々と肌蹴けて、下着は太腿までずり下ろされて。隠しようもなく剥き出しになった、 あたしが一番見られたくないところを、じっと見ている。熱のせいですこし潤んだ、ぼうっとした目で。 今は見えていない中を見透かしているような、あたしの身体に絡みつくような目線で。 手では触れずに目で探っているような表情で。 「してみせろよ、自分で。俺に見せてみろ」 土方さんはあたしの手首を握った。 導かれていった腕が、寝ているひとの身体を跨いで開いた、あたしの太腿の間を通される。 「・・・・・・・・ねぇ、っ。や・・・、ゃだぁ、っ。やめてぇ・・・。ね、土方さ、っ」 強引に引きずられていった手が、一番敏感になっていた部分に宛がわれる。往復してそこにこすりつけられた。 擦られるたびにとろりと滴り落ちて来る雫が、あたしの手も土方さんの手もねっとりと濡らす。 嬌声を上げそうになるのを我慢しながら、何度も手を振り解こうとしたけれど、そのたびに簡単に引き戻されてしまう。 抗えない歯痒さで胸の中は一杯だ。どうしていいのかわからなくて、ぎゅっと目を閉じた。 瞼に押し出された涙の粒が、ぽろっと頬を転がった。 「っく、・・・ぁ、ゃん、やぁ、やめっ・・・っっ!」 中指の先が無理やりに、熱い窪みに押しつけられて。ずぶっ、とその中に捻じ込まれる。 溢れる粘液をとろりと零して、自分の指を締め付けて蠢く柔らかい中。 初めて知った、頬が燃え上がりそうになるくらい羞恥心を掻き乱されるその感触の中を、何度も、わざとゆっくりと往復させられる。 深く奥まった突き当たりに指先が近づくたびに、我慢しきれない腰が勝手に上下して、背中が反り返って。 上擦った悲鳴が漏れる。吐息が速く、荒くなっていく。 「・・・っ、やぁ、・・・・・・・・・だめぇっ、み、ちゃ、・・・・・ゃ、ぁあっ」 自分の手でこんなことをさせられて。 しかも、無遠慮な目線にじっくりと、こらえきれずに身悶えする仕草を見つめられて。 もう、嫌。こんな厭らしい自分を、これ以上知りたくない。 こんな自分を、これ以上、このひとの目に晒したくない。 なのにそれでも、お腹の奥からは突きぬけるような快感がいっぺんにこみあげてくる。もう、どうしたらいいのかわからない。 たまらなくなって泣きじゃくり始めても、土方さんの手は止まらなかった。 あたしの手首を固く掴んで、深い抜き差しをやめてくれない。 声も掛けてくれない。 いつものように頭を抱いてくれない。肌を撫でてもくれない。 顔をぐしゃぐしゃにして泣くあたしに、可笑しそうに緩めた表情を向けることも。「泣くな」と宥めることもしてくれなかった。 「ゃ、あっ、やだあ、っっっ。み・・・見な・・・・・・・・・で、ぇっっ」 声を震わせて泣いていても、目の前に横たわったままのひとは、何も感じていないような顔をしている。 熱っぽく潤んだ目が、ただ黙って見つめている。髪を振り乱して、背筋を捩って喘いでいるあたしの姿を。 自分の中に押し込められてはぐしょぐしょに濡れていく、あたしの指を。 伝い落ちてくる雫が流れて、手のひらや手首まで汚れてしまった手を、ぼんやりと。 「・・・・・!ゃ、あぁっっ」 濡れている入り口以上に熱くなって、膨らんでいるところ。 動き続けている土方さんの指先がそこを掠めて引っ掻いた。それだけで声が漏れて、腰がしなって上に跳ねた。 それでも土方さんはまるで何も聴こえていないかのような、何も感じていないような顔をしている。 熱に浮かされたような潤んだ目で、脚を大きく開かされたあたしの、自分の指を深く咥えこんで溢れさせているところと、 そこから伝った粘液にまみれた手だけを見ている。 「やめ・・・ぇっ」 「。・・・・・なぁ。・・・・・・・・・どうする。どうされてえんだ」 「ひ、ぁっ」 「やめてえのか。それとも、欲しいか」 あたしの親指を捕らえると、こすりつけるようにぎゅうっと、あの膨らみに押しつけて。 回すようにして捏ねはじめた。 「っっ・・・!・・・・・ぁあっ、い・・・いやぁあぁ、ぉ、おねが・・・・・っ」 「言え。言ったらやめてやる。くれてやるよ。お前の欲しいもんを」 「っ、ふぁ、あっ」 「どうした。本当は欲しいんだろ。・・・・・・ほら。どうする。言わねえのか」 「や、らぁ、っ。お、ねが、っ・・・・・・・・・・ゃめ、ゆ、びっ。・・・止めっ・・・・・・・・ひぁ、あんっっ」 「ああ。・・・・・・・・・・・・そうだな。言いたくたって言えねえか。なら、お前の好きにすりゃあいい」 これも案外といい眺めだ。 面白くもなさそうに口端で薄く笑って、ぼそりと低くつぶやく。 狂ったみたいに髪を振り乱して喘ぎ続けているあたしの、涙でぐしゃぐしゃになった顔を、その時になって初めて見据えた。 潤んだ無表情な目で、何も言わずにしばらくじっと眺めて。それから、震える太腿に挟まれた手首をぐっと掴み直す。 いきなりそこから引きずり出した。指が濡れた音と一緒にずるりと抜け落ちる。突然の喪失感に身体は悲鳴を上げた。 岸に打ち上げられてすべてをもぎ取られた魚みたいに、びくびくと喘いで。 このひとの上を跨いだ恰好のままで、みっともなく跳ねた。 太腿に貼りついたままの下着を、ぐっしょりと濡れた指が無造作に掴む。 ぐっ、と膝の近くまでへずり下ろし、あたしを見上げて言った。 「脱げ」 「・・・・・・・っ」 「嫌なら、このまま帰れ」 「・・・・・・・ゃ・・・・・あ。・・・・・・」 ひっく、ひっく、と、止まらない嗚咽で訴えながら、何度も大きくかぶりを振った。 下着に震える手を掛けて、片脚を上げて。転びそうになりながらそれを抜き取る。 布団の上で立てた膝にも、腕にも、もう全然力が入らない。 どっちもがくがくと小刻みに震えて、今にも身体がこのひとの上に崩れ落ちそうだ。 それでも逆らえない。 帰りたくない、と思う気持ちを強くしている理由は、さっきまでとはもう違っている。 ただこのひとのことだけを考えて、「放っておけない」と心配していたさっきまでとは、まるで違う。 あたしがここにいたがる理由は、いつのまにか不純で淫らな思いとすり替えられている。 ただこのひとを心配していたはずのあたしは、どこかへ消えてしまった。いつのまにか違うあたしに取って変わられている。 今のあたしは。あたしの身体は。今はもう、このひとに満たされたくて仕方がないだけ。 奥深くまで火が点いてしまった身体が、怯えるあたしを置き去りにして走り出そうとしている。このひとが欲しいと強請る。 こんなに乱されてしまったら、自分ではもうどうにも出来ない。膨れ上がり続けている身体の疼きを我慢できない。 すうすうと冷えた風に胸の中を荒らされて、身体が竦んでしまいそうにさみしいのに。 こっちもだ、と、感情の籠っていない声が命令してくる。 軽く引かれた着物の裾は、下腹まで肌蹴て捲れ上がっている。逆らう気力を失くしたあたしは、ただ頭を深く垂れた。 帯留めの結び目をぱらりと解く。震える手を背中に回して、探り当てた帯の結び目を、力の入らない指でのろのろと解いていった。 帯が土方さんのお腹に落ちて、着物がだらしなく肌蹴ていく。 下に合わせた襦袢を身体から解こうとしているときに、土方さんの腕や腰が真下で動いている気配がした。 ざわざわと動く衣擦れの音も一緒に。 落ちた帯を邪魔そうにざっと払い除けた腕が、あたしに手を伸ばす。 前が大きく開いた着物の衿を鷲掴みにする。 勢い良く下へ引かれた着物が、襦袢と一緒にはらりと落ちた。背中のホックを外され、ブラも胸元を滑り落ちる。 着ていた物と肌の間に残っていた、ほのかな暖かさが瞬間で消えた。 不思議と、身体のすべてをこのひとの目線に晒される恥ずかしさは忘れていた。 そんなことを思う余裕がなかった。 寒さと心細さに肌を粟立たせて、泣きたくなるような身体の疼きに耐えているだけで、頭の中は一杯だ。 「・・・・おい」 呼ばれて目を合わせると、顎で軽く促された。 何をどうしろとも言われていないのに。なぜか、このひとが何をさせたがっているのかがわかっていた。 腰を両手で土方さんの上に据えられる。 「―――ぁんっ」 硬く張りつめた何かが、開いた脚の間をずるりと滑ってぶつかってくる。 甘えた声が口から飛び出る。寒気のような快感が身体を突き抜けていく。 こらえきれずに、はしたなく背筋を大きく仰け反らせて悶えた。 腰を掴んでいた手が太腿へ動いて、ぬるぬるした粘液を肌に大きく広げていく。 「やぁ、・・・・・ひ・・・・・・土方、さっ、――っ」 蜜で汚れたあのひとの手が伸びてきて、唇の隙間から強引に指を捻じ込んだ。 喉の奥につかえそうなくらいに深く突っ込まれた熱い指が、舌に粘液を塗りつける。 味わったことのない奇妙な味を押しつけられた。 「・・・・・・んっ、く・・・・・・・ふ・・・ぅっ」 中の指が二本に増やされる。捉まえた舌を揉むようにして指が絡んできて、からかうように弄びはじめる。 口を半開きにこじ開けられているのは恥ずかしい。そんな顔を真正面から見られるのも嫌。 なのに、結局拒めなかった。 それどころか、そうして口内を無遠慮に嬲られているうちに、声が出そうになるくらい気持ちよくなってしまって。 自分から、蠢く指先を探り当てた。舌先でぎゅっと捕らえて、子猫がしゃぶるみたいにピチャピチャと舌を鳴らして、 爪先や指の腹に唾液を絡ませて。ちゅっ、と音を立てて強く吸った。 指の動きを止めた土方さんが、はぁっ、と、重い吐息をこぼす。聞いたあたしの耳まで熱く火照らせるような、 熱っぽくてだるそうな吐息だ。それでも、上に跨ったあたしを見つめる顔は冷たくて、上の空で。 目の前なんて見えていなさそうな、焦点のはっきりしない目。ここじゃなくて、どこか違うところを見ているような目をしている。 誰なんだろう、このひとは。 ほんとうにこのひとは、土方さんなんだろうか。 だって、怖い。いつもの土方さんと違うからわからない。わからなくて不安になる。 土方さんはいつも、ひとつひとつの仕草がぶっきらぼうで、無造作で。あたしを掴む手は力が強すぎて。 たまに本気で酷い。これじゃ腕や肋骨が砕けるんじゃないかと心配になるくらいに、ひどく抑えつけてくることもある。 普段がそんなだから、抱かれているときも同じだ。夢中になって我を忘れているときは、特にそう。 押し潰してくる熱い身体は、女相手の手加減を忘れてしまうらしい。 下に敷いたあたしを強引に深く折り曲げようとしたり、ねじ曲げようとしたり。 わざと恥ずかしい恰好をさせて混乱させて、こじ開けた理性をぐちゃぐちゃに掻き乱して、外からも内側からもあたしを崩す。 自分の思い通りに壊そうとする。 だけど。それでも、こうやって抱かれているときに、ここまで怖いと思ったことはなかった。 このひとなりに大事にしてくれているのは、何をされていても仕草や表情から伝わってくる。 どんなに手荒く扱われたって、一度も怖いなんて思わなかった。 なのに。今日は違う。いつものこのひととは、違う。 今日のこのひとからは、何も伝わってこない。 まるで誰か他のひとに身体を好き勝手に苛まれて、中から衝き崩されそうになっているみたいで。 見覚えもない、知らない男のひとに弄ばれているみたいで―――――怖い。 「・・・・・・ん、っ。・・・・・ぁあ。・・・・・・・ゃん・・・・っ」 土方さんの張りつめた熱が、内腿を軽く突いてくる。 突かれるたびに腰が敏感に反応して、ビクっと震えてしまう。 恥ずかしい。そう思っても、口内に押し込まれた指は離す気になれない。 口の奥まで深く含んだ指を絡めとるように撫でてみたり、強く吸ったり。舌先を使ってピチャピチャと水音を鳴らし続けた。 自分でも自分がわからなくなる。どうしてこんなことをしてるんだろう、あたしは。 恥ずかしさに蝕まれて逃げ出したくなっているのに。こうしていても、さみしくて仕方がないのに。 それでも止められない。逃げられない。欲しがっている身体に逆らえない。 表情の薄い、感情の抜けきった顔をしたひとが、じっと見つめてくる。 表情は冷えているのに、乱れた前髪で少し隠れている鋭い目の奥には、見られたあたしを溶かすような熱が潜んでいた。 いつもとは違う温度の熱を帯びて潤んだその目が、もう一度無言で促した。 恐る恐る、土方さんのお腹に指先で触れてみる。そこから下へ向かって撫でていった。 手探りで肌に沿って撫でていった指が、その先にあった、張りつめたものに辿り着いて。 指から直に伝わってくる硬さや熱さにたじろぎながら、先端を探り当てた。そこへ触れた時に、 土方さんの気配が一瞬だけ強張った。 このひとに触れたのは初めてだった。 触らせてもらったことがなかったし、あまり目にしたこともない。自分からこのひとを挿れようとしたこともない。 こうして身体を重ねるときに、自分の中へ入ってくるものを眺める余裕なんてあたしにはない。 だから触れてはみたけれど、手に掴むのはためらわれる。それ以前に、どう触れたらいいのかがわからなくて持て余してしまう。 結局、手を添えて導くのは諦めて、この先をどうしていいのかもわからないままに、 じわじわと、湧いてくる怖さをこらえながら腰をそこへ動かしていった。 腰を沈めていくうちに、張りつめた先が入り口をふっと突いて、ぬるりとそこを滑った。 っ、と出そうになる声を噛みしめてこらえて、真下にそろそろと腰を下ろしていく。 初めての行為に怯えながら、当たった先端をどうにかして中へ沈めようとした。 なのに、土方さんはあたしの遅さが気に入らなかったらしい。 唾液にまみれて濡れた指が口から出ていって、両手があたしの腰を捕まえる。 深く掴み直して、引きずり下ろして。ずんっ、と一気に、張りつめた硬さで貫いた。 「っ!!ひぁあぁんっっ」 奥まで裂くようにめり込んできた重い衝撃。そして、いつもとは違う灼けるような熱さ。 その衝撃を身体に染み渡らせる間もなく、肌に指を喰い込ませて腰を掴んだ腕が上下に動く。 あたしを持ち上げては自分に打ちつける。このひとの情欲が突然堰を切ったような、速い動きに襲われる。 大きく乱暴に引き抜かれて、痛いくらいに腰骨を打ちつけられて。ただ激しく揺さぶられるだけのあたしを、 壊れそうになるくらいに深々と、張りつめた熱いものが下から衝き上げる。狭まる中を埋め尽くして、掻き乱そうとする。 「ぁ、や、ゃあん、あんっ、ぁあんっ」 土方さんがあたしに打ち付けて衝き上げるたびに、ぐちゅ、ぐちゅ、と響く濁った音が、火照った耳の中を埋め尽くす。 ずんっ、とひどく熱いものを奥まで打ち込まれるごとに、お腹の底を突かれて起きた鈍い痛みと、 頭の中がどうにかなってしまいそうな、叫びたくなるような気持ち良さで全身が痺れて、何も考えられなくなって。 火照るだけの頭の奥から、力の抜けきった足先まで、気を失ってしまいそうな痺れで一杯に埋められた。 けれど、胸の中にあるさみしさはどうしても埋まらない。 身体はこんなに深く繋がれているのに。激しくぶつけられるほどにさみしくなった。 身体を強張らせるような、泣きたくなるような怖さも。心臓をざわめかせながら渦巻いて、消えることがない。 「・・・・・・ひ・・・・・土方・・・・・さ・・・ぁ・・・・・・・」 「・・・・・・あぁ?・・・」 「・・・・・ゃ・・・ぁ、・・・・・やめ、っ・・・・・・」 嫌だ。ただ繋がれているだけじゃ足りない。全然足りない。悲しい。すごくさみしい。 いつもみたいに撫でて。もっとちゃんとあたしを見て。 髪をぐしゃぐしゃに引っ掻き回してくれるときのあの声を聞かせて。 「泣くな、バカ」と苦笑いしながら、首に縋って泣きじゃくるあたしを包んで宥めてくれる。あの大きな手のひらが欲しい。 身体だけじゃ嫌。身体だけじゃさみしい。嫌だ。 あたしはあなたに、心まで全部繋がれたいのに。 いやいや、とかぶりを振りながら、腰を掴んだ手に夢中で縋りつく。 あのひとの指を握り締めた手は、邪魔をされて苛立たしそうに動いた手の甲にぱしりと固く払われた。撥ねつけるように拒まれた。 その時だ。あたしは気が付いた。 ふっ、と身体中の血の気が潮を引いて消えていくような感覚に、一瞬で吸いこまれた。 唐突に気付いてしまったことを悔みそうになる。 火照って汗ばんでいた背中が急にすうっと冷えて、身震いしそうになるくらい寒くなって、どんどんさみしくなって。 もっと泣きたくなった。なのに土方さんは、どんどん高いところへあたしを追い込んでいこうとする。 頭の奥まで真白になってしまうあの瞬間まで、強引に上り詰めさせようとする。 「あっ、ああっ、・・・・・・・だめぇっっ。ぁあ、い、っ、・・・ひ、じか・・・たさ・・・っ」 弱りきった声で呼んだ時にはもう、身体の芯からがくがくと揺らされて、震えが止まらなくなっていた。 腰を支える腕に夢中でしがみついて、あ、あ、あ、あ、と、甲高く小刻みに叫び続ける。 仰け反った身体を硬直させたあたしは、満足に息も吸えないくらいの強い快感で満たされていって。 土方さんの上で達してしまった。 「・・・・・・っ、・・・・は・・・ぁ、・・・・っ」 硬直から一気に解かれた身体が、がくりと砕けて脱力する。芯まで溶けてしまっている。 崩れ落ちそう。背骨まで砂になってなくなってしまったみたいだ。 かくん、と大きく頭を後ろに反らせて、バランスが崩れる。そのまま倒れそうになった。 倒れてしまいたかった。あたしの中でまだ熱く張りつめているひとから逃げてしまいたかった。 なのに、腰を掴んだ土方さんの手はそれを許してくれなかった。 「・・・・・・っ・・・。ゃ・・・・もぅ、許し・・・・・て、ぇ・・・・・・・」 腰を掴んでいる手に縋って、掠れた泣き声で頼んだ。 酸欠になったせいで起きた眩暈で、頭がくらくらと気持ち悪く揺れる。うっすらとした吐き気までこみあげていた。 頭の奥には、さっき目にした強烈な白い発光の残像がくっきりと残って、ちかちかと焼きついている。 目の前はまだぼんやりと白く濁っている。喉からは胸の奥が痛むくらいにはぁはぁと、荒い呼吸が上がってくる。 すぐには何も考えられなかったけれど、目元から頬には涙が伝っているのがわかる。 半開きになった唇の端からひとすじに、細い流れが伝っていることも。 恥ずかしい。見ないで。 余韻に頭をふらつかせて、脱力感に囚われながら、それだけを願った。 「・・・・・・・じか、・・・・た、さ・・・・・・・」 「あぁ・・・?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・し・・・て・・・・」 きつく閉じていた目を薄く開けて、目の前で大きく肌蹴ている寝間着の衿元にしがみつく。 もう駄目。このまま背筋を保たせていられない。 腰にも背中にも、もう力が入らない。 拒んで引き戻そうとする手に逆らって、無理やりにぐしゃりと身体を崩れさせる。土方さんの胸に倒れ伏した。 寝間着の衿を大きく肌蹴させた胸からは、さっきまでは感じなかった香りがしてくる。 熱い肌を覆っている微かな汗の匂いと、このひとが掻いた汗のせいで香りを濃くした、あの匂い。 あたしの身体にまで深く纏わりつくような煙草の残り香が。 腰を強く掴んでいた手が離れていく。 すると途端に、あたしの中は、離されたことを惜しみはじめた。 埋め尽くしているこのひとを絞るようにきゅぅうっと縮んで、びくびくと喘ぎ始める。 感じたことのない熱さで埋め尽くされた中が疼くのが、すごくせつなくて。新しい涙がじわあっと滲んできた。 「・・・・て・・・・・・・ひ、じかた、さぁ・・・・・」 「ん・・・・・・?」 「ど・・・・して・・・・ぇ?」 「あぁ?」 「・・・・・・・・・・・キス・・・・・、し・・・・・て・・・?」 あたしはやっとの思いで声に出した。だけど、土方さんは何も言わずに目を逸らした。 眉間を曇らせた顔が、少しだけ困ったように見える。 端を深く曲げて閉じられた口許から、うんと近くなった煙草の香りが一瞬だけ流れて、あたしにも届いて。すぐに消えた。 「ど・・・して・・・?」 「・・・どーしてって。・・・・・・・・・したくねえからに決まってんだろ」 「・・・・・したく・・・・・・・ない、の?・・・・・・・・・・どー・・・して?」 「はぁ?・・・・・んなもん、訊かれたって答えようがあるか。理屈なんざ何もねえよ。どーしてもこーしても、ね―――っ!」 チッ、と舌打ちしながら気まずそうに顔を逸らした土方さんの胸を、思いっきり押した。 自分でも「どこにこんな力が残ってたんだろう」とびっくりするくらいの強さで。 「ってっ、おいっ、・・・・なっ、ぁにを急に、っっ」 抑え込もうと伸びてきた腕を振り払う。じたばたと手足を振り回して暴れて、「やめろ」と焦って怒鳴るひとの 腕や肩を引っ掻いて逆らった。 「バカ、やめろ!・・・・・・・・・ってえな、このっっっ」 「ひっ、土方の・・・・・・バカあぁあああ!」 夢中でもがいているうちに、跨っていた身体の上から転げ落ちる。 防ぎようがなく顔面から畳に落っこちて、あたしは激しく鼻を打った。 つーん、と鼻血がでそうなあの感じに鼻の奥から刺激されるのが痛い。でも、それより何より、 暴れて転がり落ちて、裸で畳に突っ伏している自分がなさけなくて。もっと泣きたくなってしまった。 「・・・・・・いっ。・・・・いたぁあぃぃ。痛いよぉ、っっ」 「たりめーだ。フン、馬鹿が。自業自得だってぇんだ・・・・・おい、いいからこっち来」 「ゃあっ、触んないでようぅぅぅ。ぃやあぁあぁあ!」 泣き声で駄々をこねながら、羽交い締めにしてくる腕に抗ってじたばたと暴れた。 腕に爪を立てて引っ掻いて、頭を振って身体を捩って、近づいてきた土方さんの顎を掴んで引き離す。 呆れたような掠れ声が、やめねえか、バカ、と叱りながら容易くあたしを引きずって、布団の上にどさっと落として覆い被さってくる。 「・・・・・・手こずらせやがって・・・・・この・・・跳ねっ返りが」 ぜぇぜぇと息を切らした土方さんの苦しそうな呼吸や、速い鼓動が、合わせた胸から伝わってくる。 汗ばんだ肌はさっきよりも熱くなっていた。 「・・・・やだぁっっ」 「あァああ?ぁんだと!?」 「もぉ、やだぁ。もう、嫌だよぉ。あ、あたしぃ。わがまま・・・かも、しれな・・・けどっ。さ・・・・みし・・・・ぃ、のぉっ。 こわい・・・の・・・っ。・・・・どーして・・・・・いちど、も・・・キ、ス・・・して、・・・くれ、な・・・・・・・・・」 途中まで言いかけた声が、目からぼろぼろと溢れてきた涙に潰される。 最後には何を言っているのかもわからない、詰まった声しか出なくなった。押し潰してくる胸にしがみついて、ぐずぐずと泣いた。 このひとじゃない。馬鹿はあたしだ。 自分でもわけがわからない。何やってるんだろう。こんなことしたって何にもならないのに。 「・・・・・出来ねえもんは出来ねえんだ。我儘言うな」 「・・・・・っ。な・・・・んで・・・ぇ」 唇を震わせながら訊き返すと、土方さんは上半身を起こして横へと退いた。 硬い指先が何も言わずに顎を取って、自分の方へあたしを向き合わせる。 「身体がいうこときかねえんだ。いつもみてえに構ってやる余裕もねえし、我慢もきかねえ。・・・だから、お前が我慢しろ」 あたしの感触を確かめるように、頬にゆっくりと触れた。覆ってくる手のひらが、ひどく熱い。 流れた涙の跡を辿って擦った親指が、ぎゅうっと頬を捩る。 肌を乱暴になじるような、あまり優しくもない手つきで。 眉間を深く寄せて、怒っているような、けれど、困っているようにも見える少し複雑そうな表情で、 土方さんはあたしを見てくる。 熱っぽく潤んだ目の奥に潜んでいた、怖かったあの無反応さが消えている。 冷ややかだったはずの視線は、もう冷えてはいなかった。 ―――ああ、何だ。よかった。やっと見れた。 もう怖くない。いつものこのひとだ。いつもの土方さんだ。 見つめているだけでわかる。このひとの感情が伝わってくる。 あたしに振り払われて焦っているんだ。どう声を掛けていいのかわからずにいるんだ。 泣かれてしまってどうしようもなく困ってるんだって。 馬鹿、泣くな。 そう言われているのが、はっきりした言葉にされなくてもわかる。 「・・・・・バカ・・・・ぁっ」 っく、っく、と嗚咽で喉を詰まらせながら、見上げた頬をぺちん、と力の抜けた手のひらで打った。 不意を突かれた土方さんは呆然と目を見張った。数秒そのままで、びくりとも動かなくなった。 その固まった表情が、黙ってあたしと睨み合っているうちに、少しずつ色を変えていく。 女に平手打ちされた屈辱で負けず嫌いな性分が跳ね起きて、ムッとしているのがよくわかる。感情剥き出しの顔になっていく。 怒鳴りたいのをぐっとこらえているんだろう。熱のせいで潤んでいる目が、拗ねたような目つきになってきた。 「・・・・・っ。ひっ、・・・じかた・・・の、バカぁあああ」 「っせえなぁ、何度も言わせんな。いいな、出来ねえもんは出来ねえんだ。これでもういいだろうが」 「・・・・によぉ。もういいって、・・・何よぉ。勝手に・・・終わらせ・・・・・・・何も、よくな・・・・っ」 「だから殴らせてやっただろーが。これでお互い貸し借りなしだ。あいこだろーが。 いいからもう泣き止め。その情けねぇ面を早くなんとかしろ。・・・・・・つーか。俺じゃねえだろ。馬鹿はてめえだ」 掴んだ頬がぎゅっと捩じられる。痛い、と涙声で拗ねると、手が慌て気味にぱっと離れた。 自分の腕を枕にして障子戸の方へ寝返りを打って、そそくさと背を向ける。 あたしからそっぽを向いた頬は、平手打ちされた方じゃない。なのに、ほんの少しだけ赤くなって見えた。 それを見た瞬間に、なぜかたまらなく嬉しくなって。 ふにゃあっと、今までずっと強張っていたあたしの顔はほころんでいった。 笑った、と感じたのと同時で、目の前がぐにゃりと崩れて世界が歪んだ。 溢れ出した涙で覆われる。何も見えなくなった。 気配に気づいてこっちを振り返った土方さんの姿も。何かに驚いてはっとしたような、焦り気味な表情を浮かべた顔も。 みっともなく顔が歪むのが自分でもわかる。 あたしは涙も嗚咽もおさえきれなくなって、しゃくりあげて泣きながら切れ切れに喋り続けた。 怖いとか、さみしいとか、後から思い出したら穴を掘って埋まってしまいたくなるのは間違いなしな、 途方もなく恥ずかしい「お願い」まで口に出してしまった。 唇が大袈裟なくらいぶるぶる震えるのも恥ずかしい。泣き声が部屋の外に漏れる、と、頭ではわかっているのに。 こみあげてくる嗚咽は止まらない。一度ほっとしてしまったら止められなくなった。 「だから帰れっつったじゃねえか。・・・・・・ったく」 頭から、煙草の匂いがする腕に覆われた。土方さんがあたしの身体を引き寄せる。 肩をぽんぽんと、宥めるように叩く。それでも泣きやまないのに呆れたのか、 疲れたような溜息をついて、抱え込んだあたしの頭をぎゅっと抱き締めた。 「嫌なら嫌で、蹴りでもかまして逃げりゃいいんだ。何もそこまで我慢するこたぁねえだろうが」 「〜〜〜だってぇ・・・。が・・・・我慢、した、けど。っ、・・・・・・・で、できな・・・・くな・・・・っ」 「・・・・・・・・・夜中に裸で我慢比べかよ。勘弁しろ」 うんざりしきった口調で言い捨ててから、あたしの髪に指を入れて弄り始める。 しばらくしてから、お、と、何かに気付いたような声でぼそりと言った。 「・・・やべえな。寒気が、・・・・・・・・」 「えっ。だ、大丈夫?」 「あぁ。一晩じっとしてりゃあ大事はねえ」 「でも」 腕を突いて起き上がり、眉間を寄せて辛そうに目を閉じているひとのおでこに手を当てる。 手のひらで熱を計りながら、あれっ、と目を丸くしてつぶやいた。 あたしの気のせいかな。なんか、さっきよりも下がっているような・・・・・・・・・ 「あ、っ」 驚いてあたしは腕を引く。おでこに当てていた手を急に取られた。 指と指を絡めてしっかり組まれた手と手を起点に、腰を抱かれて持ち上げられる。 足まで上がって、身体が布団を一瞬離れた。寝ている身体の上に落とされて、頭を引き寄せられて。 肌蹴た胸にばたりと倒れ込んだ。 突然の浮遊感にびっくりして、声も出ない。 あたしの太腿を掴んで開き、自分の上に跨がせると、土方さんは頭と腰をがっちりと抱え込んでくる。 動こうとしても熱い腕はびくともしない。身じろぎすら出来なくなった。 「・・・これで少しは、身に染みてわかったか」 ずくっ、と脈を持って動く熱い何かが、あたしに押しつけられる。 押しつけられた、と思った途端に、土方さんの腰が身体の下で動いて、広げられた脚の間をぐっと衝かれた。 「いいか。男なんてなぁ、・・・・・好きに出来る女を前にしたら。どいつもこいつも同じだ。他のこたぁ考えてねえんだよ」 「っ・・・!・・・・・・ぁあっ、あ、あ、んっっ」 腰を抑えた腕に身体ごと引き下ろされる。 押しつけられた熱い塊が、脚の間を割って小刻みに、ぐっ、ぐっ、と進み入ってくる。 徐々に引き下ろされていくあたしの中に、土方さんが無言で押し込んでくる。何かを考える間も与えずに、 根元まで深く打ちつけられた。先端があたしの奥を強く打って、抜け出てしまうすれすれまで素早く引き抜いて。 また衝き込んで、お腹の底を荒く抉る。 頭を抑えている腕は、嗚咽を漏らし始めたあたしを大事そうに抱えてくれる。 額に触れた火照った唇は、軽く肌に吸いついてくる。あたしが甲高く泣くと、たまに可笑しそうに短く笑う。 気持ちいい。 こうやって骨張った固い胸に肌を押しつけて、このひとの身体が造り出すリズムに浚われて揺り動かされていると、 あたしはいつも、どこまでがこのひとの身体で、どこまでが自分の身体なのかがわからなくなってしまう。 お互いの輪郭がクリームみたいに蕩けて、繋がっているところからひとつに融け合ってしまったみたいだ。 数度突かれただけで、渇きはじめていたはずの中は、もう潤った音をぐちゅぐちゅと響かせていた。 「っ、・・・・・ひ、・・・・っ、ぁ、ゃあ、っっ」 「・・・・・・泣かれたって。もう、止めようがねえよ・・・・・・」 埋もれるような低い声でそう言った土方さんが、苦しげな笑い声を漏らした。 「・・・・・・泣かれるって、・・・・わかってたって。身体が、勝手に動きやがる」 両の太腿に掛けられた土方さんの手が、閉じようとする内腿を鷲掴みにして大きく開かせた。 いや、と拒んで泣きじゃくった。脚を開いたら、打ち付けられる抜き差しがもっと深くなってしまったからだ。 突かれるたびに、痛いくらい奥が痺れて疼く。衝撃で身体が跳ねる。漏れたしずくで濡れ始めた太腿の内側が、力無く震える。 「俺じゃねえぞ。お前だ。・・・・・お前が悪りぃ」 びくびくと中が縮みあがって痙攣している。なぜかじっと動かなくなったひとの、高まった脈動ごと呑み込んでいる。 どうにも抗えない深くて強い快感があたしを襲う。 腰を動かしてしまいそうになるのをこらえていたら、背中が反り返って強張ってきた。 あたしがもう我慢できなくなっているのを見極めた土方さんは、すうっと背中を撫で下ろす。 腰が両手で掴まれて、全身を激しく揺り動かされた。 首にしがみついて、やだ、やだ、とかぶりを振ったのに、逆に抜き差しは速くなる。 泣き声はあっという間に乱れた悲鳴に変わった。 「熱のおかげで、箍が外れかかった奴に。わざわざてめえから抱きつく馬鹿があるか」 「っ、だ、めぇ、ぁん、っ、んっ、・・・・・・」 「ああ。好きなだけ泣け。お前が泣けば泣くほど、こっちは。 ・・・・・・・声も出ねえくれえに。手酷く・・・痛めつけて、・・・・・・・・死ぬほど泣かせてやりてぇって、・・・・・・・」 耳元に口を寄せて、意識の奥まで擦り込もうとするような低い声で吹き込まれた。 その声ははっきりと頭の中まで響いてくる。なのに、わからなかった。 身体が感じすぎてしまっていて、他のことが何もわからない。頭の中もすっかり溶けてしまっている。 言われた言葉が何なのかはわかっても、その言葉がどんな意味を込めて自分に向けられているのかがわからない。 少しだけ頭を上げて、眉を八の字に下げた情けない泣き顔で、あたしは土方さんの目に黙って訴えた。 すると土方さんは動きを止めて、はぁ、と苦しげな深い息を吐いて。 あたしをじっと見つめながら、何かを考え込んでいるような、これから言おうとしていることを迷っているような気配を見せた。 「・・・・・・・少しは疑え。そう手放しに、俺を信用するな」 言い聞かせるような口調で、意志をはっきりと込めた確かな声でそう言われた。 何を言われたのかが、一瞬、わからなくなった。どこか知らない他の国の言葉を聞いたようで、わからなくなった。 息を呑んで土方さんを見つめた。 何も考えられなくなっていたさっきまでとは違う。 ただ、今言われた言葉が、このひとの口から出たなんて信じられなかった。 ぽかんと見開いた目からぽろぽろと、あったかい涙が頬を伝い落ちていく。 そんなの無理だよ。 だって。他に誰もいない。 土方さん以上に信じられるひとなんて、あなたの傍を離れられないあたしには、どうやったって見つけられそうにない。 だって、一番信じられるひとを信用しちゃいけないなら、あたしは他の誰を信じればいいの。他の何を信じればいいの? 抱き締めてあたしを護ってくれる。誰よりもあたしを安心させてくれる腕。 この腕を疑わなくちゃいけないなら、あたしは――― 「・・・・・わ・・・かんない、・・・・・・・・よ。 どーして・・・・・・・なんで、そんなこと・・・・・・・・・・・言う、のぉ・・・?」 涙でぐしゃぐしゃになった顔で嗚咽をしゃくり上げさせながら、あたしは大きくかぶりを振った。 土方さんは薄く失笑を浮かべながら、あたしの頬を掴んで手のひらで覆った。熱っぽいあの目で見上げてくる。 きつめのお仕置きをしたつもりが、何ひとつ聞き入れないで泣いてばかりいるどうしようもない女に すごく困ってるんだって、よくわかる顔だ。 それでも涙が止まらなくて、もっと甘えたくなって。頬をごしごしと、硬くて傷だらけの大きな手のひらに擦り寄せた。 頬を覆った熱は、このひとの手には感じたことの無い、慣れない熱さで。やっぱり知らないひとみたいだ。 だけど違う。今ならわかる。 この手は、ぎこちなくあたしを包む手は。あたしの好きなひとの手だ。 「」 「ん、っっ」 「・・・・・・怖ぇえか」 言いながら顔を引き寄せた土方さんが、繋がれた腰を大きく揺り動かし始める。 途端に泣きごとを漏らして震え出したあたしを腕で覆って、腰を抱え込んだ。 頬にふっと唇を掠めさせる。 触れた熱さが、頬から首筋へ。ざらついた舌先が肌をなぞりながら移っていく。 いつのまにか胸を鷲掴みにされている。 片手におさめられた胸がぎゅっと強く握り潰された。 硬い指先に、じれったいくらいにゆっくりした柔らかい動きで、硬く尖った先を撫で回される。爪の先で捏ね潰す。 手で絞られた先端に注がれる、意地の悪い愛撫が。 突き上げられるたびに身体を縛りつける、濡れた奥のどうしようもない痺れが。 その両方が、おかしなうわ言を口から漏らしながらただ喘ぐだけのあたしを、どこか遠くへ引きずり込もうとしている。 何一つはっきり見えず、何一つ言えなくなったあたしは、土方さんの思うままに扱われた。 与えられる激しい動きに身体ごと呑み込まれる。小刻みな嬌声が止まらなくなって、嗚咽と混ざって震え出す。 溢れ続けている涙を何かが舐め取っていく。 そっと吸いついた熱い何かに、唇を奪われる。入り込んできた湿った何かが口内を蠢いて、あたしを追いつめて捉える。 逃げるな、とでも言いたげにあたしを追いかけて、自分の中まで導いてがんじがらめにしようと絡みついてくる。 深くて乱暴な、どこにも余裕のないキス。ちっとも優しくないキスだ。 嬉しい。 やっと貰えた。やっと繋がれた。 何の遠慮もなく、ただあたしを求めてぶつけられる、この乱暴さがすごく嬉しい。愛しい。 だけど、それ以外のことが何もわからない。このひとに揺さぶられる身体が誰のものなのかも、忘れてしまいそうになる。 「お前・・・・まだ怖ぇか、俺が」 「ん、ふぁ、っっ」 「怖えんなら泣け。好きなだけ泣き喚け。けどな。いくら泣いたって、・・・・・・・・・・・・・もう、・・・・・・・・・」 「や、あん、ゃだあ・・・・・っ」 やだ。離れないで。もっと。 きっと、もうすぐだ。もうすぐあたしは何もわからなくなる。 噛みつくように唇を塞いだ土方さんの荒く弾んだ呼吸が、喉の奥に吐き出される。 腰に食い込んだ指先が、肌に爪を立てて強張っている。 びくん、と蠢いた熱くて重たいものが、じゅく、じゅく、と中から零れ出す水音を掻き乱しては張りつめていく。 獣みたいな激しい動きで鋭く貫かれるたびに、快感があたしを皮膚のすぐ内側まで、隙間なく一杯にしてしまう。 圧し迫ってくるその激しさに耐えきれなくて、意識を失いかけているのが自分でもわかる。 唇から離れていった土方さんの顔が、苦しげな呼吸をこらえながら、あたしの首筋にぎゅっと埋められる。 やだ。もっと。キスして。 溜まった涙に塞がれた目を薄く開けて。力の抜けきっている身体から、消えそうな細い声を振り絞って強請った。 「もっ・・・と、・・・・・・・し、て・・・・・・あ、・・・ぁあっ、あ、やぁっ」 「・・・・・・、っ」 喉の中で押し殺した、耳の奥まで蕩けそうになる熱い掠れ声で呼んで。 土方さんはあたしを頭から抑えつけて、身体ごとぐしゃりと壊しそうなくらいに何度も衝いた。 放たれた熱さが中を逆立てるようにして広がっていく。 深く。 深く。 深く。 消えかかっている水泡のようなあたしの意識なんて追いつけないくらいに、深く。 遠く。 次の日。 仕事の鬼にしては珍しく、土方さんは急な休みを取った。 「まだ具合が悪いのか」と近藤さんが心配そうに尋ねても、いや、としか答えない。 「堂々とサボりですかィ」と総悟が口を尖らせても、相手にしない。休みの理由は、頑として口にしなかった。 休みは取ったくせに机に向かい、溜まった書類に目を走らせているのはいつも通りとしても、 何を言われても耳を貸さずに、半ば無理やり仕事に没頭しようとしているその姿には、なんとなく妙な気配が漂っていた。 だから、二人とも眉をひそめて怪訝そうな顔をして出ていった。 だけど、あたしにだけはなんとなくわかった。このひとの休みの理由が。 それは、部屋から出られないくらいに熱が上がって具合が悪いから、・・・・では、決してない。 それはないはずだ。今朝計ったときには、平熱に近い体温まで戻っていたんだし。 その程度の熱なら、このひとは絶対に休みたがらない。 「大事をとって」なんて慎重で気の長い考えは、頭の隅にも浮かべないひとだ。 訊かれたって言わないだろうとも思う。 特別訊きたいとも思わなかったから、あたしは自分からは何も訊かなかった。 まあ、もしもあたしが図星を指して、今日の休みの理由をからかったって、意地っ張りなこのひとは 絶対に口なんて割らないんだろうけど。 この珍しい急な休みの理由。それは多分、あたしの読みが甘くなければ――― この一晩でしっかり風邪を伝染されて、高熱も丸ごと引き受けて、このひとの背後に敷かれた布団に埋もれて 寝込んでいるあたしに対して、激しくきまりが悪かったから、―――――じゃないのかな、とは思う。 「喰いてぇもんはあるか」 「・・・・・・・・・・・・ううん。いらない。何にも」 仕事の手を止めて振り返ったひとに、小さく首を振って笑い返す。 別に遠慮はしていない。これは本音。 身体は苦しいけどなんだかすごく幸せで、欲しいものなんて何も考えつかなかった。 高熱で目が回りそうなくらいぐったりしていても、腫れぼったい瞼を開ければ、黙って仕事しているこのひとの背中を眺められる。 みんな任務で出払った、静かな屯所の午後。穏やかにゆっくり過ぎる時間の中で、この忙しいひとを一人占めしていられるのだ。 何て贅沢をさせてもらってるんだろう。他に欲しいものなんてあるはずがなかった。 枕元に寄ってきて腰を下ろしたひとが、こっちを覗き込むようにしてわずかに頷く。 その表情からは、もう、昨日見せていたような子供っぽい隙は消えていた。 書類を睨む目つきもいつも通りに厳しかったし、すっかりいつもの冷静な、涼しい顔に戻っている。 はぁ、とあたしは小さく溜息をついた。 「・・・・・・あーあ。つまんない」 「はぁ?」 「・・・・・・別に。何でもないですよ。もう一日くらい、風邪ひいててくれたらよかったのになあって思っただけ。 弱ってる土方さんなんて、この先当分見れそうにないし。もう少しからかって遊びたかったなぁ・・・」 ふん、と馬鹿にしたように土方さんが口端で笑った。 さっき山崎君が差し入れてくれた、氷枕に入れるためのロックアイスの袋に手を伸ばす。 長い指が掴んだ小さな塊を口に放ると、あたしの頭を挟んで布団に手を突いて。澄ました顔で覆いかぶさり、 何か含みのある意地の悪そうな薄笑いに表情を変えながら迫ってきた。 「。お前、昨日もあれだけ構ってやったってえのに、・・・・・・まだ遊び足りねえのか」 「へ?」 「仕方ねえ。時間はねえが、そこまで言うなら相手してやる」 「はいィ!?・・・・・ぁああ、あのぉ、ち、違っ!そっ、そういう意味じゃ、・・・・・・・、んんっ!」 冷えた雫が、押しつけられた唇の隙間から滴って首筋を伝う。 溶けかかった小さな氷の塊が、口移しに舌で押し込まれて。否応もなく解けていった。 きりっと澄んだ氷の冷たさと。深くて甘い、頭の中を蕩けさせる長い口吻け。 さっき吸い終えたばかりで口の中に強く残っている煙草の香り。 髪を鷲掴みにして後ろ頭を抱えている、熱い手のひらの感触。 それらは全部が全部、ただでさえ火照っていた身体をさらに火照らせるばかりで。 喉から胸へ、つうっと伝い落ちていくひんやりした氷の冷たさも、突然唇を塞がれて、 いっそう頬を赤らめたあたしの体温を下げる役には立たなかった。

「 甘い雫 」  text by riliri Caramelization 2010/01/10/ ----------------------------------------------------------------------------------- キリリク兼で No.5「土方さんに襲われる、いつもより冷たいかんじで」のリクエストを元に 書かせていただきました リク主まみさんに「いつも襲ってるようなものかもですが」とコメントいただきました。 …その通りです つーか副長 襲いすぎです(爆) キスしなかったのは 風邪を伝染したくなかったらし…や 無理っぽくねこの設定 今頃ですけど 88,888hit ありがとうございました!!