ドSの錬金術師 *Sadistic Alchemist*

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。てっめえ、なァにやってんだコラ。さっき出たばかりだってえのにもう休憩取ろうって気か?」 苦々しい顔で出迎えたピンクのミニ丈メイド服姿の女は、咥え煙草で客の前に仁王立ちになっている。 窓辺には白いレースのカフェカーテン。いたるところに飾られた、テディベアだのうさぎのぬいぐるみだのが 目を惹くメルヘン趣味な店内。そこに集う客たちは、ほとんどがこの店のリピーターだ。 今日も店内できびきびと立ち働いている、日替わり制服姿のウエイトレスたちの姿をうっとりと目で追いかけ 「御主人様」と呼ばれるささやかな幸せに鼻の下を伸ばしている。 そんなちょっとした都会のオアシス空間、屯所近くにあるコスプレカフェに突然の異変が起きた。 血相を変えた一人の男が。 つまり土方の姿をしたが、店の扉を蹴り壊さんばかりな勢いで乗り込んできたのである。 「お前なァ…ざっけんじゃねえぞ、今日一日で俺の面目潰す気か。見廻りひとつまともに出来ねえのか!?  女やってる普段ならともかくだ。今のてめえは俺のナリして、真選組の看板背負って歩いてんだぞ!」 息を切らして店に乗り込んだ男と睨み合っているのは、メイド服を着たこの店のウエイトレスの一人。 つまり彼女はになってしまった土方なのだが、その口にはしっかり煙草が含まれている。 すでにの身体への「ニコチン汚染」は始まっていて、手にした煙草は早くも通算五本目だ。 ちなみに恐怖の「マヨ汚染」は、この日の朝から早くも始まっていた。 無言で睨み合う二人の周囲は、野次馬的な興味本位の視線と不穏なざわめきに包まれている。 「おかえりなさいませ御主人様」とにっこり笑顔で出迎えるべきはずのコスプレカフェ店員が 店の客と、しかもあの悪名高い真選組の隊服を着た男と、お互いに殺気を放ちながら睨み合っているのだ。 さらにその二人の会話ときたら、第三者にとってはまったく意味が通じない奇妙な内容ときているのだから 誰でも彼等を注目せずにはいられないだろう。 「おい、あいつらどーした。何でお前一人だ?他の奴等ァどこ行った」 「・・・・・・・・伝言に来ましたっっ」 「はァ?」 「見廻りしてたら偶然会ったのっ。とっつあんが行きつけの、あの高級クラブのNo.1のお姉さまと!!!」 ああ、と土方が素っ気なく顔を逸らし「その程度に何を」とでも言いたげな醒めた様子で、軽く片眉を吊り上げる。 睨むに背を向けて無視、ついさっきまで座っていたテーブル席へと戻って行く。 だが息巻くにしてみれば、その反応がまったく面白くない。余計に火が付き、背後から食ってかかった。 「『この前は御一緒出来て楽しかったわ、でも、次は私と二人きりで遊んでくださいね』だって!!  いきなり腕組まれちゃったしぃ、胸押し付けられちゃったしぃ、さりげに耳に息吹きかけられちゃったし!!  別れ際にこれ渡されて色っぽーーーく『いつでも電話してね』なーんて耳打ちまでされちゃったしぃぃぃ!!!!」 土方の前に素早く回り込み、は一枚の名刺を彼の目前に突き付けた。レース模様の透かしの入った、凝った名刺だ。 そこには松平御贔屓の高級クラブのNo.1お姉さまの源氏名と電話番号がプリントされている。 土方は・・・といっても傍目にはなのだが。とにかく彼は、やや乱暴にそれを奪い取った。 「だから何だ。これに何を勘繰ってんだ、お前は。たかだか名刺渡されただけじゃねえか。  ・・・つか、てめーに言われたかねーよ。俺に隠れてコソコソしてやがるてめーが、人のこと言えんのか?」 「は?何ですかそれ。誰がコソコソしてるんですか誰が。お姉さまとコソコソしてるのはそっちでしょー!?」 「うっせえ。そーいうこたァこいつを見てから言え」 「!!」 そこへ水戸の御隠居の供の者よろしくこれでもか、と目の前に突き出されたのは、の携帯だ。 その突き出された画面には、土方の「天敵」万事屋主人こと坂田銀時の名前がある。そのまた下に綴られているのは 『あのさーやっぱ来週さー 三丁目のあんみつ屋やめて六丁目のケーキ屋行かね?俺サービス券持ってんだけど』 と、目にした土方が思わず携帯を握り潰しそうになる、どことなく浮かれ気分な文面だ。 土方は入れ替わってしまったどさくさに紛れて彼女の携帯を持ち歩き、とんでもないことに勝手にメールの着信まで チェックしていたらしい。しかしこの場合二人の中身が入れ替わっているので、 実際に携帯を勝手にチェックされたことに目を見開いて驚いているのは、ではなく 土方のほうだったりするのだが。 「ちょっ、・・・信じらんないいぃ!何で人のケータイ勝手に見るんですかああ!!」 「これァ何だ。俺ァさんざん言ったはずだぞ。ヤローと勝手に会うんじゃねえって言ってんだろーが!  用心しねえにも程があんだろ。お前、あの野郎がマジでお前とケーキ屋行きたがってるとでも思ってんのか!?」 「当たり前でしょ?一緒にケーキ食べに行くんだもん。ケーキ屋さんに決まってるじゃないですか」 「はぁあ?んなワケねーだろーが!!  あの野郎のことだ、どーせ甘いモンで釣り上げといて隙見てどこかへ連れこもーって魂胆だろ。  つーかそいつを真に受けるてめーもてめーだ。甘味であっさり釣られやがって、この馬鹿女!」 「・・・!!何よ開き直っちゃって!自分こそ何よっっ、何なんですかこの前って!  人には旦那に会ったらコロすとか言っといて、どーゆーことですかその名刺はあ!?  自分はあーんな綺麗なお姉さまと二人きりで何をどこまでご一緒するつもりだったんですかあああ!!?」 「仕方ねーだろォ、つか、俺ァあのおっさんに無理矢理拉致られてついてっただけだ。  アフターも同行しねーと来年度予算削るってとっつあんに脅されりゃあ、こっちは逆らえねーだろォが!」 「だったらいいじゃん別に、あたしと旦那がケーキ屋さんくらい一緒したって!!  何よ、どーしてそこまで土方さんに報告しなきゃいけないのっっっ。  それに旦那には今までいっぱいお世話になってるんだもんっっ、たまにケーキ食べに行くくらいいいでしょ!?」 「オイコラ。何度言わせんだテメ。だから人の話聞けっつってんだろ!?  俺はなあ、どっかのバカみてえにいちいち真に受けていられねえって言ってんだ。  んなこたァ考えるまでもねえだろーが。あちらさんも商売だぞ、んなもん営業に決まってんだろーが!」 「はあァァ!?いちいち真に受けてるバカ?誰がですか?誰のことですか!?誰よおォォ、  勝手に人のケータイ見てあることないこと勝手に妄想してる極悪バカメイドは!」 「あああぁあァ!?・・・言わせておきゃあ好き放題ぬかしやがって、こっの野郎ォ・・・・・!  だったら好きにすりゃーいいじゃねーか。勝手にしろ!フン、その姿のてめーに妬かれたって痛くも痒くもねえェ!」 「言ったなァァ!いいもんっっ、あたしだって、あたしだって悔しくなんかないんだからね!?  メイドの格好したどっから見てもバカそーな自分に言われたって別に悔し・・・・・・、・・・・・」 と、グダグダな舌戦が続く中。は、いや、土方の姿になっているは、はたと気がついた。 なんだか雰囲気がおかしい。自分と土方の周りを取り巻いているこの雰囲気が、なんだかおかしく感じるのだ。 いつも自分が働いているこの店の雰囲気とは、何かが違っている。 我に返った彼女は周りを見渡してみた。 すると、店の、というよりは、周りの人たちの雰囲気がどうもおかしい気がする。 だいたい店員のはずの土方が…つまりは自分の姿をしたメイド服の女が、客に混じってテーブル席に ついているところからしておかしい。 さらに言えば、土方と同じテーブルについている常連客たちの様子もおかしかった。 一人一人が電卓だのペンだのを片手に、何かの書類と向き合っているのだ。 「え。土方さん。ちょっと。そういえばさっきから・・・・・何してるんですか」 「はっ、っとに救いようもなくバカだなてめーは。  んなもん見りゃあわかんだろーが。メイドの務めったらご主人さまへの御奉仕に決まってんじゃねーか」 「は?御奉仕?それのどこが御奉仕いいィィィ!!?」 の、いや実は「中の人」は土方なのだが、その彼女を周囲を取り巻いてテーブルについているのは 彼女を崇拝する奴隷たちだ。とはいってもそれは皆、本来なら彼女に「御主人様」扱いされてかしずかれる、 目当ての常連客のはず。ところがこのメイドときたら、の笑顔に癒しを求めて コスプレカフェに訪れたはずの常連客たちの心をいったいどうやって操ったのか、自分が仕えるべき御主人様たちを 逆に主のような顔でこき使い、御奉仕させているのだ。 彼等はそれぞれに役割分担までさせられていた。 コンビニまでコピーに走らされる者。雑用係兼お茶汲み係として使われる者。 態度のデカいメイドが屯所から持ち込んだ大量の決済書類だの報告書だのを一束ずつ振り当てられ、土方がそれを 効率よく処理するための手伝いをさせられる者、・・・と、まるで隊士たちと同じ扱いで使役されている。 主従関係の立場逆転な倒錯世界を前にして、顔を青くした「見た目真選組副長な男」は唖然と立ち尽くしていた。 周囲に群がるニヤけた顔の常連客たちを鋭い目線ひとつで従え、さらには容赦なくアゴでこき使い 甲斐甲斐しいまでに世話を焼かれているメイド。メイド服のミニ丈スカートからガーターベルト付きストッキングに 包まれた脚をガバッと大きく開いた、男気溢れる豪快ポーズで座っているメイド。 煙草の煙をモクモクと噴き上がらせながら、手にした報告書に厳しい表情で目を通しているメイド。 ・・・・・どれもこれも、ありえない。というか百歩譲ったとしても、これを『メイドさん』とは呼べないだろう。 仮に呼ぶとしたら『メイド服を着たガサツな女王様』と呼ぶべきだ。 「しっっ、・・・信じらんないいいぃ!!」 「こら、静かにしねーか。どうしてそう騒がしいんだてめえは。店員のくせに店ん中で怒鳴りやがって」 「バカっ。土方さんのバカあああ!!  やっと時給上がったのにいいぃぃぃ!!!またお給料下がったら土方さんのせいなんだからあ!!  どーすんのコレ、どーしてくれるんですかァ!またバイトクビになっちゃったらどーしてくれんのおォ!!」 土方(中身は)は涙ぐみながら(中身土方)の襟首をブンブン振り回し、訴えるのだが 当の女王様は無表情で面倒そうにその手を払い、客という名の奴隷たちを容赦なくアゴでこき使い続けている。 「おい、そこのヒョロい奴。てめ、ここの日付と計算間違ってんぞ。ここから全部やり直せ。  それからそっちのバンダナ。てめえはお茶持って来い、こいつらのぶんもだ」 の姿をした土方は、こいつら、と複数形で、しかもなぜか扉のほうを指している。 不思議に思い、彼女(ややこしいことに姿かたちはあくまで彼、ではあるが)は背後を振り向いた。 そこにいたのは深い黒の隊服を身にまとった、ずらりと立ち並ぶ真選組の隊士たち。 どうやら見廻り中に突然姿を消したを探しに来たらしい。 彼等はみな沖田の悪だくみに巻き込まれ、無残な姿へと変貌させられてしまった、いわゆる人体錬成の犠牲者たちだ。 しかし錬成術によって身体を錬成されてしまったとはいえ、術をかけたのは所詮若葉マークの 初心者錬金術師・沖田である。そのいい加減な素人仕事の出来栄えは、当然、付焼き刃な「なんちゃって錬金術」 の出来でしかなかった。 某マンガに登場するホムンクルスたちのような、何らかの力を備えていそうな鋭い迫力を持つ高等な生き物など そこには一人としていないのだ。 そこにいるヤツらはといえば、どいつもこいつもまず、迫力がない。 植木鉢よろしく頭に花が咲いているヤツ。上半身だけ日本一有名なファンシー猫キャラぬいぐるみになっているヤツ。 携帯が頭上に合体してしまったヤツに、美少女アニメの主人公が描かれた等身大抱き枕と合体してしまったヤツ。 手に夜食で食べていたラーメンの丼がくっついたままのヤツ。腕がその時たまたま制作中だった ガンプラに取って代わられたヤツ。頭がその時たまたま読んでいた少年ジャンプになった奴もいれば、 頭がその時たまたま読んでいたちょっと過激な嗜好のエロ本になってしまった、下手をすると 猥褻物陳列罪に問われそうな奴までいる。 『・・・え。イヤ。あのさァ。君たち、真選組隊士。・・・って、呼んでいいんだよね?』と、見る側がゴシゴシと 目を擦って自分以外の誰かに再確認したくなるような異様な奴等が、顔を揃えて立っている。 眺めるだけでへなへなと気の抜ける、ローテンションかつユルユルな集団だ。 唇を噛んだ土方は。・・・いや、になってしまった土方は彼等を眺め、苦い顔で舌打ちする。 こうなると武装警察としての強硬なイメージも、威厳も何もあったものではない。 それどころか、これでは世間の目から見れば笑いの種でしかないだろう。この有り様を見られたら最後 しばらくは江戸市中に潜伏中の攘夷浪士どもにまでバカにされ嘲笑われ、失笑つきで後ろ指をさされること必至だった。 「ちょっとー、土方さんっ聞いてる!?人が話してるんだからこっち見なさいよおっっ」 「っせーって言ってんだろ。つか見たかねんだよ何かムカつくんだよテメーといると。  誰が自分に見下ろされてえかってんだ。見飽きたツラした野郎に見下ろされて気分いいわけねーだろーが」 「そんなのあたしに関係ないですうー。  あたしじゃないもん、そっちがチビだから悪いんだもんっ。 ほらぁ、こっち見て下さい。  こっち見てくださいよー、思いっっっきり見下してあげるからこっち見ろや土方ああ!!」 「てっっっめええぇ。・・・・・言いやがったなコラ。上等だコルァ!  んな口叩いてられんのァ今だけだぞ、元に戻ったら覚えてろよこんんんのアマあァ!!?」 と憤った土方がただでさえ短いスカートを派手に翻してに掴みかかり、周囲の客たちの期待の籠った熱い視線を 一身に浴びた、ちょうどその時。の携帯がブルブルと震え始めた。 凄い剣幕でそれをひったくった土方が。・・・・つまりこの携帯の本来の持ち主が着信画面を睨む。 着信は沖田からのメールで、そこにはこう書いてあった。 『説明書から解術式を発見 至急 屯所の庭に集合してくだせェ』 ・・・・と、いうことで。 バカバカしいこの騒ぎの一挙解決を計るべく、一人の女と一頭のゴリラを交えた不幸な男たちの集団が 緊急召集で屯所の庭に集められた。 円になって集まった彼等の足元には、迷惑錬金術師の沖田が描いた「大きな錬成陣的な何か」が 既に出来あがっている。 被害者たちが顔を揃えたところで、咥え煙草でふてぶてしい態度のメイドがその顔ぶれを鋭く見回す。 「ん?おい。これで全員か?誰か足りなくねーか?」 「全員揃ってますぜ」 「いや。ちょっと待て。もう一回数えてみろ」 嫌とは言わせない強い口調で命令するメイド服姿の土方に、肩を竦めた沖田が迷惑そうに片眉を吊り上げて答える。 「ったくあんたも疑り深けェなあ。んじゃ、一遍数えてみやしょーか。  あんたににゴ、近藤さんに、・・・・・」 その場に集った十数名の被害者たちが、一人一人指差し確認で加害者沖田に数え上げられていく。 「・・・に原田で、そこに山崎。ほら、全員揃ってまさァ」 やる気の無さが目に見えるような声で数え上げた沖田が、最後に指したのは山崎である。 ああ、とやっと気づいたかのような顔でそこを眺め、今は女の姿をしている土方は言った。 「ああ。ぁんだよ山崎。お前、そこにいたのかよ。いや、地味すぎて見逃したわ」 「待たんかいィィ!!」 地味すぎて上司の目に留まらなかった哀れな監察、山崎の泣きの混じった叫び声に その場に集う全員が一斉に注目する。しかしそこには声の主・山崎の影も形も見当たらない。 にも関わらず、錬金術被害者の会全員が、円になって囲んだその輪の中央の地面のあたりをじっと見下ろしている。 「待てやてめーらァァァ!!思っっきり人の変貌ぶりをスルーしやがってェェ!!」 そこに置かれているのは一本のミントン用ラケットだ。 そう、被害者の一人である山崎は寝込みを沖田に襲われたときにミントンのラケットを抱いて眠っていた。 そのために、なぜかその身体がラケットに変わってしまった。というか、身体がそっくりそのままラケットに 吸収されてしまったのだ。 原田のように大事な一部が一見形状の似た何かに変わったわけでもない。また、失敗ホムンクルスにされたのでもない。 身体の一部を変えられてしまったのではなく、全身がヒトの形を留めない完全な「器物」にされてしまった山崎は ある意味この中で一番不幸な被害者といえる。 ところがその一番の被害者に対して、周囲の仲間たちは誰一人として同情を寄せる気配すらなかった。 むしろその場には「ウゼーよ山崎、え、つーかお前何で泣いてんの」とでも言いたげな 乾いた空気が流れているくらいだ。 「ラケットだろこれ!どー見たって俺じゃねーだろ、山崎じゃねーだろ!?ミントンのラケットだろーがあァァ!!」 「ああ、そうだ山崎。お前はミントンのラケットだ」 眉間に皺を寄せ、深々と頷く(の姿をした土方)に向かって 地面に落ちたラケットが唾を飛ばしそうな勢いでまくしたてる。 「そーじゃなくてえェ!!俺がグラサ、じゃねーよ、ミントンのラケットになってんですけどォ!  どー見てもおかしいだろォ、変だろーが!木枠にガット張ったミントンのラケットが声出して喋ってんだぞ!?  まずそこに誰かツッコめよォォ!!」 「そりゃそーでェ」 そこへ彼の希望通りに、投げやりな口調のツッコミが横入りしてくる。 面倒そうに足元のラケット(山崎)を見下ろすのは、このおバカな騒ぎを引き起こした張本人である。 「だがよォ、仕方ねーだろ山崎。第二回銀魂人気投票では前回の五位から九位までランクダウンしたお前には  もうミントンのラケットになるくれーしか存在価値がねーんだから」 「ちょっとおおォォ!!前回に引き続き連続二位の威光振りかざして人の心のトラウマをえぐるなァァァ!!」 「おい、山崎。落ち着いてよく考えてみろ」 まるで事件の重要な容疑者の取調でもしているかのような真剣な表情で、土方が口を挟む。 地面に落ちたままのラケット、つまり山崎を、手にした煙草の先ですっと指した。 「これ、ぶっちゃけお前だろ」 「違げーだろォォォ!!どっからどー見てもミントンのラケットだろーが!!」 「いやいや、現実から目を背けずによく考えてみろ」 一見の姿をしたメイド服の女が、ふーっと長く煙を吐いてから腕を組む。 迷宮入りした事件の行方でも思案するかのような難しい顔で言った。 「人気投票で地味に九位までランクダウンした挙句に地味な下剋上引き起こそうとして地味に失敗したアレと、  ここで地味な地面に這いつくばってる地味なラケットのお前。ぶっちゃけどっちが地味な山崎だ?」 「どっちも地味な俺だろ――があァァァ!!!」 山崎が、いやミントンのラケットが、わなわなと体を震えさせ、屯所中に響き渡るような大声で怒鳴る。 その超薄型コンパクトボディの一体どこに、そこまで高性能なスピーカーが内臓されているのだろうか。 ははっ、とせせら笑った沖田が、いやいや、と顔の前で手を振ってみせる。 「いやァ、違いやすぜ土方さん。アレは山崎じゃありやせん。  アレはタダの地味な棒でさァ。地味な引き立て役のヤラれキャラの頭から生えてる  『こいつ別に超人気キャラとかでもねーし 特に重要な役割とか無いタダの半端な脇役だし  別にどーなってもいいんで 皆さんでいいよーにやっちゃってくださいフラグ』的な地味な目印代わりの棒でさァ」 「その地味な目印代わりのフラグ棒が生えてる地味な本体が俺ですううぅ!!  つーかそれ、何の話!!?いつ生えた?いつ俺の頭に棒が生えたあァ!!」 「あれァどんだけ存在主張してメインキャラにのし上がろうとしてもせいぜいモヒカンにされる程度がオチの  地味な脇キャラ山崎の頭から地味に生えてる、地味な棒的なアレアルヨ〜、じゃねーや、棒的なアレでさァ」 ラケットを見下ろす沖田が、ふっ、と冷酷そうな笑みを浮かべる。 迷いなく踏みつけにすると、靴底を使って地面にグリグリ押しつけた。 「痛っっいだだだだ、痛ァァァ!!!」と悲鳴をあげてラケットが泣き出し、沖田はいっそう楽しげに踏み続ける。 「タダの腐れ棒じゃねーか、あんなもん。本体はこっちのミントンラケットでェ。なァ山崎」 「ウホッ(ああ、そうだな総悟)」 と、頷いて返事をしたのはなぜかリアルゴリラ近藤。 「お前が返事してんじゃねーぞゴリラあァァァ!!!イラッとくんだよおォォォ!!」 そこへ土方の姿をしたが進み出て、嘆く山崎、いや、ミントンラケットを拾い上げる。 そっと埃を払い、ぎゅっと胸に抱きしめた。 「・・・山崎くん、泣かないで」 「うぅっっ・・・・さあぁん!!」 抱きしめられたラケットから、さめざめと泣く悲しげな山崎の声が漏れてくる。 その姿はあくまでも、どこにでもあるミントンのラケット。どう転んでも涙は出ないはずである。 しかしそのとき、ラケットを優しく抱きしめる(注:見た目土方)の姿を眺めた人々の心には 涙も鼻水も一緒くたにダラダラ流して泣いている山崎の姿がありありと脳裏に浮かんだとか、 ちっとも浮かばなかったとか。 「こいつら鬼だよォォ、二人合わせりゃ主役を軽く抜く票数獲得して、どや顔で読者の人気を独占しやがったくせに  人を労わる心ってもんがどこにもねーよ!この心無い鬼たちに何とか言ってやってよォ、さんんん!!」 「わかったよ、任せて山崎くん。でもね、その前に。ひとつ言っておきたいことがあるの」 片手にラケット(山崎)を抱き、もう片方の手を空へと差し延べ。 聖母のような慈愛に満ちた遠い目をして語り始めるその人物は、くどいようだがあくまで土方の姿をしている。 「昔から、人々の間では人の心というものがどこにあるのか取り沙汰されてきたわ。  人の心は心臓に?それとも脳に?  私は違うと思う・・・そう、それはきっとミント『もォいいわァァァ!!!』」 「それじゃあ山崎イジりも飽きてきたんでさっさと術を解いちまいやしょーか」 言われた傍から沖田に投げ捨てられたラケットが「おいいいィィィ!!」と叫んでいるのを全員が無視、 さっそく錬成術を解く「儀式」が始められることとなった。 取説によれば、錬成された全員が初心者錬金術師の描いた錬成陣の中に入り、そこで術をかけた沖田が例の石を使い さらにあの取説から見つけた解術を唱えればあーら不思議、すべてがなぜか元通り!・・・となるらしいのだが。 誰も口にはしなかったが、内心では「はたしてそれで無事に戻れるのかどうか」と全員が全員、揃って危ぶんでいた。 なにしろ術者がこのふざけたドS錬金術師だ。今までも屯所の連中を無差別で悪ふざけに巻き込んできたこの男が 何の策謀も見返りもなく、自分たちを普通に元に戻そうとするもんだろうか、と。 ところが沖田は何を要求することもなく、怪しげな行動に出ることもなかった。 いたって普通に全員を錬成陣に集めると「じゃあいきやすぜ」と気の抜けた声で合図をする。 ひざまずいて例の赤い錬成石を陣の端に置くと、そこに手を当てた。 しかしそこで忘れかけていた何かに気づいたらしい。動きが止まり、なぜかムッとして面白くなさそうな顔になる。 「言い忘れてました土方さん。あんたとはそのままじゃ元に戻れねえんでさァ」 「あァ?何だそりゃ。どういうこった」 「俺がかけた術は接触しているモノ同士を錬成させちまう術なんです。たまたまあんたらは中身が入れ替わったが、  術を解くにはかかっちまったヤツが他の一切に触れずに、術をかけられた時と同じ状態になってねえといけねえ。  よーするにあんたとは、布団の中にいた時と同じ状態になってねーと元に戻れねェってことです」 目を光らせて土方を(外見上はを)睨む沖田は、いよいよ面白くなさそうな顔になっている。 彼が何を言おうとしているのかに気づいた土方は、うっ、と息を詰まらせた。 「・・・同じ状態っつーと・・・おい、まさか」 「えェ。あんたらはそこで恥ずかしげもなく抱き合っといてくだせェ」 嫌そうに舌打ち混じりで告げた沖田に向かって、唖然としている当人たちは言葉もない。 悔しそうに口を曲げて頭を掻き毟っている土方(見た目)の顔には「やってられるかあァ!」と書いてあるし (しかし外見は土方)は耳から首筋まで真っ赤になって固まっている。 互いに黙り込む二人に対して、しかし周囲は黙ってなどいられなかった。 それどころか滅多に拝めない「鬼の副長ラブシーン祭り」鑑賞のチャンス到来に盛り上がりっ放しである。 沖田の発言でどよめきと喚声が上がり、ニヤつく奴等の興味津々な目線が二人に向かって殺到している。 が、自分の愛刀をスパッと抜き放った土方が殺気フル稼働で発した「おいてめえら。わかってんだろーな」の一言で その場は水を打ったように静まり返り。浮かれていた祭り好き全員が、一瞬にして凍りついた。 数々の死線を潜り抜けてきた屈強な男たちも、さすがに物珍しさと引き換えに命を賭ける気にはなれなかったらしい。 「てめーら全員後ろ向け!見た奴ァぶっ殺す!!」 鋭い号令一下、ゴリラ一頭を含めた全員が身体を強張らせた回れ右で彼と彼女に背を向ける。 吸っていた煙草を地面で揉み消したメイド服の女は・・・つまり土方は、無言で真っ赤な顔の男に手を差し出した。 「・・・おい。いいからとにかくこっち来い」 「えェ!?や、ややや、やだあァァ!!イヤですっっ、どーしてこんな人の多いところでっっ」 「あァ?だからせめてもの人払いしてやったんじゃねーか。おら、グダグダ言わずにさっさとしねえか」 そう、これは確かに恥ずかしがっている場合じゃない。それはだって頭では判っているのだ。 とにかく身体が元に戻らなくてはどうしようもないのだから、ここは恥ずかしさを我慢して土方の言う通りにするべきだ。 だが、それはそれ、これはこれ。感情と理屈は噛み合ってくれない。恥ずかしいものはどーしたって恥ずかしいのだ。 恥ずかしさのあまりにペシッ、と差し出された手を叩いて拒否してしまった。 すると叩かれたメイド服の女のこめかみに、途端に青筋が浮き上がる。 「っっいだっ、ぃいだだだだだだあああっ!!ギ、ギブっっ!ひひひ土方さっ、ギブううう!!!」 の姿をしたメイドが巧妙な体勢から土方を素早く地面に抑え込み、あっという間に見事な四の字固めを完成させた。 拒まれたことにムカついたからなのか、それともかける相手がではなく自分の身体だからなのか。 余計な口を叩いては彼に鉄拳制裁を喰らい続けてきただが、今日の扱われ方はいつにも増して容赦がなかった。 「っせえ黙れ。さっき言っただろーが。元に戻ったら覚えてやがれってなあああああ!」 「戻ってないいいいぃ!まだ元になんて戻ってないからあああ!っていだだだだ、ギブ、ギブうう!!」 技をかけられた見た目真選組副長な男は、涙目で苦しそうに手足をジタバタさせてのたうち回っている。 とてもとても、警察上層部のお偉方や過激派浪士にはお目にかけられない姿である。 「ったく。俺だってやりたかねえってんだ。何が楽しくて男の身体なんざ触りてえもんか」 苛立った口調でブツブツとボヤくメイドは、彼等を不満そうな半目で眺めていた沖田に向って 「おい、何やってんだ」と促した。 「こっちは見世物でやってんじゃねえんだぞ、いつまで呑気に眺めてやがる。こいつがくたばる前にとっとと始めろ」 「へいへいィ。んじゃ、いきやすぜ」 沖田が地面に置かれた石に手を当て、ぼそぼそと小声で呪文を唱え始める。 赤い石が放つ禍々しい赤色の光のカーテンが、一瞬で陣の円周に添って噴き上がった。 長々とした呪文を唱え終わって間もなく、彼等を囲んだ赤い光がぱあっ、と一際鮮烈な輝きを放つ。 風に煽られる炎が天へ向ってゆらめいているような光のカーテンの中で、と土方はいまだにじたばたと 揉み合っていたのだが、周りを囲んだ光の眩しさに気づいて動きを止めた。 光の色が変わっていく。陣を描いた地面から空へ向って、少しずつ色を変え始めている。 不気味な赤色から灯のように温かな橙色へ、それから黄色味を帯びた柔らかな白色の光へと。 じわじわと色を変えていく光のゆらめきに目を輝かせながら、がぽつりとつぶやいた。 「うわぁ・・・・、きれい・・・」 心から感嘆してぼんやりとつぶやかれたその言葉は、真選組副長の口から出たものではない。 それはピンクのメイド服姿の女の口から出たもので、つまり、の中身はもうとっくに土方の身体から 自分の身体へと戻っているのだった。実はだけでなく、他の奴等の身体も元の状態に戻っているのだが 身体がすでに元の姿へと変化を終えていることに気づいている者は少ないようだ。 発光し続ける錬成陣の中では、誰もが自分たちを取り巻く鮮やかな光のグラデーションに見蕩れていた。 そんな中、地面に胡坐で座り込んだ土方だけは、鮮やかに変遷しつづける光に目を向けることもなく 彼の隣で大きく見開かれたの瞳に映る色の変化を追っていた。 やっと自分の身体に戻れたことで、やれやれ、と安堵に肩を落とし。しかし彼は、一人浮かない顔をしている。 この陣の中で、目を焼くようなこの光に包まれている限り、自分の身は沖田の手中にあるようなものだ。 あいつのことだ。どこで何を仕掛けてくるかわかったもんじゃねえ、と警戒心を強めながら眉を顰めた。 術が解けたからといって油断する気もなく、土方は光の向こうにいる沖田の動向にそれとなく気を配っている。 ところが隣で地面に座り込んでいるときたら、身体が元に戻っていることに気付かないどころか ついさっきまで自分の身体が男になっていたことまですっかり忘れているらしい。 白い光を受けて輝く瞳を時折瞬かせながら、突如現れた目映い光景の美しさを無邪気に喜んでいる。 夜中にはあれだけめそめそと泣きじゃくった奴が。喉元過ぎればとたんにこれだ。 きれい、と笑う女の横顔を眺めながら、土方は呆れ気味な苦笑を漏らす。 「・・・まるでガキだな」 「え?なに?土方さん、何か言った?」 声に気づいたが振り向く。彼は何事もなかったような仏頂面で「言ってねえ」と顔を逸らした。 まあ、のこういう子供っぽい呑気さや、隙の多さが招く面倒な騒ぎの数々は彼をさんざん振り回すのだし 振り回されるたびに毎回ムカつきもするのだが。だからといって、この子供のような呑気さが嫌ではないのだ。 どちらかといえば気に入っているのだし、この邪気の無い笑顔を自分が護ってやるのだという自負もあり。 こうして眺めていればつい手を伸ばして触れてみたくなるほどには、可愛くもある。 それに。のこんな子供染みた他愛のなさがあるからこそ、彼にとっては楽しめることもあった。 「おい」 「はい?」 光に見蕩れていたは、呼ばれた条件反射で振り向いた。 振り向いたその顔を、伸びてきた手が頭の後ろから抑え込む。 光に目を奪われて油断しきっていた彼女は、案の定、そのままわけもなく引き寄せられた。 腕の中に収まってしまう華奢な女の柔らかさを、ぎゅっと抱きしめて確かめる。背中に流れる長い髪を 指先で撫でながら、土方は小声でつぶやいた。 「ったく。冗談じゃねえ」 「!!ひ、土方さっっっ」 「男に戻れて清々すらァ。だいたい俺がてめえになったって、楽しみなんざひとつもありゃしねえ。  フン、このほうが楽しいに決まってんじゃねーか」 「なっ、ちょっっ!ひゃっ、ななにすっ」 「馬鹿、煩せえよ。あいつらに聞こえんだろ」 「っ、だ、だって!みんなが、みんなに見られっっ」 「あァ?どいつもこいつもあの光に気ィ取られてんだろ。人のこたァ見ちゃいねえよ」 頬を薄く染め、大きな目を何度も瞬かせたは恥ずかしそうに、困った顔で見上げてくる。 彼の胸を押し返そうとする細い腕を軽々と抑えて、土方は黙った。 赤みが増していく女の頬を片手に収め、ゆっくりと撫でる。ふっと細めた眼が薄く笑い、口端が片方だけ吊り上がった。 仕草では拒むのに、嫌とは言わないの気持ちを見透かしたような、どことなく意地の悪い笑みが浮かんでいた。 「それとも何か。お前、奴等に見られてえのか」 「なっ、・・・・・!っっ、んんっ!!」 絶句したところで唇を塞がれたが、あわてて手足を暴れさせる。 彼女の身体を無理に引っ張って自分の膝上に抑え込んだ土方と、無言でじたばたと揉み合っている最中。 真白に変わった光のカーテンは少しずつ光彩を弱め、消えていくオーロラのように上昇気流に煽られながら ゆっくりと青空へ向かって昇っていった。 風にはためいてゆらぐ白い光の層が目の前を去り。 他の隊士たちも、自分たちがいつのまにか元の姿に戻っていることに気づき始めた。 自分の手足を確かめながら歓声をあげてみたり、無事に元の自分に戻れたことに喜ぶ仲間同士で肩を叩きあったり、 空を見上げて白いオーロラが消えていくのを指差しながらざわめいていたり。 器物から生体に戻った山崎は余程ほっとしたのか号泣していたし、大事な部分を真っ先に確認した原田は 目元を腕で擦りながら男泣きにむせび泣いていた。 ところで、周囲が喜びを分かち合っていたその時、土方とがどうしていたのかといえば。 二人とも、まだ地面に描かれた錬成陣の上に腰を下ろしたままだった。 そこへこちらもそれなりに毛並が薄くなり、それなりに人間らしさが増した近藤がやってきた。 口許を両手で覆ってへなへなと、脱力しきって倒れかけている抜け殻のようなを不思議そうに眺める。 「?どうした、ナメクジみてーになっちまって。やっと戻れて気が抜けたのか?」 「・・・いえ〜〜。・・・あのぉ。どっちかっていうとぉ、  ・・・ド変態のせいで腰が抜けそうになったってゆーかぁ。  もォ身体に力が入らないってゆーか土方このヤロ覚えてやがれってゆーかあぁぁ・・・・・」 「腰?トシが腰をどうかしたのか」 近藤が怪訝そうに覗き込むと、口を尖らせているの顔は熱でも出たかのように赤く火照っていた。 その隣ではさっそく煙草の煙を吐き出している涼しい顔の土方が、ざまあみろ、と意地の悪い笑いを浮かべている。 まったく正反対な二人の反応に首を傾げつつ、近藤は土方の隣に腰を下ろした。ポン、と土方の肩に大きな手を置く。 「?なんだかよくわからんが・・・ともかく全員元に戻れたようだな。  しかしよォ、昨日の夜中はまったくどうなることかと思ったが。いやァ、まずは皆が無事で良かったよ。なァトシ」 「良かねーよ。頼むから総悟の奴をどうにかしてくれ、近藤さん。あいつに俺の言うこたァ効きゃしねえんだ。  今度こそあんたからキツく言ってもらわねえと。どーせまたすぐに、懲りもしねえでバカ騒ぎやらかすに決まって」 「へーえ。よくわかってるじゃねえですか。さすが土方さんだ」 にんまりと笑っていそうな嫌な含みのある声にはっとして、二人がばっと背後を振り向く。 するとそこには、いきなり抱き上げられ、口を開けてぽかんとしているをかかえた沖田が立っていた。 そのまますっと足を引いてごと錬成陣から離れた沖田が、超高速な早口で低く呪文を唱える。 彼の口が止まった瞬間、鋭く刺さるような赤い閃光が陣の円周に出現。描かれた円の外郭から空へと向かって 高々と鮮烈に噴き出した。 「けどまァ残念でしたねェ。気づくのがちょいと遅すぎたぜ」 「そっ、総悟ォ!!よせっっ、てっめえ何を――」 焦って止めに入ろうとした土方の姿も声も、噴き出した禍々しい赤の眩しさに掻き消された。 口端を綺麗に吊り上げてにやりと笑った男は、回れ右で光の収まった錬成陣に背を向ける。 「邪魔な野郎も始末がついたし、今日はこのまま遊びに行きやしょーか姫ィさん」 と楽しげに語りかけながら、唖然として言葉もないを片腕に抱えて歩き出した。 ・・・と、メイドを抱えた錬金術師が、鼻歌混じりのいつにない上機嫌ぶりでその場を去ろうとしている時。 屯所の庭は、錬成陣に残された奴等の悲鳴で騒然としていた。 残された奴等全員、中身が入れ物である身体から抜け出てしまい、抜け出た中身が他の奴の身体へと 入れ替わってしまっている。しかもそれだけに留まらず、それぞれの身体に合体していた花だの携帯だの ラーメン丼だの本だのの「部品」までもが入れ替わってしまったのだ。 錬成陣の中では「お前、誰!?誰がどいつでどいつが誰!?えっ、てゆーか俺って誰ェェ!?」な、 とんでもない驚愕の騒ぎが渦を巻いている。彼等の姿はそれぞれに多種多様、失敗ホムンクルスのるつぼというか 症状は一人ずつさまざまだった。 あろうことか頭がエロ本になった奴と入れ替わってしまった、とことん運の無い奴もあれば、あろうことか重症の痔を 患っている身体の奴と入れ替わってしまった、人知れず痛みに悶えている奴もいる。 また、あろうことか、なぜかゴリラ化した近藤の身体と入れ替わってしまった原田は 滝のように涙を流しながら胸を叩き「ウッッホオオオオ!!!」と野性味溢れる雄叫びを上げている。 しかしこの場で最大の「あろうことか」な被害者はといえば、山崎を置いて他にはないだろう。 何の因果か山崎は、原田のあそこから生えていたあの魚肉ソーセージになってしまい、本人的には悲嘆に暮れて 泣き叫んでいるのだが。・・・ぱっと見、その姿はただの地面に落ちて小汚い、妙によれっとしたソーセージにしか 見えないところがまた喜劇、いや悲劇だった。 ところで。皆がどよめきと悲鳴を上げて騒然としている中、たった一人だけ、爛々と目を輝かせて喜んでいる男もいる。 それは局長近藤である。彼はたまたま土方の身体へと中身が入れ替わってしまい、ゴリラから局内一のモテ男へと 華麗な転生を遂げた自分の姿を認めるが早いが「トシいっっ俺っ、お妙さんにプロポーズしてくるううう!!」と 喜び勇んでキャバクラすまいる方面へと猛スピードで走り去った。 そんな傍から見れば「たのしくゆかいなどうぶつえんのなかまたち」にしか見えない、 阿鼻叫喚地獄絵図の騒ぎを縫って。 ミントンのラケットになってしまった男は叫ぶ。 庭中どころか屯所の敷地中すべてに、なんとなしに悲壮さ漂う怒号を轟かせた。 「っってっっめええええ待ちやがれ総悟ォォ!!!近藤さんを止めろォォォ!!!  つかオイイイィィ!!一遍でいーから俺にテメーを殺させろォォォォ!!!!」

「 ドSの錬金術師 *Sadistic Alchemist* 」end text by riliri Caramelization 2009/07/31/ ----------------------------------------------------------------------------------- 「 *こころのままに* 」さまへ 相互記念で貰っていただきました いただいたのがうちの副長←→主人公に入れ替わりネタのリク ストックしてた総悟のネタも乗せたら…長っっっ 頭に浮かんだおバカ場面の絵をそのまま文にしたよーなブツなんですが。書いててすごーく楽しかったです 非常識なまでに重量オーバーなのに おうちに置いてくれてありがとうございます まみすさんっ(泣 これで副長も浮かばれたとおもいました きっと草葉の陰で泣いてるはずですザキが お盆だけに。