きっとそれは叶わないもの
―――――怒られた。かつてないぐらいに怒られた。あんなに怒る姿に俺はどんな悪い事をしたのだろうかとちょっと悩んだ。ずっとあんパンを食べていただけで、何故あんなに怒られなければならないのだろう。
でも怒られた事は全く苦にならない。怒られ慣れている不幸な境遇の己を哀れに思わないでもないけれど、精神的にも肉体的にも強くなった。それにさんが心配してくれているのが判っているので怒られる事が嬉しく思う。
だが泣かれた。散々怒ってポカポカと叩かれて、落ち着いたと思ったら一筋の涙をこぼし、それを拭いもせず俺の前から立ち去った。それを見た時、心臓を鷲掴みされたような気分になった。
初めて心配させてしまった事を申し訳なく思った―――――
それから数日、口をきいてくれなかったの機嫌がようやく治ったようだ。
「退くん、本当に気をつけてね。何でも偏りすぎっていうのは毒にしかならないから!」
山崎が張り込みの最中にあんパンばかりを食べて倒れた。身体は回復して事件も無事解決。ほっとしたのも束の間、屯所でに呼び出されて叱られた。任務中の事には基本的に口を挟まないだが、こと健康や怪我に関する事には目ざとく、口うるさい。今回の入院は黙っておくつもりだったのだが、誰かが口をすべらしたかはたまた故意に教えたのか。多分後者だなと考えてその人物も特定する。しかし色々と呪われそうなので口にはせずにのお説教を黙って聞く。これで少しでも口答えをしたら数倍の小言に変わるだろうと判っていたからだ。
「ごめんごめん、次は気をつけるから」
「気をつけるじゃなくてもう止めてね」
「うーん……保証はできかね」
「止めてね!」
「……ん」
心の中では否、と答えながらも表面だけはを安心させる為に頷いた。それにホッとした様子では小さく微笑んだ。
それからはおもむろに聴診器を取り出して、自分の耳につける。それから山崎を見て言った。
「はい、胸見せて」
「……イヤン、エッチ」
「殴るよ。いいから」
冗談がまるで通じないので、山崎は仕方なく言われた通りに上半身裸になった。すぐに聴診器が当てられて、しばらくして安心したように聴診器をはずした。
「正常正常。退院直後はちょっと気になってたんだから」
「そうなんだ」
許可をもらったので、山崎は服装を整えるとと真正面に向き合う。その真剣な表情には首を小さくかたむける。
「退くん、どうしたの」
「さんが心配してくれたのが嬉しかったよ」
「心配ぐらいいくらでもしてあげます」
「でも実はあの時の俺、さんが泣く姿見て……ちょっとまずい状態になっちゃってたんだ」
「まずい?」
更に不思議そうに首を傾けて問うに、山崎の唇が弧を描く。
「うん、真っ昼間から口に出すには、はばかられるコト」
「……もう言っているも同然なんだけれど」
「じゃあ言っちゃってもいいの?」
さらりと言う山崎に、は両手を顔の前で大きく振った。
「ちょっ、そ、それは……だめ」
「勃っ……」
「ぎゃあ!」
「山崎ィィィィィッ」
―――――どこに隠れていたのやら、突然現れた副長にさんが抱きついている姿を横目に俺は医務室を飛び出した。何だあの人、ずっと聞いていたんだ。なんのかんので二人がもっといちゃつけるのに一役買った訳だし、そんなに怒らないでほしいな。
あんまり二人にむきになられたら、本気を出してしまいそうだから、さ―――――
*2010/05/21 *thanks from××× 「* こころのままに *」 ゆうきまみすさま
5万打キリリクで山崎のお話をおねがいして 長編「かえりたい」の番外編を書いていただきました!
人生初キリ番が嬉しくて 図々しくおねだりして頂戴。まみすさんの書かれる とぼけてるけどちょっと一筋縄ではいかなそーなザキも大好きです!
どうもありがとうございますー!!