ちん、と電子レンジが甲高い音を鳴らして止まる。 真夜中の台所を薄明るく照らしてた庫内のライトがふっと落ちて、周りに暗さが戻ってきた。
ドアを開けて取り出した淡い黄色のマグカップから、湯気がほわほわ昇ってる。 そこに先週買ってきた専門店の美味しいはちみつをとろーり、用意したスプーンでくるくるくる。
カップ一杯の牛乳と、スプーン一杯ぶんのはちみつ。
たまに飲みたくなるホットミルクは、今日みたいにしんしんと雪が降ってる寒ーい夜にはぴったりだ。 すっごく寒くてたまらないときはちょっぴりお酒を入れるけど、今日は入れないでおこうかな。 顔を近づけてくんくんすると、お花畑を思わせるようなはちみつのいい匂いがする。 嗅いだだけで気持ちよくなる湯気をお腹までたっぷり吸いこんでから、あったかいマグカップを両手で挟んでキッチンを出た。
点けておいた廊下の照明を、ぱちん。寝室のほうへ一歩踏み出した途端に、ぶる、って背中が震え上がる。

「うわぁ、つめた・・・っ」

床が氷みたい。真冬の床ってどうしてこんなにつめたいんだろ。
おふとんの中ではぬくぬくほかほかだった足が、もう凍りつく寸前だ。 爪先なんてすっかりかじかんじゃって、ちょっと痺れかけてるくらいだよ。 パジャマの衿口から入り込んでくる冷たい空気に肩を竦めながら、まっくらな廊下をそーっと踏んでリビングへ。 ベッドでぐーすか眠ってる人を起こさないように、音を立てないようにゆーっくり歩く。
ほんとは寝室に戻ってから飲むつもりだったけど、お行儀悪く歩きながら味見してみる。 こくん、と口に含んだ熱くてまろやかなひとくちめは、今日もちょうどいいお味。うん、やっぱりスプーン一杯がベストだよね。 口にしただけでほっとして溜め息つきたくなるような、このほんのりした甘みがいいんだよね。 甘いもの大大大好きな銀ちゃんはいつも牛乳の色が変わっちゃうくらいたっぷり入れたがるけど、あれじゃあたしには甘すぎて頭が痛くなっちゃうもん。
寝室に入ったら猫になったつもりで足首を柔らかくして、さらに注意してゆっくり歩く。
一歩、また一歩。
そそーっとベッドに近づいていったら、寝室を出る前はこっちを向いてた白っぽい天パ頭がかすかに揺れた。 銀ちゃん、あたしが居ない間に寝返り打ってる。こっちに背中を向けて丸くなってる。もしかして、寒かったのかな。 おふとんの上からでも判るがっしりした背中の線が浮き上がってて、腕には枕を抱きしめてた。
ベッドの端にちょこんと座って、ホットミルクの二口めを、こくん。お腹に染みるあったかさが心地良くて、ふぁぁ、って勝手にあくびが漏れる。 すると、おふとんから半分出てる寝癖だらけの天パ頭がもぞっと動いた。
もぞもぞもぞ、って暗闇の中でおふとんが揺れる。 抱きしめた枕に顔をすりすりしながら眠そうに唸った銀ちゃんは、ばたん、って急に寝返りを打つ。 さっきまであたしが寝てたあたりのおふとんを掴んで、むぎゅっとそこを抱きしめた。きつく目を閉じたままの寝顔が、んん〜〜?って不思議そうに首を傾げる。 と思ったら枕にこすり付けた鼻先がぴくっと動いて、よだれが垂れてるだらしない口許がへにゃあっと緩んで、
「・・・ぇ、なにこの匂い。なーんかいー匂いすんだけど。甘めー匂いすんだけどぉぉ・・・」
さすが銀ちゃん、筋金入りの甘党さんだ。おそろしいことに、あの超高性能甘味センサーは寝てる間もしっかり作動するらしい。 でもさ、まさかたったスプーン一杯ぶんのはちみつにまで反応するとは思わなかったよ。

〜〜・・・?お前ぇ、いつ起きたの。んな時間に何やってんのぉ」
「玄関の鍵掛けてきたの。銀ちゃんいっつも閉め忘れるじゃん」
「ぇ〜〜、いーじゃん、へーきだって鍵なんていらねーって。泥棒なんてそうそう来ねーしぃ、もし来ても・・・まぁ、どーにかするしぃぃ」

うっすら目を開けた銀ちゃんが、枕によだれを擦りつけながら寝惚け声でもごもご答える。
うん、そーなんだけどね。普段はきちんと施錠してるけど、銀ちゃんがうちに泊まってる日はあたしもついつい油断しちゃう。 常識外れに強い銀ちゃんの存在自体が、強力な自宅用防犯システムみたいなものだもん。
「なに、この匂い」ってもう一回尋ねられたから、「ホットミルクだよ」って答える。 顔を近づけたカップから、程よく冷めかけてきた三口目を飲み込む。 思った通り、はちみつの甘ーい匂いにつられた銀ちゃんはぎしぎしベッドを揺らしながら起き上ってきた。 斜め後ろに回り込むと、充血気味で眠そうな半目がじとーっと横から覗き込んでくる。 さらに顔を近づけてきたから、カップを目の前に差し出してみる。
くんくん、くん。
さっきのあたしと同じように、銀ちゃんは湯気の香りをお腹の奥まで吸い込んでた。
あ、なんかすっごく飲みたそう。視線がカップの中の真っ白な水面に釘付けだし、今にもよだれ垂らしそうな顔してるし。

「飲む?」
「ん。飲む」
「じゃあもう一杯作ってくるね」
「や、そんなにいらねーって。半分ちょーだい、半分」

はい、ってカップを手渡すと、銀ちゃんはさらにごそごそ動いてあたしの真後ろへ回り込んだ。
カップを持ってないほうの腕が、お腹にするりと巻きついてくる。 くびれをしっかり抱きしめられて、後ろへずるずる引っ張られる。 とん、って何かに後ろ頭がぶつかったときには、背中や腰がお布団の中にいたときと同じ温かさに包み込まれてた。
よ、ってだるそうな声を漏らした銀ちゃんが、もぞもぞ動いて脚を伸ばす。 あたしを後ろから抱っこする格好でベッドの端に座り込むと、マットが上下に大きく揺れる。 ゆらゆら揺られながら膝を曲げて、ベッドの上に足を乗せる。 ひやーっとした冷気が這い上ってくる床と違って、ベッドカバーを被ったおふとんの上はほんのりした温度が気持ちいい。 台所に居たのはほんの短い時間だったのに、足がすっかり冷えきっちゃった。 じんじんする爪先を手の中に包んで、すりすりしながらあっためる。 真っ赤になった親指と親指の先を擦り合わせたりしてどうにか暖を取ろうとしてたら、ずず、ってホットミルクを啜る音が。 振り向いてみれば、銀ちゃんがミルクを飲んでいた。でも、カップの中身に注がれた視線はなぜだかやけに怪訝そう。 ん?って眉を寄せてふしぎそうに唸って、耳の上あたりで寝癖がふわふわひょこひょこしてる頭を傾げながらまた飲んで、

「ぜんぜん甘くねーんだけどこれ。っかしーなぁ、匂いは甘めーのに」
「甘いよ、はちみつ入りだもん。銀ちゃんいつも甘ったるいものばっか食べてるから、味覚が麻痺してきたんじゃないの」
「なーなーしってる、あっためた牛乳にはちみつドバドバ入れてマシュマロ落とすと美味ぇんだぜ」
「なにそれ、聞いただけで頭痛してくる。それってもうミルクじゃなくてスイーツじゃん」
「今度作ってやるわ、超うめーから」

こく、って大きく喉が動いて、三口めのミルクを飲み干した。
ほい、ってあたしにカップを渡すと、空いた右手もお腹の下に回ってくる。 パジャマの肩やうなじのあたりには、ぴと、って顔がくっついてくる。急に近づいた銀ちゃんの呼吸が、冷えきった首筋や耳を掠める。
「なんかこっちも甘くていー匂いすんだけど」
なんて笑いながら肌の匂いを嗅がれたら、恥ずかしいしくすぐったい。 ちゅ、っていきなり耳たぶを吸われて、思わず肩が跳ねそうになる。それでも顔を赤くしながら黙って無視、無視無視無視。 だってここで下手に反応したら、銀ちゃん喜んで食いついてくるにきまってるし。
「あれ、飲まねーの」
カップに口もつけないでうつむいてたから、どーしたのこの子、って思われたみたいだ。
ひょい、と顔を傾げて覗き込まれて、あたしはあわててマグカップ口許に運ぶ。両手におさめたカップで表情を隠しながら、こくん。 それでも銀ちゃんの視線がこっちに向いたままだから気恥ずかしくて、ぷいっと顔を逸らして、こくん、こくん。 ああ、もうぬるくなっちゃった。だけどこれを飲んだせいかな、身体の芯はさっきよりもぽかぽかしてるかも。
それに・・・銀ちゃんのほうがあたしより体温が高いから、かな。
さっきくっつかれた瞬間にはひんやりしてたはずの背中やうなじは、いつのまにか温まってる。 手の中にあるマグカップよりもうんと高い熱を伝えてくるようになった頃、うー、って唸った銀ちゃんが、背中をぶるぶる震わせて、

「うぉー、さみーさみー。降ったら急に冷え込んできやがったなぁ」
「そんなに寒い?もっとお布団出そうか」
「いーって。こーしてりゃあそのうちぬくくなっから、平気だって」

言いながらぎゅぎゅうぅって抱きしめられたら、寝間着が肌蹴た銀ちゃんの胸が避ける間もなく目に入ってくる。 後ろ頭に回った大きな手に誘導されて、ぼふ、ってそこに顔を埋めさせられた。 カップを握った右手のほうから、ちゃぷ、って水が跳ねる音が。お、あぶね、って、長くて骨太な指があたしの手を支える。 ちゃぷちゃぷゆってるカップごとその手を包んで、

「もー冷めちまったなぁ。まだ飲む?」
「う・・・うぅん。もう、いい。銀ちゃんは」
「んー、俺もいーや。こっちよりお前のほうがあったけーし」

銀ちゃんがカップを取り上げて、ベッド脇のテーブルに置く。 よしよし、って子供を宥めるみたいな手つきで撫でられたら、寒さで縮んでた身体からゆっくり力が抜けていく。 引き締まった感触の素肌が、直にぴたっとくっついてくる。こうして直接触れ合うと、あったかいを通り越して熱いくらいだ。 だらりと衿が開ききった胸元からは、おふとんの中で汗ばんだせいですこし濃くなった肌の匂いも漂ってくる。 おかげであたしのほっぺたは、電子レンジから出した直後のマグカップと同じくらい熱くなった。
・・・よかった、部屋が真っ暗で。これなら銀ちゃん、気づかないよね。
後ろの人の反応を気にしてそわそわしながら見上げてみたら、銀ちゃんの視線はカーテンがほんの少しだけ開いた窓のほうへ向いてた。 雪明りが反射してるせいかいつもよりも明るさが増して見える外の景色に、ちらちら、ふわふわ。 すっごくちいさな綿飴みたいな純白のかけらが、躍りながら消えていく。 曇った硝子の向こう側をぼーっと見てた銀ちゃんの眉間が、ぎゅっと締まる。かと思えば、ふぁぁ、って欠伸混じりな吐息を漏らした。 ほのかな白さがあたしの目の前にも広がって、すうっと消える。
「外真っ白じゃん。あーあー、明日依頼入ってんのによー」
面倒そうにボヤきながら外を見つめるその目つきが、なんだかすごく眠そうだ。 たまに瞼がじわじわ下がって、何度も瞬きを繰り返してる。あ、また閉じた。すぐにまた開いたけど、今にもうとうとして眠っちゃいそうなときの顔してる。 そのうちに目元をごしごしこすり出したなぁと思ったら、もぞもぞ、がさごそ、みしみし、って衣擦れの音やベッドのスプリングを鳴らしながら動き出す。 腕の中のあたしをずるずる引っ張りながら後退していった銀ちゃんは、ベッドの真ん中あたりでぱっと腕を放した。
自分はそのまま身体を倒すと、うちには一つしかない枕を自分の頭の下に敷く。 それからちろりとこっちを見ると、いつも緩みっぱなしな口許がさらに緩んでだらしなく笑う。 片腕は腕枕みたいにして頭を支えて、もう片腕はあたしに向けて伸ばして。ひょいひょい、って指先で手招きしながら、

「はいはいちゃん、こっちおいでー。銀さんの体温分けてやっから」
「〜〜〜っっ」
「え、どーしたのちゃん、何で耳まで真っ赤になってんの。 つーかお前さっきからちょいちょい赤くなってたよなあぁ、んだよどーしたぁ、え、まさかあれなの、銀さんのことそーんなに意識しちゃってんのぉぉ」

銀ちゃんたら手招きしながらにやにやしてる。しまったバレてた、ぜんぜん気づかれてないと思ったのにいぃぃ!
「ほらほら何やってんの早く来いって、寒みーからぁ」なんて両腕広げて待ち構えてる人に、近くにあったクッションを掴んでばふっと投げる。 「おーいぃ何やってんの寒みーよー、こっち来て銀さんのことあっためてくれよー」なんてくつくつ笑いながら言われたけど、もう一個あったクッションをあわてて抱きしめて背中を向けた。
ああもう銀ちゃんてば、ほんとにわかってないんだから。
無理だよ、自分から行くなんて。こういう時の銀ちゃんて普段は見せない色気がだだ漏れ状態っていうか、どこを見たらいいかわかんなくなっちゃうくらい色っぽいんだよ。 男の人に慣れてないあたしなんてあの目に見られただけでどきどきしちゃって、視線を合わせるだけで精一杯になっちゃうんだよ? なのに両腕広げておいでおいでされたら、行きたくっても行けないよ。 もし銀ちゃんに見られながら自分からあそこに飛び込んでいったら、きっと心臓破裂して爆死するもん。 もしくは恥ずかしすぎてわけわかんなくなっちゃうくらい気が動転して、今抱えてるこのクッションで銀ちゃんをボッコボコにタコ殴りしちゃうよ・・・!

「おーい、そろそろ来てくんね。せっかく腹ん中あったまったのに、また冷えちまうじゃん」
「・・・・・・。ぅ・・・うん。じゃあ銀ちゃん、目瞑ってて」
「へ、いーの、マジで来るの、銀さんの胸に飛び込んできてくれんの」
「飛び込むとか言うなぁぁっ」
「え、いーの。んな赤けー顔して言われたら俺その気になるよ。おいおいどーしたよォちゃーん、今日はいやに素直じゃん」
「〜〜ぅうううるさいっっ。いいの今日は、さむいからあったまりたいの!銀ちゃん湯たんぽみたいにあったかいしっ」

ふーん、なんてとぼけた顔して頭を掻いてる銀ちゃんが、人の顔をじっと覗き込みながら楽しそうに口端を上げる。
何なのその顔、さっきまではあんなに眠そうだったくせに。 よからぬことを考えてそうな目が細ーくなってて、やけに楽しそうに笑ってる。 すっかりだらけた寝間着の衿にやらしいかんじの手つきで指を掛けると、すいーっとその指を下ろしていった。 すでに丸見えな胸板や引き締まった腹筋を見せつけるみたいにゆっくり服を肌蹴させながら、

「そーそー銀さんのカラダはあったけーよ、服脱いだらもっとあったけーよ、湯たんぽなんて目じゃねーくらいぽっかぽかだよー。 なんならあれだよ、も全部脱いじまう?二人でもっとカラダが火照っちゃうことする?」
「ぎゃあああっっ、ぱんつまで下げるなぁぁ!〜〜〜っゃややだもぅちち調子に乗るなエロ天パ――ひぁっ、ぎ、っっ」

突然がばっと跳ね起きた銀ちゃんが、足元を覆ってたおふとんを掴む。 ふわぁ、って舞い上がったおふとんで目の前がまっくらに覆われる。 次の瞬間に肩からすっぽりくるまれて、そのまま浚われるみたいにしてベッドにばたっと押し倒された。 マットがふわふわ上下に弾む。まだうっすらと体温が残っててほんのりあったかい中に、銀ちゃんが潜り込んでくる。 抱えてたクッションはあっというまに取り上げられて、部屋のすみっこへ投げられた。 ちゅ、ってどさくさ紛れなかんじで落とされたキスが、ほんの一瞬おでこを掠める。 押しつけられた唇の熱さにどきっとしちゃって「ひゃあ」って叫んで震え上がってた間に、銀ちゃんは衣擦れの音を立てながら迫ってきた。 ただでさえ熱くなってたあたしのほっぺたが、もっと熱い両手に包まれる。 ちゅ、ちゅ、って軽い音を立ててこめかみやまぶたに吸いつかれてるうちに、上から跨るみたいにして重い身体が覆い被さってきて。 一人用のあたしのベッドは、過剰な重さにゆらゆら揺れて震えはじめた。 圧し掛かってきた銀ちゃんの動きに合わせて、息苦しくて呼吸が上がり始めたあたしの身体もいっしょに揺られる。

「な。あったかくなった?」
「・・・・・・っ。ぅ・・・うん・・・っ」
「じゃあ脱がせていい」
「・・・・・・・・・・・・っ」

寝癖をふわふわ揺らしながら覗き込んできた銀ちゃんに、髪を撫でながら尋ねられた。
でも、恥ずかしくってとても目を合わせていられない。視線を銀ちゃんの口許まで下げて、何度もこくこく頷いてみせる。 そしたら半開きだった唇が吊り上って、ふっと笑う。ん、ってたったひとこと、吐息に似た低くて小さな声が返ってきた。 普段は煩いくらいに喋り倒してる銀ちゃんの口数が急に減って、短い言葉か息遣いしか漏らさなくなるこの瞬間。 こんな瞬間に、いつになったらあたしは慣れるんだろう。いつも心臓が飛び出しそうなくらい高く弾んで、どんな顔して銀ちゃんと目を合わせたらいいかわかんなくなるよ。
骨太で硬い男の人の腰や脚が、たまにごつごつと関節をぶつけながら絡みついてくる。ちょん、ってお互いの足先がくっつく。 「ぅお、つめてぇ」って銀ちゃんは全身をぶるっとさせてたけど、一度は離れかけたその足はまたすぐにあたしに絡みついてきた。 角度を変えながら唇の合わせ目に何度も触れて、中まで入れて、って言いたげに隙間をつついてくる感触が熱い。 パジャマをたくし上げながら肌を這い上がってきて、背中を優しく撫でてくれる手が熱い。 おふとんを中からあっためてくれる、高めな体温がきもちいい。はんぶんこしたミルクのおかげか、お腹の奥までぽかぽかだ。 銀ちゃんの頭越しに目に映る窓の外では、綿飴みたいな純白のかけらがちらついてる。 しんしんと静かに降り注いでるあれはたった一晩でこの街を凍りつかせて、いつも見慣れてる景色をまるで違う場所みたいに変えてしまうんだろう。 凍てついた世界を思わせる冬の色。街中を覆い隠す寒々しい色。だけどあたしにとってのあの色は、他の何よりも、他のどんな色よりもあったかく感じる色かもしれない。
冷えきった身体を温めてくれる、甘いミルクと同じ色だから。どきどきしながら顔をすり寄せれば熱い腕で抱きしめてくれる、だいすきな人の髪と同じ色だから。



ハニーマシュマロホットミルク

*riliri Caramelization
2014/12/29/