「――んなもんアレだろ、何ったらナニだろ。ナニをナニしてナニしたんだろ。まぁアレだわつまり、おめーらガキどもには聞かせらんねーめくるめくR指定タイムがよー」
背後から銀ちゃんの頭にぐりぐり拳を捻じ込んでた神楽ちゃんが、不思議そうに眉をひそめる。
くりっとした目をさらに大きく見開いて、銀ちゃんの膝の上で寝てるあたしに視線を合わせて、
「ねーねーー、ナニをナニしてナニするって何アルか。ナニって何アルか、お前は知ってるアルか新八」
「神楽ちゃん・・・実はほとんど知らないくせに大人の会話にガンガンツッコんでいくのやめよーよ。そーいう事は僕に訊かれても困るからね・・・!」
「うーん、よくわからないけど・・・つまりいたいけな少女と童貞メガネには言えないいかがわしいことしてたアルか。やっぱり強姦魔ネ、通報するネ新八。警察呼んでしょっ引いてもらうネ!」
「通報はだめだよ神楽ちゃん。銀さんこんなんでも社長だからね、社長が強姦で逮捕されたら万事屋の信用が地に堕ちちゃうからね」
「おいィ、こんなんでもって何だこんなんでもって。てめーは一言多いんだよ童貞メガネっっ」
「童貞は余計ですよ」って憤慨する新八くんをよそに、銀ちゃんは淹れてもらったお茶を不愉快そうな顔で鷲掴みして、
「それを言うならよー童貞メガネ、おめーだって俺らに隠れてこそこそシコシコやってただろぉ?
神楽には見せらんねーよーな、教育上不適切なアレをよー」
ごくごくごくっと、たいして熱くもなさそうに一気飲みする。ぷはーっと息を吐きながら口をごしごしっと拭うと、
「っだよおいィ、気ぃ使ってには黙っといてやったのによー。んじゃー早速バラしちまおっかなー、三日前のアレ」
「?何アルか、アレって」
「何をバラすって言うんですか。まぁ何を言われても平気ですけど。
僕は女性の敵の銀さんとは違いますから、潔白ですから。この場で言われて後ろめたいことなんて何もありませんからね」
「しょうがないなぁこのオッサンは」ってかんじの呆れきった目で銀ちゃん眺めながら、新八君はソファの対面に座る。
自分用に淹れたお茶を平然と口許へ運んだ。そのタイミングを見計らったかのように、やけに得意げな顔した銀ちゃんがあたしに顔を寄せてくる。
耳元に手を添えてこしょこしょと、内緒話でもするみたいに抑え気味な声を注いでくる。
――うぅぅ、耳がすっごくくすぐったい。な、何これ、顔近すぎっ。銀ちゃんてばもう、どーして二人が見てる前でこーいうことを・・・!
「なぁなぁなぁっっちゃぁーん聞いて聞いてー、こいつよー、お前のメイド姿でこっそり鼻血出しまくってたんだぜー」
「ぶふぉおおおっっっっ」
新八くんが盛大にお茶を吹き出して、メガネにぶつかった湯呑がひっくり返ってソファに転がる。
ごふぉっっ、げふぉっっ、とひっきりなしに咳込んで苦しそうに喉を押さえて、お茶が飛び散ったソファの上でうずくまってさらに咳込む。
可愛がってる弟分に対してはやたらにドSな銀ちゃんは、すかさずそこへ追い打ちをかけた。
そよ姫さまからのお土産の超高級あられ菓子を何の惜しげもなくびしばしと、激しく咳込んじゃってる新八くんの背中にぶつけながら、
「へへーん俺ぁ気づいてたもんねー!お前よー、あの日の帰り際にはもうフラフラだったじゃん。
顔真っ青にしちまってよー、フラフラ貧血状態だったじゃん。やたらと便所に籠ってたしぃ、紙の減りが俄然早かったからよー」
「〜〜〜ちちち違うううっっ、違いますからねさんっっ僕はそのっっっ、そ、そういうつもりじゃごふぉっっっげふおおぉっっっ」
「・・・・・・ばっっかじゃないの。そんなくっだらないことを何でドヤ顔で言ってんの、銀ちゃん」
――あーあ、もう。恥ずかしいから黙ってたけど、これはさすがにかわいそうすぎるよ。見ていられないよ。
被ってる毛布をもぞもぞ引っ張って、血色が悪いすっぴん顔を仕方なく出す。
面白いくらいに力が入らないせいで朝から全然表情が作れないんだけどなんとか必死で気合を入れて、真上の顔をきいっと睨む。
うっ、って唸った銀ちゃんの目にちょっと怯んだ色が浮かんだのを確認してから、ぼそぼそとねちねちと口にした。
「何それ最っっ低、ほんっとに大人気ないんだから。自分がやましい気分だからって人に濡れ衣着せないの。
トイレの紙はあれでしょ、あれは銀ちゃんのうんこが長かったからでしょ」
「・・・か、神楽ちゃん。さんがあれだけ堂々と「うんこ」を口にするとこ初めて見たよ僕・・・」
「私もはじめて聞いたアル。も銀ちゃんに毒されてきたアルな」
「はぁ?いやいやいや違う、違うって。あれぁ新八が鼻血拭くのに使い切ったんだって。――つーかよーちゃーん、そんなにさらっと「うんこ」とか言わないでくれる。
俺ぁ信じてるからね、万が一それ的なもんがちゃんから出たとしてもピンクのハート的なもんが出てくるって固――く信じてるからね!」
「ハートって何それ、銀ちゃんキモい。だめだからね、あたしだってごまかされないからね。
しょーもない話で話題逸らして言い逃れしよーとしてもだめだからねっ」
「っだよぉ俺じゃねーだろぉぉ、最初にうんこっつったのお前だろぉぉぉ」
「うるさい黙れ強姦魔」
空の湯呑を持ったままの大きな手を、肘突きの要領で跳ね上げる。
狙い通りに空の湯呑がふてぶてしい強姦魔の鼻に命中、銀ちゃんは奇声を上げて鼻を押さえた。
「〜〜〜っっ。ちょお、ひどくね?お前ひどくね!?さっきから俺の顔面潰しにかかってるよねちゃんっっ」
「新八くんごめんね、変な濡れ衣着せちゃって。ほらぁ、銀ちゃんも謝るのっっ」
「・・・・・・・・・ちゃーん、泣いていい、銀さん泣いていい。
え、何で?何でそこまで肩持つの、このクソの役にも立たねーメガネ掛け器をどーしてそこまで信用してんの。どーして俺は信用ゼロなの!?」
「そんなの当たり前じゃん。少なくとも人をメガネ掛け器呼ばわりする人よりは、クソの役にも立たないメガネ掛け器のほうが信用できるよっっ」
「・・・いずれにしろクソの役にも立たないメガネ掛け器なんですね僕は。はは、さんまでひどいなぁ・・・ははははは・・・」
「やーいぃ、役に立たねーうんこたれメガネ掛け器ぃー」
「やめてくれる、神楽ちゃんまで追い打ちかけるのやめてくれる!?ていうか明らかにズレたよね!?ウンコは垂れてなかったよね!?」
ひどいよ!って湯呑を握りしめて真っ赤になって憤慨する新八くんに、神楽ちゃんはにたぁーと目を細めて笑う。
銀ちゃんそっくりな意地の悪い表情が、天パ白髪頭の上に顎を乗せたままで、にやにや、にやにや。
黙っていればアイドル並みの美少女で、女の子らしいくりっとした瞳がかわいらしい神楽ちゃんだけど、人を陥れよーとしてる時の悪そうな顔はなぜか銀ちゃんと瓜二つだ。
「でも鼻血は垂れてたアルなビチグソ丸。のメイド姿で何を妄想したアルかうんこたれ、キモいネこっち見るなうんこたれ」
「〜〜〜ちちち違うううっっ、違うんですさんんん!あれはぎっっ、銀さんがわざとさんの脚とか胸元とか僕に見せつけて自慢してくるから!!
だからあの刺激的すぎて目に焼きついちゃってでもっっぼぼぼ僕は決してそういうつもりじゃ・・・!」
「いやいや、エロい格好の女見て出した鼻血にそーいうつもりもどーいうつもりもねーだろぉうんこたれ」
「だからウンコは垂れてねーって言ってんだろぉおおお!?小学生ですかあんたたちはぁぁぁ!!」